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温泉界へご招待 ~大賀美夜々重の場合~

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温泉界へご招待 ~大賀美夜々重の場合~





「……こ、殺す。絶対にくびり……殺す……」

強い意志を持ち、しかし力なく菖蒲湯に沈んでいく怜角。
そこには湯船を取り囲み立ちはだかる裸身の少女二人に加え、陰から一部始終を覗き見て
いた一人の少女、いや幽霊の姿があった。

大賀美夜々重。
最近地獄の殿下宮殿に高待遇の女中として雇われた幽霊である。
壮麗な宮殿にて怠惰かつ奔放な暮らしを送っていた夜々重であったが、つい先ほど知人の
高瀬中尉より「怜角さんを助けて欲しい」と涙ながらに頼まれ、ゲヘナゲートを利用して、
ここ温泉界へとやって来たところだった。

「ふふ。怜角さんたら、あんなに取り乱しちゃって」

しかし助けに来たはずの夜々重が、そのような台詞をつぶやくのには訳がある。
夜々重は以前に、自分の想い人と怜角が親しそうに話している現場を目撃し、嫉妬心から
怜角を攻撃するも、見事返り討ちにあったことがあるのだ。

当時地獄へ不法侵入していた夜々重たちに対し、宮殿の警護にあたっていた怜角の行動に
全く非はなく、夜々重もそれを了知はしている。だが理屈を立てても気持ちは立たぬのが
女の性。夜々重はしばし苦しむ怜角を堪能した後、ようやく「やれやれ」と重い腰を上げ、
真打ち登場とばかりに颯爽と姿を現した。

「そこの破廉恥娘ども! 我が親愛なる友人、怜角さんを苦しめるのもそこまでよ!」

二人の少女が振り返る。相手がこの二人だけならば怜角を救出することも容易いだろう。
そう考えた時、湯けむりの奥からさらに一人の青年が走り込んで来た。

「なんだよ、こっち賑やかだなあ。男湯にも人増やしてくれよ」

――こいつが天野翔太か。
夜々重の表情に緊張が走る。地獄においては既に「視姦獣」と仇される穢れた霊。男湯も
女湯もないとは、まさに外道。
その張り詰めた空気は、湯に沈みゆく怜角にもしっかりと伝わっていた。

「や……夜々重さん……」

怜角の伸ばした手の先に、突如現れた太い縄が触れる。
それは夜々重の力によるものだった。
幽霊の呪力はその死因を具現化したもので、首を吊って死んだ夜々重は縄を召喚し自由に
操ることができるのだ。
怜角は薄れた意識の中にあってもそれを把握したのか、安堵に力を緩める。しかし――

「ぐえっ」

夜々重の縄が掴めるのは首だけなのだ。
苦しそうに宙に釣り上げられる怜角。しなやかな脚からしたたる湯が水面に波紋を広げる。
あられもない格好を魅せつけるようにして、その身体はついに湯船から床へと脱した。
果たしてこれを救出と呼んで良いかのかどうか疑問ではあるが、夜々重にはこうすること
しかできないのであるからして、この部分に関してのみ悪意は無かったと断っておきたい。

「さあ怜角さん、これを!」

愛用の巾着袋からおもむろにスペアの死装束を取り出し、震える肩にそっと掛ける。

「あ、ありがとう……ごめんなさい」
「気にしないで!」

唇を噛み締め、胸元を隠す怜角を前に「これでひとつ貸しが出来た」と、見えないように
ほくそ笑む。
夜々重はこの温泉界に来る前、すでに「第二類 天野翔太(視姦獣)」の情報を得ていた。
透視能力――頼りない縄と適当な頭脳を武器にする夜々重も、相手にそのような目で見ら
れたとあっては存分に力を発揮することはできない。
しかし夜々重の持つ死装束には、よこしまな力をある程度防ぐという取って付けたような
性能が備わっているのだ。
その事実にいち早く気付いたのか、天野が声を漏らす。

「な、なんだ……透視できねえ」

険しく歪んだその目は、夜々重と怜角に向けられていた。
驚愕に怯える天野。それは正確に言うと「見えない」のではない。天野の目は確かに装束
越しの素肌を捉えてはいたのだ。しかし女性の命とも呼べる局部数カ所には――

「モザイクが掛かってやがる……」

夜々重はその反応を確かめると口元をにやりと曲げ、指を差した。

「一旦引かせて貰うけど、いずれ決着を付けに戻るわ、視姦獣」
「いやだからそんな、視姦獣て……」

ふん、と言い捨て怜角を背負い、ふわふわと飛び立つ夜々重。
天野翔太――彼の無実が証明されるのは、一体いつになるのだろうか。



大賀美夜々重「地獄世界:ややえちゃんはお化けだぞ!」よりご来場

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