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術伝流一本鍼no.47 (術伝流・養生の一本鍼・病証編(6))

中焦の病

1.基本的に

 中焦の病は、体の内側の横隔膜より下で臍より上に、主症状
やツボが出る病です。消化器系とも言えます。水毒が溜まって
いることが多いです。足の陰経や、横輪切りの背中の兪穴など
に引きやすく、症状が出ている辺りの大腹にもツボが出ます。

 2000年以降、中焦の水毒から発生した邪気が上焦〜表位の
病の原因となる例が非常に多いです。肩腕指にピリピリビリビ
リするシビレ感や痛み辛さを訴える人が多かったです。が、慢
性的な頭痛や眩暈なども見かけました。

 狭心症を検査したが正常という人が、左大腹の水毒を減らす
治療で症状が消えたこともありました。また、線維筋痛症の人
の発症時の様子と似ている例も多かったです。

 中焦に水毒が溜まっている場合には、中焦である大腹にも痼
りが出ます。それは、肋骨下部を押してもパンパンに張ってい
て弾力がないことでも分かります。胸脇苦満と呼ばれる腹症で
す。左右差がある場合が多いです。

 中焦が水毒により硬くなっていると、下焦の瘀血や中焦の水
毒より発生した邪気が上昇できずに溜まってしまいます。溜まっ
た邪気が限界を越え鉄砲水のように上衝すると、卒中と呼ばれ
る状態になります。心下と呼ばれる横隔膜の腹側が硬かったり
(心下痞)、脇腹の左右差が目立つときは、そうなりやすいの
で注意が必要です。

 消化器系の病で器官の変性を伴わないときには、左中焦のガ
ス停滞をなくすと改善することが多いです。

 また、中焦以外の水毒が色々な病に関係することもあります。
肩首の筋肉の水毒は、凝り。内耳の水毒は、耳鳴り、眩暈。上
焦の水毒は、咳、痰。それぞれ、主症状に関係する治療の他に、
中焦の水毒を減らす治療を加えた方が効果が上がりやすいです。

 下半身の浮腫は、小腹(下焦)や足厥陰経〜少陰経との関連
が深く、下半身の冷えや発汗不足などの原因で、中焦の水毒が
酷くなくても発生することもあります。

追記:20170110ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 江戸時代の『鍼道発秘』にも出てきます。
四十,痰症 
 痰には、肩背を弛め、次に七九十一を深く刺して気を
巡らすべし、また手足に強く引くべし、あるいは横腹を
深く刺して留むるに妙なり

 そして、水毒を減らす漢方薬も併用した方が改善しやすいで
しょう。漢方専門医などと連携できると良いですね。
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ーーー追記:2017.01.31ーーーーーーーーーーーーーーーー
 現在では、食品や洗剤など、生活環境に、高度精製物や化学
合成物が多く、摂取量が多くなっています。そういう精製物合
成物は、血中濃度が下がったからと言って、全てが体外に排泄
されるわけでは無いようです。

 そして、代謝されなかった精製物合成物の残滓が皮下や筋肉
などの組織の間の体液に溜まってしまい、それが水毒化してし
まうようです。

 ですから、慢性期の水毒に対しては、現代の食養の基本の、
「高度精製物や化学合成物を減らし、丸事食を増やす」を伝え
実践してもらうことも大切になります。

養生生活の基本:食養
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2.ツボが出やすい所や狙い目


2.1. 足の陰経

 足の陰経の中では、特に太陰経に出やすいです。

 慢性期には、膝の近くの陰陵泉や大腿部に出ます。

 急性期には、足首より先、商丘、公孫に出ていることが多い
です。接触鍼の場合は、陰白も使えます。灸なら、節紋、裏内
庭、第2指裏横紋など、拇指や第2指の近くのツボを使います。

 地機、漏谷は、急性と慢性の両方に使います。

 少しずつ、上下左右にズレることもあり、他の足の陰経にも
出ることもあります。

2.2 足の陽経

 腹の表面の痼りは、足陽明経から少陽経に引けます。下腿、
足甲を使うことが多いです。灸なら足指のツボも使います。慢
性期には、伏兎〜梁丘、風市など、大腿部にもツボが出ます。

 腹のツボが上肓兪など正中線の近くの時には、脛骨の直ぐ脇
に出ることが多いです。腹のツボが章門など横腹の近くの時に
は、豊隆のラインや足少陽経に出ていることが多くなります。

 下半身の冷えが関係するときは、足甲3~4間にツボが出てい
ることが多く、補の灸でじっくり温めます。患者さん自身で温
灸をしてもらうのもよいでしょう。

2.3. 陽位(背)

 先ず、胸椎7~9~11番の1~2行線、督脈、華佗経が候補です。
昔から「胃の六灸」と呼ばれている辺りです。

 慢性期には、その中でも、華佗経、つまり、背骨の直ぐ脇に
出ていることが多いです。また、少し下で外よりの胸椎12〜腰
椎2のラインで脊柱起立筋の一番外側、つまり、痞根にツボが
出ていることが多くなります。

 精神的な要因があるときには、少し上の首肩、肩甲間の督脈
や華佗経にツボが出ていることがあります。

2.4. 腹部

 肋骨下の不容、章門、任脈の中脘、臍の周りやその横の天枢
の近くに出ていることが多いです。

 慢性期には、横腹の章門、臍の近くの上肓兪に出ていること
が多くなります。

2.5. その他

 手の陰経、その中でも、厥陰経に出やすいです。慢性期には
上曲沢、急性期には内関が多いです。

3.手順

3.1.  慢性期

 ツボを考慮して慢性期の型の順で、刺鍼します。初めに刺鍼
する手の陰経のツボは、上曲沢に出ていることが多いです。冷
えて虚している所や、華佗経などにある古いツボがあれば、灸
や灸頭鍼をし、手の指端の灸で仕上げます。

 灸や灸頭鍼と置鍼を組み合わせても良いです。座位、うつ伏
せ、仰向けの順で、ツボを選び、施術し、手指の骨空などの灸
で仕上げます。灸頭鍼は、古いツボに効果的です。

 ツボを考慮しながら慢性期の型で刺鍼しながら、灸や灸頭鍼
と組み合わせることも可能です。仰向けでは、手の陰陽の後に
炭艾の灸頭鍼や温灸のセットをし、慢性期の型の手順通りに刺
鍼していき、灸頭鍼や温灸が終わったらセットを外し、うつ伏
せになってもらいます。途中で灸頭鍼や温灸が熱くなったら、
加減します。うつ伏せでは、先ず温灸や灸頭鍼をセットしてか
ら、慢性期の型の手順通りに刺鍼していき、灸頭鍼や温灸が終
わったらセットを外し、座位になってもらいます。

 腹への灸は、腹の邪毒の状態で可否を判断します。邪毒実す
ることが顕著で、炎症性の熱感が強いときは、避けた方が無難
です。

3.2. 応急処置

 基本は、手甲に引き内関に引き、背の順で引き、頭に散鍼し、
手甲で終えます。

 初めや途中で表位に症状が出ていれば、その都度、手甲など
手の陽経に引きます。背に引いた後で肩首に症状が出たら、肩
首に刺鍼します。

 体を前に曲げて耐えているときは、背中側の一番出っ張った
辺りに出ているツボが狙い目です。

 症状が軽いときは、慢性期の手順で灸をしてもよく、子供の
腹痛などに向きます。

 急性期は慎重にします。処置後数時間以内に痛みが復活する
ときは、器官破壊などを疑い、救急医療と連携してください。
症状が激しい場合には、手を出さずに救急医療と連携します。

 詳しくは、「先急の一本鍼」で書きました。

4.写真付き症例

 右利きなのに慢性的な左五十肩で、上腹部の水毒の影響があ
るのではないかという人。

 先ずは、診察。脈診(写真1)、舌診(写真2)、腹診の順
で診察していきました。腹診では、上腹部の水毒を診るため、
肋骨下部の弾力も診ました(写真3)。上腹部に水毒があると、
この部分が張っていて弾力がないことが多いからです。

写真1

写真2

写真3

 横腹の左右差も診察し(写真4)、総合的に、腹診としては
左側の方が悪いと判断しました。

写真4

 鍉鍼や打診でやってみることにしました。先ずは左上腕から、
陰経の上曲沢の辺りに出ていたツボ(写真5)、陽経に出てい
たツボ(写真6)。

写真5

写真6

 鍉鍼は、先ずは、当てる角度と当てる強さが重要です。どち
らも、邪気が動きやすいものを選択します。その上で、横揺ら
し、旋捻などの動かし方の中から、やはり邪気が動きやすいも
のを使います。そして、患者さんの体の反応に合わせて、動か
し方も変えていきます。

 次は腹、横腹、下腹、上腹の順。横腹は鍉鍼(写真7)、下
腹、上腹は打診で施術しました(写真8,9)。

写真7

写真8

写真9

 打鍼は、手の拇指ぐらいの太さ長さの石と、打鍵器の組み合
わせでしました。

 腹の打鍼は、うまく響かせると気持ち良いものです。逆に言
えば、気持ちよい響きを感じてもらえるようなリズム、強さで
叩きます。

 それから、足の陰経、陽経。腹に出ていたツボに関係ありそ
うな足のツボを探し、陰経〜陽経の順で鍉鍼をしました(写真
10、11)。

写真10

写真11

 仰向けでの施術を終え、うつ伏せになってもらいました。う
つ伏せでは、先ずは、水毒の影響が出やすい胸椎7〜11番の華
佗経を丁寧に探し、患者さんにも確認を取って、ツボを選び
(写真12)、鍉鍼で施術しました(写真13)。

写真12

写真13

 それから、同じく、水毒の影響が出やすい痞根の辺りに出て
いたツボも鍉鍼で施術しました(写真14)。

写真14

 左下腿の飛揚〜外丘の辺りに出ていたツボに鍉鍼し(写真15)、
うつ伏せでの施術を終えました。

写真15

 座位になってもらい、楊枝を輪ゴムで束ねたもので、頭の散
鍼をし(写真16)、手甲に出ていたツボに鍉鍼し(写真17)、
終了しました。

写真16

写真17

5.術伝流打鍼術のコツ


 普通の鍼と同じように、出ているツボを見付けることが、先
ずは大切です。特に打鍼では、ツボの奥の痼りの方向、形状、
硬さをしっかり把握します。

 次は、鍉鍼と同じように、打鍼を当てる角度、当てる強さが
重要です。鍉鍼よりも深め、ツボの底の硬い痼りに押し付ける
ように、 しっかり、 当てます。

 そして、打鍵器の持ち方。きつく握らないで(写真18)、
打鍵器のゴムの部分が自由に動くように、拇指と示指で挟む感
じで持ちます(写真19)。こうすると、当たった次の瞬間に
跳ね返ります。そう言う風に跳ね返る方が、受けたときに気持
ち良い響きが生まれやすいです。それで、きつく握らないよう
にしています。

写真18

写真19

 叩き方、一定時間に叩く回数、強弱の混ぜ方、リズムなども、
患者さんの体が感じる気持ちよさが深くなるものを選びます。

 終える時期は、音で判断します。筋肉が硬く痼りになってい
る間は、高い音がします。痼りが弛むと、音が低くなります。
音が低くなったときに終わります。

 自分の体で練習し、響きの気持ちよさや、終え方を身に付け
ていってください。

 私も、初めは、直径2mm位の金属棒を木槌で叩く打鍼をし
ていました。が、今では、金属、石、硬い木などの素材で、直
径6〜20mm、長さ50〜70mmの打鍼を、打鍵器で叩いてい
ます。自分や患者さんの体の感じる気持ちよさ、痼りの弛みや
すさを探求した結果です。


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最終更新:2017年02月25日 13:19