だが……そんなアタシ達のわだかまりを解いたのはまたしてもナランチャの一言だった。
皆は少し呆れたような視線を送りながら、ナランチャを説得し始めている。
流石に今回はアタシも賛同せざるえない。目が見えないのに……一体何を考えてるんだ?

「やってやるってんだよッ! 奴は背中を見られたら死ぬ……つまり建物に背を向けるか地面に寝なきゃいけねぇ。
 そこを狙うッ! それに目が見えないから……今の俺は奴の背中を覗いても死なずにすむかもしれないぜ」
「ナランチャ君……止めてくれ。せっかく君は罪を悔い始めようとしていたのに……これ以上罪を重ねてどうするのだねッ! 」
「ジョージさん……俺さ、アンタに言ってなかったことがあるんだ。実は俺……ギャングなんだよ。それも下っ端の。
 盗みや喧嘩なんてしょっちゅうだし……殺しもやってる。俺の仲間は皆は組織の関係者なんだ」
「ギャ……ギャング!? どうゆう事かねッ!? 君はまさか我々に嘘を付いていた……」
「違うッ! 俺が後悔していることは……『人を殺しちまったこと』じゃあねぇ。

――――――テメェェェェッ!『エアロ・スミス!』 喰らえぇぇぇぇ!」 ――――――――――――

 『恐怖の余りに……本能で動いちまったこと』…… 、

――――――殺ると言ったら殺る!ブチャラティだろうがジョルノだろうがトリッシュだろうが関係ねえッ! ――――――

 そして……『その恐怖で、仲間を殺っちまってもいいと思ってしまったこと』だ。
 ジョージさん。俺達ギャングは……普段は馬鹿みたいに争ったり命を賭けたりしねぇんだぜ。争いは馬鹿のやることだ。
 だが!『侮辱する』という行為に対しては命を賭ける。殺人も神は許してくれると思っている!
 あの男……モハメド・アヴドゥルは……ジョージさんの……いや皆からの『信頼を侮辱した』ッ! 」
「な……ならば私もここに残ろう。ナランチャ君、何も君がそこまでやる必要は」
「甘ったれた事言ってんじゃあねーぞッ!このクソジジイがッ! もう一遍同じ事をぬかしやがったらブン殴るッ! 
 俺はあんたのようなただの一般人でも裏路地で薬やってるようなゴロツキでもねぇ……。
 手首を切り落とそうが銃弾を全身に受けようが……視力を失おうが決して敵を逃がしたりなんてしねぇ……。
 『一度ヤると言ったらヤる』……それが俺達『ギャング』なんだッ! 」

……あのナランチャが……啖呵をきりやがった。アタシ達の仲で一番信頼していたはずの……ジョージさんに。
ジョージさんは……力が抜けるように座り込んでしまった。やべぇ、顔が凍っちまってる。
花京院もポルナレフもアタシも……多分同じ顔をしてるんだろう。

「……グッド。気に入ったぞ……ナランチャ・ギルガ。俺も残ろう」

*   *


僕ではない。ホル・ホースでもない。ジョースター卿でもない。F・Fさんでもない。ナランチャ君でもない……。
つぼみから開花させた花のように……そいつは喋り始めた。
名は、ジョンガリ・A。
縄で手を縛られ……ずっとF・Fさんの飼い犬状態だったコイツがなぜ?

「フッ……何を企んでいるんだ、とでも言いたげな顔をしているな。安心しろ。
 俺はコイツ……ナランチャ・ギルガの誰かを守る為の殺人に拒否感は無いという『漆黒の殺意』を認めただけだ。
 ただの17歳のガキだと思っていたが……とんでもない根性の持ち主っ……失明しても消え失せていない。
 盲目であるこの俺が気圧されている……狙撃者魂に火を着けられている……どういう事かわかるな? 」
「……だからといって我々がお前を解放しようなんて思うなよ」
「気流の流れから判断するに炎の範囲はそれほど広くない。今ならまだ脱出可能だ。
 我がマンハッタン・トランスファーなら、この程度の気流の変化なら読み切れる。
 照準にいささかブレは生じるだろうが、一度に何発も発射できるナランチャのスタンドならそれをカバーできる」
「…………待て。なぜお前がナランチャのスタンド能力を知っている」
「ナランチャのスタンドは戦闘機タイプでいいんだろう?  
 そこのジョースターがアヴドゥルと話をしていた時以外にあるか? 」
それと念の為言っておくが……お前達をドサクサで暗殺するなんて不可能だぞ。
 貴様ら3人の射撃から逃げ切れるはずがない。ナランチャが誤射したとしても俺のスタンドを狙えばいいんだからな」
「とはいえ……そんなに僕たちから離れたいか……? アヴドゥルさんに命乞いは通じないぞ」
「アヴドゥルと内通するつもりもなければ、お前達に取り入るつもりもない。
 奴だってお前達だって、俺にしてみれば憎きジョースターの仲間なんだからな。
 そんなに信用できないのなら、花京院……お前の『法皇の緑の触手』で更に俺を縛っておいたらどうだ?
 その代わりマンハッタン・トランスファーに巻きついている『法皇の緑の触手』は開放してほしい。精度が鈍る。
 なぁに、俺はナランチャの援護をするだけだ。それ以上の事もそれ以下の事もしない」
「………ナランチャ、君はどう思ってるんだ? 」
「……どうって事ねーよ。俺は俺だ」
「早くしろ花京院。貴様の鈍い決断力で全滅を招く気か」

全員がジョンガリの言葉に押し黙ってしまった。不本意だが……こんな状況ではやるしかあるまい。
この限りなく怪しいジョンガリ・Aの提案……吉と出るか、凶とでるか。

*  *


私、モハメド・アヴドゥルはE-6の市街地にある一つの住居に身を潜めている。
全く……厄介な事になったものだ。本来ならば今頃私はジョースターさん達と共にDIOと戦闘をしていたはずなのだ。
しかし気がつけば、荒木という男の言うままに殺し合いをさせられている。
まぁ……とはいってもその正体は唯の虚構で出来た世界なのだ。
おそらく荒木はDIOも部下で、私をここに閉じ込めて始末するつもりなのだろう。
見れば見るほどよく出来た作り物だな。花京院やホル・ホースをあそこまで寸分無く再現できるスタンドがこの世にあるとは。
だが、なんてことはない。私が全てをブチ壊し、最後に荒木を始末すればいいだけのこと。

『ハハハハー奴らまんまと騙されたねっ! 上手くいってよかったねっ! 』
「うるさい。今貴様が声を出したら……バレてしまうぞ。隠れている事が」

しかし荒木も中々味なことをする。私が貴様の能力に気づいたとたん、こんな厄介なモノをプレゼントしてくれるとはな。
背中を見られたら死ぬ?……馬鹿馬鹿しい、そんな事があってたまるか。
一応ここは奴の作った世界だから注意しているがな……だがこれじゃあ私が真実に近づいていると言っているのに等しい。
これで私を縛り付けたと思ったら大間違いだ。ならばこっちはその分好き勝手にやるまでだ。

『おいアヴドゥル……エアロスミスが来たみたいだねっ! 』

チープ・トリックの呼びかけに答えるように、私は窓から外を覗く。
まさか……無事だったのか? そんなハズはない。私は確実にナランチャ・ギルガから視力を奪ったのだ。
わざわざジョージ・ジョースターと二人っきりになるタイミングまで作り、
ジョージを狙えば、ナランチャが庇うだろうと読んだうえでの完璧な作戦だったのだ。

『おおっあたり構わずブッ放してるねっ! こりゃスゴイ……この辺りの家の窓ガラスが全部破壊されてるねっ! 』

何だ?一体何を考えている? この辺り一帯の全ての窓を破壊するつもりか。
確かに……家の内部に入って調査するのだから侵入を楽にするという点では理にかなっている。
しかしあれは目が見えていないと自ら吐露しているようなものではないか。
あんな事をしたら……私が音に気づいて呼吸をしないように立ち去るとは考えないのか?
おっと危ない。こっちにも来たようだ。

バリバリバリバリンッ!

『ふぅ~急に風通しが良くなングっ』

エアロスミスの弾丸が窓ガラスを粉々に打ち破る。チープ・トリックの口は一応『魔術師の赤』の手でふさいでおこう。
見たところ……まだ私たちにはまだ気づいていないようだ。どうやら本当に視力は失ったらしいな。
もし見えていたのなら、この家に侵入した時点で私のかすかな呼吸に気づくはずだ。
しかし気になるな。なぜここまで風通し良くする必要があるんだ?
こちらの方向にゆっくりと近づいているが……?

* *


「どうだジョンガリィ……奴はいたか?」
「北方より風速1.4mの風。お前の前方右30度に遮蔽物あり。中肉中背の成人男性に近い形をしている……ビンゴ。
 逃げる素振りは見られない。お前の目が見えていないから……大丈夫だと油断しているようだ」
「よっしゃぁ!ブチまけやがれェェエアロスミスゥゥゥゥッ!!! 」

* *


まずい……まずいぞ。もう少しで蜂の巣になるところだった。
どうやっているのかは分からんが……目の前にいるスタンド、エアロスミスは私を探知している。
完璧な探知をしているわけではないが……狙いが格段に良くなっている!
馬鹿な。確かに私は奴の視力を奪ったはず……それなのになぜ……?

『おいおいアヴドゥルよぉ~家に出ちゃうの? もう諦めちゃえよ。あんた追い込まれてるよ。
 ナランチャの視力がどうなってるかはわからないけどさっ……背中を見せて楽になっちゃえ。ねっ! 』
「うるさいぞチープ・トリック……私は予定を変更して『あそこ』に向かうだけだ」

私は背中を見られないように壁づたいに移動する。くそ……やはりこんなのは私のキャラではないッ!
エアロスミスは私の後から飛行し、ところ構わず銃撃しながら追いてくる。
冷静になって考えろ……まず奴(ナランチャ)の目は見えているのか? ……答えはNOだ。
私は背中を見せられない状況にあるのだからな……殺す気満々で襲った相手にとる行動とは思えん。
ならば誰かがナランチャに私の居所を教えているのか?……これはYESだろう。
確か縛られていた男……ジョンガリ・Aといったか……奴のスタンドが『気流を読む能力』だったはず。
しかし何故もっと正確にナランチャへ情報を伝えないんだ? 奴とてDIOの敵である私を殺したい筈なのに……。

*  *


「おいジョンガリッ! アヴドゥルは間違いなく俺の目の前にいるんだよな? 」
「ああいるとも。そろそろ角を右に曲がりそうだから注意しろ。右に曲がったらお前もシラミ潰しに撃ちまくれ」
「ジョージさん達は大丈夫なんだろうなッ? 」
「花京院とポルナレフがいるからノープロブレムだろう。
 そもそも奴らはアヴドゥルの仲間……手の内は知り尽くしているはずだ。いいからさっさとやれ」
「任せときな……エアロスミスッ! 」

手首に着いているライク・ア・ヴァージンの子機が警報を鳴らしている。
音のレベルを聞く限りでは、F・F達とはそこそこ離れたようだな。
さて、どこから話せばいいのだろうか。
結論から言おう。とても損した気分だ。
せっかく一丁前に吼えたから役に立つかと思ったのに……。
コイツ……ナランチャがここまで馬鹿だとはな。
まさか前方右30度と聞いて、思いっきり『真右』に銃撃するとは……。
奴曰く『え? 右30度って、右に30発ブチ込めっていう意味じゃあないのか!? 』だとよ。
この俺をナメてんのかッ! 右30度って言ったのに……なんでイコール30発になるんだこのド低脳がァーッ!

……だから俺はもう詳しい情報をコイツに伝えるのは止めた。
どんなに精密に伝えようが所詮馬の耳に念仏だ。その他の情報収集へのやる気も完全に失せたのさ。
だから今は『アヴドゥルの位置』だけしか探知していない。
コイツにあれこれ言っても頭がパンクするだけだろうし、
アヴドゥル以外の奴の安否なんて俺にはどうでもいいんだからな。どうせ奴らは上手くやってるだろ。

エアロスミスには、1人住まいの家の床の汚れを掃除機で吸い取るように……辺り一面隈なく銃撃させている。
アヴドゥルも照準の定まらない機関銃には迂闊にスタンドで攻撃も出来まい。
動きを止めて炎を出したらそれこそ相討ちになるのは目に見えているからな。

「おいジョンガリ! 全然手応えを感じねぇぞッ! 本当にあってるんだろうな!?」
「大丈夫だ。奴はさっきから『変な形の炎』を自分の胸元に出現させているんだよ……。
 何の『おまじない』かはわからんが、自ら探知してくれと言わんばかりのな。
 それにエアロスミスが今いる通りは他の道より広いんだよ。だからその分『掃除』に時間が掛かっているだけだろう。
 気をつけろよ。そこの通りはこのまま進むと狭いL字路になっている。アヴドゥルは右に曲がるしかない。
 エアロスミスの今のペースの飛行速度だと30秒後には角に着くからそこを狙え」
「そーか30秒ねッ!」
「(本当にわかってんのかコイツ?)
 ああ、アヴドゥルの奴もL字路に気づいたのかちょっと前から道路中に放火し始めていた。
 おそらく俺のスタンドが気流を正確に読み取れないようにしたんだろうが、どうって事はないな。
 このまま突っ切って……角を曲がったら適当にブっ放せ」

ナランチャが大はしゃぎしている。何て単純な奴だ。
コイツまさか俺達の周りもまだ火の海(アヴドゥルのスタンドによる二次災害だがな)であるのを忘れてないよな?
とても視力を奪われた人間とは思えないタフさだ。
コイツは例え舌を引っこ抜いても、構わず攻撃してきそうだな……。

* *


「おーおー派手にやってるねぇ……音がこっちまで聞こえてくら。
 旦那、あの二人はあんたが思っている以上に上手くやってくれるかもしれないぜ」

ホル・ホースが耳に手を当てながら、おどけている。
実に無神経な奴だ。ジョースター卿が思いつめているのを知らないはずがないだろうに……。
今、この花京院典明を含めた4人はナランチャ君たちと別ルートで【E-6】を進んでいる。
少し離れているが前衛にF・Fさんが、後衛にホル・ホースが、そしてジョースター卿の側に僕が立つ。

『アタシの手首にはライク・ア・ヴァージンの親機がついてる。
 ホテルでライク・ア・ヴァージンの親機と子機について話したろ?
 親機と子機が離れすぎると、どっちも激しく警報を鳴らすんだ。
 距離が離れれば離れる程音は激しくなり……50メートル離れると子機が爆発する。
 今はあんまり音がでかくないから大丈夫だが……これが原因で敵を呼び寄せちまったら意味がない。
 だから皆から少し距離をおくよ。ま、ジョンガリの野郎がそんなヘマするとは思えないけどな……』
『後衛は俺に任せな。花京院は俺達の中で一番強いんだから旦那を守ってくれよ』

……F・Fさんの意見は最もだがホル・ホースの意見はいい加減過ぎて呆れてしまう。
確かに僕のスタンドが一番強いのは甘んじて受け入れるが、単に押し付けたいだけだろう。
アヴドゥルさんは……おそらくジョースター卿の殺害をまだ諦めていないだろうからな。

背中を見せる事が出来ないハンデを差し引いても、彼の『魔術師の赤』の能力はあなどれない。
あのポルナレフを難なく追い詰めた灼熱の業火と、スタンド使いとしての豊富な経験は脅威だ。
その上、僕はあの人の戦いをこの目でほとんど見ていない。実質ポルナレフとの一戦くらいだろう。
『法皇の結界』も迂闊には張れない……結界ごと焼き払われしまいそうだ。

「ちょっといいだろうか花京院君」

! ふいに呼ばれた僕は振り返る。僕に声を掛けたのは当然ジョースター卿だ。
だが覇気が感じられない。すっかり憔悴してしまっている。ナランチャ君の一喝が相当応えているようだ。

「どうしましたかジョースター卿」
「……私は……ナランチャ君の心を……閉ざすような事を知らず知らずにやっていたのだろうか……」

なるほど、確かにあの時のナランチャ君の一変には僕も度肝を抜かれたが……当然アレは演技だろう。
ジョースター卿を守りきれなかった自分を戒める為に……
そして自分が傷つく姿を見てジョースター卿がこれ以上悩み苦しまないように……わざと悪態をついたのだ。

「……そんな事はありません。事実、彼の心を溶かしたのはあなたじゃあないですか。
 気にする事はありません。あれは彼なりの愛情表現だったと僕は思っていますよ?
 いずれ誤解が解ける時が来ます。僕たちは一刻も早く【E-5】を目指しましょう」
「う……む。そう、だな……」

余り褒められた行為ではないが……ナランチャ君の一喝は「別行動をとる」ことへの、卿の賛同を促す効果はあった。
ここは適度に安心感を与えておいたほうがいいだろう。
僕は最後に卿の顔に微笑みで返し、再び体をF・Fさんのいる方向に向けた。
そしてF・Fさんに声を掛けようとしたが――――


「やあ諸君、見つけたぞ……チッチッ♪」

*  *


「「「「モハメド・アヴドゥル! 」」」
「YES! I AM! チッチ♪」
『俺もつられてチッチ♪だねっ!』

親指を立てて手首を小刻みに横に振り、私は相手に余裕を見せ付ける。
花京院、ジョースター、ホル・ホース、あと1人は……確かF・Fとだったな。
ンン……作戦成功だ。無事に『あそこ』……ジョースター達のいる場所に辿り付けて(追いついたと言うべきか?)良かった。
奴らを探すこと自体はさほど問題はない。私には『魔術師の赤』が生み出す『炎の探知機』があるのだから。
何も知らない人間からすれば、『変な形の炎』にしか見えないだろう。だが侮ること無かれ。
生物は勿論スタンドにも対応! 上下前後左右に出現した炎が完全探知なのだッ!
あとは……【E-6】内をうろついて、奴らが適当な場所に現れるのを待つだけだった。
フフフ……花京院典明……私は君たちがホテルから出てきたのも最初から知っていたぞ?
何せあのイケメン発狂男に襲わせて、君達を【E-6】に誘導したのは私なんだからなぁ~。
アイツは実に扱いやすかったよ。
放送直後にいきなり襲い掛かってきたんで、ちょっと力の差を分からせてやったら簡単に言う事を聞いたぞ。
『頼む!来るなァ! 殺さないでくれぇ! 何でもするから助けてくれぇッ!』……とな。

「てめぇーふざけてんのかッ! 地面に仰向けになって姿を出すなんてよォーッ! 」

F・Fという奴が私に銃口を向ける。私との距離はおよそ7,8メートルはあるな。
一時はチープ・トリックの存在に気づき絶望していたこともあったが……。
諦めずに【E-6】へ移動し、エリア内を午前中に調査し尽くした介があったよ。
ここは過疎でもなく密集しているわけでもない住宅地……背中を見られないように戦闘が可能で、かつ炎が広がり易い。
つまり私のバトルフィールドにはもってこいなのだよ。
後はひたすらここで待ち伏せし……ここに迷いこんだ奴らは全員再起不能にすればいいのだッ!

「しょうがないさ。背中を見られたら私は終わりなんだからな……」
「ならここで終わりにしてやるぜェーッ! 」
「果たしてそうかな? 『魔術師の赤』ッ! 」

私は路地を挟んでいる住宅の外壁を、灼熱の炎でドロドロに溶かし素早く中へ侵入する。
その際に見えた奴らの表情は、私の行動に虚を突かれたように見えた。
良し、準備は整った……後は天に運を任せるのみだな。

*  *


「30秒たったぞナランチャ。被害がこっちに来るのは困るから俺のスタンドも解除した。思う存分やれ」
「良し……右を狙って撃てばいいんだなッ!? 」
「かなり狭い道だ……さすがに今度は奴も逃げ切れまい」
「ベネ(良し)! 行くぜオラァッ! 」

結局俺の状況は……変わらず終いか。
これでアヴドゥルは逃げ切れずに再起不能になり、ジョースター達も無事に逃亡を成功させるだろう。
少しづつ【E-5】に向かっていた俺たちも無事に奴らと合流。哀れな狙撃手ジョンガリ・Aは捕虜に逆戻り、か。

「ブッ放せェェェエアロスミスゥゥゥ!!!」

チッ……当初はエアロスミスを上手く利用して奴らに一杯食わせようとしてたんだがな。
肝心のナランチャが馬鹿で、かつ思ったより早くアヴドゥルを追い詰めてしまうとは……。
ロクに作戦を練る暇も無く終わっちまったぜ……これじゃ危険な賭けに乗ったナランチャ以下じゃあないか。

「やりィィーー手応えありだぜッ! この感覚は間違いねぇ……」

つくづく俺は恵まれないな……パートナーとの出会いに。

*  *


怪我は……肩と腕、腹をかすった程度か。
銃撃が終わった後も死んだ振りをしといて正解だったな。
アヴドゥルの野郎はもう行っちまったんだろうか……多分そうだよな。
いつまでもここにいたらジョンガリに探知されちまうしな。
ハァ……やっぱりあの2人に任せるんじゃなかったぜ。
何が『ここに残って……奴とドンパチしてやるぜッ!』だよ。俺達までドンパチしてどーすんだッ!
ジョンガリがわざとやったのかナランチャが天然でカマしたのかはわからねぇが……冗談じゃあねぇ。

「おい……皆大丈夫か」

ゆっくりと起き上がったF・Fが俺達に声をかける。
流石一番前にいただけにズタボロだ……ほとんどの被害を受けたみたいだな。
しかし本当に不死身の体だぜコイツは……奴の持ってるディバッグなんて完全に穴ボコなのによ。

「ぐ……う…………」

旦那も手を軽く振り挙げたが事切れちまった……いや気絶しただけか。
傷は……腹に一発、当たってるな……ってこれだけかよッ!?
スタンド使いじゃあないのにトコトンしぶてぇなぁ……。
ん? じゃあ旦那はどうやって弾丸の雨をしのぎ切ったんだ……………?
ああ……そうか……旦那と俺に行くはずだった弾丸を……代わりに庇った奴がいたってことだわな。

「花京院! しっかりしろォォォ花京院ンンンン!! 」



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94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① 花京院典明 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① ナランチャ・ギルガ 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① ホル・ホース 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① ジョージ・ジョースター1世 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① F・F 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① ジョンガリ・A 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① モハメド・アヴドゥル 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③
94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その① 噴上裕也 94:《UNLUCKY COMMUNICATIONS》 その③

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最終更新:2007年06月27日 06:18