総括所見:ベトナム(第1回・1993年)


CRC/C/15/Add.3(1993年2月18日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1993年1月19日および20日に開かれた第59回、第60回および第61回会合(CRC/C/Sr.60-61)においてベトナムの第1回報告書(CRC/C/3/Add.4)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1993年1月28日に開かれた第73回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、その報告書に関して、かつ高級レベルの代表団を通じて委員会との建設的かつ率直な対話に携わったことに関して、評価の意を表する。委員会は、ベトナムが条約への署名およびその批准を行ない、かつその実施に関する報告書を提出したアジアで最初の国であることに、満足感とともに留意するものである。委員会は、委員会のガイドラインにしたがって作成されたその報告書が包括的なものであることを評価する。
3.報告書、および議論の過程で締約国代表によって提供された詳細な追加情報により、子どもの権利条約およびそこに規定された人権水準に基づいて約束された義務を締約国が遵守しているかどうかについて、委員会は包括的な見解を得ることができた。

B.積極的な側面

4.委員会は、全国で条約の規定の実施を確保するためにベトナム政府が行なった努力に、満足感とともに留意する。国民議会により「子どもの保護、ケアおよび教育に関する法」および「初等教育の全国的普及に関する法」が1991年8月に制定されたこと、「ベトナム子ども年」(1989~1990年)が布告されたこと、「子どもの保護、ケアおよび教育に関する政令」の最初の10年間(1979~1989年)における実施および関連の活動の国家的見直しが行なわれたこと、および、新国民憲法において子どもの権利が明記されたこと──これらのすべての進展は、条約の実施に向けた重要な措置である。委員会は、子どものための世界サミットのフォローアップ措置として「子どものための国内サミット」が開かれ、かつ、同サミットによってベトナムの「子どものための国内行動計画 1991~2000年」案が承認されたことに、満足感とともに留意する。委員会は、条約の実施を監視するために、国レベルで「子どもの保護およびケアのための委員会」が設置され、かつ、州、地方および地域共同体レベルにおいてもそのような委員会が設置されたことをとくに重視するものである。

C.条約の実施を妨げる要因および困難

5.委員会は、ベトナムにおける中央計画経済から市場経済への移行が新たな社会問題を生み出しまたは旧来の社会問題を悪化させており、そのことが子どもの状況に悪影響を与えていることに留意する。同国のへき地における古くからの伝統も、条約の規定の適用を困難にさせているものである。委員会は、ベトナム政府が条約の実施を阻害している既存の困難をよく承知していることに留意し、かつ、この点に関する報告書の率直さおよび開かれた姿勢をおおいに評価する。委員会はさらに、政府が、こうした困難な状況にあっても子どもの問題が可能なかぎり最高の優先順位で扱われることを確保するために、国内的および国際的行動を通じてあらゆることをする旨の決意を表明したことに留意するものである。

D.主要な懸念事項

6.委員会は、ベトナムで進行している経済改革が子どもの状況に与える悪影響に懸念を表明する。委員会はまた、さまざまなマイノリティ・グループに属する子ども、とくに同国の山岳部で暮らしている子どもの状況も懸念するものである。委員会は、国内の刑事法制において非行を行なった子どもの長期の収監が規定されていることは条約第37条に一致しないこと、および、刑法に違反したとして申し立てられまたは罪を問われているすべての子どもは条約第40条で構想されている保障を認められるべきであることに、留意する。委員会はまた、同国の一部地域に偏見が根強く残っているために女性および女子に対する差別が生じていることにも懸念を表明するものである。非都市部における子どもの状況は、たとえば保健および教育の可能性との関わりで一般的な懸念の対象となる。路上で暮らしかつ(または)働いている子ども、子ども売買春および子どもポルノグラフィーの数が増加していることも、条約の実施に関するかぎり法執行官に対して充分な訓練が行なわれていないことと同様に、懸念の対象である。

E.提案および勧告

7.委員会は、ベトナム政府が、経済改革がもっとも傷つきやすい立場に置かれたグループ、すなわちベトナム社会の子どもに与える悪影響を最小限のものとするために、国内的に、かつ国際的な援助および協力も利用しながら、あらゆる必要な措置をとることがとりわけ重要であると考える。さまざまなマイノリティ・グループに属する子ども、非都市部で暮らす子どもおよび都市部において路上で暮らしかつ(または)働いている子どもたちに特段の注意が払われるべきである。最後の点に関しては、この現象の根本的原因をさらに研究し、かつ、この問題を解決するための適切な戦略を発展させる必要があると思われる。
8.条約第37条、第39条および第40条ならびに法執行官行動綱領ならびに北京規則、リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する〔国連〕規則のようなこの分野における他の国際基準の規定を充分に反映させるため、刑法が適切な形で改正されるべきである。これとの関連で、委員会は、〔国連〕人権センターがベトナムで法執行官のための訓練コースを開催するよう勧告する。
9.子どもの権利の保護に関する世論の感受性を増進するため、条約の本文がすべてのマイノリティ・グループの言語に翻訳され、かつ可能なかぎり広く普及されべきである。青少年組織および非政府組織は、条約に関する意識を全国で喚起するために積極的な役割を果たすことができる。
10.委員会は、条約第44条4項にしたがい、少年司法に関する追加的情報を、委員会の会期前作業部会がその情報を検討し、秋の会期で委員会に報告することを可能にするため、1993年6月までに委員会に提出するよう提案した。ベトナム政府によって委員会に提出された報告書および委員会の議事録を国内で刊行し、かつ可能なかぎり広く普及することが勧告されるところである。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年9月9日)。
最終更新:2011年09月09日 07:41