自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年7月24日  10:00  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地  
  
「申告します、情報本部の鈴山義男二等陸尉以下四名、ゴルシア駐屯地情報小隊に配属となります」  
「ここの駐屯地司令をやっている佐藤だ。機材は到着している、部屋を案内しよう」  
「よろしくお願いします」  

ゴルシア駐屯地は、平和な田舎町に置かれた出張所から、日本の今後の方針を左右する鍵を握る前線基地へと変わっていた。  
今までは定期便が滞らないだけマシ、という状態だった彼らだったが、今は違う。  
本土から昼夜兼行でやってきた情報戦の専門家たち。  

「えーそれでは次に風呂場を案内しよう。  
男女の使用時間はきちんと分けられている。本土の駐屯地と同じ感覚で利用せよ」  

二曹が新入りたちを案内している。  
迫撃砲に、無反動砲に。  

「おい!ゴムパッドが足りんぞ!どうなってる!」  

戦車小隊。  

「エンジン止めろ!馬鹿野郎!排気ガスが直撃しているぞ!」  

窓を開けて医官が怒鳴る。  
ちょっとした病院並みの設備も作られる事になった。  

「しかし、かなりの戦力が集められているようですね」  

施設科が総力を挙げて正門前の橋を補強している様子を眺めつつ、鈴山二尉は言った。  
あの橋は相当に頑丈に作られていたらしいが、さすがに戦車小隊を支えるという苦行には耐えられなかった。  
それでも、渡りきるまでは耐えたというのは素晴らしいが。  

「そうだな、今の我々は増強中隊というにはあまりに強力な戦力だ。  
戦車を含む装甲車輌、それ以外の一通りの兵科が揃っている。  
要請すれば、重砲以外のありとあらゆる支援も飛んでくるしな」  
「セメントも随分と来ているようですが、要塞化もするのですか?」  

中庭に積み重ねられている物資を見つつ、鈴山二尉が尋ねる。  

「そうだよ、ここも国内と同じように、駐屯地と呼ばれる基地にするんだろうさ」  
「なるほど。しかしここに配属で本当に助かりました」  
「安全だからか?そうとも言い切れないかもしれないぞ」  
「いえ、自分たちは確かに任務とあれば野グソでもなんでもしますが、日常生活まで不衛生なのは勘弁ですからね」  
「ああ、他の駐屯地の連中は苦労しているそうだからな」  

職業柄、この大陸に展開している部隊の苦労は耳に入るんだろうな。  
心底安堵している様子の鈴山たちを見つつ、佐藤はそんな事を思った。  

「ついたぞ、お前さんらの新居だ。  
敷金礼金はタダだが、風呂トイレは共同だ」  

そこで佐藤は鈴山たちの方を向き、笑顔を浮かべた。  
男が二人、女も二人、プラス鈴山か。  
しかしこいつら、一晩徹夜で輸送されたぐらいで情けない表情を浮かべているな。  
  
「よろこべ、男女は別室で、なんとメイドさんがつく。  
特別職国家公務員しか味わえない贅沢だ。しっかりと味わえ。  
こちらから送っている地域情報は頭に入っているな?」  
「はっ」  
「ならば店開きは1300時までに終了させろ」  

その言葉に鈴山二尉は不思議そうな表情を浮かべる。  

「お言葉ですが、自分たちは一時間もあれば準備を完成させられます」  
「1300時に偵察から定時通信が入る。  
それまでに準備を完成し、食事を取り、脳を働くようにしておけ。  
貴様らに限り、食事も風呂も、今日中は自由に出来るようにしておいた」  
「ありがたくあります!直ちに準備にかかります」  

荷物に飛びつくようにして作業を始めた一同を満足そうに見ると、佐藤は自室へ向けて歩き出した。    
大規模な兵力の増強、兵科の増加、物資の補給。  
それらは全て、彼の決済を必要とする書類の増加を意味していた。  



西暦2020年7月31日  22:00  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地  

西暦2020年7月最終日になったその夜も、佐藤一尉は書類仕事に勤しんでいた。  
机の上には書類が満ち溢れ、机の隣にも書類が満ち溢れ、ついでに彼のベッドの上も、書類で満ち溢れていた。  

「なあ二曹」  

隣で同じく事務作業に勤しんでいる二曹に、佐藤は弱々しい声で語りかけた。  

「なんですか?」  
「人は・・・人は書類なしではわかりあえないのかな?  
俺は、それって悲しい事だと思うんだ」  
「用がないなら話しかけないで下さい」  

二曹は素っ気無く返すと、再び書類仕事へと戻った。  
室内は、再び静かになった。  
物を書く音、判子を押す音、書類をめくる音。  
長い夜に、なりそうだな。  
遠ざかる意識と戦いつつ、佐藤はそんな事を思った。  

「三尉」  

同じ頃、薄暗い森の中で一人の陸曹が尋ねていた。  
佐藤の命令でグレザール帝国軍を追尾していた彼らは、この夜も気の休まらない生活を余儀なくされていた。  

「なんだ?」  

昼は無言で突き進み、夜は周囲を監視しつつ休息を取る。  
そのような生活を続けているにも関わらず、彼は少しも疲労していない様子で先を促した。  
もちろん、その両目は夜間双眼鏡を駆使しての周辺監視を続けている。  

「どうやら連中の拠点が近いようですね」  

陸曹の言葉通り、三尉の視界の中には日没後にも関わらず、前進を継続している敵軍の姿があった。    
彼らの行動パターンは、基本的に日中のみ行動し、日没後は休息を取るというものだけだった。  
それが、今晩に限り、日没後も松明を使いつつの前進を継続している。  
今日に限っては急ぐべき何かがあるとしか考えられない。  
全く警戒態勢を取っていないところから見て、追撃、もしくは監視されているという自覚は持っていないようだ。  
だとすれば、陸曹の考察は正しい事になる。  
  
「確証が欲しいな、追尾をもう少し続行しよう。  
それと、出迎えの部隊と食料を申請しろ」  
「了解しました」  

結論から言うと、陸曹は正しかった。  



西暦2020年7月31日  23:13  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  

「港町ですね」  
「やはり連中の拠点か、貴様の言ったとおりだったな」  

夜間双眼鏡の中では、大量の篝火が焚かれた城塞都市が広がっている。  
海に面してはいるものの、あまりにも支配地域から離れすぎているために放置されていたこの街は、そこかしこにグレザール帝国の旗が翻っていた。  

「はい、三尉殿は現在偵察中でして。  
間違いありません、ここは現在、グレザール帝国の占領下にあります。  
そうです、ええ、わかりました、オワリ」  

報告を行っていた別の陸曹が駆け寄る。  

「撤退の許可が出ました。  
無用の戦闘を避け、原隊に復帰せよとの事です。  
増援部隊は明日出発予定。途中からは車輌で帰還できるようです」  
「よろしい、装具をまとめろ。下がるぞ」  
「はっ」  

彼らは道中と同じように、可能な限り素早く、そして出来る限り静かに移動を開始した。  
死に物狂いで城塞都市へと移動している敵軍には、万が一にも見つかる事はありえないように思えた。  
そしてそれは事実だった。  
そう、グレザール帝国軍には、見つからなかったのだ。  

「嫌ですね」  

先頭を歩いていた陸曹が小声で言った。  
足早に城塞都市を離れる彼らは、驚くほどに静かだった。  
枝を踏まず、草にぶつからず、装具を鳴らさず、どんな特殊部隊でも満足できる静寂を保ったまま、行動を続けていた。  
もちろん、力を入れすぎたり転んだりして痕跡を残すような間抜けはいるわけがない。  
だが、気がつけば彼らは、無数の敵意に晒されていた。  

「10、20か。嫌だな」  

全く口を動かさずに、三尉が応じた。  
歩く速度を変えずに、静かに小銃の安全装置を解除する。  

「敵意はすれども気配なし。嫌だ、嫌だな」  
「3カウント?」  
「限界まで撃つな。まだ街に近い」  

周囲に目線を向けつつ、三尉は言った。  
そして、彼は大空へと舞った。  

「三尉!!」  

小銃を構えつつ陸曹が叫ぶ。  
だが、彼が異変に気づいた頃には、後頭部を殴打されていた。  
無論、静かにその場に倒れこむ。  

「三曹殿!」「狙って撃て!」「狙うって何処に!!うわぁ!」  

慌てふためく陸士長に、若い一等陸士が答えようとした途端、彼も大空の住人になっていた。  

「畜生!」  

見えない目標、やられる仲間。  
残された彼らが発砲しない理由はなかった。  

PAPAPAPAPAN!!!  
    
銃声とマズルフラッシュ。  
急激に明るくなった森の中で彼らが見たのは、数十人の。  

「エルフだ!!!」  



西暦2020年8月1日  10:47  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地  

「定時報告に応答がない?」  

ようやくの事先月分の書類を始末し終えた佐藤は、浴場の中でその最悪な報告を聞いた。  

「おいおい待ってくれよ。三尉たちはアレでもレンジャーを多く入れた実戦経験豊富な連中だぞ・・・  
それが全滅したっていうのか!」  

慌てて立ち上がった彼だったが、二曹に容赦のない蹴りを受けてそのまま浴槽の中へと倒れこむ。  

「まだわかりませんが、何かが起きた事は確かです。  
救援はヘリで出しますか?」  
「車輌だ。それと司令部に報告する。上がるから出ろ」  
「はっ、失礼します」  

敬礼して立ち去る二曹を睨みつつ、佐藤は司令部に要請すべき事柄を脳内でまとめていた。  

「偵察行動中の友軍と通信が途絶えました。  
こちらからの呼び出しにも応じません」  

挨拶もそこそこに、佐藤は素直に現状を報告した。  
  
<それは厄介な話だな、どうする?>  
「我々は直ちに救援部隊を出します。  
第三基地に航空偵察と救難ヘリの手配をお願いします」  
<わかった、直ぐに出ろ、オワリ>  

極めて短いやりとりが交わされ、佐藤たちは移動を開始した。  
偵察警戒車を先頭に、戦闘装甲車や装輪装甲車が次々と城を出陣する。  
城壁のあちこちに増員された隊員が立ち並び、街は騒然となった。    



西暦2020年8月1日  10:50  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  

「三尉、起きてらっしゃいますか?」  

足首を押さえて眠るという器用な姿勢の三尉に、陸曹が恐る恐る声をかけた。  

「なん、とかな。全員無事か?」  
「そのようです。数名が打撲を負っています。自分もです」  
「奇襲をかけて一人も殺さないとは、随分と甘い連中だな」  

小声で二人は会話を続ける。  
小さな洞窟の中に作られたらしいこの牢獄は、呆れるほどに頑丈そうな木の檻によって蓋をされていた。  

「敵は?」  
「少なくとも小隊規模以上、エルフですよ連中」  

その言葉に、三尉の顔はドス黒くなる。  
エルフ、卑劣な方法で部下を殺した害獣ども。  
絶滅させねばならない人類の敵。  

「武器は?」  
「奪われました、通信機もです」  
「畜生め」  

忌々しそうに三尉が呟いたところで、檻の方が賑やかになった。  

「なんだ?」  
「その、三尉殿」  
「?」  
「見ても、驚かないでくださいね」  
「エルフなんぞ見慣れているよ。ああ、生きているのは久しぶりかもしれんがね」  

痛む足をかばいつつ立ち上がった彼は、檻の向こうに立っている人物を見て絶句した。  
相手は、視線に困る格好をしていた。  



「陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯部隊第3普通科小隊指揮官の原田政義三等陸尉。以上」  
「他に言う事があるだろう!!」  

三尉の絶句から約二時間が経過している。  
今のところ、その間に交わされたやりとりは以上である。  
  
「貴様ぁ!我々を舐めているなぁ!」  
「別に」  

実に二時間ぶりに、三尉は別の言葉を発した。  
もちろん相手は激怒した。  

「き、きさまぁ!そのでかいだけの図体の上にある首を切り落とすぞ!!」  
「やれば?」  

三尉はとうの昔に生存を諦めていた。  
自分たちは、あのエルフに捕まってしまったのだ。  
生還など、望むだけ無駄である。  

「チッ」  

だが、相手はそれ以上挑発には乗らず、舌打ちをして椅子に座る。  
ちなみに、三尉は周囲から剣を突きつけられて立っている。  
そのような状況下でも、三尉は冷静に事態の把握に努めていた。  
相手は目の前の女を入れて五人。  
全員が武装しており、適度な間隔を保っている。  
大暴れしたところで、誰かにブスリとやられておしまいだろう。  

「気味の悪い目で見るなっ!そのニヤニヤ笑いを止めろ!!」  

周囲を探る三尉の視線に、目の前の女が怒鳴る。  
年は、外見上は17か8、いい筋肉をしているな。  
特にふくらはぎの締まり方が凄い。  
相手の外見は、非常に見やすかった。  
夏祭りの資料映像に出てくる、さらしを巻き、ふんどしをした若い男性を思い浮かべて欲しい。  
その中身を金髪の若い女性にすれば、三尉の視界が容易に再現できる。  
もちろんの事、エルフらしく素晴らしい美人である。  
その美人でスタイルの良い女が、さらしとふんどしスタイルのまま軍曹語録を発している。  
ニヤニヤしないわけがないだろう。と、三尉は内心で呟いた。  

「陸上ナントカというご大層な名前はいい!  
貴様らはグレザール帝国軍に決まっている!目的は何だ!また我々の仲間に手を出すつもりか!!」  
「隊長!こいつらの首を刎ねて、さらし者にしてやりましょう!」  
「シンディもルーシアも、こいつらに連れて行かれたんですよ!!」  

周囲の女エルフどもが五月蝿いな。  
しかし、連中と俺たちでは外見があまりにも違うだろうに、全くエルフの連中は愚かで困るな。  
視界の端に、集められた装具がある。  
装填されたままの小銃、少なくとも外見上は壊れていない通信機、無造作に置かれた手榴弾。  
自爆テロも悪くはないが、通信機を送信したままにするか。  
  
「自爆てろ?なんだそれは!」  

いかんいかん、口に出していたか。  

「答えろ!つーしんきとはなんだ!」  

だまってりゃあわからんだろう。  
しかし、考えを口に出してしまう癖は治さないとな。  

「答えなし!?じゃあなんだ!今喋ったのは魔女のバァさんか!?」  

しかしマニアックなネタを知っているな。  
ニヤけそうになる自分を必死に抑えつつ、三尉は目の保養を続けた。

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