総括所見:オーストラリア(OPAC・2012年)


CRC/C/OPAC/AUS/CO/1(2012年7月11日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2012年6月5日に開かれた第1709回会合(CRC/C/SR.1709参照)においてオーストラリアの第1回報告書(CRC/C/OPAC/AUS/1)を検討し、2012年6月15日に開かれた第1725回会合(CRC/C/SR.1725参照)において以下の総括所見を採択した。

I.序

2.委員会は、選択議定書に基づく締約国の第1回報告書および事前質問事項に対する文書回答(CRC/C/OPAC/THA/Q/Add.1)の提出を歓迎するとともに、多部門から構成される締約国代表団との間に持たれた前向きな対話を評価する。
3.委員会は、締約国に対し、この総括所見は、条約に基づく締約国の第4回定期報告書に関して採択された総括所見(CRC/C/AUS/CO/4)および子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する選択議定書に基づく第1回報告書に関して採択された総括所見(CRC/C/OPSC/AUS/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを想起するよう求める。委員会は、締約国報告書が改訂報告ガイドラインにしたがっていなかったことを遺憾に思うものである。

II.一般的所見

積極的側面
4.委員会は、18歳未満のオーストラリア国防軍(ADF)隊員に適用される、2005年および2008年の国防軍訓令(通則)PERS 33-4の法改正を、積極的対応として歓迎する。

III.実施に関する一般的措置

法的地位
5.委員会は、締約国が、選択議定書の規定を国内法に編入するための十分な措置をとっていないことを懸念する。
6.選択議定書第6条にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の規定を国内法に全面的に編入する目的で、国内法の見直しを行なうよう促す。
調整
7.委員会は、軍への徴募の実務および研修プログラムについてはオーストラリア国防軍(ADF)が責任を負う旨の、締約国から受領した情報に留意する。しかしながら委員会は、同国全域(州および準州の段階を含む)における選択議定書の包括的かつ効果的な実施を調整する任務を委ねられた機関が設けられていないことを、懸念するものである。
8.委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施について全般的責任を負う政府機関を指定するとともに、選択議定書の実施に関わって省庁その他の政府機関間で効果的調整が行なわれるようにするための制度的機構を設置するよう、促す。
研修
9.委員会は、軍の構成員および子どもに対応する関連の専門家集団を対象とする研修プログラムで選択議定書の規定が取り上げられていないことを遺憾に思う。
10.委員会は、締約国に対し、軍のすべての構成員(とくに国際的作戦に従事する者)および子どもに対応するその他の要員(とくに、子どもの庇護希望者および難民のためにおよびこのような子どもとともに働く公的機関の職員、警察官、弁護士、裁判官、軍事裁判所裁判官、医療専門家、ソーシャルワーカーおよびジャーナリスト)を対象として、選択議定書に関する研修を実施するよう奨励する。
データ
11.軍学校プログラムに参加している子どもの人数について提供された統計に留意する。しかしながら委員会は、締約国が、これらの子どもについて性別、年齢別、農村部/都市部の出身別および民族別に細分化されたデータを収集していないことを遺憾に思うものである。加えて、委員会は、子どもの難民および庇護希望者のうち、子どもが徴募されまたは武力紛争および(もしくは)敵対行為で使用されている可能性のある国出身の者に関するデータおよび統計が存在しないことを懸念する。
12.委員会は、締約国が、ADFおよび軍学校プログラムに入隊している志願隊員についての性別および民族別に細分化されたデータが公的に利用可能とされることを確保するよう、勧告する。さらに委員会は、締約国が、自国の管轄内にある子どもの難民、庇護希望者および移民であって、徴募されまたは武力紛争および(もしくは)敵対行為で使用された可能性のある者についてのデータを体系的に収集するよう、勧告するものである。

IV.防止

直接の参加
13.委員会は、国防軍訓令(2008年)が、18歳未満の子どもについて、作戦遂行に悪影響を与えない限度においてのみ敵対行為に参加させてはならないと定めていることを、深く懸念する。委員会は、この規定の適用により、18歳未満の子どもが敵対行為に直接参加することにつながる可能性があることに、懸念とともに留意するものである。
14.委員会は、選択議定書第1条にしたがって18歳未満の軍隊構成員が敵対行為に直接参加しないことを確保するため、締約国が国内法および軍の手続を見直すよう勧告する。これとの関連で、委員会はさらに、締約国が関連の国内法で「直接参加」および「敵対行為」の概念の定義を定めるよう、勧告するものである。
15.委員会は、締約国が、国防軍訓令(2008年)で注意義務方針を採用したことに留意する。しかしながら委員会は、この政策の実施に関する情報がないことを遺憾に思うものである。
16.委員会は、締約国が、注意義務方針の実施および有効性に関する詳細な情報を次回の定期報告書に記載するよう、勧告する。
志願入隊
17.委員会は、ADFへの志願入隊年齢が17歳であることに留意する。
18.全般的により高い法的基準を通じて子どもの保護を促進しかつ強化する目的で、委員会は、締約国に対し、ADFへの志願入隊に関する最低年齢を見直し、かつ18歳に引き上げるよう奨励する。
軍学校制度
19.オーストラリア国防軍学校の隊員がADFの構成員ではないことは認識しながらも、委員会は、軍学校制度のもと、子どもが若年段階から軍隊的訓練活動(演習、儀式的行進および火器の使用を含む)を受けさせられることに、懸念とともに留意する。さらに委員会は、ADFが「就労体験プログラム」を通じて学校を対象とする隊員募集を積極的に行なっていることにより、とくに周縁化された人口層出身の若者および言語的背景が異なる若者に対し、十分な情報に基づく完全な同意なしに、志願するよう不当な圧力がかけられる可能性があることを懸念するものである。
20.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 軍学校プログラムにおける活動が、とくに軍隊的活動との関連で年齢にふさわしいものであることを確保する目的で軍学校制度の運営を見直すとともに、このような活動が子どもに及ぼす精神的および身体的影響を正当に考慮しながら、このような活動に関する年齢要件についての明確な指針を定めること。
  • (b) 軍学校部隊に編入された子どもの権利および福祉を保護するため、軍学校制度が効果的にかつ独立の立場から監視されることを確保するとともに、子ども、親その他の集団が、隊員募集手続について十分な情報を提供され、かつ懸念または苦情を提出できることを確保すること。
  • (c) 選択議定書の精神にしたがい、18歳未満のすべての子どもについて火器その他の爆発物の操作および使用を禁止すること。
  • (d) 言語的背景が異なる若者および(または)周縁化された人口層出身の若者が過度に隊員募集の対象とされないことを確保するとともに、十分な情報に基づく同意のための措置を整えること。
  • (e) 軍学校部隊の活動が、条約第29条および教育の目的に関する委員会の一般的意見1号(2001年)で認められている教育の目的にどのように適合するかについての情報を〔次回の定期報告書に〕記載すること。

V.禁止および関連の事項

現行刑事法令
21.委員会は、国内法において、18歳未満のすべての子どもについて武装集団または準軍事集団による徴募が犯罪とされていることに、評価の意とともに留意する。にもかかわらず、委員会は、国内法において、軍隊への徴募については15歳未満の子どもの場合しか犯罪とされていないことに、懸念とともに留意するものである。さらに委員会は、そこで禁じられている行為が犯罪となるのは武力紛争の文脈で徴募が行なわれた場合に限られ、平時にはこれが適用されないことを懸念する。
22.委員会は、民間軍事保安企業の使用およびこれらの企業による子どもの使用について締約国から送付された追加的情報を評価する。
23.選択議定書上の犯罪の防止をさらに強化する目的で、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 刑法を改正し、軍隊および武装集団による18歳未満の子どもの徴募および使用を明示的に禁止しかつ犯罪とすること。
  • (b) 刑法の規定を強化し、軍隊および武装集団による子どもの不法な徴募の罪名が平時および戦時のいずれにおいても適用されることを確保すること。
  • (c) 子どもに影響を与えるすべての法律を包括的に再検討するとともに、国内法および国内政策(2008年の国防軍訓令を含む)を選択議定書の原則および規定と全面的に調和させるためにあらゆる必要な措置をとること。
  • (d) 民間軍事保安企業の監督および責任について国内法による規制が行なわれることを確保するとともに、締約国がとった措置についての情報を次回の定期報告書で提供すること。

VI.保護、回復および再統合

被害を受けた子どもの権利を保護するためにとられた措置
24.未成年者の拘禁は最後の手段としてのみ行なわれるべきである旨を定めた締約国の移民改革法改正には積極的措置として留意しながらも、委員会は、子どもの庇護希望者および難民(徴募されまたは敵対行為で使用された可能性がある者を含む)が当たり前のように入国管理センターに収容される状況が続いており、かつ、しばしば収容が長期にわたりかつ司法審査の対象ともされていないことに、依然として重大な懸念を覚える。委員会はまた、締約国にいる子どもの庇護希望者および難民についての公式な統計およびデータが存在せず、かつ選択議定書上の犯罪の被害者を特定するための手続も設けられていないことを、深刻に懸念するものである。
25.選択議定書第7条に基づく義務に照らし、委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 自国の管轄下にある子どもの庇護希望者および難民全員に関する、全国的なデータ収集・登録システムを設けること。
  • (b) 国外で武力紛争に関与したまたはその可能性がある子ども(子どもの庇護希望者および難民を含む)を特定するための機構を設置するとともに、当該特定を担当する要員が子どもの権利、子どもの保護および子どもにやさしい事情聴取技法について訓練されることを確保すること。
  • (c) 武力紛争に関与したまたはその可能性がある子どもに対し、その身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のための適切な援助を提供すること。

VII.国際的な援助および協力

26.委員会は、アジア太平洋地域およびアフリカで武力紛争の被害を受けた子どもの身体的および心理的回復ならびに社会的再統合のためのプロジェクトに対する締約国の貢献を歓迎する。さらに委員会は、武力紛争の悪影響を受けた子どもを対象とする、子どもの保護の分野における国連児童基金(ユニセフ)の活動への財政支援を評価するものである。
武器輸出
27.委員会は、オーストラリアが、子どもが徴募されもしくは武力紛争および(または)敵対行為で使用されていることがわかっているまたはその可能性がある国に対して小型武器および軽兵器を含む武器を積極的に輸出していることに、懸念とともに留意する。委員会は、締約国が、このような国への武器の販売を制限するいかなる具体的法律も定めていないことを遺憾に思うものである。
28.委員会は、締約国が、子どもが徴募されもしくは武力紛争および(または)敵対行為で使用されていることがわかっているまたはその可能性がある国への武器(小型武器および軽兵器を含む)の販売をとくに禁止する法律を導入するよう、勧告する。
29.委員会は、締約国が、刑法改正(クラスター弾の禁止)法案を2010年11月に上院に提出したことに留意する。クラスター弾に関する条約の批准および実施について締約国が行なっている努力は評価しながらも、委員会は、提案されている法案において、クラスター弾に関する条約で禁じられている活動へのオーストラリア軍の援助が容認されており、かつ、軍事同盟国がオーストラリア領域でクラスター弾を貯蔵しかつ委譲することが明示的に認められていることを、懸念するものである。さらに委員会は、同法案において、クラスター弾の開発または製造への直接間接の投資が明示的に禁じられていないことを懸念する。
30.委員会は、締約国に対し、クラスター弾に関する条約で禁じられている活動にオーストラリア軍が(合同軍事作戦中においても)従事しないことを確保するため、提案されている法案を修正するよう強く促す。委員会はさらに、提案されている法律を改正してクラスター弾の開発または製造への投資を禁止するよう勧告するものである。

VIII.フォローアップおよび普及

31.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を締約国におけるあらゆる関連の主体(国家元首、国防省、オーストラリア国防軍、連邦議会、オーストラリア国防軍学校、移民・市民権省および保健・高齢化省を含む)に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
32.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した第1回報告書および文書回答ならびに委員会が採択した関連の勧告(総括所見)を、インターネット等を通じ(ただしこれにかぎるものではない)、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループおよび子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

IX.次回報告書

33.第8条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書およびこの総括所見の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約条約第44条にしたがって提出される、条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年10月23日)。
最終更新:2012年10月23日 10:41