総括所見:インドネシア(第1回・1994年)


CRC/C/15/Add.25(1994年10月24日)
原文:英語(平野裕二仮訳)

1.委員会は、1993年9月22日および23日に開かれた第79回~第81回会合(CRC/C/SR.79-81)においてインドネシアの第1回報告書(CRC/C/3/Add.10)の検討を開始した。同会期中には多数の質問を全面的に明確にする充分な時間がなかったことを踏まえ、委員会は同報告書の検討を終了しないことに決定した。締約国は、第7会期における委員会の検討に供するため、委員会の予備的所見に掲げられた懸念(CRC/C/15/Add.7、パラ7~18)への回答として1993年12月31日までに追加的情報を提供するよう要請された。委員会は、1994年9月28日および29日に開かれた第161回および第162回会合(CRC/C/SR.161 and 162)においてインドネシア政府から提供された追加的情報(CRC/C/3/Add.26)を検討した後インドネシアの第1回報告書の検討を終了し、以下の総括所見を採択した(注)。
  • (注)1994年10月14日に開かれた第183回会合において。

A.序

2.委員会は、第1回報告書への追加的情報を提供し、かつ同報告書の検討を第7会期に再開するという委員会の要請にしたがった点について、インドネシア政府の協力に評価の意を表する。しかしながら、委員会は、締約国における条約の実施に関して以前に提起した懸念のいくつかは、いまなお効果的に対応されないままであると考えるものである。

B.積極的な側面

3.委員会は、子どもの権利の実施を向上させるためにとるべき措置についての委員会の助言および援助を締約国が重視していることに満足感とともに留意し、かつ、子どもの状況を増進させることを目的とした政策およびプログラムを見直しかつ発展させるため、締約国が委員会、他の国際連合機関および非政府組織との協力に決意を示していることを歓迎する。
4.委員会は、条約にもとづく義務に照らして国内法を見直すことについて締約国が前向きな姿勢を表明したことに留意する。委員会は、とくに、ウィーン宣言および行動計画に一致する形で、かつ1993年国家政策基本指針および国内人権プログラムにしたがって、子どもの権利が国家開発プログラムに統合されたことを歓迎するものである。子どもの権利に関するさらなる意識および子どもの福祉を草の根レベルで促進する目的で「村プログラム」を導入する決定がなされたこと、および人権分野でセミナーおよびワークショップが開催されていることは、その他の積極的な進展である。
5.委員会は、条約第1条、第14条、第16条および第29条に関して批准時になされた留保(締約国の代表団は宣言と見なしている)を撤回するという締約国の決定を歓迎する。委員会はまた、条約のすべての規定が締約国において適用可能と見なされる旨をまもなく事務総長に通告するという、締約国の発言にも留意するものである。

C.条約の実施を阻害する要因および困難

6.委員会は、締約国における条約の迅速な実施を阻害する困難、とりわけ、360の民族集団が存在すること、人口がインドネシア群島全域に散らばっていること、締約国一般およびとくにインドネシア住民の一部の層がいまなお経済的問題に直面していることに、留意する。

D.主要な懸念事項

7.批准時に行なわれた留保、とくに条約第17条、第21条および第22条に関する留保の地位が、現時点では全面的に明確ではない。しかしながら、委員会は、締約国が、近い将来これらの規定に関わる留保の撤回を構想することに前向きな姿勢を見せていることを、心強く思う。
8.委員会は、国内法を条約の規定と一致させ、インドネシアの管轄下にあるすべての子どもが条約で保障されている権利によって充分に保護されることを確保し、かつ、具体的に目標を定めた戦略および達成された進展の監視の基盤を提供するため、国内法の包括的見直しが必要であると考える。
9.委員会は、子どもが婚姻できる年齢に関わる国内法が、条約第2条に反映された差別の禁止規定と両立しないことを懸念する。
10.委員会は、子どもも含む一般公衆および子どもに直接接して働いている職員のあいだで条約の規定および原則に関する意識水準が低いように思えることに懸念を表明する。
11.委員会は、条約の一般原則、とくに第2条、第3条および第12条の実施に対していまなお適切な注意が向けられていないことを懸念する。委員会は、これらの原則の実施は予算の制約に依存するものではないということをあらためて指摘するものである。
12.委員会は、経済的、社会的および文化的権利は利用可能な資源を最大限に用いて実施されるべきであると強調した条約第4条の規定に反して、社会部門、とくにプライマリーヘルスケアおよび基礎教育に対してわずかな割合の予算しか振り向けられていないことを、依然として懸念する。委員会はさらに、締約国において社会部門に配分されている資源の現行水準を国際機関が問題にしてきたことに留意するものである。
13.委員会は、条約第14条および第15条の実施に関して懸念を表明する。委員会は、公式な認定を一部の宗教に限定することは差別の慣行を生ぜしめる可能性があることをあらためて指摘するものである。委員会はまた、宗教、表現および集会の自由の行使の「合法的目的」による制限を公的機関が幅広く解釈しているように思え、それによりこのような権利の全面的享受が阻害される可能性があることも懸念する。
14.委員会は、少年司法制度が第37条、第39条および第40条を含む条約の規定およびこの分野における他の関連の国際連合基準、とくに「北京規則」、リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護のための国際連合規則の規定と両立していないことを、とくに憂慮するものである。
15.締約国は、ディリにおいて平和的にデモ行進していた子どもに対して治安部隊が過度の暴力を振るった1991年11月の事件と同様の侵害は二度と起こらないことを保証した。しかしながら、委員会は、集会の自由への権利の侵害が一貫して行なわれていること、および、とくに逮捕および身柄拘束の状況下における警察、治安部隊または軍隊要員による子どもの不当な取扱いの苦情申立てが多数行なわれていることに、依然として深刻な不安を覚えるものである。委員会はまた、そのような侵害で有罪とされた者を処罰し、かつそのような行為の被害者のリハビリテーションおよび補償を行なうために、公的機関が効果的な措置をとっていないことにも不安を覚えるものである。
16.委員会は、生き残るために路上で暮らしかつ/または働くことを余儀なくされた子どもが多数にのぼることを憂慮するものである。
17.委員会は、児童労働に関する国内法にいまなお深刻な乖離または欠落が存在することを遺憾に感ずる。とくに、委員会は、法第1/1951号が全面的に制定されまたは実施されたことがないこと、および働く子どものために必要な保護を1987年行政規則が提供していないことに留意するものである。委員会はまた、法律で規定された罰則が寛大であること、および人材省の査察官による監督が行なわれていないことも懸念する。

E.提案および勧告

18.委員会は、インドネシア政府に対し、子ども関連の法律と条約の規定との一致を確保するためにその見直しを完了させるよう奨励し、かつ、これとの関連で、国際連合人権センターの助言サービスおよび技術援助のプログラムによって発展させられてきた活動にあらためて注意を促す。子どもの最善の利益および子どもに関わる差別の禁止の原則は国内法に編入されるべきであり、かつ裁判所での援用も可能であるべきである。
19.政府は、条約に掲げられた規定の尊重および効果的な実施を確保し、かつそれによって児童労働に関するものも含む国内法に条約の規定が反映されることを確保するために、あらゆる必要な措置をとるべきである。あらゆる子ども関連の法律または規則の実施を国および地方のレベルで監視するため、関連の機構が設置されるべきである。条約の実施およびその監視に携わる非政府組織との協力が強化されるべきである。
20.委員会は、締約国が少年司法制度の包括的改革を行なうこと、および、その見直しにあたっては条約、および「北京規則」、リャド・ガイドラインおよび自由を奪われた少年の保護のための国際連合規則のようなこの分野における他の国際基準を指針と見なすことを、勧告する。条約第39条にしたがい、社会復帰および社会的再統合のための措置にも注意が向けられるべきである。
21.公的機関は、子ども、とくに貧困下で暮らしている子ども、路上で暮らしかつ/または働いている子ども、ならびにマイノリティ・グループに属している子どもおよび他の傷つきやすい立場に置かれている子どもに対して充分な資源が配分されることを確保するため、利用可能な資源を最大限に用いてあらゆる適切な措置をとるべきである。
22.委員会は、もっとも傷つきやすい立場に置かれたグループに属している子ども、とくに貧困下で暮らしている子ども、路上で暮らしかつ/または働いている子ども、へき地で暮らしている子どもおよびマイノリティに属する子どもに対する差別と闘うため、ジェンダーにもとづくもののような差別的態度および偏見を解消するための措置も含む緊急の措置をとるよう勧告する。
23.委員会は、働く子どもおよび青少年の保護に関わって充分な基準を採択しかつ規制を実施するために現在進められている努力を奨励する。条約の実施を評価し、かつ法律と運用との乖離を狭める目的で、働く子どもの状況を監視するために設置された機構が強化されるべきである。委員会は、とくにILOの技術的助言がこれらの問題に関して適切ではないかと考える。
24.委員会は、締約国が未成年者の失踪、拷問、不当な取扱いおよび違法なまたは恣意的な拘禁を防止するためにあらゆる必要な措置をとり、そのような行為の容疑者を起訴するためにそのようなあらゆる事件を制度的に捜査し、かつ、有罪とされた者を処罰しかつ被害者に補償を行なうよう促す。
25.委員会は、一般公衆、ならびにとくに教員、ソーシャルワーカー、法執行官、矯正施設職員、裁判官および条約の実施に関わる他の職業従事者のあいだで条約の規定を広く広報するよう勧告する。
26.委員会は、第1回報告書および追加的情報を、関連の議事要録ならびに委員会が採択した予備的所見および総括所見とともに、非政府組織を含む公衆一般が広く入手できるようにするよう勧告する。
27.最後に、委員会は、条約第44条4項に照らし、前掲パラ18~20で構想された法改正およびその実施に関わる進展についての追加的情報を2年以内に委員会に提出するよう勧告する。


  • 更新履歴:ページ作成(2011年9月28日)。
最終更新:2011年09月28日 00:48