それでもなお、あきらめを踏破するのなら

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それでもなお、あきらめを踏破するのなら ◆lDtTkFh3nc


闇に底があるなら、きっとこんな所なんだろう。

そんな言葉を思い出しながら、1人の男が歩く。

「…人類を抹殺する化け物の次は、殺し合いを求める神か。アンコールのナンバーとしてこれ以上の物はないな。」

呟きながらも、耳を澄ます。もはやこれは反射に等しい行動となっていた。
男の名はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。
魔人集団GUNG-HO-GUNSの7番手にして、あらゆる「音」を支配する「音界の覇者」。
彼がこの殺し合いに巻き込まれて抱いた感情は、『絶望』の二文字だった。

彼は、死んだはずだった。
人類全てを滅ぼす災厄、ミリオンズ・ナイブズから逃げ出す為に、その弟ヴァッシュ・ザ・スタンピードと戦うも、仕留め損ねた。
そればかりか、そのナイブズに異常なまでの忠誠を誓うレガート・ブルーサマーズの介入を許し、逃げ場を失う。
その果てに彼は反逆の牙を剥いたものの、それは突き立てられることなく終わってしまった…ハズだった。
なのに、なぜ自分はこんな場所にいる?

GUNG-HO-GUNSに所属していた時、常に恐怖を感じていた。
いずれ人類全てを抹殺しようというナイブズと、その狂信者レガート。
そんな連中の下で戦うということは、その力を振るうたびに自分の死が近づいてくる事になる。
だが逆らえば殺される。
バカバカしい話だった。往くも死、退くも死…どこにも逃げ場などなかったのだから。
死によって、少なくともその悪夢のような日々だけは終わったと思ったのに…
神は、それすらも許してくれなかった。

まさしくここは、闇の底だ。

この殺し合い、おそらく勝利したところで何も得られはしまい。
本当に生きて帰してくれるかも怪しいものだ。これは、直感的な感想だった。

しかしその上でミッドバレイが選んだ選択は、この下らないゲームに乗ることだった。
無駄な抵抗をしても虚しいだけだ。あの時説明をしていた連中が人間ではないのは明白。
次元の異なる化け物に抗っても無駄なことは、自分が誰より知っている。
しょせん人間は、盤上で自分の定められたパートを忠実に演じるしかないのだ。

どの道、出口の無い死であるのなら…

だから、彼の人並みはずれた聴力が『女』の微かな足音を捉えた時、彼は迷わずそちらに向かっていた。
その手に銃を握り締めて。


その『女』は大きなおさげで、やや幼く見える外見をしていた。
まぁ、相手の特徴など関係ない。暗闇に身を潜め、機を窺う。
そして、一気に飛び出し、銃を突きつけた。

「動くな。」

後頭部に突きつけるつもりだったが、思いのほか速く相手が反応し、顔を向けられてしまった。
まぁ、どうせ殺すのだ。顔を見られたところで問題は無い。

「…参りましたね。やめてもらえませんか?」
「脅しだと思うなよ。すぐ撃たないのは情報が欲しいからだ。何も役に立たないようならすぐに殺す。」

思ったより冷静に対処する。心音にも大した乱れがない。見た目からただの一般人だと思っていたが…
もしかすると修羅場慣れしているのかもしれない。

「殺し合いに、乗るつもりですか?」
「質問するのは俺だ、お嬢さん。お前、ここで俺の他に誰かと会ったか?」
「いいえ、あなたが初めてです。」

やはり、か。自分自身、目を覚ましてからさほど時間は経っていない。
自分がよほど寝坊をしたのでなければ、大半の人間がまだ、誰とも会っていないか、ファーストコンタクトがせいぜいだろう。
それならこの『女』にもう用は無いな、と考えていると…

「…そうです、“初めて”なんです。女性の“初めて”をこんな乱暴なやり方で奪うなんて、男として最低ですよ?」
「…くだらん事を喋るな。そういう気分じゃない。」

なんなんだ、この『女』は。殺し合いの場に放り込まれて、見知らぬ男に銃を突きつけられ、なぜこんな態度を取れる?
態度だけじゃない。強がりじゃなく、心底冷静なのが心音や呼吸音からわかってしまう。

「…嫌な目をしてますね。絶望に囚われた目です。」
「余計なお世話だ。生憎と絶望とは付き合いが長くてな。お前以上に理解している。」

『女』の目つきが変わる。射抜くような視線だが、こちらも伊達に修羅場をくぐっちゃいない。こんなことで怯みはしない。

「…死ぬのが怖いんですか?」

言葉の1つ1つが気に障る『女』だ。今こんな話をしてどうなるというのか。

「…それはそうだが、それだけじゃない。こんなゲーム、勝っても負けてもどうせ死ぬんだ。抵抗するだけ無駄だろう?」

なぜ、まともに相手にしてしまったのだろうか。我ながらそう思う。
付け入る隙を与えてしまったと思った時には、もう遅かった。

「わかってるんじゃないですか。殺し合いに乗ったって、助かる見込みは薄いって事に。
立ち向かうことは、無駄なんかじゃありませんよ。少なくとも私はそう思います。」

『女』が怒涛のように言葉を被せてくる。

「諦めてしまえばそこでおしまいですよ?なぜ自分の力を信じないんですか?
 見たところ戦い慣れしているみたいですし、その力、別の方向に活かそうとどうして思えないんですか!」

耳障りだった。今さら何を言う。

ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークはリアリストだ。
現実的な考え方をして、それに従って生きてきたし、その為に他人の命を奪う事など星の数ほど経験していた。
今さら夢や希望を語るなど、唇を火傷するだけだ。

「自分で経験し、知っているからさ。あの手の連中には、人間は決して歯が立たない。
 夢や希望じゃ、運命ってヤツは覆らん。」
「でも、私はそれを覆そうとしている人を知っています。」

そこで『少女』の表情が変わった。浮かんでいるのは満面の笑み。

「その人は、自分を信じているわけでもなく、ただ負けてたまるかと意地を張ってるだけです。
 でも、決して諦めることなく、人の手ではどうしようも無い運命に立ち向かっています。」
「素敵な話だ。俺には眩しいほどな。だがここは殺し合いの場、闇のどん底だぞ?
例えそんな場所でも、そいつは諦めないと言えるのか?」
「言えますよ。」

『少女』の笑みは消えなかった。それがますます、気に障る。

「その人はあらゆる絶望を与えられて、なおうつむかない覚悟をしているんです。
 これは怖いですよ。そんな人、いったいどうすれば倒せるんですかね。」

その話を聞いて、思い起こされる二つの顔。
1つは圧倒的な苦しみを与えられ続けてなお、信念を決して曲げないアホ面の笑顔。
だがこいつは人間じゃない。自分の理解を超えた化け物だ。
しかし、その傍らに立つもう1つの顔が、ミッドバレイの心を揺さぶる。
人の身でありながら、化け物の戦いに挑む1人の牧師。
化け物と共に歩む、リアリストのはずの人間。
全てに牙を突き立てんとする、狼。

ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークはリアリストだ。
夢や幻想では動かないし、分の悪い賭けにはBETしない。
だがそこに、確かな経験と実績、論理があればどうか。
勝てる、あるいは逃げ出せるでもいい。信じるに足る理由が存在したら?
その時は、誰よりも確固たる意思を持って動く事だろう。


「私はその人を信じています。彼が自分を信じなくても。
だって実際にその人はあと一歩で運命を打ち破れるところまで来たんですから。
だから私は戻らなきゃいけないんです。その結果を見届ける為に。」

ようやく『女』の顔から笑顔が消えた。
だがその視線は先ほどまでと違う。不動の決意を含んだ、力強い視線。
やはり浮かぶ、二つの顔。
目障りだった。人の決意を揺さぶるこの『女』の言葉も、勝手に目に浮かぶ思い出したくも無い二つの『顔』も。

「『歯』が立たなくたって、『牙』なら突き立てられるかもしれませんよ?」

目障りで、耳障りで…もういい、やめにしよう。

「それでも、あなたは運命に従って私を殺しますか?」
「…言いたいことは言い終えたか?そろそろ、お祈りの時間だ。」

パァン!

乾いた銃声が響く。
弾丸が、『命』を貫いた。

     ◇     ◇     ◇

うつむきながら、歩く。
『女』から奪ったバッグの中身は確認した。入っていたのは不気味なデザインの卵みたいなアクセサリーと、楽譜だけだった。
楽譜のほうはいい曲ではあったが、特に役に立ちそうには無い。
だが、どうせ自分のバッグの中身も役に立ちそうに無かったのだ。かまうまい。

結局あの『女』が放った言葉は、ミッドバレイの心に深い跡を残していた。

   『その人はあらゆる絶望を与えられて、なおうつむかない覚悟をしているんです。
    これは怖いですよ。そんな人、いったいどうすれば倒せるんですかね。』

もしも、もしも本当にこんな人間がいて、

    『だって実際にその人はあと一歩で運命を打ち破れるところまで来たんですから。』

もしも本当にこんな結果になっているとしたら…
それは、BETするに十分な要素なのかもしれない。


リアリストはどん底でうつむいたままだ。決して顔を上げることは出来ないだろう。
しかし、もしもそんな状況を克服するメロディーが奏でられたとしたら…
そんな微かな希望に囚われ、彼は耳だけ澄まし続ける。
彼はまだ知らない。

   「勝てなくても、負けてやらねぇ」
    強大な妖に立ち向かい負の連鎖を断ち切った少年を。

   「それでも私は人をなおすんだっ!自分が生きるために!!」
    自分が生きるために、人の死という最強の運命に挑み続ける闇医者を。

   「運命(さだめ)、運命、運命…うるせぇってんだよオォ!!」
    人間として因果律の水面を揺らす、復讐の黒い剣士を。

他にもこの会場に数多存在する、魔王に、道標に、神に、真理に…運命に人の力で挑み、覆さんとする者たちを。


だが、彼はまだ知らない。
それと同時にこの会場に存在する、彼にとって最大最悪、掛け値なしの、厄ネタを…


【B-9/大通り/1日目 深夜】
【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]: 健康 イライラ
[服装]:
[装備]: エンフィールドNO.2(5/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク 鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル ~推理の絆~
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
1: 人と会って情報と武器を得る。役に立たないと判断したら殺す。
2: 強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
3: 愛用のサックスが欲しい。
[備考]
※ 死亡前後からの参戦。トライガン関係者の存在にはまだ気がついていません。


    ◇     ◇     ◇

「う…うぅ…」

闇の中で微かに聞こえる「女」の呻き声。

「うぅ…ひどいです。髪は女の『命』なのに。それを奪うなんて、ドグサレ外道です!」

そこには、先ほどまでミッドバレイと対峙していた『女』が居た。
彼女の髪は、特徴的だった2つの大きなおさげが片方だけ落とされている。
結局『女』は殺されなかった。気まぐれか、言葉が効いたのか…とにかく今は助かったようだ。

「さて、一体どうしたもんですかね。」

近くにあった灯台に身を隠し、ひとまず安全を確保した彼女は思案していた。自分がするべき行動は何か。

(名簿が読めるようになるまで、私が『誰』として呼ばれたかわかりませんね。これが一番の問題です。)

今手元にある名簿は、6時間経たないと読めないという。これでは他の参加者もわからない。
しかし、説明が行われた広場で、隣にいた人物。顔こそ見えなかったが、動きやかすかに聞こえた声など、判断するに十分な情報はあった。
なにせずっと傍らで見続けてきたのだ、間違いない。

鳴海歩だ。

これがもし、彼女の仕事の依頼人、鳴海清隆氏の謀の一環だとすれば、それで自分の行動は決ってくる。
1人の『少女』のキャラクターを演じ、1人の少年を信じ支える。それだけだ。

だが、今回のこれはかなりイレギュラーな状態であり、彼の予測の範疇を超えている可能性は高い。
なにより自分はもう、役目を終えたのだ。少年を裏切る形で。
なんとはなしに、失ったおさげのあたりを触る。

(今さら、『彼女』を演じる必要はないんですかね…)

だが、引っかかるのは最初の説明の時の出来事。
ミズシロ火澄の死。
死ぬ事さえ運命によって許されなかった少年が、あっさりと殺された。
これは自分が鳴海清隆氏に知らされた展開とあまりに違いすぎる。
これは、再び運命というものが大きく動いている事を示しているのではないか。

(これを打ち破るには、もう少し協力しないといけないかもしれませんね。
何せ『私』がいないと、『鳴海さん』はダメダメですから。)

『女』はこの場での行動方針を決意した。
1人の『少女』として、少年を信じ、支える。
それが『女』の意思なのか、仕事だからなのか、今は本人にもわからない。この先どうなっていくかすら。
ただ、ゆれる片方だけのおさげが、妙に嬉しそうに見えた。

そうと決まれば行動開始だ。
先ほどの危機は口先だけで何とかなったが、この場はかなり危険な場所である。
それは自分にとっても、信じるべき少年、鳴海歩にとっても同じ事だ。
早いところ合流し、共に立ち向かいたい。
さらにこの状況を打破する為には情報が必要だ。それこそが自分の最大の武器である事も自覚している。

「とにかく、人と会うことですね。できれば危険人物以外の人と。」

同情なのか、動揺の為か、先ほどの男が残していったバッグを拾う。これは男が持っていた方のバッグだ。
中からメモ用紙を取り出し、男の特徴をメモする。
迷ったが、○の中に『危』の字を入れた『危険人物マーク』をつけておいた。

「――さて、行きますか。お祈りの時間は終わりです。」

こうして謎の少女、『結崎ひよの』は動き出した。


【B-10/灯台/1日目 深夜】
【結崎ひよの@スパイラル ~推理の絆~】
[状態]: 健康 おさげ片方喪失
[服装]:
[装備]:
[道具]:支給品一式 不明支給品1 手作りの人物表
[思考]
基本: 『結崎ひよの』として、鳴海歩を信頼しサポートする。
1: 鳴海歩がいるか確かめ、いるなら合流したい。
2: あらゆる情報を得る。
3: 2の為に多くの人と会う。出来れば危険人物とは関わらない。
[備考]
※ 清隆にピアスを渡してから、歩に真実を語るまでのどこかから参戦。
※ 不明支給品1は、少なくともミッドバレイには役に立たないと判断されたアイテムです。
※ 手作りの人物表には、今のところミッドバレイ・ザ・ホーンフリークの外見、会話から読み取れた簡単な性格が記されています。


【真紅のベヘリット】
眼や鼻や口が一種のアートのように不規則に配置された人間の顔が刻まれた卵型の物体。
ただの道具ではなく生きており、時々瞼や口を開いたりする。
真紅のベヘリットはグリフィスのもので、彼がゴッドハンドに転生するのに必要なもの。
この会場で転生が可能かは不明。
しかし、誰が持っていようと本来の持ち主の下に戻るという特性は生きている…のではないかと思われる。

【鳴海歩のピアノ曲の楽譜】
最終話で歩が編曲していたオリジナル曲。片手でも弾けるようにアレンジされている。
隻腕のキャラが多い今回のロワにぴったり?

※ B-10のどこかに「結崎ひよののおさげ(片方)」が落ちています。

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