高山浩太は傭兵である。幾つもの戦場を銃火器片手に戦い抜いてきた。
殺し殺されの恐怖が渦巻く地獄の経験者たる高山にとってはバトル・ロワイアルというゲームに対して他の参加者よりも冷静に対応していた。
最後の一人になるまで生き残れ。ならばそうしよう。今までくぐり抜けてきた戦場と同じだ。
殺して殺して殺す。この島にいる人間を全て殺して最後まで生き残るという条件なだけだ。
決断に到るまで一分ともかからなかった。
殺し殺されの恐怖が渦巻く地獄の経験者たる高山にとってはバトル・ロワイアルというゲームに対して他の参加者よりも冷静に対応していた。
最後の一人になるまで生き残れ。ならばそうしよう。今までくぐり抜けてきた戦場と同じだ。
殺して殺して殺す。この島にいる人間を全て殺して最後まで生き残るという条件なだけだ。
決断に到るまで一分ともかからなかった。
(武器は、ナイフ一本か。他は使えんものばかり)
デイバックに入っていたのは軍人がサイドアームとして使用するコンバットナイフ。
些か心許ないが武器が何も入ってなかったというよりはましである。
御丁寧にもホルダーも一緒についてきたので腰にホルダーを巻きナイフを差す。
これにて準備は完了。後は見敵必殺。獲物を狩り、武器の充実を図る。
そう決めて高山が西洋風の街を歩いて幾許か。最初の獲物を見つけた。
些か心許ないが武器が何も入ってなかったというよりはましである。
御丁寧にもホルダーも一緒についてきたので腰にホルダーを巻きナイフを差す。
これにて準備は完了。後は見敵必殺。獲物を狩り、武器の充実を図る。
そう決めて高山が西洋風の街を歩いて幾許か。最初の獲物を見つけた。
(五人か……人数が多いな)
高山はしばらく物陰から五人の様子を観察する。焦っては事を仕損じるが故に少しばかり待ちに徹する。
数分の観察の結果、全員が素人と判断。完殺はたやすい。
それならば話は早い。奇襲をかけてまず一人。素早くナイフで抉り殺す。
数分の観察の結果、全員が素人と判断。完殺はたやすい。
それならば話は早い。奇襲をかけてまず一人。素早くナイフで抉り殺す。
(そして混乱している間に全員を殺す)
殺人計画は早々に決まった。後は実行にうつすだけだ。
ちょっとした隙が生まれた瞬間を狙い、高山は隠れていた家の影から踊り出て一番近かかった――ネリネの背中にナイフを力強く突き刺す。
ザクっと小気味良い音が一つ。
ちょっとした隙が生まれた瞬間を狙い、高山は隠れていた家の影から踊り出て一番近かかった――ネリネの背中にナイフを力強く突き刺す。
ザクっと小気味良い音が一つ。
「ネリネ……?」
ナイフで穿たれた胸からは生命の象徴である血が飛び散り稟の頬に付着する。
そしてグラリと崩れ落ちるネリネだった“もの”。
叫びもなく苦悶の表情を浮かべることなく。変化はただ胸から絶え間なく流れだす赤い血だけだ。
そしてグラリと崩れ落ちるネリネだった“もの”。
叫びもなく苦悶の表情を浮かべることなく。変化はただ胸から絶え間なく流れだす赤い血だけだ。
「あ、ああ……」
口からはしわがれた声が漏れ出す。どうして。そんなことを問う時間もなくネリネは、死んだ。
ネリネが胸に刃物を突き立てられて生きているようなバケモノではないことを稟自身知っている。
それでも。それでも、もしかすると。生きている可能性だってある。
ネリネが胸に刃物を突き立てられて生きているようなバケモノではないことを稟自身知っている。
それでも。それでも、もしかすると。生きている可能性だってある。
(嘘、だ。そんなことがあってたまるか……!)
言葉でいくら繕ってもネリネは死んだ。彼女は死んで二度と笑顔を見せてはくれない。
実は生きているなんてご都合主義な幻想はここには存在してはいけないのだから。誰であろうと死ぬ。何も出来ずに死ぬ。
こうして何も出来ずに固まっている間でも隣には殺人者がいる。楓が必死に呼びかける声が耳に入ってくる。
だが、動けない。両足は縫いつけられたようにかすかな動きすら見せない。
どんな行動を起こそうとも今更だ。何を問うてもネリネは死んだ。死人に口なしという言葉の通り返事は返ってはこない。
実は生きているなんてご都合主義な幻想はここには存在してはいけないのだから。誰であろうと死ぬ。何も出来ずに死ぬ。
こうして何も出来ずに固まっている間でも隣には殺人者がいる。楓が必死に呼びかける声が耳に入ってくる。
だが、動けない。両足は縫いつけられたようにかすかな動きすら見せない。
どんな行動を起こそうとも今更だ。何を問うてもネリネは死んだ。死人に口なしという言葉の通り返事は返ってはこない。
「ぐっ、あああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫んだ所で意味はないのに。土見稟はただ叫び、前を見ない。
そんな何もしなくても勝手に自滅してくれた少年のことなど無視をして高山は無表情に次の獲物を殺す。
ネリネの腰に差されていたベレッタを素早く抜き取り横にいた楓へと銃口を向ける。
後は、照準を定めてトリガーを引いて終わり。そう、浮き足立っている集団の殲滅など簡単なことだ。
高山にとってはこれは優勝へ向けての第一歩、特に感慨もなく全員を殺せると確かな手応えを感じていた。
そんな何もしなくても勝手に自滅してくれた少年のことなど無視をして高山は無表情に次の獲物を殺す。
ネリネの腰に差されていたベレッタを素早く抜き取り横にいた楓へと銃口を向ける。
後は、照準を定めてトリガーを引いて終わり。そう、浮き足立っている集団の殲滅など簡単なことだ。
高山にとってはこれは優勝へ向けての第一歩、特に感慨もなく全員を殺せると確かな手応えを感じていた。
「な……に…………?」
だが時に運命は人を狂わせる。
自分がトリガーを引くよりも走ってくる黒い影。即座に身体を後方へと下げようと両足に力を入れて跳躍を試みるが遅かった。
胸へと入り込む異物の感触と眼が飛び出るくらいの激痛。呻き声を小さく上げながら高山の視界が急速に閉じていく。
死。幾多もの辛き戦場を生き残ってきた高山浩太の終わりは余りにもあっけなく、何の感傷もないものだった。
二つの人間だったものが、転がる。
自分がトリガーを引くよりも走ってくる黒い影。即座に身体を後方へと下げようと両足に力を入れて跳躍を試みるが遅かった。
胸へと入り込む異物の感触と眼が飛び出るくらいの激痛。呻き声を小さく上げながら高山の視界が急速に閉じていく。
死。幾多もの辛き戦場を生き残ってきた高山浩太の終わりは余りにもあっけなく、何の感傷もないものだった。
二つの人間だったものが、転がる。
◆ ◆ ◆
芙蓉楓は目の前の光景を信じることが出来なかった。
一人の男が飛び込んできてネリネを刺し殺しそのままの勢いで自分を殺そうと拳銃を向けたがその前に胸を刃物で刺されて殺された。
何が、起こったのだろうか。隣にいる稟は一歩も動けずに呆然とし、くりむは眼の前で起こった凶行の陰惨さに耐え切れず気絶している。
一人の男が飛び込んできてネリネを刺し殺しそのままの勢いで自分を殺そうと拳銃を向けたがその前に胸を刃物で刺されて殺された。
何が、起こったのだろうか。隣にいる稟は一歩も動けずに呆然とし、くりむは眼の前で起こった凶行の陰惨さに耐え切れず気絶している。
「え?」
「ち、違うんです……私は、怖くて。ただ目の前の人を追い払おうと……!」
「ち、違うんです……私は、怖くて。ただ目の前の人を追い払おうと……!」
よろよろと地面にへたり込む渚に楓は言葉を掛けることができない。
それだけではない。動かすつもりもない足が勝手に後ろへと下がる。
自分が悩んでいた人を殺すという最大の禁忌をあっさりとしてのけた彼女が怖かった。
これはあくまで故意によるもので心の底から殺すつもりではないということはわかっているはずなのに。
それだけではない。動かすつもりもない足が勝手に後ろへと下がる。
自分が悩んでいた人を殺すという最大の禁忌をあっさりとしてのけた彼女が怖かった。
これはあくまで故意によるもので心の底から殺すつもりではないということはわかっているはずなのに。
「いや、来ないで」
それでも心の何処かで彼女が今まで被っていた善人という皮を脱ぎ払って人殺しの本能を表したという妄想があるのだ。
次は、お前だ。あるはずのない光景が脳に浮かぶ。
脳に浮かんだ惨劇に身体が震えてしまう。まるで氷を触っているかのように体温が抜け落ちていく。
次は、お前だ。あるはずのない光景が脳に浮かぶ。
脳に浮かんだ惨劇に身体が震えてしまう。まるで氷を触っているかのように体温が抜け落ちていく。
「ひっ」
どうして自分は怖がっている。その腰に下げている刀は見世物なのか。抜いて、殺せ。
心の中にある悪意がそう告げる。殺さなきゃ、殺されるんだ。
楓は刀を鞘からほとばしらせて抜き放ちへっぴり腰ながらも両の手で力強く握りしめ、中段に構えて威嚇する。
地獄蝶々。竜鳴館の風紀委員長である鉄乙女の持つ業物である。
この名刀ならば人の肉など多少の力を入れるだけであっさりと断ち切ってくれるだろう。
心の中にある悪意がそう告げる。殺さなきゃ、殺されるんだ。
楓は刀を鞘からほとばしらせて抜き放ちへっぴり腰ながらも両の手で力強く握りしめ、中段に構えて威嚇する。
地獄蝶々。竜鳴館の風紀委員長である鉄乙女の持つ業物である。
この名刀ならば人の肉など多少の力を入れるだけであっさりと断ち切ってくれるだろう。
「嫌です……死ぬのは、嫌っ」
一方の渚も血が滴り落ちているナイフを両手で前に突き出して楓にこれ以上の接近を許さない。
緊迫した空気が朝焼けの街に広がっていく。
互いに武器を持っている為に容易に動けずじりじりと前へと進んで、後ろへと下がって。
ほんの少し足を強く踏み出せばその距離が縮まろうとするだろう。
そして――。
緊迫した空気が朝焼けの街に広がっていく。
互いに武器を持っている為に容易に動けずじりじりと前へと進んで、後ろへと下がって。
ほんの少し足を強く踏み出せばその距離が縮まろうとするだろう。
そして――。
「もう、やめろ……やめてくれ!」
今にも泣き出してしまいそうな声が二つの刃を止めた。
二人の顔がはっと我に返る。
ふと気づくと稟が二人の間に割り込み、両手を広げていた。
二人の顔がはっと我に返る。
ふと気づくと稟が二人の間に割り込み、両手を広げていた。
「俺らで争ってどうするんだよ……これ以上、憎しみあうのはもうたくさんだろうっ!
二人とも、お願いだからやめてくれよ……!」
二人とも、お願いだからやめてくれよ……!」
稟が投げかける甘く、優しい言葉に楓は刃を下ろしそうになるが自分を律して抑える。
いくら喚いても人を殺したという事実は消えはしないし、渚自身に悪気がないと言い切れる絶対性は存在しないのだ。
いくら喚いても人を殺したという事実は消えはしないし、渚自身に悪気がないと言い切れる絶対性は存在しないのだ。
「ですけど稟くん……! あの人は……」
「楓、そのことについて、今は俺に任せてくれないか? 頼む……一生のお願いだ」
「……ひどいです。そこまで言われたら断れないじゃないですか」
「楓、そのことについて、今は俺に任せてくれないか? 頼む……一生のお願いだ」
「……ひどいです。そこまで言われたら断れないじゃないですか」
楓はそれ以上何も言えずに刀を鞘に収めて後ろへと下がる。本音を言うと稟の提案には余り乗り気ではない。
だが、あの稟の真剣な顔を見ては断り切れなかった。
日常生活でも、ましてやこんな緊急事態でも稟が一生のお願いなんて言葉を使うことはめったにない。
このような極限状況の中ではあるが稟が初めて自分を心からお願いをしてくれたということに少し歯がゆくもあるが嬉しかったのだ。
だからこそ、強く否定できない。故に楓はただ見守るという結論に陥った。
彼の哀しむ顔が見たくないから。
だが、あの稟の真剣な顔を見ては断り切れなかった。
日常生活でも、ましてやこんな緊急事態でも稟が一生のお願いなんて言葉を使うことはめったにない。
このような極限状況の中ではあるが稟が初めて自分を心からお願いをしてくれたということに少し歯がゆくもあるが嬉しかったのだ。
だからこそ、強く否定できない。故に楓はただ見守るという結論に陥った。
彼の哀しむ顔が見たくないから。
「渚さん」
稟は今も震え続けている渚の前に立ち、両目でしっかりと見つめた。
憔悴しきったその姿は数分前まで見せていた天真爛漫さを内の奥へと潜めている。
憔悴しきったその姿は数分前まで見せていた天真爛漫さを内の奥へと潜めている。
「俺は、渚さんを見捨てませんっ!」
「……!」
「人を殺すことは絶対にやってはいけないことです、その点では俺は渚さんを否定します。
どんな事情があったとしても人殺しは悪です……!」
「……!」
「人を殺すことは絶対にやってはいけないことです、その点では俺は渚さんを否定します。
どんな事情があったとしても人殺しは悪です……!」
稟にとって人を殺すということは法律で定められている以前に人として誰かを傷つけることなんて悪だと考えている。
その認識は優しすぎると言われるだろう。ここでは人を蹴落とすことが正義で模範すべきルールなのだから。
その認識は優しすぎると言われるだろう。ここでは人を蹴落とすことが正義で模範すべきルールなのだから。
「渚さんがしたことはもう取り返しはつかないし、死んだ人は帰ってこない。
それでも、人を殺したっていう罪は償えるっ! 渚さんが望むならきっといつかは赦される!」
それでも、人を殺したっていう罪は償えるっ! 渚さんが望むならきっといつかは赦される!」
稟はナイフを握り締める渚の指を一本ずつ丁寧にほどく。それは壊れ物を扱うかの如く優しい手つきだった。
「俺が貴方の苦しみを一緒に背負うから、苦しみに耐え切れず折れそうになったら支えるから……!
こんなふざけたゲームのルールに負けないでくださいっ! 俺らは人として生きるんだ! ゲームに操られる人形じゃないんだ!」
「私は、赦されるのですか? 償えるのですか……?」
「はい、渚さんが償おうとする限り、俺が赦します。他の誰が許さなくても、俺は――赦します」
こんなふざけたゲームのルールに負けないでくださいっ! 俺らは人として生きるんだ! ゲームに操られる人形じゃないんだ!」
「私は、赦されるのですか? 償えるのですか……?」
「はい、渚さんが償おうとする限り、俺が赦します。他の誰が許さなくても、俺は――赦します」
渚の頬から一筋の涙が垂れ落ちる。その涙にはどのような意味が含まれていたのだろうか。
そんなことは渚本人にしかわからない。
ただ一つ言えることはこれ以上の惨劇は回避されたということだ。
この島では余分な感情とされる優しさが一人の少女を助けた、なんと美しい結末であろうか。
そして。
そんなことは渚本人にしかわからない。
ただ一つ言えることはこれ以上の惨劇は回避されたということだ。
この島では余分な感情とされる優しさが一人の少女を助けた、なんと美しい結末であろうか。
そして。
「えーっとさ、お取り込み中だったかい」
一人の乱入者が影から堂々と姿を表してしんみりとした空気をぶち壊した。
いかにもおちゃらけた一人の少年が朝焼けの水平線から歩いてくる。
コツコツと地面を踏みしめる足音と共に姿を表したのは。
いかにもおちゃらけた一人の少年が朝焼けの水平線から歩いてくる。
コツコツと地面を踏みしめる足音と共に姿を表したのは。
「はじめまして、そこで倒れている会長の恋人な杉崎鍵です。結婚の約束もしていま」
「違うよっ! 誰が恋人なのよ!」
「違うよっ! 誰が恋人なのよ!」
その言葉が終わる前にくりむはガバッと起き上がり即座に鍵の戯けた発言にツッコミを入れる。
この数瞬にも満たないが互いのことをわかりきっているかのようなやり取りに三人は唖然とする。
この数瞬にも満たないが互いのことをわかりきっているかのようなやり取りに三人は唖然とする。
「まあ今後ともよろしくということで」
◆ ◆ ◆
二つの遺体をきちんとした態勢で寝かせて、各々が持つ支給品の分別などをしている内に放送は始まった。
呼ばれた参加者の中には眼前で死んだネリネの他にも多くいた。
リシアンサス。神界のお姫様。土見稟、芙蓉楓の共通の友人でありよく笑う明るい女の子だった。
呼ばれた参加者の中には眼前で死んだネリネの他にも多くいた。
リシアンサス。神界のお姫様。土見稟、芙蓉楓の共通の友人でありよく笑う明るい女の子だった。
「畜生……どうしてシアやネリネが死ななくちゃならない……!」
何も遺言を残すことなく死んでいった友人達に稟は涙を流し続ける。
どうして。いくら思い悔やんでもその言葉しか生まれない。
欠けてはいけない日常のピースが剥がれ落ちてしまった。
どうして。いくら思い悔やんでもその言葉しか生まれない。
欠けてはいけない日常のピースが剥がれ落ちてしまった。
「っ……! それに人質をとらせてまで俺達を殺しあわせたいのか!」
加えて放送の画面には人質とされる女の子の爆殺がありありと映っていた。
これを見せることで死ぬことへの恐怖の増長、詰まるところは殺し合いの促進を狙っていると郷田はしゃべっていた。
この余りにも痛ましい光景を画面上ながら直視した“四人”は等しく顔色を悪くする。
これを見せることで死ぬことへの恐怖の増長、詰まるところは殺し合いの促進を狙っていると郷田はしゃべっていた。
この余りにも痛ましい光景を画面上ながら直視した“四人”は等しく顔色を悪くする。
「殺しあわせたいんだろう。少しでも円滑にゲームが進むように人質なんてものまで用意して。
主催者は早くゲームが終わるように焦っているのかもな……。結局のところ一概には判断できない」
「杉崎……お前もう少し言い方ってものがあるだろ! 人が、死んだんだぞ!?」
「そうだな。だけどよ、この島で死んだ奴は泣こうが喚こうが怒ろうが蘇らない。
何を言ってもその事実だけは変わらない。テレビゲームじゃない訳だし」
主催者は早くゲームが終わるように焦っているのかもな……。結局のところ一概には判断できない」
「杉崎……お前もう少し言い方ってものがあるだろ! 人が、死んだんだぞ!?」
「そうだな。だけどよ、この島で死んだ奴は泣こうが喚こうが怒ろうが蘇らない。
何を言ってもその事実だけは変わらない。テレビゲームじゃない訳だし」
鍵の冷静な一言に稟は噛み付く。人が大量に死に、画面の向こうでも二人の少女が死んだというのに動じなさすぎる。
目の前に広がっている死が些細であるかのように振る舞う鍵が稟は理解できなかった。
目の前に広がっている死が些細であるかのように振る舞う鍵が稟は理解できなかった。
「土見の気持ちもわかるさ。でも、この状況で立ち止まっているなんて愚の骨頂だ。
泣くのは全てが終わってからでいい。少しでも早く脱出への手がかりを掴まないと。
それに明日は我が身、次に死ぬのは俺達かもしれない。いつまでもぐずついていたら――死ぬぜ?」
泣くのは全てが終わってからでいい。少しでも早く脱出への手がかりを掴まないと。
それに明日は我が身、次に死ぬのは俺達かもしれない。いつまでもぐずついていたら――死ぬぜ?」
今回、稟達が死ななかったのは偏に言って運だ。たまたま高山がネリネを狙っただけであり同じように稟が最初に狙われていたら死んでいた。
そう、これは一歩踏み場所を間違えると即座に奈落へと落ちて行く死のゲーム。
ゲームの果てに死んでしまってはもう取り返しなんてつきはしない。
そう、これは一歩踏み場所を間違えると即座に奈落へと落ちて行く死のゲーム。
ゲームの果てに死んでしまってはもう取り返しなんてつきはしない。
「俺は死ねない。護らなくちゃいけないものがあるから」
鍵の視線は稟からはそらされない。ただ、じっと鋭い目付きで値踏みをするように見つめ続ける。
最初の邂逅とは違った真剣な眼差しに稟は思わず気後れしてしまう。
最初の邂逅とは違った真剣な眼差しに稟は思わず気後れしてしまう。
「俺達は神様じゃないんだ、全部を救うなんてありえないし到底不可能だし、どうあがいてもこの島の何処かで人は死ぬ。
それでも護りたいっていうなら少しでも早く動くしかない。
立ち止まってたら大事な人は死んじまう。だからこそ行動あるのみだ」
「……ああ」
それでも護りたいっていうなら少しでも早く動くしかない。
立ち止まってたら大事な人は死んじまう。だからこそ行動あるのみだ」
「……ああ」
失ったものはもう取り戻せない。ならば、残っている物を必死で守り切るしかない。
鍵の言う通りネリネとリシアンサスは死んでしまったのだから。
鍵の言う通りネリネとリシアンサスは死んでしまったのだから。
(樹……麻弓……亜沙先輩……お願いだから、無事でいてくれ……!)
この島でまだ会うことはない残りの三人はどうしてるだろうか。
憂き目にあい辛い思いをしていないだろうか。
稟は今はまだ見ぬ親友達の無事を祈ることしか出来なかった。
戻りたい。あの輝かしい日常に帰りたい。
憂き目にあい辛い思いをしていないだろうか。
稟は今はまだ見ぬ親友達の無事を祈ることしか出来なかった。
戻りたい。あの輝かしい日常に帰りたい。
(どうしてだよ。どうして俺達がこんなことに巻き込まれてるんだよ)
望むのは日常への回帰。ただ、それだけなのに。
考えれば考えるほどに負の螺旋に思考が落ちていく。
この日常を護る為には腰につけている拳銃を使うしかないのか。
考えれば考えるほどに負の螺旋に思考が落ちていく。
この日常を護る為には腰につけている拳銃を使うしかないのか。
「へへっ、見ーつけた」
だが哀しいかな、悪意は心の平静も覚悟を決める時間を与えてくれはしない。
「ッ! 避けろっ!」
鍵は声を上げながらも素早く横で呆けていたくりむの手を引っ張り右へと強く地面を蹴り余裕を持って銃弾を避ける。
一方の稟は横にいた渚に手を引っ張られてかろうじて銃弾の雨から逃れられた。
稟達も急いで家屋の物陰に隠れてその場から走り去る。
一方の稟は横にいた渚に手を引っ張られてかろうじて銃弾の雨から逃れられた。
稟達も急いで家屋の物陰に隠れてその場から走り去る。
「くそっ、分断させられた!」
稟、楓、渚は左の道を。鍵、くりむは右の道を。
これで五人は二つのグループに無理やりに分けられた。
これで五人は二つのグループに無理やりに分けられた。
「稟君! 早く!」
「わかってます! ですが……!」
「そんな事行ってる場合じゃないよ~。もう襲ってきた人は来てるよ!」
「わかってます! ですが……!」
「そんな事行ってる場合じゃないよ~。もう襲ってきた人は来てるよ!」
運の悪いことに稟達を追いかけてきている襲撃者は突撃銃を巧みに操り、走りながら撃ち放つといった技巧者だ。
幸いのことに銃弾は今のところ稟達には当たっていないが、時間の問題だ。
襲撃者との距離は徐々に縮まりつつある。このままではジリ貧だ。
幸いのことに銃弾は今のところ稟達には当たっていないが、時間の問題だ。
襲撃者との距離は徐々に縮まりつつある。このままではジリ貧だ。
「楓、渚さん。俺が囮になる。その隙に何処か遠くまで逃げてくれ」
二人を安全に逃がす選択肢は一つしかなかった。自分が囮となって二人がどこか安全な場所に逃げれる時間を稼ぐ。
返答は聞かない。もう決めたことだ。楓と渚は何かを自分に対して叫んでいる。
こんな自分の身を案じて止めてくれる二人の優しさに思わず涙がこぼれそうになった。
返答は聞かない。もう決めたことだ。楓と渚は何かを自分に対して叫んでいる。
こんな自分の身を案じて止めてくれる二人の優しさに思わず涙がこぼれそうになった。
(確かに一人で囮なんてすごく怖いさ……だけどっ! 大切な仲間をこれ以上失ってたまるかよ!)
稟は一人その場で立ち止まり腰にさしていた拳銃を抜き放つ。
重い。拳銃の重さだけではなく命の重さも含まれているような錯覚を感じる。
重い。拳銃の重さだけではなく命の重さも含まれているような錯覚を感じる。
「こっちだ! 追ってこれるものなら追ってこいよ! チビガキィっ!」
さあ。一世一代の大勝負、賭けるのは命、架けるのは大切な仲間達。
護り切る覚悟は、できている。
護り切る覚悟は、できている。
◆ ◆ ◆
「襲撃してきた奴は土見の方を追いかけていったようですね」
「はぁ……はぁ……もうだめぇ……」
「はぁ……はぁ……もうだめぇ……」
鍵とくりむは都合よく襲撃者の対象から漏れ、無事に逃げ延びることができた。
道の角を曲って、脇道を駆け抜けて。その結果、銃声も聞こえない静かな場所まで辿り着いた。
突然の運動に息が切れ切れのくりむは地面にどてっと倒れ込む。
道の角を曲って、脇道を駆け抜けて。その結果、銃声も聞こえない静かな場所まで辿り着いた。
突然の運動に息が切れ切れのくりむは地面にどてっと倒れ込む。
「もう、嫌だよぅ」
バトル・ロワイアル。最初の襲撃から逃げている最中にネリネから聞かされたことだ。
それはにわかには信じがたいことだった。そもそもの話、そんなことに巻き込まれる理由が思い浮かばない。
目まぐるしく動く事態にくりむの頭はパンク寸前だった。
それはにわかには信じがたいことだった。そもそもの話、そんなことに巻き込まれる理由が思い浮かばない。
目まぐるしく動く事態にくりむの頭はパンク寸前だった。
「うぅ……」
泣き言を言いたくなるのも無理は無い。
桜野くりむは至って普通な女の子なのだ、暗殺者でも呪われた子供でも魔法少女でも抜群の能力を持った生徒会長でもない。
それでも周りには優しい仲間がいた。小太郎がいた。ネリネがいた。稟がいた。楓がいた。渚がいた。鍵がいた。
だが、ネリネは突如現れた男にナイフで刺されて死んでしまった。
自分にお菓子をくれた犬上小太郎は生きてはいるが無事かどうかまではわからない。
桜野くりむは至って普通な女の子なのだ、暗殺者でも呪われた子供でも魔法少女でも抜群の能力を持った生徒会長でもない。
それでも周りには優しい仲間がいた。小太郎がいた。ネリネがいた。稟がいた。楓がいた。渚がいた。鍵がいた。
だが、ネリネは突如現れた男にナイフで刺されて死んでしまった。
自分にお菓子をくれた犬上小太郎は生きてはいるが無事かどうかまではわからない。
「どうすればいいのよ、杉崎ぃ……」
そして、別れた三人にはゲームに乗った参加者が追撃をかけている。既に死んでいる可能性だってある。
近くにいた沢山の仲間は今では鍵一人だけだ。
年上だから。
会長だから。
前を進まなくちゃいけないのに。
鍵を護らなくちゃいけないのに。
近くにいた沢山の仲間は今では鍵一人だけだ。
年上だから。
会長だから。
前を進まなくちゃいけないのに。
鍵を護らなくちゃいけないのに。
「怖いよ……」
「それなら、その恐怖。この杉崎鍵が晴らしてみせましょう」
「それなら、その恐怖。この杉崎鍵が晴らしてみせましょう」
くだらないことをいって怒らせて欲しい。笑わせて欲しい。安心させて欲しい、
そうすることで、いつもの自分に戻れる気がするから。碧陽学園生徒会長、桜野くりむが戻るから。
なのに。
そうすることで、いつもの自分に戻れる気がするから。碧陽学園生徒会長、桜野くりむが戻るから。
なのに。
「まあ簡潔に言いますと」
彼は。
「死んでください、会長。それがお望みなんですよね?」
生徒会にいる時と変わらない笑顔で。
銃口を、向ける。
銃口を、向ける。
【ネリネ@SHUFFLE! 死亡確認】
【高山浩太@キラークイーン 死亡確認】
【高山浩太@キラークイーン 死亡確認】
【C-2/一日目/朝】
【土見稟@SHUFFLE!】
【状態】肉体疲労(中)
【装備】『死』@操り世界のエトランジェ、『死』@操り世界のエトランジェ
【持ち物】支給品一式、特性予備弾@操り世界のエトランジェ、不明支給品0~1、
【思考】
基本:皆で協力して元の日常へと帰る。
1:渚と楓を逃がす為に囮になる。
2:知り合いとの合流。
【状態】肉体疲労(中)
【装備】『死』@操り世界のエトランジェ、『死』@操り世界のエトランジェ
【持ち物】支給品一式、特性予備弾@操り世界のエトランジェ、不明支給品0~1、
【思考】
基本:皆で協力して元の日常へと帰る。
1:渚と楓を逃がす為に囮になる。
2:知り合いとの合流。
【長沢勇治@キラークイーン】
【状態】ブチギレ
【装備】コルト M4 カービン(20/30)
【持ち物】支給品一式、献身@永遠のアセリア、スティンガー×12@魔法少女リリカルなのは
不明支給品0~2
【思考】
0.ガキって言うな! 殺してやる!
1.優勝を目指す。
【状態】ブチギレ
【装備】コルト M4 カービン(20/30)
【持ち物】支給品一式、献身@永遠のアセリア、スティンガー×12@魔法少女リリカルなのは
不明支給品0~2
【思考】
0.ガキって言うな! 殺してやる!
1.優勝を目指す。
【綺堂渚@キラークイーン】
【状態】肉体疲労(中)
【装備】銀のナイフ@東方project
【持ち物】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:罪を償う。
1:襲撃者からの逃亡。
【状態】肉体疲労(中)
【装備】銀のナイフ@東方project
【持ち物】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:罪を償う。
1:襲撃者からの逃亡。
【芙蓉楓@SHUFFLE!】
[状態]:肉体疲労(中)
[装備]:地獄蝶々@つよきす
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:土見稟を最後の一人にする。
1:襲撃者からの逃亡。
2:……殺せない。
[状態]:肉体疲労(中)
[装備]:地獄蝶々@つよきす
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:土見稟を最後の一人にする。
1:襲撃者からの逃亡。
2:……殺せない。
【D-2/一日目/朝】
【桜野くりむ@生徒会シリーズ】
【状態】肉体疲労(大)
【装備】
【持ち物】支給品一式、確認済み不明支給品1~3
【思考】
基本:????
1:????
【状態】肉体疲労(大)
【装備】
【持ち物】支給品一式、確認済み不明支給品1~3
【思考】
基本:????
1:????
【杉崎鍵@生徒会シリーズ】
【装備】IMI デザートイーグル(6/7+1)予備マガジン×5、月詠の太刀@魔法先生ネギま!
【所持品】:支給品一式×2、空のマガジン、不明支給品0~4
【状態】:肉体疲労(中)
【思考・行動】
基本:????
1:会長を殺す?
※支給品一式×2、空虚@永遠のアセリア、コンバットナイフ
ベレッタM92FS(15+1/15)ベレッタM92FS予備マガジン×4、確認済み不明支給品0~4(高山のを含む)は分配されました。
【装備】IMI デザートイーグル(6/7+1)予備マガジン×5、月詠の太刀@魔法先生ネギま!
【所持品】:支給品一式×2、空のマガジン、不明支給品0~4
【状態】:肉体疲労(中)
【思考・行動】
基本:????
1:会長を殺す?
※支給品一式×2、空虚@永遠のアセリア、コンバットナイフ
ベレッタM92FS(15+1/15)ベレッタM92FS予備マガジン×4、確認済み不明支給品0~4(高山のを含む)は分配されました。
【コンバットナイフ】
サバイバルナイフよりも頑丈な戦闘に使える大振りのナイフ。
サバイバルナイフよりも頑丈な戦闘に使える大振りのナイフ。
【銀のナイフ@東方project】
十六夜咲夜が使用するナイフ。何本かセットとして支給されている。
十六夜咲夜が使用するナイフ。何本かセットとして支給されている。
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