ゆっくりいじめ系2544 だって赤ちゃんだもん 中編

体力を使う遊びはハンデがありすぎて、巨大赤れいむが退屈になってしまう。
となると、ここは体格差を選ばない遊びをさせるべきだろう。
男はその旨を愛で子に伝え、次は何をさせようかと相談する。

「そうね。それなら本を読んであげるなんてなんてどうかしら」
「本か……」

それはいいかもしれない。
家には、マイクロ一家が小さい時に読んであげた絵本が大量に残っている。
ゆっくりの記憶なら、すでに読んであげた絵本の内容なんて忘れているだろうし、聞けば、巨大赤れいむにはまだ絵本を読んであげたことがないという。
男はその案を採用すると、本棚から昔の絵本を取り出し、愛で子に渡してあげた。

愛で子はそれをテーブルに置き、椅子に腰を下ろす。
男は水槽の中から、マイクロ一家と巨大赤れいむを取り出すと、絵本の傍に優しく置いてあげた。
その後、愛で子の苦労を労わる意味も込めて、コーヒーを入れてくると、お湯を沸かしに部屋から出て行った。

「おねえしゃん!! きょれ、なんにゃにょ?」

早くも目の前のことに関心を奪われた巨大赤れいむは、愛で子にこれは何なのかと問い出し始める。

「これは絵本というものよ。テレビみたいに絵は動かないけれど、絵を見ながらその場面を空想していくものなの」

今一理解できていない様子の巨大赤れいむ。

「えほんさんは、すごくゆっくりできるんだよ!!」
「とってもおもしろいんだよ!!」

どういうものか知っているマイクロ一家が、巨大赤れいむに説明を加えてくる。
具体的な説明ではないので、未だどういうものか分からない巨大赤れいむだったが、ゆっくり出来るという言葉に、嬉しそうな表情を見せる。

「おねえしゃん!! ゆっきゅりはやく、えほんしゃんであしょびちゃいよ!!」
「はいはい、今読んであげますからね」

一ページ目を開き、愛で子が物語を読もうとする。
しかし、それをマイクロ一家が制止する。

「おねえさん!! ゆっくりまってね!!」
「どうしたの、まりさちゃん?」
「まりさたちはゆっくりえがみえないよ……」
「えっ? ……ああ、そうね!!」

マイクロ一家は絵本の下で待機していたが、目線が低すぎる一家は、絵がまともに見えないのだ。
両親はまだ辛うじて見えなくもないが、子ゆっくりや赤ゆっくりは角度的に何が描いてあるかさっぱり分からなかった。

「う~ん、そうね……そうだ、ならこうすればどう?」

愛で子はしばらく考えた後、マイクロ一家を自身の掌に乗せると、絵本の上に持っていく。
愛で子の手の中から、絵本を見下ろすマイクロ一家。

「これならどうかしら?」
「ゆゆっ!! ゆっくりはっきりみえるよ!! おねえさん、ありがとう!!」

マイクロ一家の感謝に笑顔で返し、愛で子は今度こそ物語を読もうと、最初の文字に視線を向けた。
しかし、今度は自分の巨大赤れいむから、制止の声が飛んでくる。

「おねえしゃん!! れいみゅも、ゆっきゅりだっこちてね!!」

マイクロ一家が抱きあげられていることが羨ましかったのだろう。
自分も持ち上げてくれと、巨大赤れいむが駄々を捏ねる。
しかし、マイクロ一家を持ち上げている左手はすでに一杯一杯。
かといって、右手は絵本を支えたり、開いたりするのに使うため、巨大赤れいむを抱える場所がない。

「ごめんね、れいむ。もう抱っこできないの。今回は諦めてちょうだいね」

愛で子はやんわり巨大赤とれいむに伝えた。
しかし、これが納得できないのは、やはり一匹相手にしてもらえない巨大赤れいむである。
そもそも、愛で子は自分の飼い主なのだ。
それを知っているくせに、愛で子に優しくしてもらっている一家が気に食わなかった。

「おにぇえしゃんは、りぇいむがきりゃいにゃの?」
「そんなわけないでしょう。馬鹿な事をいうものじゃありません」
「だったりゃ、おにぇえちゃんたちをおりょちて、りぇいむをだっこちてね!!」
「れいむ。あなたは抱っこしなくても、体が大きいのだから絵本が見えるでしょ。でもまりさちゃんたちは小さいから、こうしないと絵が見えないのよ」

分かってくれと言った表情で、愛で子が巨大赤れいむを窘める。
しかし、そんな言葉で納得できる巨大赤れいむではなかった。
今日、二回も怒られているという前科も思い出し、このままでは大好きな愛で子がマイクロ一家に奪われるのではという恐怖に囚われた巨大赤れいむは、愛で子では埒が明かないと、直接話を付け
るべく、一家の下までやってきた。

「おねえしゃんは、りぇいむのおねえしゃんだよ!! ゆっきゅり、しょこからどいちぇね!!」

眉を吊り上げ、怒りを露わにする巨大赤れいむ。
対して、マイクロ一家は対応に窮していた。
別に自分たちは愛で子を取る気など更々ない。一家には一家で、最愛のお兄さんがいるのだ。愛で子がいくら男の大事な人とはいえ、どちらがいいかを比べれば、そんなこと言うまでもない。
しかし、自分たちの体格上、こうでもして貰わなければ、絵本を見ることが出来ないのも事実なのだ。
絵本はマイクロ一家も大好きである。
巨大赤れいむは目線も高く自力でも絵が見えるため、気の毒とは思うが、それは明らかに我儘が過ぎるというものではないのか?
それとも、親も姉妹も友達もいなく、毎日を寂しく過ごしている巨大赤れいむの遊び相手を任された身としては、自分のゆっくりを捨ててでも尽くすべきなのだろうか?
一家には、答えを出すことができなかった。

巨大赤れいむは愛で子の言葉を聞かず、マイクロ一家にどなり散らしている。
愛で子も、先程のように悪さをしたわけではなく、ただ自分に甘えたいだけということが分かっているだけに、叱責するのは少々気が咎めた。
巨大赤れいむを窘めようと何度も説明を繰り返すが、愛で子を奪われるという固定観念に囚われた巨大赤れいむは、掌の上のマイクロ一家に容赦なく罵声を浴びせていく。
一家は一家で対応に困り、事態は膠着状態に陥りかけた、その時だった。

「お待たせ~~」

男が二つのカップを持ち、部屋に戻ってきたのである。
てっきりほのぼのと絵本を読んでいるところを想像していた男は、この殺伐とした雰囲気に、いったい何事だと目を丸くした。
愛で子が現状を男に説明する。
すると、男は不思議そうな表情で、愛で子に一つの解決策を提案する。

「あのさ。それって、本を縦にすればいいだけでない?」
「……………あ!!」

なぜ気が付かなかったと言わんばかりに、愛で子は顔を真っ赤にさせていた。
本を立てれば一家も巨大赤れいむも見ることが出来るし、空いた手で巨大赤れいむを抱っこしてあげることもできる。
男はそんな愛で子に苦笑しながら、コーヒーを手渡す。
本来、賢い女性なのだが、こういうどうでもいいポカをやらかすことが、時々あるのだ。
まあそれも愛で子の愛嬌の一つであるし、男は愛で子のそういう部分に心惹かれたのだ。
愛で子は失態を取り戻すべく、コーヒーを一口すすり、コホンと咳払いをして失態をなかったことにすると、本を立てて、巨大赤れいむを片手に、物語を読み始めた。
一家にもホッと安堵する。これなら自分たちは元より、抱っこされた巨大赤れいむも不満はないだろう。
マイクロ一家は、愛で子の奇麗な声が紡ぐ物語に思考を移していった。
しかし、巨大赤れいむの心の中では、どす黒い感情が着々と増していったのである。











「愛で男くん、そろそろ買い物に行ったほうがいいかしら?」

時計に視線を移し、愛で子が男に声を掛ける。
時刻は午後五時。これから買い物に行って夕食の支度をするとなると、六時を超えることになる。
昼食を食べたのが早かったので、既に結構お腹が空き始めている。夕食の出来あがる頃にも、もうペコペコだろう。

「そうだな。これ以上遅くなると、腹が持ちそうにない」
「ふふっ。ゆっくりみたい」
「頼むからその例えだけは勘弁してくれ」

男はジャケットを取り出し、シャツの上から着込む。愛で子も準備完了した。
そして、テーブルの上に出していたマイクロ一家と巨大赤れいむを水槽の中に戻しておく。
万が一にもテーブルから落ちようものなら、巨大赤れいむはともかく、マイクロ一家は命がない。

「まりさ。俺たちは買い物に行ってくるから、少しの間、れいむの面倒をしっかり見ていてくれよ」
「まりさちゃん。れいむちゃん。私のれいむの面倒を見ていてあげてね」
「ゆっくりりかいしたよ!! ゆっくりいっぱいおみやげをかってきてね!!」
「はいはい、分かりましたよ」

男は適当な生返事を返し、愛で子の手を握りながら、家から出て行った。
マイクロ一家は二人が見えなくなるまで見送っていた後、何故か見送りもせず、元気もなかった巨大赤れいむの元に集まった。

「おねえさんのおちびちゃん。おにいさんとおねえさんがかえってくるまで、まりさたちとゆっくりあそぼうね!!」

親まりさがニコニコ顔で巨大赤れいむを誘う。
元気がなさそうだが、一緒に遊べばそんな気持ちは吹っ飛ぶと考えたマイクロ一家。
しかし、冷めた視線で親まりさを見つめる巨大赤れいむは、表情も変えず返事を返さない。
聞こえなかったのかと思った親まりさは、再度巨大赤れいむを遊びに誘う。
しかし、やはり返事は返してくれなかった。

「ゆうぅ……おねえさんのおちびちゃん、どうしたの? ぽんぽんがいたいの?」

ここまで来ると、流石に心配そうな様子で巨大赤れいむを見つめる親まりさ。他の家族も同様で、しきりに声をかけ続ける。
そんなやり取りをしばらく続けていたマイクロ一家だったが、突如巨大赤れいむは何を思ったのか一家に怒鳴り声を張り上げてきた。




「ゆっきゅりだまっちぇちぇね!!!」




それにビックリし、後ずさるマイクロ一家。

「お、おちびちゃん!! いきなりおおきなこえをだしてどうしたの!?」
「おどろかすのは、ゆっくりできないよ!!」

親まりさと親れいむはこの期に来ても、まだ心配そうな態度を崩さない。
自分の子供たちにも、赤ちゃんの頃は時々癇癪を起こすことがあった。それは人間の親であれゆっくりの親であれ、誰もが一度は通る道であろう。
慣れているとは言わないが、体験だけはしていただけに、両親はすぐに落ち着きを取り戻した。
しかし、子供たちはその限りではなかった。
声が聞こえていたくせに自分たちを無視するわ、突然大声をあげてビックリさせてくるわと、巨大赤れいむの心証がどんどん悪くなっていったのである。
忍耐力も両親と比べ弱いし、癇癪持ちを扱ったこともない。ある意味、当然と言えば当然であろう。

「おとうさん!! おかあさん!! ゆっくりまりさたちだけであそぼうよ!!」
「ゆ……で、でも……」
「そうだよ!! ちびちゃんがおへんじしないのがわるいんだよ!!」
「ゆうぅ……」
「ゆっくりこうえんであそぼうね!!」
「……おねえさんのおちびちゃん。まりさたちは、むこうのこうえんでゆっくりしているから、げんきがでたらゆっくりあそびにきてね!!」

そう言い残し、両親は子ゆっくりと赤ゆっくりを従え、巨大赤れいむから離れていった。
男によって水槽の端っこに設置された“公園”に飛び跳ねていく。

そんなマイクロ一家の様子を黙って見ていた巨大赤れいむ。
無論一家の言葉は聞こえていたが、敢えてその言葉を無視し続けた。
理由は言うまでもないだろう。今日の一連の出来事で、巨大赤れいむはすっかりマイクロ一家に敵意を持ってしまったのである。

生まれて間もない巨大赤れいむは、純粋であった。だが純粋であったがために、一連の出来事が許せなかった。
赤ゆっくりの使命は、全力でゆっくりすることである。そこに他人の都合や状況は関係ない。
なにしろ人間と違い、蔓に付いている時や親ゆっくりの中にいる時も、簡単な思考力は持っているのだ。
そして親は、生まれてくる赤ゆっくりに、何度も何度も「ゆっくりしたあかちゃんにうまれてね」と嬉しそうに声をかける。
結果、自分がゆっくりすることは、すなわち周りもゆっくり出来ることであると認識してしまうのだ。
赤ゆっくりは、世の理や不条理が一切通じないところにいるのである。

そもそも、最初からおかしなことばかりだったのだ。
なぜ自分よりも小さいゆっくりに、ペコペコしなければならない。お姉ちゃんと呼ばなければならない。
なぜ自分を無視して、一家だけで楽しそうに鬼ごっこをしているのだ。
自分よりもたくさんのお菓子を貰っていたくせに、なぜ自分がお姉さんに叱られなければならない。
何より許せないのは、自分だけのお姉さんを奪おうとしたことである。
優しいお兄さんがいて、両親も姉妹もいるくせに、その上、お姉さんまで横取りしようというのか。
巨大赤れいむは、それが我慢が出来なかった。

本当は今日という日を楽しみにしていたのは、マイクロ一家だけでなく、この巨大赤れいむも同じだったのだ。
優しい親まりさと親れいむにしっかり者のお姉ちゃんがいる。愛で子からそう聞いて、心を弾ませていたのである。
しかし、巨大赤れいむの期待は、最悪の方向で裏切られた。
期待が大きかった分、絶望も計り知れなかった。
いくら大好きなお姉さんがマイクロ一家に自分の世話を頼んだからとはいえ、そんな気持ちで一緒に遊べるはずもなかった。
巨大赤れいむは、憎々しい視線で一家が遊んでいる“公園”を見つめていた。

一方、巨大赤れいむから離れ、“公園”にやってきたマイクロ一家。
ここは公園と名付けられるだけあって、ゆっくり用の遊具がたくさん置かれていた。
すべり台にブランコ、回転木馬にジャングルジム、トランポリンに砂場、etc.……一通りの遊具が揃っていた。
これらはすべて男の手作りである。
何せ扱うゆっくりが、ピンポンとプチトマトと大豆である。
割り箸と紐があればブランコは作れるし、定規と積木ですべり台が出来上がる。
見てくれはあまりよろしくないが、遊ぶだけならそんなことは関係なく、マイクロ一家は楽しい一時を過ごしていた。


それを遠目で見ていた巨大赤れいむ。
もう一家とは二度と関わるまいという意思を固めていたものの、次第にマイクロ一家の様子に目を奪われ始めた。
いや、一家というより、一家が遊んでいる遊具に食い付いたというべきか。
ブラブラと揺れるブランコ、風を切るようなすべり台、ゆっくり回る回転木馬……どれも巨大赤れいむが見たこともない代物だった。

愛で子は巨大赤れいむを飼い始めたばかりである。
常々遊具を買ってやりたいとは思っていたが、普通のゆっくり用遊具を買うにはクリアしなければならない問題がいくつかあった。
まずは金額である。
普通のゆっくり用遊具は高価で、いくら愛で子が一般的な学生より裕福とはいえ、早々買ってあげられるものではない。
次に設置のためのスペースの確保。
普通のゆっくり用遊具は、その大きさ上、結構なスペースを取られる。男のように大量に与えようものなら、一部屋を潰しかねない。
三つ目は、ゆっくりの成長速度である。
ゆっくりはおよそ一年で成体となる。
今はまだソフトボール大の赤ゆっくりであるが、半年後にはバレーボール大に、成体になればバスケットボール大まで成長する。
赤ゆっくりの頃に買ってあげてもすぐに使い物にならなくなってしまうし、初めから成体用を買うと大きすぎて遊べない。
男もわざわざ両親用・子ゆっくり用・赤ゆっくり用と三セットずつ揃えているくらいなのだ。尤もそれでもマイクロゆっくり用に掛かる金額は微々たるものであるが。
自作という手も考えられるが、男のように手作りをしてあげられるほど、愛で子は器用な女性ではない。
一介の学生が買え与えるには、これらをクリアしないとどうしようもないのである。

一度、楽しそうと思ってしまうとどうしても餡子脳から離れず、巨大赤れいむは離れたところで悶々とし始めた。
自分もあれらの遊具で遊びたい。すべり台を滑ってみたい。ブランコで揺れてみたい。
しかし、一家とは一緒に遊びたくはない。自分から縁を切ってしまった手前、再び仲間に入れてもらうのは格好が悪いし、何よりプライドが許さなかった。
ますます楽しそうな一家に腹が立ってくる。
自分がこんなに悶々としているのに、自分たちだけで楽しそうに……とここにきて、巨大赤れいむの餡子脳に、ある名案が思い付いた。



何も一緒に遊ばなくても、勝手に遊具を使えばいいだけではないか!!



遊具は一つではなく、たくさんある。
一家が使用していない物もあるので、それらで勝手に遊べばいいだけの話である。
巨大赤れいむは思いついた名案にほくそ笑むと、軽やかな足取りで公園に跳びはねていった。




「ゆゆっ!! おねえさんのおちびちゃん!! やっときてくれたんだね!!」

巨大赤れいむの接近に気が付いた親まりさが声をかける。
責任感の強い両親は、子供と一緒に遊びながらも、巨大赤れいむのことをずっと気にかけていたのである。
子ゆっくりや赤ゆっくりは、巨大赤れいむが近付いてきたことにあまりいい顔をしてはいなかったが、両親が受け入れようとしているのに反対しても仕方がないと、冷やかに見つめていた。
親まりさが巨大赤れいむの元に近づいていく。

「おちびちゃん!! ゆっくりなにをしてあそぼうか?」
「……」

しかし、まりさが声を掛けたにも関わらず、先ほど同様、巨大赤れいむはまりさの言葉を無視し続ける。
キョロキョロと公園内を見渡し、空いている両親用のすべり台を見つけると、一目散に跳びはねていった。

「ゆゆっ!! おちびちゃん、どこにいくの?」

慌てて親まりさが追いかけてくるも、巨大赤れいむには関係ない。
両親用のすべり台の元に着くや、積木で作った小さな階段を上っていくと、30㎝の定規の上に、勢いよく跳び込んだ。

「ゆわああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――い!!!!」

床が勝手に動いてくれるような開放感。風を切るような爽快感。
マイクロゆっくり用のすべり台は、巨大赤れいむには多少短かったが、そんなことも気にならないくらい、巨大赤れいむはすべり台の虜になってしまった。
再度、この感覚を味わうべく、階段を上がろうとする。
しかし、それを止めたのが、ようやく追い付いてきた親まりさであった。

「だめだよ、おちびちゃん!! すべりだいがこわれちゃうよ!! あぶないから、ゆっくりやめてね!!」

元々がマイクロゆっくり用に作られた遊具である。
プラスチックの定規は強度に乏しく、ピンポンサイズの両親が滑っても、少しへこむくらいなのだ。
それなのに、両親より遥かに大きな巨大赤れいむが、しかもあんな乱暴な乗り方で使用するものなら、いつ壊れてしまうか分からない。
しかし、そんなことは巨大赤れいむには関係がなかった。
すでに一家を敵として認識しているので、一家の言葉はすべて自分を妨害するためとしか思えなくなっていたのだ。
すべり台が壊れるなんて何をバカなと、親まりさの忠告を鼻で笑いながら、階段を上がっていく。
そして上がり終えるや、先ほどのように定規の上に跳び込んだ。
しかし、次の瞬間、親まりさの考えていたことが現実に起きてしまう


ボキッ!!


プラスチックが割れる音と共に、巨大赤れいむがすべり台から叩き落とされてしまった。

「ゆびゅ!!」

元々マイクロ一家用のすべり台なので、それほど高さはなかったが、急な出来事に巨大赤れいむは受け身を取れず、顔面から落ちてしまった。
目立った怪我はないものの、いきなりのことに頭の中が真っ白になってしまう。
そんな巨大赤れいむに、両親が急いで駆け寄ってくる。

「ゆうぅぅ―――!! おちびちゃん、だいじょうぶなのおおぉぉぉ―――――!!!」
「だからゆっくりあぶないっていったんだよ!!」

両親は巨大赤れいむの打ち付けた個所を、ペロペロ舐めまわっている。
水槽内には緊急時の為のオレンジジュースが備えられているのだが、皮も破れていないのでその必要はないだろうと、舐めて患部を癒すことにしたのだ。
しばらく両親に舐められるままでいた巨大赤れいむ。
しかし時間がたち、冷静になってくるにつれて、沸々と怒りがわき出してきた。

自分はただ楽しく遊びたかっただけなのだ。
だというのに、なぜこんな目に遭わなくてはならない。
理不尽で自分勝手な考えが巨大赤れいむの餡子脳に渦巻いていく。
愛で子というストッパーがいないことも災いし、側で患部を冷やしていた両親を体を揺らして吹き飛ばすと、壊れたすべり台に体当たりをし、怒りを爆発させた。

「ゆっ!! きょの!! きょの!! きょんなゆっきゅりちてないものは、ゆっきゅりこわれちぇね!!」

何とか定規が折れただけで済んでいたすべり台は、巨大赤れいむの攻撃で、次第に形を変えていく。
台座は曲り、階段は崩れ、もはや原形を留めていないくらいボロボロにされてしまう。
それを見て青ざめるマイクロ一家。
何しろ、これは最愛のお兄さんが作ってくれた一家の宝物なのだ。
定規が折れたところまでは、一家もまだ許せた。
自分たちの言い分も聞かずに突進して壊してしまったのは腹が立つが、巨大赤れいむも遊びたかっただけで、壊そうと思って壊したわけではない。
壊れた部分は男なら簡単に直せるだろうし、何より巨大赤れいむに大した怪我がなかったのだ。
お説教はしなければならないが、まだ赤ゆっくりのしたことだからという免罪符が効く状況であった。
しかし、最悪の事態を免れてホッとしていた矢先の、この巨大赤れいむの行為である。
自分がしてしまったことに対する反省をしないばかりか、それを一家の宝物にぶつけて晴らそうとするのを見て、ついに両親の忍耐も切れてしまった。

「おねえさんのおちびちゃん!! まりさたちのたからものをこわさないでね!! ゆっくりおこるよ!! ぷんぷん!!」
「おねえさんがかえってきたら、ゆっくりいっぱいおこってもらうからね!!」

頬を膨らませて、威嚇する両親。
その後ろでは、やってきた姉妹も同様の態度をとる。
姉妹は元々巨大赤れいむの我儘にイラついていたのだ。
ようやく両親が重い腰を上げてくれたと、内心喜びながら、厳しい言葉を浴びせ始めた。

「ゆっ!?」

両親の言葉に、ようやく怒りの発散を抑え込む巨大赤れいむ。
とは言え、両親の言葉に自分のした過ちに気づかされた訳ではなく、お姉さんという単語に反応したからに過ぎない。
愛で子に怒られる。それは、巨大赤れいむにとって、最も耐えられないことであった。
罪の意識は未だ持って全くないものの、この状況を愛で子が見れば、どんな事情があろうと叱られるのは確実である。
もしかしたら、一緒いた男にも色々と小言を言われるかもしれない。
一気に顔が青ざめる巨大赤れいむ。

「ゆ、ゆっきゅり、おねえしゃんにはいわにゃいで!!」

両親の元に近づき、目に涙を溜めて、懇願する巨大赤れいむ。
しかし、そこに謝罪の言葉は含まれていなかった。
自己の保身しか考えない巨大赤れいむにウンザリした一家は、終始厳しい姿勢を崩さなかった。

「だめだよ!! おちびちゃんはわるいことをしたんだよ!! わるいことをしたらしかられるのは、ゆっくりあたりまえなんだよ!!」
「れいむたちも、わるいことをしたとき、おにいさんにいっぱいおこられたよ!! だからおちびちゃんも、おねえさんにいっぱいおこられなくちゃならないんだよ!!」

両親の後に、子供達も「そーだそーだ!!」と息巻いている。
そんな一家の言葉に、巨大赤れいむはガクガク震え始めた。
体中から密度の濃い砂糖水が吹き出し、歯がかみ合わないのか、カチカチ音を立てている。
それほどまでに、愛で子に叱られるということが、耐えきれないのである。

巨大赤れいむは自身の餡子脳をフルに回転させ、何とかこの状況を打破できないかと、必死で考えていた。
しかし、そこは生まれたばかりの赤ゆっくりである。
名案なんて早々浮かんでくるはずはないし、壊れたすべり台を修復することもできない。
一家は、愛で子が帰ってきたら、まず間違いなく自分のしたことを言ってしまうだろう。
何とか一家に言わせない方法は……と、ここにきて、巨大赤れいむの餡子脳に、一つの案が浮かびあがった。
いや、それは案などとは言えない最悪の考え。



この一家がいなくなれば、お姉さんに告発する者はいなくなるのではないか?



一家がいるから愛で子に知られてしまう→一家がいなければ愛で子には告げるものはいない→自分は怒られない。
巨大赤れいむが咄嗟に思い付いた呆れた三段論法であった。

一家を亡き者にしてしまえば、確かに告げ口をする者はいなくなるだろう。
しかし、そんなことをしてしまおうものなら、それ以上に辛い仕置きをされるのは確実である。
一家を殺したのは誰だ?
すべり台を破壊したのは誰だ?
根本的なところが何一つ解決されていないばかりか、余計な罪状までつけてしまう、最も愚かしい行為である。
だが所詮赤ゆっくりならではの浅はかな考えである。その後のことを考えるだけの知能は、巨大赤れいむの餡子脳には思いつかなかった。

涙に濡れた瞳に、どす黒い光が灯り始める。
これしか自分が怒られずにすむ方法はないと確信した巨大赤れいむは、未だプリプリと小言を言っている親まりさに向けて、渾身の力で体当たりを食らわせた。

「ゆべえぇぇ――――!!!」

親まりさの体が宙を舞い、地に叩きつけられる。
一瞬、何が起きたのだと、状況を理解できなかったマイクロ一家。
しかし、次の瞬間、巨大赤れいむが体当たりをしたのだと認識した一家は驚き、すぐに何をするのだと巨大赤れいむに罵声を投げつける。

「ゆっくりおとうさんになにするの!!」
「おちびちゃんは、ほんとうにゆっくりしてないね!! ぷんぷん!!」

巨大赤れいむは、怒りに打ち震える親れいむや姉妹をジロリと睨みつけ、次はお前らの番だというように突進してきた。
後数十㎝で姉妹を叩きつぶせる。巨大赤れいむは姉妹たちに圧し掛かろうとした。
しかし、それを横から妨害する者がいた。最初に吹き飛ばされた親まりさである。
運よく砂場に落ちた親まりさは、痛みはあるものの大した傷はなく、すぐに状況の把握に努めた。
すると、いきなり何を思ったのか、巨大赤れいむが自分の可愛い子供たちに攻撃を加えようとしているではないか!!
すぐに体制を立て直すや、姉妹を潰そうと目論む巨大赤れいむに接近し、自身の最大の力を振り絞って、巨大赤れいむに体当たりを敢行する。
それは巨大赤れいむに致命傷を負わせることは出来なかったが、圧し掛かりのポイントをずらし、結果、子供を助けることに繋がった。

「ゆゆっ!! ゆっきゅりじゃまちないでね!!」

突然の割り込みに、不満を洩らす巨大赤れいむ。
しかし、一家からすればそんなことを気にしている余裕はない。

「れいむ!! ちびちゃんたちを、ゆっくりおうちにひなんさせてね!!」
「ま、まりさは、どうするの?」
「まりさは、れいむたちがにげきれるまで、じかんをかせぐよ!! ゆっくりしないでいってね!!」
「わ、わかったよ!! まりさ、ゆっくりしなないでね!!」

賢い親まりさは、突如乱心した巨大赤れいむの危険性を一瞬で把握し、れいむと子供だけは何とか逃がそうと、自らおとりを買って出た。
親れいむはまりさも一緒に逃げようと言おうとして、少し躊躇ったのち、その言葉を飲み込んだ。
親れいむも十分賢く、この状況を理解していたのである。
突然こんなことをしてくるくらいだ。巨大赤れいむは、一家が何を言っても聞く耳を持たないだろう。
ならば一刻も早く、お兄さんが一家のために水槽内に設置してくれたお家に避難すべきなのだが、巨大赤れいむの運動神経が、自分たちを遥かに凌駕していることは、鬼ごっこで既に承知済みだ。
悔しいが、全員で背を向け逃げようものなら、たちまち巨大赤れいむの前に、亡き者にされてしまうだろう。
誰かがおとりになってくれなければ、無事に逃げることは出来ない。
親れいむは悔しさに唇を噛みしめながらも、まりさの覚悟を無駄にしない為に、赤ゆっくりを口の中に保護し、子ゆっくりの先頭に立って、お家に跳びはねていった。
それを見て慌てる巨大赤れいむ。お家の中に入られたらまずい。
お家の入口はピンポンより少し大きいだけなので、巨大赤れいむには入れそうにないし、見たところ結構頑丈に作られていそうである。すべり台の様にうまく破壊出来るとは限らない。

巨大赤れいむは、親まりさを無視し、親れいむたちの後を追おうとした。
しかし、親まりさは巨大赤れいむの前に立ち、進行ルートを妨げる。
邪魔をされてイラつく巨大赤れいむだが、一匹でも残したら愛で子に告げ口されると、親まりさをかわそうとするが、親まりさも絶対に通すまいと頑として立ちふさがった。
更に、親まりさは知能戦にうって出る。

「おちびちゃんは、からだがおおきいだけで、ゆっくりよわいんだね!! こんなちっちゃなまりさが、そんなにこわいの? げらげらげらげら!!」

態と挑発するようなことを言って、自分に関心を向けさせる。
一度に二つのことを考えられない巨大赤れいむは、その挑発に簡単に引っ掛かり、体中の餡子を沸騰させる。

「れいみゅはよわきゅないよ!! ゆっきゅりちんでね!!」
「おお、こわいこわい!! できるものなら、ゆっくりやってみせてね!!」

そう言って、挑発に成功した親まりさは、ほくそ笑みながら、公園の中へと逃げていく。
親まりさには勝算があった。
この公園には、お兄さんによって作られた遊具がたくさんある。
体の小さい親まりさはその遊具の下に潜り込めるが、巨大赤れいむは潜ることが出来ない。
すべり台のように壊されるかもしれないが、その前に違う遊具の下に逃げ込めばいいだけのことである。
そうしているうちに、お兄さんとお姉さんが買い物から帰ってくることだろう。
そしたら、この窮状を見て止めてもらえる。それまで何とか逃げ切ればいいのだ。
親まりさは、焼き鳥の竹串で作られたジャングルジムの中に隠れて、巨大赤れいむの攻撃を防ぎ始めた。




「ゆうぅ……ゆっきゅりかきゅれないでにぇ!! ゆっきゅりでてきちぇね!!」

事態は、親まりさの思う通りに進んでいった。
巨大赤まりさの攻撃は凄まじく、すぐにジャングルジムは壊れてしまったが、親まりさは巨大赤れいむの隙をついて、すぐさま回転木馬の元に逃げ込んだ。
すぐにそれを追いかけてくる巨大赤れいむ。やはり簡単に壊されてしまったが、続いて子ゆっくり用のすべり台の下に滑り込み、事なきを得る。
なかなか自分の思うように事が進まない巨大赤れいむは、次第に苛立ち始めた。
攻撃も散漫になり、最初の頃のように効率よく破壊することが出来なくなって、余計にイラつきが増してくる。
そもそも、すでに親れいむと子ゆっくり・赤ゆっくりはお家の中に逃げ込んでおり、たとえ親まりさを殺したところで、愛で子に告げ口をされるのは決まっているのだが、餡子脳の沸いた巨大赤れいむは、そのことに気付いていなかった。

自身の作戦が功を奏した親まりさは、家族を無事逃がせたことを見て、これ以上挑発するのは逆効果と、逃げることに専念し始めた。
赤ゆっくり用のすべり台も破壊され、続いて赤ゆっくり用のブランコの下に逃げ込む親まりさ。
そして、それを追ってくる巨大赤れいむ。
ブランコを破壊して、親まりさを引っ張り出すべく、ブランコに圧し掛かりを敢行する。
しかし、これが思いがけない事態へと発展してしまうこととなる。




後編

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年04月25日 01:05
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。