総括所見:ロシア(第1回・1993年)


CRC/C/15/Add.4(1993年2月18日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1993年1月21日および22日に開かれた第62回、第63回および第64回会合(CRC/C/SR.62-64)においてロシア連邦の第1回報告書(CRC/C/3/Add.5)を検討し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1993年1月28日に開かれた第73回会合において。

A.序

2.委員会は、ロシア連邦の第1回報告書が時宜を得た形で提出されたこと、および、同報告書が率直に、自己批判的にかつ包括的に作成されたことに満足感を表明する。委員会は、報告書について議論するために高級レベルの代表団が派遣されてきたことに評価の意とともに留意するものである。このことは、ロシア連邦政府が条約上の義務を重視していることを示すものであり、かつ、代表団との対話の特徴であった開かれた、包括的なかつ建設的なアプローチにとって役立つものとなった。

B.積極的な側面

3.委員会は、条約で規定された権利の実施を阻害する問題を定義しかつ識別すること、およびそれらの問題に立ち向かう充分な解決策を模索することに対する政府の前向きな姿勢を心強く感ずる。この点に関して、委員会は、条約の適用を改善するための立法措置をにおける進展、および少年裁判所および家庭裁判所の設置の提案に、満足感とともに留意するものである。同様に、委員会は、子どもの権利の実施に責任を負うことへの地方および地域の公的機関の関与、子どもの権利を実施するためのプログラムへの非政府組織の参加、ソーシャルワーカーおよび子どもおよび家族に関連する問題に直接対応しているその他の職員の訓練、家族および両親の平等責任に関する重要性についての意識、および子どもの権利に関する情報の普及を発展させるためにとられた措置の重要性を認める。
4.委員会はまた、条約第4条に照らし、軍縮の経済効果の結果として子どものためにさらなる資源が配分されるようになったことに、満足感とともに留意する。
5.締約国が決定的な変革の時期にあること、および代表団によって提供された情報にかんがみ、委員会は、締約国が、子どものために積極的な変化を導入すること、および構造調整の時期にあって子どものニーズを考慮に入れた政策を引き続き追求することを重視していることを認識する。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

6.委員会は、社会変革および経済危機の情勢下で政治的移行期にあるロシア連邦が直面している困難を認識する。同様に、委員会は、子どもの権利の実施を妨げる一定の態度の残滓があることも認識するものである。その態度とは、とくに、子どものケアの施設中心主義、障害者および家族的責任の問題に関連している。
7.委員会は、代表団が挙げたさまざまな改革の重要性は認めながらも、新たな立法上のその他の変革およびその提案が子どもの状況に与える影響を現段階で評価することはできないことに留意する。

D.主要な懸念事項

8.委員会は、経済危機が子どもに与える影響を懸念する。これとの関連で、委員会は、条約第3条および第4条に照らし、経済改革の犠牲になることから子どもを保護するために充分かつ適切な措置がとられているかどうかをとくに懸念するものである。
9.委員会は、条約第2条に照らし、障害児のようなとくに傷つきやすくかつ不利な立場に置かれたグループの子どものニーズおよび状況に対して社会が充分に敏感ではないことを懸念する。
10.委員会は、ロシア連邦において家族生活に深刻な問題が生じていることが優先的な懸念領域であると考える。委員会は、子どもの遺棄、中絶、離婚率、養子縁組の件数、婚外子の数および扶養義務の回復との関連で家族文化の崩壊に向かう傾向があることに、特段の懸念をもって留意するものである。
11.同様に、委員会は、家庭環境を奪われた子どもが、とくに子どもが遺棄された場合および孤児となった場合に寄宿学校に施設措置される慣行を懸念する。
12.委員会は、予防接種プログラム、妊娠期間中のケアの水準、家族計画プログラムおよび地域のコミュニティ・ヘルスワーカーの訓練に関して締約国が直面している問題に懸念を表明する。委員会はまた、中絶が家族計画のひとつの方法であるかのように頻繁に利用されていることにも懸念を表明するものである。
13.条約第28条の実施に関して、委員会は、農村部における女子の状況に懸念を表明する。
14.委員会は、少年司法および刑務施設の状況が条約第37条と両立するかどうか、および、そのような状況下で、余暇および家族との接触に対する子どもの権利および子どもの最善の利益がどのように保護されるのかについて、懸念を表明する。委員会はまた、少年司法の運営の制度の現行の組織形態、および条約第37条および少年司法に関するその他の基準と両立しているかどうかについても懸念を表明するものである。
15.委員会は、子どもの間で犯罪率が高まっていること、および、子どもが性的搾取、薬物濫用およびアルコール嗜癖に関してとくに被害を受けやすい立場に置かれていることに、懸念とともに留意する。

E.提案および勧告

16.委員会は、構造調整の時期にあっては経済的変化が子どもに与える影響を定期的に監視することがとりわけ重要であることを勧告する。委員会はまた、子どもの権利のための立法上その他の措置の実施における政府の進展を追跡するための指標の特定および活用が適切であることを強調するものである。
17.委員会は、政府が、条約の実施およびその監視を調整する目的で国内委員会または類似の体制の設置を検討するよう提案する。委員会は、子どもの権利に関する活動の動員のため、地方その他の非政府組織に支援が与えられるべきことを勧告するものである。委員会はまた、子どもの権利の実施の改善のために態度を変えかつ態度に影響を与えるにあたり、非政府組織ならびに子どもグループおよび青少年グループの積極的な参加も勧告する。
18.委員会は、家族生活に関する教育を提供し、社会における家族の役割についての議論を組織し、かつ両親の平等責任についての意識を発展させるために、さらなる努力が行なわれるべきであると考える。
19.委員会は、里親託置のような、寄宿学校への施設措置に代わる手段を積極的に模索するよう勧告する。委員会はまた、社会援助、法律問題および教育を担当するワーカーのような、すべての施設の職員にさらなる訓練を行なうよう勧告するものである。そのような研修においては、子どもの尊厳の意識の促進および保護、ならびに子どもの放任および不当な取扱いの問題が強調されるべきである。子どもに対応する職員の継続的訓練を評価するための機構も必要とされる。
20.委員会は、とくに妊娠期間中のケア、性教育を含む保健教育、家族計画および予防接種プログラムの効果との関係で、プライマリー・ヘルスケアの制度を改善するよう勧告する。とくに予防接種プログラムに関わる問題に関して、委員会は、ワクチンの調達および製造への支援に関してめ国際協力を求めるよう提案するものである。
21.委員会は、家庭の内外で子どもに対して行なわれる不当な取扱いおよび残酷な行為の発生を懸念し、かつ、自己に対して行なわれた不当な取扱いまたは残酷な行為に関する子どもの苦情に対応する手続および機構を発展させるよう提案する。
22.刑法およびこの分野の立法を改正するためにとられている積極的な措置を考慮にいれ、委員会は、締約国が、少年司法の運営に関して包括的な司法改革を行ない、かつ、その改正にあたって「北京規則」、「リャド・ガイドライン」および自由を奪われた少年の保護に関する〔国際連合〕規則のようなこの分野の国際基準を指針とするよう勧告する。施設措置に代わるアプローチに関しては、条約第39条に沿って、社会復帰のための措置、心理的回復および社会的再統合に特段の注意が払われるべきである。
23.委員会はまた、法執行官、裁判官その他の司法運営に携わる職員の訓練の一部が少年司法に関する国際基準の理解に充てられるようにも提案する。
24.委員会は、子ども売買春と闘うためにより断固たる措置がとられなければならないことを強調する。たとえば警察は、そのような事件の捜査、および条約第39条に掲げられた規定を実施するためのプログラムの発展に高い優先順位を与えるべきである。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年1月12日)。
最終更新:2012年01月12日 13:05