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「告白」、「5cm」、「境界線」

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「告白」、「5㎝」、「境界線」




589 名前:「告白」 「5cm」 「境界線」1/2:2009/01/12(月) 20:00:35 ID:QKMHT9qs
「告白」 「5cm」 「境界線」

 僕たちの町には境界線がある。平野の真ん中にあるこの小さな町は100年も前に、境界線を作る原因となった大きな喧嘩を
したそうだ。いまとなっては些細なことだった原因が何もかもに波及して住民を二分し、片方が屋根を赤く塗れば
もう片方が青く塗るといったありさまにまで発展してしまった。それどころか町の真ん中に線を引き柵を立て
その柵を次々に広げていったあげくに平野の果てまでそれを続けていった。100年前の柵建て人はとうとう帰ってこず、
遠い柵の果てでその一族は未だに柵を立てていると言われている。
 さて柵の向こう側とこちら側はとても仲が悪い。それでも一応、交流と呼べるものはある。休日の柵市である。ここでは
商売人もいれば普通の人もいて、商品や不要なものをもってきたりして柵のすぐ側にならべて売ったり買ったりできるのである。
とはいえ皆全くの無言で通すのがここの慣習なので、どれだけ人数が多くとも賑わいがあるとは言い難い。
口を開かずふくれっ面をするのが当たり前、ありがとうとかまた来いなんて言葉は禁句ですらあるのだ。
 しかしこの柵向こうのものというのは、こちら側では手に入らないため足しげく通う人は絶えない。僕もその一人で
休日はいつも向こう側の品物を見て回っていた。そこでふと一冊の本を買ったのがきっかけだった。
 それを家に帰って読んでみると5cm四方の紙片が挟まっていてどうやら誰かの走り書きらしいメモだった。
内容は数学の問題なのだけど、解きかけで止まっていて、どうやら途中で詰まったらしいと知れた。


590 名前:「告白」 「5cm」 「境界線」2/2:2009/01/12(月) 20:02:45 ID:QKMHT9qs
 よくよく思い出してみると確か学生らしい柵向こう女の子から買った古本である。たまに顔をみるので名前は知らないが知った顔だ。
こちらが買うこともあれば、たまにふらっとやってきては僕が読み終わった本を彼女が買っていく事もあった。
どうやらメモを栞代わりに使ったものらしい。数学は昔得意だったので僕はそれを解いて答えをそのメモの裏に書き込んでおくと、
そのうち彼女が来たら返してやるつもりで、次の休日に売る物といっしょにしておいた。思惑通り次の柵市に彼女が現れたので
僕は彼女が買った本にそっとメモを挟んでひどい仏頂面で渡した。彼女も不機嫌そうな顔で買っていった。全くの無言である。
しばらく経ってまた彼女から本を買ったのだが、またメモが挟まっていた。また数学の問題で難度が上がっている。これは挑戦だった。
僕は難しくなったそれをなんとか解くと裏に答えを書き、別の問題を書いたメモを用意した。もちろんこれも次の市で、彼女が買う本に挟んだ。
そんなことを繰り返してるといつのまにか問題がなぞなぞになり、哲学になり、そのうちチェスの問題になって、
最後には他愛もない雑談が始まってしまった。
 そんなことが5年ほど続いた
 白状してしまうと、僕は最近彼女のことが気になって仕方がない。いろんなことを語り合ったはずだけれども、
未だに彼女の笑顔を見たこともなければ声も聞いたことがない。そんな相手を好きだと言ってしまうのは変だろうか。
本に挟みたくて挟めない一枚の紙片を机の引き出しにしまって僕はため息をつく。柵をまたいだ恋なんてそうそう実るわけがない。
告白の文句はもう決まっているだが……。
 紙片には一言こう書いたのだ。
『仲直り、しない?』

(終わり)



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