自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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△月◎日

 先日、ニホン国より評価試験用に譲り受け、黒エルフを通して
我々ドワーフに貸与された魔法の杖“しぐ・ぴー220”を調べてみる。
“しぐ”とは対人攻撃用に開発された武器で、大きさはジャイアントの握り拳程。
僅か300人でバッサン兵3万名からランゲルハンス島を守りきり、
1万名もの死傷者を出した“異世界の武器”である。

 ブーメラン型の金属塊で、片手剣並みに重い。我々が使う魔法の杖とは全く異なる。
発破する秘薬によって押し出された弾が目標を破壊するという非常に単純な原理で出来た物だ。
秘薬の製造法は不明。薬に詳しい黒エルフ達が話すのだからそうなのだろう。
簡単な原理に対して造りは複雑で難解だ。

 壊れないよう慎重に解体するだけで一週間も要した。
同僚のゴラムやフロドが無理に部品を外そうとするせいで、5丁の内3丁が壊されてしまった。
残るは見本用に解体せずとってある一丁と、現在私が解体しているものだけである。
最初の取引では設計図が付いてくる予定だったのだが、
ニホンの外交官が最後まで渋ったせいで自力で解体することになった。
技術の不明な点については、三日に一度開かれる技術交流交換会で互いに話し合うことになっている。

 螺旋状に曲げられた金属の棒“螺子”を外す際にとても苦労した。
まさか外すのに部品の一部を差し込んで回転させるなんて思ってもみなかった。
ニホン製のアーティファクトの大半には螺子が使われているらしい。
はめ込みと融接以外の新しい接着法である。
自在に取り外せて付けるのも容易、釘と違い再利用も簡単。素晴らしい技術である。

 内部構造が判明してからは驚きの連続である。
髪の毛一つの狂いさえない全く同じ形の部品や金属棒の中に刻まれた螺旋状の溝。
どうやって彫りぬいたのか、一つの金属塊で出来ている小さな部品。
我々でも再現は難しいだろう細工の数々。

 特に興味を惹いたのは螺旋状に曲げられた“バネ”(と向こうでは呼ぶらしい)だ。
これは力を入れられるともとの形に戻ろうとする部品である。
時計に使われている巻貝型の物とは違い縦長である。
応用すれば現在のバリスタの大きさを半分に縮められる素晴らしいものだった。

魔力を使わず非常に大きな破壊力を出せるのも“しぐ”の利点で、
場合によっては国家魔導師が使うファイヤボールを凌ぐ殺傷能力を発揮する。
連射速度は魔法を使うよりずっと速いし、まがじんやだんそうと呼ばれる
特殊な構造によって弾が尽きた後の交換も楽だ。
破壊力も申し分ない。騎士の鎧を正面から貫通できる性能を有している。
問題は破壊できる面積が指先一つの穴だけで非常に少ない点だが、これも問題ないと私は思っている。

 相手を殺すのに全身を大火傷させる必要も、氷の槍で貫く必要もない。
必要なのはただ一点、急所を破壊するだけで足りる。
郡体であるスライムやブロブ、ミストやヒトクイソウなどに効果は少ないだろうが、
ゴブリンやジャイアントなど魔物の大半に対して威力は大いにある。

 この武器の利点は非常に破壊力の大きい武器であるにも関わらず誰でも使えるのだ。
通常、共通魔法であるファイヤボールを満足に使えるようになるには3年の月日が必要である。
戦闘で使えるようになるには5年だ。ちなみにこれは魔道の素質がある者に限った話で、
魔法が使える者は100人に1人もいない。

 最も数の多い人間族でもそうであるのだから他の種族も推して知るべしである。
唯一エルフだけは例外であるが、全体として魔法を使えるものは殆どいないだろう。

 全く無力な魔法が使えない種族や訓練をせずとも女子供でも、しぐがあれば狼や魔物に対抗できる。
夜に城門を閉めずともいいし、旅商人は安全を約束される。

 バッサンから独立したてで軍事力を必要としていて、貿易が主たる我がエルブ国にとって価値は計り知れない。
今はニホン国のジェダイが軍事面で我々の後ろ盾に立ってくれていてくれるが、
いつ手のひらを返すとも知れず、全くの異世界人相手では気も抜けない。独立した力が欲しい。
近年では国境沿いのバッサン帝国軍とライバー連合の動きが活発化しつつあり早急な強化が必要であった。
黒エルフ達がニホンの魔法杖を欲しがったのも理解できる。
エルブ国はニホンからの“銃”研究にかなりの金を使うようだ。
 銃研究の代償として東に広がる腐臭漂う呪われた土地を売り、その土地の川沿いに街を造るのを許可した。
銃の独占研究と購入権を得て、魔法研究の協力を申し出たのだ。

 たった一種の魔法杖の製造法と広大な土地の交換、本来ならありえない選択である。
だが渡すのは“呪われた”水が黒く汚染され、沼地だらけの草木も育たない腐臭漂う不毛の大地。
しかもバッサンとの国境沿いである。くれてやるのは要らない土地。
国際情勢が微妙なこの時期にあわよくばニホン国を防波堤にしようと考えているのだろう。

 魔法研究についてもエルブには大した魔法技術はない、民間で使われる程度の技術と
極めて使用困難なエルフ達の精霊魔法しかない。
前者は幾らでも手に入るもので渡しても問題はない。後者は基本的に黒エルフ達しか使えないものである。
エルフの精霊魔法を解読させられるニホン国の技術者に同情する。
黒エルフの考えはいつもながら黒い。


△月△日

 精霊魔法(彼女達曰く、精霊とは異なるものだが通称として呼ぶ)は解読困難だ。
『「ミボルを」「エフィドで」「ポズデクする」』などエルフ独自の専門用語が多い。
しかも翻訳出来たところでメイジ魔法(人間達の使う魔法)とは違い、使えるまでに苦労するのは間違いない。
メイジ魔法は順序だてて魔術を行使するのに対し、精霊魔法は過程を飛ばして結果が来る。

 例えば魔法で火を出すとする。
 メイジ魔法なら万物の根源はマナであると定義していて、マナが震えることで熱さが出ると考えている。
火を出すには一定周期のマナを震わせる必要であったり、一定の濃さが必須であったりして
様々な条件が必要だ。しかし最終的にはマナを震わせる条件に行き着く。

 精霊魔法はメイジ魔法と根本が違うとされている。
 条件が極めてあいまいだ。精霊魔法は歌で世界を直接書き換える。
翻訳できても使用するのは不可能だと考えられている理由の一つだ。
条件は使い手の言葉に左右され、火を出す際にホムラや炎、火炎、焔、などの言葉を詩に組み入れ
歌い終わると指定した場所に火が付く。もちろん指定する箇所も歌詞に組み入れなければならない。
鍵となる言葉の定義は極めてあいまいで、全て結果は同じである。
更に違う人物が同じ歌を歌っても違う結果になる場合も多く、結果は必ずしも一定しない。
精霊魔法には魔力や力の条件や制約といったものは個人によるものと考えられていて、
マナに代わる表現がない。力の根源が何か使っている彼女ら自身も把握していないのだろう。
一部の歌詞は伝わっているものを使っているらしいが殆どが即興だ。
前に黒エルフにどうして魔法を使えるのかと聞いたら「頭の中に聞こえてきた詩を歌った」と話した。
何処から歌詞が出るのか、どうして紡がれるのか彼女達も判っていない。
その上、音程や術者の資質、心なども魔法の行使に大きく関わって来るのだ。
ましてや、精霊魔法を他の種族が発音するのは非常に困難だ。
一人で三重奏五重奏できる腕が必要になる。
無論、そんなことが出来る種族はエルフ以外にはいない。

 「彼女らの魔法言語はぷろぐらむ的文法でかつ詩的曖昧さを併せ持つ」
まるでヒュムノスだと視察に来たニホン人の偉いさん、田中が嬉しそうに話していた。
彼らの世界にも似た魔法があるのだろうか?
きっとこれだけ素晴らしい魔法の杖を造れるのだからあるのだろうな。
ジェダイの桑井の話では、ニホンは魔法使いに頼らずに暮してゆけるのだという。
ゴーレムより遥かに効率の良いアーティファクトや
魔法を超える魔法を使わない機械がたくさんあるらしい。
海の向こう、まだ見ぬニホンの姿に興味は尽きない。
無理難題を押し付けられたニホン人の健闘を祈る。


△月□日

 実験用に捕獲しておいたイービルアイを使って、早速日本式魔道杖の威力を見物する機会が来た。
イービルアイは危険な魔物である。
形はだ円状、大きさは馬と同じ位。
体の半分もある巨大な口とドワーフの握り拳程の目が体中に付いた、浮遊する目玉の魔物だ。

 前文明、古代王国期に造られた偵察用の魔物で軍事目的に使われていたもので、
現在は野生化し、人々を脅かしている。
成人男性のドワーフほどもある大きさの岩を動かす念力と、牙の生えた巨大な口による噛み付き。
3~5体で群れる習性と体に無数に生えた眼による死角のなさもあいまって恐ろしい魔物である。
出現の際は街の警備部隊が一丸となって退治に乗り出し、魔道師までが出る。

 実験に使うイービルアイは幼生で、大きさはドワーフの子供程度。
事前に餌として馬を与えておいたおかげで動きは活発だ。好ましい。
鎖に繋がれたイービルアイがギーギーと金属をすり合わせた耳に付く声で鳴いている。

「念力対策は大丈夫なのか?この刻印拘束は信頼できるのか」

 壁際の出口に立つジェダイ達、その代表である桑井が疑い深そうに聞いてくる。
彼らはしぐの上位に当たる杖を持っており、逃げた際の保険だ。
イービルアイを捕まえたのも彼らジェダイで、150人の兵士が必要なところを僅か30人で鎮圧した。
無敵を誇るジェダイでもイービルアイは恐ろしいようだ。
 今回は訓練に来ているらしい。
黒エルフの対魔物戦術を参考に訓練を施したニホン式対魔部隊なのだとか。

「問題ありません。クラス2までの魔道師でも十分な拘束力があります」
「こんな刻印で封じれるなんて信じられん」

 ニホンから来た人々は疑い深い。
特に刻印と魔術に関しては誰もが信じられないといった風である。

「我々の間で長く使われてきた術式で効果は実証されています」
「信じるしか……ないか。だが我々でも対策は取らせてもらう」
「どうぞ。お好きなように。では、始めます」

 ゆっくりと拘束刻印の光が弱くなり、力を取り戻した5体の幼生イービルアイがふらふらと宙に浮かび上がる。

「訓練を開始する、今回の課題は室内における魔物との近接戦闘だ。
 的は魔物だ、人間じゃない。遠慮せずに撃て。
 内容は事前の打ち合わせどおり、武器弾薬は好きに使っていいと許可が出ている。
 あとは適当にやれ。以上」


 桑井の声に部下のジェダイ達は整然と動く。
国旗と聖剣、不死鳥とオリーブの葉が合わさった紋章を付けた兵達14名は
箱に似たニホン人風家屋を模した建物の中、イービルアイを殲滅した。
手振りだけで連絡を取り合い、常に死角を補い合う動きは練度の高さを感じさせる。
素早い動きはまるで噂に聞く西洋のカゲだ。

 彼らは僅か開始6分で5体のイービルアイの幼生を屠り、
後に投入された成体を接触後5分で殺してしまったらしい。
らしいというのは人づてに聞いたからである。
少し眼を離している間に戦闘は終わってしまっていた。
馬鹿な、イービルアイは弱い部類に入るが古代王国期の魔物だぞ!?
彼らはどんな魔術を使ったのだろうか。
改めてニホンの技術力に脅威を感じる。

 ジェダイは恐ろしい。
遠距離から一撃で倒すことが出来る武器もだが、
戦闘人形のごとく無言で淡々と仕事をこなす姿を見ると寒気がした。
彼らが敵に回らなくて本当に良かった。

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