自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

008 第7話 ルーズベルトの決断

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第7話 ルーズベルトの決断

1481年11月14日 カリフォルニア州ロサンゼルス 午前10時

ロサンゼルスは、相変わらず活気に満ちている。
それぞれの人が、会社や工場に行って、いつもの課業に精を出している。
今日が仕事の日であれば、課業が休みの日の者もいる。

「今日が休みで、明日は半ドン。そして翌日休みか。ラッキーやっさ。」

歩道を歩きながら、カズヒロ・シマブクロはニヤリと笑いながらそう呟いた。
カズヒロは今年の12月で19歳になる。
普段はガソリンスタンドのアルバイトをしているが、ここ1週間ほどはずっと出勤だった。
丸々1週間も働いていたが、普通の休みだけでは気の毒だと思った店長が、特別に金曜日を休みにしてくれた。
カズヒロは、一旦は普通の休みで言いと断ったが、そのままではしめしがつかないと言われ、強引に休まされた。

「まっ、今日は1週間ぶりに空手に行けるから、久しぶりにケンショウの奴と組手でもするか。」

そう言って、彼はポケットをまさぐる。財布にはまだいくらか金が残っている。

「角のエンダーでもよって、ジュースでも飲もう。」

カズヒロはなまりのある口調でそう言うと、少しばかり足を速めた。
彼は日系アメリカ人で、2世にあたる。両親は日本の沖縄県から、このカリフォルニアに移民してきた。
身長は168センチほどと、高くは無いが肩幅は広く、体つきはがっしりとまではいかぬが、そこそこ鍛えられている。
肌は少し浅黒い。
彼はガソリンスタンドでバイトをしている傍ら、夜は空手道場に通って稽古に励んでいる。

稽古日は月曜と火曜、木曜と金曜日の週4回で、午後8時から11時までが稽古時間だ。
空手をやって6年になるが、カズヒロは空手2段の腕前であり、道場では中堅の部類に入る。
角を曲がると、いつも通うファーストフード店のエーアンドダブリューが間近に見えた。
そして、意外な者も見えた。

「おお、ケンショウじゃないか。なんでここにいるば?」
「・・・!」

なぜかケンショウと呼ばれた男は、カズヒロを見るなり驚いて一歩後退した。誰が見てもわざとらしい。

「そんな訳の分からん行動しなくていいから」

「・・・・何奴!」

なぜか真剣な表情でそう言ってきた。

「フラーか。そんな大げさに驚かんでもいいんじゃないかね?」
「お前との遭遇はいつも驚きだよ。」
「ハイハイ、やーといるといつもこうだな。まあ、それがお前の面白いところだけど。」
「ああ、そうか。やっとお前も俺の素晴らしさが」
「訳の分からん行動さえしなければやーは素晴らしいよ。」

そう言って、カズヒロは言葉を遮った。
このケンショウという男とは中学時代からの付き合いだ。
身長は同じぐらいで、体つきは痩せ型だ。眼は鋭く、睨まれたら少々おっかない。
普段は冷静沈着で、空手道場では優秀な門下生として知られている。
外見から見れば、冷たい感じのする男だ。

だが、なぜかこの男は、カズヒロなどの親しい友人や知り合いには、わざとギャグっぽい動きや発言で
相手を戸惑わせている。
本来はかなり明るい性格で、こうして友人達を笑わせている。
カズヒロら、沖縄系日系人はいつも、沖縄方言の混じった日本語で話している。(話さない人も多数いる)

「いつもの挨拶はこれでいいとして、やーも今日は休みか?」
「ああ、そうだよ。飲食店のバイトは金曜日とか、水曜日が休みなわけさ。」
「なるほど。あっ、そうだ。エンダー行かんか?今からルートビアでも飲もうかなと思ってたんだ。」
「そうだや。色々話しながら、時間でも潰すか。」

そう言って、2人はファーストフード店に向かった。

「カズヒロ、お前が海軍航空隊に入ろうとしていると友達から聞いたんだけど、本当な?」
「本当だよ。」

カズヒロは躊躇わずに頷いた。

「元々、俺は飛行機に乗りたいし、船にも乗ってウミンチュにもなろうかな~て思ってたわけさ。
そこで見つけたのが、海軍兵募集のポスターだよ。」
「飛行機か。危なくないか?」
「危ないかも知れんけど、注意しながら乗れば大丈夫なんじゃないか?」

2人は雑談を交わしながらファーストフード店に入った。時間は午前10時を回ろうとしている。
店に入ると、客が何かに耳を傾けて、誰もが小声で話している。
店内にはラジオの音が聞こえるのみだ。

「何か?葬式でもあったか?」

カズヒロは思わずそう呟いた。
その時、いつも顔見知りの白人店員が現れた。

「よう、カズヒロ。」
「やあスタン。いつも賑わっている店が図書館みたいに静かになってるけど、どうしたんだ?」

彼は英語で質問した。

「これからラジオで重大放送をやるらしいんだよ。」
「重大放送?」
「お前、新聞見たか?」

ケンショウが聞いた。カズヒロは首を横に振る。

「今日は見るの忘れたな。」
「なんか、大統領が重大放送をやるみたいだ。
2時に生放送するらしくて、こっちでは時差の関係から、10時に放送をやるらしい。」

その時、ラジオからアナウンサーの声が聞こえてきた。店内の客は、ひそひそ話しを止めて耳を傾けた。

午後2時 ワシントンDC国会議事堂

拍手と共に、ルーズベルト大統領が、目の前に集められるだけ掻き集めたと言わんばかりの
マイクの群れに向かって、原稿を読み始めた。

「今日、私は国民の皆に、重大な事を伝える。」

その一言で、議場の拍手が鳴り止んだ。

「去る11月4日。シホールアンル帝国と言う国の国外相が、あまりにも高慢で、稚拙な外交交渉を行った事は
既にご存知であろう。あの交渉依頼、未知の国シホールアンルは、我が合衆国に対し、何ら行動を起こさなかった。
私は、シホールアンル帝国のフレル国外相がこの国を去った時、シホールアンルがアメリカ合衆国を諦めてくれた
と思った。事実、あの交渉依頼、わが国とシホールアンルは何ら事を起こさなかった。私は思った。
平和を願う思いが、あの高慢ちきな交渉を白紙に戻し、シホールアンルが我が国から目を遠ざけてくれたと。」

ルーズベルトは一旦言葉を切った。
議場はしーんと静まり返っている。
誰もが次の言葉を早く言ってくれ、と思っているような目つきでルーズベルトを見つめている。
7秒ほど経って、ルーズベルト大統領は言葉を続けた。

「だが、シホールアンル帝国は諦めていなかったのだ!
シホールアンルは、あの交渉で言った通り、我が合衆国を荒廃させる事も辞さなかったのだ。
何事も無く過ぎ去った平和の時間は、12日、唐突に破られた!12日、偵察行動に出ていた大西洋艦隊の第23任務部隊は、
突然シホールアンル帝国所属の艦隊と遭遇し、相手側は通り過ぎると見せかけて、いきなり砲撃してきたのだ!
シホールアンルは、右手でわが国には無関心を示したと勘ぐらせながら、左手で第23任務部隊を不意討ちしたのである!
その為、第23任務部隊は駆逐艦2隻を失い、空母、巡洋艦などの艦艇が無視しえぬ打撃を被り、少なからぬ人員を失ってしまった。
シホールアンル帝国は、今も虎視眈々と、侵攻中の南大陸と、このアメリカ合衆国を狙っているに違いない。
自由の道を歩もうとした英気ある人々の全てを踏みにじり、世界を自分達のみの者に作り変えようとしている!
このような国に、再び交渉のテーブルに付かせたいと、諸君達は思うか?」

ルーズベルトは問うた。議員達のみならず、全アメリカ国民に。議員達、ラジオの前の国民答えは、否であった。

「そう、否だ!交渉のテーブルに付いた所で、シホールアンルが要求してくるのは、屈服か?絶滅か?
その選択肢しか用意しない!ならば我々も、古来から取られてきた選択肢を取ろう。そう、戦争だ。相手がそれを望むのならば、
我々は受けて立つまで!!」

ルーズベルトの声音は、次第に上がってきた。

「私は決意した!それは、シホールアンルに宣戦布告するしかないということだ!諸君!我々が愛した祖国を、
戦争にへと引きずり込んだ私を、どうかゆるしたまえ。だが、黙っていては、自ら破滅を呼ぶようなものだ!
正義は我々にある!戦争となれば、様々な困難が立ちはだかるに違いない。だが私は、誇りある合衆国国民が、
今直面している現状に打ち勝つものと信じている!」

ルーズベルトは、振り上げた拳を自分の胸元に引き寄せた。

「私は、世界を染め行くであろうシホールアンルの暴挙を止めるべく、議会に宣戦布告の是非を問うてみる!」
ルーズベルト大統領の言葉に、誰もが電撃に貫かれたような感覚に陥った。
そして、その後に巨大な歓声がどっと沸き上がった。

国会議事堂に設けられた来客用の席で、バルランドから来た7人の特使達は、熱狂に包まれる議員達を見てやや驚いていた。

「お前達。よく見ておけ。」

特使のリーダーであるレイニーは、皆の脳裏に刻み込むように言った。

「これは、歴史が動いた瞬間だ。その動いた歴史の中に、俺達もいる。」
「歴史・・・・か。」

ラウスは抑揚の無い口調で呟いた。議場の騒ぎは静まりを見せ始め、やがて、何かを討議し始めた。

「この国の取るべき道は、もはや決まったも同然ね。」

ラウスの隣に座っているエルフが確信したように言う。

「ルィール。あんたも思うか?」
「当然。大統領の口調からして、この国は明らかに戦争を始めようとしている。
この国の政治は、主にこの議場で政策の是非が行われているみたいだけど、今日はスムーズに議題は纏まるかもね。」
「そりゃあそうだろ。」

ラウスは周囲を見回した
。席に座っている議員達の目は、どれもこれも怒りに満ちている。
その心情は、詳しく知ることはできない。だが、こう思っている事は確かだろう。
(不埒な行動をしでかしたシホールアンルを叩き潰す)と。

「こんなもん、始まる前に答えが出ているようなものさ。」

そう言って、ラウスは大きく欠伸をかいた。

「簡単に言えばこうだろ。何かの扉、それもとんでもない者の住む家の扉を、強引に蹴り倒した。
そう、モンスターが住む家の扉を。」
「モンスターね。納得。」

ルィールは納得したように頷いた。
いきなり議員達が立ち上がった。席についているスーツ姿の者達は、全員が立っている。

「ラウス、君の言うとおりだな。」

レイニーが苦笑しながら呟いた。

この日、アメリカ合衆国議会は、シホールアンル帝国の宣戦布告の採決を、下院両方が、全会一致で可決した。

歯車はまた1つ、動き始めた。



1481年11月15日 ワシントンDC
日本大使館公邸で新聞を読んでいた野村吉三郎大使は、最初の記事を読み終えると、
一緒にコーヒーを飲んでいた、海軍武官の黒島亀人大佐に渡した。

「見たまえ。アメリカは憤激している。」
「はっ。」

黒島大佐は軽く頷いて、ワシントンポスト紙の朝刊を眺めた。
朝刊の見出しには、合衆国政府、シホールアンル帝国との宣戦布告を決定!と大きく載せられており、
写真には、議場に陣取るルーズベルト大統領が、何かを言いながら左の拳を振り上げる姿が載せられていた。

「シホールアンル帝国とやらは、アメリカの逆鱗に触れてしまいましたな。いきなり不意討ちを食らわせるとは。」
「シホールアンルとやらの住人は知らんのだろう。戦争前に宣戦布告をしてから始めると言う事を。
むしろ、この世界では宣戦布告なぞあって無い様な物かもしれん。」

野村大使は、メガネを取って目を揉んだ。
黒島大佐は、野村大使がここ1ヶ月ちょっとで10歳は老けたように見えた。

「だが、アメリカの国民たちはそんなものを知らない。フェアプレイを重んじる彼らを、怒り出すとどう反応するか。
シホールアンルはあまりにも知らなさ過ぎた。」

「かつての第1次大戦でさえ、それまで中立を守っていたアメリカは一旦怒り出すと、強力な軍事力、
経済力を振り回して、連合国を後押ししましたからな。」
「うむ。」

野村大使は頷いた。
黒島大佐は、1939年の10月から連合艦隊主席参謀として山本五十六の下でソ連軍と戦っていた。
彼の別名は変人参謀であり、リベラルを重んじる日本海軍としては異色だった。
旗艦長門の艦上を褌1つで歩き回ったり、作戦を考える際には自室にこもってただひたすら考えにふけったりなど、
彼の変人ぶりは海軍中に知られている。
今年の8月に、結核を患って主席参謀のポストから降ろされ、9月15日に駐米日本大使館の海軍武官に任じられ、
10月の初旬にワシントンに赴任してきた。
転移の後、しばらくショックで寝込んでいた海軍武官とは、この黒島大佐である。

「正直、転移したとはいえ、アメリカと事を構えずにすんで良かったと、私は思いますな。」
「君がそう言うとは、私は驚きだな。」

野村はいささか驚いたような口調で言う。

「今思えば、山本長官が考えていたあの作戦も、少しばかりの時間稼ぎにしかならなかったでしょう。
ハワイを叩いた所で、アメリカの大攻勢の実施を遠ざけたかに過ぎませんから。」
「そうかな?私としては、ハワイ奇襲攻撃は意表をついた作戦だし、アメリカ人に日本人はここまでやれるのかと、
脳裏に刻み込めるチャンスだと思ったが。」
「山本長官は、常に相手の先手、先手を打ってたじろがせ、然るべき時に講和に持っていくと言っておられました。
ですが、それもソ連のせいで無くなってしまいましたが。」
「日本にとっては、不幸であると同時に、ちょうど良い呼び水になったかもしれん。満州や樺太沖、
日本海で散った同胞には甚だ不謹慎だがね。」

そう呟いた時、野村の脳裏にある光景がよぎった。
山本五十六が考案した真珠湾奇襲が実行され、真珠湾が空母の艦載機によって嬲り者にされていく。
しかし、その攻撃前に渡される予定だった宣戦布告文は、大使館員のミスで送れ、予定自国を過ぎた時間にハルに渡される。
ハルは野村を詰る。
そして、議会ではルーズベルトが演説を行い、アメリカ中が「ジャップを叩き潰せ!」の声で染まっていく・・・・・・

「野村大使、どうかされましたか?」

黒島大佐が聞いてきた。野村大使は唐突に思考をやめ、黒島大佐に向き直った。

「お暑いのですか?汗をかかれてますが。」
「いや、何でもないよ。」

野村大使はハンカチで汗を拭った。
先ほどの嫌に現実感のあった光景は恐ろしい物だった。運命の歯車が狂っていたら・・・・・・
(いや、そんな事はあり得ぬ。もはや、起こりえぬ事だ)
野村大使は、嫌な雑念を振り払った。

「これから、アメリカはどうなるんでしょうなあ。」
「戦争は、十中の十間違いないだろう。それに、アメリカが戦争を望まなくても、シホールアンルが攻め入ってくる可能性が高い。不意討ちとは言え、米艦隊を叩けるだけの海軍力を持つ国だ。アメリカにとっても、シホールアンル帝国との戦争はそう簡単にいくものではないだろう。」
「とは言え、我々は何もできませんな。」
「終わるのを、待つしかあるまい。それが、今の我々ができる事だ。」
野村大使は深くため息をついた。
野村大使は、テーブルに置かれた新聞に目をやった。ルーズベルト大統領の写真の他に、宣戦布告を支持する
ニューヨーク市民の写真も写っている。
集団で行進するニューヨーク市民は、降りかかる危機を払いのけろと書かれたプラカードを掲げていた。

「シホールアンルは、眠れる獅子を叩き起こしてしまった。」

1481年11月15日 ラウスの日記

俺は今日、アメリカ人というものが、どんな人達なのか、少し分かったような気がする。
あれほど、アメリカという国が怒り一色に染まるとは夢にも思っていなかった。
普段、考えるのがめんどくさいからあまり思わないんだけど、元々、俺たちの世界では不意討ちで開戦なんて、
しばしばある事だった。
最初はかなり怒ったようだけど、シホールアンルがやたら滅多に使うもんだから、宣戦布告なんて
開戦後の行事だなあとしか思ってなかった。
俺が、他の仲間達とこのアメリカに来た時、アメリカ人は自由で気ままな生活を送ってて、結構いいなと思ってた。
アメリカの市民達は、喜怒哀楽な表情を浮かべて、戦争なんて関係ないって顔をしていた
戦争やっている俺達バルランドやシホールアンルが馬鹿だなと思った。
でも、あの日から、この国は変わってしまった。
誰もがシホールアンル憎しとか、シホット共をぶちのめせとか言っている。
俺達はあの事件がおきた翌日に、アメリカ北部のデトロイトというとこに言ったけど、何もかもが常軌を逸している。
煙突だけで土地が埋まってるんじゃないか?と思うほど、工場がわんさかあった。
アメリカは、元いた世界でも世界一の工業力らしい。
経済力や軍事力でも他国より一段上だったと言うから、それを支えるモノも段違いと言うわけだ。
その膨大な力が、シホールアンルが手を下した事によって、別の所、軍事に向けられるのは確実だろうな。
結論から言って、シホールアンルはアメリカを知らなさ過ぎたばかりに、彼らの怒りの矛先を自分のもとに向けさせてしまった。
あの強力な軍艦の山が、シホールアンルの沖に現れるのはいつになるか判然としないけど、それを免れる方法は、
彼らには恐らく無いのかも知れない。

1481年11月17日 シホールアンル帝国首都ウェルバンル
「空母1隻に護衛艦艇2隻撃沈、3隻撃破か。それに引き換え、巡洋艦2隻と駆逐艦2隻を撃沈か。
目的のモンは沈めたとは言え、ちょっとやられすぎじゃないのかな?」

玉座に座って、報告書を読んでいたオールフェス・レリスレイ皇帝は、海軍総司令官に嫌味のこもった口調で質問した。

「敵の護衛艦艇が少々強すぎました。特に、大砲を15門積んだ巡洋艦は強力で、最新鋭艦であるルオグレイ級巡洋艦を
2分足らずで沈黙させました。陛下、あのアメリカという国は侮れません。空母を1隻沈めたとは言え、まだ2隻残っています。」
「こっちは7隻。まとめてかかりゃあ必ず沈められるさ。予備も今作ってるんだから、1、2隻沈んだって予想内さ。」

オールフェスはひょうひょうとした口調で、海軍総司令官の忠告を受け流す。

「まっ、これで南大陸の制圧は少し遅れるかもしれないな。
でも、遅れるとは言っても、南大陸とでっかいおまけが付いてくるから、損は無いな。」

彼は微笑む。

「さて、そのアメリカ様が怒り狂って突っかかる前に、南大陸の仕事をやりやすくしようか。海軍総司令官。」
「はい。現在、海軍では戦艦5隻を有する第6艦隊で、バルランドの東にある国、レースベルン公国沿岸を砲撃します。
この攻撃の際、敵のワイバーンの襲撃が予想されるので、艦隊の後方にヘルクレンス少将指揮下の第22竜母機動艦隊を置き、
艦載ワイバーンで上空援護に当たらせます。」
「成功しそうか?」
「勿論成功します。」

海軍総司令官は胸を張って答えた。彼が自信を持つのも当然である。
海軍は、これまでに南大陸軍相手に巡洋艦1隻に駆逐艦5隻を失っているが、敵に与えた被害は何倍、何十倍のものだ。
常に戦いに勝利しているシホールアンル海軍は、まさに無敵だった。
アメリカ海軍の空母部隊攻撃ではミソを付けられたが、それでも空母を撃沈して勝利している。
これから未知の国、アメリカと戦うのだから、この敵空母撃沈は幸先が言いと、誰もが思っている。

「作戦は12月の7日に開始予定です。その間、3日ほどの航海を経て、レースベルンに殴り込みをかけます。」
「この作戦は、南大陸連合軍の士気を崩すにも重大な作戦だ。思う存分暴れてくれと、第6艦隊の司令官に伝えてくれ。」

オールフェスは海軍総司令官に対して、自らも自信に満ちた表情で言った。

「それに、ワイバーンぐらいの爆弾じゃ、戦艦の装甲は貫けないし、当たり所が悪かったらおっかねえが、
それを除けばかなり楽な任務だ。気楽にやってくれとも伝えてくれ。」
「分かりました。陛下の言葉に、艦隊の将兵も喜ぶ事でしょう。」

海軍総司令官は、うやうやしく頭を下げた。その時、1人の近衛士官が会議室に入って来た。
それを、臨席していた国外相フレルに手渡した。フレルは頷くと、オールフェスの元に歩み寄った。

「どうしたフレル?」
「これを。南大陸の奴らが送ってきた魔法通信です。」
「何だ?また挑発文か。」

オールフェスは気にも留めない表情で、一応文面を確かめた。

「11月14日を持って、わがアメリカ合衆国は、貴国に対して宣戦布告を行う」

そっけない文面が、ただ一行書いてあるだけだったが、それは明らかに、アメリカ側の宣戦布告文だった。

「南大陸もそうだが、レーフェイルのマオンド共和国にも、手柄を分けてやろう。そうすれば、時間の消費も短くなる。」
「陛下、ではマオンドにも協力要請を?」
「そうだ。こっち側に送る予定だった援軍を使って、アメリカさん相手に派手にやってくれと伝えてくれ。
ふぅ、これから忙しくなるなぁ。」

オールフェスは残念そうな表情を浮かべた。

「これから散歩の機会が、ちょっと減るかも知れねえ」

「化け物!」

誰かの声が、耳に響く。

「まさに、世界を覆す鍵だ!」

別の声が響く。

「い、いやあ・・・・何も・・・・聞きたくない。」

思わず、耳を押さえてその場にうずくまる。だが、
化け物・・・・鍵・・・・魔法界の発見・・・・お前は死ね・・・・どこに居ようがどうせ・・・・・・・・
様々な言葉は、手をあっさりと突き通って耳に容赦なく入ってくる。
手なんぞ、まるで無いとばかりに。


化け物、鍵、魔法、死ね、化け物、鍵、魔法、死ね、
化け物化け物化け物鍵鍵鍵魔法魔法魔法死ね死ね死ね
バケモノカギマホウシネバケモノカギマホウシネバケモノカギマホウシネバケモノカギマホウシネ




オマエハ・・・・・ヒトヲカナラズフコウニスルバケモノ・・・・・

「やめてぇ―――――!!!!!!!」

絶叫とともに、フェイレは目を覚ました。
気が付くと、そこは洞窟の中だった。

「・・・・・・・はぁ・・・・・」

フェイレは大きくため息をついた。目から涙が出ている。寝ている最中に泣いていたのだろう。
ふと、彼女は手のひらを見る。そこには、幾何学的な模様が印されていた。本当は手の平だけではない。
似たような模様は、体の腹部や、背中にも幾つかある。

「こんなものがあるから・・・・・」

出来れば、ナイフで剥ぎ取ってやりたいという思惑に駆られる。だが、それは出来ない事だった。
試しにやろうとしたが、やるだけ無意味と思い、途中で止めた。
外見から見れば、可憐で儚げな女性である。
誰もが、そっと抱きしめてやりたいと思うほどだが、彼女の顔はすっかり憔悴していた。

「鍵・・・・か。」

6年前に起こった、村の惨劇を思い出す。惨劇を引き起こした張本人は、紛れも無く彼女だった。
村人のうち、200人が、彼女の暴走によって命を失った。フェイレは、自ら進んで暴走した訳ではない。
フェイレは、誰かにそう仕向けられ、多くの命を奪ったのだ。それも、自分が住んでいた村で・・・・・・・
悪魔・・・・・化け物・・・・・・そのような類の罵言は何百回、いや、何万回と聞いた。
それでも、両親だけは彼女を暖かく見守ってくれた。
いつでも味方だった父と母。その2人は、もうこの世にはいない。


「疲れた・・・・・」

時間の経過は、彼女の精神を容赦なく、磨耗させつつあった。

1481年11月23日 ボストン沖東北東1500マイル地点 午前2時

大西洋艦隊第29任務部隊に所属する、潜水艦のセイルは潜望鏡深度に上がった。

「潜望鏡を上げる。」

艦長のイギー・クレックス少佐がそう言いながら、潜望鏡を上昇させる。
レンズの向こう側の世界は、暗闇ではあったものの、月明かりで青白く、やや明るい。

「上空に敵機なし。」
上空を確認し終えると、今度は潜望鏡を360度、ゆっくり回転させる。
波は少しばかり荒いのか、時折海水に潜望鏡がかぶさり、沖の確認が取れにくい時がある。

「異常無し・・・・だな。」
「異常無しですか。それにしても艦長、わざわざ上空を見なくてもいいのでは?」

副長が苦笑しながら言ってくるが、艦長は厳しい表情で彼の余裕を戒める。

「敵に空母が無いから、航空機は飛んでいないとでも言うのかね?
副長、11月12日の海戦で、TF23は何がやられた?」
「駆逐艦トリップとラッフェイが沈みました。」
「で、他には?」
「ワスプが大破しました。それと」
「そうだ。そのワスプだ。」

クレックス艦長は副長の言葉を遮る。

「敵は何故、ワスプを真っ先に狙ったと思う?これは、少し考えれば誰でも分かる事だ。
分かった後には、少々厄介な気持ちになるが。」
「厄介な気持ち・・・・ですか。」

副長は考えた。
何故、シホールアンルの艦隊はワスプを狙ったのか?
ワスプが輪形陣の中央にいて、たたまたそれが重要だと思われたからだろうか?
いや、そうではない。
敵は前衛駆逐艦や巡洋艦を叩きのめして逃げ去ることも出来た。
しかし、敢えて針路を変えずに、執拗にワスプを狙ってきた。
何故?

「ワスプは空母。空母は、現代の海戦では欠かせない艦種の1つ。
一方で、空母を持っていないはずのシホールアンルは、最初からワスプに砲撃を加えた。
普通は大砲も余り装備していない空母は、大砲を持っている他の軍艦に比べて、頼りなさげに見えます。」
「姿形が異質だからな。だが、その内なる攻撃力は非常に優れている。もし、それを敵が知っているとしたら。」

副長の思考のつっかえは、瞬時に解けた。つまり、

「相手も空母を持っている!」
「そうだ。敵も空母を持っている。ワスプを狙ったと言う事は、相手も空母の威力を熟知していると見た方がいい。
全く、元いた世界の他にも、空母を持つ国があるとはな。」

艦長はやれやれと言わんばかりの表情で呟いた。

「これは推測に過ぎないが。いや、推測であった方が後々の戦いで我が海軍は有利に立てる。」
「しかし、推測が現実だったら。」

「我が方の機動部隊と、真正面から対決するだろう。
全体の規模は、うちの海軍の空母保有数と同等、もしくは上回っていると考えた方がいい。
そうなると、最低でも空母1隻が船団の周囲に貼り付いていると、必ず用心したほうがいい。
まっ、一潜水艦艦長の推測は、これぐらいが限度だがね。」

苦笑しながらクレックス少佐は言う。

「だとすると、こっちも張り合いがありますな。てっきり帆船やスループ船ばかりの海軍と思っていましたが。」
「海軍だけは近代化が進んでいるな。だとすると、俺達も大物食いを狙う機会があるという訳だ。」

艦長はそう言うと、再び潜望鏡に取り付いた。
先と同様、潜望鏡を周囲360度回転させる。
大西洋艦隊に所属する潜水艦部隊は、第29任務部隊、第30任務部隊、第31任務部隊のいずれかに所属している。
各任務部隊とも、潜水艦8隻ずつで編成されている。
セイルは第29任務部隊の3番艦として、19日に寮艦と共に出港、レーフェイル大陸沿岸の捜索に向かった。
出港から4日が経ったが、彼らの前には輸送船どころか、小船すら通らなかった。

「これじゃあ、2ヶ月ほど、海の中を散歩するだけで終わるんじゃないかね。」

乗員の中には、自嘲気味にそうぼやく者もいた。

「海上に・・・・・不審物見当たらず・・・と。こりゃレーフェイル大陸の沿岸まで行かんと何も見つからんな。」

艦長がそう呟きながら、潜望鏡から目を話そうとした時、波間に何か黒い影が見えた。同時に、

「聴音室より報告!11時方向にスクリュー音!」

という報告が飛び込んできた。

「こっちでも確認した。距離は・・・・・7000という所か。聴音、スクリュー音はでかいか?」
「遠距離のため、スクリュー音は小さいです。」
「副長、見てみろ。」

クレックス少佐は副長に譲った。

「11時方向だ。見えるか?」
「ええ、見えますよ。駆逐艦らしき艦影が2隻に、巡洋艦が1隻。艦長、船の影がますます増えて行きます。」

「おい、哨戒長と変われ。」

彼は、セイルの乗員の中では一番視力の良い哨戒長と交替させた。
哨戒長は潜望鏡を見て、しばらく押し黙ったまま、レンズの向こう側の世界に視線を集中させた。

「輸送船らしき大型帆船が何隻か見えます。あっ、また見え始めました。
4隻、5隻・・・・・凄い、ざっと見ても10隻以上います。まだいますよ!」
「潜望鏡を下げるぞ。敵に見つかったら事だ。」

クレックス少佐はそう言って、潜望鏡を海面から下げさせる。

「潜行だ。深度70まで潜行しろ。」
「深度70、アイアイサー。」

復唱の声が上がり、操作要員が慌しくバルブや操作機器に取り付く。
セイルの1449トンの艦体は、艦首を下にして海面深く潜っていく。

やがて、深度70に達し、セイルは海面で懸吊状態を保った。

「艦長、いっちょうやりませんか?」

副長が腕をさすりながら言ってきた。

「敵はわんさかいます。2,30隻規模の輸送船団ですよ。」
「副長。映画ではな、早まって攻撃しようとする奴はどうなると思う?さっさとやられてしまうケースが多いぞ。
敵に護衛がいるのを見ただろう?」

潜水艦セイルは、サーモン級潜水艦の2番艦にあたり、1936年に竣工した。
武装は53.3センチ魚雷発射管を左右に4門ずつ、計8門持っており、艦内には24本の魚雷を収納している。
この53.3センチ魚雷で、敵輸送船団の何隻かを仕留めようと言うのだ。
だが、クレックス艦長は攻撃を認めなかった。

「副長、上に耳を傾けてみろ。何か聞こえないか?」

艦長は天井を指差した。怪訝な表情で、副長は天井の方向に耳を傾けた。
海面から、スクリューのような小さな音と、何かが通り過ぎる水音が聞こえる。10隻、20隻と言う単位ではない。
下手をすれば、50隻、60隻以上の大船団が、セイルの真上を通っている事になる。

「先ほどの船団は30隻以上、この真上の船団はそれと同等か、より多い。これは、ただの物資輸送ではない。」

彼はずいと、副長に顔を近づけた。

「これは、侵攻部隊だよ。」

11月21日 午前3時 アメリカ合衆国ノーフォーク

「緊急 第25、27任務部隊は直ちに出港し、シホールアンル陣営のマオンド共和国の輸送船団を至急撃滅せよ。
大西洋艦隊司令長官 リチャード・インガソル」


SS投下終了。続けて、米海軍の主戦力表を投下します。

アメリカ合衆国海軍の編成
太平洋艦隊
太平洋艦隊司令長官 ハズバンド・キンメル大将
第1任務部隊 司令官ウィリアム・パイ中将
戦艦メリーランド コロラド ウエストバージニア カリフォルニア テネシー
重巡洋艦チェスター ポートランド ペンサコラ ソルトレイクシティ
駆逐艦14隻
第2任務部隊 司令官 アイザック・キッド少将
戦艦アリゾナ ペンシルヴァニア ネヴァダ オクラホマ
重巡洋艦ニューオーリンズ アストリア 軽巡洋艦メンフィス ラーレイ シンシナティ
駆逐艦16隻
第8任務部隊 司令官 ウィリアム・ハルゼー中将
空母エンタープライズ
重巡洋艦ノーザンプトン シカゴ ルイスヴィル 軽巡洋艦ブルックリン
駆逐艦12隻
第10任務部隊 司令官 オーブリー・フィッチ少将
空母レキシントン
重巡洋艦インディアナポリス オーガスタ クインシー 軽巡洋艦フェニックス ヘレナ
駆逐艦14隻
第12任務部隊 司令官 ジョン・ニュートン少将
空母サラトガ
重巡洋艦アストリア サンフランシスコ 軽巡洋艦ボイス ホノルル アトランタ
駆逐艦12隻
第18任務部隊 司令官 ロバート・イングリッシュ少将
潜水艦17隻
第19任務部隊 司令官 チャールス・ロックウッド少将
潜水艦15隻

大西洋艦隊
大西洋艦隊司令長官 リチャード・インガソル大将
第21任務部隊 司令官 ロイ・クラーク中将
戦艦ミシシッピー ニューメキシコ アイダホ
重巡洋艦ミネアポリス 軽巡洋艦トレント マーブルヘッド
駆逐艦11隻
第22任務部隊 司令官 グレン・ドレーメル少将
戦艦ニューヨーク テキサス アーカンソー
軽巡洋艦ラーレイ ローリー
駆逐艦12隻
第23任務部隊 司令官 レイ・ノイス少将
空母ワスプ
重巡洋艦ウィチタ 軽巡洋艦セント・ルイス
駆逐艦5隻
第25任務部隊 司令官 フランク・フレッチャー少将
空母ヨークタウン
戦艦ノースカロライナ
重巡洋艦ヴィンセンス 軽巡洋艦フィラデルフィア 
駆逐艦12隻
第27任務部隊 司令官 ジェイムス・クランス少将
空母レンジャー
戦艦ワシントン
重巡洋艦ヒューストン 軽巡洋艦ミルウォーキー ナッシュヴィル
駆逐艦14隻
第29任務部隊 司令官 ハンス・グリーンビル少将
潜水艦8隻
第30任務部隊 司令官 オットー・グラスコン少将
潜水艦8隻
第31任務部隊 司令官 ルイ・シコルスキー少将
潜水艦8隻
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