自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

027 第21話 銃火の壁

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第21話 銃火の壁

1842年4月23日 午後10時 カレアント公国ループレング

突然、ピカッ!と夜空が光、直後に腹に応えるような音が鳴った。
バルランド軍第112歩兵師団に所属するエルッカ・ロークッド中尉は、雷の音に首をすくめた。

「どうしたい、貴族のぼっちゃまは雷が怖いのかい?」

薄暗いテントの中から皮肉るような口調が聞こえてきた。
最も、皮肉るといっても憎々しい響きは込められておらず、どこか親しげな物だ。

「そういう連隊長こそ顔が真っ青ですぜ?」

「ああ?何言ってんだい。顔が青く見えるのは中が暗いせいだよ。それよりも、手っ取り早く手入れを済ませときな。」

連隊長と呼ばれた女性、リーレイ・レルス大佐はカップに入っていた水を飲み干した。

「へいへい。仰せのままに。」

ロークッド中尉は苦笑しながら、自分の鎧の手入れを続けた。
年齢は24歳で、顔立ちは若く、髪は肩まで伸ばしてあり、一見するとどこにでもいそうな男だが、
シホールアンル侵攻時から常に、リーレイと共に最前線で戦って来ている。

「なあエルッカ、アメリカ軍の奴らだけど、どう思う?」
「どう思う、ですか・・・・・・まあ、自分達には無い武器を大量に持っていて強そうですね。
あれなら、シホールアンル軍1個軍が襲ってきてもへっちゃらですよ。」

「そりゃあそうだろうさ。うちらはシホールアンル野朗に満足に撃ち合える大砲もないし、携帯武器も剣とか盾、
いい物でクロスボウしかない。なのに、アメリカの奴らは銃っていう武器もあるし、戦車っていう訳の分からない
ものもわんさか持っている。でもね、」

途端、リーレイの表情が引き締まった。

「あたしが気になるのは、あの将軍さ。」
「あの将軍・・・・・」

エルッカは思い出した。
あの将軍とは、応援にやって来たアメリカ軍2個師団のうちの第1機甲師団の師団長の事である。

「パットン少将の事ですね?」
「そうさ。パットン少将だよ。あんたも分かるかい?」
「な、何がですか?」
「あの将軍さんの気合ぶりだよ!他のアメリカ人の将軍は、みんな澄ました様なツラしてんのに、
あのパットン少将だけはどっか違うね。」


リーレイがパットン将軍に出会ったのは、1週間前の事である。
その日、彼女は自分の所属する連隊の報告書を書いていた。
その時、テントの外から複数の気配がした。
何事かと出てみると、珍しい事にアメリカ軍の士官、それも将官や佐官といった高級将校がいたのだ。

「やあ、忙しいところすまんな。あんたが歴戦の連隊長、リーレイ・レルス大佐かね?」
「ええ、そうですけど。まあ、歴戦の連隊長といっても、逃げ続けてばかりですけどね。」

リーレイはアメリカ人士官相手に敬意もへったくれも無いような態度で話した。

「あなたの名前は?」
「俺か?」

アメリカ人士官の中で最も階級の高い男が言う。

「俺はパットン。ジョージ・パットン少将だ。アメリカから馬鹿なシホットのケツを蹴っ飛ばしに来た。」

そのアメリカ人将軍、パットン少将は誇らしげにそう言い放っていた。
その時、リーレイは、パットンの素っ気無い言葉に思わず面食らった。

「しかし、この土地に来てからは、俺達はまだまだ不慣れな点が多い。
そこでだが、この前線の南大陸軍の中では、君の連隊が一番多く、シホットと戦ってきたようだな。」
「まあ、そうですね。ホリウングの戦いではあなた方アメリカ軍に感謝していますよ。
それで、私に何か聞きたいのでしょう?」
リーレイは女性らしからぬ獰猛な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。君も交えて、色々と話したい。一緒にシホット共を叩き潰す案を考えようじゃないか。」

「今まで、色んな将軍を見てきたけど、あの将軍は本物の戦士だね。」
「本物の戦士っすか。口だけじゃないんですか?」
「それも考えないではなかったけど、口ぶりからして彼の自信は相当な物。むしろ、異常と言ったほうが正しいかな。」

そういいつつ、リーレイは空のカップに水筒から水を注いだ。

「何はともあれ、シホールアンルの奴らが行動を起こす日は近い。
前線の斥候からは、減退していたワイバーン部隊も再び増強されつつあると報告が届いている。」

「ここ数ヶ月、シホールアンル軍は攻勢を仕掛けていませんから、怖い限りですな。」
「ああ、あたしもさ。最近はシホールアンルの奴らも鬱憤が溜まっているだろうから、これまで以上に
激しく攻め立ててくるかもしれない。そうなると、あたしら最前線部隊は、これまで同様、血で血を争う激戦を繰り広げるかもしれないね。」

リーレイはやや陰鬱な表情でそう呟いたが、

「連隊長、それももうすぐで終わるかもしれませんよ。」

その貴族出身の士官は、意味ありげな表情でそう言った。

「空にも、地上にも、頼れる戦友がいますからね。」


1482年4月25日午前6時 ループレング

突然、向こうの森の奥から閃光が走った。
1つ1つはちっぽけな煌きであったが、それらが横一列に何十個という数で光った。

「来るぞ!タコツボに隠れろ!!」

とある下士官が喚き、周囲の兵士が塹壕やタコツボに身を躍らせた。
ほぼ全員が隠れた時、それはやって来た。
陣地の周囲にドカンドカンドカン!という太鼓を耳の側で打ち鳴らしたような音が鳴り響き、
地面が痛いと泣き喚くようにしきりに揺れた。

「この砲撃、何度経験しても慣れないぜ。」

この陣地を守る、カレアント公国軍第98重装騎士師団に所属するとある士官は忌々しげな口調で呟いた。

「アメリカ軍の陣地も猛砲撃を受けているようです!」

塹壕から確認したのか、部下の兵士が報告してきた。
犬系の獣人である彼らは優れた感覚を持っており、人間が見えぬ遠い距離の物体もはっきりと見える。
「恐らく、ここら一体の前線は満遍なく砲弾をぶち込まれているよ。全く、3ゼルド以上の射程がある大砲があれば、
あの畜生共をぶっ飛ばせられるんだが。」

その刹那、ダァーン!という轟音が鳴り、隠れていた塹壕がこれまで以上に揺れた。
背中に土砂が雪崩落ち、一瞬生き埋めになったのではないかと勘違いする。

「至近距離に砲弾が刺さったようですよ。危ないところでした。」
「頭上げるなよ。爆風に首を持ってかれるぞ。」

そう言い合っている間にも、シホールアンル軍の砲撃は続いている。
とある1弾がタコツボに直撃して、うずくまっていた騎士を粉々に吹き飛ばしたばかりか、タコツボの穴を何倍もの大きさに作り変えた。
また、別の1弾は塹壕の至近距離で炸裂し、大量土砂を塹壕内に被せて、そこで耐えていた10人の将兵を生きながら埋葬してしまった。
砲撃の次には、地上攻撃用のワイバーンが押し掛け、その次にはゴーレムやキメラ等を前面に押し立てた地上部隊が出張ってくる。
誰もが地獄が始まったと確信していた。
とある一部を除いては。

シホールアンル軍第10歩兵師団に所属する第5砲兵連隊では、兵員達がせわしなく動き回り、砲を操作していた。

「撃て!」

という号令の下、口径3・5ネルリ(8・9センチ)の砲が込められた砲弾を撃ちだす。

砲弾は弧を描いて、3ゼルド先の敵軍の陣地に振りそそぎ、陣地に飛び込んで炸裂していた。
装填係りをやっていたムッル・ピルネ一等兵は、重い砲弾を抱えながら次の装填を待っていた。
砲兵というものは楽な物だ。と、彼はそう思っている。
砲弾の調整や砲の操作など、色々面倒な事は出てくるが、それでも直接、長剣を振りかざし、長弓を抱えながら前線に乗り込んで
苦労するよりは、ここで砲兵の仕事をしたほうが良いと考えている。
幾らかは気楽であり、今回も、あの忌々しいアメリカ軍機さえ来なければ、平凡な一日に終わると確信していた。
大砲が砲弾をぶっ放し、装填係のピルネの体が自然に動く。
手馴れた手つきで砲弾を装填し、砲長に装填よし、と叫んだ時であった。
不意に、何かの音が聞こえてきた。小さい物が、高速で飛んでいくような・・・・・
その音は、他の大砲の発射音に隠れるが、気が付いた時には空気を切り裂く音が辺りに木霊し始めていた。
誰もがぎょっとなった時、唐突に、後方で爆発が起きた。爆発は4箇所、いずれも砲兵部隊の少し後方である。

「な、なんだぁ!?」

一部の兵がそれを見て仰天する。
間を置かずに別の飛翔音が響き、砲兵部隊の後方、それも先程よりも近い位置に落下した。

「いかん!敵の砲撃だ!」
指揮官が顔を真っ青にして叫んだ。
誰もが、敵からの砲撃を受けたと確信していた。だが、それをやってのけた敵と言うものはどこにいるのか?
南大陸軍か?いや、南大陸軍の大砲で、射程が3ゼルドを超える物は無く、せいぜい2・5ゼルドまで伸びれば上出来と言う代物だ。
だが、彼らは南大陸軍と戦っているのではない。
ピルネ一等兵の部隊の相手、それは、アメリカ軍第7歩兵師団であった。
「もしかして、アメリカ軍の奴ら、俺達と同等の大砲を所持しているんじゃ・・・・」
誰もが事実を知り、余裕を浮かべていた表情が瞬時に引き締まった。
最初、一行に撃ち返して来ないアメリカ軍に、大した奴らではないと思い込み始めていたが、その考えはもはや消え去った。

「小癪なアメリカ野朗の砲兵陣地を叩き潰せ!」

彼の砲兵小隊の小隊長が叫び、観測員がアメリカ側の陣地に視線を集中させた。
観測員は、専用の望遠鏡を除き込み、草原の向こう側の陣地を睨み据えた。
アメリカ軍の陣地は、他の南大陸軍の陣地とは異なって色々変わっているが、それに目を奪われている暇は無い。
その陣地の後方で何かの煙が上がった。

「アメリカ側の砲兵陣地を確認!距離は約3・2ゼルドです!」
「ギリギリだな。だが、届かないではない。撃ち方用意!」

砲長の指示に従い、ピルネ一等兵は持っていた砲弾を装填した。
砲身が最大仰角にまで上げられ、発射態勢が整った時、三度飛翔音が響いた。
爆発音が鳴り響いた後、悲鳴や何かの破壊される音が聞こえた。
飛んできた数発の敵弾は大砲を打ち砕き、操作要員を吹き飛ばしたのだろう。

「撃て!」

小隊長が怒りのこもった声音で命じ、小隊の4門の大砲がぶっ放された。
やや間を置いて、敵陣の後方に爆発が沸き起こった。遠い先の出来事なので、砲兵隊には結果は分かりにくい。
その直後、草原の向こう側から一斉に閃光が走った。それに気が付いたのは、砲弾を装填しようとしたピルネ一等兵ただ1人であった。
そして、これまでとは比べ物にならぬ飛翔音が周囲を圧した。

「やべえ、いっぱい降って来たぞ」

誰かの震える声が聞こえた時、周囲に何十発という砲弾が落下してきた。
爆発音が1秒間に数え切れぬほど沸き起こり、その中に味方の大砲が爆砕される音や、戦友の悲鳴も混じっていた。

1発の砲弾は、装填作業中の大砲に叩きつけられるや、それを叩き割り、破片を周囲に撒き散らして
10人単位の将兵を肉片に変えてしまった。
別の1弾は弾薬を運んでいた馬車に直撃し、けたたましい音と共に荷台が、御者や馬をチリ1つ残さぬまでに爆砕された。
シホールアンル側は被害にめげる事無く砲撃を続行する。
中には、片腕を吹き飛ばされながらも、必死に観測を続行する者や、両目を失明しながらも、砲弾の装填係りを続けようとした者もいる。
しかし、いくら大砲の弾を撃ちまくっても、アメリカ軍の砲撃を弱まろうとしない。
それどころか、ますます砲撃は激しくなり、砲撃の精度も次第に良くなりつつあった。

「何故だ!これだけ撃ち込んでも、どうしてアメリカ野朗共は撃ち続ける!?」

砲長が泣き出しそうな表情で喚いた。
ふと、ピルネ一等兵は、互いの射程距離が違うのでは?と漠然と思った。
(いや、そんな事は考えたくもない)
ピルネは頭を振る。射程の違いで一方的に撃たれまくる事など、砲兵にとっては悪夢である。
しかし、観測係りの上げた声が、彼の思いを現実のものにしてしまった。

「敵の砲兵陣地は、3・5ゼルド先にあります・・・・・」
「何ぃ!?」

砲長は仰天した。

「3・2ゼルドではないのか!?」
「観測し直したところ、アメリカ軍の砲陣地までは、大雑把ですが3・5ゼルド前後の距離があると推定できます。
互いに距離が同じであれば、今頃、互いに火力を弱体化させられているはずです。それなのに、こっち側には
敵の砲弾が届き、あちら側にはこっちの砲弾が届いていない、と解釈すれば、このような」

突然、目の前が真っ赤に染まった。

轟音が鼓膜を打ち震った、と思ったその次には、ピルネ一等兵はなぜか仰向けに倒れていた。
彼が目にした光景は、無残にも撃ち砕かれた、味方砲兵陣地の姿であった。


この時、アメリカ第7歩兵師団に所属する第19砲兵連隊では、105ミリM2A1榴弾砲及び、155ミリM1榴弾砲で砲撃を行っていた。
シホールアンル側の大砲の射程距離が3・2ゼルド、6マイルに対し、アメリカ側の砲はいずれも7マイルオーバーであった。
この射程距離の差は残酷なまでに現れ、今まで南大陸軍相手に、好き放題砲弾を撃ち込んでいた第5砲兵連隊は、
逆にアメリカ軍に対して好き放題砲弾を撃ちまくられ、次第に叩きのめされていった。

この日、攻勢に打って出たのは、シホールアンルカレアント侵攻軍に属する第2軍団と第8、第9軍団である。
この3個軍は、いずれも2個師団、又は1個機動旅団で成っている。
総兵力は約11万を超える。それらが、一気にループレングの南大陸軍に襲い掛かったのだ。
まず、シホールアンル側は事前砲撃で、南大陸軍側の前線を耕した。
この方法は従来通り行われて来た方法であり、この日も効果を発揮し始めていた。
だが、この事前砲撃に対して、きつい反撃を見舞わせた部隊がいた。
それは、応援として駆けつけ、防衛戦の中央部に配備されたアメリカ第7歩兵師団であった。
アメリカ第7歩兵師団は、4月8日にこの防衛戦に配備されるや、海軍建設大隊や陸軍工兵隊が陣地構築に当たり、
南大陸軍の兵達があんぐりと口をあけて見守る中、瞬く間に陣地が、それも、南大陸軍側の陣地と比べると、
遥かに先鋭的な物が出来上がった。
のみならず、シービーズや陸軍工兵隊は、隣接する南大陸軍の陣地構築にも協力し、一部ではあるが、
南大陸軍側の防御線も以前よりも強化された。
配備されてから2週間、ようやく敵の攻勢を出迎えた第7歩兵師団は、それぞれが塹壕やトーチカに立て篭もって砲撃に耐えた。
急ごしらえとはいえ、陣地は良く耐えた。
被害は12人の兵が戦死し、32人が負傷したが、各部隊とも戦意旺盛であり、いずれ始まるであろうシホールアンル軍の突撃に備えていた。
シホールアンル側の砲兵陣地が沈黙して30分後、敵側前線から、何かが動き始めた。
第17歩兵連隊の第2大隊B中隊は、塹壕やトーチカの中から、機銃や小銃、対戦車砲を構えて敵を待っていた。

第7歩兵師団を砲撃した敵の砲兵部隊は、第19砲兵連隊の返り討ちに逢うや、20分ほどで完全に沈黙し、
第7歩兵師団に飛んでくる砲弾は無かった。
B中隊隊長であるロン・ジャード大尉は、ふと、森の上空に何かが飛んでいるのを見つけた。
それが何であるか、彼にはすぐに分かった。

「奴ら、ワイバーンを繰り出して来たぞ。」

そう呟きながら、ジャード大尉はシホールアンル側の考えを予想してみた。
まず、ワイバーンを先行して陣地や砲台をあらかた潰した後、地上部隊を自分達の前線に叩きつけて追い出すか、全滅させる算段なのだろう。
この方法は従来取られて来た、シホールアンル側お得意の戦法だ。この戦法で、自分達第7歩兵師団に挑もうと言うのだろう。

「さて、そう上手く行くかな?」

ジャード大尉は人の悪そうな笑みを浮かべた。
小粒に見えたワイバーンは、次第に形が大きくなっていく。その下では、うっすらとだが、何かが前進して来ている。
恐らく、キメラや戦闘ゴーレムと言った化け物を前面に押し立てて、接近しつつある敵地上部隊に間違いない。
ちなみに、阻止砲撃は最小限に抑える予定である。

「後方より、友軍機です!」

部下の声に、ジャード大尉は後方を振り返った。見ると、何十機という航空機が、第7歩兵師団の上空に近付きつつあった。
第3航空軍の戦闘機隊が前線にやって来たのだ。轟々と音を立てながら、50機は下らぬP-38が第7歩兵師団の上空をフライパスし、
猛速でワイバーン部隊に向かって行った。
ワイバーン隊も、ここで会ったが100年目とばかりにP-38の挑戦を受けて立った。
たちまち、組んづ解れづの乱戦が始まった。

その間、敵地上部隊は第7歩兵師団の前線に近付きつつあった。
速度はやや遅いが、明らかに強そうな、異形の物体が先頭を進んでいる。
やたらに角張った人型の物体がゴーレム。
凶暴そうな目つきに、体中が体毛に覆われたり、背中に棘のような物を幾つも生やし、
ゴーレムと同様の体格を持った凶獣キメラ。
それらが距離3000にまで達した時、キメラがやにわにスピードを上げた。
その時、後方の砲兵陣地から105ミリ、155ミリ榴弾砲が一斉に発射された。
突然、四つん這いになりながら30キロほどのスピード走っていたキメラの前面に爆発が起こった。
キメラは爆煙を突っ切って、突進を続行するが、その数は若干減っていた。
続いて第2斉射が降り注ぎ、地上が砲弾によって耕された。
唐突に、後方から新たなエンジン音が鳴り響いた。と思いきや、20機ほどの単発機が猛速で陣地の上空を通過して行った。
申し合わせていたのか、砲兵隊の砲撃は止んでいる。

「こちらオヴニル1、敵の化け物を確認した。これより掃射に写る。」
「了解、オヴニル1。あの化け物共を退治してくれ。」

地上から期待する声が届く。
第13戦闘航空群の24機のP-39を束ねるニック・バーンズ大尉は、各機に散開の指示を伝えた。
散開したP-39は、低高度を540キロのスピードで飛行し、第7歩兵師団の陣地をフライパスした後、前線に向かいつつあるキメラを見つけた。

「まずはあいつからだ。」

バーンズ大尉は照準器に、四つん這いで走るキメラに狙いをつけた。射撃の機会は一瞬である。
距離500に迫ったところで、彼は機銃を撃った。両翼の12.7ミリ機銃4丁が放たれる。
短い射撃で弾道を確認した後、機首の37ミリ機関砲をぶっ放す。
ドン!ドン!ドン!という格段に重い音と、振動が機体を打ち震った。
1発の37ミリ弾が、キメラの頭部に吸い込まれたと思われた時に、それは後方に流れていく。

確認は出来なかったが、バーンズ大尉は少なくとも手傷は負わせたと確信した。
次いで彼はゴーレムを狙った。ゴーレムは、いかにも自分は固いですよ、と宣伝しているかのように、体があちこち角張っている。
見た所、本当に固そうである。

「ミッチェルのパイロットが言う通り、12.7ミリじゃあすぐに通用しねえな。」

照準器にゴーレムの体が合った。距離は300メートルだ。

「なら、37ミリではどうかな!」

彼は吼えながら、機首の37ミリ機関砲、両翼の12.7ミリ機銃をぶっ放した。
12.7ミリ機銃の曳光弾が、線を引きながらゴーレムを縫った。
その時には、まだ前進を続けていたゴーレムだが、続いて襲って来た37ミリ機関砲弾に右の脚部を打ち砕かれた。
バーンズ大尉は、ゴーレムがガクリと崩れ落ちるのを見て思わず歓声上げた。

「イェア!37ミリなら石のデカブツを潰せるぜ!」

バーンズ大尉は興奮を抑えると、次の目標を見定めるため、一旦高度を上げる事にした。

突然やって来たP-39の襲撃に、キメラは撃ち砕かれ、又は蹴散らされたが、
それでも5分の1のキメラが、生きた人間の肉を求めて向かいつつあった。
しかし、キメラを出迎えたのは・・・・・・

「撃て!」

うまそうなご馳走ではなく、銃火の壁であった。

最先頭を走っていたキメラに対戦車砲弾が命中した。
顔面に砲弾が突き刺さり、爆発が起きるや、体があっという間に砕け散った。
機銃座から放たれる無数の火箭が、別のキメラに突き刺さり、頑丈なはずの体が一寸刻みに抉り取られ、次第にスピードが落ちていく。
限界を向かえ、その場に倒れこんだキメラの死体に迫撃砲弾が至近に落下して、その体をばらばらに吹き飛ばしてしまった。
猛烈な銃砲火の前に、キメラはばたばたと撃ち倒され、その骸さえもが別の射弾にちぎり飛ばされ、あるいは砲弾によって叩き潰された。
200体を投入されたゴーレムは、P-39の攻撃で大きく数を減らしながらも、半数が陣地に近付きつつあり、
その200メートル後方からは、馬に跨った騎士達が殺到しつつあった。
騎士達の指揮官は、ゴーレムを盾に前進を続行しようとしたが、その考えは間違いであった事をすぐに思い知らされた。
ゴーレムには、P-39が襲い掛かっており、そのうち、何機かのP-39が好機だとばかりに、疾走する騎馬軍団にも襲い掛かった。

P-39が両翼を真っ赤に染めながら、上空を通過するや、10は下らぬ数の騎士が、頼りになるはずの鎧を打ち砕かれて絶命した。
とある大隊は、このままゴーレムと一緒にいても埒が明かぬと思い、ゴーレムの脇をすり抜けて、突出し始めた。
「ゴーレムの側から騎士が出てきたぞ!第2小隊、あの騎馬部隊を狙え!」
ジャード大尉は、第2小隊に指示を送って、この新たな敵を迎撃させる。7.62ミリ軽機関銃や12.7ミリ重機、それにガーランドライフルや迫撃砲がこの新たな目標に向かって一斉に撃ちだされる。
たちまち、突出して来た騎馬のうち、最先頭が蜂の巣になってその場に昏倒する。
続いてそのすぐ後方も同様の運命を辿った。
集中してはやられると思ったのか、他の騎馬隊は横に散開しつつ、猛速で突っ込もうとするが、無数の火箭が吹き飛ぶ前には、この方法も無駄に終わり、そう時を置かずしてほとんどが銃弾に倒れた。

それから20分後、ジャード大尉は目の前の状況に、思わず言葉を失った。
濃密な銃砲火の前に飛び出した敵部隊は、半数以上が撃ち倒され、草原にその骸を横たえている。
「他の戦線はどうなっているか分からないが。ここに関して言えば・・・・」
ジャード大尉は双眼鏡から目を話しながら呟いた。
「敵の撃退、という作戦目的は達せられたな。」
今の所、第7歩兵師団側には、突っ込んで来た敵騎馬隊との戦闘で、3人が戦死、10人が負傷したが、被害はそれだけである。
逆に、敵は数え切れぬほどのキメラやゴーレム、それに人員を失って、第7歩兵師団の前面から撃退された。
だが、他の南大陸軍の陣地では、第7歩兵師団ほど上手く行った部隊は無かった。

午前8時40分

「師団長、防衛戦の右翼がシホールアンル軍の圧力に潰されかけています。」
第1機甲師団の司令官であるジョージ・パットン少将は、表情をしかめるどころか、逆に面白いといったように輝かせた。

「右翼には南大陸軍側の精鋭が貼り付けてあるはずだが、なるほど。敵もここには精鋭をぶつけてきた訳か。では、諸君。」

パットンは、おもむろに言い放った。

「我々も出ようとするか。シホット共に戦車の威力を思い知らせてやる。」


午前9時20分
シホールアンル第23機動騎馬旅団は、南大陸軍の右翼を力攻めで押し返しつつあった。
第23騎馬旅団長は、損害に構わず前進せよと命じ、ゴーレムやキメラと共に、塹壕に立て篭もっていた南大陸軍の兵達を追い払いつつあった。
異変か起きたのはこの時であった。とある騎士は、後方から聞こえてくる聞き慣れぬ音に首を捻った。

「この音は?」

音の方向は、少し高い丘の向こうに隠れている。その音の主が姿を現すまで時間は無かった。
突然、見たことも無い物体がぬうっと姿を現したかと思うと、それらが横一列、何十と言う大群を成して、彼らの下にやって来た。
見慣れぬ物体は、全体的に高さがあり、傍目から見ればちょっとした小屋が移動しているように見える。
その移動している小屋の上部が回転するや、その先に取り付けられた棍棒、いや、大砲が彼らに方向向けられた。

「大砲だぁ!!」

誰かが悲鳴を上げたと同時に、大砲が火を噴いた。爆発と共に、騎士や馬が中に吹き上げられた。

この最初の一撃で、恐慌状態に陥ったこの騎馬中隊は、一斉に逃げ始めた。
逃げようとする騎士達の背後から、移動式砲台、もとい、アメリカ軍戦車のM4A1シャーマンは砲撃や銃撃を続ける。
機銃弾に縫われた馬と騎士が、仰け反って草原に倒れこんだ。
別の所では、爆発に吹き飛ばされた騎馬が草原に落下して、見るも無残な光景を現出した。
パットンの率いる第1機甲師団は、元々、機動兵団として活動するつもりであった。

今回の防衛戦で、アメリカ軍はまず、前線に引き付けられている敵部隊を、機甲師団の機動性を生かして
これを包囲、殲滅するという作戦を立てた。
最初、この案が上手くいく筈は無いと思われたが、シホールアンル軍は、アメリカ軍が加わっている中央部や、左翼に攻撃を仕掛けながら、
半数の軍を右翼部分に集中させ、戦線を突破する腹積もりだった。
現にこの作戦は、右翼側の防衛を担当していた南大陸軍に多重な負担を与えた。
アメリカ側は、第3航空軍のP-38、P-39を100機近く派遣したが、この戦線に関しては敵側も100騎以上のワイバーンを投入しており、
アメリカ側は満足に航空支援をする事が出来なかった。
勢いに乗るシホールアンル軍は、右翼戦線を早くも突破できる寸前まで行ったが、そこに第1機甲師団が、横合いから現れたのである。

第21戦車連隊に属する第3大隊の戦車部隊は、後方にハーフトラックを従えながら、シホールアンル軍を南の方向にじりじりと追いやりつつあった。
エーリヒ・ヴェンク少尉は、前方に向かって来る何かを見つけた。

「11時前方、何か来るぞ。」

ヴェンク少尉は注意を促した。
「ありゃゴーレムですぜ。騎兵や歩兵では太刀打ちできねえと判断して、ゴーレムを投入してきたんですな。」

よく見ると、逃げ行く敵歩兵の流れに逆らうように、20体ほどのゴーレムが第3大隊の所へ向かいつつある。
そのずっと後方には、歩兵の群れで分からないが、恐らく魔道士が操っているのだろう。

「魔道士が近くにいりゃあ、75ミリを使うまでも無いんだが、ゴーレム本体が来るとなれば仕方ねえ。砲を向けろ!」

ヴェンク少尉の指示に従い、75ミリ砲がゴーレムに向けられる。人ごみを抜けられたゴーレムはやや速度を上げた。

「弾種徹甲、距離800、撃て!」

ドン!と、主砲が唸った。砲弾は惜しくも、ゴーレムの後方に落下した。

「外れだ!」
ヴェンクは苦い表情を浮かべて叫んだ。

「もう一度だ!次は外すなよ!」

装填手が75ミリ砲弾を装填する。

「照準よし!」
「撃て!」

再び75ミリ砲が咆哮した。砲弾はゴーレムの胴体に命中した。
徹甲弾をぶち込まれた胴体は、命中時に大きくひびを生じ、その次の爆発でひびは一気に広がった。
その2秒後には、自重に耐え切れなくなった胴体が割れ、いくつもの破片となって崩れ落ちた。

「ナイス!次だ、次を狙え!」

ヴェンク少尉は、先と打って変わった上機嫌な口調で命じた。
その頃には、第3大隊の他の戦車も、ゴーレムに砲撃を加えている。

頭部に砲弾を食らったゴーレムが、情けなく仰向けに倒れこんでピクリとも動かなくなった。
別のゴーレムは脚部に命中弾を受け、前のめりに倒れた。片足が無くては、動く事もままならないが、
それでも、両腕でずり、ずり、と這う様子は、魔道士というより、作られたゴーレム本体が、
身が砕かれようとも敵を討つまでは諦めぬと思っているように見えた。
そのゴーレムに別の75ミリ砲弾が2発命中し、執念の行動は無為に返した。
気が付くと、ゴーレムは全て撃破されていた。

「前進再開!」

中隊長車からの指示が、ヴェンク少尉の戦車にも伝わった。

「前進再開だ。包囲の輪を閉じるぞ。」

ヴェンク少尉は、淡々とした口調でそう言い、操縦手が再び戦車を前進させた。
彼の戦車だけではなく、第3大隊の戦車は再び前進を再開した。
今、目に見えている仲間の戦車で、破壊された物は1台も無い。
(味方の被害、ゼロか。まあ、当然だわな。)
ヴェンク少尉は哀愁を含んだ思いでそう思った。なにしろ、敵側には戦車という概念は存在しない。そのため、対抗可能な武器など無いに等しい。
勝って当然と言えるが、彼としては、一方的に蹂躙されるであろうシホールアンル軍に対し、少しばかりの同情の念が沸き上がっていた。

「一方的に戦いを進められる気分はどうだ?シホットさんよ。」

ヴェンク少尉は、遠くに逃げ散って行ったシホールアンル兵達対し、そう呟いていた。

午後7時

シホールアンル兵達の表情は、どれもこれも死人と見紛うほどであった。
ハーフトラックの車上で、アメリカ兵の監視の下、後方にへと連れて行かれる捕虜の集団を、パットン少将は無表情で見つめていた。
「今頃、敵の親玉は胃薬を大量に飲みまくっているだろうなぁ。」
「そうかもしれませんな。」

参謀長が頷きながら言った。

「自信を持って開始した大攻勢が、見るも無残な失敗に終わったのですから。」
「それも、これまで経験した事のないほど、大損害を受けて、だからな。」

早朝に開始された、シホールアンル軍地上部隊による大攻勢は、アメリカ軍を含めた南大陸軍の防戦によって、わずか1日で瓦解した。
その最大の原因となったのは、右翼戦線の主力部隊壊滅であった。
シホールアンル側は、前線に渡って激しい砲撃を行ったが、中央戦線を担当したシホールアンル軍1個師団と1個旅団は、まず砲撃戦の時点で
アメリカ軍砲兵部隊によってアウトレンジで砲撃され、成すすべも無く壊滅した。
次いで突撃に移った部隊も、第3航空軍の航空支援や濃密な銃砲火によって阻止され、半数以上の戦力を失って後退した。
左翼戦線ではシホールアンル軍、南大陸軍とも激しい白兵戦を繰り広げたが、最終的には損害に恐れをなしたのと、助攻の役目を逸脱すべきではない
と言う上層部の判断から、左翼戦線もなんとか保たれた。
問題は、右翼戦線であった。右翼戦線には、なんと2個師団及び1個機動旅団が攻め入り、右翼戦線は一時崩壊の危機に見舞われた。
そこに駆け付けたのが、パットンの率いる第1機甲師団であった。
第1機甲師団は、がら空きであった敵攻勢部隊の側面を突く事に成功した。
初めて見る戦車に、シホールアンル将兵はまともな対抗策を取れる筈も無く、次々に蹂躙されていった。
それのみならず、第3航空軍の他の航空部隊も、第1機甲師団の後背を突こうとしたシホールアンル軍を食い止め、
第1機甲師団と右翼戦線に阻まれた攻勢部隊も猛爆撃を受けて、戦力をすり減らされていった。

そして午後7時、膨大な犠牲を出した敵攻勢部隊主力は、南大陸軍とアメリカ軍に白旗を上げた。
その間、敵主力軍は10200人の戦死者と、13000の負傷者を出し、壊滅状態にあった。

「持つ物と、持たざる物。それが全力を出して戦えば、どのような結果を招くか。俺は思い知らされたような気がするよ。」

パットンは神妙な面持ちで呟いた。

「思い知らされた、ですか。」
「ああ。俺達は敵が持ち得なかった武器を使ったからこそ、このような大勝利を得ることが出来た。
ミスターケインズ。今後もこのような大勝利を得られると思うかね?」

パットンは意味ありげな声音で、参謀長のケインズ大佐に問うた。

「勝てます。」
「俺もそう思う。もう1つ質問だ。被害は減ると思うか?」
「えっ?」

ケインズ大佐は言葉に詰まった。一瞬、パットンは何を言っているのかと彼は思った。

「俺は、なかなか減らせんと思うぞ。」

この日、勝利の原動力となった第1機甲師団だが、被害をゼロに抑える事はついに出来なかった。
敵部隊の中には、突如、大量のキメラやゴーレムを押し立てて反撃するものもいれば、P-38の迎撃を掻い潜って、
爆弾を叩きつけて来るワイバーンもいた。
その影響で、M4戦車が2両、M3軽戦車が4両にハーフトラック7両が破壊された。
兵員の戦死者は49人、負傷者は120人を出している。

戦果の割には少ない損害とは言えるが、圧勝とも言える戦いでも被害は出たのだ。

「敵が、俺達の持っている物を知らなかったからこそ、これだけの被害で済んだのかもしれん。
だが、敵も戦車の存在を知った。これからは、俺達の戦車を目標に、訓練を施された部隊も
出てくるかもしれん。損害を出さぬようにするのは、これから難しくなっていくだろう。」

途端に、パットンの表情が変わった。

「だが、張り合いの敵が出てくるのならば、むしろ上等だ。俺達はそいつらを打ち破って、
貴様らシホットが、俺たちに勝ち得る事はない、と言う事を改めて教えるだけだ。」

彼は獰猛な笑みを一瞬浮かべ、すぐに捕虜の列にへと視線を戻した。
捕虜の表情は、先の連中と変わらない。いずれもが、どこか抜けたような表情になっていた。
そんな中、1人だけ居丈高な高級将校を見つけた。その将校は、パットンと目が会うと、嘲笑を浮かべながら、前に視線を戻した。

「おい、そこの将校。君だ。」

パットンがその将校に声をかけた。
別のシホールアンル兵がその将校を見た。
腑抜けのような表情に、一瞬怒りの色が見えたが、すぐに感心を無くした様に側を通り過ぎていく。
(もしや、あの将校は・・・・)
ケインズ大佐はある思いがよぎった。

「私かね?」

その初老の将校は、立ち止まってパットンに声をかけた。

「そう、あんただ。あんた将軍かね?」
「いかにも。私は第97機動旅団長、ウルック・モールレウト准将である。」

モールレウト准将は、痩せた体系ながら、威厳のある姿勢でパットンに答えた。

「私を呼んだからには、貴官にも質問に答えてもらおうか。あなたの名は何か?」

「俺か?俺はパットン、ジョージ・パットン少将だ。今回の手合わせに参加してもらい、礼を言うぞ。」

そう言いながら、パットンはハーフトラックから降りた。

パットンは、周囲を通り過ぎる兵らしき物達の眼が、この准将を見るときだけ、なぜか怒りの色を見せている事に気が付いた。

「あんたらの兵は、よく戦ったよ。絶望的な状況になっても、対抗策を講じて立ち向かって来た勇気はなかなか見応えがある。所で、」

パットンの眼が鋭くなった。

「准将殿、あんた何をしていた?」
「何をしていた?ふん、私は貴様ら卑怯者に対すべく、部隊の指揮を取っていただけだ。
まあ、講じた対抗策は全て無駄になったがね。」

そう言って、モールレウト准将は立ち去ろうとした時、

「何が指揮を取っていただ。自分だけは敵の見えない所で喚いていただけの癖に。」

通り過ぎた女性兵が、忌々しげな表情で呟いた。その声を、パットンはしっかり聞いていた。

モールレウト准将の表情は、いささか青くなっていた。

「ほう・・・・立派な旅団長だと事で。」

そう言いながら、パットンは感心を無くしたと言わんばかりに、モールレウトから視線をずらした。
事実、モールレウト准将は、あの戦いの時、自分だけは比較的安全な場所で支離滅裂な命令ばかりを繰り返していただけに過ぎなかった。
それ以前に、彼は旅団中からあまり好かれていなかった。
元々、貴族出身のコネで、軍に入ったようなもので、性格は一見鷹揚だが、裏では不祥事を起こしては揉み消しを繰り返していた。
肝心の作戦指導に関してはそこそこ優秀と言う評価があったが、それも信用し難い物だ。
モールレウトは顔を真っ赤にしながらその場から立ち去ろうとした。その時、

「そうだ。私はとある目的を持って、アメリカから来たのだが、それはな」

パットン何気なく呟いた。モールレウトは足を止めて振り返ろうとした。
その刹那、尻に強い打撃が加わり、モールレウトは転倒した。
この時、パットンは彼の尻を、思い切り蹴り飛ばしていたのだ。
通り過ぎようとしていた捕虜や、パットンの部下たちが、パットンの突然の行動を見て目を丸くしていた。
姿勢を起こしたモールレウトが、理解しがたいとばかりに、パットンをまじまじと見つめた。

「馬鹿なシホットのケツを蹴っ飛ばす、と言うものなのだ。俺が言いたいのは、これだけだな。」

そう言いながら、パットンはハーフトラックに乗り込んだ。

その日、シホールアンル軍は、戦死者23000、負傷者22000、捕虜12000人という膨大な損害を被り、
満を持して開始された攻勢は、わずか1日で頓挫してしまった。
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