総括所見:モルディブ(第1回・1998年)


CRC/C/15/Add.91(1998年6月24日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1998年5月28日および29日に開かれた第468回~第470回会合(CRC/C/SR.468-470)においてモルディブの第1回報告書(CRC/C/8/Add.23 and 37)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1998年6月5日に開かれた第477回会合において。

A.序

2.委員会は、締約国に対し、第1回報告書および事前質問事項(CRC/C/Q/MAL.1)に対する文書回答の提出したことに関して謝意を表する。委員会は、締約国の代表団との率直な、自己批判的なかつ建設的な対話に心強い思いを感ずるものである。委員会はまた、条約の実施に直接携わっている高い地位にある代表団が出席したことにより、委員会が締約国における子どもの権利の状況を評価することが可能になったことも認識する。

B.積極的な側面

3.委員会は子どもの権利保護法(法第9/91号)の制定に留意する。これは、この領域におけるさらに包括的な立法の発展の基盤となるものである。
4.委員会は、国内行動計画が設定した目標の監視を担当する「子どもの権利の保護のための国家評議会」が設置されたこと、および、締約国における条約の実施を担当する「子どもの権利部」(URC)が女性問題社会福祉省に設置されたことを、歓迎する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

5.委員会は、締約国が特有の性格を有していること、1190の島々から構成され、かつそのうち約200の島々にしか人が住んでいないという地形であること、人口が比較的少なく、かつそれが多様でありかつ点在する多くの共同体によって構成されていること、および、経済構造が変化しておりかつ人口が急速に増加していることに、留意する。

D.主要な懸念事項

6.委員会は、締約国が条約第14条および第21条に付した留保が、これらの条文で保障された権利の実施に影響を与える可能性があることを懸念する。
7.委員会は、子どもの権利保護法(法第9/91号)その他の国内法を、条約のホリスティックな性格を考慮に入れながら、その原則および規定と全面的に調和させる必要があることに関して、懸念を表明する。
8.既存の調整機構については承知しながらも、委員会は、条約が対象とするすべての領域、とくに施設ケアのもとで暮らす子ども、女子および点在する島々に暮らす子どものようなもっとも傷つきやすい立場に置かれたグループの子どもに関して、体系的かつ包括的な、細分化もなされている量的および質的データの収集が不十分であることを懸念する。
9.委員会は、条約が対象とするあらゆる領域において、かつ都市部および農村部のあらゆるグループの子ども、とくにもっとも脆弱な立場に置かれた子どもとの関わりで、進展を監視することをとくに目的とした機構が存在しないことを懸念する。
10.条約第4条に関して、委員会は、条約で認められたすべての権利の実施のために利用可能な財源および人的資源が、締約国における子どもの状況の向上に関して十分な進展を確保するためには不十分であることを懸念する。
11.委員会は、子どものための政策およびプログラムの立案および実施において市民社会の参加が欠けていることを懸念する。
12.条約を普及し、かつ子どものためにおよび子どもとともに働く専門家に対して条約の規定および原則に関する養成および研修を行なうために締約国が努力していること、および、条約がモルディブ語(ディベヒ語)に翻訳されたことは認めながらも、委員会は、これらの措置はなお不十分であるとの見解に立つものである。
13.委員会は、16歳以上18歳未満の子どもの地位が不明瞭であることを懸念する。これとの関連で、委員会はとくに、婚姻および刑事責任に関する最低年齢が低いことを懸念するものである。
14.委員会は、締約国が、その立法、行政上および司法上の決定ならびに子どもに関わる政策およびプログラムにおいて、条約の規定、とくに第2条(差別の禁止)、第3条(子どもの最善の利益)、第6条(生命、生存および発達への権利)および第12条(子どもの意見の尊重)に掲げられた一般原則を全面的に考慮に入れていないように思えることを、懸念する。
15.条約第2条の実施に関して、委員会は、女子および障害児が条約で認められた権利を全面的に享受することを確保するためにとられた措置が不十分であることを懸念する。委員会はまた、婚外子の状況も、とくに相続権との関わりで懸念するものである。さらに、委員会は、首都の置かれているマレ島に暮らす子どもと離島に暮らす子どもとの間に格差があることに懸念を表明する。
16.子どもの不当な取扱いの防止のために締約国が行なっている努力は承知しながらも、委員会は、家庭の内外における性的虐待を含む不当な取扱いおよび虐待に関して意識が不十分でありかつ情報が存在しないこと、法的保護措置が不十分であること、財源および人的資源のいずれも不適切であること、ならびに、このような虐待を防止しかつそれと闘うための十分に訓練された職員が存在しないことを、懸念する。そのような子どものためのリハビリテーションの措置が不十分であること、および、司法に対するそのような子どものアクセスが限られていることも、懸念の対象である。
17.委員会は、締約国において離婚率が高いこと──世界最高に数えられると考えられる──およびそのことが子どもに悪影響を与える可能性があることを、懸念する。委員会はまた、離婚および早期婚が子どもに与える有害な結果についての調査および研究が存在せず、かつ、離婚の有害な影響に関して公衆の意識を喚起するための措置が不十分であることも、懸念するものである。
18.委員会は、家庭環境を奪われた子どもの代替的養護の措置が不十分であることに懸念を表明する。
19.乳児死亡率を削減しかつ子どもの予防接種を増加させるための締約国の努力にも関わらず、委員会は、栄養不良(発育阻害および鉄分の欠乏)が蔓延していること、妊産婦死亡率が高いこと、ならびに、安全な水および十分な衛生設備へのアクセスが限られていることを懸念する。委員会はまた、青少年の健康の問題に関しても、とくに若年妊娠率が高くかつ増加していること、リプロダクティブ・ヘルスに関する教育およびサービスに10代がアクセスできていないこと、ならびに、HIV/AIDSの予防措置が不十分であることを、懸念するものである。さらに委員会は、とくに保健施設において、子どもの母乳育児を促進するための措置が不十分であることに懸念を表明する。
20.障害児の状況に関して、委員会は、保健、教育および社会サービスへの彼らの効果的なアクセスを確保し、かつ社会へのその全面的インクルージョンを促進するために締約国がとった措置が不十分であることに懸念を表明する。委員会はまた、障害児とともにおよび障害児のために働く、十分に訓練された専門家の人数が少ないことも懸念するものである。
21.初等学校への就学の領域における締約国の達成は承知しながらも、委員会は、教育が法律によって義務的とされていないこと、初等学校と中等学校の間における脱落率が高いこと、訓練された教職員が不足していること、中等学校への就学に関してジェンダーによる格差が存在すること、および、首都とその他の島々との間で教育へのアクセスに格差があることを、依然として懸念する。
22.薬物リハビリテーション部を設置する計画があることは承知しながらも、委員会は、締約国の子どもにますます影響を与えている薬物濫用の問題に取り組むためにとられた措置が不十分であることに、懸念を表明する。
23.委員会は、児童労働および性的搾取を含む経済的搾取の台頭を避けるための、法的措置も含めた防止措置が不十分であることに懸念を表明する。委員会はまた、児童買春、児童ポルノならびに子どもの取引および売買に関して、法的措置を含む防止措置がとられていないことも懸念するものである。
24.少年司法の運営が刑法および子どもの権利保護法によって規制されていることには留意しながらも、委員会は、そのような立法が、条約第37条、第40条および第39条ならびに少年司法の運営に関する国連最低基準規則(北京規則)、少年司法の防止に関する国連指針(リャド・ガイドライン)および自由を奪われた少年の保護に関する国連規則のような他の関連の基準と全面的に両立するかどうかについて、懸念する。罪を犯した16歳未満の少年は特別な司法手続を享受することは承知しながらも、委員会は、成人と見なされる16以上18歳未満の者の状況に関してとくに懸念するものである。

E.提案および勧告

25.1993年6月に世界人権会議によって採択され、子どもの権利条約に対する留保の撤回を各国に奨励したウィーン宣言および行動計画に照らし、委員会は、締約国に対し、条約に対する留保を撤回の方向で見直すことを検討するよう勧告する。
26.委員会は、締約国に対し、立法が条約の原則および規定と全面的に一致することを確保する目的で、その包括的改正を行なうよう勧告する。
27.委員会は、締約国に対し、市民的および政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約および拷問および他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁ずる条約を含む、他のすべての主要な国際人権条約に加入するよう奨励する。これらはすべて子どもの権利に影響を与えるものである。
28.委員会は、締約国が、子ども調整委員会の活動を強化しかつ拡大するよう勧告する。委員会はまた、締約国が、脆弱な立場に置かれた集団に属する子どもを含め、条約が対象とするさまざまな領域における子どもの状況に関するあらゆる必要な情報を収集するために、細分化されたデータを収集する包括的システムを発展させるようにも勧告するものである。委員会は、締約国に対し、この目的でとくにユニセフの国際協力を求めるよう奨励する。
29.委員会は、締約国に対し、とくに社会のもっとも脆弱な立場に置かれた集団を対象として条約の実施を全面的に監視するため、独立した機構の設置を検討するよう奨励する。
30.条約第4条の実施に関して、委員会は、締約国に対し、条約に掲げられたすべての権利を実施するための追加的資源について国際協力を求める可能性を検討するよう奨励する。
31.条約の実施における、市民社会のあらゆる層とのパートナーシップを増進させるため、委員会は、締約国に対し、子どもに対応する非政府組織の設置を促進し、かつそのような非政府組織と協力するよう強く奨励する。
32.委員会は、締約国に対し、条約の原則および規定を普及し、かつ子どもとともにおよび子どものために働くあらゆる専門家集団の研修を行なうための努力を継続するよう奨励する。委員会は、締約国が、これとの関連でとくに〔国連〕人権高等弁務官事務所およびユニセフの援助を求めるよう提案するものである。
33.委員会は、締約国が、現行では16歳とされている子どもの定義の法定年齢を引き上げるよう勧告する。これとの関連で、婚姻および刑事責任に関する最低法定年齢が見直されるべきである。
34.条約の一般原則(第2条、第3条、第6条および第12条)が、政策に関する意思決定の指針となるのみならず、いかなる司法上および行政上の手続においても、かつ子どもに影響を与えるあらゆる事業、プログラムおよびサービスの発展および実施においても適切に反映されることを確保するために、さらなる努力が行なわれるべきであるというのが委員会の見解である。
35.委員会は、条約第2条で規定された差別の禁止の原則が全面的に実施されるよう勧告する。女子、障害児、離島に暮らす子どもおよび婚外子に対する差別を解消するため、より積極的なアプローチがとられるべきである。委員会は、締約国に対し、女性に関する国家政策を制定しかつ実施するよう奨励する。このような政策は、女子の地位に積極的な影響を与える可能性がある。
36.条約第19条に照らし、委員会は、締約国が、家庭における不当な取扱いおよび子どもの性的虐待を防止しかつそれと闘うためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。委員会はとくに、公的機関が、あらゆるタイプの児童虐待を防止し、かつ被害を受けた子どものリハビリテーションを行なうための社会プログラムを確立するよう提案するものである。このような犯罪に関して、法律の執行が強化されなければならない。特別な証拠規則および特別調査官またはコミュニティ窓口のような、児童虐待の苦情に対応するための十分な手続および機構が発展させられるべきである。
37.委員会は、締約国が家族法の制定を速めるよう勧告する。委員会はまた、締約国が、家庭の崩壊が子どもに与える悪影響についての調査および研究を行ない、かつこの問題に関する意識啓発キャンペーンを継続するようにも勧告するものである。さらに委員会は、締約国に対し、親を対象としたカウンセリング・サービスを向上させるよう勧告する。
38.条約第20条3項に照らし、委員会は、締約国が、家庭環境を奪われた子どものためにカファラのような代替的養護の措置を確立することを考慮するよう勧告する。
39.委員会は、締約国が、とくにリプロダクティブ・ヘルスに関する教育およびカウンセリング・サービスを強化し、かつHIV/AIDSと闘うための予防措置を向上させることによって、青少年の健康に関する政策およびプログラムを促進するよう勧告する。委員会はさらに、早期婚の悪影響も含む青少年の健康上の問題現象の規模を理解するため、包括的かつ学際的な研究を行なうよう提案するものである。委員会はまた、青少年の健康上の問題の予防およびケアならびに被害者のリハビリテーションのために、青少年およびその家族を対象としたカウンセリング・サービスの発展のようなさらなる努力を、財政面および人材面のいずれにおいても行なうようにも勧告する。
40.障害者の機会均等化に関する標準規則(総会決議48/96)に照らし、委員会は、締約国が、障害を予防するための早期発見プログラムを発展させ、障害児の施設措置に代わる措置を実施し、障害児に対する差別を減らすための意識啓発キャンペーンを構想し、特別教育のプログラムおよびセンターを設置し、かつ社会へのそのインクルージョンを奨励するよう勧告する。委員会はまた、締約国に対し、障害の原因についての調査を行なうようにも勧告するものである。委員会はさらに、締約国が、障害児とともにおよび障害児のために働く専門職員の研修のために技術的協力を求めるよう勧告する。この目的で、とくにユニセフおよび世界保健機構の国際協力を求めることが可能である。
41.条約第28条に関して、委員会は、締約国に対し、初等教育を義務的なものにし、かつすべての者に対して無償とすること、学校教職員の養成および研修を行なうこと、ならびに、女子および離島に暮らす子どもを含むもっとも脆弱な立場に置かれたグループの子どもの教育へのアクセスを向上させることを、勧告する。委員会は、締約国に対し、とくにユニセフおよびユネスコの国際的援助を求めることを検討するよう勧告するものである。
42.委員会は、条約第32条および他の関連の国際文書の規定を全面的に実施するために、法改正も含む防止措置をとるよう勧告する。
43.条約第34条に照らし、委員会は、ポルノグラフィー、売買春、取引および売買によるものも含む子どもの性的搾取を防止しかつそれと闘うため、法改正も含む防止措置をとるよう勧告する。
44.条約第24条、第33条および第39条に照らし、委員会は、締約国に対し、子どもによる薬物および有害物質の濫用を防止しかつそれと闘うための努力を強化すること、および、学校内外における広報キャンペーンを含むあらゆる適切な措置をとることを勧告する。委員会はまた、締約国に対し、薬物および有害物質の濫用の被害を受けた子どものためのリハビリテーション・プログラムを支援するようにも奨励するものである。これとの関連で、委員会は、締約国に対し、とくにユニセフおよび世界保健機構の技術的援助を求めることを検討するよう奨励する。
45.少年司法の運営に関して、委員会は、条約、とくに第37条、第40条および第39条、ならびに、北京規則リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護に関する国連規則のようなこの領域における他の関連の国際基準の規定を全面的に統合するため、締約国が、子どものための特別手続の採択を速めるよう勧告する。とりわけ委員会は、現在は成人と見なされている16歳以上18歳未満の子どものための特別手続を設けること、子どものための特別裁判所を設置すること、および、ケア・センターの子どもを対象とした法律相談の提供について再検討を行なうことを、勧告するものである。さらに委員会は、締約国に対し、少年司法に関する調整委員会を通じて、とくに〔国連〕人権高等弁務官事務所、国際犯罪防止センター、国際少年司法ネットワークおよびユニセフの国際的援助を求めることを検討するよう勧告する。
46.最後に、条約第44条6項に照らし、委員会は、締約国が提出した第1回報告書および文書回答を公衆一般が広く入手できるようにし、かつ、関連の議事要録および委員会がここに採択した総括所見とともに同報告書を刊行することを検討するよう、勧告する。そのような幅広い配布は、政府、議会および市民社会の間で、条約ならびにその実施および監視に関する議論および意識を喚起するようなものであるべきである。


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最終更新:2012年04月20日 15:40