あやかし忍伝 くの一番

【あやかしにんでん くのいちばん】

ジャンル 恋愛・育成SLG
対応機種 Windows95
プレイステーション
発売元 翔泳社
開発元 ゼロシステム
発売日 【Win】1997年3月14日
【PS】1997年9月25日
判定 なし
ポイント 当時大変貴重だった百合ゲーム
あやかし忍伝 くの一番シリーズ
無印 - プラス


概要

97年当時はまだ一般的とは言い難かった「くのいち」と「百合」をテーマとした恋愛育成シミュレーションゲーム。
初版はWin95版だが、ここでは最も評価が高く入手もしやすいPS版を扱う。


舞台設定・ゲーム内容について

  • 舞台は、諜報組織としての忍者の存在が暴露され、一般的な存在になった近未来の日本*1。忍者養成学校「姫百合学園」に入学した主人公「葉隠楓」を育成し、首席にするのがゲーム上の目的。もちろん、ヒロインとの交流も大変重要である。
    • 自分のパラメータをあげつつ、イベントをこなして女の子と仲良くなるという、大雑把に言えばときメモタイプのゲーム。
  • 週の初めに一週間の授業を決め時間割を作成する。月~金は4回、土曜は2回の計22。授業は、語学・算術・薬学・医術・体術・作法・忍術学・忍術実技の8種。
  • 好感度は「友情・愛情・信頼」の3種類にわけられ、いずれも授業中に自身と相手の成績によって変動する。
    また、それによって好感度を表す「顔アイコン」の「顔色」と「表情」も変化する。
    例えば「顔色」は、最初は 青色 だが、「友情」パラメータが高くなるにつれ 黄色 に、「愛情」パラメータだと 赤色 に変化する。
    「表情」は10段階あり、「友情」「愛情」のいずれかを最大値まであげると目がハートマークに変化する。
    • 自分よりパラメータの高いクラスメイトと同じ授業を受けた場合「底上げ効果」が発動しパラメータの上昇が大きくなるほか、「信頼」パラメータが大きく上昇する。
    • 逆に自分の方が高い場合はあまり上がらないが、「愛情」パラメータが上昇する。但し「底上げ効果」はクラスメイトにも発動するため、やりすぎるとライバルを育ててしまうことになる。
    • 自分と相手の差があまりない場合*2は「友情」パラメータが上昇する。
    • 授業の際、「抜け出し」を選択することで他のヒロインに会いに行くことも出来る。
  • 放課後は「家に帰る」「街に出る」「特訓」「月葉の家」「霞の家」「深雪の家」からひとつを選択する。休日は放課後と同じ選択を2回行う。
  • 日曜の夜には電話を掛ける、クラスメイトのパラメータの確認、セーブ&ロードといった行動ができる。
  • ときどき忍者としての仕事で「忍務」と呼ばれるミニゲームが発生し、成功すればパラメータがアップする。
    • 基本的にはコマンド方式で、画面上の4つのポイントを制するのが目的(ただし課題によってはそれ以外の条件で終えることもある)。
      自分or仲間の誰か一人でも体力がゼロになると、忍務は失敗となってしまう。
      「忍務」でプレイヤーができる行動は以下の4つ。
      • 「移動」…隣り合っているポイント間を1マスだけ移動できる。
      • 「積極行動」…ダメージを与えるポイントを選択し、ダメージを与える。
        行動内容は忍務によって異なる。
      • 「消極行動」…自分のいるポイントにだけダメージを与える。与えるダメージ量は「積極行動」よりも小さめだが、行動ミスも減らせる。
        こちらも行動内容は忍務によって異なる。
      • 「声をかける」…自分or仲間の体力を回復し、攻撃力も全快させる。
        なお、自分と同じポイント内にいる仲間に対してのみ有効。
  • 月末には月末試験がある。結果は翌日に成績表として渡され、その時点での学年順位がわかる。
    • 試験は「筆記試験」と「実技試験」の2つからなり、語学・算術・薬学・医術・忍術学が筆記、体術・作法・忍術実技が実技となる。
      • 試験の後には「忍務」も行われるが、こちらは成績には影響しない。
  • 以上を繰り返し、成績を上げつつヒロインと仲良くなるのが目的。
  • エンディングは大きく分けて「愛情エンド」「友情エンド」「バッドエンド」*3の3種類。
    • また、愛情エンドで更に条件を満たすと「愛情特殊エンド」*4や「首席エンド」*5に派生する。
  • PS版はDISC2枚組であり、ゲーム内の日付が10月31日までがDISC1で遊べる範囲である。11月1日以降はDISC2に入れ替えなければならない。
    なお、ゲーム内の日付は、さりげなくゲーム機本体の設定が反映されている。

「おまけ」モードについて

音楽鑑賞

  • ゲーム内で使用されたBGMを聴ける。全部で26曲。

美術鑑賞

  • ゲーム内で使用されたイベントスチル(1枚絵)を見ることができる。全部で129個。

演劇再演

  • ゲーム内のイベントムービーを見ることができる。全部で84個。

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  • 本作での登場人物を演じた声優によるコメント、「楓のなぜなに質問箱(全部で2種類)」、そして没ドラマ(ラジオドラマ)を聴くことができる。全部で9個。
  • 「音楽鑑賞」と「? ? ?」については、一部は最初から選択可能だが、基本的にはゲームを進めていくと解放されるようになっている。

主な登場人物

+ ...
  • 葉隠 楓(CV:菊池 志穂)
    • 本作の主人公。幼少のころ月葉に仕えており、再び月葉に仕えたいという想いから、「取れば、自由に主を決めることが出来る」主席のために、父・十全から提示された、姫百合学園に通う良家の娘三人を護衛するという条件とともに、姫百合学園に入学する。
      プロローグで白瀬に「まな板娘」と罵られるシーンがあるが、白瀬よりはある…かも。でもとあるイベントでは遠野から「男の子みたい」とか言われてしまう
  • 久野 月葉(CV:丹下 桜)
    • パッケージの扱いや楓の入学志望動機、他の二人の護衛対象と比べて圧倒的に濃いシナリオなど、議論の余地がないメインヒロイン。内気で大人しく、まさに深窓の令嬢。
    • 能力値は全体的に低く、楓の足手まといになっていることを、かなり気に病んでいる。このため、楓の不用意な一言がきっかけで、気まずい展開に…。
  • 藤木 霞(CV:折笠 愛)
    • 護衛対象の一人。ボーイッシュな外見で他人を寄せ付けないぶっきらぼうな性格。すでにかなりの実力者で、どう見てもいまさら養成学校にいる必要がないほど(なぜこれほどの実力者が入学したかについては、理由がある)。初期能力も楓より高い。
    • 良家である藤木家に養女として引き取られるまでは、かなり過酷な経験をしていたようで、古傷や悪夢にうなされるなどの痛々しい描写がある。
  • 遠野 深雪(CV:井上 喜久子)
    • 護衛対象の一人。いわゆる「あらあらうふふ系」で、少し目を離すと寝ている。というか、目を離さなくても寝ている。なのに成績がとても良い。
      本人曰く「自習はしていないし、教科書なども基本、学校の教室に置きっぱなし」。
      また、料理も得意。そして魔乳の持ち主。
  • 白瀬 桜華(CV:池澤 春菜)
    • 深雪の護衛で、深雪に心酔しているため、二人の関係に割って入ってきた楓を激しく敵視している。友好度を上げるとツンデレ化する。
    • 忍者の格好をしているときは首に相棒らしきリス(?)が居るのだが、この子に関する事は一切明かされない。
  • 不知火 遙(氷上 恭子)
    • 委員長。性格も委員長。ただし、アニメ好き。霞の大ファンだが、友好度を上げると楓にもハァハァするようになる。
  • 伊勢 円(CV:篠原 恵美)
    • 主要キャラのひとりだが、いまいち存在意義の良く分からない人物。強いて言えばムードメーカーか。楓の父である十全に好意を抱くなど、百合っ気も薄い。

ちなみにオープニング曲とエンディング曲は、それぞれ本作のキャラクターを演じた声優が歌っている。
曲名は、前者は「想いの果て」(唄:菊池志穂)、後者は「これからずっと…」(唄:丹下桜)。
両曲とも本作でしか聴けない。CD-DAとして収録されているので、サントラとしても代用可能。


評価点

  • 百合。これに尽きる。この頃はまだ「萌え」が一般的でなかったため男キャラに嫉妬する男性プレイヤーも少なく、百合作品を探すのには苦労を強いられていた。そこに降臨した本作は、まさに百合愛好家にとって福音だった。
    • どのぐらい百合かというと、「ハッピーラブラブウェディング」(丹下桜・談)。これがすべてを語っている。
+ ※百合的な見所。ねたばれ
  • とにかく、楓と月葉のいちゃつきぶり。
    • 温泉で抱き合って二人の世界に入る。手裏剣の投げ方を教える際に、文字通り手取り状態になり悶々とする。幼少時に、互いに「お嫁さんになる」と約束(しかも、まさかの実現)。もちろんキスシーンもあり(ただし、双方が望まない不幸な形でなのだが…)。二人の恋愛を、周囲の人々も苦笑しつつ公認。
    • 霞と美雪は親愛の情の発展レベルと言い訳も出来るが、月葉ルートは問答無用の熱愛ぶり。上記キスも結婚EDも月葉相手のみである。
  • 月葉と霞、どちらと相合傘をするかで楓の取り合いが発生するイベントまである。内気な月葉が他人につっかかる、珍しいシーン。
  • 楓と月葉以外でも、モブキャラのキスシーン(もちろん女同士)を盗み見するイベントがある。
  • また、前述した温泉でのイベントに楓がヒロイン全員のバストサイズを測るというものがあり、月葉とだけでなくヒロイン全員分のイベントスチルが用意されているという力の入れっぷり。
  • 上記した人気女性声優陣の豪華さから埋もれがちではあるが、男性声優陣も大塚明夫氏や堀内賢雄氏といった大御所が出演されており豪華な顔ぶれとなっている。
    • もっともそれ自体はこの時代のギャルゲーではあまり珍しくない光景ではあるが…。
  • PC版では、他のヒロインの時間割は護衛対象である3人のものしか確認できなかったが、本作ではそれ以外のヒロインのものも確認できるようになり、より攻略対象となるヒロインの好感度の管理がしやすくなった。
  • シナリオの選択肢によっては、月葉の半ケツを拝められる。

賛否両論点

  • キャラクターデザインのセンスが微妙。
    • これ自体は主観や好みに左右される点でもあるので、そこまで大きく問題視されるべきという程ではないが気になる人には気になる点であった。
    • 「余談」の項でも述べるが、キャラデザイン(というかパッケージ)に惹かれて購入・プレイしたというユーザーもいる。
  • 「抜け出し」の仕様変更
    + クリックで詳細
    • PS版は「抜け出し」の効果が「必ず対象のヒロインの「愛情」パラメータが上がる」仕様に変更された。
      • 「愛情エンド」*6系にはこれを使えば簡単でたどり着ける反面、半ば作業的になってしまう。もっとも説明書にはこの事は書かれておらず、ある種の救済処置ともとれなくはないが。
      • また、相手との「愛情」パラメータは上がるが、授業の成績に関するパラメータは相手のみ上昇する(自分は増減なし)ため、後述するベストエンドを狙う場合は使い時を考える必要がある。

問題点

  • DISC2への入れ替えのタイミングが説明書に書かれていない。
  • 主にテストとして行われるミニゲーム「忍務」が、微妙な出来で作業感が強い。せっかくシチュエーションはそれなりに用意されているのに、やることは大体同じ。
    • 特に(縛りプレイでもしない限り)各パラメータが大きく上がっているであろう中盤以降は「積極行動」だけでゴリ押せるくらい、難易度も下がる。
  • 下校時に行き先を選択できるが、誰に会うかは完全に運任せ。特訓で能力を上げるのが無難である。
    • 行き先の選択時に方向キーの左右を使うが、押した方向と移る方向が逆であるため、操作が混乱する。
    • 取扱説明書には、特定のヒロインの家に遊びに行く際には「約束を取り付けてから行くと良い」と書いてあるが、自分から約束を取り付けることはできない。
      約束は基本的に相手側からのみで、授業を一緒に受ける約束(教科は「忍術実技」固定)位。
  • ヒロインとの会話の内容のバリエーションはそんなに多くない。殆どフルボイスなので仕方ないといえば仕方ないが…
  • バッドエンドがとんでもなく鬱である(ハッピールートでもかなりシリアスな展開になるが…)。全体的に明るい作風なので、ギャップがすさまじい。
    + ※ネタバレその1・バッドエンドの一例(月葉ルート) アメリカ政府の外圧により姫百合学園ら忍者養成学校は取り潰しとなり、学園の仲間は散り散りとなる。
    楓は後日、公園で視力も記憶も失った月葉と出会い、心を痛めながらも他人の振りをして挨拶をする。
    月葉はペンダントに自分と一緒に映っている人物(楓である)が自分にとって大事な人なのは憶えているが、思い出すことも見ることも出来ないと語る…。
  • いわゆる「ルート」があるのは護衛対象の三人だけで、ほかの三人のルートもほしかったという声も。それだけに、下記「プラス」は期待されたのだが…。
    • また、どのハッピーエンドルートも完結はせず、いかにも「次」がありそうな感じで終わるが、結局続編的なものは出なかったのが惜しまれる。
      + ※ネタバレその2 実は学園自体はどのルートのエンディングでも燃やされ、壊されてしまう
  • ギャルゲーバブル全盛期の作品にもかかわらず攻略本が出なかったため、ベストエンドである主席エンドのハードルが異様に上がっていた。
    • ラストの展開のせいで、本来の目的であったはずの主席が苦労の割にどうでもいいおまけ程度の扱いになっている。
      • 後年、攻略情報が開発者のサイトで個人的に公開されたが、現在は閲覧が困難となっている。
      • かつて電撃PLAYSTATIONの付録であった電撃攻略STATIONに攻略情報が掲載された号があった。

総評

百合好きかどうかで評価がまったく違ってくる作品。百合好きにとっては神作ともいえるだろうが、百合要素を抜きにしてみると、ゲームシステム面でイマイチ作り込まれていない部分があったりと凡作レベル。

楓の周囲はみな同性愛に一応の理解があるため、同性愛の葛藤というものは特に描かれない。ゆえに、ひたすら肯定的な百合が堪能できる。逆に、そういう葛藤描写があってこその同性愛ものと考える向きには、少し物足りなく感じるかもしれない。

もっとも、それゆえに今日の百合作品にありがちな安直な異性攻撃が無いため、百合作品の入門編として適していると言えるかもしれない。


余談

  • 本作を立ち上げたときに最初に流れる警告文は、最後に遊んだ時にエンディングを迎えたヒロインの声で読まれる、といった仕掛けがある。
    • ちなみにこの警告は黒い背景にいきなり 警 告 と表示されるので、初見では若干驚くかもしれない。
  • 「愛情」および「友情」パラメータは、2人以上のヒロインを最大値にする事もできる。
    • さすがに全員には無理であるが…
  • 上述した「パッケージがかわいい」という理由で本作を遊んだ事があると公言した人の中には人気声優である竹達彩奈氏がいる。

その後の展開

  • ドラマCDが2作品、販売されていた。
    • 「あやかし忍伝くの一番 外伝 其ノ壱 -謎?謎!くの一挑戦状!-」「あやかし忍伝くの一番 外伝 其ノ弐 -夏だ!海だ!くの一逆襲編 -」の2作品。どちらもかつて文化放送内で「長沢美樹のあやかしラジオくの一番」としてオンエアされていた内容をまとめたもの。
      本作のような百合百合した内容を求めていた層からは不評であったが…
    • 一応、本作未登場の新キャラが登場しているため、聴いてみる価値はある。
    • ドラマの合間には「こどもにでんわそうだんしつ」が収録されているのだが、CDジャーナルでは「聴けば聴くほどイライラしてきて、終いにはキレそうになる」と、厳しい評価がされている。本編の声優に関しては高評価をしているが…
    • 両作とも廃盤状態であったが、「其ノ壱」に関しては2023年6月28日に再発売が決定。CD版のほか、各種音楽配信サイトやサブスクリプションサービス等でも配信を開始した。なお、「其ノ弐」については未定のままである。
  • 関連作として「みさきアグレッシヴ!」がある。制作は本作と同じく翔泳社が担当。
    • ストーリーに直接的なつながりは無いが、「葉隠」という苗字のキャラクターがいる。
  • サターンでマイナーチェンジ版が『あやかし忍伝 くの一番プラス』と銘打って発売されたが、とんでもない劣化移植でファンから無かったことにされている。

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最終更新:2024年04月15日 01:30

*1 デモムービーでは楓曰く「平成ピー年」。

*2 プラマイ10以内

*3 各ヒロイン毎のバッドエンドの他、全員と仲良くなれなかった全員バッドエンドもある。

*4 愛情エンドに更にシーンが追加される。

*5 愛情エンドに楓が首席になったシーン(どのヒロインでも内容は同じ)が追加される。

*6 授業の成績は影響せず、「愛情」パラメータのみが影響する。