総括所見:モルディブ(OPSC・2009年)


CRC/C/OPSC/MDV/CO/1(2009年3月4日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2009年1月26日に開かれた第1390回会合(CRC/C/SR.1391) においてモルディブの第1回報告書(CRC/C/OPSC/MDV/1)を検討し、2009年1月30日に開かれた第1398回会合(CRC/C/SR.1398)において以下の総括所見を採択した。

2.委員会は、提出の遅れを遺憾に思いつつも、締約国の第1回報告書が提出されたことを歓迎する。委員会はさらに、事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/OPSC/MDV/Q/1/Add.1)を歓迎するとともに、ハイレベルなかつ多部門型の代表団との間に持たれた建設的対話を評価するものである。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、締約国の第2回・第3回定期報告書に関して2007年6月8日に採択された以前の総括所見(CRC/C/MDV/CO/3)、および、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して2009年1月30日に採択された総括所見(CRC/C/OPSC/MDV/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。

I.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、2008年8月に採択された新憲法の第35条で子どもの特別な保護に言及されていることを歓迎する。

II.データ

5.委員会は、違反を登録する全国的データベースを発展させるための努力に留意する。しかしながら委員会は、売買、児童買春および児童ポルノに関する、年齢、性別、マイノリティ集団および出身ごとに細分化されたデータがないことを懸念するものである。具体的には、委員会は、被害者数、通報された事件、捜査、加害者の制裁ならびに被害者の回復および再統合のための措置についての情報がないことを遺憾に思う。
6.委員会は、選択議定書で対象とされている分野に関する、とくに年齢、性別、マイノリティ集団および出身ごとに細分化されたデータが体系的に収集されかつ分析されることを確保するため、締約国が、全国的データベースの設置を速やかに進めるよう勧告する。このようなデータは、政策の実施状況を数値により評価するための必須手段を提供してくれるからである。

III.実施に関する一般的措置

留保
7.委員会は、子どもの権利条約への署名時に第12条および第21条に付された留保を遺憾に思うとともに、対話の際に締約国が留保の撤回の意思を明らかにしたことは積極的対応として認知しながらも、締約国の第2回・第3回定期報告書の検討(CRC/C/MDV/CO/3、パラ10)以降、締約国の留保の撤回またはその範囲の限定についてまったく進展が見られないことを懸念する。
8.委員会は、締約国が、1993年6月25日に世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画(A/CONF.157/23)にしたがい、留保を撤回または限定の方向で見直すべきである旨の前回の勧告を、あらためて繰り返す。
選択議定書の実施の調整および評価
9.委員会は、最近省庁再編が行なわれ、かつ、子どもの権利に関する問題を調整する責任がジェンダー家族省から保健家族省に移管されたことに留意する。委員会は、このような変更によって子どもの権利に関する活動の継続性に影響が生じる可能性があることを懸念するものである。
10.委員会は、締約国が、子どもの権利およびとくに選択議定書の調整のあり方を可能なかぎり早期に見直すとともに、選択議定書の効果的実施を確保するため、担当機関に対して明確な権限ならびに十分な人的資源および財源が与えられることを確保するよう、勧告する。
国家的行動計画
11.委員会は、選択議定書が子どもに関する国家的行動計画で取り上げられているかどうかに関する情報がないことを遺憾に思う。
12.委員会は、締約国に対し、子どもに関する包括的な国家的行動計画を採択しかつ実施するとともに、当該計画において両選択議定書および子どもの権利条約の両方が考慮されることを確保するよう、勧告する。
普及および研修
13.委員会は、法執行官および司法関係者を対象として若干の研修活動が実施されてきたことに留意する。しかしながら委員会は、司法関係者を含む専門家を対象とした研修がいまなお不足していること、および、選択議定書の規定に関する公的意識啓発活動がいまのところきわめて限られていることを、遺憾に思うものである。
14.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) とくに学校カリキュラムおよび長期的意識啓発キャンペーンを通じて、選択議定書の規定をとくに子ども、その家族およびコミュニティに対して広く知らせること。
  • (b) 選択議定書第9条2項にしたがい、あらゆる適当な手段による広報、教育および研修を通じて、防止措置および選択議定書に掲げられたすべての犯罪の有害な影響に関する公衆一般(子どもを含む)の意識を促進すること。そのための手段には、このような広報、教育および研修のためのプログラムへの、コミュニティならびにとくに子どもおよび被害を受けた子どもの参加を奨励することも含まれる。
  • (c) 選択議定書に関わる問題についての意識啓発活動および研修活動を支援するため、NGO、市民社会組織およびメディアとのさらなる協力を発展させること。
  • (d) すべての専門家集団、とくに、司法業務委員会を通じて司法関係者を対象とした、および、選択議定書が対象とする犯罪の被害を受けた子どもとともに働く法執行官を対象とした、選択議定書の規定に関する、ジェンダーに配慮した教育および研修を継続しかつ強化すること。
資源配分
15.委員会は、刑事捜査、法的援助ならびに被害者の身体的および心理的回復ならびに再統合のための人的資源および財源が用意されていないことを、遺憾に思う。
16.委員会は、締約国が、選択議定書の規定に関するプログラムの実施ならびにとくに刑事捜査、法的援助ならびに被害者の身体的および心理的回復のための人的資源および財源を使途指定の形で関連の公的機関および市民社会組織に提供する等の手段により、調整、防止、促進、保護、ケア、選択議定書で対象とされている行為の捜査および抑止のための予算配分を増額するよう、勧告する。
独立の監視
17.委員会は、モルディブ人権委員会の権限上、条約および選択議定書の違反に関する子どもからのまたは子どもに代わっての苦情を同委員会が受理できるとされていること、および、人権委員会が活動のなかで子どもの権利を重視してきたことを、歓迎する。委員会は、人権委員会が、予算および任命手続の面でその独立性を行使するにあたり課題に直面する可能性があることを、懸念するものである。
18.委員会は、モルディブ人権委員会が、人権の促進および保護のための国内機関に関する原則(パリ原則、国連総会決議48/134付属文書)にしたがい、権限を与えられた活動を余すところなく履行できるようにするため、締約国が、同委員会に対して十分な人的資源および財源が配分されることを確保するよう、勧告する。委員会は、締約国が人権委員会の独立性を尊重し、かつ予算配分および委員の任命に関して不当に干渉しないことの重要性を強調するものである。委員会は、人権委員会が子どもの悩みに正当な注意を払えるようにすること(そのための手段としては、たとえば、子どもが地方レベルで容易にアクセスできるようにし、かつ、子どもによるまたは子どもに代わっての苦情に、十分な訓練を受けた職員が子どもに配慮したやり方で対応することを促進する目的で子どもの権利部を設けることなどがある)、および、事案が公的機関に付託された場合に人権委員会によるフォローアップが行なわれることを確保する目的で、締約国が、子どもの権利の保護および促進における独立した国内人権機関の役割に関する委員会の一般的意見2号(2002年)を考慮するよう勧告する。
市民社会
19.委員会は、市民社会との継続的連携を歓迎するとともに、締約国に対し、とくに総括所見の実施および達成された進展の評価との関連で、かつ条約および両選択議定書に基づく次回の報告のプロセスを背景として、そのようなパートナーシップをさらに強化するよう奨励する。

IV.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止(第9条1項および2項)

選択議定書に掲げられた犯罪を防止するためにとられた措置
20.委員会は、モルディブ警察内に子ども保護部が設けられていることに積極的対応として留意しつつも、これが子どもにとって十分にアクセスしやすいものとなっておらず、かつ十分な人的資源および財源を欠いていることを、懸念する。
21.委員会は、締約国が、モルディブ警察内の子ども保護部に子どもがアクセスでき、かつこれに十分な人的資源および財源が提供されることを確保するよう、勧告する。
22.委員会は、締約国が児童買春の防止のための十分な措置をとっていないことを懸念する。委員会は、薬物濫用と児童買春との結びつきに関する締約国報告書の情報について懸念を覚えるものである。委員会はさらに、対話の際に締約国が指摘したように、観光の割合が高まっており、かつそのことが児童買春と結びついている可能性があることを、懸念する。
23.委員会は、締約国が、薬物濫用と闘うために追加的な防止措置をとるよう勧告する。さらに委員会は、締約国が、地域における子どもセックス・ツーリズムの増加のような既存のリスク要因に特段の注意を払うとともに、旅行および観光における商業的性的搾取からの子どもの保護に関して世界観光機関が定めた行動規範の遵守を向上させる目的で、この点に関するモルディブ観光振興委員会(MTPB)および観光業者と引き続き連携するべきである旨の、2007年の勧告(CRC/C/MDV/CO/3、パラ93)をあらためて繰り返すものである。

V.子どもの売買、児童買春および児童ポルノならびに関連する事項の禁止(第3条、第4条2項および3項、第5条、第6条および第7条)

現行刑事法令
24.委員会は、選択議定書上のすべての犯罪が犯罪化されている、すなわち刑法に編入されているわけではないことを懸念する。さらに委員会は、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもが、10歳という低い年齢から、シャリーア法にしたがって犯罪者とされる可能性があること(ジナ〔婚外性行為〕の罪を含む)を懸念するものである。委員会は、法人の責任に関する情報がないことを遺憾に思う。
25.委員会は、締約国が、現在行なわれている法改正を速やかに進め、刑法を選択議定書第2条および第3条に全面的に一致させるよう、勧告する。
26.さらに委員会は、締約国が、国連・国際組織犯罪防止条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための選択〔ママ〕議定書、最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関するILO第182号条約(1999年)、および、国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関するハーグ第33号条約を批准するよう、勧告する。
裁判権
27.委員会は、選択議定書上の犯罪が刑法に編入されていないことにより、選択議定書上の犯罪が他国でモルディブ国民に対して行なわれた場合の、当該犯罪に関する締約国の裁判権の設定が妨げられていることを、遺憾に思う。
28.委員会は、締約国が、選択議定書第4条にしたがって犯罪についての裁判権を効果的に設定できるようにするため、必要なあらゆる法律上および実務上の措置がとられることを確保するよう、勧告する。

VI.被害を受けた子どもの権利の保護(第8条ならびに第9条3項および4項)

選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
29.委員会は、さまざまな環礁に社会保護センターが設置されたことに積極的対応として留意する。しかしながら委員会は、選択議定書上の犯罪の被害を受けた子どもが犯罪者として扱われる可能性があることを懸念するものである。具体的に、委員会は、裁判手続において被害を受けた子どものニーズが考慮されていないこと、被害者に対する補償が利用可能とされていないこと、および、再統合および回復のための措置が不十分であることを、懸念する。委員会はさらに、子どもヘルプラインの設置が進められていることに留意しつつも、締約国の第2回・第3回定期報告書の検討(CRC/C/MDV/CO/3、パラ62)以降、この点に関する進展が見られないことを遺憾に思うものである。
30.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書上のいかなる犯罪の被害を受けた子どもも犯罪者として扱われないことを確保するため、速やかな法改正を含むあらゆる必要な措置をとること。
  • (b) 性的搾取の被害を受けた若年者について、疑いがあるときは成人ではなく子どもと推定すること。
  • (c) 被害を受けた子どもの法的代理を向上させるため、権限のある公的機関に対して十分な財源および人的資源を配分すること。
  • (d) 選択議定書第9条4項にしたがい、選択議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできることを確保すること。
  • (e) とくに被害者である子どもに対して分野横断的援助を提供することにより、選択議定書第9条3項にしたがって社会的再統合ならびに身体的および心理社会的回復のための措置を強化する目的で、使途指定をともなう資源の配分が行なわれることを確保すること。
  • (f) フリーダイヤルの子どもヘルプラインを設置するプロセスをいっそう速やかに進めること。
31.委員会は、選択議定書第8条にしたがい、被害を受けた子どもは刑事司法手続のあらゆる段階で保護されるべきであることに留意する。委員会は、締約国に対し、この点について子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての指針(経済社会理事会決議2005/20)を指針とするとともに、具体的に以下の措置をとるよう奨励する。
  • (a) 被害者である子どもの個人的利益に影響がある手続において、当該子どもの意見、ニーズおよび関心事が提示されかつ考慮されることを可能にすること。
  • (b) 裁判手続中の困難から子どもを保護するため、子ども向けに設計された特別事情聴取室および子どもに配慮した事情聴取法を用いることならびに事情聴取、陳述および聴聞の回数を減らすこと等の手段によって、子どもに配慮した手続を活用すること。

VII.国際的な援助および協力

国際的援助
32.委員会は、締約国が、被害者への援助の提供および専門家を対象とした研修を目的として、とくに選択議定書の規定の実施に関わる協力プロジェクトへの国際的支援を求めるよう、勧告する。
法執行
33.委員会は、選択議定書第3条1項に定められた犯罪に関する刑事手続のあらゆる段階で、すなわち摘発、捜査、訴追、処罰および犯罪人引渡しの手続において締約国が行なっている援助および協力について、不十分な情報しか提供されていないことに留意する。
34.委員会は、締約国に対し、この点に関するいっそう詳しい情報を次回の報告書で提供するよう、奨励する。

VIII.フォローアップおよび普及

フォローアップ
35.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を閣僚評議会および国民議会(マジリス)の構成員ならびに適用可能なときはすべての環礁に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
36.委員会は、条約〔ママ〕、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびに採択された関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、メディア、若者グループ、専門家グループが広く入手できるようにすることを勧告する。さらに委員会は、締約国が、とくに学校カリキュラムおよび人権教育を通じ、選択議定書を子どもおよびその親に広く知らせるよう勧告するものである。

IX.次回報告書

37.第12条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約に基づく第4回・第5回統合定期報告書(提出期限・2011年9月12日)に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年4月20日)。
最終更新:2012年04月20日 15:54