本将棋 内藤九段将棋秘伝

【ほんしょうぎ ないとうくだんしょうぎひでん】

ジャンル 将棋
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売・開発元 セタ
発売日 1985年8月10日
定価 4,500円
プレイ人数 1人
判定 良作
ポイント FC将棋第1作目
内藤九段の要素はない


概要

ファミコン将棋の第1作目。それもタイトル獲得通算4期、公式戦1100勝を誇る一流棋士・内藤國雄九段の監修によるものである。
ゲーム内容はロボット相手に対局をするのみ。1人プレイ専用で対人戦は不可。CPUの強さの設定もない。


評価点

ファミコンで将棋を作った事

  • 当時はファミリーコンピュータの発売から2年を過ぎた初期の頃。
    • 作品作りのノウハウも不完全で制約が厳しい環境の中で将棋作品を制作したのは見事。
    • 技術力は飛びぬけており、ファミコン後期のゲームと比べても見劣りする事は無い。

快適なゲーム性

  • CPUの思考時間が短い
    • 次の指し手はあまり時間をかけずに指して局面が複雑になっても途端に遅くなるという事もない。ただしファミコンの性能で思考時間が短いという事は深く読まないので棋力が低いとも言える。
      • 後の作品においては棋力は向上したが時間を費やすという事になる。
  • ハンデ戦が可能
    • 先手or後手は勿論、飛車落ち、二枚落ちまで選択可能。これにより初心者~中級者まで対応できる。
  • プレイのしやすさ
    • 王手の際は「王手です」と警告が出る。
    • 指せない箇所を指定しても「指せない」と効果音とともに警告が出る。このため二歩や打ち歩詰めなどの反則負けがない。
    • CPUを追い詰めても投了しないので、詰めまできっちり指し切ることができる。

細部までこだわったグラフィック

  • グラフィック
    • 自分のカーソルは右手、相手は機械の腕と凝っている。
      • さらに自分の手は「人差し指と中指で挟んで指す」という正式な指し方を再現しており芸が細かい。相手の機械の手はマジックハンドのようなものである。
    • 指し手を進めるたび両者が簡易な動作をする。勝敗に応じて悔し泣きも。
      • 動作が軽快なので対局の邪魔をしていない。
  • 文字のフォント
    • タイトルが作りこまれている。
    • 作中でも文字数は少ないが大きな文字に漢字の仕様で快適。
  • 駒のフォント
    • ファミコンで複雑な漢字を表現するのは難しいが、本作は分かり易い。更に「玉」「金」「桂」を見ると筆体を意識している事まで分かる。
      • これは「一字駒」と呼ばれるもので、分かりやすさを重視するNHK杯将棋トーナメントでも採用されている。
    • 成駒は朱色で表示するなど親切に出来ている。
    • 「双玉」と呼ばれる、先手後手ともに玉将を持つタイプ。通常はどちらかが王将、どちらかが玉将である。単純に違いを描けなかっただけかもしれないが。
  • BGM
    • タイトル画面、勝利、敗北、曲数が少なくて短いが品質は良い。対局中にBGMは流れないが、初期ファミコンのテーブルゲーム特有の無音の緊張感が生まれる。
    • 自分と相手の指し手が分かるように、効果音を変えているのは親切。
  • 駒の音が痛快。
    • 「駒を手に取る→指す」をテンポよく行うと、CPUの思考速度の速さも相まってリズミカルで心地よい。
  • 動作は安定している
    • これだけ複雑な作品でありながらバグがほとんど発見されていない。
      1000手以上指し続けると駒の絵が真っ黒になり、以降画面がおかしくなっていくバグがあるが、わざわざ見ようとしない限りは問題ないだろう。*1
      • 2021年末ごろから思考ルーチンの解析が進み、いくつかバグが発見されたが実戦で見る事はほぼ無いだろう。
    • 内藤九段の棋力に太刀打ち出来ないのは当然ではあるが、ファミコン将棋としては細部までこだわり抜いた仕様で、内藤九段の監修が隅々まで行き届いているのが伝わってくる。

賛否両論点

  • 「待った」が実装されている。
    • かなりのボタン連打を必要とするのでうっかり出してしまうこともなく、CPU側は一切使わないので、意識しなければゲームに影響は与えない。
    • 本作が発売された80年代では、子どもでも一通り将棋のルールを覚えている者も結構おり、ファミコンという形態である以上、子ども向けの抜け道を作る必要があったのかもしれない。

問題点

  • 内藤九段の要素がない。
    • 後年における棋士の名を冠した将棋ソフトでは、棋力は及ばずともキャラクターとして登場させたり、棋譜や講座が収録されている等、本人の要素は多少なりとも存在している。
    • 一応本人の写真はパッケージ裏や説明書に掲載されている。作中に似顔絵の一つでもあれば良かったのだが…。
  • 2人対局ができない。
    • ただし画面構成の都合上、持ち駒のレイアウトが非対称なので2P操作は困難だった可能性がある。
  • CPUについて
    • CPUが使ってくる戦法は、ほぼ四間飛車の美濃囲いのみ。振り飛車は見た目が派手でアマチュアに人気があり、採用率も高いので実践的とも言える。
      • 三手目に角交換をすると居飛車矢倉も使用する。
    • 序盤は四間飛車の優秀さ故にそこそこ強いが、先読みを一切しない関係上終盤戦は非常に弱い。一手詰めの大頓死をやらかすこともしばしば。
  • 打ち歩詰めができてしまう
    • 実際の将棋では即負けとなってしまう反則であるが、今作ではなぜか許されてしまう。
    • 一応CPUがしてくることはないため、プレイヤーがわざとやらない限りは影響を与えることはない。
  • まだまだ発展途上期のソフトでありモードは対局のみ。詰将棋や棋譜の保存、指導モードといったことはできない。
  • 細かいことだが、カーソルの自分の手は右手であることに対し、画面右の対局姿は左手で指している。

総評

はっきり言って本作の対局内容に内藤九段の要素はない。内藤ファンで将棋の腕自慢の方々の相手としては力不足で、ファンアイテムとして成立するかどうかも怪しい。
しかしながら、ファミコンの厳しい制約条件の中で将棋を作った記念碑的作品であり、ファミコン将棋の幸先の良い第一歩を踏み出したと言える。パソコンですら「本将棋みたいなことが出来る何か」状態の粗造ソフトもあった時代にである。
このあたりは内藤九段や、ひいては将棋界全体にとっても素晴らしい事だと言えよう。


その後の展開

  • 本作以降もファミコン将棋は更なる飛躍を遂げる。
    • 2年後には正当な続編とも言える『森田将棋 (FC)』が発売される。
      • その後、SFC将棋の第一作目にあたる『初段 森田将棋』も手掛ける事になるのだが……まさかの失敗で躓きからのスタートとなってしまう。
  • 本作から35年近い現在でもプロ棋士と公益社団法人日本将棋連盟による監修は行われている。

余談

  • ある手順で指すと、15手で勝つ事が出来る。ファミマガで裏技として紹介された。
    • 後手で14手勝利も出来る。
      • 合法手があるのにコンピュータが投了してしまうバグを利用して、13手で勝利する手順が発見された。
      • さらに複雑なバグを利用して8手で勝利する手順が発見された。バグで駒を消してしまうので、将棋としては成り立っていない。
  • カートリッジの形状はセタ独自の物が使われている。
    • 裏の取り扱いについての注意書きにはカセットの破壊やワニに食べさせるなどかなりシュールな絵が描かれている。
    • その後任天堂チェックが入ったのか、セタの独自要素は姿を消した。
  • 内藤九段は、当時実力はもちろん人気も一流のスター棋士であった。特に歌が上手く、声質が良いこともあって歌手としてもレコードを100万枚以上売り上げている。見栄えがする風貌のためにテレビドラマやCM出演経験もあった。
    • 棋士として編み出した「横歩取り3三角戦法」(通称:空中戦法)は有名で、定石化され、「升田幸三賞」の第1回受賞に輝いている。また、創作詰め将棋家としても有名で、数千以上もの作品を作り出している。
    • 1999年に魔法株式会社から発売されたPSソフト『将棋最強プロに学ぶ』も監修されている。
    • 2015年の引退の際に「コンピュータ全盛の現代将棋と合わなくなってきた」と表明したのは運命の皮肉と言うしかない。
  • 2018年末に開催されたRTA(リアルタイムアタック)のイベント「RTA in Japan 3」にて将棋ゲームにもかかわらず「相手コンピューターをいかに早く投了させるか」という競技として本作が選出された。
    • といっても実際は前述の15手勝利の手順を使って、いかに確実かつ素早くコントローラを操作して駒を動かすかという勝負になっている。

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最終更新:2023年05月25日 07:49

*1 このゲームには千日手の反則はプログラムされておらず、見ること自体は単純作業で可能。今では動画も出回っているので、自分で時間をかけて試す必要も無い。