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215 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:03:41.87 ID:PFwEHQpd0
『……だれ、ですか……』 

『困っている人をほォっておけなァい、ただの悪魔でェすよォ』 

『……殺しに来てくれたというわけですか……』 

『ボクは悪魔ですがァ、死神ではありませェん。アナタを助けに来たのですよォ、ワカッテマスさァん』 

『……悪魔の助けなど、私は……』 

『アナタの大切な大切な娘さんが戻ってくるとしてもでェすかァ?』 

『……』 

『悲しいでェすよねェ、つらいでェすよねェ、死んヂまった妻の代わりがァ、愛した娘がオッ死ンじまったでェすからァ』 

『……私は……』 

『守ろうと誓ったものも守れェずゥ、こォしてェ、老いぼれ一匹生き延びて恥ィ晒してェ。なにもできないまま朽ちるゥ』 

『……私は、今度こそ……』 

『守りましょォう。可愛いアノ子にもォう一度。可愛いアノ子をもォう一度』 

『……あの子を、ペニサスを守れるのなら、私は、私は悪魔とでも……』 

『はァい』 

『私は、私は守る。守りつづける。あの、重さを――』 

217 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:05:15.77 ID:PFwEHQpd0
                         ―― 八 ―― 



 暗い部屋の中に一条の光が差し込む。光に晒された箇所以外はまるで見えぬ、闇の世界。晒された光の中に、 
左目が飛び出た男が、力なくうなだれている少女を座ったままの体勢で抱きしめていた。髪の長い男が光を遮り、 
世界の中へと侵入した。顔の前に垂らした長い髪から、溜まった血の粒が絶え間なく落ち続けている。 

 髪の長い男が部屋の中にその身を埋めると、役目を終えた光が閉じた。部屋の中は、本来あるべき暗黒へと回 
帰しようとした。だが、すべてが暗闇に閉ざされることはなかった。男の腕の中、力なくうなだれる意思のない 
少女。彼女から、淡く輝く緑色の光が発せられていた。 

 人あらざるものの光。意思を持たぬ、DAT。 

( ※ <●>)「やはり、あなたが来ましたか……」 

 ワカッテマスがひとりつぶやく。様々な感情がないまぜになった声色だった。少女から発せられる光に照らさ 
れ、ワカッテマスの体も闇の中に浮かんでいる。肘の先がめくれ、赤く染まった骨が露出している。 

(´・ω・`)「……血を辿れば、すぐだったよ」 

 ショボンが暗闇の中から、光の当たる場所へと移動した。銃口をワカッテマスに向ける。 

(´・ω・`)「DATの“人形”も、あなたも、この世界には必要のないものだ。消えてもらう」 
( ※ <●>)「これは私の娘です。“人形”などではない」 

 ワカッテマスは凛とした表情で言った。ショボンの顔が歪む。 

(´・ω・`)「この世界の秩序は、あなたひとりの我侭で歪めてよいものではない」 
( ※ <●>)「人の命を弄ぶ運命の、何が秩序ですか」 

218 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:06:45.91 ID:PFwEHQpd0
(´・ω・`)「『アカシャ』が綴る運命とは、種の命を永遠のものとする楽園だ。楽園に必要なのは自由ではない、 
      何者にも侵されぬ秩序こそが必要なんだ」 
( ※ <●>)「私は自由を求めます! 管理された楽園など、人の想いを押し込むただの機械にすぎない!」 
(´・ω・`)「それはエゴだ! “人形”に知恵は必要ない。あなたは知恵と命の実を包する少女になにを願う! 
      “人形”が“人”を越え、神にでもなるつもりか!」 
( ※ <●>)「我々は“人形”ではない、想い与え合える“人”だ! 父が娘を想うのは当然のことです。私が願 
       うは知恵による楽園からの追放。ケルビムを越えて、命の木に近づくことなどしない!」 
(´・ω・`)「だが、貴様はすでに手にしている! “人形”に自由は必要ない!」 
( ※ <●>)「それでも私は求める! あなたが託された想いも私と同じはずだ!!」 
(#´・ω・`)「!? きさまあぁぁぁ!!」 

 ショボンの拳がワカッテマスに突き刺さる。衝撃に耐え切れなかったワカッテマスは床の上に投げ出され、D 
ATの少女を放してしまった。DATの少女は支えを失い、くずおれた。 

 ショボンはワカッテマスにつかみかかり、銃口を額へと押し当てた。骨と拳銃がぶつかる音が、静かな部屋の 
中で響き渡った。 

(#´・ω・`)「どこだ! どこまで知っている! 答えろっ!!」 
( ※ <●>)「この世界のことは私の娘から。あなた自身のことはあなたの腹違いの妹から」 
(#´・ω・`)「しぃぃぃ……!」 

 ショボンは憤怒の表情を剥きだしにし、低く唸った。拳を床に叩きつける。咬傷や拳の表面から血が溢れ出た 
が、気にした様子もなくDATの少女の頭を乱暴につかんだ。少女の頭が外部からの圧力によって、少しづつひ 
しゃげていく。 

( ※ <●>)「やめてください」 
(#´・ω・`)「いやだぁっ!!」 

 喉が千切れそうな声でショボンは叫ぶ。瞳にはうっすらと雫が溜まっている。己の腕が軋むほどの力を少女の 
頭に科している。食い縛った歯が両の圧力に耐え切れず悲鳴を上げ、亀裂が走る。 

220 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:08:15.74 ID:PFwEHQpd0

( ※ <●>)「そこまで憎いのですか、“父”という存在が」 
(#´・ω・`)「いうなぁっ!」 
( ※ <●>)「それとも、本当に憎いのは――」 
(#´・ω・`)「いうなあぁぁぁっっ!!」 

 雫が零れた。頬を伝うごとに周りの赤を吸収し、赤の涙が顎から落ちていった。ショボンの掌から、骨の砕け 
ていく音が響き渡る。ショボンの指が、少女の頭部へと埋没していく。 

( ※ <●>)「この子は“人”です。そして、それはあなたも――」 
(#´・ω・`)「ちがぁぁうっっ!! こいつは“人形”だああぁぁああぁぁっっっ!!」 

 噴出した血液が、闇の中へと散っていった。 



 肉の潰れる音。内容物が飛び出し、見るも無残な姿に変わり果てる。『ビースト』は千切れ飛びそうな腕を気 
にした様子もなく、飛び出た目玉蜘蛛の内臓を蹴り飛ばした。内臓は細切れにばらけ、ショットガンのように他 
の目玉蜘蛛を撃ち抜いた。 

 バランスを崩し、倒れこみそうになる『ビースト』の背が、渋沢と合わさる。渋沢も前後不覚の状態で、足元 
が覚束ない。両者が支えあっているというより、両者が倒れるのを阻害している状態。それでも、渋沢はわらう 
ことをやめない。『ビースト』は、その目を曇らせない。 

( ,_ノ` )「『ビースト』、そいつで何体目だ」 
(*゚∋゚)「…………」 
( ,_ノ` )「はん、中々やる。ここはひとつ、どっちが多く殺れるか競争しようじゃないか」 
(*゚∋゚)「…………」 
( ,_ノ` )「“くっくっ”、そいつはゴメンだ。……それじゃあ、いっくぜぇッ!」 

221 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:09:46.13 ID:PFwEHQpd0
 どちらともなく片足を上げ、足の裏を合わせる。互いが互いを蹴り、その反発力でふたりは撃ち出された。雷 
光が空間を鳴動させながら、己以外のすべてを斬り刻む。凶獣が空間を飲み込みながら、己以外のすべてを打ち 
砕く。斬り刻まれ、打ち砕かれた目玉蜘蛛は、原型を留めぬ肉片と化していた。肉片によって部屋の中が覆いつ 
くされ、壁や床の姿は見えない。 

 反動を押さえ込むことができず、渋沢が肉の床の上に倒れこむ。無防備に晒した背中に向かって、大量の目玉 
蜘蛛が襲い掛かった。だが、合わせるように渋沢は首の筋肉だけで体を捻り、ブレイクダンスの要領で回りだす。 
足刀が次々と目玉蜘蛛を斬り裂き、肉片と血溜まりが積み上がって行った。 

 最後に跳びかかってきた目玉蜘蛛の脚を、足の親指と人差し指で器用につかむ。同時に、頭を床と垂直にし、 
首を縮め、伸ばした。渋沢の体が弧を描きながら跳び上がり、着地と同時に立ち上がった。必然、足でつかんで 
いた目玉蜘蛛は踏み潰される。よろける体を保ちながら、渋沢がわらう。 

( ,_ノ` )「……一丁、上がりぃ……!」 

 自ら破壊した壁に持たれかかり、『ビースト』は動きを停止させていた。目玉蜘蛛たちが咬み付き、筋肉の鎧 
に鋭利な刃を喰い込ませている。突然、咬み付いたすべての目玉蜘蛛が動きを止めた。どころか、膨張していく 
筋肉の形に合わせて、閉じようとした口がこじ開けられていく。『ビースト』が全力を込めた。たちどころに、 
目玉蜘蛛の歯が折られ、その衝撃は目玉蜘蛛自身をも破壊した。 

 他のものに比べ巨大な目玉蜘蛛が、『ビースト』の頭を飲み込み、分厚い首に歯を突きたてた。血管が切れた 
のか、『ビースト』の首から赤色の噴水が湧き出てくる。目玉蜘蛛はそのまま咬み付くことをやめなかったが、 
唐突に全身の力を失い、うなだれた。目玉蜘蛛の内部から繊維が引きちぎられる音が聞こえ、表層の目玉を喰い 
破った『ビースト』の顔が現れた。口の端から、人の腸に酷似した目玉蜘蛛の内臓が垂れている。 

(*゚∋゚)「…………!」 

 鮮血を撒き散らし、己の肉を削ぎながらも、『ライトニング』と『ビースト』は戦った。倒しても倒しても減 
らない敵を前にしながら、ふたりは戦いつづけた。とてもたのしそうに、雷光と凶獣“らしく”。 

223 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:11:15.59 ID:PFwEHQpd0
 ふたりの様子をアナンシは憎々しげに見つめていた。 

( (◎) )「『ライトニング』ゥ……。テメエを引き込んだのは失敗でェしたァ。完全に裏目にでやがりまァ 
       したァ……!」 

 顔から目玉を零しながら、語気を荒くしてアナンシは言う。 

( (◎) )「『ライトニング』ゥ、『ビースト』ォ。ボクはテメエらを敵に回したくねェと思ってたンでェす 
       よォ。ボクがこの世界で勝手するのに一番の障害になると思ってまァしたからねェ……。DAT 
       なんざ使わなくてもボクは無敵でェす。でェすがァ、テメエらを喰い千切るイメージはできませ 
       んでェした……。ンだがよォォオオッ!!」 

 アナンシの手袋が破れ、中のものがそれぞれ渋沢と『ビースト』に飛んでいく。手袋の中に詰まっていたのは 
顔と同じ大量の目玉。飛んだ目玉は空中で脚を生やし、互いに脚を組んで巨大な球状になる。球状になった目玉 
蜘蛛たちは標的にぶつかると解散、網の様に広がり標的の全身を覆った。 

( (◎) )「今のテメエら満身創痍のガラクタでェ! ボクでも殺せる餓鬼畜生だァア! テメエら殺しゃあ 
       残りはじじィとガキだけだァ、ンなもん消化すンのに二秒もかかンねェ! いつまでも生に這い 
       つくばってンじゃねェェエエッ!! 目玉に抱かれてあの世に逝けやァァァアアアッッ!!」 
( ,_ノ` )「そうはいくかってんだよ」 
(*゚∋゚)「…………」 

 ふたりに張り付いていた目玉蜘蛛が吹き飛ぶ。ふたりとも、満身創痍の体の上で、余裕の表情を浮かべている。 
アナンシが、渋沢に向かって目玉を射出した。目玉は巨大化し、脚が生える。だが、渋沢は飛んでくる目玉の上 
を階段を登るように駆けた。最後の一匹を踏み潰し、高々と跳躍した後、上空からアナンシ目掛けて降下した。 

 アナンシの周りの目玉蜘蛛がスクラムを組み、予め待機していたかのように高速で積みあがっていく。ドーム 
状にアナンシを守る、弾力のある目玉の壁が完成した。 

( (◎) )「目玉のバリヤーだァアッ!!」 

224 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:12:45.66 ID:PFwEHQpd0

 渋沢の体当たりはバリヤーを崩したが、アナンシに届くには到らなかった。目玉の弾力に弾かれ、後方に回転 
してから、渋沢は着地する。崩れたバリヤーの合間を狙って、『ビースト』が駆け出す。横や前、後方や上方か 
ら雨霰のように目玉蜘蛛が降りかかってきたが、まるで気にせず、引きずりながら駆けつづけた。 

(*゚∋゚)「おおおおおおあああああああああああああああっっっ!!」 

 大地ゆるがす咆哮と共に、足を上げ、アナンシの顔を蹴りつける。駆けた勢いは消えることなく、床に接地し 
ている『ビースト』の足から、とめどもない火花が上がりつづけた。移動している間も目玉蜘蛛は咬みついてき 
たが、その勢いは失われることなく、ついに壁にまで到達した。だが、その勢いはまだ失われない。地響きを立 
てながら壁を削り、部屋の面積を広げていく。完全に勢いが止まったとき、アナンシの顔は跡形もなく消え去っ 
ていた。 

 だが、 

『無敵だっ“ツ”ってんでしょォがァァァアアアアアアッッッ!!』 

 すべての目玉蜘蛛が吼えた。同時、数匹の目玉蜘蛛が後方から伸びた視神経を重ね合わせる。かと思うと、そ 
れらはまるで、はじめからひとつのものだったかのように切れ目なく接続した。視神経の束が次々と触手を伸ば 
し、先端が丸みを帯び始める。更に、目玉蜘蛛の脚が落ち、目玉の中心から切れ目が入り、一回り小さなサイズ 
のものへと分裂していく。すべての工程が終わったとき、そこには、目玉で構成された人の姿があった。 

 新しく生まれたアナンシは、以前のものがそうであったように、目玉を零しながら叫ぶ。 

( (◎) )「すべての目玉がアナンシなんだよォオ! ボクら全員がアナンシなんだァアッ! わかってンの 
       かァア!? ァァアア!?」 
( ,_ノ` )「一匹残らず殺ればいいってことか」 

 言うが早いか、渋沢の足刀がアナンシを一文字に斬り裂く。直後、『ビースト』の蹴りがアナンシの頭部を蹴 
り砕いた。アナンシは小さな目玉を撒き散らしながら砕け散った。 

226 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:14:16.78 ID:PFwEHQpd0

『無駄なンだよォォオオッ!! 誰もボクを殺せねェっツのォォォオオオッッ!!』 

 またも目玉蜘蛛が集まり、合体、再構築。しかも、今度はひとりではない。同時に五体アナンシが生まれ、新 
しいアナンシから目玉が零れ、零れた目玉が脚を生やし、更に合体、再構築、新生、分裂。止まらない増殖の連 
鎖。部屋の中が今までにない速度で目玉に満ちていく。 

 渋沢と『ビースト』が神速で破壊していくが、増殖の速度はそれよりも遥かに速い。部屋の中は動く場所がな 
くなるほどに目玉に満ちる。それは、人智を超えたふたりの男とて例外ではない。アナンシ“たち”が次々に狂 
暴な叫び声を上げていく。 

( (◎) )「ボクは無敵なんだよォォオオッ!」 
( (◎) )「テメエらの手じゃァ届かねェんだよォォオオッ!」 
( (◎) )「もがいてンじゃァねェェエエッ!」 
( (◎) )「あがいてンじゃァねェェエエッ!」 
( (◎) )「生きてンじゃァねェェエエエッ!」 
( (◎) )「死ねェ! 死ねェ! 死ねェ! 死ねェェェエエエッッ!!」 
( (◎) )「死にさらせェェェエエエエエエヤァァァアアアアアアアッッッ!!」 

 目玉の数を内包しきれず、壁が裂け、部屋が広がっていく。赤色灯は割れ、すでに赤色はない。暗闇が支配す 
る、アナンシのフィールド。アナンシは増殖をやめない。部屋の中は、絶え間なく響く肉が潰れる音と、それを 
凌駕する、蟲が犇き蠢くキシキシ音が支配した。 

 一際大きい、肉の弾ける音が聞こえた。 



 途切れる事のない機械の稼働音と、パイプの中を高速で移動する水の音。アナンシや片目の男がいた赤色の場 
所と同じ構造をした部屋。ただし、照明の色は目に痛い赤ではなく視界を阻害する緑。そして、数多く並んでい 
るはずのシリンダーはひとつしかなく、すべてのパイプがたったひとつのシリンダーへと繋がっている。 

228 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:15:46.78 ID:PFwEHQpd0

(主;゚ω゚)「しぃぃぃぃ!!」 

 一糸纏わぬ姿で、しぃはシリンダーの中に固定されていた。DATの少女と違い、顔には苦悶の表情が浮かび、 
蛸の脚のような透明の管がしぃの体に喰いついていた。それは絶え間なく蠕動し、透明な管の中で何かを運んで 
いるのが目に見えた。まるで、しぃの中から想いを奪っているように見られた。 

(主#゚ω゚)「うおおおあぁぁぁああぁぁぁああ!!」 

 考えるより先に、体が動いた。肘を突きたて、シリンダーを刺し壊す。内包された溶液が漏れで、腕を押し返 
そうとする。流れるでる圧力を撥ね退け、割れたシリンダーの淵をつかむ。尖ったガラスが手の内に侵入する事 
も厭わずに、全力を込め、剥がし壊す。シリンダーは音を立てて割れ広がり、溶液が漏れでる勢いが増す。 

 溶液が流れ終わるのを待つようなことはせず、体ごとシリンダーの割れ目をこじ開けて無理矢理入る。蛸足を 
引き剥がすために、手を伸ばす。 

(主#゚ω゚)「ぐぅっ!? が、あ、あ、あ、あぁっっ!!」 

 熱した鉄に直接触れた熱さが手の中に広がる。掌から煙が上がり、焦げ付く臭いがシリンダーの内部に広がっ 
ていく。反射的に離した手を、今度は明確な意志を持って握りなおす。管は本物の蛸のようにしぃの体に吸い付 
き、引き剥がせない。 

 更に力を込め、ようやく一本引き剥がす。次の管に向かおうと手を開いたが、熱で溶け合ってしまったのか掌 
から剥がれない。片方の手で管を押さえ、無理矢理引き剥がすと、“べりぃっ”という音が響いた。蛸足のほう 
に、僕の皮が張り付いている。それでも僕は、次の蛸足を引き剥がさなければならない。拳を握る。 

 すべての蛸足を剥がし終えたとき、僕の手は筋肉さえ剥がれかけていた。シリンダーの檻の中からしぃを引っ 
張り出し、腕の中に抱き込む。喉を掻き毟るようにでてきた叫びを、留めることなく吐き出す。 

(主;゚ω゚)「しぃっ! しぃっっ!! しぃぃぃっっっ!?」

231 名前: プロスキーヤー(山梨県) 投稿日: 2007/03/17(土) 22:17:16.61 ID:PFwEHQpd0

 腕の中のしぃ。濡れた髪が顔に張り付き目元を隠しているが、瞳がうっすらと落ち窪んでいる事はわかった。 
表情は変わらず苦悶のままで、肌の色が青白い。照明のせいだけではなさそうだ。 

 いくら呼びかけても起きてくる気配がない。そのとき、気づく。しぃの肌が、纏った水よりも冷たいことを。 

(主;゚ω゚)「……しぃ?」 

 しぃの冷たさが伝播してきたせいか、全身のふるえが止まらない。しぃの体は、微動だにしない。本来あるべ 
きはずの、生きている者なら誰もが持っているはずの、血液の移動や、筋肉の反射がない。 

(主;゚ω゚)「……お……お……お……」 

 口元に手を当てる。口の中から漏れ出る暖かさが感じられない。顔を近づけて肌をこすり合わせ、暖かさを取 
り戻そうとする。胸に、頭が触れた。――――。 

(主 ω )「お……お……お――!」 


 おあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 









                         ―― 了 ――
9