自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

332 第245話 リーシウィルム沖海戦

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第245話 リーシウィルム沖海戦

1485年(1945年)8月6日 午後7時 リーシウィルム沖西方60マイル地点

第56任務部隊司令官であるウィリアム・バーケ少将は、旗艦である重巡洋艦サンフランシスコのCICで、眉間に皺を寄せながら
通信参謀の説明に聞き入っていた。

「現在、機動部隊より分派された水上部隊は、我が隊の南方40マイル(64キロ)の海域を32ノットの速力でもって急行中との事です。」
「TG57.3が来るまでは、あと1時間程かかると言う訳か……」

バーケ少将は重苦しい声音で呟きながら、対勢表示板に視線を向ける。
対勢表示板の中心には、TF56の各艦艇が記されており、その右側……リーシウィルム橋頭堡に当たる部分には、多数の輸送艦や護衛空母、
護衛駆逐艦が居る事が現されている。
そして、その左側……正確には、左の隅の方には、敵を現す図が記されている。

「観測機より通信。現在、敵部隊は、我が部隊より22マイル(35キロ)にまで接近!」

その報せが上がった直後、係の兵が敵の駒を、更に東側に進める。

「増援が到着するまでは、我々が敵の襲来艦隊を抑えなければならんか……」
「非常に、厳しい戦いになるかもしれませんな。」

TF56参謀長を務めるミルス・クラインバーグ大佐が、半ば顔を強張らせながら言う。

「そうだろうな。だが、やらねばならん。」

バーケ少将は険しい表情を貼りつかせながらも、芯の通った口調で言う。

「我々が破られれば、あとはカレアント艦隊しか居ない。彼らがまともにシホールアンル海軍と戦えないのは既に分かっている事だ。」


彼は、視線を自分のコーヒーカップに向けながら、言葉を続ける。

「そして、彼らが突破されれば、後は艦隊戦向けでは無い護衛駆逐艦や水上砲戦には向かぬ少数の護衛空母。そして、大量の輸送船団が残る事になる。
ここで敵艦隊の突入を許せば、船団は蹂躙され、上陸した4個師団は、孤立してしまうだろう。」

バーケはそう言った後、コーヒーカップを手に取った。

「コーヒーを入れてくれ。」
「ハッ。従兵!」

参謀長が従兵を呼び付け、カップを渡してコーヒーを入れさせた。



事の始まりは、8月4日の夕方頃であった。

リーシウィルム上陸部隊の護衛の要でもあった第57任務部隊は、燃料補給のため洋上補給を行おうとした直前、多数のレンフェラルによる
補給船団攻撃という、思いがけない出来事に見舞われた。
実を言うと、レンフェラルの襲撃自体は、どのような艦隊……大は空母を中心とする高速機動部隊から、少は魚雷艇部隊のような補助艦艇隊でも
常に予想されており、見張り員は、鵜の目鷹目で常時海面を見張っていた。
レンフェラルの襲撃は、これまでにも何度かあり、最近では護衛空母部隊が攻撃を受けている。
この時は、推定で10頭ほどのレンフェラルが攻撃に加わっていたとされ、アメリカ側は護衛空母バゼット・シーを喪失、キトカン・ベイを
大破されるという手痛い打撃を被っている。
レンフェラルは、最大でも10頭ほどでしか攻撃を行う事は無く、それ以外はただひたすら、海上を行く連合軍艦艇の監視に徹しており、
襲撃回数事態もかなり少ない。
潜水艦の開発に失敗したシホールアンルにとって、レンフェラルは潜水艦に代わる貴重な偵察戦力であると同時に、いざという時の洋上打撃戦力
でもあり、無為な喪失を嫌うシホールアンル海軍はレンフェラルを集中投入した、大規模な攻撃を躊躇っている。
アメリカ海軍上層部ではそう判断していた。

だが、TF57に洋上補給を行おうとしていた補給船団は、推定でも30頭以上のレンフェラルから襲撃を受けており、これまでに油槽船ネオショーと
トラッキーが被弾炎上し、護衛駆逐艦2隻が大破している。

ネオショーとトラッキーは雷撃処分され、護衛駆逐艦2隻は後方に下げられた。
ここで割を食ったのがTF57である。
TF57の護衛艦艇……特に駆逐艦群は燃料が2割を切っており、早急に燃料を補給する必要があった。
その矢先に、今回の事件が起きたのである。
TF57は止む無く、補給船団と共に、安全と思われる海域まで避退し、そこで燃料補給を行う事を決定した。
だが、レンフェラルの集団は、その後も執拗に付き纏い、補給船団は更に護衛駆逐艦1隻と弾薬運搬艦1隻を撃沈された。
この間、機動部隊の艦載機や護衛駆逐艦、救援に駆け付けた海軍のPB4Yや、ミスリアル海軍のPBYカタリナが船団を襲撃中のレンフェラルに
攻撃を加え、これまでに8頭のレンフェラルを討ち取ったとの報告がバーケに届いている。
8月5日午後4時 補給船団はレンフェラルの伏在海域から脱する事ができ、TF57はようやく、洋上補給を開始したが、そこはリーシウィルム沖
から500マイルも離れた南方の海上であり、補給が完了し、リーシウィルム沖近海に戻れるのは、早くても7日の正午頃の予定となっている。
本当なら、機動部隊はもっと早い時間で交戦海域に辿り着けるのだが、レンフェラルの大規模攻撃を防ぐジクザグ運動を繰り返しながらの航行のため、
各艦が全速を出しても、全体の動きは早くは無い。

その間、シホールアンル海軍は着実に前進しており、6日の午後4時頃には、TF57から発艦したハイライダーが、敵機動部隊から分派されたと
思しき水上部隊が、急速にリーシウィルム沖へ向かっているとの情報をTF56司令部に伝えた。

TF57はTF56を支援するため、早めに給油を終えた駆逐艦と、燃料に余裕のある巡洋艦や戦艦を中心に第3任務群を臨時に編成し、午前3時頃に
リーシウィルム沖へと向かわせた。
TG57.3の周囲や前方には、緊急の要請を受けたPB4YとPBY飛行艇が常時10機以上張り付き、レンフェラルの警戒にあたってくれた。
だが、そのTG57.3の来援は、戦闘開始まであと一歩の所で間に合わなかった。

TF57の思わぬ戦線離脱と、救援到達前の敵艦隊の来襲。
状況が好ましくない事は、誰の目から見てもわかる事であった。

TF56旗艦、サンフランシスコのCICに詰めるバーケは、対勢表示板の敵艦隊が近付くにつれて、自分や部下達の緊張の度合いが、徐々に高まる事を
感じ取っていた。

「敵艦隊、我が隊より20マイルまで接近。方位300、速力28ノット!」
「………」

バーケは無言でその言葉を聞く。

「………敵は既に、先頭の戦艦群のレーダーに捉えられています。それに加え、観測機も敵艦隊の上空に取り付きつつある。あと少しで、敵の編成も
分かるでしょう。」
「……ハイライダーの報告は余りにも不明瞭だったからな。未帰還となった搭乗員には悪いが。」

クラインバーグの言葉に対して、バーケは視線を対勢表示板に張り付けたまま答える。
係の水兵が、表示板に映る駒を更に進ませる。
敵の編成に対しては、詳細が分かっていないため、適当な大きさの駒を置いているだけだ。


TF57は、6日の早朝から計8機のハイライダーを長距離偵察に発艦させている。
そのうちの1機が、午後3時頃に、リーシウィルム沖250マイル地点でスコールの中を航行する敵機動部隊と、その前方を行く別の敵艦隊を発見している。
ハイライダーは、

「敵は水上艦中心の艦隊と、その後方に竜母4、5隻ずつで編成された2つの機動部隊を伴えり。」

と報告して来た。
この時、バーケはシホールアンル軍が竜母を伴わず、水上部隊のみで編成された部隊を前面に出している事が気になった。
バーケはすかさず、参謀長にハイライダーへ水上艦部隊の数と艦種を問い質せと指示した。
それから10分後、ハイライダーから第2報が入ったが、

「敵水上艦部隊の数は約20隻以上。うち、大型艦らしきもの10隻前後見ゆ。」

と、曖昧な物であった。

「数は約20隻で、大型艦らしきもの10隻だと?それだけじゃわからん。その中に戦艦は居るのかいないのか、巡洋艦は何隻含まれているのかを
ハッキリさせろ。」

バーケは憤然とした口調でそう言い放ち、すぐにハイライダーへ確認の電報を送った。

だが、ハイライダーの連絡はそこで途絶えてしまった。

このハイライダーの母艦はリプライザルであり、それから2時間後の午後5時、リプライザルからバーケの旗艦サンフランシスコに、触接を保っていた
ハイライダーが撃墜されたとの報告が入った。
偵察機が撃墜された事により、敵水上艦部隊の詳細を知る事が出来なかったバーケにとって、今接近しつつある敵艦隊がどのような編成となっているのか、
常に気になっていた。

「司令官。戦艦ペンシルヴァニアより入電。敵艦隊は3つの艦列に別れている模様。そのうち、1つの艦列からの反応大との事です。」
「反応大……か。」

バーケが噛みしめるように呟いた時、新たな報告が飛びこんで来た。

「観測機より入電です!敵の編成は戦艦1、巡洋艦11、駆逐艦20隻前後の模様!」

その時、バーケは苦痛を受けたかのように顔を歪めた。
TF56の編成は、戦艦ペンシルヴァニア、アリゾナ、重巡洋艦サンフランシスコ、ポートランド、軽巡洋艦ブルックリン、ナッシュヴィル、
セントルイス、駆逐艦16隻となっている。
主力艦である戦艦の数では勝っている物の、巡洋艦、駆逐艦の数では敵に及ばない。
(状況は全体的に不利。特に、補助艦の数で負けているのは痛いが……合衆国海軍は幾度も夜戦を経験してきている)
バーケは自らを奮い立たせるように、内心で呟く。
(錬度なら、絶対に負けやせんぞ。シホット!)


その後も、敵艦隊との距離は徐々に縮まって行く。

TF56は3つの艦列に別れており、戦艦、巡洋艦の列に加え、駆逐艦列がその左右に展開する形となっている。

最初に動き出したのは、TF56の駆逐艦部隊であった。

「各駆逐隊、敵艦隊へ向け突撃せよ!敵駆逐艦が突出して来た場合はまず、そちらを叩け!」


バーケの命令が下るや、左右に展開していた4個駆逐隊16隻の駆逐艦が速度を上げ、戦艦、巡洋艦列を追い抜いて行く。
敵も米側の動きに反応してか、駆逐艦部隊と思しき小型艦列を突出させた。
程無くして、米シ両軍の駆逐艦部隊が交戦を開始し、それぞれが北の海域、または南の海域に向かいながら激しい殴り合いを行う。
駆逐艦部隊が完全に離れた後、今度は敵側に動きが合った。

「敵の中央艦列より中型艦が列を離れます!数は11隻!」
「……司令官!」

クラインバーグが切迫した声音でバーケに言う。

「巡洋艦部隊は艦列より離脱!敵巡洋艦群を迎え撃つ!戦隊針路320度!」

バーケは有無を言わせぬ口調で命令を発した。
命令を受け取った各艦はすぐさま舵を切る。
旗艦サンフランシスコを先頭に、5隻の巡洋艦がペンシルヴァニア、アリゾナの列から離れて行く。
程無くして、前方の2戦艦の列から完全に脱した5隻の巡洋艦は、同じく、味方の戦艦1隻を除いて突出して来た11隻の敵巡洋艦と真っ向から
向かい合う形で突撃して行く。
それまで、アリゾナ、ペンシルヴァニアの最大速度に合わせていた巡洋艦群は、鎖を解き放たれた獣のように、みるみる速度を上げて行く。
列から脱し、一時は直進していた米巡洋艦群は、そのまま敵巡洋艦部隊との距離を詰めて行く。
彼我の距離が18000、17000、16000と急速に縮んでいく。
敵巡洋艦群も全艦が30ノット以上の高速で突っ走っているのであろう。
15000メートルまで接近した時、バーケは新たな命令を発した。

「各艦に通達、戦隊針路250度!」

更なる命令が各艦に伝わったあと、サンフランシスコが回頭を始める。
戦艦や空母よりも機動性のある巡洋艦は、回頭に移るまでの時間が短いが、それでも、30ノット以上の速力で驀進している9950トンの艦体が
回頭を始めるまでは、約20秒のタイムラグがあった。
後続のポートランドが回頭を始め、そのあと、ブルックリン、ナッシュヴィル、セントルイスと続いて行く。
5隻の巡洋艦が回頭を終えた後、敵巡洋艦群も釣られるように回頭を行って行く。

「右砲戦!星弾発射!」

バーケは短い命令を発する。
サンフランシスコに搭載されている8インチ3連装砲3基が、回答中の敵巡洋艦群に向けられて行く。
程無くして、サンフランシスコの主砲から星弾が発射された。
1分後、CICに報告が伝えられた。

「司令!艦橋より報告です。敵巡洋艦はルオグレイ級とマルバンラミル級!」

バーケはその報告を無表情で聞いた後、即座に命令を下した。

「旗艦より戦隊各艦に命令!サンフランシスコ目標、敵1番艦、ポートランド目標、敵2番艦、ブルックリン目標、敵3番艦、ナッシュヴィル目標、
敵4番艦、セントルイス目標、敵5番艦!準備出来次第戦闘を開始せよ!」

バーケの命令の元、各艦がそれぞれの目標に主砲を向ける。
それに対して、シホールアンル側の巡洋艦部隊も、米巡洋艦群に向けて主砲を向けつつある。
先手を取ったのは米側であった。
まず、測的を完了したサンフランシスコが砲撃を始める。
最初は通常通りの交互撃ち方だ。
8インチ砲3門の砲声と衝撃が、CIC内に伝わって来る。
(よし。先手を取ったぞ!)
バーケは、幸先の良いスタートに顔を頷かせる。
未だに8番艦と9番艦の回頭が終わらぬ中、敵巡洋艦列の1番艦は主砲を発射せぬまま、サンフランシスコの第1射弾を浴びる。
砲弾は、敵1番艦を飛び越え、敵艦の右舷側に落下した。
続いて、第2射が各砲塔の2番砲から放たれる。
今度は敵巡洋艦の左舷側海面に落下し、3本の水柱が噴き上がる。
この時、敵巡洋艦群が全て回頭を終え、主砲を5隻の米巡洋艦に向けた。
敵1番艦の中央部から発砲炎が煌めく。敵艦から放たれた砲弾がサンフランシスコの上空に達する前に、サンフランシスコは第3射放った。
3番砲が砲口から煙を吐き出し、1番砲が火を拭こうとした瞬間、米巡洋艦群の真上で敵の照明弾が灯った。
シホールアンル軍お馴染みの赤紫色の照明弾……では無い。

「司令!敵の照明弾が炸裂!珍しい事に……敵艦の照明弾は青白く光っているとの事です!」
「青白く光っているだと?いつもの赤紫色では無いのか?」

バーケは、バイオレンスな色合いを放つあの光を思い出しながら、報告を伝えた通信員に聞き返す。

「いえ、違います。我々が使う照明弾と、色合いが似ているようです!」
「………何故、照明弾を変えた?」

バーケはふと、そんな疑問を抱いたが、戦闘はそんな事を気にする暇も無く、強引に推移して行く。
サンフランシスコの第4射が放たれる。
その時、敵巡洋艦も砲撃を開始した。

「敵1番艦発砲!続いて敵2番艦、3番艦も撃ち方始めました!斉射です。」
「ようやく、敵も砲門を開いたか……!」

バーケは、湧き起こる不安を押し殺しながら、サンフランシスコが命中弾を出すのを待つ。
この時、彼は最初から斉射弾を放つ敵巡洋艦が気になったが、慌てているのだろうと思い、気に留めなかった。
程無くして、それは起こった。

「司令!敵1番艦に砲弾が命中!次より斉射に入ります!」
「よし、でかしたぞ。」

バーケは満足気に頷いた。その直後、砲弾落下の轟音が鳴り響き、サンフランシスコの艦体が揺れた。

「敵艦の弾着か……この揺れからして、かなり近い所に落ちたかな。」

バーケは、揺れるCICを見回しながらそう呟く。そこに新たな報せが飛び込んで来た。

「司令!敵1番艦と2番艦がこのサンフランシスコを砲撃しています!」


「何!?」

バーケはそう返しながらも、心中ではやはりそう来たかと呟いていた。

「では、後続のポートランドも。」
「ポートランドのみではありません。後続の軽巡3隻も2隻……いや、最後尾のセントルイスに至っては、3隻の敵巡洋艦から砲撃を受けています。」
「物量でこちらを押し潰すつもりだな。」

バーケは参謀長にそう言うと、鋭い目付きで対勢表示板を睨みつける。

「いいだろう。だが、こっちも錬度は高い。負けはせんぞ!」

彼がそう呟いた直後、サンフランシスコが斉射を放った。
8インチ砲9門の斉射音はなかなかに大きく、交互撃ち方との時とは明らかに違う衝撃がCICにも伝わって来る。
(今頃、艦橋では胸の躍る光景が広がっとるだろうなぁ)
バーケは、半ば恨めしそうな気持で思う。
彼も生粋の大砲屋である。CIC内の指揮が効率的とはいえ、艦橋で戦闘を見守れない事に寂しさを感じずにはいられなかった。

「敵1番艦、2番艦発砲!」

サンフランシスコと対峙する敵艦が更なる砲撃を加えて来る。
主砲弾が唸りを上げながら、サンフランシスコに降りかかって来る。周囲に砲弾が落下する直前、サンフランシスコも第2斉射を放つ。

「敵巡洋艦と2番艦の発射速度は、サンフランシスコとほぼ同じか。」

バーケは、敵艦の砲撃とサンフランシスコの砲撃の間隔がほぼ同じと言う事に気付いた後、交戦している敵艦の正体がルオグレイ級であると確信した。

「性能はサンフランシスコとほぼ同等。となれば、腕の差で勝負は見えて来るな。」

彼が冷静に判断した直後、異音と衝撃、爆発音が響き渡って来た。


「な………!?」

バーケは唖然となった。
(まさか、もう命中弾が……!)
バーケのみならず、サンフランシスコの乗員全員が、この敵弾命中に少なからぬショックを受けていた。
その一方で、サンフランシスコの第2斉射弾も敵1番艦に命中する。
第2斉射弾は2発が命中した。
1発は艦首甲板に突き刺さって破片と爆炎を噴き上げる。もう1発は中央部に命中し、両用砲1基が粉砕された。
敵1番艦、2番艦が新たな斉射弾を放って来た。
敵弾が落下する寸前に、サンフランシスコも第3斉射を放つ。直後、16発の砲弾が周囲に落下する。
新たな命中弾がサンフランシスコの艦体を叩き、9950トンの重巡が痛みに悶えるかのように震える。

「艦首甲板及び、中央甲板に命中!火災発生!」

CICに被害状況を知らせる声が響く。恐らく、艦長にもその報告は届いているだろう。


重巡サンフランシスコのダメコン要員であるウィリス・デバード兵曹長は、部下を率いながら中央甲板の被弾個所に急いでいた。

「急げ急げ!」

彼は何度もそう叫びながら、部下達と共に第3甲板の狭い艦内を駆け抜けて行く。
身に纏った防火服がみっちりと体に執着し、全力疾走を続けていた体が熱を発してひっきりなしに汗が出て来る。
顔には、玉の様な汗が噴き出ているが、デバード兵曹長はそれに構う事無く、ひたすら被害個所に向けて突き進んで行く。
やがて、彼のダメコン班は被害個所に到達した。

「シホット共め、手荒くやりやがったな!」

デバードは忌々しげに叫んだ後、部下達に消火と延焼防止の措置を取らせた。

敵弾は中央部にある水上機格納庫に命中していた。
水上機格納庫は、敵弾命中によってめちゃめちゃに破壊され、20分前にキングフィッシャー水偵を打ち出したカタパルトは、真ん中辺りから無くなっていた。
火災は出ていたが、水上機用の燃料タンクに引火しておらず、10分ほど水を浴びせれば消火できる筈であった。

「ホースを持って来い!水力を集中させて火を消す!」

デバード兵曹長は部下に指示を飛ばす。
すかさず部下がホースを手渡し、今しも水をかけようとした瞬間、新たな敵弾がサンフランシスコに命中し、デバード兵曹長らは大きくよろめいた。

「また食らいやがった!」

デバードはあからさまに顔を歪めつつ、ホースの口から水を噴き出す。
彼が消火に加わっている間、別の部下は損傷した甲板の板材を斧で叩き切り、延焼しそうな物を片っ端から除去し、海に投げ捨てて行く。
サンフランシスコも反撃を行っているらしく、消火中にも関わらず、8インチ砲の斉射音と衝撃がダメコン班を揺さぶる。

「消えろぉ……さっさと消えろぉ!!」

別のホースを持つ部下の水兵が、火災の熱気を拭き散らさんばかりの大声で叫ぶ。
ありったけのホースを集中して消火に努めたお陰か、火は急速に消えつつあった。
(ひとまず、ここの部分に関しては、あと少しで消火が終わるな)
デバードはそう思い、少しばかり緊張が緩んだ。
その直後、新たな敵弾が水上機格納庫を直撃した。

「!?」

大音響と共に衝撃が伝わり、彼の率いるダメコン班は、ほぼ全員が床に転がされるか、壁に叩き付けられた。
被弾個所から熱風が吹き荒び、防火服越しにその熱が嫌と言うほどに伝わって来た。

「く…そ……おい、全員無事か!?」

彼がそう叫んだ後、方々から声が上がる。部下達の声だ。

「おお、みんな無事か。」

デバードはほっと安堵し、水上機格納庫に視線を向ける。

「畜生……忌々しいぜ!!」

火が消えかけていた格納庫は、先程よりも大きな火災に包まれていた。

「シホットの連中、航空機用燃料庫を撃ち抜きやがったな。」

彼は呻くように言うと、部下に“消火剤”を吹きかけるように命じた。
ガソリン火災は、水で消す事は難しいため、専用の消火剤を用いて消さなければならない。
程無くして、部下が備え付けのホースに消火剤専用のパイプを括り付け、改めて消火活動が始まる。
デバードは更なる被弾の衝撃に足を取られながら、近くにあった艦内電話機の受話器を取った。

「こちら右舷第3甲板中央部!航空機格納庫でガソリン火災発生!現在、消火剤を用いて消火に当たっています!」
「消火は出来そうか?」
「今の時点ではまだ分かりませんが、必ず消火は成し遂げて見せます!」
「了解。火はできるだけ早く消してくれ。」
「アイアイサー!」

デバードはそう返してから、受話器を置いた。
(出来るだけ早く消してくれ、か)
彼はそう呟きながら、水上機格納庫に目をやる。
ガソリン火災を起こした格納庫は、中にあった予備の水上機も巻き込んで燃え盛っている。
後方には濛々たる黒煙が噴き上がっており、この火災が容易に消し止められない程の大きさであると、分厚い黒煙が如実に表している。

「無茶言うなと言いたい所だが………俺達はダメコン班だ。やるしかない!」

デバードは胎を決めると、部下2人を連れて右舷側に回った。
やや間を置いて、デバードら3人のダメコンチームは、格納庫の右舷側に回った。

「思った通りだ。ここからなら、何とかできる。」

彼は確信したように言うと、艦内電話で反対の左舷側の部下達と連絡を取った。

「こちら班長だ!誰か聞こえるか!?」
「班長、バッチリ聞こえますよ!」
「よし、良く聞け!」

直後、敵弾が落下する。爆発音と同時に伝わる強い衝撃に、デバードは首を竦めた。

「おい、大丈夫か!?」
「ええ。問題ありまセン!」
「よし、1度だけしか言わんから良く聞け!俺が今から、ホースを使って燃料庫に火をかける。通常、ガソリン火災には水は使わん。何故だかわかるな?」
「水をかけても消えず、逆に広げてしまうからです。」
「正解だ。俺はその特性を利用して、燃料庫に水をかけ、ガソリンを一気に左舷側へ洗い流す!さっさと火を消すにはこれしか無い。」
「……それで、自分達はどうします?」
「貴様達は、横に広がろうとするガソリンを、水を使って押せ。ただし、強くやり過ぎるな。万が一の場合は消火剤もたっぷり使え。わかったな?」
「アイアイサー!」

部下達との短い打ち合わせを終え、デバードは受話器を置く。
サンフランシスコが何度目か分からない斉射を放つ。その直後、敵弾が落下し、周囲に水柱が噴き上がる。
デバードの右舷側にも至近弾が上がり、部下が海水に引き込まれ掛けるが、間一髪、もう1人の部下とデバードが手を結んだ所で落水する事を防げた。

「おいおい、まだお前に死なれちゃ困るんだ。」
「あ、ありがとうございます。」

落水仕掛けた黒人水兵は、すまなさそうに頭を下げた。


「礼は仕事が終わってからだ。まずはこのホースに水を入れろ。急げ!」

デバードはけしかけるように指示を飛ばし、黒人兵は大急ぎで水を放出する。
ホースに水が行き渡り、あとはバルブを回すだけだ。

「最大出力にしているな!?」
「ええ。思いっ切り行けますよ!」

黒人兵がそう返した時、またもや敵弾が落下し、艦体が激しく揺れた。

「今のは近かったな!」

デバードはそう言いながら、ホースのバルブを開放した。
凄まじい勢いで水が吐き出され、ガソリン火災の猛火に包まれる格納庫にたっぷりと注がれていく。
格納庫には、大きく引き裂かれた燃料タンクからガソリンが流れ出し、火の海と化していたが、左舷側部分に関しては、さほど延焼が及んでいなかった。
それでもガソリンは広がっており、火も左舷側部分を焼きつつあったが、デバードの放水がガソリンの流れを止め、同時に延焼も防がれていく。
水の勢いに流され始めたガソリンは、やがて右舷側部分に流れ落ちて行く。
他艦から見れば、サンフランシスコは格納庫の右舷側から炎の滝を流しているようにも見えた。

「班長!火が消えて行きます!」
「凄い……こんな方法で消火が進んで行くとは。」

ホースを支える部下2人が、感嘆の声を漏らす。
(まぁ、下手したらはずみでガソリンを別の区画に流し込んで、そこを火の海にしかねんがね)
デバードは半ば自嘲的な呟きを残しながら、放水を続けて行く。
燃料タンクのガソリンは、大量の海水によって右舷側に流されていく。同時に、格納甲板を覆いつつあった火炎も収まり始める。
デバードらが決死の消火活動に当たる中、サンフランシスコと敵巡洋艦の撃ち合いは続いており、敵の砲弾落下と思しき激しい衝撃が幾度となく伝わって来る。
だが、その度にサンフランシスコも撃ち返し、目標の敵巡洋艦にきっちりとお返しをする。
燃料タンクのガソリンが、消火ホースから注がれる水によって粗方洗い流された時、格納甲板を覆っていた火炎も鎮火した。

「よし、少々危ない方法だったが、艦長の命令通り、ここの火災はなんとか抑え込む事が出来たぞ!」


デバードが満足気にそう言い放った時、艦内放送が鳴り響いた。

「こちら艦長。敵1番艦を撃破せり!続いて、敵2番艦の砲撃を行う!」

デバードはその報告を聞くなり、

「こっちもしこたま砲弾を食らっていた筈だが、ケーブルは生きていたんだな。」

と呟く。
サンフランシスコには、少なくとも10発の敵弾が命中し、艦内各所で損害が出ている筈だが、これだけの被害を受けたにもかかわらず、電気ケーブルが
損害を免れている事に、彼は実に喜ばしいと思った。
先の艦長放送を聞いた部下達は、喜びを発する事も無く、黙々と任務に従事している。

「火は粗方消し去ったが、まだ燻っている所がある。そこにもたらふく消火剤をぶち込んでおけ!」

デバードは、次の指示を出した。
その直後、砲弾の飛翔音が鳴り響いたと思いきや、強烈な振動が伝わって来た。
(くそ、敵2番艦の砲弾か!)
彼は床に転げながら、サンフランシスコが危険な状態にある事を痛感する。
ふと、彼は、自らの鼻から伝わる匂いに気付いた。

「この匂い……後部甲板から流れて来る……!」

デバードは即座に体を起こす。左頬に切り傷を負っていたが、彼は気にしなかった。

「班長!後部の第3砲塔と甲板に敵弾が命中!火災が発生しています!」
「第3砲塔はどうなっている?」
「ハッ。見た目は無事の様ですが……」

部下がそう答えた直後、サンフランシスコが砲撃を放った……が。

「おいおいおい。第3砲塔が砲弾を放っていないぞ!」

デバードは顔をしかめながら言った。
その直後、またもや敵弾が落下し、サンフランシスコが敵弾命中の衝撃で振動する。
そして、新たな異変がサンフランシスコを襲った。

「ぬお……な、何だ!?」

デバードは、艦が急に左回頭を始めたため、姿勢を崩しかけた。

「……なぜ左に舵を切る?このままじゃ、敵2番艦を撃つ事は出来んぞ!」

彼は、サンフランシスコの急回頭を疑問に感じたが、もしや、敵の狙いを外すために、わざと転舵したのかと思い直した。
だが……サンフランシスコの回頭は止まらない。

「幾ら何でも、回答し過ぎだと思うが………まさか…!」

デバードは、ある事に思い至る。

「舵をやられたか……!」

彼は、顔から血の気が引くのを感じた。
唐突に、北の海上から発砲炎とは思えぬほどの閃光が煌めく。最初、彼は、そこで何が起きたのか分からなかった。


戦艦アリゾナ艦長カイリー・クレムソン大佐は、前方の戦艦ペンシルヴァニアから発せられた閃光にしばしの間、視界を潰された。

「な、何が……!」

彼は、困惑の表情を浮かべながら、ペンシルヴァニアに起きた異変が何であるか分からなかった。
視力が回復した後、彼の目にペンシルヴァニアの姿が映った。

「……ペンシルヴァニア!」

眼前のペンシルヴァニアは、後部付近から大火災を起こしていた。
後部に背負い式に配置されていた2基の3連装砲塔は完全に消し飛んでおり、艦体は第3砲塔から先が分断されている。
切断された後部付近は急速に沈みつつあるが、本体部分は火炎を発しながらも浮かんでいる。
だが、切断面からは大量の海水が流れ込んでおり、いずれ沈没する事は明白だ。

「取り舵45度!前方のペンシルヴァニアを回避する!」

クレムソン艦長は、張りのある声で指示を飛ばしつつ、視線を左舷側を行く敵戦艦に向けた。

「おのれ……よくもペンシルヴァニアを!」

クレムソン艦長は、姉妹艦を討ち取った敵戦艦に対して、憎悪を剥き出しにした声で唸る。
敵戦艦は、これまでに合衆国海軍が戦闘を行った戦艦とは、明らかに違っていた。
全長はアイオワ級と同等か、それ以上と思われる。
艦橋は、これまでの敵戦艦がニューメキシコ級やプリンス・オブ・ウェールズのような箱型であるが、その上を、短い棒状の構造物で一段階高くしてある。
主砲は前部と後部にそれぞれ3連装砲塔2基ずつ、計12門で、砲弾は16インチクラスと思われるが、威力は16インチよりやや高い。
中央甲板には相変わらず、煙突上の様な物は無いが、その代わりに、両用砲座や魔道銃座といった構造物がびっしりと敷き並べられている。
ペンシルヴァニア、アリゾナが戦っている敵戦艦は、明らかにネグリスレイ級を凌駕している。
シホールアンル海軍が新たに保有した、未知の新鋭戦艦である事は誰の目にも明らかだ。

「舵戻せ!」

クレムソンはすかさず命じる。
アリゾナは、沈みつつあるペンシルヴァニアの左舷側を航行していく。

ふと、クレムソンはペンシルヴァニアの艦橋に目を向ける。
後部に傾斜しているペンシルヴァニアは、中央部や前部甲板にも被弾して火災を起こしており、その猛火は今にも艦橋付近を包み込もうとしている。
一刻も早く脱出をしなければならない状況だが、それにもかかわらず、艦橋には人影が居た。
そして、その複数の人影は、通り過ぎるアリゾナに敬礼を送っていた。

「……ペンシルヴァニアに敬礼!」

クレムソン艦長は、自然とペンシルヴァニアに向いていた乗員達に聞こえるよう、大声で叫ぶ。
クレムソンは敬礼を行う。他の艦橋要員も、彼に習うまでも無く、自然と敬礼を送っていた。
(かつて、太平洋艦隊の旗艦をつとめ、このアリゾナと一緒に、この世界最初の戦艦同士の戦いを勝利に導いたペンシルヴァニアも……遂に逝ってしまうか)
クレムソンは、姉妹艦の最後をしっかりと目に焼き付けた後、顔を敵の新鋭戦艦に向けた。

「砲術、測的はまだか!?」

クレムソンは、艦内電話で砲術長を呼んだ。

「艦長、たった今測的が完了しました!これより砲撃を再開します!」
「うむ。頼んだぞ!」

クレムソンはそう返しながら、視線は敵戦艦から外さない。
交戦開始から、既に20分が経過している。


最初、優勢に戦いを進めたのは、ペンシルヴァニアとアリゾナであった。
敵の新鋭戦艦はたったの1隻で、数でも劣っていた他、砲戦の技量でも米戦艦群に劣っていた。
最初の第1射でアリゾナとペンシルヴァニアは、敵戦艦に至近弾を浴びせ、続く第2射で狭叉弾を得た。
そして、第3射でアリゾナ、ペンシルヴァニアがそれぞれ1発を命中させた。
その間、敵の新鋭戦艦は、こちらに習うように交互撃ち方から開始した。
敵戦艦の狙いはペンシルヴァニアだったが、砲弾はペンシルヴァニアから飛び越えるか、500メートル以上離れた海面に落下するばかりで、
お粗末その物であった。

敵の新鋭戦艦が思うように砲撃出来ない中、2隻の米戦艦は同時に第1斉射を放った。
24発の14インチ砲弾は、その散布界に敵戦艦をしっかりと捉えていた。
砲弾が落下するや、敵戦艦は計4発の砲弾を食らった。
砲弾は中央部と後部付近に落下した。中央部に命中した砲弾はあっさりと弾き飛ばされるか、装甲板を抜けずに甲板表面で炸裂しただけに留まったが、
後部に命中した砲弾は最上甲板を貫いて爆発し、爆炎と夥しい破片を噴き上げた。
ペンシルヴァニア、アリゾナは第2斉射、第3斉射、第4斉射と、次々と斉射弾を浴びせ、敵新鋭戦艦を容赦なく叩きまくった。
だが……敵戦艦は後部や前部付近の非装甲部部分から火災炎を噴き上げ、中央部付近からもうっすらと黒煙を噴くものの、4基の3連装主砲は度重なる被弾に
影響を受けた様子も見せず、速力も全く衰えていない。
だが、第5斉射弾を浴びせた時、初めて艦橋構造物に大火災を生じさせた。
敵新鋭戦艦は第7射を放った直後、後部艦橋に14インチ砲弾を食らった。
その瞬間、後部艦橋は爆砕され、敵戦艦はこれまで以上に大きな火災炎を引きずる事となった。
だが、ペンシルヴァニア、アリゾナが一方的に砲撃を浴びせられるのもこの時までであった。
敵戦艦はアリゾナ、ペンシルヴァニアの砲撃を浴び続ける中、着実に射撃精度を向上させていた。
そして、敵の第7射弾は、ついにペンシルヴァニアを捉えた。
中央部に命中した敵の砲弾は、14インチ砲防御しか施されていない装甲部分を難無く突き破り、第3甲板で炸裂した。
爆発の瞬間、ペンシルヴァニアの艦体が大きく揺れ動き、中央部からは濛々たる黒煙が噴き上がった。
この時点では、ペンシルヴァニアは21ノットの最大速力を発揮出来、4基12門の45口径14インチ砲も健在であった。
ペンシルヴァニアとアリゾナが第6斉射弾を放ち、敵新鋭戦艦に複数の14インチ砲弾を命中させるが、砲弾は敵の分厚い装甲に阻まれ、被装甲部に命中した
砲弾も、敵艦に致命傷を与えるに至らない。
2隻の米戦艦が第7斉射弾を放とうとした直前、敵戦艦は第1斉射を放った。
敵戦艦の右舷側海面に発砲炎に染まり、12発の大口径砲弾がペンシルヴァニアに殺到する。
ペンシルヴァニアは、敵弾の落下前に第7斉射弾を放つ。直後、敵艦の第1斉射弾が落下した。
今度は2発の砲弾がペンシルヴァニアを襲い、1発は第1砲塔を粉砕し、もう1発が中央部付近に命中。砲弾は艦深部で爆発し、缶室を損傷させた。
砲戦力の4分の1を失った上に、機関部に損傷を負い、速力を低下させたペンシルヴァニアだが、闘志はまだ残っていた。
ペンシルヴァニア、アリゾナが第8斉射弾を放つと同時に、敵戦艦が第2斉射弾を放つ。
それが、ペンシルヴァニアが敵に放った最後の斉射弾であった。

アリゾナが砲撃を再開する。砲撃は最初から斉射であった。
敵新鋭戦艦も、若干とはいえ、進路を変更したアリゾナに対し、斉射弾を放って来た。


互いの斉射弾は、共に空振りとなった。
更に2度、斉射を繰り返す。
第4斉射目で、アリゾナが敵新鋭戦艦に命中弾を得た。
(クソ!これまでに20発以上はぶち込んでいるのに、敵はまだ参らんのか!?)
クレムソンは苛立ちを募らせる。
敵戦艦の主砲弾が落下して来る。この斉射弾は、アリゾナの左舷側海面に落下し、12本の水柱が敵戦艦の姿を隠した。
水柱が崩れ落ちるのを待って、アリゾナは第5斉射を放つ。
12発の14インチ砲弾が、しばし間を置いて18000メートル先の敵新鋭戦艦に降り注ぎ、アイオワ級に勝るとも劣らぬ巨大な艦体が水柱に覆い隠される。
それから、2つの閃光が煌めいた。

「2弾命中!」

見張り員が声を荒げながら艦橋に報告を送る。
敵戦艦の斉射弾も、アリゾナ目掛けて落下して来る。
艦の周囲に水柱が乱立し、基準排水量33000トンの旧式戦艦が迫り来る恐怖に怯えるかのように揺れ動く。
アリゾナが第5斉射を放つ。同時に、敵新鋭戦艦も斉射を放った。
射撃速度では、敵戦艦に分があるらしく、既に第6斉射を撃ち放っている。

「弾着……今!」

見張りの張りつめた声音が響いた直後、敵戦艦が14インチ砲弾の直撃弾を受け、艦体から閃光を発する。

「3弾命中!」

弾着観測の結果が艦橋に伝えられた瞬間、とてつもない程の大音量が迫って来た。
その瞬間、12発の敵弾がアリゾナの周囲に落下し、水柱が天を衝かんばかりに吹き上がる。
同時に、艦体に凄まじい衝撃が伝わり、アリゾナ自身が耳障りな軋みをあげて激しく振動した。

「つ、遂に食らってしまった……!」

クレムソンは顔を青ざめた。
程無くして、ダメコン班から損害報告が伝えられた。

「艦長!第3主砲塔に敵弾命中!火災発生!砲塔は使用不能の模様!」
「弾火薬庫注水!」

クレムソンは即座に命じた。
敵弾命中時に弾火薬庫が誘爆しなかったのは不幸中の幸いであったが、注水が遅れれば、遠からず、ペンシルヴァニアと同じ結果を生む事になる。
クレムソンの指示はきわどい所で発せられたが、砲塔火薬庫の注水は迅速に行われ、この時点で、アリゾナが誘爆轟沈を起こす危機は回避された。
残った9門の14インチ砲が第6斉射を放つ。それから5秒後に、敵は第7斉射を放った。
敵の斉射弾が落下する前に、アリゾナの第6斉射弾が敵新鋭戦艦に降り注ぐ。
敵戦艦は、14インチ砲弾1発を中央部に受け、中央部の甲板から派手な爆炎が噴き上がる。
敵艦は中央部付近から新たな火災を生じさせるが、それは儚く思えるほど小さい。
まるで、敵戦艦が、

「お前の打撃力はそんな物だ」

と嘲笑しているかのようだ。
敵艦の第7斉射弾が、アリゾナにドカドカと降り注ぐ。
新たな衝撃がアリゾナに伝わり、クレムソン艦長は激しい振動に床を転げそうになる物の、ボクシングや柔道、空手で鍛えた体を踏ん張って、
その衝撃になんとか耐え切った。
心なしか、アリゾナの速力が弱まっているように思えた。

「ん?スピードが……もしや!」

しばしの間を置いて、クレムソンの抱いた危惧が正解と言わんばかりに、艦内電話のベルが鳴り響く。

「こちら艦長!」
「ダメコン班です!敵弾は後部甲板と中央部に命中!缶室をやられました!」


「畜生……先程から続く速力低下はそのせいか……!」

クレムソンは、アリゾナのスピードが明らかに遅い事に気付いていた。
今のアリゾナが出している速力は、推定で15ノット程度だ。
ヴァイタルパートを穿ち抜かれ、機関部に損傷を負った時点で、アリゾナの命運は決したと言っても良かった。
だが、9門の主砲は依然健在であり、主砲測距儀も予備測距儀も無傷で残っている。
戦闘不能と言える状態には、まだ陥っていなかった
(まだだ!まだやれる!頼む……耐えてくれ、アリゾナ!)
クレムソンは、痛みに悶える戦友を励ますかのように、内心でそう叫んだ。
アリゾナがそれに答えるように、第7斉射を撃ち放った。
14インチ砲9門の斉射はなかなかに強力で、アリゾナの古い艦体がびりびりと振動する。
発砲炎が消え去った後、敵戦艦も第8斉射を放つ。
敵の斉射弾が降る前に、アリゾナの斉射弾が敵新鋭戦艦に殺到した。
後部付近に連続で閃光が煌めいたかと思うと、水柱が敵戦艦の姿を覆い隠す。
敵戦艦を覆った水柱が晴れる前に、アリゾナも敵の斉射弾を受ける。
10本以上の水柱がアリゾナを包み隠し、その中の1発が前部の第1砲塔に命中した。
艦橋のスリットガラスにオレンジ色の光が差し込んだ瞬間、クレムソンは伏せろと叫びながら、自ら床に飛び込んだ。
艦橋要員達も、艦長に習って床に伏せた時、大音響と共にスリットガラスが砕け散り、艦橋内に凄まじい爆風が音立てて吹き込んで来た。
クレムソンは、背中を焼かれるような熱を感じたが、爆風が吹きやむまで、決して息を吸わず、体も起こさなかった。
爆風が噴きやんだ時、クレムソンはむくりと起き上がる。

「う…うう……誰……か、たす……け」

すぐ側で、航海科の士官が呻いている。
クレムソンはその士官の背中を見るなり、ぎょっとなった。
士官の背中には、幾つもの破片が突き刺さっており、傷口からは夥しい血が流れ出ている。
明らかに瀕死の重傷を負っていた。

「衛生兵!衛生兵を呼べぇ!」


クレムソンは、絶叫めいた口調でそう叫んだ。
負傷したのはその航海士官のみではなく、他にも3名の兵と士官が、飛びこんで来た破片や爆風によって傷を受けていた。
(チッ……俺もやたらに背中が痛む。だが、体は今の所、満足に動いている。倒れるまでは、ここを離れんぞ!)
クレムソンは、心中でそう決意しながら、割れたスリットガラスの前を見る。

「……第1砲塔がやられたか……」

彼は、思わず呻き声を発した。
敵戦艦の砲弾は、第1砲塔を正面から叩き割っていた。砲塔は3本の主砲全てを吹き飛ばされ、爆圧が主砲塔を、文字通り真っ二つに引き裂いていた。
中に詰めていた砲台長以下の砲員達は、当然の如く全滅である。
第1砲塔の弾火薬庫注水は即座に行われたようで、弾火薬庫が誘爆する事は、ひとまず無い。
だが、アリゾナの砲術科は諦めていなかった。
残った6門の主砲が、敵戦艦に対して斉射弾を放った。
第8斉射弾を放ったアリゾナが再び振動する。直後、敵新鋭戦艦も主砲弾を放った。
この時、クレムソンは、敵艦が後部付近に火災を背負っており、そこから発せられる発砲炎が小さい事に注目した。

「発砲炎が小さかったぞ……」

彼は訝しげに呟いた。直後、敵戦艦の周囲に主砲弾が落下し、またもや水柱が噴き上がる。
同時に、敵戦艦の前部甲板で爆炎が噴き上がり、新たな火災が起こった。

「新たな命中弾……だが、それでも速力は全く変わらんか……!」

クレムソンが歯噛みした時、新たな敵弾が落下し、アリゾナに更なる衝撃が伝わった。

「ぐぁ!」

今度ばかりは、クレムソンも衝撃に耐え切れず、床を転げ回った。
振動が収まると、彼は体の痛みに耐えながら起き上がる。

この時、彼は、アリゾナに別の異変が生じている事に気が付いた。

「……!?」

何かに思い至った彼は、すぐにスリットガラスの前に駆け寄った。

「……畜生!艦首が下がってやがる!!」

クレムソンはアリゾナに何が起きたのか理解出来た。
命中した敵弾は1発のみであったが、この1発が、アリゾナに止めとも言うべき結果をもたらしていた。
この命中弾は、アリゾナの左舷側艦首部分に命中していた。
命中個所は喫水線の近くであり、爆発の瞬間、魚雷で穿たれたような破孔が出来上がり、そこから大量の海水が流れ込んでいた。
その海水を呑んだアリゾナは、徐々に艦首を沈みこませていた。

「両舷停止!両舷停止だ!!」

クレムソンは咄嗟に命じた。命令を受け取った機関科が急いでスクリューの回転を止め、その次に逆回転に移る。
スクリューの逆回転に伴う振動がアリゾナを揺さぶる。その振動に煽られたかのように、浸水が増え、アリゾナの艦首が更に沈み込んで行く。
それから5分後、アリゾナは完全に停止したが、艦首は喫水線から上3メートル程も沈み込んでおり、艦首先端から海面までは目と鼻の先となっていた。

「これまでか……!」

クレムソンは、無念そうに呟いた。
アリゾナの16000メートル先を、敵の新鋭戦艦が航行していく。
敵戦艦は、艦の各所に火災を生じており、4基ある主砲の内、第3砲塔と思われる主砲は、軸線に向けられた他の砲塔と違って、ずっと舷側に向けられた
ままとなっている。
敵の反撃開始以来、赤子の手を捻るかのように押されまくったペンシルヴァニアとアリゾナであったが、アリゾナは最後の最後で、敵に一矢報いたようだ。

「これで、敵も主砲塔1基が使えなくなった訳か……その代償が……」

クレムソンは再び、深く沈んだ艦首に目を向ける。
アリゾナは今も、浸水が続いている。
ダメコン班が懸命の防水作業に当たっているが、こうも深く、艦首が沈み込んでしまったのでは、浸水を遅らせる事しか出来ない。
今のアリゾナは、奇跡でも起きない限り、沈没という道から脱する事は出来ないであろう。

「ペンシルヴァニア、アリゾナの喪失となるとは………アイオワ級にやられたシホット共も、俺と同じ敗北感を抱いていたのだろうか。」

クレムソンはそう呟いた後、迫り来る沈没という運命から1人でも多くの乗員を助けるため、アリゾナ艦長としての最後の行動を開始した。


午後7時40分を指した時、シホールアンル海軍第9巡洋艦戦隊に属する5隻の巡洋艦は、全速領で東に向かっていた。
第9巡洋艦戦隊司令官であるクヴィフ・ナスルヴェト少将は、苦り切った表情を浮かべたまま前方を凝視していた。

「やはり、アメリカ軍の巡洋艦部隊は強かったな。」

彼は、ため息混じりの声でそう言いながら、先程の砲戦を思い出していた。
ナスルヴェトは、第14巡洋艦戦隊と共に米巡洋艦5隻と戦闘を繰り広げた。
シホールアンル側は、11隻の巡洋艦をもって、5隻の巡洋艦を叩いた。
数の利を活かしての戦闘であったにもかかわらず、シホールアンル側は6隻の巡洋艦を大中破されてしまった。
5隻の米巡洋艦は、それぞれが1対2……最後尾のブルックリン級に至っては1対3という劣勢な状況であるにもかかわらず、どれもが相対していた
巡洋艦に痛打を浴びせていた。
特にブルックリン級巡洋艦の速射性能は凄まじく、狙われた艦は、廃艦寸前のボロ船と見紛わんばかりの様相を呈している。
最後尾のブルックリン級は、第9巡洋艦戦隊の3、4、5番艦(それも、新鋭に属するマルバンラミル級である)から砲撃を受けたにも関わらず、
戦闘開始から僅か5分で第14巡洋艦戦隊の5番艦の全主砲を粉砕したのみに留まらず、6番艦にも猛烈な速射を浴びせて、戦線離脱に追い込んでしまった。
辛うじて、第9巡洋艦戦隊所属艦の射撃がブルックリン級を沈黙させたが、6番艦は戦闘不能となり、他の損傷艦共々、予定されていた会合点に向かって行った。
敵船団襲撃の先鋒は第9戦隊に任される事になり、5隻のマルバンラミル級は15リンル(30ノット)のスピードで敵船団目掛けて突進していた。

「司令官!旗艦フェリウェルドより通信!我、敵戦艦2隻の抵抗を排除。これより湾港突入に加わらんとする!」
「おお……流石は我が帝国最新鋭の戦艦だ。ペンシルヴァニア級如き問題では無かったようだな。」

ナスルヴェトは、襲撃部隊旗艦であるフェリウェルドの活躍ぶりに感嘆の言葉を漏らした。


襲撃部隊は、第4機動艦隊の護衛艦と、根拠地で待機していた第3艦隊を合同で編成した水上打撃部隊である。
編成は、旗艦である新鋭戦艦フェリウェルドと巡洋艦11隻、駆逐艦26隻という大所帯で、彼らは作戦通り、今日の昼頃から泊地突入を目指して、
第4機動艦隊から離れていた。

今作戦の目標は、敵輸送船団の襲撃であり、その第1段階として、海軍総司令部が計画した、敵機動部隊に対する補給線寸断から始まった。
この補給線寸断には、レンフェラル45頭を投入して給油艦などの補給船団を攻撃し、敵空母艦載機の行動半径外に至るまで敵機動部隊を移動させる。
それが成し遂げられた後、機動部隊の後方援護を受けた水上砲戦部隊が泊地に突入し、帝隠している敵護送船団に大打撃を与える、という予定が立てられていた。
この作戦は、半ば投機性の強い物であり、当初、第4機動艦隊の幕僚達はこれに反対した。
また、シホールアンル海軍の台所事情は非常に苦しく、それは、水上打撃部隊の主力たる戦艦が、新鋭のフェリウェルド1隻しかない事で否応無しに現されている。
だが、最終的には、第4機動艦隊司令官であるワルジ・ムク大将が了承する事で、作戦の実施が決定された。

第9巡洋艦戦隊は、順調に進撃しつつあったが、リーシウィルム泊地からあと18ゼルド(54キロ)まで迫った時、思わぬ敵が現れた。

「司令!前方に艦影!」
「何?」

ナスルヴェトは、一瞬、敵船団の駆逐艦部隊が出張って来たのかと思った。
だが、続けて飛びこんで来た報告は、彼の予想を裏切る物であった。

「艦影は1!こちらの針路を妨害する形で航行中!」
「敵艦の艦種知らせ!」

ナスルヴェトの隣に立っている艦長が、見張りに聞き返す。

「……敵は巡洋艦です!」
「巡洋艦……アメリカ軍のだな!?」
「い、いえ……米軍の艦ではありません!あれは、カレアント軍のガメラン級です!」
「……なんと!」

ナスルヴェトは、意外な艦の登場に半ば唖然となる。

「司令。どうされます?1隻か2隻ほど分けて対応させましょうか?」
「あの時代錯誤の鉄屑には、この新鋭のマルバンラミル級1隻だけでも過剰と言えるが……敵艦の乗員が手錬であれば、ちょこまかと動き回って時間を
稼ごうとするかも知れん。ここは、手持ちの5隻、全てを使って即刻撃沈させる。」
「わかりました。では、各艦に命令を伝えます。」

ナスルヴェトは頷いてから、艦橋の壁に掛けられている時計に目を向ける。
時間は午後7時45分を指している。

「あれから45分が経過したか………まだまだ、夜は長いぞ。」

ナスルヴェトは小声で呟きながら、頭の中では、遅い来るであろう米軍の駆逐艦部隊や魚雷艇をどのように排除し、その後は何時まで敵の輸送船を叩けば
いいのかを考え始めていた。

「各艦に通達。敵艦より7000グレル(14000メートル)まで接近した後、同航戦に移行、各艦の主砲全てを敵艦に集中する。」

ナスルヴェトは更に命令を伝えた後、5隻の巡洋艦がガメラン級に近付くのを待つ。
それからしばし間を置いて、5隻の巡洋艦はガメラン級まであと7000グレルまで迫った。

「取り舵一杯!」

ナスルヴェトの号令が発せられたあと、5隻の巡洋艦は次々と回頭を行う。
回頭を行いながら、各艦の主砲はガメラン級に向けられていく。

「司令!駆逐艦部隊より通信!我、敵駆逐艦部隊を撃破するも、我が方も損害大!これより、作戦行動可能な15隻の艦を率いて泊地突入に向かう!」

ナスルヴェトは、その報告に息を呑んだ。
(26隻で16隻を攻撃して、戦闘続行可能な艦が15隻まで減るとは……米軍の錬度の高さは異常過ぎるぞ……)
心中で米水雷戦隊の奮闘ぶりを恐れながらも、意識は、無謀にも単艦で勝負を挑んで来た小癪なガメラン級に向けられる。

「各艦、準備を終え次第、順次発砲を開始せよ!」

ナスルヴェトは新たな命令を発する。
それに答えた旗艦マルバンラミルが最初の砲弾を放つ。砲撃は最初から斉射であった。
後続艦も斉射弾を放って、ガメラン級を一息に撃ち沈めようとした。
最初の斉射弾が落下し、ガメラン級が水柱に覆われる。

「命中弾なし!」

見張り員が観測結果を伝えて来る。

「ふむ。やはり初弾で命中させる事は難しいか……まぁいい。」

ナスルヴェトは無表情で呟く。
最初の斉射から18秒後に、第2斉射が放たれる。
今度の斉射弾もまた、ガメラン級を捉えるには至らない。だが、精度は第1斉射よりも良好であった。

「ガメラン級に命中弾無し!されど、砲弾多数が至近弾!」
「次か、その次辺りで命中弾が出るな。」

ナスルヴェトは小声で言う。
第3斉射が放たれ、5隻計50発の7.1ネルリ砲弾が殺到する。
またもや砲弾はガメラン級に命中しなかったが、それでも、狭叉弾を得る事は出来た。

「マルバンラミルの砲撃が狭叉弾を得ました!後続艦にも狭叉弾を得た艦が居るようです。」
「ようし、一気に畳み掛けるぞ。」

ナスルヴェトは、舌舐めずりしながらそう言い放つ。
この時、ガメラン級が急な変針を行った。
それまで、30ノット近い速度で並走していた敵艦は、なんと、急回頭を行い、マルバンラミル級に突進し始めたのだ。
ここに来て、ガメラン級も砲撃を放って来た。

「な……あいつら、気でも狂ったか!?」

ナスルヴェトは、無謀とも思えるガメラン級の突進に、敵艦乗員の頭を疑った。

「くそ、これでは先の射撃データが役に立たん。最初からやり直しだ!」

ガメラン級の急転舵のせいで、良好であった射撃精度は無くなり、各艦の砲撃は狭叉弾すら得られない。
ガメラン級は急速に差を詰めて来るが、ナスルヴェトは、艦首を向けながら突進を続けるガメラン級を嘲笑した。

「フッ、馬鹿な奴らだ。あれじゃあ、艦首にある砲しか使えん。それに対し……こっちが使える砲は主砲塔舷側の砲、多数が使える。
船は扱えても、所詮は、体力自慢だけの蛮族と言う所か。」

ナスルヴェトは、あからさまに馬鹿にするような言葉を発する。
マルバンラミルの主砲は2度斉射弾を放った。都合2度目の斉射で、再び狭叉弾を得た。
このまま行けば、第3斉射で命中弾が出る……
誰もがそう思った時、ガメランはまたもや変針した。

「あっ!敵艦、また回頭を始めました!」
「何!?」

ナスルヴェトは眉間にしわを寄せた。

「ガメラン級の奴、今度は反航戦を行うつもりか……いや、更に回頭を続け……ハハッ!奴ら、逃げて行くぞ!」

彼は、敵艦が急回頭を行い、艦尾を向けた所で回頭が止まり、遁走に移るまでの一部始終を見届けた。

「流石に奴らも、5対1では絶望的と感じて逃げ出したか。うむ、それが普通の反応だぞ、カレアント人!」

ナスルヴェトは、馬鹿にした口調で声高に言い放つ。
ガメラン級は遁走に入りながらも、後部砲塔を使って砲撃を行う。
幾度となく敵弾が落下して来るが、精度はあまり良くない。

「艦隊針路を東に変更!泊地進撃を再開する!」


彼は新たな命令を各艦に発した。
5隻の巡洋艦は、順繰りに舳先を向け直し、進撃態勢を整えて行く。
全艦が回頭を終え、泊地への進撃が再開された。

「逃げても無駄だ。そこは行き止まりだぞ。」

ナスルヴェトは、弱った獲物を狩る様な声音で、遁走するガメラン級を睨みつけながら言う。

「まぁ、貴様も敵の輸送船毎、ゆっくりと葬り去ってやる……!?」

その時、ナスルヴェトは意外な光景を目にした。
5隻の巡洋艦の猛砲撃に恐れを成して逃げた、と思われたガメラン級は、いきなり急回頭を行い、第9巡洋艦戦隊に立ちはだかったのである。

「敵艦発砲!」

見張りがそう叫んで来る。
敵弾の飛翔音が鳴り響いたと思いきや、マルバンラミルの周囲に複数の水柱が噴き上がった。
驚くべき事に、ガメラン級は最初の砲撃でマルバンラミルを狭叉していた。

「しまった!今度はこちらが、艦首を向けたままになっている!」

ナスルヴェトは、第9巡洋艦戦隊と敵艦の配置図を頭に思い浮かべ、味方部隊が極めて不利な態勢にある事を悟った。

「面舵!面舵一杯!敵艦と並べ!!」

ナスルヴェトは即座に命令を発する。
旗艦マルバンラミルが30秒近いタイムラグを経て、回頭を始めた時、敵艦の第2射が降って来た。
唐突に、マルバンラミルの艦体が揺れ、彼の耳に爆発音が響いた。

「中央部に被弾!火災発生!」

その瞬間、ナスルヴェトの目が凶悪なまでに吊り上がった。

「おのれぇ……旧世代の鉄屑如きが!!」

怒りに震えた声が艦橋内に響き渡った。

「回頭が完了次第、あの蛮族共の船を砲撃しろ!」

彼は、怒りのこもった声音で命令を発する。マルバンラミルが斉射弾を放ち、他の艦も回頭を終えた直後から砲撃を再開する。
ガメラン級がひっきりなしに水柱に覆われる。だが、ガメラン級も負けじとばかりに砲撃を放って来る。
新たな命中弾がマルバンラミルを叩いた。
「敵弾、第3主砲塔に命中するも、損害軽微!」

(当然だ!)
ナスルヴェトは心中で喚いた。
(あんな旧世代艦如きの豆鉄砲が、この最新鋭艦に通用するか!!)
マルバンラミルが、ナスルヴェトの怒りを代弁するかのように、第2斉射を放つ。
この斉射弾は、初めてガメラン級に命中弾を与えた。

「敵艦の中央部に命中弾!火災が発生した模様!」

ナスルヴェトの口元が自然と緩む。

「やっと命中か……さて、これから地獄を味合わせてやるぞ。」

彼が不敵な笑みを浮かべながらそう呟いた時、敵艦が何度目かの変針を行った。

「敵艦、また変針!」
「ええい、時間稼ぎのつもりか!?」

ナスルヴェトが喚き声を上げる。

「貴様が頼りにしている敵機動部隊は、既に遥か遠くに逃げておる。つまり、当てになる増援が“来る事は無い”のだよ!大人しく諦めろ!!」

彼は、心の底からそう思い、声高に宣言した。
だが………

「し、司令官!旗艦より緊急信です!」

ナスルヴェトの凶悪な笑顔が、一瞬にして固まった。

「敵の増援艦隊と接敵す!敵の規模は戦艦2、巡洋艦4、駆逐艦10隻以上!」


TG57.3が戦闘海域に到達した時には、時計の針は午後8時を指していた。

「司令!敵戦艦との距離、20000メートル!」

TG57.3司令官であるロバート・ギッフェン少将は、旗艦コンステレーションのCICで腕を組みながら、報告に聞き入っていた。

「距離17000メートルまで接近してから同航戦に入る。それまでは牽制がてらに砲撃を行え。」

ギッフェン少将は冷静な声音で指示を伝える。
TG57.3は、巡洋戦艦コンステレーション、トライデント、重巡洋艦デ・モイン、ロサンゼルス、ボイスⅡ、軽巡洋艦メンフィス、
アンカレッジ、駆逐艦12隻で編成されている。
このうち、重巡デ・モインは、苦境に陥っている友軍艦ガメランの救援に向かっている他、駆逐艦部隊は泊地に向かっていた敵駆逐艦部隊を急襲し、
戦闘を行っている。
コンステレーションのレーダーは、TG57.3主隊(コンステレーション以下の巡戦2隻、巡洋艦4隻)とやや反航する形で航行する敵新鋭戦艦の
姿を捉えている。

コンステレーションは現在、最大戦速である32.5ノットで会場を驀進しており、艦の動揺も幾らか大きくなっている。
CICからは分からなかったが、艦橋からは、艦首が派手に海水を噴き上げながら、主砲が砲弾を撃ち放つという、いささか派手な光景が繰り広げられていた。
コンステレーション艦長ティム・クラスカネイン大佐は、敵戦艦が発砲を開始する様子を双眼鏡越しに見つめていた。

「敵戦艦も発砲を開始したか。まっ、反航時の砲撃なんて、ろくすっぽに当たらんけどな。」

クラスカネインはぶっきらぼうな口ぶりでそう言い放つ。
コンステレーションの第1、第2砲塔が放った2発の砲弾は、敵戦艦の後ろに弾着した。
敵戦艦の放った砲弾も、コンステレーションの左舷側海面に弾着して空しく水柱を噴き上げるだけに留まる。
コンステレーションと同じように、トライデントも前部2基の主砲塔にある1番砲を撃ち放つが、結果は同じだ。
この後も、互いに何度か砲撃を加えた物の、砲弾は1発も命中しなかった。
彼我の距離が17000メートルまで縮まった所で、CICのギッフェン少将から命令が伝えられた。

「司令より通信!各艦変針、針路120度!」
「面舵一杯!針路120度!」

クラスカネインは航海科に命令を伝えた。
それから40秒後、コンステレーションの艦首が回り始めた。
基準排水力32900トンの大型艦が高速で急回頭していく。ともすれば、このまま横転してしまうのではないかとばかりに傾くと思われた。
だが、体に感じた感触に反して、傾斜は緩く抑えられており、コンステレーションは白波を蹴立てながら回答を続けて行く。
コンステレーションに続き、トライデント、ロサンゼルス、ボイス、メンフィス、アンカレッジという順番で回頭を行って行く。
5隻の巡戦、巡洋艦が回頭を終えた時、敵新鋭戦艦はその5隻に半ば、行く手を阻まれる格好となっていた。

「敵艦を右斜め方向から抑える形となったな。敵は前部の砲塔しか使えないに対して、俺達は舷側の主砲を全て使える。さて、どう動く?」

クラスカネインは、所々に火災炎を背負う敵新鋭戦艦に尋ねる。
TF56の2戦艦を完膚なきまでに叩きのめした敵戦艦も、5対1という圧倒的な不利な立場にあっては、心情穏やかではないだろう。

「敵戦艦、変針します……我が隊と同航するようです!」

クラスカネインは、時折、照明弾に照らされる敵戦艦の姿を見ながら、やはりそう来たかと思った。

「しかし、かなりでかい戦艦だな。大きさだけでもアイオワ級ぐらいはあるぞ。」
(となると、基準排水量も5万トン6万トンぐらいになる……対して、こっちの主力は14インチ砲防御の巡戦2隻。排水量も32900トンと、
敵の半分ほどの重量しか無い)
クラスカネインは心中で呟きつつ、敵戦艦の動向を見守り続ける。

「コンステレーションとトライデントを足して……ようやく、あいつより重くなる、と言う事か。」

クラスカネインは、場に似合わぬ暢気な口調でそう言い放った。

「各艦に伝達。速力28ノット!」

唐突に隊内電話が鳴り響いた。ギッフェン提督が直接、無線で各艦に知らせたのであろう。

クラスカネインはすぐさま受話器をひったくる。

「こちら艦長、速力下げ!速度28ノット!」
「速度28ノット、アイアイサー!」

クラスカネインの指示通り、機関部の将兵が忙しく……しかし、見惚れるほどの手捌きで窯の出力を調整していく。
程無くして、コンステレーション以下5隻の艦は、28ノットまで速度を落とした。
直後、敵戦艦が主砲を放った。

「右砲戦!撃ち方用意!」

クラスカネインの命令が下り、コンステレーションに搭載されている3基9門の55口径14インチ砲が、左舷の敵戦艦に振り向けられる。
距離は既に17000メートルを切っている。
14インチ砲防御しか施していないコンステレーションにとって、敵戦艦から放たれる砲弾を1発でも食らえば大損害は免れない。
最悪の場合、最初の1発で弾火薬庫誘爆、轟沈という憂き目にあう事も考えられる。
だが、クラスカネインは冷静であった。


「砲撃準備完了!」
「CICより通達。各艦、準備出来次第砲撃開始!」

クラスカネインは微かに頷いてから、命令を発した。

「撃ち方始め!!」

命令が下った直後、コンステレーションの主砲が唸る。
各砲塔の1番砲が咆哮し、3発の14インチ砲弾が高初速で叩き出される。
今まで、対艦戦闘を経験していなかったコンステレーションにとって、この第1射が初の、“まともな”(先程の砲撃は、牽制がてらの適当撃ちである)
砲撃となった。
砲弾は弧を描いて敵新鋭戦艦に落下し……弾着した。
2つの水柱が上がった直後、1発が後部付近に命中し、爆炎と煙を噴き上げた。

「命中ー!初弾命中です!!」

見張り員が歓喜の声音で報せて来た。

「はは、初弾命中とは……連中も頑張っていたからなぁ。」

クラスカネインは感慨深げにそう言い放った。

アラスカ級4姉妹の次女として建造されたコンステレーションは、他の3隻が対艦戦闘をこなしている中で唯一、水上艦同士の撃ち合いを全く
経験していなかった。
コンステレーションはこれまで通り、機動部隊随伴戦艦としての役割を十二分に果たしてきたが、乗員の中には、他の姉妹艦が水上艦の撃ち合い……
それも、鉄砲屋なら一度は夢見る戦艦同士の撃ち合いをこなしているのに、コンステレーションだけは、重要ながらも、どこか地味な空母のお守り
しか経験していないのは不公平だ、と発する者も少なからぬ存在した。
コンステレーションの乗員達は、演習の際はどの艦よりも気合が入っており、精鋭揃いで知られるアイオワ級戦艦の艦長達も、コンステレーション乗員の
訓練は、所々参考になると言うほどである。


その猛訓練の成果が、この初弾命中であった。
乗員達は、今は戦闘中と言う事も考慮して、無闇やたらにはしゃぎまわる様な事はしなかったが、それでも、顔を見合わせて頷き合ったり、互いに
握手を交わすと言った光景が各所で見られた。

「次より斉射だ!」

クラスカネインは一足早く、斉射に移行する事に決めた。
後方のトライデントも主砲を放ち、後続する4隻の巡洋艦も砲撃を開始した。
敵新鋭戦艦にトライデントと巡洋艦4隻の砲弾が降り注ぐ。
砲弾が次々と落下し、敵戦艦の周囲に無数とも言える水柱が断続的に立ちあがる。
トライデントの主砲弾は全て遠弾となり、ロサンゼルス、ボイスの砲弾は全て近弾となった。
メンフィス、アンカレッジの砲弾も外れ弾であったが、こちらは共に狭叉弾を得ていた。
コンステレーションが斉射を行う前に、最後尾を行く2隻のクリーブランド級軽巡が急斉射を開始した。
6秒から8秒置きに放たれる計24発の砲弾は、中口径砲弾の雨となって断続的に、敵新鋭戦艦に降り注ぐ。
視界の悪い夜間であるにもかかわらず、敵戦艦は常に、艦上に目印を置く羽目に陥ってしまった。
コンステレーションが第1斉射を放った。
主砲弾は、過たず敵戦艦に殺到し、周囲に次々と水柱が噴き上がる。
2発が敵戦艦の中央部と前部付近に命中した。
コンステレーションとロサンゼルス、ボイスも砲弾を放つ。
3隻の砲弾はどれも外れ弾となり、狭叉弾すら得らなかったが、そんな事は露知らずとばかりに、メンフィス、アンカレッジはそれぞれ12門の6インチ砲を
ここが正念場とばかりに撃ちまくる。
敵新鋭戦艦もコンステレーション目掛けて斉射を放つが、その斉射は、苦し紛れの反撃という感が強く滲んでいた。
敵戦艦の砲弾がコンステレーションに降り注ぐ。砲弾はコンステレーションの左舷側200メートルの海面に落下し、12本の水柱が噴き上がる。
これによって、敵戦艦の姿しばしの間見えなくなった。
トライデントと重巡2隻も砲撃を行う。ここに至って、トライデント、重巡2隻は狭叉弾を叩き出した。
後続の軽巡2隻は相変わらずである。
敵戦艦の艦体には、6秒置きに多数の6インチ砲弾が着弾する。
6インチ砲弾が敵艦の重装甲を撃ち抜ける筈は無く、装甲板にはじき返されるか、表面で炸裂するかの二つしかない。
だが、艦上の対空火器は、命中弾によって次々と破壊されており、あちこちで小火災も起こっている。

非装甲部に命中している砲弾は、その部分を好き放題に荒らし回り、敵艦の兵員室や便所と言った、艦内設備に被害が累積して行く。
敵新鋭戦艦は尚も砲撃を続けるが、5隻の巡戦、巡洋艦は容赦なく砲弾を浴びせまくった。


その頃、ガメラン級を砲撃していた第9巡洋艦戦隊は、米艦隊の増援接近の報が入った後も、ガメラン級に容赦無い砲撃を加えていた。
圧倒的な不利にも関わらず、勇戦敢闘していたガメラン級に1発、また1発と砲弾が良命中して行く。
全力射撃を開始して5分が経つ頃は、ガメラン級の砲撃はまばらになっており、艦の各所から火災と黒煙吐き出していた。

「フン。10発以上もぶちこんだのにまだ動けるとは……自慢の重装甲のお陰か。」

ナスルヴェトは、表面上ではガメラン級の固さを評価しながらも、心中では盛んに罵声を浴びせていた。
(小癪な鉄屑め。さっさと沈めば良い物を……)

「司令、敵艦の砲撃がこちらに当たる様子はありません。ここは、手早く止めを刺して後退するべきでは?」
「そうだな……あと10発ほどぶちこんだら、あいつも息絶えるだろう。もう少し砲撃を続けろ。」

ナスルヴェトがそう命じた直後、不意に、どこからか甲高い飛翔音が響いて来た。

「な……この音は?」

彼が音のして来た方角……南西側に顔を向けた時、マルバンラミルの右舷側に水柱が噴き上がった。

「!?」

彼は目を見開きながら、その水柱を凝視する。

「見張りより報告!敵艦1、右舷より接近中!」
「敵艦だとぉ……?艦種はなんだ!?」

艦長がすかさず問い質す。

「敵艦はアメリカ軍の巡洋艦のようです!」
「ぬ……いつの間に?魔道士は何をしておった!?」

ナスルヴェトが忌々しげに叫びながら、右舷側の両用砲に照明弾発射を命じる。
少し間を置いて、照明弾が炸裂した。その光の下に、1隻のアメリカ製巡洋艦が見えた。

「間違いない、アメリカ軍の巡洋艦だ。しかし、何故1隻だけ?」

ナスルヴェトは不審に思った。

「司令。ガメラン級はもはや脅威ではありません。目標をあの米巡洋艦に変更しましょう。敵は我々の退路を塞ぐ形で航行しています。」
「うむ……君の言う通りだな。」

彼は、主任参謀の提案に頷いた。

「各艦、目標……右舷側の米巡洋艦!準備完了次第叩き潰せ!」

ナスルヴェトはけしかけるような口調で命令発した。
彼は、望遠鏡越しに、照明弾の光に照らし出された米巡洋艦を注視する。
(箱型の艦橋の後ろに、やや長い棒状のマスト……それに1本煙突か。レーミア沖海戦でみられた1本煙突の新型艦とは若干、形が違うな。)
ナスルヴェトは心中でそう思いながら、砲撃準備が終わるのを待った。

「司令!各艦射撃準備完了です!敵艦は、我が隊から8000グレルほど離れていますが、砲戦距離としては申し分ありません!」
「よろしい。あのガメラン級と同じく、1隻で救援に向かって来た米巡洋艦に敬意を表しながら………」

ナスルヴェトは、サディスティックな笑みを顔に張り付かせた。

「押し潰せ!」

彼の命令が下るや、各艦は一斉に射撃を開始した。

5隻のマルバンラミル級は、全てが斉射弾を放っていた。それに対して、未知の米巡洋艦も砲撃を放つ。
彼我の砲弾が上空で交錯し、互いの目標へ向けて落下して行く。
第9巡洋艦戦隊の放った砲弾が次々と、米巡洋艦の近くに落下する。
敵艦は、林立する水柱に覆われるが、5隻の巡洋艦が放った砲弾は1発も命中しなかった。
(ふむ、先程と大して変わらんな)
ナスルヴェトは、戦闘の内容がガメラン級と戦った時とさほど変わらないと思った。
敵巡洋艦の砲弾が落下する。右舷側に3本の水柱が立ちあがった。
続けて、敵艦は第2射を放つ。
シホールアンル側の巡洋艦5隻も、きっかり18秒後に第2斉射を放った。
敵巡洋艦に第2斉射弾が落下するが、これも命中には至らない。
敵艦の砲弾も落下する。今度は、左舷側に水柱が上がった。

「今度は飛び超えたか……衝撃が近い事からして、射撃精度はなかなか良いようだな。」

彼はそう呟きながら、内心では、先のガメラン級とは明らかに手強いだろうと感じていた。

「だが、恐らく、相手はボルチモア級と似たような性能だろう。こっちも1隻はやられるかも知れんが、残り4隻が生き残れれば、あの未知の艦を
討ち取る事が出来る。」
(後は、さっさと離脱するのみだ)
ナスヴェルトの心中に、微かながら余裕が生まれつつあった。
第3斉射を放ってから3秒後に、敵巡洋艦も第3射を放つ。
斉射弾が敵巡洋艦に降り注ぐが、これもまた命中弾が無い。

「各艦に、落ち着いて狙えと伝えろ。いくらアメリカの巡洋艦とはいえ、たかが1隻だ。あいつらの好きな物量戦法で押し潰せ。」

ナスルヴェトが指示を伝えさせようとした時、敵巡洋艦の砲弾が落下して来た。
後部付近から異音と衝撃が伝わり、マルバンラミルの艦体が揺さぶられた。

「後部甲板に直撃弾!」


ナスルヴェトは態勢を整えながら、僅か3射で直撃弾を出した敵艦の腕前に舌を巻いた。

「なかなかの腕利きが乗っているようだな……」

彼は震えた声で呟いた、
第4斉射が放たれる。敵巡洋艦は斉射に移行中のためか、砲弾を撃って来ない。
斉射弾が落下し、敵艦が水柱に取り囲まれた。

「ディクンスカー、狭叉弾を得た模様!」

その報告に、ナスヴェルトが愁眉を開く。

「ここから、私達のターンとなるな。」

ナスルヴェトが嫌らしげな笑みを浮かべた直後、敵巡洋艦も斉射弾を放った。

「遂に敵も本領発揮か。ようやく、本格的な砲撃戦が……!?」

その時、ナスヴェルトは絶句してしまった。
それは、目の錯覚でも何でもなかった。
敵巡洋艦は、第1斉射弾を放ったその6秒後に、発砲を行ったのである。
発砲炎は、副砲のある中央部付近ではなく、全て“主砲塔”から発せられていた。

「……おい、今のはいった」

彼が言葉を続ける暇も無く、更に第3斉射が放たれる。

「て、敵艦が斉射を開始!お、恐ろしく早い勢いで斉射を繰り返しています!!」

見張り員が、すぐ目の前で巨大な化け物を見たと言わんばかりの、悲鳴じみた口調で報告を送って来る。
敵巡洋艦の斉射弾が落下して来た。


9発中1発が、前部甲板に命中して、夥しい破片が砲塔上や艦上に散乱する。
それから6秒後に飛来した砲弾が中央部と後部付近に落下し、マルバンラミルの艦体をしきりに揺さぶった。
更に降り注いで来た第3斉射弾のうち、1発が右舷中央部に命中して魔道銃座と両用砲座を吹き飛ばした。
直後、マルバンラミルが、未だに健在である10門の主砲を僚艦と共に発射した。
第5斉射弾を撃ち放った5隻の巡洋艦は、次の報斉射に向けて準備を整える。
訓練の行き届いた砲員達は、手慣れた手つきで砲弾を弾庫から引き揚げ、砲に積めようとする。
が、砲員達が作業行程の3分の1を終えぬ内に、敵艦は新たな斉射弾を放つ。
敵巡洋艦に砲弾が落下する前に、マルバンラミルは敵の第4、第5斉射弾を浴びせられる。
第4斉射弾は2発が前部に命中し、うち1発が第1砲塔を損傷させた。
第5斉射弾は中央部に命中し、ここに配置されていた第3砲塔も爆砕する。
次の斉射弾を放とうとした直前に、第6斉射弾が落下して、砲撃のタイミングが他艦よりもずれてしまう。
他の艦が斉射を放ってから3秒後に、マルバンラミルは第6斉射を撃ち放った。
その3秒後に敵艦の第7斉射弾が降り注ぎ、マルバンラミルの中央部と後部付近に1発ずつが命中する。

「だ、第4砲塔に被弾!」

ナスルヴェトは、敵巡洋艦の圧倒的な発射速度の前に、先程浮かびかけていた余裕を綺麗さっぱり吹き飛ばされていた。

「何だ……一体、何だというのだ!?」

ナスルヴェトは目を見開きながら叫ぶ。
その時、敵艦に命中弾と思しき閃光が煌めくのが見えた。命中個所は、前部砲塔のあるところである。
直後、敵の第8斉射弾が落下し、マルバンラミルの艦体が激しく揺さぶれる。

「どうなった……さっきの命中弾はどうなった!?」

ナスヴェルトは絶望に屈しかけながらも、先程見えた命中弾が、敵にどのような影響を与えたのか見届けようと、敵艦を注視した。
閃光の大きさからして、複数……少なくとも2発は敵艦の主砲に命中しているだろうと確信していた。
(砲塔に砲弾を食らえば、敵の砲戦力も減殺されている筈)
ナスヴェルトは、期待の眼差しで敵巡洋艦を見つめた。


敵艦が第10斉射弾を放つ。命中個所と思しき場所からも、はっきりと、発砲炎が見えていた。

「……そんな、馬鹿な……」

ナスルヴェトは唖然となった。直後、落下して来た第9斉射弾がマルバンラミルを叩く。
猛烈な爆発音と衝撃を感じた時、ナスヴェルドは仰向けに倒れ込んでしまった。

「……」

破片で喉をやられたのか、彼は全く声を出せなくなっていた。
だが、意識はあった。
ナスルヴェトは、心中で、あの未知の敵巡洋艦の事を呟き続けていた。
(あり得ない……決してあり得ない!あのクラスの巡洋艦は、7.1ネルリ砲より威力のある砲弾を放つ代わりに、最低でも16秒から18秒ほどの
発射間隔があった筈……なのに、あの敵艦の砲撃は何だ……まるで……)
第10斉射弾がマルバンラミルに命中する。そのうちの1発が、死者と負傷者で満たされた艦橋に飛び込んで来た。
ナスルヴェトは、眼前に灼熱した砲弾が現れ炸裂する直前になっても、思考を続けていく。
(ブルックリン級巡洋艦のように砲弾を放っていたではないか……!まさか、まさか……未知の敵艦の正体は……)
ナスルヴェトが結論に思い至った時、砲弾が艦橋内で炸裂した。直後、彼の意識は暗転し、2度と戻る事は無かった。


重巡洋艦デ・モイン艦長リンク・ヒューイット大佐は、艦橋上で指揮を取りながら、戦闘不能に陥った敵1番艦が猛火に包まれつつ、減速して行く
姿を見つめ続けていた。
デ・モインの目標は、既に敵2番艦に移っており、早速砲撃が開始された。

「敵2番艦との戦闘でも、敵1番艦のように第1射から第3射までの間で命中弾を決めて、そこから一気に叩き潰せればいいが……上手く行くかな。」

リンクは不安を押し殺しながら、ぼそりと呟く。

重巡洋艦デ・モインは、アメリカ海軍が開発した新時代の軍艦とも言える、最新鋭の重巡洋艦である。
全長218メートル、幅23メートル、基準排水量17000トン、満載時20000トン以上という大きさは、20世紀前半初頭の前ド級戦艦並みである。
速力は33ノットを発揮でき、空母を中心とする高速機動部隊に随伴できるようになっている。
武装は新開発の、全自動射撃も可能な55口径8インチ3連装砲3基9門に、54口径5インチ連装両用砲5基10門、40ミリ4連装機銃4基16丁、
20ミリ機銃24丁となっている。
2番艦カンバーランドからは40ミリ機銃は撤去され、新たに76ミリ連装両用砲が積まれている。

特筆すべきは、デ・モインの特徴とも言える新型のMk16全自動速射砲であり、この砲は重い8インチ砲弾を、遅くても8秒置きに、早ければ6秒置きに
1発の割合で打ち出す事ができ、デ・モインは目標に対して、1分間に最低で70発。最高で90発を撃ち込むと言う驚異的な投射弾量を誇っている。
敵1番艦は、この圧倒的な発射速度の前に手も足も出ぬまま、たちまち戦闘能力を失って行ったのである。
ブルックリン級軽巡の速射性能を引き継いだデ・モインは、シホールアンル艦にその力をまざまざと見せ付ける事が出来たのだが……
敵はまだ4隻もおり、戦闘はこれから激しさを増す所であった。

敵2番艦に第1射、第2射と砲撃を行う中、敵巡洋艦も味方艦の仇とばかりに、斉射弾を飛ばして来る。
敵弾が落下し、デ・モインが多数の水柱に取り囲まれる。その内の2発がデ・モインを叩いた。

「中央部並びに後部砲塔に命中弾!中央部の40ミリ機銃座1損傷、後部砲塔には損害なし!」

ダメコン班からもたらされ被害報告を聞いたリンクは、デ・モインの固さに感心した。

「これまでに5発ほど食らっているが、機銃座以外には損害は無し……か。本当、こいつは頑丈な船だな。」

第3射が3番砲から放たれる。
この砲撃は、敵1番艦のように直撃弾を得る事は無かった物の、敵巡洋艦を狭叉していた。

「一斉撃ち方に切り替えろ!」

リンクは即座に次のステップに移らせる。
主砲が沈黙する事10秒ほど……

その間、敵艦の斉射弾が落下し、新たに3発が命中した。
1発は、艦首甲板に命中して砲塔や甲板上に夥しい破片を撒き散らした。
2発は中央部に命中するも、分厚い装甲板が貫通を許さず、甲板上で炸裂させたが、新たに機銃座2基と5インチ連装両用砲1基が粉砕された。
デ・モインの第1斉射が放たれる。その6秒後に第2斉射、そしてまた6秒後に第3斉射と、9発の砲弾がリズム良く発射される。
狙われた敵2番艦にとって悪夢の時間が始まった。
次々と降り注ぐ9発の8インチ砲弾は、弾着のたびに艦体に穴を穿ち、主砲を叩き潰し、喫水線に穴を開けて艦内に海水を引き込んで行く。
デ・モインの斉射は正確であり、1斉射ごとに敵巡洋艦の姿が変わって行く。
第7斉射弾を放った直後、敵巡洋艦が後部付近から大爆発を起こした。
飛来した8インチ砲弾のうち、1発が敵2番艦の第4砲塔に着弾。そのまま天蓋を突き破って砲塔内部で炸裂した。
爆発エネルギーは砲塔直下の弾薬庫にまで及び、多数の砲弾と装薬の誘爆を引き起こした。
敵2番艦はこの大爆発によって艦体に大穴があき、そこから大量の海水が流れ込んで来た。
濛々たる黒煙と火災を後部に纏った敵2番艦、急速に速度を衰えさせて行った。
第7斉射弾が敵2番艦の前方で落下した後、デ・モインの新たな獲物に向けて主砲を向ける。
照準が定まるや、交互撃ち方を行う。
今度は第4射で狭叉弾を得、それから10秒後に斉射に移行する。
敵3番艦はそれから3分ほどで、38発の8インチ砲弾を受けてスクラップ同然にされた後、4分後に敵4番艦も前部付近に集中して命中弾を受けて
停止し、艦首部分から沈み始めた。
そして、最後の敵5番艦に狙いを付け始めた。

デ・モインは交互撃ち方6回目で敵5番艦に命中弾を得た後、斉射に移行しようとしていた。
リンクの表情には相変わらず、冷静さが保たれている物の、心の中では焦りがにじんでいた。
(既に、デ・モインは30発の砲弾を食らって艦の各所で火災が発生している。特に第3砲塔付近の火災が酷い。早めに勝負を決めなければ……
いかにタフなデ・モインと言えど危ない)
デ・モインは、敵艦から集中射撃を受けていたため、損害も無視できなくなっている。
左舷側の両用砲、機銃座は文字通り全滅で、艦橋や司令塔、測距儀といった重要個所は未だに健在だが、各所で発生した火災が敵に格好の目標を
与えてしまっている。
ダメコン班のキャパシティーは既に限界を超えており、デ・モインの損害は積み重なるばかりだ。
デ・モインが敵5番艦に向けて斉射を放った。
その直後、新たな命中弾がデ・モインの17000トンの艦体を強烈に揺さぶった。

「今度のはかなり大きいぞ!」

リンクがそう呟いた時、後部付近から何かが壊れ、倒れ込むような物音が聞こえてきた。

「第3砲塔並びに後部艦橋付近に被弾!後部マスト倒壊!!」

ダメコン班から上がった報告を聞いたリンクは、先程の金属音はマストが倒れ込む音だったのかと心中で呟いた。
(これだけしこたま砲弾を食らってしまっていてはな……デ・モインの外観は相当酷い事になってるかもしれん)
リンクは、憂鬱な気分になる。
デ・モインは、ボルチモア級以上の重装甲を施しているお陰で、艦のヴァイタルパートを射抜かれてはいないが、それでも、艦上は凄惨な様相を呈していた。
艦の人員の損害がさほど出ていない事と、主砲が全力発揮できる事が救いだと、リンクは思っていた。
だが、第2斉射弾を放った時、彼は違和感を感じ取った。

「……砲声が小さいぞ。」

リンクは、自らの耳に聞こえる砲声が、いつもよりも小さい事に気付くと、すかさず、艦内電話の受話器を握ろうとした。
その直前に、電話のベルが鳴り響く。

「艦長、緊急事態です!」

声の主は砲術長であった。

「第3砲塔が射撃不能に陥りました!」
「何だって。」
「原因は恐らく、敵弾命中時に生じた衝撃のせいかと思われます。その他にも、砲塔自体も旋回不能となっています。」
「畜生……射撃が出来ないばかりか、砲塔自体も動かせないとは!」

リンクは、第3斉射が放たれるのを待ってから、言葉を続けた。

「修理は出来んのか?」
「現状では、恐らく難しいでしょう。戦闘終了後に点検を行いますが、今回の戦闘では、第3砲塔は使えないでしょう。」

「!……ああ、わかった。残った6門の砲で何とかするしかないな。」

リンクは仕方無しにそう返してから、敵5番艦に目を向ける。
敵5番艦は艦体から火災を起こしている。斉射弾が命中したためであろう。
次々と放たれる砲弾が、確実に敵艦を痛めつけているが、敵5番艦は連装5基10門の主砲を必死に撃ちまくっている。
この時点で、発射速度はデ・モインが勝り、主砲の門数では敵5番艦が勝るという状態になっていた。
それでも、リンクは勝てると判断していた。

「このまま砲撃を続ければ、敵5番艦を押し込む事は可能だ。敵が黙るまで撃ちまくってやる!」

彼がそう呟いた瞬間、これまでにない強烈な衝撃が伝わって来た。

「うわ!」

余りの衝撃に、リンクは転倒しかけた。
揺れが収まると、彼は艦内電話がけたたましく鳴り響いている事に気付き、それに取り付いた。

「こちら艦長!何があった!」
「こちらCIC、レーダー機器が全て停止しました!どうやら、先の敵弾はメインマストを吹き飛ばしたようです!」
「……敵もやりやがる!」

リンクは、敵5番艦に対して憎らしいと思う反面、この期に及んで有効弾を与えた事に感服していた。
レーダーの位置情報を頼りに射撃を続けていた6門の8インチ砲が、沈黙している。
レーダーを用いぬ、本来の光学照準射撃を行う前の微調整を繰り返しているため、すぐには砲撃が出来ない。
その間、敵5番艦は射撃中止までに撃ち出され、降り注いだ8インチ砲弾によって、新たに2つの砲塔を粉砕され、砲戦力を減殺されていたが、
それに構わず、更なる斉射弾を放った。

「ここぞとばかりに撃って来たな。」

リンクは顔をしかめながら、一瞬、敵艦から目を離しかける。ふと、視界の側で、敵5番艦の向こう側から小さな閃光が煌めいたように見えた。

(……今、何か光ったぞ。)
彼は視線を元に戻す。
その瞬間、敵5番艦の艦橋トップに命中弾と思しき爆発が起こった。

「敵5番艦が被弾した?」

リンクが首を捻りながら呟いた時、敵の斉射弾が落下し、艦に更なる打撃を与える。
彼は、衝撃を受けてぼんやりとする頭を振りながら、改めて敵5番艦を睨みつける。
敵5番艦は、艦橋に謎の砲撃を受けた際の損傷を負っていた。
敵艦は艦橋トップから煙を吐きながらも、斉射弾を放ったが、その砲弾は全くの見当外れの位置に落下していた。
敵艦の左舷側の向こう側から更に発砲炎が煌めく。
今度は1発の命中弾も無く、3つの水柱が敵5番艦の右舷側に立ち上がった。
(あれは……もしかして……)
リンクが、ある艦の事を頭の中で思い出したその時、

「艦長!測的完了です!いつでも行けますぞ!」

艦橋のスピーカーに砲術長の声が響き渡った。

「よし、射撃再開だ!斉射で行け!」

リンクは即座に命令を下した。
沈黙していたデ・モインの主砲が再び咆哮する。前部2基の3連装砲塔は、6秒置きに主砲弾を弾き出す。
最初は精度が良くなかったが、第5斉射で命中弾を得てからは、砲弾は次々と敵5番艦に命中した。
第10斉射目を放つと同時に、主砲塔全てを破壊され、艦深部もめちゃめちゃにされた敵5番艦が力尽きたように速度を落とした。
それがきっかけであったのか、敵5番艦は黒煙を噴きながら急速に速度を落とし、1分後には完全に停止した。

「撃ち方、止め!」

リンクは、凛とした声音で命じた後、デ・モインをあの艦に近づけさせるべく、航海科に艦の針路変更を命じた。

午後8時30分 

「敵新鋭戦艦、30ノットで遁走して行きます!」
「OK。主隊の全艦に戦闘停止を命じろ。」

旗艦アラスカのCICで戦闘の指揮を執っていたギッフェン少将は、ほっと胸を撫で下ろした。

「マイクを貸してくれ。」

彼は、CIC内にいる水兵にそう頼み、マイクを受け取る。

「艦長、聞こえるか?ギッフェンだ。艦の状態はどうだ?」
「はっ、なんとか動きはしますが……しばらくはドック入り確実です。」
「だろうな。」

ギッフェンは苦笑交じりにそう返す。

「俊足が売りのアラスカ級が、たったの12ノットしか出せないとあっては当然だろう。いや、今回はむしろ、それだけで済んだ事を喜ぶべきだろうな。」


TG57.3本隊と敵新鋭戦艦との砲撃戦は、終始、TG57.3が押していたが、敵新鋭戦艦もさる物で、猛攻を受けながらも先頭艦、
コンステレーションに3発の砲弾を浴びせた。
受けた砲弾はたったの3発のみであったが、損害は甚大であった。
まず、1発は第2砲塔に命中するや、主砲塔を爆砕したのみならず、第1砲塔をも旋回不能に陥れた。
続いて2発目は中央部に命中し、シフト配置されていた缶の1つと機関室1つに重大な損傷を与え、コンステレーションは速度を大幅に落とした。
3発目は1本しか無い煙突に命中した。
砲弾は炸裂しなかった物の、煙突自体は真ん中から叩きおられ、コンステレーションは、交戦開始時と比べて半分以下に縮んだ煙突を周囲に晒す羽目になった。
だが、敵新鋭戦艦の抵抗もこれまでであり、戦況不利と見るや、艦の中央部から煙幕を発して反転。
戦場を離脱して行った。

「司令。駆逐艦部隊より入電。敵駆逐艦、本海域より撤退しつつあり。どうやら、敵は泊地突入を諦め、撤退に入ったようです。」

参謀長はそう言うと、ずいと身を乗り出してギッフェンに問うた。

「追撃しますか?」
「……いや、止めておこう。」

ギッフェンは首を振りながら答えた。

「我々の目標は、泊地の上陸船団を守る事だ。新たな敵艦隊襲撃が考えられぬ訳ではない。それに……TF56は、先の敵艦隊との戦闘で主力の戦艦、
巡洋艦が全て撃沈破されている。駆逐艦部隊の損害も大きい。」

ギッフェンは、被弾時の猛烈な衝撃で割れた対勢表示板を見ながら、言葉を続ける。

「機動部隊が来るまでは、我々が、TF56の代わりを務めなければならん。いいか、あくまでも我々の目標は、船団を守る事にある。その事を忘れるな 。」


リーシウィルム沖海戦 両軍損害

アメリカ海軍

喪失 戦艦ペンシルヴァニア 巡洋艦セントルイス 駆逐艦7隻
大破 戦艦アリゾナ 巡洋戦艦コンステレーション 重巡洋艦サンフランシスコ、ポートランド
軽巡洋艦ブルックリン 駆逐艦6隻
中破 重巡洋艦デ・モイン ナッシュヴィル、駆逐艦8隻
小破 駆逐艦3隻

カレアント海軍

大破 強襲艦ガメラン


シホールアンル海軍

喪失 巡洋艦5隻(第9巡洋艦戦隊全滅)駆逐艦9隻
大破 戦艦フェリウェルド 巡洋艦6隻 駆逐艦5隻
中小破 駆逐艦7隻

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