人外と人間

人外アパート 機械系人外×女の子 アンダーグラウンド

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アンダーグラウンド 903 ◆AN26.8FkH6様

姫様がある日空から落ちてきたり、女神様が三人ぐらい押しかけてきたり、世話焼きの幼馴染が朝から起こしにきたり、ツンデレクラスメイトがご飯を作りに来てくれたり、美少女アンドロイドをうっかり拾ってしまったりなんていう事が起こるのはフィクションの中だけであり、仮にだ、もし仮に0.00000000000000000000000001%ぐらいの奇跡の確立でそんな事が実現したとして、だ。何故彼女たちは誰も彼もイケメンでもなければ財力も特殊能力もない、優しいだけがとりえの凡庸な主人公を必ず好きになる?あまりに都合のいいストーリーだ。例えば外見だけでもお洒落を頑張ってみたり、身体を鍛えてみたり、女の子にモテたいという努力をする一般人をチャラ男だのリア充だのイケメンはキモメンの事なんかわかりはしないだの否定したあげく、『ありのままの自分だけを愛してくれる』なんつー自分に都合のいいグレートマザー幻想に浸りたいだけの生ぬるいギーグ野郎を生温い二次元に押し込め、奴等の劣性遺伝を残さないための壮大な陰謀ではないかとすら思う。つまり、だからその生ぬるい二次元に捧げたはずの俺、ギーグ野郎でオタクで劣性遺伝持ち(いや、正確には俺には遺伝子などというものは持ち合わせていないはずなのだが多分人格因子をAI化したところで次世代を残せるかっつったら残せるはずがないと断言しよう。俺のメンタリティには問題が多すぎる)の隣に女の子が存在するはずはなく、これは多分俺の人生を破滅させる為の罠でしかないはずだ。はずなのだ。多分。
だから朝、出勤前に地域指定廃却所(つまりでっかいゴミ捨て場)にゴミを出しに行ったら、そこに女の子が埋もれてたというこの状況から俺は早く逃げ出さねばならない。


でっかいゴミ処理所の『生活用廃品』のプラカードの下、小さめのゴミ袋を置こうとしたらそこから指が飛び出ていた。白くて、細くて、先端には薄ピンクの爪。死体を見るのは久しぶりで、善良な市民としては通報の義務がある。そうでなくても、気がついた時点で俺のメモリには自動的に俺の言動記録が残ってしまうので、通報しないわけにはいかない。
ちくしょう面倒くせえな仕事に遅れるだろうが、こんなところに死体を埋めた奴は死ねと思いながら、俺は上に乗っているゴミ袋を慎重にどかしていった。ゴミ山と化した巨大なゴミ処理場では、下手に動かしたらゴミ雪崩がおきかねない。ポイポイとどかしていると、すらりとした細い二の腕が、白くなめらかな足が、華奢な肩が出てきた。あと長いまつげと、長い黒髪と、薄桃色の唇。ゴミの中で童話の中の眠り姫みたいに、裸で寝ていた。全裸で体中には痣やミミズッパレ、裂傷や斬傷がついており、よくみりゃ、唇の端は切れて固まった血がついていた。
それでも、まるで何かすげえ冗談だってみたいに彼女は綺麗だった。そこまで大きくない、だが形のいい胸が上下している。なんだって窒息死もしないでこんなところで寝れるんだ。

うわ。

ヤバイ。そう思った。なんだか知らんがこりゃヤバイ。本当はとっくに終わっちまってダラダラと惰性で続くだけの俺の人生の残り滓までヤバイ。クソみたいな人生でも、まだ破滅はゴメンだ。なんだか知らんが、猛烈に俺は焦った。厄介ごとになる前にとっととこの子の前から逃げ出すべきだ。俺は慌てて警察に通報し、勤務先に遅刻する旨を伝えた。午前中は警察官にネチネチいらんことまで聞かれながら調書を取られ、午後から勤務に入った時には退屈をもてあます同僚達に根掘り葉掘り聞かれた。それで終わったと思ったのだ。

「お帰りなさい!」

夕刻、を通り過ぎて夜半。ボロアパートの二階、1DKの我が家に帰ってきた俺を出迎えたのはそんな明るい声だった。
背まである長くつややかな黒髪、キラキラとした黒い眼、清潔な白いシャツ、細いGパン、目を閉じている時は気が付かなかったがまだ10代だろう、少々幼さが残る、だが綺麗な顔立ち。
どう見ても今朝俺がゴミ捨て場で発掘した女の子です、本当にありがとうございました。
フリーズした俺を見て、彼女は慌てて手を振った。

「あ、ここの鍵は大家さんに開けてもらって…!不法侵入したわけじゃないの、

警察の人も立ち会ってくれて!だから別に泥棒とかそんなのじゃないの、ただお礼が言いたくて!」
ふむふむなるほど、つまり警察に保護された彼女はその経緯を知って、命の恩人の俺に礼を言うべく、警察立会いの下、大家に鍵を開けてもらって俺を部屋で待っていたわけか。夜の22時まで、知らない男の部屋で。うん、レイプ志願者か自殺志願者なのか?破滅願望とか持ってる類のお嬢さんか?

「…おい」
「何?」
「なんで警察が俺のところまでアンタを送ってくるんだ、俺は第一発見者であって別に家族でもなんでもない上に、部屋に勝手に上がられて待たれる覚えも筋合いもない」
「ああ、彼氏だって嘘ついて」
「ちょっと待てえええええええええええええええええ」
「あのね!違うのあのね、お願い話聞いて」
「この上まだ何かあるのか!!不法侵入者は即効出て行ってくれ!!」

話していても拉致が明かない。彼女の手首を掴んで外に引きずり出そうと近づくと、向こうからこちらの腕を掴んできた。だから知らない男に不用意にだな。

「行く場所ないの!!」
「俺が知るかそんな事!!」
「えと、あの、その、お願いします、ちょっとの間だけでいいんです、すみっこでいいから置いてくれませんか!!」
「見ず知らずの男相手に頭おかしいんじゃないかアンタは!何されるか考えたことあんのか!!俺が工場勤めのバイオノイドだから舐めてんのか?そこらの量産型と違って、俺は無駄に機能があるタイプなんだぜ?」
「知ってるよ!!」
「何を知ってるってんだ、いいから出てってくれ!俺は紳士でもないがペド野郎でもないんだ、アンタがおっぱいでかくて年がもうちょい上だったら泊めたかもしれねーが、俺はアンタにかかわりたくな」
「汎用近接戦闘用バイオノイドPSS43-G『イシオス』」
「………………ッ!」

思い出したくもない光景が、フラッシュバックしそうになった。
俺は、意思の力で無理やりそれをねじ伏せた。俺は何も見てない。何も聞いてない。

「あなたを知らないけど、あなたの写真を見せてもらった時。あなたに会いたいと思った。お願いしようと思った。私は……別の『イシオス』を知ってたから。『イシオス』は」
「黙れ」
「あの」
「オーケー、わかった泊めてやる」

俺は一体何を言い出すんだ?強化脳が狂ったのか?厄介ごとに自分から首を突っ込んでどうしたんだ?訳あり美少女が泊めて下さいとか、こんなのはフィクションで、俺はただのつまんねえ工場勤めのバイオノイドで、月収は13万、そのうち5万は自己メンテ代で消える。誰だって生存には金がかかる。くだらないギーグ野郎達に混ざってネットで憂さ晴らししたり、都合のいいグレートマザー幻想のポルノコンテンツを消費するぐらいが俺の今までの生活であり、これからの生活でもあるはず、だった。
不安そうに見開いた少女の大きな眼の中に、油汚れの酷いツナギを着、自身にも黒いオイルが飛び散った、人が黒い装甲服でも着込んだかのようなヒューマノイドメカが映っていた。顔に当たる部分には不規則に大小バラバラの赤いレンズが四つはめ込まれ、耳や鼻、口などは見当たらない。工場で労働力として生産され、人格や人権が便宜上認められている、第二人類種の中でもヒエラルキー下部に位置する、平凡な、バイオノイドだ。甲殻種などに比べりゃ、まだ働き口は保障されている分マシってだけだ。そりゃそうだ、働かせる為に生み出されたんだからな。

「ただし一ヶ月だ。一ヶ月たったら何が何でも叩き出す。その間に自分で別の宿を探すんだな。あと二度と呼ぶなその名を」
「ありがとう…ッ!」

俺が指を彼女に付きつけると、彼女は不安そうな表情を一転、こぼれるような笑顔で俺に抱きついてきた。

「はっ離せ!!離れてくれ!さっき言った事わかってないのか!?」
「わかってる。よくわかってるよ……。もしあなたが何かしたいなら…好きにしていいよ」
「俺はロリコンじゃねええええええ!!!」
「じゃあいいじゃない」
「断じてよくねええええええええええ!!!」

ニコニコと可愛らしく微笑むその姿に、俺は自分が覆いに早まったであろう事を思い知らされた。だが、だがだな!なし崩しにこのままラブコメとか世界系とか始まると思ったら大間違いだぞお前等!!女の子は二次元で十分だ、俺は三次元に係わり合いなんか持ちたくないんだ!

「そういえば名前、聞いてなかった。私、リセ」
「…………現在登録名称は……多田ショウゴだ……」
「ショウ君って呼んでいい?私は気軽にりせたんとかりせぽんとか呼んでね」
「誰が呼ぶかああああああああああっ!!」



大間違いなんだからな!いいかわかったか!!






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