総括所見:中国(第1回・1996年)


CRC/C/15/Add.56(1996年6月7日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1996年5月28日および29日に開かれた第298回~第300回会合において中国の第1回報告書を検討し、以下の総括所見を採択した。

A.序

2.委員会は、締約国の第1回報告書が一般指針に従って作成されていることに留意する。委員会は、報告書の自己批判的な要素を評価するものである。ただし、報告書においては、国内の法律上および行政上の規定の実際の適用状況よりその内容のほうに焦点が当てられていることも留意される。委員会はまた、委員会が提示した事前質問事項に対する締約国の回答も歓迎するものである。
3.委員会は、報告書の作成にさまざまな省庁その他の機関が関与したことに、満足感とともに留意する。委員会は、委員会の前で報告書の説明を行なう代表団にこれらの省庁の多くの代表が参加するようにしてくれたことに対して、締約国に謝意を表するものである。委員会は、委員会との建設的な対話に携わることに関して締約国および代表団が前向きな姿勢を見せたことを歓迎する。委員会は、代表団が、条約において規定されている権利および原則が中国のすべての子どもたちに保障されるようになるまでには克服すべきさまざまな困難が残されていると率直に認めたことを、評価するものである。

B.積極的な要因

4.委員会は、近年、一般的な生活水準の目ざましい向上が記録されてきたことに留意する。委員会は、さらに、子どもに関する事業概要が国レベルで策定されかつ30の省および自治区のすべてにおいても策定されつつあり、かつ、1990年の子どものための世界サミットで採択された宣言および行動計画に掲げられた目標のフォローアップとして実施されつつあることに、留意する。北京で開かれた第4回世界女性会議のフォローアップとしての政策概要が作成されつつあることも、留意されるところである。
5.乳幼児死亡率の削減に関して、とりわけ予防接種の実施範囲の維持、予防接種率の向上および子どもの栄養不良に焦点を当てた多大な努力によって、締約国が目ざましい成果を達成したことは、称賛に値する。母乳育児の保護、促進および支援ならびに子ども病院の設置に関する締約国の積極的姿勢も、歓迎されるところである。
6.就学率の向上のために締約国が行ないかつ支援しているさまざまな活動も、注目に値する。締約国が、社会的および経済的発展を促進する方途として教育を支える重要性を認識していることも、留意されるところである。貧困地域の子どもたちの援助を目的とした「希望計画」、および、女子の就学または復学による初等教育の修了を促進するための「春の蕾計画」には、とくに言及しなければならない。
7.委員会は、また、報告書に、子どもの権利に関わるさまざまな法律および行政規則が発展させられかつ導入されてきたという情報が記載されていることにも留意する。義務教育法、未成年保護法ならびに障害者保護法および「障害者援助運動」による活動が留意されるところである。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

8.中国の子どもの数が世界の子ども人口の5分の1を占めていること、および、人口が締約国の広大な領土全体に広がっていることを考慮に入れ、委員会は、管轄下にあるすべての子どもたちのニーズを満たす上で中国が抱えている任務は、経済的および社会的領域に限らず、膨大な課題を提示していることに留意する。
9.締約国が述べたように、締約国の一部で歴史的な封建的伝統が若干引き継がれていることおよび他の有害な態度が根強く残っていることが、子どもたちの生活および健全な成長に悪影響を与えている。

D.主要な懸念事項

10.委員会は、子どもの権利条約の実施を促進しかつ調整するためにさまざまな機構が設置されていることに留意する。ただし、国、省および地方の各レベルにおける条約の実施状況を監視することに関しては、それが効果的であるようにするために十分な措置がとられていないことを、依然として懸念するものである。
11.委員会は、教育、保健および社会保障を始めとする社会サービスの提供およびこのようなサービスへのアクセスに関して、都市部と非都市部の間および地域間に広く格差が存在することを、懸念する。
12.社会保障の領域で十分な措置がとられていないことが、親に対する将来の養護および支援に関して子どもに過剰に依存する状況につながってきたのではないかというのが、委員会の見解である。このことが、男子優先のような、女子および障害児の権利の保護および促進に好ましくない影響を与える有害な伝統的慣行および態度が変わらず続く原因になってきた可能性もある。
13.委員会は、刑事責任年齢に関するものを始めとする子どもの定義についての問題を検討し、国内法および関連の手続が、条約の規定および一般原則、とくに子どもの最善の利益を正当に考慮に入れたものになるようにすることが必要であると感ずるものである。
14.委員会の見解では、子どもとともにまたは子どものために働く専門職を始めとする大人の間で、および、子どもたち自身の間で、条約の規定および原則、とくに第2条、第3条、第6条および第12条に関する意識を喚起するための措置が十分にとられていない。
15.ジェンダーおよび障害を理由とする差別の問題に取り組むための措置には留意しながらも、委員会は、選択的な嬰児殺に結びつく慣行が根強く残っていることを、依然として懸念する。
16.世帯登録を通じてすべての子どもたちが登録されるようにするための措置が効果的であるかどうかについて、深刻な懸念が残る。締約国が認めるように、登録がなされないのは、関連の法律および政策ならびに登録の欠如が子どもの法的地位に与える悪影響に関して、親が知らないことが原因かもしれない。伝統的な居住地から人々が移住してくることも、同様の困難を生ぜしめる可能性がある。登録制度に欠陥があることは、子どもの取引、誘拐、売買および不当な取扱い、虐待もしくは放任といった領域を始めとして、子どもたちの権利を促進しかつ保護するための基本的な法的保障が奪われることにつながる。これとの関連で、「未登録女子」の状況も、彼女たちの保健および教育への権利に関して、委員会の懸念するところである。
17.委員会は、依然として、子どもたちの市民的権利および自由の実際の実施状況に関して懸念する。委員会は、思想、良心および宗教の自由に関する子どもの権利は、条約をひとつのものとしてとらえるアプローチに照らして確保されるべきであること、および、この権利の行使に関する制限は条約第14条3項と一致したものしか課すことができないことを、強調したい。
18.委員会は、福祉施設で養護されている子どもたちの状況をとりわけ深刻に懸念する。委員会は、そのような施設におけるきわめて高い死亡率は、真剣に懸念すべき理由となると考えるものである。委員会は、とくに、施設において子どもたちが成人から分離されるようにするためにとられた措置および職員に研修を施す上でとられた措置を評価しながらも、条約第3条3項によって求められている、子どもたちに質の高い養護が提供されるようにするためにとられた措置が不十分であることについて、依然として深く懸念する。
19.委員会は、いまだに通学していない子どもたちが中国において多数存在することについて、締約国が表明した懸念を共有するものである。委員会は、また、チベット自治区を始めとするマイノリティ地域において通学状況が他の地域よりも悪く、教育の質が劣悪であり、かつ、中国語による十分な教育を始めとするバイリンガル教育制度を発展させるために十分な努力が行なわれていないという報告があることも、懸念する。このような欠陥は、中等レベルおよび高等レベルの学校に進もうとするチベット人その他のマイノリティの生徒を不利な立場に置く可能性がある。
20.マイノリティに属する子どもたちによる宗教の自由への権利の行使に関しては、委員会は、条約第30条に照らし、チベットの宗教的マイノリティの人権侵害との関連で深刻な懸念を表明する。宗教的原則および手続に対する国家介入は、チベット人の少年少女世代全体にとって、きわめて不幸な事態のように思える。
21.委員会は、国内法において、16歳から18歳の間の子どもたちに対して2年間の執行猶予付で死刑を科すことが認められているように思えることを、依然として懸念する。子どもたちに執行猶予付の死刑を科すことは、残虐な、非人間的なまたは品位を傷つける取扱いまたは罰を構成するというのが委員会の見解である。さらに、刑法において、罪を犯した14歳から18歳の間の少年に対し、とくに深刻な犯罪については合法的に終身刑を科すことができるとされていることも、留意されるところである。終身刑は「改悛」または「報奨」を理由に減刑できるとされており、かつ、中国の司法の状況に照らせば終身刑が減刑措置の利益を得られるということもわかるとはいえ、委員会は、条約が、18歳未満の者が犯した犯罪に対しては死刑も釈放の可能性のない終身刑も科してはならないと規定していることを強調したい。上記の国内法規定は、条約の原則および規定、とくに第37条(a)に一致しないというのが委員会の見解である。
22.加えて、委員会は、中国の現行少年司法制度において十分な法的保護がどの程度整っているかについても、依然として懸念する。これとの関連で、委員会は、子どもの審判前拘留の間の親によるアクセス、子どもに対する法的援助の提供の可能性、および、子どもの弁護のための準備に充てられる時間が十分かどうかということについて、かつ、無罪推定の原則、および、第40条2項(a)に反映された「法律なしに犯罪なし、法律なしに処罰なし」の原則に関して、懸念を表明する。
23.委員会は、近年子どもたちの誘拐が急増しているという締約国の懸念を共有するものである。これとの関連で、委員会は、子どもの売買、取引および性的搾取の問題を防止しかつそれと闘うためにとられた措置が十分とは思えないことについて、深刻な懸念を表明したい。

E.提案および勧告

24.条約第6条に締約国が付した留保が依然として必要かどうかという点に関して委員会で交わされた議論、および、締約国によって提供された、留保に関して調整を検討することはいとわないという情報に照らし、委員会は、締約国に対し、条約への留保を撤回の方向で再検討するよう奨励する。
25.委員会は、国内の法的枠組みの包括的再検討を行なうよう勧告する。そのような再検討の際には、条約の規定および原則を指針としても支えとしても活用すること、および、国レベルのみならず、子どもの権利に影響を与える地方レベルの立法上のおよび行政上の措置をも包含することが、必要である。
26.委員会は、締約国が、子どもの権利のためのオンブズパーソンのような独立機関の設立の可能性について検討するよう勧告する。このような機構は、福祉、教育および少年司法の領域を始めとする子どもの権利の領域で活動する機関を監視する上でも、こうした領域で浮上する問題のより迅速な発見に貢献して建設的な解決策を可能にする上でも、重要な役割を果たしうるものである。
27.委員会は、子どものための世界サミットのフォローアップのための事業概要を発展させかつ実施するために全国で行なわれている活動に留意しながらも、子どもの権利に関する将来の事業概要、開発計画、プログラムまたは行動計画は、条約のすべての規定および原則に基づいて作成するよう勧告する。
28.締約国は、子どもの状況に関して、細分化された統計的データその他の情報を収集することに対し、系統だったアプローチで望むための力を強化するためさらなる措置をとるよう、促されるものである。委員会は、締約国がこの問題を真剣に検討するよう勧告する。そのようなデータおよび情報の分析は、子どもの権利の実施のためのプログラムを立案する上で、もうひとつのかつ重要な手段となるからである。
29.子どもの権利に関する条約の原則および規定を、ラジオおよびテレビといったマスメディアの活用を始めとして、全国で広く普及すべきだというのが委員会の勧告である。この点で、委員会は、締約国が国連児童基金の協力を要請してはどうかと提案する。国内の主要なマイノリティの言語に条約を翻訳することは、このような普及活動に欠かせない部分である。
30.委員会は、また、条約の原則および規定に関する教育を、子どもたちとともにまたは子どもたちのために働いているさまざまな専門職の研修プログラムに組み入れるための措置をとるようにも勧告したい。このような専門職には、ソーシャルワーカー、福祉施設職員、医師、保健および家族計画事業の従事者、教員、裁判官、弁護士、警察官、矯正施設職員ならびに軍隊関係者、および、政府の職員ならびに意思決定者が含まれる。
31.委員会は、条約第4条の実施のために現在とられている政策の再検討を勧告する。委員会は、そのような再検討を行なうに当たっては、子どもの権利のための資源の配分、とくに保健および教育に関わる資源の配分における、地域ごとのおよび都市部と非都市部との格差を削減するための措置に関して焦点が当てられるべきだと強調したい。
32.同様に、委員会は、社会保障の提供に関してさらに注意を向け、かつ、検討を行なうよう勧告する。家族が子どもたちに、とくに自分たちが老年に達したときの養護の提供に関して過剰に依存することを避けるため、対応策がとられるべきだというのが委員会の見解である。
33.条約の一般原則の実施を確保するために、さらなる措置が求められる。条約第12条に関しては、子どもたちに対し、参加し、かつ、自分たちの意見が聴かれれかつ考慮に入れられる機会を提供することにさらなる関心が払われるべきだというのが、委員会の見解である。保護を受ける存在としてだけではなく、権利の主体としての子どもに関する意識を発展させることが重要である。委員会は、虐待または放任の苦情の申立ておよび調査に関して、そのような侵害がとくに家庭内暴力および施設または矯正施設における虐待から生じている場合に、子どもたちが利用できる手続が効果的なものになっているかどうかを再検討することに対して、さらなる関心を払うよう提案する。
34.委員会は、女子が直面している問題に取り組むために一致した行動が求められているという締約国の見解に、同意する。女子および男子の平等に関するキャンペーンを行ない、かつ、そのような平等に関する意識を人々の間に喚起するために締約国がとっている措置は認めながらも、委員会は、女子に対する差別を防止しかつ撤廃し、かつ、この点で共同体に対して指導を与えるための努力を支援する上で、地方の指導者その他の指導者に対してもっと積極的な役割を果たすよう要請することを提案する。
35.締約国によって提供された情報から、委員会は、子どもの間での障害の発生率は低いものの、障害児が遺棄および差別の犠牲者になっていることに留意する。この点で、委員会は、障害を理由とする差別を防止しかつそれと闘うために必要とされる措置に関して、締約国がさらなる調査を行なうよう勧告する。
36.家族計画に関する政策は、子どもたち、とくに女子の生命をいかなる形でも脅かすことのないように策定されなければならないというのが、委員会の見解である。委員会は、この点で、その政策が促進する目的が第24条を始めとする条約の原則および規定に沿ったものになるようにするため、大衆および家族計画政策の従事者に対し、はっきりとした指導を行なうよう勧告する。締約国は、女子の遺棄および嬰児殺ならびに女子の取引、売買および誘拐と闘うための力強くかつ包括的な措置を維持するため、さらなる措置をとるよう促される。
37.委員会は、1982年および1990年に行なわれた2度の人口調査の結果に関して締約国から提供された情報を認め、かつ、新たに生まれた女子が登録されないことが、子どもの男女比率の不均衡の主要な原因となっていることに留意する。委員会は、女子の出生の過少報告を削減するための措置を締約国がとっていることに留意しながらも、登録の重要性に関する意識をさらに広げるための緊急措置をとるよう勧告する。人口の国内移動といった最近の変化に照らし、委員会は、締約国は、既存の登録制度が効果的なものかどうかについて再検討する可能性を検討するようにも勧告する。
38.子どもたち、とくに遺棄された子どもたちが、とくに里親託置および養子縁組を通じて家庭的な環境で成長できる可能性を促進するために、締約国はさらなる措置をとるべきであるというのが委員会の見解である。委員会は、また、締約国が、国内養子縁組を容易にする上で国内法が効果的なものになっているかどうかを評価するため、条約の原則および規定、とりわけ第20条および第21条に照らして、養子縁組に関する現行法の再検討を行なうようにも提案する。
39.締約国は、福祉施設における子どもたちの状況を改善するため、さらなる措置をとるよう促される。この点で、委員会は、条約の原則および規定、とくに第3条3項および第25条に、締約国の特段の注意を促したい。委員会は、このような施設の職員に施されている研修をさらに見直すよう、勧告する。研修は、養護を提供する上で最も効果的な教育的、専門的および子ども中心のアプローチを確保するという観点から見直されるべきである。職員が効果的に監督され、かつ、そのような施設の子どもたちの処遇が定期的に見直されるようにするための措置も必要とされている。締約国との対話の過程で提起されたその他の問題に照らし、委員会は、また、福祉施設を監視し、かつ、そのような施設に十分な財源を供給するための現行制度の見直しに関しても、さらに考慮するよう提案する。条約第4条、第23条、第24条、第28条および第45条にも照らしながら、委員会は、こうした問題に関する知識へのアクセスを容易にし、かつ、専門知識および経験を共有するという枠組みの中で、国連児童基金、世界保健機構および国連教育科学文化機関に対し、この点における締約国との協力を要請する可能性について、検討するよう提案する。
40.委員会は、チベット自治区その他のマイノリティ地域の子どもたちが自分たちの言語および文化に関する知識を発展させ、かつ、中国語を学習する機会を全面的に保障されるようにするための措置を再検討するよう、提案する。こうした子どもたちを差別から保護し、かつ、高等教育へのアクセスを平等に確保するための措置がとられるべきである。
41.委員会は、締約国が、上記20項で表明された懸念に対する建設的な対応を模索するよう勧告する。
42.委員会は、18歳未満の子どもたちの状況に関する点が指摘された、拷問禁止委員会によって採択された所見の内容に同意するものである。委員会は、少年司法に関わる締約国の現行法ならびに行政上の措置および手続を、条約、とりわけ第37条、第39条および第40条、ならびに、少年司法の運営の領域に関わる他の文書、とくに「北京規則」、「リャド・ガイドライン」および自由を奪われた少年の保護に関する国連規則の原則および規定と一致するようにするため、全面的に見直すよう勧告する。委員会は、この点に関して締約国が、〔国連〕人権センターを始めとする関連の国連機関に対し、援助を要請する可能性を検討するよう提案したい。
43.児童労働の問題に関しては、委員会は、締約国に対し、就業が認められるための最低年齢に関するILO第138号条約の締約国となる可能性を検討するよう奨励する。
44.最後に、委員会は、締約国の報告書、委員会における同報告書の議論および委員会が報告書の審査後に採択した総括所見を、最大限に広く普及するよう勧告する。
45.条約第44条4項の規定に照らし、委員会は、この総括所見のパラ18、21、22および23で提起された懸念に関して、委員会に対してさらに文書による情報を提供するよう要請する。委員会は、この情報を1997年12月までに受領することを望むものである。


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最終更新:2011年09月13日 10:09