総括所見:東ティモール(OPSC・2008年)


CRC/C/OPSC/TLS/CO/1(2008年2月1日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、2008年1月17日に開かれた第1290回会合(CRC/C/SR.1290参照)において東ティモールの第1回報告書(CRC/C/OPSC/TLS/1)を検討し、2008年2月1日に開かれた第1313回会合において以下の総括所見を採択した。

2.委員会は、この選択議定書に基づく締約国の第1回報告書(CRC/C/OPSC/TLS/1)の提出、および、事前質問事項(CRC/C/OPSC/TLS/Q/1/Add.1)に対する文書回答の時宜を得た提出を歓迎する。委員会はまた、ハイレベルな代表団との間に持たれた建設的な対話も評価するものである。
3.委員会は、この総括所見が、条約に関する締約国の第1回報告書について採択された総括所見(CRC/C/TLS/CO/1)および武力紛争への子どもに関する選択議定書について採択された総括所見(CRC/C/OPAC/TLS/CO/1)とあわせて読まれるべきであることを勧告する。

A.積極的側面

4.委員会は、人身取引作業部会の設置をはじめ、締約国が選択議定書の実施に向けた措置をとり始めたことを歓迎する。外務協力省が議長を務める同作業部会は、刑法草案が関連の国際基準に一致することを確保することに貢献し、かつ、人身取引に関する国家的行動計画の策定を促した。

B.主要な懸念事項および勧告

I.データ

データ収集
5.委員会は、包括的なデータ収集システムが設けられていないために、子どもの売買、児童買春および児童ポルノの規模ならびにこれらの活動に関与させられた子どもの人数に関する情報およびデータがきわめて限られていることを遺憾に思う。
6.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 議定書が対象とする犯罪に関する、とくに年齢、性別、社会経済的背景および地域ごとに細分化されたデータを体系的に収集しかつ分析するための包括的なデータ収集システムを設置すること。データには、議定書が対象とする犯罪を理由とする訴追および有罪判決の数についての情報も含まれるべきである。
  • (b) 国連児童機関(ユニセフ)をはじめとする関連の国連機関および国連計画の援助を求めること。

II.実施に関する一般的措置

国家的行動計画
7.委員会は、選択議定書で取り上げられている犯罪からの保護との関連も含め、子どもの権利の実施に関する包括的な国家的行動計画が策定されていないことに、懸念とともに留意する。委員会はさらに、人身取引作業部会が2004年に起草した人身取引対策実施要領および同作業部会から策定を促された国家人身取引行動計画がまだ整備されていないことに留意するものである。
8.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの権利の実施に関する包括的な国家行動計画の策定を進めるとともに、議定書の実施のための効果的措置が当該計画に含まれることを確保すること。
  • (b) 人身取引作業部会が提案しているように国家人身取引行動計画を策定するとともに、同作業部会が起草した人身取引対策実施要領の採択を検討すること。
議定書の実施の調整および評価
9.委員会は、社会連帯省ならびに入国管理局および警察が、選択議定書が対象とする分野で制定法上の権限を有する主要な政府機関であり、かつ、法務省、教育文化省および平等促進担当国務長官もこの分野で職務を行なっていることに、留意する。委員会はさらに、人権アドバイザー事務所が関連の活動の調整を担当しており、その役割は国家子どもの権利委員会の設置と同時に同委員会に引き継がれる予定であることに、留意するものである。
10.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 子どもの権利条約の実施に関する締約国報告書についての総括所見(CRC/C/TLS/CO/1)で述べられているように、国家子どもの権利委員会の設置を急ぐこと。
  • (b) 選択議定書の実施を担当する諸機関(社会連帯省ならびに入国管理局および警察を含む)の間で効果的な調整が行なわれ、かつすべての実施活動が効果的に監視されることを確保するため、あらゆる必要な措置をとること。
普及および研修
11.委員会は、選択議定書の規定を広く公衆に広報するための具体的措置がとられていないこと、および、議定書に関連する問題についての体系的な研修活動が行なわれていないことに留意する。
12.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 関連のすべての専門家集団を対象とした、選択議定書の規定に関する体系的な教育および研修を導入するための措置をとるとともに、議定書に関わる問題についての意識啓発の面で市民社会と協力すること。
  • (b) 学校カリキュラムへの導入、地域言語への関連資料の翻訳、コミュニティの参加の奨励その他の適切な手段を通じ、子どもを含む幅広い公衆の間で選択議定書の規定に関する情報を普及するための措置をとること。
  • (c) ユニセフをはじめとする関連の国連機関および国連計画の援助を引き続き求めること。
資源配分
13.委員会は、選択議定書の実施のために配分されている予算に関して具体的情報が利用可能とされなかったことを遺憾に思う。
14.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書の実施のための予算配分に関する情報を提供すること。
  • (b) 防止および保護を目的としたプロジェクトおよび計画の策定および実施のために必要な人的資源および財源を提供すること。
  • (c) 貧困削減のための戦略および政策の策定および実施に、選択議定書の実施に関する考慮事項を統合すること。

III.子どもの売買、児童買春および児童ポルノの防止

選択議定書に掲げられた犯罪を防止するためにとられた措置
15.委員会は、選択議定書に掲げられた犯罪を防止し、かつリスク要因に対応するための効果的措置がとられていないことに、懸念を表明する。
16.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第9条1項にしたがい、そのような犯罪の防止を目的とした法律、行政措置ならびに社会政策および社会プログラムを強化すること。
  • (b) 子どもが売買、買春およびポルノの被害を受けやすくなることを助長する間接的リスク要因(貧困、低開発および文化的態度など)に対応するための十分な措置を実施すること。
17.委員会は、適正な出生登録制度が選択議定書で対象とされている犯罪に対するもっとも重要な防止措置のひとつであることを強調しつつ、出生登録を促進するために締約国が行なっている努力を歓迎する。しかしながら委員会は、とくに農村部および遠隔地において、出生登録率がいまなおきわめて低いことを依然として懸念するものである。
18.委員会は、締約国に対し、条約に基づく締約国報告書に関して採択された総括所見(CRC/C/TLS/CO/1)のパラ36および36の勧告にしたがって、自国の管轄内にあるすべての子どもの登録を保障する目的で出生登録制度を改善するための努力を強化するよう、促す。

IV.子ども売買、児童ポルノおよび児童買春ならびに関連する事項の禁止

現行刑事法令
19.委員会は、選択議定書第3条に列挙されたすべての行為および活動を刑法で犯罪化しようとする締約国の意図には留意するものの、締約国の現行法で十分かつ包括的な保護が提供されていないことを遺憾に思う。
20.委員会は、締約国に対し、以下の措置をとるよう促す。
  • (a) 子どもの保護の分野、および、とくに選択議定書が対象とする分野における法律が18歳未満のすべての者に適用されることを確保すること。
  • (b) 子どもの売買が、選択議定書第3条1項(a)に列挙されたすべての場合に禁じられることを確保すること。
  • (c) 選択議定書第3条1項(b)および(c)にしたがい、児童ポルノおよび児童買春に関する十分な定義および刑罰を定めた特別法を採択しかつ実施すること。
21.委員会はさらに、締約国が、子どもの権利条約に基づく締約国報告書についての委員会の総括所見のパラ53および79に掲げられた文書(国際的な養子縁組に関する子の保護および協力に関する1993年のハーグ条約、および、最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する国際労働機関(ILO)第182号条約)に加えて、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する、人(とくに女性および子ども)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書(2000年)を批准するよう、勧告する。
裁判権/犯罪人引渡し
22.委員会は、第4条で言及されている場合において、選択議定書に掲げられた犯罪についての域外裁判権に対してどのようなアプローチをとっているかに関する情報および犯罪人引渡しの問題に関する情報が、締約国から提供されなかったことを遺憾に思う。
23.委員会は、第4条にしたがって選択議定書に掲げられた犯罪についての裁判権を設定するため、締約国があらゆる必要な措置をとるよう勧告する。さらに、選択議定書第5条に照らし、委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告するものである。
  • (a) 選択議定書第3条1項に掲げられた犯罪を今後の犯罪人引渡し条約に含めること。
  • (b) 犯罪人引渡し条約を締結していない他の締約国から犯罪人引渡しの要請があった場合に、選択議定書が対象とする犯罪については選択議定書を犯罪人引渡しの法的根拠とみなすこと。

V.被害を受けた子どもの権利の保護

議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利および利益を保護するためにとられた措置
24.委員会は、司法制度において子どもの被害者および証人を保護するための措置および保障の、包括的なかつ一貫したシステムが存在しないことを懸念する。
25.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書上のいかなる犯罪の被害者である子どもも、そのこと自体を理由として犯罪者にも処罰の対象にもされないこと、および、このような子どもがスティグマを付与されかつ社会的に周縁化されないようにするためにあらゆる可能な措置がとられることを、確保すること。
  • (b) 選択議定書第8条1項に照らし、刑事司法手続のあらゆる段階で子どもの被害者および証人の保護を確保すること。締約国は、これとの関連で、子どもの犯罪被害者および証人が関わる事案における司法についての国連指針(経済社会理事会決議2005/20)を指針とするべきである。
被害者の回復および再統合
26.委員会は、締約国が、保健省および平等促進担当国務長官を通じ、他の機関および主体と協力しながら、心理的支援および再統合のためのサービスを提供していることに留意する。しかしながら委員会は、カウンセリングおよびリハビリテーションのサービスが締約国で十分に利用可能とされていないことを懸念するものである。
27.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 選択議定書第9条3項にしたがって、男女を問わず被害を受けたすべての子どもに対し、全面的な社会的再統合ならびに全面的な身体的および心理的回復のためのものを含む十分なサービスが利用可能とされることを確保すること。
  • (b) 選択議定書第8条4項にしたがって、議定書で禁じられている犯罪の被害者とともに働く者を対象とした適切な研修、とくに法律面および心理社会面の研修を確保するための措置をとること。
  • (c) 選択議定書第9条4項にしたがい、この議定書に掲げられた犯罪の被害を受けたすべての子どもが、法的に責任のある者に対して差別なく被害賠償を求める十分な手続にアクセスできることを確保すること。
ヘルプライン
28.委員会は、子どもヘルプラインが、子どもの状況を監視し、かつ選択議定書が対象とする犯罪から子どもを保護するための有用な手段となりうることを認識する。これとの関連で、委員会は、締約国では現在、子どもヘルプラインが運営されていないことを懸念するものである。
29.委員会は、締約国が以下の措置をとるよう勧告する。
  • (a) 3ケタの番号で、フリーダイヤルでかつ24時間対応の、子どものための全国的ヘルプラインを設置すること。
  • (b) 当該サービスを設置しかつ維持するための支援を提供すること。
  • (c) 当該サービスが、もっとも周縁化された集団を対象とした積極的利用促進の要素を有することを確保すること。

VI.国際的な援助および協力

30.締約国が国際社会と緊密に協力しながら活動していることには留意しながらも、委員会は、選択議定書を実施するための地域間および二国間の技術的協力の可能性が全面的に模索されているわけではないことを懸念する。
31.委員会は、締約国が、子どもの売買、児童買春および児童ポルノをともなう行為の防止、摘発および捜査のための地域間および二国間の技術的協力を強化するよう、勧告する。
32.委員会はまた、締約国に対し、選択議定書の実施を目的とするプログラムの策定および実行に関して国連の諸機関および諸計画ならびに非政府組織と引き続き協力することも、奨励する。
法執行
33.委員会は、締約国に対し、選択議定書が対象とする行為の防止、摘発および捜査ならびに責任者の訴追および処罰を目的とした国際的な司法共助および捜査共助を確立するための措置をとるよう、奨励する。

VII.フォローアップおよび普及

フォローアップ
34.委員会は、締約国が、とくにこれらの勧告を関連の政府省庁、議会および地方当局に送付して適切な検討およびさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が全面的に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。
普及
35.委員会は、選択議定書、その実施および監視に関する議論および意識を喚起する目的で、締約国が提出した報告書および文書回答ならびにこれに関して採択された総括所見を、公衆一般、市民社会組織、若者グループ、専門家グループ、コミュニティの指導者、メディア関係者および子どもが広く入手できるようにすることを勧告する。

VIII.次回報告書

36.第12条2項にしたがい、委員会は、締約国に対し、選択議定書の実施に関するさらなる情報を、子どもの権利条約に基づく次回の定期報告書に記載するよう要請する。


  • 更新履歴:ページ作成(2012年3月16日)。英語では先行未編集版しか入手できなかったため、フランス語の正式文書を参照しつつ訳出した。
最終更新:2012年03月16日 05:56