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  7月某日



  3話
  文月 朝顔編



  まだ梅雨の気配覚めやらぬ7月。
  彼女は6月まで目にかかっていた前髪を直し、ツインテールに纏め上げて衣替え(ちょっと違うか…)を果たし、7月のあいつになっていた。
  あの、いつもツンケンして可愛くないアイツに……
「ほら、星霜! やる気あるわけぇ?」
「あるよ……ほら、手伝え! てめーの部屋だ」
  5月6月と掃除のできない人格が続いたため、部屋は凄惨なことになっていた…
  文月はそれを憂い、大掃除の宣言をだしたのだ……そんなことどうでもいいが、俺を巻き込まないで頂きたい。
「ぐだぐだうっさいわね! ほら手を動かす!!」
  この暴虐不尽なるお嬢は、命令だけする癖して結局何もしていない…むしろ動いてもらったほうが迷惑なだけだが。
  なんか、理不尽なのは俺だけだろうか?
  釈然としない思いを抱え、ボロい安アパートの狭い部屋の掃除をすることになったのだ。
  彼女特有のイライラとした怒りを内に隠した瞳が、全方位警戒態勢で俺の掃除を監視しつつ、彼女は急に口を開いた。
「ねえ、あんたさ……アノ子の気持ち受け取って上げたわけ?」
「アノ子って……お前の場合、卯月か?」
  文月は質問には答えず、答えを促すようにこちらを睨み続ける。これは無言の肯定を示していた。
「出来なかった……あいつは……本当に真剣だ。だから軽い気持ちでハイとはいえない」
「………ねぇ、あんた…それ、本気で言ってるわけ?」
  空気が…凍る。彼女のものとは思えない強い強い声は、ずしんと俺の心まで響いた
「あいつだけじゃないよ! 他の子だって、ずっとずーっと真剣なんだからねッ! わかっていってるわけ? しんじらんない……サイテー」
  なに言ってんだこいつ?
「俺はそうは言ってないだろ?」
「じゃあ、なんで皐月ちゃんのとき…あんなによくしてあげたのよ」
「っ! ………」
  言葉に、詰まった。俺はいつもと違う彼女を見て、ちょっと混乱したのだ……違う、そんな理由じゃない。
  じゃあ、なんだ? 俺はあの時確かに、皐月に対してちょっと甘かった気がする…でもそれは咎められるような事か?
「本気で言ってるわけ? もういい、知らないッ! 出てってよ!!」
「なっ…おい!ああ、クソ出てってやるよ!」
  何で俺が悪くなるんだよ、クソッ。
  悪態をつきながら出た共通廊下は雨が差し込み、庭には大家さんが手入れをしているのだろうアジサイが咲いていた。




  彼女と喧嘩をしたまま、一週間が過ぎた。
  昼休み、期末試験も近くなりごった返す食堂の中、四葉は遠くに見えるのに文月はここには居なかった。
  いつも一緒の彼らにとっては、とても珍しいことといえる。7月だけは例外的だった。
('A`)「四葉の野郎、どうした? 喧嘩か?」
( ^ω^)「アノ二人は7月になると必ず喧嘩するおっ」
('A`)「仲が悪い……ってわけじゃないんだろ? なんでだ?」
( ^ω^)「……よくわからんおっでも、仲直りしてほしいおっ、ちょっと話だけでも聞いてみるおっ」
('A`)「行っちまいやがった…マンドクセ」
  しばらくして、内藤が四葉を引き連れてドクオと同じ食卓を囲む。
  内藤たちからの質問に、はじめは何も伝える気はなかったが、ちょっとずつ、文月との喧嘩について触れていった。




  説明を受け、呆れ顔の二人は最後にきっぱりと言い放った。
( ^ω^)&('A`)「「それはお前が悪い」おっ」
('A`)「あのなあ、文月ちゃんはお前が皐月に優しくしたことじゃなくて、卯月につらくあたったことに怒りを示してんだよ」
「はぁ? だって、俺にはあいつが居るんだぞ?」
  俺は意味がわからない、とでも言うように、疑問をぶつけたが帰ってきたのは呆れ顔だった。
('A`)「お前な…まあ、いいや頭冷やして考えてろ、悩め悩め青少年……マンドクセ」
  それだけ言い残すと、ドクオは残った蕎麦を掻きこんで、食堂を離れていく。
( ^ω^)「あっ、待ってお…文月ちゃんには謝っておいたほうがいいお……あ、置いてかないでおっ」
  こんなときに親友は、俺を置いて去っていく……弁当の冷たいご飯がなんか、いやだった。


  部屋に帰るまでの沈黙が、隣にあいつが居ないことを痛感させる。
  傘を持って歩く蛙のなく声に、意味のないイライラと哀愁を感じる。
  居ないだけで、こんなにも大きかったのかと、心を蝕んだがなんとなく認める気にはなれなかった。
  そんな時、携帯が胸で振るえた、アイツからだ。

件名:傘忘れた
ごめん、持ってたよね? 持ってきて…

  まだ学校からはそんなに離れてない。5分待ってろと打ち込むと、きた道を全速力で駆け戻った…なんだ、うれしいんじゃないか、俺。
  きた道を戻れば、昇降口にたどり着く前に彼女の姿を見つけることが出来た。
  強く降りしきる雨の中、鞄を傘代わりにこちらへ駆けて来たのだ。
「え? …なんであんたが……」
「は? いや、お前が連絡してきたんだろ?」
「なにそれ?……あっもしかして…」
  急に言い淀む彼女をはびしょ濡れで、なんかドブネズミみたいになってる癖して妙に色っぽくて…とりあえず、手招きした。
「入れよ…濡れるだろ?」
「どうしたの? なんかアンタらしくない…」
  男物の黒くて大きな傘に潜るように入り込み、彼女は疑問をぶつける。俺は答えず、軽く微笑みかけてまた帰り道を歩き始めた。
「頼られてるのよ、私」
「誰に?」
  彼女は、歩きながら訥々と語り始めた。なんでだろう、ちょっと、いつもと違う雰囲気を感じて俺は神妙に返す。
  蛙はいっそう五月蝿く鳴き始め、彼女の小さな声など飲み込んでしまいそうで、だけど、決して聞き漏らさないように俺は耳をそばだてた。
「桜……卯月 桜にね」
  初耳だった。そういえば、俺と一緒に居ないときの彼女たちは、いったいどのように生きているのだろう?
  いまさらかもしれない疑問が、ふつふつと浮かぶ。だけど、今は彼女の言葉を受け止めるので精一杯だった。
「桜は、何でも背負い込んじゃうから……私が見ていないとね?」
「うん」

  ──卯月につらくあたったことに怒りを示してんだよ。

  友人たちの声が聞こえた気がした、なんだ、一番理解していたようで、大事なところで理解できていなかったのは俺じゃないか。
「……わるかった」
「ばか、今謝ってもしょうがないんだからっ本当に悪いと思うなら、来年、卯月にあって態度で示しなさい。今日のことは言わないであげるから」
  今は、本心を伝えなければならない気がして、俺はこいつに隠していたことを伝え始めた。
「なぁ、俺はアイツに惚れたんだ…あの時あいつからのプレゼントを貰えた」
「へーそうなんだ」
  "やっぱり"、文月は知らないようだった
「だけどな、お返しくれるって言って、その気持ちを聞く前にアイツはアイツじゃなくなっていた」
  つらい沈黙が俺たちを包む。
「だから、初めて知ったとき俺はお前たちを好きになれなかった」
「それが…桜?」
「間が悪いよな…だから、素直に直向に気持ちをぶつけて来る彼女に対して、素直になれなかったのかもしれない。だけど、多分違う……今はわからないけど、俺の多分ひどく利己的な内容だったと思うんだ」
「……なにそれ?」
  彼女は理解できないという風にこちらを見上げた。濡れた髪が肌に張り付き艶かしい…雨はいっそう強くなったようだった。
「なんか引っかかるものがあるんだ、だから、卯月に会うまでにそれを理解しておく…それでいいか?」
  暫し勘案の後、だがやがて納得したように俺を見上げると彼女は
「……わかった…だけど、桜を傷つけたら許さないからねっ」
と、明るく言って走り出す。傘の恩恵を離れ、蛙たちの合唱する雨の世界へと飛び出した。
「おいっ! ズブ濡れになるぞ!!」
「もうなってるっつの! ……桜を泣かすアンタなんか大っ嫌いだっ!」
  それだけ叫ぶと、彼女は速い足を生かし、俺をグングンと引き離す。傘を握る俺はその俊足に追いつくことは出来なかった。




  あーぁ…アイツ、最近答えに近づいてるなぁ…そしたら私たちは…ううん、違うよね。
  桜を泣かすアイツなんか大っ嫌いなのに……鈍感で気の利かないあいつなんか大っ嫌いなのに…なんで涙が出てくるんだろ?
  もっと素直になっていい、のかな? でも、怖いよ……
  見せたくないから、走って逃げちゃったけど、ずぶ濡れだなぁ
  思い、鏡を見ると夏服の薄いセーラー服の間からちょっとだけブラが透けて見えていた。
  瞬間顔が沸騰したように熱くなる……もうっあいつなんか、大っ嫌い!!



  3話
  文月 朝顔編
  完
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