自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

021 第17話 征途、陸軍航空隊

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第17話 征途、陸軍航空隊

1482年2月15日 午前8時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル 

「ワイバーン75騎喪失、ガルクレルフの補給物資83%を焼失、又は破損。
第3艦隊所属の戦艦1、巡洋艦3、駆逐艦6隻沈没・・・・・・・
俺は敗報を持って来いとは言ってねえよ。」

オールフェスは、テーブルに先ほどまで読み上げていた報告書を放り投げた。
不気味に沈黙した会議室に、カサッという紙がテーブルに投げられる音が、小さいくせに妙に響く。
集まった閣僚達は、誰もが表情を暗くし、縮こまっていた。

「レンス元帥。見事に釣られちまったな。」

オールフェスは皮肉気な口調でレンス元帥に言った。
2日前、レンス元帥は、

「のこのことやって来たアメリカ艦隊なぞ、全て打ち沈めてご覧に入れましょう。」

と言い、オールフェスも今度ばかりは、煩わしいアメリカ戦艦部隊や、化け物じみた搭載機数を誇る
空母機動部隊を撃滅できるか、あるいはしばらく港に引っ込ませる事はできるなと確信した。
ところが、昨日の夕方に、オールフェスが庭で近衛兵相手に剣術の練習をしている時に、突然レンス元帥が宮殿に現れた。
オールフェスはもう決着が付いたのかと思い、気軽に声をかけた。
レンス元帥から言い放たれた言葉は、とんでもないものであった。

「ガルクレルフが、アメリカ艦隊の空襲と艦砲射撃を受けました。」

その言葉を聞いた瞬間、オールフェスは一瞬耳を疑った。
そもそも、ガルクレルフで決戦が行われるとは聞いた事もない。
本来なら、アメリカ艦隊と自軍の艦隊は、カレアント公国の沖合いで会敵し、決戦を行うはずだったのだ。
だが、何故にガルクレルフ!?
戸惑うオールフェスは、剣術練習を打ち切りにして、宮殿内部にある会議室にこもった。
以降、オールフェスは次々ともたらされる被害報告に頭を痛めた。
要するに、威風堂々とアメリカ艦隊が出撃し、それをガルクレルフで待機していた海軍の主力が迎え撃とうとしたら、
突然現れた別働隊にガルクレルフに集めていた膨大な補給物資をほとんど叩き潰され、挙句の果てには追撃した艦隊までもが
米艦隊相手に惨敗したのだ。
そして、肝心の米太平洋艦隊主力は、こちら側の主力が反転するや、さっさと引き上げていき、
カレアント公国の沿岸にはピストルの弾1発も飛んで来なかった。

つまり、シホールアンル側は嵌められたのである。

「敵艦隊にはだいぶ打撃を与えたようだが、もはや後の祭りだね。」

オールフェスは突き放すように呟くと、椅子にふんぞり返った。

「ですが、敵の戦艦2隻に逃げられたとは言え、沈没寸前の被害は与えましたし、レキシントン級空母1隻に少なくとも
中破程度の被害は与えています。それに、敵側も巡洋艦1隻に駆逐艦2隻を沈められていますから、敵の1個艦隊は
当分行動不能になるかと」
「後の祭りなんだよ!!」

ウインリヒ・ギレイル元帥の言葉を、オールフェスは大声で遮った。

「ガルクレルフの補給物資が吹っ飛ばされて、侵攻軍の進軍がストップしちまった以上、
敵の戦艦や空母を沈めても意味はねえんだ!それなのに、平気な顔して敵艦を沈めましただぁ?
悔しくねえのか!?俺達はアメリカの奴らにコケにされたんだぞ!?」

オールフェスは喚き立てた。
彼がこのようにして怒鳴り散らすのは初めてだった。
普段は、執務の時でものほほんとして(本人は真剣である)いるように見えるが、このように激しい口調で喚き散らしたり、
相手を罵る事はほとんど無い。

「この人は、仕事も自分の趣味だと考えているのか?」

フレルなどは、レンス元帥にそう漏らした事があるほど、オールフェスと言う人間はつかみ所が無かった。
そのオールフェスが烈火のごとく怒っている。

「・・・・・・・・クソが!」

彼は小さな声で罵ると、しばらく黙り込んでから話を始めた。

「まあ、仕方が無い。敵があんな手を使うとは、誰もが思っていなかったからな。
主力部隊を餌にして、艦隊撃滅を主任務だと思わせて、後方を叩く・・・・か。
悔しいが、今回は敵のほうにツキがあったんだ。そして、俺達はツキに見放されていた・・・・・」

オールフェスは、落ち込んだ表情で言った。

「だが、過ぎた事をあれこれ言っても始まらない。今は出来ることをやらないとな。ギレイル元帥。」

彼はギレイル元帥に視線を向ける。

「南大陸の侵攻軍は、何ヶ月ぐらい進撃がストップする?」
「暫定報告では、少なくとも2ヵ月半ほどと見積もられています。」
「2ヶ月半・・・・・か。痛いな。」

本来ならば、1週間後に大攻勢を仕掛けて、カレアント公国を一気に攻め滅ぼすつもりであった。
そのための物資はガルクレルフに準備されており、これから各部隊に配備される予定だったのだが、
その必要な物資の大半は、第2任務部隊の艦砲射撃によって焼き討ちにされた。

「これからは、補給物資は1箇所にまとめて置かない方がいいかもしれない。
中規模の集積所を幾つも作って、そこに補給物資を蓄えておくとかやらないとな。
アメリカは、戦艦の他にも高速機動のできる空母部隊も持っているし。」

アメリカ側が今回の戦果に味を占めて、ガルクレルフのような重要拠点に空母機動部隊を持って奇襲を仕掛ける事は
充分に考えられる。
そのため、ガルクレルフのような重要拠点に何か月分もの武器や弾薬、道具や食料を置くのは非常に危険である。

「沿岸付近には小規模の、せいぜい1ヶ月程度が蓄えられる物資集積所を設営し、沿岸より更に内陸、
約5ゼルド離れた所に中規模の物資集積所を設けたほうが宜しいかもしれません。」
「そうだな。いずれにせよ、どこにモノを置くか考えないと、ガルクレルフの時のように泣きを見る事になるからな。
今日は時間が迫っているから、それはおいおい考えていく事にしよう。」

オールフェスは、いつもより少し強張った口調でそう言うと、次の議題に移った。

1482年2月27日 午前10時 カレアント公国ロゼングラップ

カレアント公国の国境の町、ロングラップは、2週間ほど前から南側の平野に珍客を出迎えていた。
その珍客達は、ロングラップの町長に許可されたと言うと、平野に見た事も無いモノを使って何かを作り始めた。

ショベルの先に柄が半分から折り曲げられて、それが自由自在に動いて周囲の土を掻き出したり、
荒れた地面を、車体の前面に鉄板を貼り付けたものが整地をしたりして、東西に巨大な線を描いていた。
市街地から1ゼルドほど離れてはいるが、それでも、珍客たちが使う道具の騒音は延々と続いていた。

ルーガレックで露天商を営んでいたクグラ・ラックルは、カレアント公国の南端部に位置するこの町に逃げ延びていた。
彼の住んでいたルーガレックは、今やシホールアンルと南大陸軍の激戦場となっている。
ラックルは、ロゼングラップの知人の家に家族と共に逃げ延びた後、知人の薦めで露天商をやってみないかと言われ、
彼は二つ返事で受け入れた。
店は知人の家から少し離れた市場で開かれており、連日多くの客で賑わっている。
ここに元々住んでいる人もいれば、北で彼と同じように落ち延びてきた人もいる。
だが、このロゼングラップでは、住民や避難民以外の別の客人もちらほらとやってきており、そのうち何人かとは顔見知りになった。
10時頃から、市場は賑わいを見せ始め、戦時下とは思えぬ活気に満ちた声があちらこちらから聞こえてくる。

「さあ、そこのお兄さん!今朝取れたての野菜なんだが、どうだい?どれもこれもお手ごろ価格だぜ!」

ラックルは満面の表情で道行く客に声をかけていく。
たまに無視して通り過ぎる者も居るが、大体の者は彼の言葉に誘われて野菜や果物を見ていく。
ふと、彼は人ごみの中から見慣れた顔を見つけた。その人物はカーキ色の服に尖った帽子を頭に被っていた。

「やあ大将!」
「おっ、ギルバートさんじゃないか!久しぶりだねぇ!」

2人は互いに笑みをこぼしながら話を始めた。

「久しぶりって、2日前の夜に会ったばかりだぜ。」
「あれ?ああ、そうだったな。」

ラックルは苦笑しながら言う。

「おやおや、犬系の獣人はすぐに記憶が吹っ飛ぶのかい?」
「そんなに攻めないでくれよ。こっちも色々苦労してるから、あれこれ覚えようとしても忘れちまうんだよ。」
「まあ、俺も忙しい時は似たような事するから文句は言えんな。」
「ところで、あんた基地の外に出て大丈夫なのかい?」
「今日は俺の部署は休みでね。」
「休みねぇ。昼夜問わずの突貫工事をあっちやってるから、アメリカ人は疲れ知らずの働きモンだなと思ってたよ。」
「そんな奴は少ないよ。まっ、俺の知り合いには仕事が命だ!などと抜かしている奴は居るがね。」
「ギルバート少尉殿もそうかい?」
「俺がか?まさか。仕事は大事とは思っているが、それも時によりけり。
こうしてどっかをブラブラして息抜きでもしねえとやってられんよ。とは言っても、ここはまだ平和だからそう言えるが。」

ギルバート少尉は手を振りながら、しんみりとした口調で言い放つ。

「それに、他の非番連中も何人かはこの町に来ているぜ。
というか、外出許可が降りても、この町でしかブラブラできないから、一部の兵はぶーぶー文句言っているよ。」

贅沢なやつらだ、と言いながら、ギルバート少尉は店の野菜や果物をを品定めする。

「なあ、ギルバートさん。あんたらは何の基地を作っているんだい?」

ラックルはにやけた顔を留めたままギルバート少尉に聞いた。

「今はちょっと教えられんな。」
「あんたもそう言うのか。」

ラックルはやれやれと言った表情で肩をすくめた。

「・・・?同じような事を言われたのか?」
「ああ。聞いたアメリカ人は皆似たような言葉しか返してこないぜ。
中にはここに駐留する部隊の補給基地を作っている、って言う奴もいたけど。」

彼が店を開いているのは、ロゼングラップでも最も南に位置するところで、建設中のアメリカ軍基地からは僅か600メートルしか離れていない。
そのため、非番のアメリカ軍兵士は、外出許可が降りると基地の近くにあるこの町で、ぶらりと歩き回る。
最も、どこにシホールアンル側のスパイが隠れているか分からぬため、兵はロゼングラップ市内だけしか外出は許可されていない。
そのアメリカ軍兵士達に、何の基地を作っているのか?と聞くと、誰彼も言葉を濁したり、
デタラメな事を言って回答を避けていた。

「アメリカ人って、人に物事を言うのが苦手なのかい?」
「そんな事はないよ。というか、どこにスパイがいるか分からんからね。
こっちとしても何を作っているかは迂闊に教えるなと言われているんで。でも、」

ギルバート少尉はラックルに顔を向けて、ニヤリと笑みを浮かべた。

「答えはそのうち、それも、今日中には分かるよ。」

そう言って、ギルバート少尉はリンゴのような果物を手にとって、通貨を渡した。
通貨はアメリカ側に大慌てで渡された、南大陸共通のジンブという銅貨である。

「2ジンブね。どうも!」
「このリンゴ・・・じゃなくて、なんだっけ?」
「エレンキだよ。」
「そうそう、エレンキ!エレンキだ。この果物は俺のお気に入りだよ。」
「そうかい。そう言ってくれると、売る側の俺も嬉しいよ。」

「じゃ、またな大将!」

ギルバート少尉は買った果物を渡された袋に入れて、どこかに消えていった。
しばらく、店はいつもの通りの日常に戻った。
その日常も、10分後には覆された。

「答えは今日に分かる・・・・・か。一体、何の基地を作っているのやら・・・・・」

彼は頭の中で、ギルバート少尉の言った事を反芻している。
椅子に座って考え事をしていると、ふと何かの音が聞こえてきた。

「この音は・・・・・・・・・どこかで聞いた事のあるような。」

彼はすぐに思い出した。この音は、飛空挺のものだった。

「なるほど・・・・・・ギルバート少尉殿、答えは分かりましたぜ。」

ラックルはそう呟くと、どこか胸のつっかえが取れたような気がした。

「あの基地は、飛空挺の発着基地だったのか。」
彼は別段、驚いた様子もなく呟いた。
やがて、聞きなれぬ音を耳にした市場の人々は、音のする方向に顔を向け始めた。

第83戦闘航空隊に属する第2大隊の第4中隊、P-38ライトニング12機は、ようやく1番機が着陸態勢に移行した。

「こちら管制塔、横風が少し強い、注意しろ。」
「こちらウェルバ1、了解した。」

ビーン・リストロング大尉は管制塔からの指示に答えると、そのまま滑走路の線上に機首を合わせる。
目の前には、そう遠くない距離に長さ2000メートルの滑走路が見え、慌しく作られたエプロンには
先行していったP-40、P-39が駐機している。
横風が吹き、双発の機体が微かに揺さぶられるものの、リストロング大尉は機をうまくコントロールして高度を下げ、滑走路に近付く。
初めて着陸する飛行場は、どんなに規模が大きくても緊張するものである。
リストロング大尉も、内心緊張していたが、体は今までに叩き込まれた動作を無意識に繰り返し、機体を適正コースに乗せていた。
高度が下がり切り、滑走路の始点を飛び越えた時、ドスンという音と衝撃が走り、機体が地面に足をつけた。
そのまま滑走して行き、決められた駐機場に入って愛機を止めた。
程無くして、第4中隊のライトニング12機は全て着陸し、この飛行場で最初の駐留部隊となる第83戦闘航空隊は
P-40ウォーホーク38機、P-39エアコブラ36機、P-38ライトニング12機の計86機である。
この航空隊は、当分の間、航空戦力の欠乏した南大陸軍を支援する中核部隊となる。
ライトニング隊が着陸すると、搭乗員が待機室に呼ばれ、長距離飛行に疲れた体を動かして向かう。
待機室は、急造の大きめのテントで、外見はみすぼらしいが中は広かった。
86名のパイロットが待機室の椅子に座ると、先行していた第3航空軍ケネス・コール少将が姿を現した。

「気を付け!」

第83戦闘航空隊司令官であるアール・スペンス大佐が凛とした声音で命じ、パイロット達も表情を引き締め、全員が立ち上がる。

「諸君、ヴィルフレイングからの500キロの飛行ご苦労だった。」

痩せ型で学者肌の感があるコール少将は、軍人そのものの張りのある声音で訓示を行った。

「諸君らも知っているとは思うが、現在、カレアント公国の西端ヌルアンクから、海岸沿いのジャンベリの間で、
南大陸軍とシホールアンル軍は睨みあっている。つい先日までは、シホールアンル側は南大陸連合軍をじりじりと
南に押し下げていたが、海軍が行ったガルクレルフ攻撃で補給物資の届かなくなったシホールアンル軍は進撃を止めている。
しかし、敵の航空部隊であるワイバーン群は、総計300騎以上の戦力を持って、依然として南大陸軍の前線陣地や
航空部隊に強い圧力をかけている。今回、わが第3航空軍は、このシホールアンル航空部隊や、敵地上軍の戦力を
少しでも減殺させるために配備されてきた。」

コール少将は、後ろの天幕に掛けられていた地図のとある部分を指示棒でなぞった。
そこは、このロゼングラップより北200マイルの最前線、ヌルアンクからジャンベルまで塗られた赤い線である。

「だが、今は攻撃の要となる爆撃機部隊を収容できる飛行場は建設途中にある。爆撃機部隊がいなければ、
敵地上軍をすり減らす事は出来ない。だが、地上軍を減らせぬ事は出来なくとも、敵の航空戦力を削ぐ事は出来る。
君たち第83戦闘航空隊は、合衆国陸軍航空隊の尖兵として、シホールアンルのワイバーン部隊と戦ってもらう。
爆撃機部隊が駐留するまで、敵のワイバーン部隊がこの基地に攻撃を仕掛ける場合もあるかもしれない。
しかし、君たち第83戦闘航空隊がいる限り、敵のワイバーン部隊は好き勝手できなくなる。
南大陸の空を、元の住人達のもとへ取り帰そうではないか。私は、諸君の健闘を祈る。」

コール少将の訓示はそれで終わった。


「なあビーン。敵のワイバーンって強いと思うか?」

リストロング大尉は、訓示が終わった後、同じ大隊でP-39を操縦するニック・バーンズ大尉と共に休憩所で話し合っていた。

「さあな。やってみないと分からんよ。でも、海軍の空母乗りからは侮れないとは聞いている。」
「なんだか、運動性能が馬鹿に良いって聞いた事がある。」

「飛行機じゃあり得ない機動をするんだとさ。」

リストロング大尉は身振り手振りを交えながら。

「あるワイルドキャットは、ワイバーンの真正面から機銃をぶっ放した。だが、撃たれたワイバーンはいきなり背の方向、
飛行機で言う背面方向に避けたようだ。機銃弾は当然外れちまい、敵に反撃された。」
「背面方向に避けただぁ?」

バーンズ大尉は耳を疑った。
彼も海軍のパイロットから何度か話を聞いているが、このような化け物じみた機動の話までは聞いていなかった。

「そうだ。おまけに、格闘戦に入ろうとしたら、あっという間に敵が後ろに回って機銃弾らしきものを撃ってきたって
話もあるし、いきなり炎の塊を吐いてくるという話もある。」
「厄介な相手と戦わされる事になったなぁ。」
「でも、撃墜比率はどちらかというと、敵側のほうが高いようだ。
ワイバーンは、機動性は確かに化け物だが、スピードはよくて500キロ近くまでしか出ない。
急降下で逃げればワイバーンは追い切れないらしい。」
「海軍の戦闘機乗りが言っていたが、高速を生かした一撃離脱戦法で行けば、なんとか撃墜率は稼げるらしいぜ。」

バーンズ大尉は胸ポケットからタバコを取り出し、ジッポライターで火を付けると、うまそうに吸った。

「一撃離脱か。」

彼はそう呟きながら、自らもバーンズ大尉から差し出されたタバコを1本貰い、それを吸う。

「だが、それでも撃墜比率は2対1に近いぜ。ワイルドキャットはワイバーンよりは早いが、最高速度は512キロ。
ワイバーンと比べて10~20キロしか速度差が無い。だからワイルドキャットも少なくないダメージを受けている。」

「でもな、一撃離脱戦法なら、速度が500キロにも満たないワイバーンには通用するってことだ。
お前のP-38なら、ワイバーンなんか目じゃないぜ。」

バーンズ大尉は羨ましそうな口調でそう言った。

「買い被るなよ。まだ戦ってもいないんだ。P-38がワイバーン相手にどこまで通用するかは、やってみないと分からん。」
「まあ、それもそうだな。だが、部隊の中で唯一の600キロオーバーの機体だ。P-40やP-39より楽な戦いが出来るかも知れんぜ。」
「そう願いたいが、戦は相手がいるからなぁ。とりあえず、今後予想される戦闘で、どの隊も上手くいく事を願っておこうか。
その方が、少しは気も休まる。」
「ふ~ん・・・・・・お前らしい言い方だな。」
「戦友の無事を願うのはいい事だぜ?」

そう言うと、バーンズ大尉は苦笑した。

「まっ、悪い気はしないな。」

彼は短くなったタバコを灰皿に放り投げた。

「さて、出撃命令が下るまで、中隊の奴らと雑談でも交わしてくる。おっ、そう言えば、お前んとこの中隊の奴ら、出来はどうだ?」

バーンズの言葉に、リストロングはいささか表情を曇らせた。

「まあ・・・・・・前よりは出来は良くなった。機体の癖も掴んでいる。
でもな、俺以外はほとんどが20前半~10代後半の若い奴らばかりだ。実戦で頭に血が上り過ぎてヘマをやらかさないか心配だよ。」
「なるほどな。」

バーンズ大尉はやれやれと言った表情で呟くと、リストロングの左肩をポンと叩いた。

「俺んとこも似たようなものさ。まっ、お互い様って事か。」

バーンズ大尉はそう小声で言うと、ゆったりとした足取りで休憩所のテントから出て行った。


1482年3月1日 午後5時 カレアント公国ポリルオ

ポリルオは、ジャンベルから北西30ゼルド、前線から10ゼルド離れた田舎町で、住人は南に逃げ出して誰もいない。
この町に、シホールアンル軍は急造のワイバーン基地を建設し、2月の中旬には94騎のワイバーンがポリルオ基地に派遣され、
地上軍の前進が滞った後も、南大陸軍の陣地に攻撃を仕掛けている。
ポリルオには、第21空中騎士隊司令部の他に、第34空中騎士軍司令部が設置されている。
第34空中騎士軍は、ポリルオの第34空中騎士隊の他に、ここから南に3ゼルド離れたレージェンの第22、第2空中騎士隊、
それにジャンベル近郊の第61、62空中騎士隊総計324騎から編成されており、カレアント公国の前線に展開するワイバーン部隊の
3分の1の戦力を統括している。
この日、第34空中騎士軍司令官であるベルゲ・ネーデンク中将は、主任参謀と共に攻撃目標の選定を行っていた。
体系はがっしりしており、身長は125ロレグとなかなかの長身であり、歴戦のワイバーン部隊指揮官の貫禄をかもし出している。
ちなみに、ベルゲは、南大陸東艦隊司令長官のジョットル・ネーデンク大将とは兄弟関係にあたり、彼はジョットルの弟である。

「航続距離は問題ないと思われます。」
「一番遠いジャンベルからも直線距離で250ゼルドしか離れていない。これなら、ワイバーン隊も充分活躍できる。」
「ですが、敵側も、最近になって航空部隊を送り込んできたようです。数は100ほどです。」
「100か。敵側の飛空挺は強いと聞いてはおるが、こっちには190騎の戦闘ワイバーンがいる。
全部隊が一斉に攻撃を掛ければ、あの憎らしいグラマン戦闘機を皆殺しに出来るな。」

ネーデンク中将は獣のような笑みを浮かべた。

「総攻撃に出れば、こっちも馬鹿にならん被害を受けるだろう。だが、今のうちに叩き潰せば、今後の戦局に大きく影響する。
そうすれば、黒星続きの我がシホールアンルもアメリカに痛い目に合わせる事ができる。」
「油断のならぬ相手ですが、数で押せば、敵の飛空挺基地などひとたまりもありませぬな。」
「うむ。よし、これで決まりだな。さて。」
ネーデンク中将は、次回の攻撃目標の選定地にロゼングラップと書かれた欄に、赤い羽根ペンでサインした。
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