『ゲーム』が始まってからおよそ半日。
日が昇りだしたにも関わらず未だ薄暗いある民家の中。そのリビングで私、エンリコ・プッチは荒木の放送を聴いていた。
ホテルでの戦いの後に“馬”と『巡り合い』、そして・・・これは手近なところを選んだだけだが、とにかく・・・家に入り、
そして傷を癒すために休息を取っていたのだ。さすがに、意識がいつ消えるかと言う状況、眠る訳にはいかなかったが――
出来るだけ動かず・・・全身の力を抜き足を投げ出し椅子にぐったりと倒れるように腰掛けて“糸”の力に回復の全てを委ねていた。
まったく、皮肉なものだ。まさかあの空条徐倫の精神―ストーン・フリー―と同じ“糸”に癒される事になるとは・・・
そんなことを考えていた矢先の放送だった。リビングのテレビが勝手に喋り始め、隣の寝室からはラジオだろうか・・・声も聞こえている。
驚きはなかった・・・しかし、この『天国への最後の試練』は生易しいものではなさそうだな。
あの荒木のスタンド能力も私の求める『天国』のような『完成』したひとつの『形』なのだろうか。
まぁ、内容や荒木に関しての考察は後にしよう・・・今は放送の全てを記録せねば。
手は未だ動かせる余裕はない。『ホワイトスネイク』にペンを持たせ、放送に聞き入る・・・・・・
荒木が、語り始めた―――

 *  *  *  *  *  *  *


―――ふむ、実に興味深い内容だったな。放送を聴き終えた私の感想は実に単純だった。
ジョースターが、ふたり、死んでいた。
スポーツ・マックスも死んでいたがもはや関係ない。荒木の事も、今考えるべきことではなくなった。重要なのは、ジョースターの事、そして、DIOの事。
この放送で呼ばれた2人のジョースターは私が知る空条の人間ではない。しかも、名前から考えるに・・・純粋な『ジョースターの一族』だろう。
先ほどあのDISCに映っていたジョジョと呼ばれていた子供はどちらの『ジョジョ』なのだろうか。あの父親は一体名簿にある、どのジョースターなのだろうか・・・
ふぅ。とため息をつく。あぁ、先程のあの男の記憶DISC・・・持って来ればよかったな。こうして休んでいる間、続きを読みたかったと何回も思っていた。
背後の気配を忘れるほど見入った記憶は今までにそう何度も出会うことはなかったし、『記憶』の方のDISCを集めることはしなかった。読むほどの価値のない者達ばかりだったから。
あの男はいつの時代の人間なのか・・・『ジョジョ』と、そして『ディオ』と呼ばれていた少年達・・・彼らはまだほんの12,3歳程にしか見えなかったが・・・
いや・・・DISCにこだわっていたらあの場で死んでいたか・・・?私はあの場で死ぬべき人間ではなかったのだ。DISCの事もあるが、優先するべきはやはり『天国』であり『DIO』なのだ。
ともかく過ぎてしまったことを今更考えていても仕方あるまい。そんな私個人の感情・・・いや、感傷という心の弱さが「敗北」につながり「天国」を目指せなくなる要因なのだ。
―――そう言えば、私は今までDIOの少年時代の話を聞いたことはなかったな。ふと頭にそんな事がよぎった。
DIOとは色々と話をした。最も弱いスタンドの話、魂の形を見ることの出来る芸術家たちの話・・・
スタンドの事、私の能力を引き出したあの“矢”の事。人と人との出会いについて。引力について・・・
しかし・・・DIOはあまり自分の事を話しに出してくることはなかった。
まぁ、DIOが話そうとしなかったし、私も自ら聞こうとはしなかったのだが。
私はDIOのために、そして天国にたどり着くためのわだかまりを排除しようと、ジョースターの血を絶やす、と・・・考えてはいた。
だが、ジョースターたちの事は考えたこともなかった。死んでいった『ジョジョ』達はどのようにして各々の誇りや勇気といった力を手にしてきたのか?
彼らの力は何と戦い、何を生んだのだろうか・・・?彼らの力の前に屈したもの達は何者なのか。このゲームにも参加しているのか・・・?
そこにはやはりDIO―否、ディオ・ブランドー・・・だったかな。あの男のDISCと話から推測する限りは―とにかく、“ディオ”が関わっていたのだろうか?どのように?
彼らにもやはり“痣”はあるのだろうか?DIOの首にもあの星型の“痣”があるが・・・あの肉体は誰のものなんだ・・・?
そこで私ははたと気が付く。友人の真の部分というものは別の誰かが教えてくれるものなのかもしれない。そして、それが新たな出会い・・・だが――
―――DIO、すまない。私は君の友人だが、本当は君の事を何も知らなかったようだ。
時を止めることもさることながら、君が自分の骨を体内から取り出し、謝罪の証として私にくれた時、君が人間でもスタンドでもない能力を持っていることを確信はしたが、
君が、いつ、どうやって『人間をやめ』たのか。星型の痣を持つ誰かの肉体をどこでどうやって手に入れたのか・・・
知りたい。もっと空条ではない『ジョースター』の事を。そして、DIOではない『ディオ・ブランドー』の事を・・・


―――とにかく、このまま考えていても埒が明かないな。DIO、君のもとへ行こう。私がこんな所でぐずぐずしている訳にはいかない。
私が求めていた天国はあくまでも『DIOが行き着くところ』だ。私はいなくなった君の意思を継いでいただけなのだから。
だから私はこのゲームの中、君に出会い、そして共に天国へ行き着くのだ。そうでありたい。だから、急がねばならない――
この傷も“馬”の力か、“神”のご意思か・・・完治とはいえないがどうにかなりそうだ。もう出血はしていない。
右足は・・・とりあえず形にはなっているな。歩くことは出来るか・・・?歩けなかった場合、そして車のない今、移動はどこまで出来るか・・・?
とにかく・・・今は全身の傷を確認しよう。この“糸”は抜糸出来るのだろうか・・・?傷口によってはもう塞がっているものもある。
ためしに糸に触れてみる。少し、ひっぱてみた。傷口は開かなかったが糸を縫った穴からの多少の出血がある・・・やはり、抜糸はやめておこう。この程度の事ならいつでも出来る。
そっと、立ち上がる。リビングの中を2,3歩、ゆっくりと歩く。どうやら、歩けるみたいだ。しかし・・・さすがには走ることは出来なさそうだな。
支給されたパンを水で流し込む。もうこの家に帰ってくることはない。しかし、私が偶然この家に入ったこともひとつの『巡り合わせ』であり『運命』なのだ。
その一つ一つの小さな運命を手繰り寄せ、天国へと向かうのだ。そう考え、家を出る前にゆっくりと深呼吸をする。
デイバッグは・・・もう、必要ないな。私のこの体じゃあ持っていたところで役に立ちはしないだろう。むしろ邪魔だと言っていい。
残ったパンも、水さえも・・・栄養は今十分に摂取した。そして、今の私の体調―自分のスタンドが自分のものでないような奇妙な感触―ではこれ以上の食事はまともに摂る事は出来ないだろう。
残った糸だけ懐に収め、手ぶらで玄関に向かう。足音は右耳からしか聞こえてこない。さすがに、いくら休んでも破れた鼓膜は元には戻らないな。いくらこの“糸”でも耳の中までは縫うことは叶わない。
やや日光の差し始めた廊下を通り過ぎ、玄関の前で立ち止まる。
そっと目を瞑った。もちろんドアを開けたところに敵がいることを警戒するためでもあったが、少しの間、もう一度考えを整理する。その集中のために―――
「2・・・3・・・5・・・7・・・」
2桁までの素数なら考えずとも浮かんでくるが・・・ゆっくりと、確実に、口に出して素数を数え始める。
「11・・・13・・・17・・・19・・・」
首筋に―――痣に―――手を当てる。
「23・・・29・・・31・・・」
動いているもの。止まっているもの。どこか、誰か、までは分からないが・・・
明らかにこの肉体、DIOと融合したこの体が――他の“痣”の持ち主の肉体と共鳴している事がはっきりと分かる。
「37・・・41・・・43・・・」
太陽が昇り始めている。DIOは、きっと、どこかの家にいるのだろう。この日光の元、彼は動けず・・・動かずに私の事を待っているのだ。
「47・・・53・・」
見当が付かないから手当たり次第、と言うのは私のするようなことではない、それこそ空条徐倫がやりそうなことだが・・・
まあいいだろう。文句も愚痴も言っていられない。全てはDIOの元へ、『天国』へ、向かうために―――
「・・・とにかく、出てみよう。ここから一番近い感じがする『止まっている痣』は・・・」

―――南。


【市街地(D-5 エリア中央から南よりの民家)/1日目・朝】
【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイトスネイク』
[時間軸]:刑務所から宇宙センターに向かう途中
[状態]:ホワイトスネイクの暴走状態:左耳鼓膜破裂、歩けるが走れない程度の負傷。疲労はない。
[装備]:無し
[道具]:僅かのゾンビ馬(一つの怪我が治せる程度)のみ
[思考・状況]:
1)目指すは南。 戦いは(自分の状態から)出来るだけ避けたい。
2)DIOに会いたい。そして、ディオ・ブランドーと話がしてみたい。(強い好奇心)
3)ジョースター家の抹殺。しかし、彼らの事を知りたいとも思う。(こちらはあくまでも興味程度)
4)天国への道を探し出す。DIOを天国に連れて行き、そこに自分もついていく。

※プッチ神父が南と感じた反応は承太郎です。この話の時間は60話「スタープラチナは止まらない」とほぼ同時なのでまだ承太郎は動いていません。
 南への歩くルートは地図上のシンデレラ東側を迂回するように行く予定です。
 D-5 エリア中央から南よりの民家内にプッチのデイバッグ(ワイヤー、食料他の支給品)があります。

投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

34:帝王の『引力』 エンリコ・プッチ神父 71:奪われたスタンド

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年04月21日 11:53