自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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8月20日、バーマント公国首都ファルグリン
ファルグリンの南に4キロ離れた南に、2つの巨大な円盤型の建物と、真ん中にこれまた大きな建造物がある。
2つの円盤型の建物は、それぞれ真ん中の貯水タンクを巨大化したような建物に向けて、通路が延びていた。
それこそ、ファルグリンの象徴の1つ、そしてバーマントの力の象徴でもある建造物、ファルグリン要塞である。

ファルグリン要塞東棟の司令官であるヴィッス・ヘランズ騎士中将は、要塞の外縁付近を歩いていた。
傍らには主任参謀のバーラッグ大佐が彼に話しかけていた。
「ここ1週間で、要塞の外縁付近に新たに20基の機関銃が配備されました。」
「バーラム君、私が思うにはどうも変に思えてならないのだが。」
ヘランズ中将は、バーラッグ大佐に振り返った。
「まるで、敵の空襲に脅えているみたいではいないか。」
機関銃は、いずれも対空用に開発された11.2ミリ口径の機関銃である。
この機関銃は、つい最近、飛空挺の後部座席に装備されたものと同じもので、サイフェルバンの
航空攻勢では、この機関銃で何機かの米軍機を撃墜している。
その効果に目をつけた飛空挺開発廠は、今開発中の戦闘飛空挺にこれを配備する予定である。
それに海軍もこの機銃の採用を決定し、それぞれの艦艇に取り付けられようとしている。
ファルグリン要塞東棟に現在配備されている機関銃は、新着のものも含めて80丁ほどである。
そのどれもが空を向いている。
ヘランズ中将が訝しがるのも無理は無い。
「上層部は何か知らせてこないのですか?」
「いや、全くだ。私は何度か、上のほうに機関銃の配備理由について問いただしたのだが、
上の石頭どもはいつも「装備改変」とかしか言わん。おかげで、真意はさっぱり聞けなかったな。」
ヘランズ中将は、自慢のカイゼル髭を震わしながら、憤慨した。
「ま、恐らくアメリカ軍とやらの異世界軍の飛空挺に恐れをなしているのだろう。
それ以前に、敵の飛空挺はここまで飛べないとは思うがね。」
「ここまで飛べない・・・・ですか。」
アメリカ軍航空部隊の暴れっぷりは、今ではバーマント軍全将兵の語り草となっている。

ある兵士は、白星の悪魔の編隊に見つかったら、その後の寿命は1分もないと言ったり、
ある兵士は、敵艦隊に攻撃に行くなど、自殺行為も同然、ということが兵士の間で言われている。
最初は占領したヴァルレキュア領での戦闘であったため、バーマントの一般民衆の目に触れることは
無かった。
だが、それも本国領土であるサイフェルバンを巡る戦いで、一般民衆は米軍の姿を目撃している。
7月初旬のグリルバンの空襲では、町から郊外の飛行場が猛爆されるのを住民が目撃し、7月中旬の
サイフェルバン付近で起きた第3艦隊と、米警戒部隊との激しい海戦でも、多くのバーマントの一般民衆が、
沖合の閃光の明滅を目撃している。
一般民衆の間でも、今までは知らされなかった異世界軍の真の姿が、徐々にではあるが見え始め、
それが噂となって各地に流れている。
バーマント公国側は、それでも“自分達の正しい”情報で国民を安堵させようとしている。
だが、影では無敵バーマントという言葉は、昔ほど多く叫ばれてはいない。
そして、異世界軍がらみの噂は、このファルグリン要塞の将兵にも、しっかりと伝えられている。
「将兵の士気の低下が問題だな。この状態で、サイフェルバン陥落の情報を知らされれば、兵の士気
は地獄のそこまでに落ちるな。」
「公国の発表は、ここ最近でたらめですからね。」
2人は歩くのをやめ、別の方角に視線を移した。目の前には、巨大なダムと、要塞西棟が聳え立っている。
その姿は力強く感じる。周囲はほとんど森で、緑しかない。
だが、この自然の景色が、軍務に疲れた将兵を癒している。
このファルグリン要塞は、幅3キロのドーム型の建造物2つに、真ん中のダム1つで成り立っている。
要塞は、外縁が20階建てに作られており、真ん中は6階建てに作られている。
内部は入り組んでおり、慣れた者でないと必ず迷う。

ヘランズ自身も最初は複雑すぎる内部に四苦八苦していた。

ここに配備される新人は、最初の2ヶ月はこの迷路のような要塞内部の作りを覚えるのに必死になる。
この2つの要塞は、別名迷路要塞とあだ名を頂戴している。
口の悪い兵士からは、無駄で面倒すぎる作りとまで言われているほど、中は複雑である。

作り自体も強固であり、投石器や8センチほどの大砲に撃たれても外縁部は平気である。
真ん中のダムは高さが200メートルもあり、絶壁のような塀の内側には、大量の水が蓄えられている。
このダムの要所要所にも、機関銃が配備され、現在では塀の部分に40丁、監視所などに10丁が取り付けられている。
この3つの建造物に、バーマント軍第4親衛軍35000が配備されている。
内訳は要塞にそれぞれに15000、ダムに5000という割り当てである。
「要塞勤務は、いささか暇な部分もあるが、最上階から見るこの景色は、いつ見てもいいな。」
ヘランズ中将は、微笑みながら感想を述べた。
「私も同感です。休憩の時などはいつも最上階で休憩していますよ。」
前線のサイフェルバンやヴァルレキュア占領地と、このファルグリン要塞はまるで別天地である。
前線では常に緊迫した状況が付きまとうが、この要塞の将兵たちはどこかのんびりしたような雰囲気がある。
要塞に配備されているのは精鋭部隊であるものの、彼らとて人の子。のんびりする時はのんびりするのである。
(対空用の機関銃を増やすのもいいが、どうせ敵もはるか遠くだ。敵の飛空挺もここまで飛んでこないだろう)
ヘランズは心の中でそう思った。空はよく晴れ渡っており、清々しい気持ちになる。
「閣下、そろそろ昼食の時間です。」
「そうか。では中に戻るとするか。」
ちょうど腹の減り具合も良くなってきた頃合である。
ヘランズ中将はいつもの日課である昼食を取ろうと、中に戻りかけた。
ふと、聞き慣れぬ音が耳に入ってきた。それはどことなく重々しく、かつ力強そうな音だった。

眼下に2つの丸い円盤のようなものと、それの真ん中の山のような所に、巨大な貯水池の
ようなものが見えてきた。
両翼に取り付けられているプラットアンドホイットニー社製の1200馬力エンジンは、
轟々と音を上げてプロペラを回転させている。
その音に負けまいと、機長であるクラウド・イエーガー中尉はしっかりとした口調で無線機に話しかけた。
「こちらクエンティー1、目標付近に到達した。2つの要塞に1つのダムが見える。
これより高度を3000まで下げて偵察を行う。」
「サインドよりクエンティー1、付近に敵戦闘機の姿は無いか?」
「影も形も無い。」
「了解、偵察行動を許可する。対空砲火に気をつけろ。」
陸軍第790航空隊所属のB-24リベレーターは、午前9時にサイフェルバンのクリンスウォルド
(元は南飛行場と呼ばれていた)飛行場から発進し、ファルグリンに向かった。
そして午後0時を迎える寸前にファルグリンに到達した。
ファルグリンの上空には、敵機の姿は見当たらない。
「これより高度3000まで下げる。」
イエーガー中尉はそう言い、操縦桿を手前に押す。B-24の巨体は機首をやや下げて降下に移った。
高度5000から3000までに降下すると、機体を水平にした。
「撮影機器チェック!」
「機首下方カメラ異常なし。」
「機尾下方カメラ異常なし。」
「機長、各カメラ以上なしです。」
「よし、これより偵察行動を開始する。敵さんの笑顔をバシバシ撮るぞ。」
彼のジョークに、クルーは笑い声を上げた。

B-24はまず、要塞東棟の撮影に入った。
機首下方カメラを操作するエルビス・ケネディ軍曹は、カメラの照準機を調整していた。
カメラのレンズに要塞の姿が見えてくる。微かながらだが、人が動くさまも見えている。
まるで顕微鏡の中の微生物のようだ。彼はそう思った。
下界の詳しい様子は分からないが、微生物のような人間の動きはどこか慌しい。
おそらく、初めて目にするB-24の姿に困惑しているのだろうか。
それともただ見入っているのだろうか。
それは定かではないが、恐らく両方入り混じっているだろうと考えた
。ケネディ軍曹はカメラのシャッター押した。
カシャッという音と共にシャッターが下りる。
東棟の写真を何度か撮ったところで、今度はダムが視界に入ってきた。
そのダムを見たとき、ケネディ軍曹は息を呑んだ。
(でかい。)

彼はそう思った。ダムの塀、上部ある通路だけで何百メートルはあろうかという大きさだ。
その貯水されている湖面の面積も結構でかい。
ニューディール政策のさい、建造されたフーバーダムと比べれば、いささか小ぶりな感じもするが、
それでも全長200メートルはくだらないはずである。
(こんなに立派なものを作る力があるのに、どうして他国侵略を考えるんだ?俺としては
侵略なんざ必要なしと思うのだが、まあそれはこの公国の皇帝様しか分からんか)
そう思いながらも、次の目標であるダムに向けて照準機を合わせる。
程よいところでシャッターを押した。
シャーターの閉じる音と共に、フィルムにケネディ軍曹が見た光景が焼き付けられていく。
ダムの外側に湾曲した通路には、やはり先の要塞と同じように、小粒の影がうごめいている。
その小粒の影も一緒に、フィルムに収めていく。
B-24は、そのまま飛行を続け、要塞の全容を写真に収めていった。

B-24が飛来したとき、ヘランズ中将は最初、味方の飛空挺の訓練かと思っていた。
「味方の飛空挺でしょうか?飛空挺部隊は西部方面に移転したと聞いてたのに。」
「新型機のテスト飛行かな?」
彼は新型機のテストかと思った。ここ最近、戦闘飛空挺の開発が急ピッチで進んでいる。
それが完成して飛行訓練でもしているのだろうと思った。
ヘランズは音がする方向を見てみた。雲ひとつ無い空に、1つの黒い粒が浮かんでいた。
それも結構高い高度だ。
「1機だけか。」
ヘランズはエンジン音の大きさから、2、3機の編隊飛行だと思っていたが、実際には1機だけである。
その機影は、やがてどんどん大きくなっていき、その姿がハッキリした時、彼は仰天した。
「なんだあれは!?」
ヘランズはその飛空挺の姿に度肝を抜かれた。
まず、片方の翼に2基ずつ、合計4基のエンジンがついている。
そしてその大きさたるや、まるで空の巨人を思わせるような格好である。
そしてうっすらとだが、その胴体には、白い星。
「異世界軍だ!」
彼はそう確信した。白い星のマークの機体。
それは、遠く異様な世界から呼び出され、バーマントの戦力を悪食のように食らい尽くしてきた軍隊。



白星の悪魔!

「敵が来たぞ!総員戦闘配置!!!」
敵の飛空挺を見た下士官がすかさずそう叫び、それが上官に伝わる。
のんびりとしていた要塞内に、緊迫した空気が流れた。
将兵は、血相を変えた表情で持ち場に着く。
階段から機関銃の弾薬箱を抱えた将兵が上がってきて、機銃弾を銃本体に積めていく。
しかし、その時には既に飛空挺、B-24は真上に来ていた。
(遅い!これが精鋭の第4軍か。のんびりしすぎだ!!)
ヘランズ中将は、あたふたと配置につく将兵を見て怒鳴りだしたい気持ちに駆られたが、
すんでのところで抑えた。今怒鳴りだしても遅いからだ。
ヘランズ中将は爆弾が落下し、炸裂する衝撃にそなえた。今では中に入るのも遅すぎる。


だが、

(?)
いつまで待っても爆弾は降ってこなかった。
B-24は音を立てながらそのまま東棟の上空を通り過ぎていった。
そのあっけなく通り過ぎていく敵機に、誰もが拍子抜けした。
米軍の空襲は容赦ないことで知られている。その米軍機がただ通り過ぎていった。
「どういうことだ?」
ヘランズ中将は最初疑問に思ったが、やがてある事に思い立った。
敵機の数は1機のみ、爆弾は落としてこない。だとすれば、敵機の目的は・・・・・

「偵察・・・・だな。」
彼はそう呟いた。そう、敵は今のところ、攻撃する気は無い。ただ上空を通り過ぎていくだけだ。
恐らく、敵機の搭乗員は目を皿にして地上の様子を見ているのだろう。
「あの敵機の目的は偵察のみだな。」
「閣下もそう思われますか?」
「ああ。」
彼は遠ざかっていくB-24を見つめながら頷いた。
やがて、B-24は全てを偵察し終えたのか、高度を上げて飛んできた方角に引き返していった。
「近いうちに何かあるかも知れんぞ。それと同時に、首都は重大な危機に直面した。」
いきなりの言葉に、バーラッグ大佐は驚いた。
「危機・・・・ですか?」
「貴様は分からんのか?」
ヘランズ中将は顔を彼に向けた。

その顔はさっきまでの血色が綺麗さっぱり失せて、真っ青になっていた。

「敵機がここまで来る。という事は、この首都が敵の攻撃範囲に入ったということだ。」
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