自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年3月10日  21:40  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第二基地  

それから一週間をかけ、第一駐屯地はその全てをこの石油採掘拠点へと移動させた。  
ダークエルフたちも、民間人たちも異論はなかった。  
住み慣れた土地を捨てるのは悲しかったが、佐藤たちがそのまま採掘拠点に駐屯する事になったため、生存のために移住を決意したのだ。  
あちこちにドワーフが製作した水晶球が設置されたその拠点は、それ以後一度も奇襲を受けることはなかった。  
  
「周辺に異常はありません」  
「地上レーダーと装甲車輌の巡回、精霊石だったか?とにかくそれらを駆使して監視しているんだ、異常があってたまるか」  

綺麗に積み重ねられた書類の山と格闘しつつ、佐藤は忌々しそうに答えた。  
ちなみに、その高さはおよそ2m。  
一体どれほどの枚数なのか考えたくもない。  

「だいたい、前任者は何をやっていたんだ!こんなに書類を溜めやがって」  
「前任者もその前の方も殉職されております。  
生前は度重なる襲撃のために書類整理どころではなかったようです」  
「知ってるよ、言ってみただけだ」  

冷静に返してくる三曹に答えつつ、彼は書類仕事を続けた。  
畜生、折角第二基地の司令官代行になったというのに、これじゃあただの事務員と違わないじゃないか!  
ここ三日間ほどひたすらに書類仕事をしている彼のストレスは、限界に達しようとしていた。  
一度も停止せずに動き続けているPCの傍らに座った備品の精霊も疲れた表情を浮かべている。  
ちなみに、小銃などの火器だけではなく、電子機器や冷暖房設備にすら精霊が宿っている事がわかったのはここ数日のことだった。  
第一基地の知り合いにそれとなく尋ねたところ、可哀想な者を見る目をされた事から考えると、自分たちだけに起こっている現象らしい。  
ただでさえ上層部に嫌われているらしいのに、同期たちに狂ったとまで思われたのでは、俺の人生はおしまいだな。  

「それで一尉」  
「なんだ?」  

キーボードを叩く手を止めて、佐藤は三曹を見た。  

「この間の戦争の前に起きた同時多発襲撃ですが、やはりエルフが絡んでいたようです」  
「エルフが?連中とは手打ちは済んでいるだろう」  
「今来た情報によると、どうやら第三氏族が派手に動いているそうで」  

そこまで言うと、三曹はFAXで送られてきたばかりの書類を手渡した。  
二日に一度、大陸派遣隊の幹部宛に送られている国内情勢をまとめた報告書である。  
見ると、連合王国残党と交戦を行い、そこで捕らえた捕虜から得られた情報らしい。  
同時多発襲撃は第三氏族からの強い要請によるもので、そこで発生した損害が、首都の早期占領の遠因らしい。  
さらに、定期的に勃発する敵の組織的抵抗は、やはり第三氏族の手引きが合ったらしい。  
具体的にはこの世界で最も権威のある『精霊教』、エルフの教えを唯一のルールとする宗教団体が徹底抗戦を唱えているらしい。  

「やっかいじゃないか、ええ?俺たちは自動小銃の前に鎌や鍬を持って飛び出してくる狂信者相手に戦争しなきゃいかんのか」  
「実に厄介です。ドワーフやダークエルフがこちらについているのが唯一の慰めですが」  
「まあ、連中の戦争指揮はお粗末の一言だから、それも慰めにはなるわな」  

延々と続いてきた同族殺しの歴史は伊達ではなく、装備だけは一流と称される自衛隊ですら、この世界では全知全能の集団だった。  
もとより技術力の違いというアドバンテージはあるが、それ以外の面でも自衛隊はこの世界を圧倒していた。  
戦略・作戦・戦術といった概念や、情報を要素の一つとして考える事などである。  

「国内では普通科の大増員を行い、とにかく頭数だけでも揃えようとしているみたいですね」  
「ありがたい事だが、物資の方は大丈夫なのかね?」  
「それは自分が考える事ではありませんが、どうやらそれにも案があるようですね」  


石油と食料に関しては、それなりに目処が立つようになっていた日本だったが、もちろんその二つだけでなんとかなるわけがない。  
そこで救国防衛会議は、旧連合王国領内の死火山付近に食料と鉱物資源獲得のための新拠点を建設していた。  
これは陸空の軍事基地に加え、肥沃な大地に広がる農場、周辺の山系に設置した鉱山などをまとめて作り、防衛の手間を省こうというものだった。  
第一基地は漁業の拠点、そしてこの大陸の中枢として。  
第二基地は石油採掘拠点、そして資源探査の拠点として。  
新設予定の第三基地は、鉱物資源および農業の拠点とする。  
それなりに筋が通ったプランではある。  
一つ一つの拠点を巨大化させることにより、インフラの最低限の建設、戦力の集中の達成など、物事の原則に合致している。  
このプランに問題があるとすれば、それはこの世界には人間の尺度では測りかねない神秘が実在していたという事だろう。  
第三基地建設部隊が大規模な損害を受けたのは、翌朝の事だった。  



西暦2020年3月11日  11:00  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

「とにかく対空部隊の展開を急がないと!」  
「いや、それよりも空自の進出を!」  
「時間がかかりすぎる!まずは民間人の避難から始めないと!!」  
「海まで誘引し、我々海自の」  
「「これは大陸上での問題だ!!」」  

ここぞとばかりに発言した海自幹部に、陸自と空自の幹部が目の色を変えて反論する。  
将来的には全てのシーレーンを護る事になる海自は、未来の肥大化が既に決定されていた。  
大陸の情勢が落ち着けば全てを持っていかれる事がわかっている陸自と、恐らく現状維持で終わってしまう空自の反発は当然だった。  
点数を稼げる今こそ、出来うる限りの戦果を上げておく必要がある。  
陸空の幹部の頭の中にあるのはそれだった。  
もちろん、数百キロも敵を誘引するなどという事が不可能であるという事もある。  
という状況はさておき、救国防衛会議は混乱していた。  
敵の襲撃と損害はいつもの事だったが、今回の出来事はそれでは済まされない。  
何しろ、第三基地建設が遅延すれば、それは将来の食糧危機に直結するのだ。  
おまけに護衛の部隊が壊滅した事により、現地にはJAに無理を言って出させた第一次、第二次調査団が取り残されている。  
これが壊滅するようなことになれば、食料危機だけではなく、救国防衛会議のメンツは丸つぶれになる。  

「で、敵は結局なんなんだ?」  

疲れた表情の統幕長が尋ねる。  
ここの所国内情勢の安定に全力を注いでいた彼は、疲れていた。  
敵軍に対しては命令を下し、責任と名誉を引き受ければいいだけの彼だったが、国内の場合には、北海道から沖縄までを行脚する必要があるからだ。  

「巨大な飛翔生物、簡単に言えば、ドラゴンです」  
「どらごん?我が自衛隊は巨大なトカゲにも勝てんのか?」  
「自衛隊員たちは精一杯やっております」  

不思議そうに尋ねた統幕長に、陸将が悔しそうな表情を浮かべて答えた。  

「時速数百キロで飛び回り、炎を吐き、さらに数百体もいるトカゲです。  
私の部下たちは、全滅と引き換えに十数体を撃退しています!」  
「みなさん落ち着いて」  

陸将がヒートアップしかけたところで、鈴木が口を挟んだ。  

「もちろん自衛隊が本気を出せば、陸海空どこでも敵を撃退できる事はわかりきっています。  
大切なのは、今、取り残されている民間人をどうするのか?  
そして計画の遅延をどうするのかですよね?」  

鈴木の一言は、怒鳴り声よりもよほど全員の頭に響いた。  
壊滅した自衛隊、その横で震える民間人たち。  
だが、彼らを働かせねば、日本が危機に晒される。  

「そうだったな。  
現地から何か情報は入っていないのか?」  
「情報本部では未だ、現地での組織的活動を開始出来ておりません。  
が、今回の件に関しては民間伝承なども含めて直ちに調査を開始します」  
「陸上自衛隊としては、本土に展開している対空部隊を直ちに現地に派遣したいと考えております。  
その際には」  
「わかっております。海上自衛隊は一部輸送業務を停止してでも最優先でそれを送り届けます」  
「国土交通省としては、民間船舶の徴用に応じる事が可能ですよ」  
「協力に感謝します」  

次々と活動方針が示される中、空将だけが沈黙を守っていた。  
もちろん手がないのではなく、どの手を打とうかと考えているのだ。  

「滑走路の構築を急がせる事は可能ですか?」  

唐突に彼は口を開き、国土交通省の男に尋ねた。  

「できます」  

回答を聞いた彼は、思考をまとめ、口を開いた。  

「百里の航空隊から一個中隊を派遣します。  
もちろんペトリオット部隊も。  
陸自さんの高射部隊と共同で、防空網の構築を急がせます」  

方針は即決され、防空網完成までに現地を支える護衛の選定が始まった。  
まあ、その答は決まっていたのだが。    



西暦2020年3月19日  10:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地建設予定地  第一基地から300km  

「俺、除隊して親父の会社を継ごうと思ってるんだ」  
「なに死亡フラグ立ててるんですか?」  

寂しそうに呟いた佐藤に、三曹が冷たく突っ込んだ。  
彼らは今、本土どころか第二基地からですら遠くはなれた場所にいた。  
大陸派遣隊第三基地建設予定地。  
焼け焦げた残骸と、物陰に隠れる民間人たちのいる、陰気な土地だった。  

「ボクが、ボクが第二基地を一番うまく使えるんだ」  

転戦を余儀なくされている佐藤は、ちょっと欝気味になっていた。  
無理もないか。  
殴りつつ、三曹は思った。  
部下たちも口には出していないが、きっと言葉では言い表せない、『倦怠感』みたいなものを感じていると思う。  

「ぶったね!父さんにもぶたれた事・・いや、あるな」  

地面に転がり、一人突っ込みをしている佐藤を無視し、三曹は周囲の地形を観察した。  
遠くに広がる山々、澄んだ青空、調査では肥沃らしい平坦な大地。  
今すぐ塹壕に飛び込みたくなるような地形である。  

「一尉、仕事を始めましょう」  
「そうだな。施設は直ちに対空陣地の設営を。  
残りは塹壕だ。民間人の代表と現地部隊の生存者を連れて来い。  
対空警戒を怠るな、鳥でもなんでもいい、雲以外の何かを見つけたら直ぐに報告しろ」  
「はっ、高射は到着が遅れるとの報告が入っています」  
「なんでもいいから急げと伝えろ。  
早く来ないと死体収容以外の仕事がなくなるぞ、とな」  
「了解しました」  

頭上から轟音が聞こえる。  
慌てて小銃を手に隊員たちが展開を始める。  
それがジェットエンジンの立てる轟音である事を理解している数名だけが頼もしそうな表情で空を見上げている。  

「空自より連絡、頭上を飛行しているのは友軍航空機、頭上を飛行しているのは友軍航空機」  
「対空レーダーの設置を急がんと、味方に弾幕を張ってしまうぞ」  
「最優先で急がせます」  


高射部隊を展開し、頭上には航空自衛隊の防空部隊を展開する。  
万が一の地上部隊の侵攻には、陸上自衛隊の一個普通科中隊でこれに対処する。  
基地建設が終了した後には、今後の展開を考え収容機能限界までの部隊を配備する。  
救国防衛会議の決定は、手堅いものだった。  
自衛隊の実力を知る連合王国ならば、これに手向かう事はないだろう。  
何しろ、現時点ですら相当な大軍を持ってして初めて勝利の可能性が出てくるほどの防備である。  
限定攻勢を行ったとして、その結果は酷く不経済なものになる。  
一度か二度、戦闘を行えば、手出しは控えるであろう。  
彼らは理解していなかった。  
確かに、連合王国には第101竜騎士戦隊という航空部隊があった。  
だが、それは既に壊滅し、戦力を喪失していたのだ。  
ここに攻撃を加えたのは、周辺山系に住むスカイドラゴンと、休火山を縄張りにしているファイヤードラゴンの集団だったのだ。  
野生生物の集団に、戦略という概念も経済という考え方もあるわけがなかった。  
そして襲撃は行われた。  

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