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*  *


ある所に1人の男がいました。
男はとっても用心深く、自分の正体を探られるのをとても嫌いました。
そして男はもう1つの人格を持つ二重人格者でもありました。
男はもう1人の自分である少年――ヴィネガー・ドッピオに指示を送り……ギャングのボスとして君臨していました。
ドッピオは自分自身がボスのもう1つの人格だと知りません。
彼は唯一信頼をおいているドッピオにすら真実を話していない……それほどの人物なのです。
彼の名はディアボロ。絶頂であることを目指し続ける悪魔のような男。

「とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」

ディアボロがドッピオと連絡する時……彼はいつも『電話』を使います。
同時に人格を体へ出せない2人の会話は……『電話』のみによって会話が成立するのです。
実際はドッピオが『電話』とみなした物を受話器代わりに……独り言をしているようにしか見えません。

「とおるんるん……ボソボソ……そうだった。携帯電話……持ってたんだ……ボソ」
『ガチャリ……ドッピオ、わたしのドッピオ……聞こえるか。あの2人の女の話によれば……。
 どうやらこの世界では……スタンド使いじゃあなくてもスタンドが可視できるようだ。盲点だったな。
 いいか……ここからが正念場だ。私もすぐにそこに行く……なんとしてもこの状況を凌げ』

ディアボロの一方的な通達を聞きながら、ドッピオはミドラー達から少しづつ距離を取っていきます。
ちなみに今回ドッピオが受話器とみなした物は『ナイフ』。彼の支給品でもあります。
つまり今のドッピオはナイフにボソボソと話しかける精神異常者にしか見えないというわけです。

「おい……そこのアンタ……ドッピオだっけ? 何ナイフを顔に当ててんのさ。ちょっとこっちきな」

いつの間にか……ミドラーがドッピオに近づいていました。
そして、彼女はいきなりドッピオの肩を組み、ドッピオに囁き始めました。

「いいかい? 良く聞きな……徐倫達は不慮の事故で死んだ。生きていたとしても……あれはほっときゃ死ぬね。
 突然空から降ってきた自動車に徐倫とグラサン女はぺしゃんこ。突然現れたモリで徐倫マニアの男はグサリッ!
 しかし致命傷を与えたはずの障害物はどこかに消えてしまいましたとさ……この話はこれでオシマイ。
 でな、あんたに提案があるのよ……アタシとコンビを組まない? 」

どうやらミドラーはドッピオに交渉をしたかったようです。
ミドラーはドッピオの袖口を指差しながら笑っています。彼女も徐倫と同じく袖口に付いた返り血に気づいていたのです。
その時から既に、ミドラーは嘘を付いたドッピオの邪悪な心を利用しようと企んでいたのでした。
ドッピオが徐倫達から逃げられない未来が見えていたのも、ミドラーが彼を逃がすつもりがなかったからなのです。
そして……徐倫に内緒で、どうやって同盟を組むかを考えているところに……
アナスイとリサリサが現れたことにより、空条承太郎の行動経路が判明したのです。
ミドラーにとって徐倫の存在意義は『承太郎の足取りつかみ』に過ぎません。
彼女はひた隠しにしていた『女教皇』の能力……『鉱物に化ける』能力を使って徐倫達を始末する事にしたのです。

「なぁドッピオ……アタシはあんたの邪悪な心に期待してんだぜ? 最初に出会った時からずーっとね……」

ミドラーは自分に支給された名簿をドッピオに見せます。なんとそこにはドッピオの名前がなかったのです!
驚くドッピオにミドラーは更に徐倫から奪った顔写真名簿もドッピオに見せます。
やはりそこにも……ドッピオの名前も顔も載っていませんでした。

「いやぁ~徐倫に媚売って放送の書き取り役を引き受けといて良かったわ。
 あたしが知る限り、アイツが名簿を見たのは最初に会った時ににチラっと見てたくらいかな?
 ドッピオなんて名前が名簿に載ってない事には……全く気づいてなかったんだろーねぇ……」

ミドラーの講釈は続きます。
自分の能力はドッピオを充分フォロー出来る強さを持っている……。
『名簿に載っていないのに首輪を付けられている人物』、即ちドッピオは荒木が用意したキーパーソンに違いない……。
なんならここで前祝いにテキーラ酒でも一杯飲んでみないか……。
妄想を垂れ流すミドラーの表情は、下品極まりない物になっていました。

「ミドラーさん……そのテキーラ酒のビン……僕に下さい。前祝いをしましょう」

そんなミドラーを諌めるかのようにドッピオが催促をします。
ミドラーは快くドッピオにテキーラを渡し、『女教皇』をグラスに変身させます。
彼女は乾杯をしたいので、このグラスにもテキーラを注いで欲しいと提案しました。
ドッピオはビンに入ったテキーラを、ゆっくりとミドラーのグラスに注ぎ―――――――――――――――


「ギニャァァァァァッッッ!! 」


………………こまず、ミドラーの顔面にビンごと叩き付けたのでした。


*   *


ある所に1人の女と1人の男がいました。
その内の1人、ミドラーは殺し屋のスタンド使いでした。
彼女のスタンド『女教皇』は鉱物になら何でも化けることの出来る能力を持ち、
『女教皇』の歯はダイヤモンド製で、ミドラーにとって自慢の武器でもありました。
そして彼女は今……自慢の武器の何本かを、お釈迦にされてしまったのでした。
メシャッと響く効果音、刺さるガラスの飛沫、口からあふれる血と安酒のカクテル、暴走する痛覚神経の訴え……
彼女の表情を彩ります。

「ミドラーさん……いや、ミドラー。悪いが僕はお前とは組まない。
 何故なら貴様は知ってしまったからだ……この『顔写真付き名簿』で知ってしまったからだ……。
 我が親愛なるボスの正体を……僕ですら知らなかったボスの素顔を!
 だから生かしてはおけない……貴様は便所のタンカスのように『始末』してやるッ! 」

痛みでもんどりうっているミドラーに、ドッピオは吐き捨てます。先ほどの怯えた少年の面影はありません。
体も劇的に変化してゆきます。ギョロリと目が運動を始め、骨格が拡がり、筋肉が増え、細胞も増えてゆきます。
そう……これが入れ替わりの前兆なのです。
ドッピオという少年から、ディアボロという悪魔になる前兆……!

「ウゲゲ……何が『ボシュ』だッ! どーせそいちゅは……ギャングでもマヒアでもない唯の不良なんだろうッ!?
テメーみたいな何でも出来ると勘違いひてるガキが……アタヒは一番嫌いなんバよッ!
 『始末』するだぁ……? アマがプロに立てしゅくんじゃあねェーよボケがァァァァ!! 」

ミドラーはぐちゃぐちゃになった口でドッピオに罵声を浴びせます。
そしてフィンガースナップを鳴らし、上空に大量の角砂糖をばら撒きます。
ドッピオもすかさず見上げます。降り注ぐ角砂糖の雨に警戒したのか……上方向へ防御の構えをとります。
ミドラーはその瞬間を見逃しませんでした。

「バァカめェェェェーッ!」

なんとドッピオの足下から……巨大な自動車が現れたのです。
まるでカタパルトから発射された戦闘機のように……自動車は地面から上空に向って垂直に飛び出しました。
当然自動車の足下にいたドッピオの体は……簡単に跳ね飛ばされてしまいました。
実は、ミドラーが角砂糖を上空に撒いたのはこれが狙いでした。
重要なのは徐倫たちが『上空』から自動車に襲われたのを目撃している点と、
そしてあの自動車の攻撃を自分の仕業だと推測している点。

(この二つの先入観を持った奴が上空に何らかのアクションをしているアタシを見たら、何かあると上空に注意を注ぐはず。
 アタシの狙いは、がら空きになった下だったんだよ。『女教皇』は鉱物なら地面でも楽に変身可能だからねぇ……。
『地面から自動車に変身して下から相手を突き上げる』なんてわけ無いのさッ!)

しかしこれで終わりではありませんでした。
せっかく角砂糖とフィンガースナップをブラフに使って得たチャンスをこのままで終わらせるはずがありません。
そのまま地面に墜落させまいと、自動車はもう一度ドッピオを跳ね上げようと地面から待ち構えます。
まるでリフティングの練習をしている……サッカー少年のように!

「ムキャッナハハァーッ! 殺人『モーターショー』の始まりだよォアバァッ!? 」

でも、腹いせ代わりの公開処刑は予定より早く切り上げられました。
催者本人が、拷問を止められてしまったからです……腹部に風穴を開けられて。
ミドラーは自分の背後を振り返ります。自分のどてっ腹の開通者を見るために。
しかしミドラーにはそれが誰かはわかりませんでした。見覚えがあるのに、見覚えのない顔がそこにはありました。

「何…者…………誰……だよ……あんた……ガハッ…………」
「それ以上ここで会話をすることは許さない……『女教皇』のミドラー。貴様の評判は風の噂で聞いたことがあるよ」

ミドラーから腕を抜き取りながら、ディアボロは車に弾き飛ばされていた『男』に目を流しました。
彼もまた、ミドラーと同じく動く様子はありません。
全てはディアボロの掌で行われていたのです。
『モーターショー』が行われるずっと前に彼は未来をエピタフで予見していました。
だから最初の一撃が来るちょっと前にキング・クリムゾンを駆使してミドラーをまんまと騙したのです。
なんとディアボロは自分の服をナルシソ・アナスイに着せ……身代わりにしていたのでした。

「何年か前に聞いた話でしか知らなかったが……この世界は本当に時代を越えた者達が集まっているというのか?
このディアボロが組織を立ち上げた頃には……ミドラーはとっくに再起不能になっていたはず。
 そしてこの顔写真名簿……こんなものが……存在していたとはッ!! 」

ディアボロは顔写真名簿を何度も何度も念入りに破り、千切り、もみ潰して処分しています。

「だがこれを処分したとして……どうする? ドッピオは知ってしまった。名簿に自分の名前が載っていないという事をッ!
もし……奴が万が一……自分の秘密に気づいてしまったら! 私のもう一つの人格ということを自覚させてしまったら!
それはダメだ……帝王が2人になってしまうッ! 帝王は2人もいらないッ! 1人で充分だ……どうする……ん?」

ディアボロはふと足下の妙な感触がある事に気がつきました。
イギリスの石畳を思わせるような路地が……さっきよりも柔らかくなっていているのです。
そして目を凝らしてみると、ピシピシと亀裂も広がっています。まるで大きな口が開くように……。
その時です。ディアボロの両足に絡みつく物が……それはミドラーの両手でした。

「1人では……死なねえっ……殺ひ屋は………犬死を……しない主義なのさッ……!
 あんた……多分記憶を消しぇる能力者だろ? 消したきゃ消してみにゃよ……そりぇで逃げ切れるもんならな……」

ミドラーの蔑みと同時にディアボロの足下の地面は大きく裂けて彼を飲み込んでいきます。
この時ディアボロは理解しました。
自分がいる地面は地面では無く地面に化けた『女教皇』であり、自分は『女教皇』に飲み込まれようとしているのだと。
しかし彼の思考が結論を出す頃には、2人は『女教皇』の口腔内に達していました。

「ダイヤモンドの歯で噛み砕かりぇろ……『ディナータイム』だッ!」

『女教皇』の歯がディアボロに襲いかかります。
ディアボロはふう、とため息を吐くと、キング・クリムゾンで時を吹っ飛ばします。
そして『時の跳躍』が終了すると同時に、出口へ繋がる前歯という前歯へスタンドのラッシュを浴びせるのでした。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………。

*  *


ある所に1人の少年がいました。
少年の名はヴィネガー・ドッピオ。表と裏の顔を持つ少年。
彼は、道のど真ん中で倒れていました。意識も朦朧としているのか、目も虚ろです。

「とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」

けたたましいコール音が響きます。ボスからの連絡です。
ドッピオはゆっくりと手元のナイフに手を伸ばし……応対します。

「ガチャリ! ……う……ボス……僕は……」
『寝ぼけている場合じゃあないぞドッピオッ! ミドラーは私が始末した……しかし状況は全く好転していないッ! 』

電話先のディアボロは、とても苛立っていました。
彼は遂さっきまでミドラーの『女教皇』の口内で歯を叩き折って脱出する作業を終えたところでした。
キング・クリムゾンの能力の前には、『女教皇』の噛み付きも赤子同然だったのですが、
一緒に中に入ったミドラーが中々逃がしてくれない事もあって、結構なタイムロスになってしまったのです。
そしてなんとそのタイムロスは後々までディアボロを苦しめる事となってしまったのです。

「ボ、ボス……奴らは、空条徐倫たちはどこに行ったんです? 僕の服が捨てられている……?
 いや、そんな事は問題じゃあない……空条徐倫たちの……『3人』の死体が無いッ!」
『奴らが生きていたからに決まっているだろうッ! ドッピオッ! これは貴様のミスだぞ……?
3人を逃がしたのは私のミスだが……キッカケを作ったのは貴様だッ! お前はもう何もするな……。
 クソ……おそらく奴らは私の顔写真を目撃しているはず……始末せねばなるまいッ! 私が直接ッ! 』
「ボス……申し訳ありませんがお断りします」
『………………なん……だと……? 』
「ボス、お願いします。もう少しだけ僕に時間をください! まだあなたが動いてはいけないッ!
 手駒探しは……もっと慎重にやりますからッ! もっともっと相手をよく観察して行動しますからッ!
 あの3人は必ず僕が始末します…………『アレ』を見てください……まだ遠くには行っていないはずッ! 」

ドッピオの懇願に、ディアボロは何も答えませんでした。
ドッピオの誠意を汲み取ったからなのか……へまをした自分への自戒の念を感じているからなのか……。
それともドッピオを何らかの方法で始末しようと考えているのか……。
あえて言うと一つだけわかっている事があります。
ドッピオが『自分という存在の謎』に気づいてしまった事です。
このままでは……いずれドッピオは自分自身が二重人格者であることに気が付くのは時間の問題でしょう。
ディアボロを取り巻くこの世界の問題点はドッピオ、荒木、ブチャラティ達、徐倫達……増えるばかりです。

「ボス、荒木はなんで僕の名前を名簿に載せなかったんでしょうか……? 」
『……………………………』

ある所にとても悪い男達がいました。

彼らは片時も離れることがなく、まるで一心同体のように生きてきました。

今、彼らの心には『自分だけが進むべき道を模索する』……更なる成長への、純粋な葛藤が生まれ始めています。

*   *


ある所に恋に落ちた男が1人いました。
男は愛する女性の為になんでもしようと決意しました。しかし現実は非情。男は何度も挫折を味わいました。
そして等々……彼は目の前で愛する女性が怪我をするのを止められなかったのです。
後悔する間もなく、運命はあざ笑うかのように彼にも痛みを与えます。
そして倒れる直前に……男はある『決意』をするのです。この身に変えても彼女を助けよう、と……!

「うう……ここは……アタシ……確か……何かに……潰されて……」
「気がついたかい徐倫? 体のほうは大丈夫かい?
 あいつらは……俺たちがここにいるって事に……まだ気づいていないだろう」

男……ナルシソ・アナスイは空条徐倫に優しく声をかけます。
彼は水中銃のモリを喰らい、自動車の追突を受けたものの、全く動けなかったわけではなかったのです。
戦いに夢中になっているドッピオとミドラーの隙をつき、アナスイは徐倫をかついで付近の住宅に逃げ込んでいたのでした。
それを聞いた徐倫はリサリサの事を尋ねますが、目を覚ました時にはもう姿を消していたという答えが返ってきました。
しかしこれは嘘なのです。
アナスイはリサリサを徐倫の先祖だと信じることが出来ず……その場に置いていったのでした。
リサリサがジョースター家に嫁入りした人間だから、『星のアザ』を持っていないという事実を彼は知らなかったのです。
徐倫は他にもミドラーの事、ドッピオの事も尋ねようとしました。
しかし……徐倫の口から言葉は出ませんでした。口を詰まらせてしまう事実に……彼女はようやく気づいたのです。
充分に目覚めた徐倫の視界に映るアナスイはどこか変なのです。
体中のあちこちが妙にへこんでいて、間接もおかしな方向に曲がっていたり、ふにゃふにゃになっていたり……。
ハッとした徐倫は自分の体に手を当てます。
自動車で潰されたはずの自分の体が…………治っているのです。

「ダイバー・ダウン……『俺の骨や内臓その他を……徐倫の体に埋め込んで治療した』。
 結構大変だったんだぜ? 骨折した君の骨は整骨して、俺の骨をパーツに分解した奴を埋め込んで補強したり……。
 内出血して漏れていた血を血管に戻したり……医療知識ゼロの俺がよくここまで治せたもんだ。
 一応完治させたわけじゃあないから、油断しないでくれ。骨は大丈夫だろうが、内臓組織の修復は完全じゃあない」

そう……アナスイは自分の体から骨や内臓を取り出して、傷ついた徐倫の体に与えたのです。
これがアナスイの結論でした。戦うことも守ることも出来ない彼は、尽くすことを選んだのです。
現代の医学では……人が生きる為の手段として臓器などの『移植』が行われています。
しかし本来……移植する側とされる側の間では、体の『組織』が適合しているのが理想とされています。
体の中の免疫システムが移植組織を異物として攻撃し、拒絶反応や合併症、最悪死を招くことがあるからです。
つまり今回アナスイがやった移植行為は……普通ならばとてつもない危険性を孕んだ賭けでした。
しかしアナスイはそんな事を心配する必要はなく……自分の思うままに移植をすることが出来たのです。
なぜなら今の彼は岸辺露伴の書き込みのせいで『殺人が出来ない』体にされているのですから。
つまり移植行為によって徐倫を死に至らせる事は出来ないのです。
よって……アナスイが誤った治療をしようとすれば、アナスイの体が本能的に動きを制限します。、
彼はある意味『自分自身に従って適当に動かせば』それが即ち治療になっていたのでした。
ちなみに……これはそのままアナスイにも当てはまります。
『殺人が出来ない』ということは『自殺も出来ない』ということなのです。
自分自身の体が死なないように……アナスイの体は『死に至るほどの過度な移植行為』も制限したのです。
しかし……それはあくまで『アナスイの意識で行われる行為』の範疇の話なのは忘れてはいけません。

「あ、アタシなんかの為に……どうして赤の他人のアナタが」
「だから言ってただろう? 『俺達は仲間』だと。それとな……もうあんまり時間が無い。
 俺の血が道しるべでこの家まで続いてしまっているんだ」

そう、既にアナスイは水中銃で受けた傷からの出血と、自動車の衝突による内臓損傷をしてます。
今現在、体が止血しようとしても、それはあくまで『アナスイが自殺しないように』する為のモノ。
気絶している時から流れ続けた大量の血はもう戻ってはきません。失血死は時間の問題です。

「だから君は今すぐここから逃げて欲しい。おそらくあのイカれた裸女か、不気味なガキがここに来るはずだ」
「…………わかったわ。ありがとう。アタシは逃亡させてもらうわ……正しアナタを連れてね」
「ああ、行ってくれ徐……えッ? 」

徐倫がアナスイを抱え挙げます。内臓や骨が抜けた分軽くはなっていますが、充分な重みのはずです。
アナスイは最初はぽかーんとしていましたが、すぐに徐倫に降ろすように頼みます。
しかし徐倫も退きません。アナスイの覚悟の治療が彼女の心を惹きつけたのか、首を縦に振る様子はありません。
押し問答が続きそうでしたが、終止符を打ったのはアナスイでした。

「じゃあこうしよう。そうまでして俺を助けてくれるってんなら、オレの心を解き放ってほしいな。
 俺の心の闇を……崩壊しそうな俺の心の底を……君の光のような清い意志で照らしてほしい。
 今のオレには必要なんだ………えと、その……あれだよ……俺に結婚の『許可』を与えてくれ! 」

アナスイは照れ臭そうに叫びますが……その表情はどこか悲しげでした。
彼自身、無理難題をふっかけている事を自覚しているようです。
こんな事を言えば、恩を感じているとはいえ、さすがの徐倫も折れてくれるだろうと考えたのでしょう。

「いいわアナスイ……申し込んで……私はこの状況で『絶望』しているから言ってるんじゃあない……本気よ?
 あなたの考えには希望があるとか……暗闇ではないとか……そんな『こじ付け』じゃあない。
 道が1つしかなくても、2人で考えて先へ突き進む事が出来るのなら……私達はきっとうまくいく。
 結婚しましょう、今ここで……ナルシソ・アナスイ」

しかし徐倫は……なんとアナスイの申し立てを承諾したのです。
アナスイに月までブッ飛びそうな衝撃が走ります。
本音か建前かは別として……彼女の言葉をそのまま受け取れば、それは間違いなく『OK』の意味を指しているのですから。
しばらくして……我に返ったアナスイは、歓喜しました。
元いた世界でも……『結婚の申し立て』までしか進まなかったこの思いを……成し遂げる事が出来たのですから。

「ありがとう徐倫………なんか突然のことで、まだ実感がわかないな。
 一応……証明ってわけじゃあないんだが、その……1つ頼みがあるんだ。俺を……『祝福』してくれないだろうか。
『祝福』する……結婚にはそれが必要だ。今……生憎周りには誰もいない。
 だから徐倫……君が俺を『祝福』してくれ……俺も君を……『祝福』するからさ」
「ええ……『祝福』するわ……アナスイ……私はあなたを『祝福』する」

徐倫は彼を抱き寄せます。まるで少女が大好きなぬいぐるみを抱き寄せるように。
そして彼女は……自分の唇をアナスイの唇に添えました。
細胞の1つ1つが密に接し、口内の蜜を交わしあいます。
作法も儀礼も美しさのかけらも無い、本能に従ったうねりが2人を1つにします。
……2人の誓いの口付けが終わったのは、それから間もなくの事でした。
アナスイはゆっくりと徐倫から唇を離し、目をつぶりました。
まるで……ワインを舌で楽しんでいるかのような……安らかな顔つきです。
徐倫はアナスイの嬉しそうな表情にちょっと頬を赤らめます。
そして彼女は待ちました。彼からの祝福を待ちました……。


「………………アナスイ? 」

しかしどうしたことでしょう。いつまで立っても彼からの返事はありません。
一体いつまで余韻浸っているのだろうと言わんばかりに、徐倫は彼の表情を見つめます。
いつの間にか徐倫は左手を伸ばし……アナスイの髪をなで始め、自分の右頬を彼の右頬に頬にすり寄せました。
……徐倫とアナスイの頬には涙が伝っていました。
その水は雨でも接吻の唾液でもありません。100人が100人とも見間違わない……悲哀のしるし。
そして徐倫からアナスイへの混じり気1つ無い、純粋な愛の化身でもあります。

「アナスイ……もう一度…………もう一度話がしたい。あなたと……ここで話がしたい」

徐倫がどんなに涙を流そうと、手足が壊れた人形はそれ以上動くことはありませんでした。
愛の為に決意し、戦い、殺し、逃亡し、殺し損ない、悩み、苦しみ、涙し、尽くした男の命は……
それはそれは穏やかな時間の中で……消え去っていったのです。

「お願い……たった一言でいいの……『祝福』してよ…………アナスイ……! 」


ある所にとても優しい女性がいました。

彼女は自分を愛した男によって生き延びることが出来ました。

今、彼女の心は赤子を失った母のような悲しみと……夫の死を受け入れられない妻のような哀しみに満ちていました。

*   *


ある所にとても美しい夫人がいました。
夫人はある時、雨の降る不思議な家を見つけました。
しばらく眺めていると住人の気配が消えて雨が止みました。
婦人はおそるおそる家の中に入ります。するとどうでしょう。
そこには自分が大切にしていた綺麗な赤い石や、とてもとても便利な道具が見つかったのです。婦人は大いに喜びました。
しかし……婦人はあやまちを犯します。
家の住人に内緒で赤い石と道具を持ち出してしまったのです。
その後、彼女は消えた住人の仲間に出会います。
仲間は雨の降っていた家の住人を知らないかと、夫人に尋ねます。
しかし夫人は嘘をつきました。そんな人達は知らないと否定します。
最初は正直に話して道具も返そうと思ったのですが……悪魔がささやいたのです。

『住人の仲間と名乗る奴らは、自分の持っている道具や赤い石が元々住人の物だとは気づいていない。
 このまま黙っていれば、向こうは住人に出会わない限り……この事に気づく可能性は無いわ。
 ならば……彼らとは当たり障りの無い会話をして別れればいい。せっかく手に入れた赤い石を手放すわけにはいかない』

夫人は最後まで真実を話そうとはしませんでした。
いや……話すタイミングを作れなかったと言うべきでしょうか。
下卑た笑い声の女の襲撃、悪魔のような少年の激昂、身を粉にする恋人の執念……誰も彼女に、見向きしませんでした。
1人取り残された夫人はゆっくりと起き上がり、当ての無い道を進みます。
体中の痛みや負傷は波紋という彼女の技術が癒してくれますが、容態は酷いまま。
今は歩くことしか出来ません。戦闘なんてもっての他です。
夫人はふと胸に隠していた赤い石を見て、最初に自動車がのしかかって来た時のことを、思い出します。
赤い石に突如映る巨大な黒い影が……上空から何かが近づいてくるという直感を彼女に導きました。
すかさず彼女は全身に『はじく波紋』を駆使して衝撃を和らげたのです。
夫人はギリギリの所で赤い石に救われたのでした。

「あの時これが無かったら……私は死んでいた。
 皮肉ね。結局私を助けてくれたのは急造の仲間ではなく、付き合いの長かった『これ』だなんて。
 薄っぺらい縁の同志は作るべきじゃあ無いわね。あの少年や裸女のような人間と出会ったらおしまいだわ。
 空条徐倫もナルシソ・アナスイも……まさか私を置いてきぼりにするとは……死んだと勘違いされたのかしら。
 やっぱり……早く自分の本来の仲間と合流すべきね。シュトロハイムは無事のようだけど……問題はシーザーね。
 万が一……私を知っている時代から招かれていなければ……彼は波紋も知らない少年。何の意味も無い……いや、戦力的に役に立たない。難儀ね」

ある所にとても美しい夫人がいました。

夫人はとても美しい石を身につけていました。

今、夫人の信念はとても美しい彫像のように……確固たるモノになっています。






でも夫人の心は、汚れていました。





【杜王駅近くの路地から南へ進行中(F-3)/1日目/午後~夕方】
【ディアボロ・ドッピオ(現在ドッピオ)】
[スタンド]:『キング・クリムゾン』
[時間軸]:リゾットに勝利後、ローマに向かう途中
[状態]:
[装備]:DIO様の投げナイフ、ミスタの拳銃
[道具]:支給品×3、(プロシュート、ミドラー、自分)
[思考・状況](ドッピオの思考)
1.責任を持って徐倫、リサリサ、アナスイを始末する。まずは血の跡をたどる!
2.3人の始末が済んだらボスの指示通り、もう少し用心深くして行動する(近付いて来る相手への接触も慎重に)
3.支配出来る人間なら、共に荒木打倒を考える。無理なら機を見て殺害
4.向こうの意思に関係なくボスの正体を知った者は殺害
5.僕は一体何者なんだろう?
[補足1]:ディアボロの思考1…ドッピオが自分の正体に興味を持ってしまった! どうする。
              ドッピオにはもう頼れないのか? 最悪ドッピオを始末するか? そんな事が可能なのか?
[補足2]:ディアボロの思考2…ブチャラティ、ナランチャ、ポルナレフ、アナスイ、リサリサ、徐倫、エルメェス
               及び空条承太郎の始末or警戒。
[補足3]:ディアボロの思考3…支配される者達の探索をしたいが、ドッピオがヘマしそうで心配。
[補足4]:ディアボロの思考4…荒木の打倒。その後自分が支配者となる。
※この世界は一般人でもスタンドが見えることに気が付きました。
※顔写真名簿はドッピオによって完全に処分されました。
※袖についている返り血に気がつきました。
※F-3の道路の一角に角砂糖が散らばっています。

【F-3とG-3の境にある住居(F-3)/1日目/午後~夕方】
【空条徐倫】
[スタンド]:『ストーン・フリー』
[時間軸]:『ホワイトスネイク』との初戦直後。エルメェスがスタンド使いだと知りました。
[状態]:正常?(体はアナスイの身体が所々埋め込まれている。骨折ゼロ。内臓を少し痛めている)
[装備]:自動式拳銃
[道具]:道具一式×6(自分、アナスイ、由花子、ブラフォード、噴上、ジョナサン)。ただしバッグは一つです。
    アナスイの『幸運?』の剣 (柄に由花子の髪が絡みついて離れない。髪の下に「UN」の血文字が隠されている)
[思考・状況]
1.アナスイとの別れに涙。彼の遺志を継ごう。
2.とりあえずこの場から逃げる。
3.父親に会う。(ジョースター一族の星のアザの影響でなんとなく位置がわかるらしい)
4.ミドラーとドッピオを警戒し、2人の『秘密』を探る。
[補足1]:徐倫はキング・クリムゾンの能力を「記憶を消す能力」だと思っています。
[補足2]:徐倫はドッピオが二重人格者であることと、『顔つき写真名簿及び名簿に存在が無いことに気づいて』ません。
[補足3]:徐倫は承太郎が【D-4】の岸辺露伴の家に向った後、東に進んだことを知りました。
[補足4]:徐倫はリサリサと色々話し合いました(どの程度話し合ったかは次ぎの書き手さんにお任せします)
[補足5]:徐倫は『女教皇(ハイプリエステス)』の能力を「物体に潜る事ができるだけ」だと思っています。
[補足6]:徐倫のいる家はウェザー達がいた家とは別です。
[補足7]:F-3の南北からG-3付近の徐倫がいる家まで、道しるべ(アナスイの血)が出来ています。

【杜王町南西(G-3)/1日目/午後~夕方】
【リサリサ】
[能力]:波紋
[時間軸]:第二部終了後。ジョセフとの母子関係を明かしアメリカ移住を決めた頃
[状態]:全身打撲。波紋で回復中だが、今は歩けるのがやっと。戦闘は難しい。
[装備]:アメリカンクラッカー×2 、エイジャの赤石
[道具]:支給品一式、薬草少々(ツェペリと公平に分けました)
[思考・状況]:
1)ジョセフの死はこの目で見るまでは信じない。他の死者に関しては保留
2)第4回放送までに病院(C-4)襲撃の為の仲間を探す。正しシーザー、シュトロハイム、承太郎と徐倫の知り合い限定。
3)それでもジョセフの死を肯定するものや、シーザー達が自分を知らない時代から呼ばれていたら仲間にしない。
4)3)は病院襲撃の手駒として利用するまで。
5)ワムウ、荒木、ミドラー、ドッピオを警戒。
6)未知の技術『スタンド』についてさらなる検証を重ねる。

[補足1]:ドッピオが二重人格者であることと、『顔つき写真名簿及び名簿に存在が無いことに気づいて』ません。


【ナルシソ・アナスイ 死亡】
【ミドラー 死亡】
【ドキッ! 女だらけの承太郎捜索隊   解散】



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101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) ミドラー
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) 空条徐倫 107:仇敵(前編)~声~
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) ディアボロ 107:仇敵(前編)~声~
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) ナルシソ・アナスイ
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) リサリサ 108:享受