虹の大陸 ~a commonplace story in Perfect world~

序:あるところに少女あり(1)

最終更新:

continentofrainbow

- view
管理者のみ編集可
「ぃやった~っ!」
学堂からの帰り道、思わず叫んで少女は空を見上げた。
しばらく見なかった青空だ。まだ空気は冷たいが、雪の止む季節が間近にやって
来ているのを感じる。

「ちぇ。老師のお気に入りは良いっぺなー」
後ろから拗ねたような声がした。声の主は腕を枯草色の頭の後ろで組んで、少女の後ろを歩いている少年だ。
「なーに馬鹿げたこと言っとるべ。実力にきまっとろーが」
そう言って少女は少年を振り返った。顔にかかった日焼けしたような赤色の髪を振り払い、着物の袂から大事そうに三寸程の板切れを取り出して目の前に突き付ける。
「見よ!ワシの努力の結晶をッ!」
板には何か一文字の焼印が押してあり、それを朱で丸く囲ってある。
その村の学堂で一番の成績を修めた者に与えられる証明だ。
口を尖らせて少年も同じような板切れを懐から取り出してながめた。少女の持っているそれとほぼ同じものだが、朱の丸が無い。


「だけンど……」
打って変わった少女の声のトーンに、少年は視線を板切れから少女に移した。
「ひいきが全く無かったとは言えねかもしンね」
彼女は少年と同じように板切れを見つめていたが、また大事そうにそれを袂に仕舞う。
「これがあればお父も進学さ許してくれると思うし。試験勉強さ免除なら年明けまで家の仕事もできるべ」
「やっぱりまだ許してもらえンのか」
「うんだ。ワシが進学したいっていうンも、お父が反対してるンも老師はご存知だもん。……老師は優しいし手心加えてくれたのかも知ンね」
少年はバン!と少女の背中を叩いた。
「痛ったぁ……なにするン」
「ま、そんなら許すンべ。老師のなさることなら間違いなかろし、おめぇが一番なのはみんな判ってるべ。俺は試験なんぞ楽勝だし……って痛ってぇ!」
「仕返しだべwおめぇには負けね」
少女は背中を叩き返した右手をヒラヒラと振りながら、ケラケラ笑って走り出した。
「早く帰ンねぇとまた飯抜かれるっぺよ!」
その笑顔にちょっとまぶしそうにしてから、少年は足元の雪を丸めて少女に投げつけた。赤毛に雪だまが当たってはじける。
「仕返しの仕返しだっぺ!」
「こぉらあぁ~!」
少女も雪だまを作って少年に投げつけ、結局二人は雪合戦で帰路の大半を消化したのだった。


**** ****



四半刻ほど後。
いつもの辻で少年と別れて、少女は小走りに家へ駆け込んだ。
「ただいま!」
土間でもどかしく履物を脱いで板間に上がり、戸をあける。すると、妙に部屋が片付いていて、そこでいつも仕事をしている父のほかに、知らない男がいた。
「あ……。こんにちは」






-
記事メニュー
目安箱バナー