自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年8月3日  03:09  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「これは、返してもらうよ」  

縛り上げられた最先任軍曹エルフに言いつつ、原田三尉は装具を身につけている。  
周囲では海兵隊の人間が遠慮のない視線を向けており、部下たちが彼と同じように手早く戦闘準備を整えている。  
海兵隊の支援を得た彼らは、大して苦労する事もなく装備を取り返す事に成功していた。  

「特になくなったものはないようですね」  

どうやったのか戦闘準備を完成している陸曹が報告する。  

「それはいい事だ。国民の血税で購入した物をなくすわけにはいかないからな」  

89式小銃を装填し、腰に挿した拳銃の安全装置を確認する。  
周囲ではヘリコプターの立てる爆音が響いている。  

「貴様、どうするつもりだ」  

床に転がされたエルフが尋ねる。  
どうするって?決まっているじゃないか、害獣を駆除するんだよ。  
俺の部下たちが死んで、お前らみたいな存在が生き残っていていいわけがないだろう。  
小屋の中まで差し込んでくる照明弾の明かりの中で、原田は完全に狂った笑みを浮かべ、小銃を構えた。  

「原田三尉、気持ちはわかるが弾薬の浪費はよせ」  

いつの間にか、戸口のところに佐藤が現れていた。  
その隣には、こちらに向けて小銃を構えた二曹の姿もある。  

「佐藤一尉?」  
「救出が遅れて申し訳ないな。今回の作戦にはマスコミや外務省の人間も来ている。  
悪いが、エルフたちの身柄は預からせてもらうよ」  

佐藤の隣をすり抜け、次々と陸士たちが突入してくる。  
原田が止める間もなく、室内に転がされていたエルフたちは連行されていった。  

「判断能力を持っているウチはいいが、あまりにもおいたが過ぎるようだと後送するぞ」  
「気をつけます。ヘリはどれに乗ればいいのでしょうか?」  
「二曹に案内させる。後始末は任せておけ」  

未だに小銃を手放さない二曹に案内されつつ、原田たちは捕虜生活に別れを告げた。  
既に周辺の征圧は完了しており、散発的に聞こえていた銃声も途絶えている。  
上空を見れば、非武装の民間機らしいヘリが一機、着陸態勢に入っている。  

「外務省の鈴木か、まったく、こんな最前線までご苦労な事だ」  

一応、地上部隊の指揮官とされている佐藤は、出迎えのために着陸地点へと向かった。  


「お疲れ様です、外務省の鈴木です。  
お元気そうで何よりですね佐藤一尉」  
「遠路はるばるお疲れ様です。早速会談ですか?」  

挨拶もそこそこに、佐藤は本題に入った。  

「ええ、先方に余り損害は出ていませんよね?」  
「事前に徹底されましたからね。ご案内します。こちらへどうぞ」  

早くも降下した部隊が撤収を始める中、佐藤と鈴木は連れ立って村の中を歩いていく。  
あちこちに負傷し、武装解除されたエルフたちの姿がある。  
遅れて到着した衛生が、診療所を開いてそれを治療している。  

「いやいや、今回の作戦は良いプロモーションになりますよ。  
勇猛果敢で慈悲の心を忘れない我が自衛隊員。  
映像効果と合わせて、きっと国民の心に焼きつくでしょう」  
「まあ、映像効果のために大軍を動員できたというのは嬉しい話です。  
国内世論に遠慮して少数精鋭で突入するよりは遥かにマシですからね」  

上空を飛び回るヘリコプターの集団を見上げつつ佐藤が言う。  

「その国内世論とやらを作るための作戦ですからね、少数精鋭で地味に行うわけにはいきませんよ」  
「それはありがたい事です。映画とは違い、小規模な部隊では行える事に限界がありますからね」  

会話を交わしつつ、彼らはこの村の代表が捕らえられている小屋へと足を進めた。  



西暦2020年8月3日  03:12  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「それでは、皆さんは我々と敵対する道を歩むというのですね?」  

先方の主張を聞き終えた鈴木は、静かに言った。  
室内は静まり返っている。  

「顔を殴られた後に喜んでケツを差し出すようなバカに私が見えるとでも言うのか?」  

縄を解かれた先任軍曹エルフは、怒りに燃える目を鈴木に向けている。  
この状況でここまで敵意をむき出しに出来るというのは感動すら覚えるな。  
第三者の視点でそれを眺めつつ、佐藤は内心で呟いた。  

「そちらが先に手を出したという事を忘れないで頂きたい」  
「それは貴様らの兵士が我々の住処に近づいたのが原因だと言っただろう!」  
「ならば、その前にそちらに手を出しているグレザール帝国に手を出さない理由はなんなのでしょうな?」  

にやけた表情で鈴木が尋ねる。  
理由は既にわかっている。  
グレザール帝国は五つの軍団のうち、一つをこの大陸に派遣している。  
軍団といえば名前は立派だが、その数は一個師団に辛うじて手が届く数だ。  
しかし、数は揃えられても組織立った行動が苦手なこの世界では、訓練の行き届いた一個師団と言うのは驚異的な存在であるといえる。  
大方、その武力を恐れて沈黙していたのだろう。  



「我々の戦力を、ここに展開している程度の小規模な部隊だけだと思わないほうがいいですよ」  
「どういう意味だ?」  
「言葉通りの意味ですよ。我々は二十万以上の軍隊を持っています。  
もちろん、保有する兵器も、剣だの弓矢だのといったチャチなものではありません。  
それを扱う隊員たちも、高度に訓練されています。ああ、これは皆さんもよくご存知ですな」  

チラリと皮肉を混ぜる。  
  
「後でわかる事ですが、今回我々がそちらのお仲間を余り死なせなかったのは、殺せなかったからではありません。  
殺すだけならば、我々はもっとスマートに、そして完璧に行えます。  
いいですか?我々は、あえて、殺さなかっただけなんです」  

鈴木の言葉に、相手は沈黙を保っている。  
見たところ、怯えているわけでも、怒りを堪えているわけでもないようだ。  
まあそうだろうな。  
やはり第三者的な視点のまま、佐藤はその原因を考察した。  
この村は、グレザール帝国と旧連合王国、さらにはエルフの第一、第三氏族に挟まれる位置に存在している。  
そこで、強力な人間側にも、同族であるエルフたちにも組することなく、最低限の損害で独立を維持するという事は難しい。  
それなりの政治的センスを持っているからこそ、目の前のエルフはこの村を残す事ができたのだろう。  

「何が目的だ?」  

長い沈黙の後に、彼女はようやくそう言った。  
鈴木の表情が、満足げに緩んだ。  



西暦2020年8月2日  02:59  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村近郊  
    
「それで、結局のところ君はこう言いたいんだな?」  

長々とした鈴木の演説を遮り、統幕長は言った。  

「ただの人質救出作戦ではなく、出来るだけ派手なショーにしたいと言いたいんだな?」  
「まさにその通りです閣下」  

鈴木は愉快そうに言った。  

「ここの所、情勢が安定しているために国民は飽きています。ただの戦闘では足りない。  
かといって吐き気を催すような凄惨な殺し合いも勘弁です」  
「内陸部が舞台では、我々は余り出番はないな」  

海将が腕を組んで言う。  
空将と陸将が、親の敵を睨むような視線を向ける。  

「陸上自衛隊は、近隣の部隊から習志野の空挺まで、なんでもお出ししますよ。  
必要ならば大陸に展開しているヘリもありますしね」  
「大陸は歩くには距離がありすぎるでしょう。どうです?どうせならば派手に空挺降下を決めては?  
近接航空支援も目標が更地になるまでやりますよ」  

口々に二人は提案する。  
次の戦争が始まるまでに、彼らは出来るだけ予算と発言権を確保しておく必要があった。  
何しろ次の戦争は、恐らく長く続く。  
そこでは、制海権の確保と通商破壊が必要不可欠である。  
グレザール帝国を屈服させるには、海上自衛隊の大規模な拡大は避けては通れない道である。  
活躍せねばならない。  
活躍し、国民の脳裏に焼き付けなくてはならない。  
そうしなければ、不十分な人員と予算で次の戦争を戦わなくてはならなくなる。  
陸将も空将も、必死だった。  
鈴木の提案は、そんな彼らにとって魅力的だった。  
何しろ、人気取りが出来るような作戦を、是非とも派手にやってくれと言うのだ。  
断る理由はない。  

「航空自衛隊には何と言っても空挺降下の支援と、あとは照明さんを担当していただきましょう」  

なにやら考え込みつつ、鈴木は言った。  
彼の頭の中では、次々とプランが策定されているようだ。  

「照明?」  
「照明弾を、短時間で出来るだけ大量に落としましょう。  
夜闇の中で行えば、さぞかし綺麗な光景になるでしょう」  
「ライトアップされた夜の中、勇猛果敢に空挺降下する我が自衛隊員。絵になる光景ではあるな」  

他人事のように海将が言う。  

「もちろんの事、救出が目的である事は忘れていません。  
せっかくこの世界に溶け込んでくれているようですが、海兵隊の偵察に協力していただきましょう」  

つい先ほど、航空攻撃で更地にしましょうと言っていた空将が、しれっと言う。  
陸将が内心でよく言うよと呟く。  

「城塞都市ダルコニアにいる海兵隊の偵察ですか。  
もったいなくはありますが、しょうがないですね」  

仕方なさそうに鈴木が言う。  
正体を偽ってこの世界に潜入した海兵隊の偵察班は、その少なからぬ数が任務に失敗し、撤退するか殺されるかしていた。  
手駒として気軽に動かすべき存在ではないが、自衛隊員が捕虜になっているとなれば、渋るわけにもいかない。  

「外から目をひきつける空自と、周辺を征圧する陸自。  
先発し、捕虜の安全を確保する海兵隊としましょう。  
詳細は皆さんに立てていただくとして、私は私なりに行動させていただきます」  


「だがちょっと待ってほしい」  

場の空気が動き出した時、文部科学省の代表が口を開いた。  

「前任者では思いつかなかったような、なにか有益な対案があるのでしょうか?」  

下らない事を言うのならば摘み出すぞと言外に言いつつ、鈴木は尋ねた。  
    
「いや、戦闘を派手にやるという事自体に問題はない様に私個人は感じた」  
「では何か?」  
「できれば、余り相手を殺さない様にはできないだろうか?  
いや、南京大虐殺を繰り返すつもりか、とか、戦中の軍国主義がどうのとか、下らない事を言うつもりはない。  
ただ、国民の戦意を高揚させつつも、邪魔者は殺す、という論調を何とか出来ないかと思ってね」  

その後、長々と説明は続いたが、彼が言いたいのはこうだった。  
国家の敵は殺すという論調は、今の世代に限って言えば、大いに効果がある。  
別の世界に放り出されたという絶望感。  
日々目減りする資源、食料、統制される生活。  
国民には、何らかの形で娯楽を提供し、士気を維持する必要がある。  
しかし、その次に続く世代には、ある程度抑えた情報を与える必要がある。  
大人から入ってくる情報が壊す殺す踏み潰すでは、情操教育としてあまりにもよろしくない。  
選択肢が戦争しか思いつかないような世代を、出来れば作りたくはない。  

「なるほど、確かに将来を見据えれば、そういった考えも重要ではありますね」  

自分が外務省の要職についた後に、戦争だけを声高に叫ぶ部下たちが入省してくる姿を想像しつつ、鈴木は言った。  

「ならばできるだけ、殺す事を控える方向で考えていただけませんか?」  

陸将を見つつ、彼は続けた。  
  
「もちろん、自衛官に損害が出ない範囲で、です」  

当然のように付け加える。  
軍人に手かせ足かせをつけても、自己満足以外は得られない事を、鈴木も文部科学省の男も歴史から学んでいた。  
  
「そういうお話であれば、できるできないではありません。  
現場と話し合いつつ、最善を尽くしましょう」  

陸将は頷き、席を立った。  
空将も当然のように立ち上がる。  

「詳細は出次第ご報告します。  
それでは自分たちはこれにて失礼します」  
「よろしく頼む。他の者も何か提案があった場合には速やかに申し出て欲しい。  
我々は会議をするためにこの場にいるのであって、椅子を暖めるためにきている訳ではないからな」  

統幕長が締めくくり、会議は閉会した。  
文部科学省の前の担当者が更迭されて以来、粛々と進行していたこの会議は、この日を境に活発的な討議の場所へと戻った。  

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