独眼竜政宗
【どくがんりゅうまさむね】
ジャンル
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シミュレーション
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2Mbit+64kRAMROMカートリッジ
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発売元
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ナムコ
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開発元
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ノバ
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発売日
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1988年4月5日
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価格
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5,500円(税別)
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セーブデータ
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1個(バッテリーバックアップ)
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判定
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良作
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ポイント
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とっつきやすさに徹した戦国シミュレーション 随所に盛り込まれた小ネタ 作りこまれた登場人物達
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概要
前年の大河ドラマと同じタイトルだが、特に関係はない歴史シミュレーションゲーム。しかし決して粗悪な便乗作品というわけではない。
当時のナムコにはSLGのノウハウがほとんどなかったにもかかわらず、(開発は外注ではあるが)非常に丁寧に作られており完成度は高い。
プレイヤーは伊達政宗になり小十郎に命令を与えつつ、おうう とういつを めざして あたま と かね と ちからをつかう じつに わんだふるなげーむです(太字内原文ママ)。
特徴
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アイコンを選ぶ事によるシンプルな命令。
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基本的に8つのアイコンを選択して命令を与える事でゲームは進行する。開墾、偵察、軍事、訓練、売買、忍者、祈祷師、機能と、行えるコマンドはシンプルに纏められており、とっかかりをよくしている。
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「祈祷師」はランダムで有利になるイベントを発生させたり後述の金山探しゲームを発生させたりするかもしれないという、他のSLGではあまり類を見ないユニークなコマンド。初心者救済策と言えなくもない。
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「忍者」は相手の石高や兵力を減らすことができるが、何が減るかはランダムの上に失敗も多い。祈祷師と並び、使わなくてもクリアできるコマンドである。
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武将の概念はなく、1コマンドで一季節が流れる。18歳からスタートし、81歳(寿命)になるまでに奥羽の全ての大名を倒して統一を行うのが目的。
厳密には81歳の夏に死亡する。81歳の春にセーブして夏再開(後述)の場合は秋。
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史実の政宗は68歳で没しており、そもそも36歳の頃には江戸幕府が成立していることを踏まえると、時期的には大分余裕が持たされている。
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ミニゲーム
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訓練や祈祷師コマンドを実行した際にミニゲームが発生することがある。
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流鏑馬:訓練3回ごとに実行可能で、行うかどうかは任意。馬に乗った政宗を操作しつつ、的を射って高得点を狙う。的や
ブタイノシシを射抜き加算された得点とゴールしたタイムで訓練度が通常より上昇する反面、成績が悪いとまったく上昇しない。また訓練度が高くなればなるほど難易度が上がる。
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金山探し:あみだクジの要領で金山を探し当て、軍資金を得る。途中の落とし穴にはまる、あるいは金0の山に到達した場合、収入はない。???の山は出る金がランダムに決まる。基本は5000を狙い、落とし穴で行けないなら0以外の山を狙いたいところ。しかし制限時間が滅茶苦茶短いので、落とし穴を回避するのが精一杯の場合が多い。
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これらのミニゲームを成功させる事でコマンドの効果を底上げ出来る。
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戦争
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戦争は向かい合った部隊を1歩ずつ行動させる形式。部隊の兵士数によって規模が存在し、大部隊になるほど部隊の面積が広くなる。これにより進行が阻まれたり鉄砲に当たりやすくなる反面、一度に複数の部隊を攻撃出来たり、後方の部隊への射撃を防いだりする事が出来る。また、部隊には以下の兵科が存在し、これらの部隊は各1部隊ずつ存在できる。
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足軽:最も安価に雇える(一律金100で相場の変動がない)のが強みだが戦闘力は低い。他の部隊を守るのが主な役目。特に鉄砲射撃で全滅しても射撃が終わるまで残っているので、文字通り肉壁になる。
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騎馬:唯一2回移動出来、戦闘力も高いので軍の主力。当然、敵に回した場合は倒すにはかなりの損害が出る。年数が進むと相場が上がって揃えにくくなる。
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鉄砲:唯一方向の概念を持つ。向いている方向に強力な射撃が行えるが接近戦には弱い。一合戦で射撃できる回数は訓練度によって増加し、射撃の強さは部隊規模に大きく関わる。
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旗:いわゆる本陣でこれがないと出陣できない。戦闘力は低い。全滅すると負け。
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また、戦闘中にはセレクトボタンでメニューを開く事が出来、退却をしたり、自軍の操作をCPUに任せるといった事も可能。
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結婚イベント
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敵国を3つ攻め滅ぼすと、相手国の姫を嫁にもらうことができる。そのときに金と米ももらえる。全ての国に違う姫が用意されているという凝りよう。
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正室である愛(めご)姫は田村家の姫。弱い所から倒していくと、田村家がだいたい3番目になる。他の姫はなぜか発売当時の人気女性アイドルのような名前が多い。
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結婚後は機能コマンドで母親の代わりに出てきてくれる。
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結婚を断ることも可能だが、金と米がもらえないばかりかボコボコにされる。
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周回イベント(ネタバレ有り)
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激闘の章(いわゆるハードモード)を周回プレイする事で特殊なイベントが発生する事がある。
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2周目:バグイベント。本当にバグったわけではなく、用意されたイベントなので進行不能になったりすることはない。
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所持品の数値が変わる。バグが解消された後も元の数値に戻らなかったりする。
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3周目:秀吉イベント。選択肢によっては大軍を引き連れて攻めてくる。
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負けると即ゲームオーバーであり、逆に倒すと即エンディングという要素もある。
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4周目:特殊な結婚イベント。通常の結婚イベントとは違い、好きな姫を選んで結婚できる。金と米はこちらが払うことになるが、相手国が自動的に伊達家の領地になる。
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数多くの姫の中に何故か小十郎がエントリーしており、口説き落とす事が可能。
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5周目:家康イベント。選択肢によって石高が変わる。残念ながら戦うことはできない。
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8周目:社長イベント。ナムコの中村社長(当時)が出てきて1戦だけ無敵にしてくれる。
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周回を重ねていくと敵が攻め込んでくる絶対年数が速くなっていき、難易度が上がっていく。最終的には開始後8年で敵勢力の侵攻が解禁されるようになる(ちなみに激闘の章1周目だと20年)ため、かなりハードになる。また開始時の米の相場が安く、兵隊の相場が高くなるので早急には兵力を揃えづらくなる。
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評価点
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コミカルな戦国
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歴史シミュレーションというジャンルながら重々しさを徹底して排除しており、メッセージの全ては登場人物が喜怒哀楽の表情を交えつつコミカルに解説する。
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日照りや大雪や母上の来訪といったマイナスイベントすらもご本人(太陽や雪だるま)が解説し、終始ライトな雰囲気に徹している。また、命令せずに放置すると小十郎がスネたり、ゲームオーバー時の演出が何故か同社の『ファミスタ』を彷彿とさせるスポーツ新聞紙といった小ネタも随所に散りばめられている。
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スポーツ新聞紙のコメントも、何故かやたらとプロレスネタが多い。知っている人なら思わず笑ってしまうだろう。
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商人は物を購入する時だけ笑顔になり、売買せずに帰らせると怒られてしまうが、コマンド消費にならないので親切設計となっている。
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各国の情報を偵察するコマンドがあるが、敵国の情報を調べた場合、自国の戦力と比較して小十郎がコメントしてくれる。圧勝できるほどの戦力差ならば「相手が可哀想」とこき下ろしたり、強国の場合は「相当手ごわい相手」といったコメントをくれるので、SLGのプレイ経験が浅いプレイヤーでも攻め時や、注意すべき相手がわかりやすくなっている。この際に敵大名の表情もコメントに合わせて変化するので見た目にも楽しめる。
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BGMもコマンドでは和の雰囲気を感じつつどこか明るくコミカルな雰囲気、合戦では一転して勇壮なものになるなど本作のカラーを出している。
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表情豊かな登場人物たち
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ゲームに登場する人物の全てに口パクや喜怒哀楽といった表情が存在する。また、一部の人物には老化のグラフィックも存在する。最初は若々しい政宗と小十郎だが、歳を重ねる事によってだんだんと顔にシワが出来、白髪頭になっていく。驚くことに敵の大名全てに加齢のパターンが用意されている。中々クリア出来ずにいると最初から加齢されている幾つかの大名の息子(何故か顔が父親似)が登場するといった事例が発生する。
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個性豊かな大名たち
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政宗を含め12人の大名が登場するがどれもが個性豊かに作りこまれている。口調もインチキ英語やざます調やプロレスラー風だったり、こちらが選んだ命令に対してイヤミを言ったり悔しがったりと実に人間臭い。
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また、大名ごとに軍備の整え方や訓練の度合いの違いといった戦略上の性格付けがしっかりとされているのも特徴。最後に倒した大名によってエンディングの内容が変わるといったマルチエンドもあり、逆にこちらを滅ぼした大名によってゲームオーバーの内容も変わるといったマルチゲームオーバーも存在する。
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デモ画面では小十郎による各大名の評価が聞ける。主君である政宗のことは当然持ち上げているが、なぜか陰険度が高ポイントなのはご愛嬌。
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シンプルながらも戦略性の高い隊列。
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合戦時の隊列がパターンが6通りしかないながら、パターン同士で有利不利な関係があり相手の配置との兼ね合い次第で不利な状況で勝つことができる。
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特に鉄砲の前に騎馬が配置されるといった隊列に当たった場合、大損害は免れなかったり、逆に真ん中が空いている隊列を相手にした場合、騎馬が真ん中だと中心を突っ切っては旗に強襲できたりと、それぞれの隊列の強み弱みを活かすことが肝要となる。
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また、単純に隊列のみならず、4兵種に敢えて欠員の部隊を作って、騎馬などを動かしやすくするなどといった工夫もできる。
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敵の隊列はランダムなので運ゲーのように思えてしまう一面もあるが、各大名によって好みのパターンがあり、そこは何度も繰り返しプレーすることで、敵大名の癖を掴み、それに対応した隊列で臨むことで勝機も増えてくる。
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クイックモード
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コマンドを選ぶとコミカルかつ丁寧な解説が行われるが、何度も同じ説明を見るのが煩わしくなる。そういう時の為のクイックモードがあり、余分な演出を排除してスムーズな進行が可能。
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最低限のメッセージしか現れず、瞬間で表示されるために劇的にテンポが改善される。何度もコマンドを選ぶSLGとしては非常にうれしい機能である。
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メッセージが表示されている間ならBボタンを押す事でコマンドのキャンセルが可能。間違えて選んだ場合も命令を実行されずに済む。
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「クイックモードに変える?」の質問に「やらない」で元のモードに戻る。
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土地の特色
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土地によっては馬を安く買えたり、最初から石高が高いといった特色が与えられている場所がある。兵士の訓練度は土地によって決められており、どの土地で軍備を整えるかといった戦略性もある。
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これらの特徴はタイトルデモで見られる。
問題点
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コミカルな雰囲気に反して厳しいバランス
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シンプルかつコミカルな雰囲気ではあるが、ゲームバランス自体は厳しい。とにかく軍備を整えるのに金がかかり、収入だけではとても賄えず、訓練度もコマンドで1ずつしか上がらない。
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更に2年間訓練しないと訓練度が2下がるというペナルティもある。その場合小十郎に「ほらっ とのっ くんれんをやらないからくんれんどがおちたじゃありませんか!」と怒られる。
これだけなら別に問題というほどでもないが最大値の100になると「との これいじょうくんれんどはあがりません」とやらせてもらえない。なのに上記のペナルティは発生する。「やらせなかったくせに怒んなよ!」と逆に怒りたくなった人も多いだろう。
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敵に攻められると「もはやたたかうしかありません」と言われ、別の領地に兵力を持って退却することができない。一度、戦争に敗北してしまうと軍備のほとんどが無くなってしまい、立て直しが難しい。その為、初心者はどうあがいても近隣の国に勝てないという状況に陥りやすい。
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余剰の米を売り、軍事費に当てるのが基本となるが、売りすぎると俸禄が払えなくなり、兵に逃げられてしまうし、戦に出せる兵士も限られてしまう。さらには日照りなどで米収入が減ることも多いので意外とシビアなバランスとなっている。
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また、最強の国(最上)が最初から隣に配置されており、度々侵略に脅かされる。
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短期間で訓練度を高めるためには流鏑馬で高得点をとることが必須となる。シミュレーションゲームにもかかわらずアクションゲームの腕が要求される。
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騎馬が強すぎて一強に近い。
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2回行動ができるというのもあるが、いかんせん攻撃力、守備力が如実に高く他を凌駕している。
常に金100で揃えられる足軽は仕方ないにしても、鉄砲は騎馬同等高額ながら、遠くから攻撃できるというだけで、さほど攻撃力は高くないので補助的な攻撃しかできない上、直接攻撃をされると足軽並みに弱いのは割に合わない。しかも方向を転換するには基本的に1ターン消費することが多いのも難点(味方の部隊に接していれば向きを変えると同時に射撃可能)。
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ヘタをすると足軽や鉄砲は騎馬の進路を阻害してしまうことも往々にしてある。そのため、旗と騎馬のみのフル兵数でゴリ押すだけのが一番勝ちやすいとも言われている。
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周回要素のわかりにくさ
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特定の周回でのみ発生するイベントがあるが、現在が何周目であるかは画面には現れない。
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そもそも周回制であること自体に気づきにくい。一度クリアしたら最初からやり直しだと思ってしまいがちである。
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一応、エンディング画面のナムコット新聞のナンバーがそのプレイ中の周回数となっているのだが、気が付かなければ単なる演出だと思ってしまう。
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セーブの仕様
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データのセーブは春にしか行えず、かつ1ターンを消費してしまう。1年は4ターンしかないために、その内の1つをセーブだけに使用するのはもったいない。
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しかも、その春に母親が来訪してきて大事なターンを無駄にされ、セーブは翌年以降ということも。
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周回プレイによるイベントも、バッテリーの消耗によりデータが消えてしまうと台無しなので、ほとんど見られない。
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独特な形のカートリッジ
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ほんのわずかだが余計な出っ張りがあり、通常のファミコンで遊ぶ分には問題ないが、シャープ製のファミコンテレビでは遊ぶことができなかった。
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動作しないからこその、独特な形状のカートリッジだったのかもしれない。
総評
随所に遊び心が盛り込まれ、シンプルなルールと操作でSLG初心者へのとっかかりやすさを意識しつつも、土地ごとの特色や、大名の戦略といった歴史SLGの核となる部分の作りこみもしっかりとされている。
登場人物の豊かな表情、言動を見るだけでも楽しいゲームである。
小学生などの低年齢層にとっては『信長の野望シリーズ』のような光栄系歴史シミュレーションは、いささか重厚すぎる感があるので、その入門としてプレイするには最適と言えるだろう。
因みに本作の中で最強クラスの最上や佐竹、プレイヤーの伊達は、上記シリーズではかなり弱い部類に入るので、狭いながらも戦国日本の広さを知ることになる。
余談
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残念ながら続編には恵まれなかったが、後に携帯アプリで出た同じく大河ドラマ便乗ゲーム『義勇伝 ~直江兼続~』はこのゲームのシステムが元になっている。
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東日本が舞台になり、有力大名を向こうに回すことになる。また、戦闘にミニゲーム要素が導入されたり、上杉景勝の拠点陥落で即ゲームオーバーと、本作にはなかったアレンジが数多く施されている。
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同社は後に、三国志をモチーフとしたシミュレーションゲーム『三国志 中原の覇者』を発売している。
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本作とシステムは異なるが、シンプルでとっつきやすいゲームに仕上がっている。
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上記の通りゲームでは81歳の夏(春でセーブして再開した場合は秋)に寿命を迎えゲームオーバーとなり、小十郎がその死を看取り「ううっ とのは しんでしもうた」と涙にくれる。
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実際には小十郎は政宗より10歳も年上なので、政宗が81歳なら91歳ということになる。どんだけ長生きなんだよ!そもそも小十郎は史実では政宗より21年も先に逝去しているので、政宗の死を看取っていること自体既にツッコミどころしかない。
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それ以前にも政宗が78歳の夏になると「との あと3ねんほどしかありません いっこくも はやくとういつを…」と、的確な死を予言している。ゲームシステム的都合とはいえツッコまずにはいられない。
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政宗の寿命は上記の通り史実の68歳よりも13年も長い81歳となっている。カンのいい人はピンとくると思われるが「81(寿命)-18(初期年齢)=63」で、これは6bitの最大値(111111)である。
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特定の領地を移動すると移動直後だけは死亡判定がされないバグがあり、繰り返せば82歳(000000)になることができる。そうなるとまたしばらくの間はピンピンしている。つまり81歳さえ乗り切ってしまえば再び63年間死ぬことはなく、100歳になると「あ0歳」と表示がバグる。
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ほぼ同時期に出た大河ドラマ便乗ゲームに『武田信玄 (FC)』があり、開発元も同じ。しかし、そちらの評価はあまりよくない。詳細は当該項目を参照。
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同年2月10日に発売された『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は『ファミリーコンピュータMagazine』の売上ランキングにおいて8週間に亘り週間売上ランキングのトップを独占してきたが、それを初めて陥落させたのが本作である。
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なお本作を始めとするナムコ製FCソフトのバッテリーバックアップは「リセットボタンを押さずに電源を切る」方式を採用しており、『ドラクエIII』のようにリセットボタンを押しながら電源を切るとセーブデータが消えてしまう。『ドラクエIII』の影響が大きいこともあり、説明書にも「リセットボタンを押しながら、電源を切らないでください!」と赤文字で強調された注意書きが記されていた。
最終更新:2023年12月15日 22:42