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「ラブレター・フロム・エジプト」

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mintsuku

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ラブレター・フロム・エジプト





「…ミケミケ!! 休憩室の物置から面白い物が出てきてニャ!!」
「…何ニャブチ? その薄汚いの…」

「パピルスっていう古い紙の一種ニャ。エジプトから来た古い手紙ニャよ。」
「…宛名は『バステト・珠夜さま』…って、誰ニャ?」

「…驚くなかれ、侍女長さまの本名ニャ。実はあの人ああ見えてもハーフの帰国子女で、若い頃はずっとエジプトで暮らしてたらしいニャ。」
「…とってつけたような話だニャ…」

「まあまあ、確かお母さんがあっちの神族のひとりで、けっこうお嬢様育ちだったそうニャ。」
「…ますます胡散臭いニャ… なんでそんな人が閻魔宮の侍女長に…」

「…と、とにかくきっとこれは若い頃のラブレターだニャ。とりあえず読んでみるニャ。」
「そうするニャそうするニャ。」


…前略珠夜さま、お元気ですか。貴女が遥か極東、王立閻魔大学に留学して半年、ようやく借りていたお金を返す目処が立ちました。
なんと僕の親友がサハラ砂漠で有望なミスリル銀の鉱山を発見し、現在開発の為出資者を募っているのです。
埋蔵量を考えると極めて有利な投資で、すぐに貴女から借りているお金を返しても僕たちの結婚費用くらいすぐ回収出来る案件なのですが、ここへきて些細な金銭上の問題が出てしまいました。
もちろん、僕のせいで無理やり留学させられた貴女に相談出来ることではありません。
僕はあとたった二十五万LEばかりのお金で、愛する珠夜さんを熱く抱擁できる日が延びてしまう苦しみで、遠いエジプトの空の下、途方に暮れています。
でも、きっと近いうち、ご両親の誤解が解ける日も来るでしょう。珠夜さんは閻魔庁でアルバイトを始められたということですが、お体に気をつけて頑張って下さい

貴女のヒモホテップより

追伸:親友は出資期限を今月末まで待ってくれるそうです


… 前略珠夜さま、これが貴女に送る、僕の人生最後の手紙になるかも知れません。下らないトラブルで鉱山の操業が立ち遅れているうちに、とんでもない事件が起こってしまったのです。
珠夜さんには僕の叔父が、南米に渡ってマンドラゴラ農場を経営していることを話したでしょうか? 先日その叔父の農場が竜巻の被害で莫大な負債を抱えてしまいました。
そして設備投資の為に叔父が借金をしていた『ファラオ金融』はなんとあの恐ろしいベリアル一族の関連企業。連日の過酷な取り立てに可哀想な叔父はとうとう倒れてしまいました。
当然連帯保証人になっていた僕のところにも、乱暴な借金取りがやって来ました。『早く返さないとナイル川に沈める』と脅されていますが、今、僕の手元に現金は全くないのです。
でも僕はたとえナイル川の鰐に食べられてしまってもずっと珠夜さんを愛し続けます。閻魔庁でのアルバイトは時給が非常によいと聞いていますから、安心して死んで行けます。
どうかその収入で、素敵な男性と幸せに暮らして下さい。

あなたのヒモホテップより

追伸:ファラオ金融は返済を月末まで待ってくれるそうです


… 前略珠夜さま、今日まで僕のためにひどい苦労を掛けたことをお詫びします。そちらの大学を辞め、ご両親に勘当されてまで送ってくれたお金は結局狡賢い友人や叔父に騙し取られ、僕はまた無一文になってしまいました。
このままではいつまでたっても貴女と結婚出来ない。死よりも辛いその現実と向き合った僕は、ひとつの決心をしてかつて世話になった恩師を訪ねました。
僕が最も信頼するその恩師、その方はなんと、有名なエジプト冥界きっての実力者アヌビス総督の同級生であられるのです。
僕は今まで懸命にビジネスの道を志してきました。しかし世間知らずな僕には実業界よりも、堅実で安定した官吏の仕事が向いているのではないか…
そんな僕の想いを、久しぶりに会う恩師はすぐに汲んでくれました。すぐアヌビス閣下に働きかけ、少なくとも冥府局次官クラスのポストを僕のために用意してくれる、という有り難い言葉を頂けたのです。
これで貴女をエジプトに呼び戻し、静かで愛情溢れる日々を迎えられる…ただ、関係各位に儀礼的な挨拶をする為、ほんのささやかな金額ですが…


「…も、もういいニャ!!痛々しくて読んでられないニャ!!」
「…まだ三十通近くあるニャ。いったい総額で幾ら位絞り取られたのかニャ…」

「…そりゃ胸も貧相になるわニャ。」
「不憫な話ニャ…」


おわり

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