オリロワ2nd @ ウィキ

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3人◆xEL5sNpos2



バカバカしい。

それが、サーシャ・ニホンヤナギが手紙を一通り目を通して思ったことだった。

人間原理がどうのこうのと小難しいことを並べているが、どれも世迷言にしか聞こえない。
世界の危機を救うという建前で、実のところ復讐の為にその他の者を皆殺しにする?
身の覚えの無い恨みで殺される方はたまったものではない。
おおよそまともな精神の人間が綴るような文章にはとても思えなかったのだ。

「無駄に行動力のある気狂いが、ある意味じゃ一番厄介なのよね……」

サーシャは嘆息しながらそう吐き捨てるのだった。

首に手を当てれば見に覚えの無い首輪が嵌められている。
それに、今自分がいるところはまったく見知らぬどこかの水辺。
夢ではないことを考えると、この馬鹿げた殺人ゲームを開いた気狂いはそれなりの技術と行動力を兼ね備えているようだ。
おまけに、実力まで兼ね備えているであろう事は名簿を見れば一目瞭然だった。
サーシャは自分自身こそ所謂ヒーロー協会に所属しているとはいえ、限りなく一般人に近いオペレーターでしかない。
だが、自分と同様にこの催しに参加させられている人間の中に、ヒーロー協会所属の国坂正義の名がある。
さらに、敵性分子でありながらその実力は折り紙つきのヴィジランテ・御子神総司の名も。
この二人をこの場に連れてくるだけの力を主催者が持ち合わせていることはそれだけで十分に理解できた。

サーシャ自身は殺し合いに乗る気はさらさら無い。
だが、その殺し合いを止められるほど自分に力が無いことも分かっていた。
力が無ければ、自分達の正義を押し通すことが出来ないということは、日頃から重々承知していたことであった。

「おまけに……一緒に入っていたものがこれじゃねぇ……」

もう一度大きく嘆息しながら、デイバックの中を覗き込む。
中には食糧や水、地図、名簿といったものに混じって、小さな金属の塊がひとつ。
小さなフォルムに多くの機能を兼ね備えたマルチな一品、アーミーナイフであった。

確かにナイフは中に入っているが、その刃渡りは数cm程度、護身用としてさえ心もとない程度でしかない。
こんな状態で、例えば御子神のような危険人物に会ったら?
どうなるかは目に見えている。

他に使える機能がないか、あちこち弄ってみる。
すると中からポン、とUSBメモリが飛び出してきた。
想像もしていなかったものが出て来たことに、サーシャは一瞬驚きつつも、

「最近のナイフって何でもありなのねぇ……」

と、今日何度目になったか分からないため息をついてみせた。
ひとまず、いつでも使えるようにナイフをポケットに忍ばせる。
どこかで国坂君に会えればいいなぁ、と思いながらサーシャは立ち上がった。
月明りに照らされ、自慢のブロンドはよりいっそう輝きを増しているかのようだった。

サーシャが歩き始めて三十分ほど。
目の前にコンクリート造りの建物が見えてきた。
近づいてみると、かなり煤けた文字で"~~診療所"と書いてあるのが読み取れた。
診療所の前に書かれていたであろう文字は完全にかすれて読むことが出来ない。
ともかく、ここは地図で言うB-2の区域であることとが分かり、今度は安堵のため息をついた。
何か使えるものはないか、とひとまず診療所に踏み込んでみることに決める。

「電気が点いていないけど……先に誰か潜んでたりしなきゃいいわね……」

少しばかりの不安が脳裏をよぎるが、だからと言って他に当てがあるわけでもない。
意を決して、サーシャは診療所のガラス戸を慎重に押して中に入って行った。
キィィ……と錆び付いた蝶番が擦れる音が、深夜の診療所に響き渡った。

外も漆黒の闇に包まれていたが、建物の中は月明りも入らず、よりいっそう暗さを増していた。
サーシャはデイバックから懐中電灯を取り出し、足下を照らしながら慎重に建物の中を歩く。
そして、受付と思しき部屋に入り、室内に懐中電灯の明かりを向けた、その時だった。

「Freeze!」

ビクッとしたサーシャが声のした方に視線を向ける。
入口から見て死角になるような壁際、そこで椅子に腰掛けた女が小さな銃を向けているのが見えた。
気丈さを装っているようではあったが、声が僅かに震えているのをサーシャは感じ取った。
きっと銃を扱ったことなど無いのだろう、そう察したが何かのはずみで撃たれてしまっては敵わない。
大人しく両手を上げ、敵意の無いという姿勢を相手に示した。

「...What are you doing now?」

なおも警戒を緩めない様子の相手を落ち着かせるために、サーシャは努めて気の抜けた声を出してこう告げた。

「あの……私、日本語、喋れますよ……?」





「なぁんだ、てっきり金髪でこんなに背が高いからてっきり外国人さんだと思ったのに」
「あながち間違いじゃないですけどね。私、日系三世のイギリス人ですから」

相手に殺意が無いことを理解したのか、先程まで銃を構えていた女はすっかり緊張から解放されたようだった。
診療所の受付の中、おそらく事務所にあたるであろう一室で二人の女が膝を突き合わせて話し込んでいた。

「自己紹介がまだだったわね、私は今野穂乃香」
「サーシャ・ニホンヤナギと言います。えぇと、"穂乃香さん"、とお呼びすればいいでしょうか?」
「えぇ。貴女は……"ニホンヤナギさん"、じゃなんだか仰々しいし、"サーシャ"、って呼んじゃってもいいわね?」
「もちろんです。それで、あの……一つ質問と言うか何と言うか……」

自己紹介を一通り済ませたところで、サーシャは一つの疑問を口にしようとしていた。
目の前にいる穂乃香は、すらっとした手足に、美しく長い黒髪をなびかせた理知的な外見。
もう2、3センチ背が高ければ、モデルとしても十分いけそうな、そんな美しさには明らかに似つかわしくない部分。
その下腹部が、ツンとまるで船の舳先のように前に突き出していたのだから。

「あぁ、これね? まぁ、見ての通り、よ」

視線に気づいた穂乃香が、優しくお腹を撫でながら質問が発せられる前に答えを口にした。

「何ヶ月なんですか?」
「9ヶ月よ。ま、予定日は半月ほど先だけど、もういつ産まれてもおかしくないんじゃないかしら」
「へぇ……どっちなんですか? 男の子? 女の子?」
「産まれてからの楽しみにしようと思っててね、まだ聞いてないのよ。
 名前も、どっちが産まれてもいいように旦那さんと男の子と女の子、両方考えてあるんだから」

その分、ベビー用品を買う時に苦労するけどね、とあっけらかんと穂乃香は笑い飛ばして見せた。
サーシャはと言うと、目を輝かせながら穂乃香にこんなお願いをしてみるのだった。

「あの……お腹、触らせてもらってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ」
「私……妊婦さんのお腹を触るの初めてで……ワッ、蹴ってきた!?」
「うふふ……もう元気すぎて困っちゃうくらいなのよ」

穂乃香は目を細めながらまた優しくお腹を撫で回した。
生命の神秘に感動しながら、サーシャは一つの決意を新たにしていた。

(もうすぐ生まれてくるこの子を宿した妊婦さんを殺し合わせるなんて……やっぱり狂っている!)

サーシャは子供好きだ。
ヒーロー協会のオペレーターに職を求めたのも、子供達の笑顔を守る為。
決して腕力は強くないけれど、何かその為に力を尽くしたい、そういう思いがあってのものだった。
そこに、もうすぐこの世に生を受けようとしている子供の存在。

(守りたい、穂乃香さんと、お腹の赤ちゃんを守りたい……!)

だけど、それをするのに自分には力が無いのが悔しかった。
かといって、殺し合いを止めるのに何も力ずくでなくてもいいのでは、そうも思っていた。
例えば、今嵌められているこの首輪。
この首輪をどうにかして外すことが出来れば、誰も殺しあわずに済むのでは?

決意を固めたところで、サーシャは穂乃香に尋ねた。

「穂乃香さんは……これからどうされるおつもりですか?」
「う~ん……サーシャは、この手紙についてどう思う?」

穂乃香がサーシャの持つものと同じ手紙をピラピラとはためかせた。

「バカバカしい……そう思います」

語気を強めてサーシャが返す。

「やっぱりそうよね……いきなり殺し合いがどうとか、世界の危機がどうとか言われても、どうにもピンと来なくってね」

穂乃香が不安げな表情を見せて、次にこう告げた。

「私はこんなお腹だし、そうそう歩き回れないと思うの。
 だから、ある程度ほとぼりが冷めるまで、ここに留まっていようかな、って」
「籠城、ということですか?」
「仰々しく言えばそうなるわね。まぁ、他にも理由はいくつかあるんだけど」
「……理由?」
「まずはここが病院だって事。
 薬だとか、包帯だとか、そういうのはあるけれど、武器になりそうなものはそうそうないわ。
 殺し合いに手を染めるようなそんな危ない人が来る可能性は、そんなに高くない」
「でも、私達がそう思っているのを読んだ危険人物がやってきたら……」
「それは何処に行ったって同じことよ、リスクを考えればむしろ他所よりここは安全かもしれない。
 逆に、薬や手当てが必要な誰かが来れば、その人をそのまま味方につけることも出来るしね」
「なるほど……」

サーシャが感心したところで、穂乃香が最後にちょっとバツの悪そうな顔をして付け加えた。

「それにね……自慢じゃないけれど、旦那さんと私、医者なのよ。
 こんな見知らぬ土地でどこを目指すか、って考えたらね、ここにいたら旦那さんと合流できそうじゃない?」



【一日目・深夜/B-2 診療所受付内事務所】

【サーシャ・ニホンヤナギ】
【状態】平常、強い決意
【装備】アーミーナイフ
【所持品】基本支給品
【思考】
1.穂乃香と共に診療所に籠城、彼女とお腹の子供を守りたい
2.首輪の解除をしたい
3.出来れば国坂正義と合流したい

【今野穂乃香】
【状態】平常、妊娠9ヶ月
【装備】ハイスタンダード22口径2連発デリンジャー(装弾数2/2)
【所持品】予備の銃弾×6、基本支給品
【思考】
1.診療所に籠城して、夫の到着を待つ
2.殺し合いに乗る気は無い


07:不運<アンラッキー> 時系列順 09:天下のハリウットスター様
07:不運<アンラッキー> 投下順 09:天下のハリウットスター様
サーシャ・ニホンヤナギ 25:短時間の追憶
今野 穂乃香 25:短時間の追憶


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