ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2661 ヒヨドリの幸せ 上
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ankoss
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『ヒヨドリの幸せ 上』 26KB
制裁 日常模様 飼いゆ 現代 愛護人間 上編です
制裁 日常模様 飼いゆ 現代 愛護人間 上編です
※※CAUTION※※
読後感の良さは保証しかねます
読後感の良さは保証しかねます
ヒヨドリの幸せ 上
「あー、クソ疲れた」
仕事から帰った俺は、こきりと一つ肩を鳴らして階段を上り、晩秋の日差しに目を
細めながら、アパートの二階にある自宅の鍵を開けた。
俺の住んでいる安アパートは、ペット、ゆっくり可な事が唯一の取り柄だ。
駅は遠いし最寄りのコンビニまで徒歩20分。壁はある程度しっかりしてるけれど、
真向かいにビルがあるせいで、日当たりも悪い。でも、良いのだ。
ネクタイを外しながら、玄関の扉を開けた。そう、このアパートはペット、ゆっくり可。
飼いゆっくりのれいむを溺愛している、独身で一人暮らしの俺にとって、れいむを飼える
というのが家選びの唯一絶対の基準。他なんてどうとでもなる。だから、俺にとってこの
アパートは、たまらなく魅力的な素晴らしい物件なのだった。
「ただいま、れいむ」
奥の部屋にいるはずのれいむに向かって声をかけてから、スーツを脱ぐ。
しかし、何かが変だ。いつもなら、俺が扉を開ければすぐに玄関までやってきて
俺に飛びついてくるはずなのに、今日はおかえりの言葉も無い。
寝ているのか?そう思いながら部屋に入ると、れいむはそこに居た。
畳敷きの部屋の真ん中で、れいむが俺に背を向けている。夕陽に照らされたその後ろ姿は、
俺がこれまで見た事の無い雰囲気を纏っていた。
どこか侵しがたいような、張り詰めた空気。それは俺には、とても嫌な物に見えた。
おかしい。何かがおかしい。俺はもう一度れいむに声をかけた。
「れい・・・・・・む?」
「あ・・・・・・。おかえりなさい、おにいさん」
今俺に気付いた、という風にれいむが振り返り、俺に向かって微笑んでくれた。でも、
その笑顔は、いつもとは全然違った。いつもはこんな、内心を押し隠そうとするような
悲しそうな笑い方はしない。昨日まではもっと、天真爛漫に、「ゆっくりとした」笑顔を
浮かべていたはずだ。
「なぁ、れいむ。どうしたんだ?どこか具合が悪いのか?心配ごとでもあるのか?」
俺はれいむの前に回り、れいむの瞳を覗きこんだ。いつもニコニコと幸せそうに笑っていた
はずのその瞳は、今日は物憂げに伏せられている。
「あ、そうか!何処か怪我をしたのか?」
赤ゆっくりの頃から飼っているれいむは、やっと成体サイズに成長したばかり。
昨日はそのお祝いに、これまで室内飼いだったれいむを、初めて公園に連れて行って
やり、思い切り跳ねまわらせてやったのだ。
「うぅん・・・・・・。ちがうよおにいさん。れいむ、べつにけがなんてしてないよ」
そう言ってれいむは、ころんと腹を見せて転がり、あんよを俺に見せてくれる。
確かにそこに、傷なんてついていない。いつも通りぴかぴかのあんよだった。
「じゃあ、どうしたって言うんだ・・・・・・?何でそんなに悲しそうな顔をしてるんだよれいむ。
お前がそんな顔してたら、俺の方が悲しくなっちまうよ」
「あ、ごめんねおにいさん。れいむがゆっくりしてないとおにいさんもゆっくりできないよね」
転がったまま、れいむが困ったように笑う。俺をゆっくりさせてくれようとしているのだろうが、
そのいかにも無理をして浮かべた笑みは、かえって俺の心を抉った。
「本当、どうしたんだよれいむ。何があったんだよ」
俺はれいむを抱え上げ、正面からその眼を見つめた。
「何かあったんなら、言ってくれよ。寂しかったのか?それとも俺が何かやっちゃったか?
飯が不味かったのか?あ、それとも逆にお前が何か悪い事したとかか?何か物を
壊したとか。大丈夫。そんなので俺は怒らないよ」
怒涛のように口をついて出る言葉の奔流。れいむはしばらく黙って俺の言葉を聞きながら、
何か言いたげにしては口をつぐむ、という事をくり返していたが、決意したように
俺の眼を見つめると、縋るように話し始めた。
「おにいさん」
「何だ?」
「あのね、おねがいがあるの」
「何でも言ってくれ」
「いいの?」
「れいむが笑ってくれるなら、俺は何でもしてやるよ」
「ありがとう、おにいさん」
れいむは泣き笑いのような表情を浮かべると、
「おさんぽにつれていって」
そう言った。
仕事から帰った俺は、こきりと一つ肩を鳴らして階段を上り、晩秋の日差しに目を
細めながら、アパートの二階にある自宅の鍵を開けた。
俺の住んでいる安アパートは、ペット、ゆっくり可な事が唯一の取り柄だ。
駅は遠いし最寄りのコンビニまで徒歩20分。壁はある程度しっかりしてるけれど、
真向かいにビルがあるせいで、日当たりも悪い。でも、良いのだ。
ネクタイを外しながら、玄関の扉を開けた。そう、このアパートはペット、ゆっくり可。
飼いゆっくりのれいむを溺愛している、独身で一人暮らしの俺にとって、れいむを飼える
というのが家選びの唯一絶対の基準。他なんてどうとでもなる。だから、俺にとってこの
アパートは、たまらなく魅力的な素晴らしい物件なのだった。
「ただいま、れいむ」
奥の部屋にいるはずのれいむに向かって声をかけてから、スーツを脱ぐ。
しかし、何かが変だ。いつもなら、俺が扉を開ければすぐに玄関までやってきて
俺に飛びついてくるはずなのに、今日はおかえりの言葉も無い。
寝ているのか?そう思いながら部屋に入ると、れいむはそこに居た。
畳敷きの部屋の真ん中で、れいむが俺に背を向けている。夕陽に照らされたその後ろ姿は、
俺がこれまで見た事の無い雰囲気を纏っていた。
どこか侵しがたいような、張り詰めた空気。それは俺には、とても嫌な物に見えた。
おかしい。何かがおかしい。俺はもう一度れいむに声をかけた。
「れい・・・・・・む?」
「あ・・・・・・。おかえりなさい、おにいさん」
今俺に気付いた、という風にれいむが振り返り、俺に向かって微笑んでくれた。でも、
その笑顔は、いつもとは全然違った。いつもはこんな、内心を押し隠そうとするような
悲しそうな笑い方はしない。昨日まではもっと、天真爛漫に、「ゆっくりとした」笑顔を
浮かべていたはずだ。
「なぁ、れいむ。どうしたんだ?どこか具合が悪いのか?心配ごとでもあるのか?」
俺はれいむの前に回り、れいむの瞳を覗きこんだ。いつもニコニコと幸せそうに笑っていた
はずのその瞳は、今日は物憂げに伏せられている。
「あ、そうか!何処か怪我をしたのか?」
赤ゆっくりの頃から飼っているれいむは、やっと成体サイズに成長したばかり。
昨日はそのお祝いに、これまで室内飼いだったれいむを、初めて公園に連れて行って
やり、思い切り跳ねまわらせてやったのだ。
「うぅん・・・・・・。ちがうよおにいさん。れいむ、べつにけがなんてしてないよ」
そう言ってれいむは、ころんと腹を見せて転がり、あんよを俺に見せてくれる。
確かにそこに、傷なんてついていない。いつも通りぴかぴかのあんよだった。
「じゃあ、どうしたって言うんだ・・・・・・?何でそんなに悲しそうな顔をしてるんだよれいむ。
お前がそんな顔してたら、俺の方が悲しくなっちまうよ」
「あ、ごめんねおにいさん。れいむがゆっくりしてないとおにいさんもゆっくりできないよね」
転がったまま、れいむが困ったように笑う。俺をゆっくりさせてくれようとしているのだろうが、
そのいかにも無理をして浮かべた笑みは、かえって俺の心を抉った。
「本当、どうしたんだよれいむ。何があったんだよ」
俺はれいむを抱え上げ、正面からその眼を見つめた。
「何かあったんなら、言ってくれよ。寂しかったのか?それとも俺が何かやっちゃったか?
飯が不味かったのか?あ、それとも逆にお前が何か悪い事したとかか?何か物を
壊したとか。大丈夫。そんなので俺は怒らないよ」
怒涛のように口をついて出る言葉の奔流。れいむはしばらく黙って俺の言葉を聞きながら、
何か言いたげにしては口をつぐむ、という事をくり返していたが、決意したように
俺の眼を見つめると、縋るように話し始めた。
「おにいさん」
「何だ?」
「あのね、おねがいがあるの」
「何でも言ってくれ」
「いいの?」
「れいむが笑ってくれるなら、俺は何でもしてやるよ」
「ありがとう、おにいさん」
れいむは泣き笑いのような表情を浮かべると、
「おさんぽにつれていって」
そう言った。
れいむは昨日行った自然公園に行きたいらしい。もうすぐ日も落ちてしまう時間であるし、
ゆっくりの足で公園まで往復するのは時間がかかりすぎる。なので、俺は普段着に着替え、
れいむを自転車の前かごに乗せて、公園まで移動することにした。
「何だよれいむ。公園ぐらい、言えばいつでも連れていってやるのに。本当にお前は
良い子だなぁ。もっと我儘言ってくれてもいいんだぜ?」
上機嫌に自転車を漕ぎながら、俺はれいむに話しかける。公園に行きたいなんて
些細な要求を言い出せないなんて、れいむは本当に優しくて可愛い。
「~~~っ~」
れいむが何か言った気がした。しかし、前籠に乗っているれいむの表情は見えないし、
自分より前に居る人間が前を向いて喋る声というのは、そもそも聞きとり辛い。れいむが
言った言葉が、俺にはよく聞き取れなかった。しかし、その声は心なしか沈んでいた
ように思える。
今日、れいむの様子が違ったのは、我儘を言いだせなかったからじゃないのか・・・・・・?
れいむにもう一度声をかけようとして、一瞬前方への注意が逸れた瞬間。自転車の前に
何かが飛び出してきた。
「うわっ危ねぇ!!」
俺は慌ててハンドルを切り、飛び出してきたソレ・・・・・・野良ゆっくりを回避しようとする。
急にハンドルを切った自転車は急停止する。しかし自転車は長く、野良ゆっくりが一跳ね
する距離は、意外と長かった。
「ゆひいいいいぃぃぃぃぃ!!!いぢゃいいいぃぃぃぃ!!」
べちん、と前輪にぶつかった野良ゆっくりのまりさはべちゃりと地面に貼りつき、
しーしーをだだ漏れにして、情けない声で泣きはじめた。
「飛び出してくんな馬鹿!」
俺はまりさを怒鳴りつけると、自転車のハンドルを真っ直ぐに戻し、走り始めた。
ここらへん、野良ゆっくり増えたよな・・・・・・。
ペダルを漕ぎながら考えていると、またしても、前かられいむの声がしたような気がした。
「よしよし、怖かったか?どこかぶつけちゃったか?ごめんな、もうすぐ着くからな」
さっき急停止した事についてだろう。そう考えて、俺は左手で前籠の中に居るれいむの
頭を撫でてやった。
あと数分で、公園に到着するだろう。
ゆっくりの足で公園まで往復するのは時間がかかりすぎる。なので、俺は普段着に着替え、
れいむを自転車の前かごに乗せて、公園まで移動することにした。
「何だよれいむ。公園ぐらい、言えばいつでも連れていってやるのに。本当にお前は
良い子だなぁ。もっと我儘言ってくれてもいいんだぜ?」
上機嫌に自転車を漕ぎながら、俺はれいむに話しかける。公園に行きたいなんて
些細な要求を言い出せないなんて、れいむは本当に優しくて可愛い。
「~~~っ~」
れいむが何か言った気がした。しかし、前籠に乗っているれいむの表情は見えないし、
自分より前に居る人間が前を向いて喋る声というのは、そもそも聞きとり辛い。れいむが
言った言葉が、俺にはよく聞き取れなかった。しかし、その声は心なしか沈んでいた
ように思える。
今日、れいむの様子が違ったのは、我儘を言いだせなかったからじゃないのか・・・・・・?
れいむにもう一度声をかけようとして、一瞬前方への注意が逸れた瞬間。自転車の前に
何かが飛び出してきた。
「うわっ危ねぇ!!」
俺は慌ててハンドルを切り、飛び出してきたソレ・・・・・・野良ゆっくりを回避しようとする。
急にハンドルを切った自転車は急停止する。しかし自転車は長く、野良ゆっくりが一跳ね
する距離は、意外と長かった。
「ゆひいいいいぃぃぃぃぃ!!!いぢゃいいいぃぃぃぃ!!」
べちん、と前輪にぶつかった野良ゆっくりのまりさはべちゃりと地面に貼りつき、
しーしーをだだ漏れにして、情けない声で泣きはじめた。
「飛び出してくんな馬鹿!」
俺はまりさを怒鳴りつけると、自転車のハンドルを真っ直ぐに戻し、走り始めた。
ここらへん、野良ゆっくり増えたよな・・・・・・。
ペダルを漕ぎながら考えていると、またしても、前かられいむの声がしたような気がした。
「よしよし、怖かったか?どこかぶつけちゃったか?ごめんな、もうすぐ着くからな」
さっき急停止した事についてだろう。そう考えて、俺は左手で前籠の中に居るれいむの
頭を撫でてやった。
あと数分で、公園に到着するだろう。
「おにいさん、さっきのまりさはだいじょうぶだった?」
公園に着いて前かごかられいむを降ろしてやった後。れいむが一番最初に俺に言った言葉
はそれだった。
「あぁ、良く見て無かったけど、前輪にぶつかっただけだし、大した怪我はしてないだろ」
俺はれいむを安心させるように言ってやる。
「見ず知らずの野良を気にしてやるなんて、れいむは優しいな」
「ちがうよ・・・・・・」
れいむがうつむき、何かを呟く。その言葉は小さくて、俺には聞き取れなかった。
「れいむ?」
やはり、まだ様子がおかしい。問い詰めようとした時、れいむが顔を上げて言った。
「なんでもないよ・・・・・・。おにいさん、おさんぽしようね」
その顔は、楽しく遊ぼうとするような、そんな顔じゃなかった。
大きな自然公園を、れいむと一緒にぶらぶらと歩く。
れいむはきょろきょろと周りを見渡しながら、ゆっくりと歩いている。釣られて俺も周りを
見渡すと、そこには前だけを見て歩いている時には気付かない、様々な物や、動物、
そして、たくさんのゆっくりがいた。
日が落ちる寸前の薄暗闇。その至る所に、溶けるように、リボンの赤や金髪が紛れ、
蠢いていた。
足元を見下ろすと、そこには俺の飼いゆっくりのれいむがいる。真紅に白抜きの入った
リボンが、薄暗い中でもばっちりと映え、存在感を主張している。
しかし、れいむのように人間に庇護されない野良ゆっくりに、装飾品を綺麗に保っておく
術などは無い。薄汚れ、くすんだリボンや髪は、俺の目に野良ゆっくりたちを、背景と半ば
一体化した、曖昧な物に見せていた。それはあたかも、来る夜に飲み込まれ、
噛み砕かれたかのように。
何故野良ゆっくりというのは、あんなに惨めに見えるんだろう。猫やカラスのように、
街に生きる動物はたくさんいて、そいつらの事を見ても、「惨めだ」なんて思わないのに。
つらつらと考えながら歩いていると、れいむが話しかけてきた。
「ねぇ、おにいさん」
「ん?」
「れいむたちのまわりにいっぱいゆっくりがいるの、わかる?」
「あぁ、野良のゆっくりがいっぱいいるな」
「みんなぜんぜんゆっくりしてないよ」
「そうだな。あいつら汚ねーしな。野良ゆっくりは食べもの集めるのも大変らしいし、
ゆっくりはしてないかもな。でも、野良ゆっくりが増えたら街が汚くなるし」
「どぼじでぞんなごどいうの!?」
俺の台詞を遮って、れいむが叫んだ。驚いてれいむを見ると、れいむは俺を、
涙を溜めた眼で見上げ・・・・・・いや、睨みつけていた。
「おんなじゆっくりなんだよ!?れいむとほかのゆっぐりとなにがちがうの!?
どうじでれいむはゆっくりしてるのに、ほかのゆっくりはゆっくりできないの!?」
叫び終わると、れいむは言いすぎた、という風に口をつぐみ、
「ご、ごめんね・・・・・・。おにいさんにおこってるんじゃないんだよ、ごめんね」
そう言って、申し訳なさそうに謝ってきた。
公園に着いて前かごかられいむを降ろしてやった後。れいむが一番最初に俺に言った言葉
はそれだった。
「あぁ、良く見て無かったけど、前輪にぶつかっただけだし、大した怪我はしてないだろ」
俺はれいむを安心させるように言ってやる。
「見ず知らずの野良を気にしてやるなんて、れいむは優しいな」
「ちがうよ・・・・・・」
れいむがうつむき、何かを呟く。その言葉は小さくて、俺には聞き取れなかった。
「れいむ?」
やはり、まだ様子がおかしい。問い詰めようとした時、れいむが顔を上げて言った。
「なんでもないよ・・・・・・。おにいさん、おさんぽしようね」
その顔は、楽しく遊ぼうとするような、そんな顔じゃなかった。
大きな自然公園を、れいむと一緒にぶらぶらと歩く。
れいむはきょろきょろと周りを見渡しながら、ゆっくりと歩いている。釣られて俺も周りを
見渡すと、そこには前だけを見て歩いている時には気付かない、様々な物や、動物、
そして、たくさんのゆっくりがいた。
日が落ちる寸前の薄暗闇。その至る所に、溶けるように、リボンの赤や金髪が紛れ、
蠢いていた。
足元を見下ろすと、そこには俺の飼いゆっくりのれいむがいる。真紅に白抜きの入った
リボンが、薄暗い中でもばっちりと映え、存在感を主張している。
しかし、れいむのように人間に庇護されない野良ゆっくりに、装飾品を綺麗に保っておく
術などは無い。薄汚れ、くすんだリボンや髪は、俺の目に野良ゆっくりたちを、背景と半ば
一体化した、曖昧な物に見せていた。それはあたかも、来る夜に飲み込まれ、
噛み砕かれたかのように。
何故野良ゆっくりというのは、あんなに惨めに見えるんだろう。猫やカラスのように、
街に生きる動物はたくさんいて、そいつらの事を見ても、「惨めだ」なんて思わないのに。
つらつらと考えながら歩いていると、れいむが話しかけてきた。
「ねぇ、おにいさん」
「ん?」
「れいむたちのまわりにいっぱいゆっくりがいるの、わかる?」
「あぁ、野良のゆっくりがいっぱいいるな」
「みんなぜんぜんゆっくりしてないよ」
「そうだな。あいつら汚ねーしな。野良ゆっくりは食べもの集めるのも大変らしいし、
ゆっくりはしてないかもな。でも、野良ゆっくりが増えたら街が汚くなるし」
「どぼじでぞんなごどいうの!?」
俺の台詞を遮って、れいむが叫んだ。驚いてれいむを見ると、れいむは俺を、
涙を溜めた眼で見上げ・・・・・・いや、睨みつけていた。
「おんなじゆっくりなんだよ!?れいむとほかのゆっぐりとなにがちがうの!?
どうじでれいむはゆっくりしてるのに、ほかのゆっくりはゆっくりできないの!?」
叫び終わると、れいむは言いすぎた、という風に口をつぐみ、
「ご、ごめんね・・・・・・。おにいさんにおこってるんじゃないんだよ、ごめんね」
そう言って、申し訳なさそうに謝ってきた。
これか。れいむの憂鬱の原因は、これなのか。
昨日の散歩。れいむはそこで、野良ゆっくりを初めて見たんだろう。そして、その
「ゆっくりしていなさ」に衝撃を受けた。そりゃぁ、俺たち人間にとっては野良のゆっくりが
地面を這いずっているのは見慣れた光景だし、気に留めるような事でもない。
でも、れいむにとっては。優しいれいむには、自分と同じゆっくりが、自分と全く違う、
極めて過酷な場所に生きている事が、ショックだったんだ。
まずい。この流れはまずい。何でも良い、何か言わないと。そう思って喋ろうとするが、
言葉が出てこない。
「あのな、れいむ」
「おにいさん!」
捻りだそうとした言葉の先を、れいむに遮られた。
「ゆっくりできないゆっくりたちを、たすけてあげてほしいよ!!」
言われてしまった。あぁ、クソ。
れいむの言う「助ける」というのがどの程度までを指すのかは分からない。しかし、
れいむが見ている範囲の野良ゆっくりたちを、れいむから見て「ゆっくりできる」ように
してやるなんて、およそ現実的じゃない。どれだけの手間暇がかかると思ってるんだ?
そんなことは不可能だし、もし可能だとしても、正直に言って、そんなことしたくもない。
潤んだ瞳で哀願して来るれいむ。その真摯な瞳に見つめられて、心がズキリと痛む。
しかし、れいむには悪いが、その願いを聞いてやる事はできない。
「えぇと・・・・・・、あのなれいむ。そうだ、何かあまあま食うか?買ってやるよ」
何とか丸めこまなくては。そう思った俺は、舌が肥えるのでめったに食わせない
あまあまをダシにして、れいむの興味を逸らそうとした。
「のらゆっくりは、あまあまをたべられるの?」
駄目だった。れいむは悲しそうな、そして必死な眼で縋るように俺を見ている。
「おにいさん、おねがいだよ。みんながゆっくりできないと、れいむもゆっくりできないよ。
おにいさんはみんなをたすけてあげられるでしょ?」
俺の足に体をすりつけながら、れいむは俺を見上げる。あぁ、これは真面目に答えないと
まずいんだな。遅まきながらそう思った俺は、無言でれいむを持ちあげ、近くのベンチに
座った。膝の上にれいむを抱え、眼を覗きこんで喋りはじめた。
「なぁれいむ。お前は飼いゆっくり、人間に護ってもらえるゆっくりなんだ。その、
何と言うかな、あいつらとは違うんだよ」
「じゃあ、みんなを『かいゆっくり』にしてあげてほしいよ」
「そんなの無理だ。俺にはれいむしか飼えないんだ。分かってくれよ」
「どうして?れいむとみんなと、なにがちがうの?おんなじゆっくりなんだよ」
そうだ。れいむの言うとおりだ。野良猫と飼い猫は、両方猫だ。しかし・・・・・・
「あのな、れいむ。確かにお前と他のゆっくりは同じかもしれない。でも、ひとつだけ
違う事がある。それは運だ。ゆっくりが幸せになれるかどうかは、最初から決まって
いる。お前はそれに選ばれたんだ」
「じゃあ、れいむはみんなに『うん』をわけてあげるよ!れいむだけがしあわせー!に
なるのはずるいよ!ひとりじめはゆっくりできないんだよ!?」
優しい優しい俺のれいむ。お前は偉いな。でも、それは。
「あのな、れいむ。お前が持っている運っていうのは、『俺にしあわせーにしてもらえる』
っていうものだ。幸せを与えるのは、俺の役目なんだ。だから、言い変えよう。
俺は、お前が言うようにたくさんのゆっくりを飼う・・・・・・幸せにする力は無い。
たった一匹、お前だけを幸せにするのがせいぜいなんだよ。だから、お前が
しあわせーになる事は出来るが、他の奴にその幸せを分けてやる事はできない。
そう言う事なんだよ。な?分かってくれ」
「おにいさん・・・・・・」
包み隠さず、正直に言った。れいむにはそんなつもりは毛頭ないんだろうが、
正直、無能をなじられたような、そんな嫌な気分だった。でも、仕方が無いのだ。
「わかったよ、おにいさん」
俺の言葉を聞いたれいむが、俺を見上げる。
「おにいさんがれいむだけをしあわせー!にしてくれるなら、それなら」
決意を込めた瞳で俺を見つめる。
「れいむがみんなをしあわせー!にするよ」
曇りのない瞳で、れいむはそう言い切った。
昨日の散歩。れいむはそこで、野良ゆっくりを初めて見たんだろう。そして、その
「ゆっくりしていなさ」に衝撃を受けた。そりゃぁ、俺たち人間にとっては野良のゆっくりが
地面を這いずっているのは見慣れた光景だし、気に留めるような事でもない。
でも、れいむにとっては。優しいれいむには、自分と同じゆっくりが、自分と全く違う、
極めて過酷な場所に生きている事が、ショックだったんだ。
まずい。この流れはまずい。何でも良い、何か言わないと。そう思って喋ろうとするが、
言葉が出てこない。
「あのな、れいむ」
「おにいさん!」
捻りだそうとした言葉の先を、れいむに遮られた。
「ゆっくりできないゆっくりたちを、たすけてあげてほしいよ!!」
言われてしまった。あぁ、クソ。
れいむの言う「助ける」というのがどの程度までを指すのかは分からない。しかし、
れいむが見ている範囲の野良ゆっくりたちを、れいむから見て「ゆっくりできる」ように
してやるなんて、およそ現実的じゃない。どれだけの手間暇がかかると思ってるんだ?
そんなことは不可能だし、もし可能だとしても、正直に言って、そんなことしたくもない。
潤んだ瞳で哀願して来るれいむ。その真摯な瞳に見つめられて、心がズキリと痛む。
しかし、れいむには悪いが、その願いを聞いてやる事はできない。
「えぇと・・・・・・、あのなれいむ。そうだ、何かあまあま食うか?買ってやるよ」
何とか丸めこまなくては。そう思った俺は、舌が肥えるのでめったに食わせない
あまあまをダシにして、れいむの興味を逸らそうとした。
「のらゆっくりは、あまあまをたべられるの?」
駄目だった。れいむは悲しそうな、そして必死な眼で縋るように俺を見ている。
「おにいさん、おねがいだよ。みんながゆっくりできないと、れいむもゆっくりできないよ。
おにいさんはみんなをたすけてあげられるでしょ?」
俺の足に体をすりつけながら、れいむは俺を見上げる。あぁ、これは真面目に答えないと
まずいんだな。遅まきながらそう思った俺は、無言でれいむを持ちあげ、近くのベンチに
座った。膝の上にれいむを抱え、眼を覗きこんで喋りはじめた。
「なぁれいむ。お前は飼いゆっくり、人間に護ってもらえるゆっくりなんだ。その、
何と言うかな、あいつらとは違うんだよ」
「じゃあ、みんなを『かいゆっくり』にしてあげてほしいよ」
「そんなの無理だ。俺にはれいむしか飼えないんだ。分かってくれよ」
「どうして?れいむとみんなと、なにがちがうの?おんなじゆっくりなんだよ」
そうだ。れいむの言うとおりだ。野良猫と飼い猫は、両方猫だ。しかし・・・・・・
「あのな、れいむ。確かにお前と他のゆっくりは同じかもしれない。でも、ひとつだけ
違う事がある。それは運だ。ゆっくりが幸せになれるかどうかは、最初から決まって
いる。お前はそれに選ばれたんだ」
「じゃあ、れいむはみんなに『うん』をわけてあげるよ!れいむだけがしあわせー!に
なるのはずるいよ!ひとりじめはゆっくりできないんだよ!?」
優しい優しい俺のれいむ。お前は偉いな。でも、それは。
「あのな、れいむ。お前が持っている運っていうのは、『俺にしあわせーにしてもらえる』
っていうものだ。幸せを与えるのは、俺の役目なんだ。だから、言い変えよう。
俺は、お前が言うようにたくさんのゆっくりを飼う・・・・・・幸せにする力は無い。
たった一匹、お前だけを幸せにするのがせいぜいなんだよ。だから、お前が
しあわせーになる事は出来るが、他の奴にその幸せを分けてやる事はできない。
そう言う事なんだよ。な?分かってくれ」
「おにいさん・・・・・・」
包み隠さず、正直に言った。れいむにはそんなつもりは毛頭ないんだろうが、
正直、無能をなじられたような、そんな嫌な気分だった。でも、仕方が無いのだ。
「わかったよ、おにいさん」
俺の言葉を聞いたれいむが、俺を見上げる。
「おにいさんがれいむだけをしあわせー!にしてくれるなら、それなら」
決意を込めた瞳で俺を見つめる。
「れいむがみんなをしあわせー!にするよ」
曇りのない瞳で、れいむはそう言い切った。
「どう・・・・・・いうことだ?れいむ」
「れいむはほかのゆっくりをしあわせー!にしてあげるよ。れいむがんばるよ!!」
「いや、だって、お前は俺の飼いゆっくりで・・・・・・」
「かいゆっくりだったら、なんでだめなの?」
その台詞に答える言葉を、俺は持っていなかった。
お前は俺の飼いゆっくりなのだから、俺と一緒に居て、俺のことだけを
考えていればいい。頭に浮かんだその考えのあまりの醜悪さに、吐き気がした。
「ねぇ、おにいさん。それならいいでしょ?れいむはこのこうえんさんでくらしたいよ。
こうえんさんで、みんながしあわせー!になれるように、みんなをたすけてあげたいんだよ」
「・・・・・・俺は、どうなる?」
口からついて出た言葉は、何とも情けないものだった。
「お前がいなくなったら、俺はどうなるんだ?お前がいないと俺はゆっくりできないぜ?
それでいいのか?それに、野良と一緒に生活したら、野良を助けてやることなんて出来ない
に決まってるだろ。お前、自分がどれだけ優秀なつもりなのか知らないけど、お前一匹が
自分の食い扶持抜いて採って来られる餌だけで、野良ゆっくりが幸せになるんなら、
野良はあんなに惨めな生活をしてねぇよ。なぁ、どうするつもりなんだよれいむ。考え直せよ」
「でも、でも、れいむにはがまんできないんだよ!れいむだけがゆっくりするなんて、
ゆっくりできないいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ぽろぽろと涙を零し始めたれいむ。正直、泣きたいのはこっちだ。
これ以上ここに居てはいけない。俺は泣き続けるれいむを抱え上げると、自転車置き場
にダッシュし、れいむを前かごに詰め込んだ。
「家に帰ろう。な?家に帰って、そこで考えよう」
半分以上、自分に言い聞かせている言葉だ。俺はれいむが何か言ってくるのを無視して
自転車のペダルを踏み込んだ。
「れいむはほかのゆっくりをしあわせー!にしてあげるよ。れいむがんばるよ!!」
「いや、だって、お前は俺の飼いゆっくりで・・・・・・」
「かいゆっくりだったら、なんでだめなの?」
その台詞に答える言葉を、俺は持っていなかった。
お前は俺の飼いゆっくりなのだから、俺と一緒に居て、俺のことだけを
考えていればいい。頭に浮かんだその考えのあまりの醜悪さに、吐き気がした。
「ねぇ、おにいさん。それならいいでしょ?れいむはこのこうえんさんでくらしたいよ。
こうえんさんで、みんながしあわせー!になれるように、みんなをたすけてあげたいんだよ」
「・・・・・・俺は、どうなる?」
口からついて出た言葉は、何とも情けないものだった。
「お前がいなくなったら、俺はどうなるんだ?お前がいないと俺はゆっくりできないぜ?
それでいいのか?それに、野良と一緒に生活したら、野良を助けてやることなんて出来ない
に決まってるだろ。お前、自分がどれだけ優秀なつもりなのか知らないけど、お前一匹が
自分の食い扶持抜いて採って来られる餌だけで、野良ゆっくりが幸せになるんなら、
野良はあんなに惨めな生活をしてねぇよ。なぁ、どうするつもりなんだよれいむ。考え直せよ」
「でも、でも、れいむにはがまんできないんだよ!れいむだけがゆっくりするなんて、
ゆっくりできないいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ぽろぽろと涙を零し始めたれいむ。正直、泣きたいのはこっちだ。
これ以上ここに居てはいけない。俺は泣き続けるれいむを抱え上げると、自転車置き場
にダッシュし、れいむを前かごに詰め込んだ。
「家に帰ろう。な?家に帰って、そこで考えよう」
半分以上、自分に言い聞かせている言葉だ。俺はれいむが何か言ってくるのを無視して
自転車のペダルを踏み込んだ。
料理をする気にはとてもならなかったので、晩飯はカップラーメンで済ませた。
れいむの前には、いつも通りのゆっくり用ペットフードが置かれているが、俺が食事を
している間、れいむはそれに一度も口を付けなかった。
「・・・・・・おにいさん、のらゆっくりは、なにをむーしゃむーしゃしてるの?」
ぼんやりと平皿に盛られたペットフードを見つめながら、れいむが言う。
「・・・・・・お前の思ってる通りだよ。野良はそんな良いもん食ってねぇ」
がしがしと頭を掻きながら俺は答えた。正直、どうすればいいのか見当もつかない。
「でもな、れいむ。それは仕方ないことだろ?ゆっくりは、人間だって、いや、生きてる
ものはみんな、平等じゃねーんだよ。分かるだろ?分かってくれよ!お前が幸せに
なる事は悪いことじゃないんだ。お前には幸せになる権利があるんだよ。それ以上
気に病むな。な?もう公園になんて行くなよ。しばらく家でじっとしてろ。それがお前に
とって一番良いはずだよ。な?飯食えよ」
俺にとっても、それが一番良い。
「・・・・・・やだ。れいむだけしあわせー!なごはんさんをむーしゃむーしゃしたくない」
だがれいむは、顔を伏せていやいやをするように頭を振る。
正直に言って、腹が立った。今日の態度は全て、れいむの優しさから出たものだと
分かっている。だが、俺にとってそれらはもう、あれが欲しいこれが食いたいなんて
可愛いものを越えた、もっとタチの悪い我儘にしか見えなくなり始めていた。
だが、癇癪を起こす訳にはいかない。今、俺がここで
「そんなに野良と同じ物食いたいってんなら、出て行って勝手に残飯でも雑草でも
食ってろ」
そんな風に言おうものなら、れいむは喜んでこの家を出て行くだろう。
俺はれいむを可愛がっているし、大好きだ。赤ゆっくりから育て上げたという自負もあるし
愛着もある。俺はれいむを失いたくないのだ。
俺は、れいむとこれまで通りに暮らして行きたかった。でも、どうやらそれは無理な
相談なようだ。
「・・・・・・分かったよ」
だから俺は、れいむに折れることにした。
「野良ゆっくりにも、お前と同じ餌を配ってやる。それで良いんだろ」
「え・・・・・・、いいの?おにいさん」
「あぁ、だから、お前も食え」
そうしないとお前が飯を食わないと言うんなら、仕方ないじゃないか。
「でもな、れいむ。俺にしてやれるのはこれだけだ。野良と同じ所に住まないと
駄目だとか、全部全部野良と同じじゃないと嫌だなんて、そこまでは聞いてやれない。
お前は俺の飼いゆっくりだってことを忘れるな。俺はお前をゆっくりさせてやる。
だから、お前もここにいて、俺をゆっくりさせてくれ」
これが、俺に出来る最大限の譲歩だ。これを断られたらもう正直打つ手が無かったが、
れいむは、俺を嬉しそうに見上げ、こくりと頷いてくれた。
れいむの前には、いつも通りのゆっくり用ペットフードが置かれているが、俺が食事を
している間、れいむはそれに一度も口を付けなかった。
「・・・・・・おにいさん、のらゆっくりは、なにをむーしゃむーしゃしてるの?」
ぼんやりと平皿に盛られたペットフードを見つめながら、れいむが言う。
「・・・・・・お前の思ってる通りだよ。野良はそんな良いもん食ってねぇ」
がしがしと頭を掻きながら俺は答えた。正直、どうすればいいのか見当もつかない。
「でもな、れいむ。それは仕方ないことだろ?ゆっくりは、人間だって、いや、生きてる
ものはみんな、平等じゃねーんだよ。分かるだろ?分かってくれよ!お前が幸せに
なる事は悪いことじゃないんだ。お前には幸せになる権利があるんだよ。それ以上
気に病むな。な?もう公園になんて行くなよ。しばらく家でじっとしてろ。それがお前に
とって一番良いはずだよ。な?飯食えよ」
俺にとっても、それが一番良い。
「・・・・・・やだ。れいむだけしあわせー!なごはんさんをむーしゃむーしゃしたくない」
だがれいむは、顔を伏せていやいやをするように頭を振る。
正直に言って、腹が立った。今日の態度は全て、れいむの優しさから出たものだと
分かっている。だが、俺にとってそれらはもう、あれが欲しいこれが食いたいなんて
可愛いものを越えた、もっとタチの悪い我儘にしか見えなくなり始めていた。
だが、癇癪を起こす訳にはいかない。今、俺がここで
「そんなに野良と同じ物食いたいってんなら、出て行って勝手に残飯でも雑草でも
食ってろ」
そんな風に言おうものなら、れいむは喜んでこの家を出て行くだろう。
俺はれいむを可愛がっているし、大好きだ。赤ゆっくりから育て上げたという自負もあるし
愛着もある。俺はれいむを失いたくないのだ。
俺は、れいむとこれまで通りに暮らして行きたかった。でも、どうやらそれは無理な
相談なようだ。
「・・・・・・分かったよ」
だから俺は、れいむに折れることにした。
「野良ゆっくりにも、お前と同じ餌を配ってやる。それで良いんだろ」
「え・・・・・・、いいの?おにいさん」
「あぁ、だから、お前も食え」
そうしないとお前が飯を食わないと言うんなら、仕方ないじゃないか。
「でもな、れいむ。俺にしてやれるのはこれだけだ。野良と同じ所に住まないと
駄目だとか、全部全部野良と同じじゃないと嫌だなんて、そこまでは聞いてやれない。
お前は俺の飼いゆっくりだってことを忘れるな。俺はお前をゆっくりさせてやる。
だから、お前もここにいて、俺をゆっくりさせてくれ」
これが、俺に出来る最大限の譲歩だ。これを断られたらもう正直打つ手が無かったが、
れいむは、俺を嬉しそうに見上げ、こくりと頷いてくれた。
「はやくごはんさんよこすんだぜこのくそじじい!!」
俺の毎日に新しい日課が加わる事になってから、一カ月が経った。
あの日から俺は毎日、会社帰りにゆっくり用ペットフードを、公園に居る野良ゆっくりに
配っている。今俺の足元で騒いでいるこの野良まりさは、俺が公園内での餌の分配を
任せている奴だ。
「なんなのぜそのめは!さっさとごはんさんよこさないとれいむにいいつけちゃうん
だぜ!?このばかくずにんげん!」
調子に乗っているまりさの言葉に、俺は奥歯を噛みしめる。噛みしめながら、
俺はまりさに餌を渡してやった。
俺の毎日に新しい日課が加わる事になってから、一カ月が経った。
あの日から俺は毎日、会社帰りにゆっくり用ペットフードを、公園に居る野良ゆっくりに
配っている。今俺の足元で騒いでいるこの野良まりさは、俺が公園内での餌の分配を
任せている奴だ。
「なんなのぜそのめは!さっさとごはんさんよこさないとれいむにいいつけちゃうん
だぜ!?このばかくずにんげん!」
調子に乗っているまりさの言葉に、俺は奥歯を噛みしめる。噛みしめながら、
俺はまりさに餌を渡してやった。
最初の何日か。俺は乗り気ではなかった。ただ、公園に適当に餌をばらまいて、
野良がその餌に寄ってこようが来まいが、確認する事もせず、すぐに帰っていた。
そして、餌を撒くようになってから最初の日曜日。俺はれいむにねだられて、れいむを
公園に連れて行った。れいむは野良ゆっくりがペットフードを食べる姿を嬉しそうに見て、
久しぶりに、心の底からの笑顔を見せてくれた。そしてれいむと俺は、ボール遊びや
鬼ごっこでたっぷりと楽しんだ。
次の一週間。俺は前と同じように、毎日餌を公園に撒いて、それを放置して帰ると言う
事を繰り返した。前の一週間と違う所は、詰まらなさそうな顔で餌をぶちまける俺を、
一匹のまりさが見ているようになった事だ。
毎日同じ場所で餌を撒いているんだから、それを狙っているんだろう。そう考えた俺は、
特にそいつの事を気にしてもいなかった。
次の日曜日。俺はまた、れいむを公園に連れて行った。いつものように俺が餌を撒き、
いつものようにゆっくりがそれに群がり、それを見たれいむが笑顔を浮かべる。
一週間の苦労(実際、安物とはいえペットフードをこれまでの数倍買い続けるのは
財布に痛い)が報われる気分で笑うれいむを眺めていると、一匹のまりさが、
ばら撒かれている餌には眼もくれずに俺と俺のれいむの前まで跳ねてきた。
可愛いれいむを見ていた俺は、そのまりさを見逃していて、気が付いたらまりさは、
れいむに話しかけているところだった。
「ゆっくりしていってね!れいむ!」
「ゆっくりしていってね!!」
「れいむはかいゆっくりなのぜ?」
「そうだよ!れいむはおにーさんのかいゆっくりなんだよ!」
「おにいさんは、ゆっくりがすきなのぜ?」
「だいすきだとおもうよ!れいむおにーさんに、とってもゆっくりさせてもらってる
んだよ!」
「おにいさんがごはんさんをくれるのは、ゆっくりがすきだからなのぜ?」
れいむの顔が曇った。
「ゆぅーん、わからないよ・・・・・・。ほんとうはおにーさん、れいむだけにごはんさんを
くれるほうがゆっくりできるんだとおもうよ・・・・・・」
「じゃあ、なんでおにいさんはごはんさんをくれるんだぜ?」
「それは、れいむがわがままをいったからだよ・・・・・・。れいむだけしあわせー!な
ごはんさんをむーしゃむーしゃして、れいむだけゆっくりするのはゆっくりできないんだよ。
だから、みんなにもごはんさんをあげてねって、れいむはおにーさんにわがままをいった
んだよ・・・・・・れいむはわるいゆっくりだよ・・・・・・」
しょげ返るれいむ。しかし、まりさはそれを聞くと、満面の笑顔を浮かべた。
「そうなのぜ!?れいむはとってもゆっくりしたゆっくりなんだぜ!!」
「え?」
「ここにいるゆっくりは、みんなゆっくりできてなかったんだぜ!でもいまは、おにいさんが
ごはんさんをもってきてくれるおかげで、みんなとってもゆっくりできてるんだぜ!れいむは
『ゆっくりしていってね!』のこころをよくわかってるんだぜ!ゆっくりのなかのゆっくり
なんだぜ~!」
「でも、れいむはおにいさんにわがままを・・・・・・」
「そんなことないんだぜ!みんなをみるんだぜ!みんなをこんなにゆっくりさせられる
れいむが、ゆっくりできないゆっくりなわけないんだぜ!おにいさんだって、れいむのこと
をゆっくりできるゆっくりだとおもってるんだぜぇ!おにいさん!そうなのぜ!?」
まりさが俺の方を見上げてくる。何だこいつ?妙に口が回りやがる。俺のれいむに
取り入ろうってのか。そう思って俺が眼を細めた時、れいむの視線に気づいた。
れいむはそわそわとした、何処か期待した眼で、俺を見つめている。
「おにいさん!れいむはゆっくりしたゆっくりなのぜ!?」
まりさが俺に答えを促してくる。こいつ、やばい。
「れいむは我儘を言ったか?」ではなく、敢えて「れいむはゆっくりしているか?」と
聞く事で、俺から肯定的な返事を引きだそうとしていやがる。
「・・・・・・あぁ、そうだな。れいむはゆっくりしたゆっくりだ」
くそ、言わされてしまった。
「おにいさん!!」
れいむがキラキラと輝く眼で俺の事を見つめる。
れいむは優しい。俺に負担をかけている事を、内心気に病んでいたんだろう。その
罪悪感を今、まりさのおかげで払拭できたのだ。そしてまりさがニヤニヤと笑いながら、
ここぞとばかりにれいむに追従する。
「よかったのぜー、れいむ!おにいさんもれいむのことを、ゆっくりできるゆっくりだって
いってくれてるんだぜ!」
「うん。れいむ、れいむがおにいさんをこまらせるわるいゆっくりだとおもってゆっくり
できなかったんだけど、まりさのおかげでゆっくりできたよ!」
「まりさはれいむみたいなゆっくりしたゆっくりとおともだちになりたいんだぜ~!
れいむ、まりさとおともだちになってほしいんだぜ!」
「うんいいよ!れいむも、まりさみたいなゆっくりしたゆっくりとおともだちになりたいよ!!」
完全攻略。こいつのゆっくり心を捉える技術は、見事という他無い。
「つぎにこうえんさんにきたときも、またれいむにあいたいんだぜ!れいむの
おにいさんのおかげで、まりさはまいにちこうえんさんにいられるから、れいむがいつきても
だいじょうぶなんだぜ!」
「れいむもまりさにあいたいよ!おにいさん・・・・・・いい?」
きちんと俺に許可を求めるれいむは偉い。偉いが、今ここで俺が駄目だなんて、
言える訳がない。
「・・・・・・分かったよ」
俺は、こう答えるしかない。
「ありがとう!おにいさん!!これからもいっしょにゆっくりしようねまりさ!」
「まりさこそよろしくなんだぜ!いっしょにゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
笑いあう二匹。しばらくれいむと見つめ合っていたまりさが、つと俺を見上げてくる。
「おにいさんも、これからよろしくなんだぜ」
俺に向かって言うその顔には、「カモを見つけた」と大書してあるのだった。
野良がその餌に寄ってこようが来まいが、確認する事もせず、すぐに帰っていた。
そして、餌を撒くようになってから最初の日曜日。俺はれいむにねだられて、れいむを
公園に連れて行った。れいむは野良ゆっくりがペットフードを食べる姿を嬉しそうに見て、
久しぶりに、心の底からの笑顔を見せてくれた。そしてれいむと俺は、ボール遊びや
鬼ごっこでたっぷりと楽しんだ。
次の一週間。俺は前と同じように、毎日餌を公園に撒いて、それを放置して帰ると言う
事を繰り返した。前の一週間と違う所は、詰まらなさそうな顔で餌をぶちまける俺を、
一匹のまりさが見ているようになった事だ。
毎日同じ場所で餌を撒いているんだから、それを狙っているんだろう。そう考えた俺は、
特にそいつの事を気にしてもいなかった。
次の日曜日。俺はまた、れいむを公園に連れて行った。いつものように俺が餌を撒き、
いつものようにゆっくりがそれに群がり、それを見たれいむが笑顔を浮かべる。
一週間の苦労(実際、安物とはいえペットフードをこれまでの数倍買い続けるのは
財布に痛い)が報われる気分で笑うれいむを眺めていると、一匹のまりさが、
ばら撒かれている餌には眼もくれずに俺と俺のれいむの前まで跳ねてきた。
可愛いれいむを見ていた俺は、そのまりさを見逃していて、気が付いたらまりさは、
れいむに話しかけているところだった。
「ゆっくりしていってね!れいむ!」
「ゆっくりしていってね!!」
「れいむはかいゆっくりなのぜ?」
「そうだよ!れいむはおにーさんのかいゆっくりなんだよ!」
「おにいさんは、ゆっくりがすきなのぜ?」
「だいすきだとおもうよ!れいむおにーさんに、とってもゆっくりさせてもらってる
んだよ!」
「おにいさんがごはんさんをくれるのは、ゆっくりがすきだからなのぜ?」
れいむの顔が曇った。
「ゆぅーん、わからないよ・・・・・・。ほんとうはおにーさん、れいむだけにごはんさんを
くれるほうがゆっくりできるんだとおもうよ・・・・・・」
「じゃあ、なんでおにいさんはごはんさんをくれるんだぜ?」
「それは、れいむがわがままをいったからだよ・・・・・・。れいむだけしあわせー!な
ごはんさんをむーしゃむーしゃして、れいむだけゆっくりするのはゆっくりできないんだよ。
だから、みんなにもごはんさんをあげてねって、れいむはおにーさんにわがままをいった
んだよ・・・・・・れいむはわるいゆっくりだよ・・・・・・」
しょげ返るれいむ。しかし、まりさはそれを聞くと、満面の笑顔を浮かべた。
「そうなのぜ!?れいむはとってもゆっくりしたゆっくりなんだぜ!!」
「え?」
「ここにいるゆっくりは、みんなゆっくりできてなかったんだぜ!でもいまは、おにいさんが
ごはんさんをもってきてくれるおかげで、みんなとってもゆっくりできてるんだぜ!れいむは
『ゆっくりしていってね!』のこころをよくわかってるんだぜ!ゆっくりのなかのゆっくり
なんだぜ~!」
「でも、れいむはおにいさんにわがままを・・・・・・」
「そんなことないんだぜ!みんなをみるんだぜ!みんなをこんなにゆっくりさせられる
れいむが、ゆっくりできないゆっくりなわけないんだぜ!おにいさんだって、れいむのこと
をゆっくりできるゆっくりだとおもってるんだぜぇ!おにいさん!そうなのぜ!?」
まりさが俺の方を見上げてくる。何だこいつ?妙に口が回りやがる。俺のれいむに
取り入ろうってのか。そう思って俺が眼を細めた時、れいむの視線に気づいた。
れいむはそわそわとした、何処か期待した眼で、俺を見つめている。
「おにいさん!れいむはゆっくりしたゆっくりなのぜ!?」
まりさが俺に答えを促してくる。こいつ、やばい。
「れいむは我儘を言ったか?」ではなく、敢えて「れいむはゆっくりしているか?」と
聞く事で、俺から肯定的な返事を引きだそうとしていやがる。
「・・・・・・あぁ、そうだな。れいむはゆっくりしたゆっくりだ」
くそ、言わされてしまった。
「おにいさん!!」
れいむがキラキラと輝く眼で俺の事を見つめる。
れいむは優しい。俺に負担をかけている事を、内心気に病んでいたんだろう。その
罪悪感を今、まりさのおかげで払拭できたのだ。そしてまりさがニヤニヤと笑いながら、
ここぞとばかりにれいむに追従する。
「よかったのぜー、れいむ!おにいさんもれいむのことを、ゆっくりできるゆっくりだって
いってくれてるんだぜ!」
「うん。れいむ、れいむがおにいさんをこまらせるわるいゆっくりだとおもってゆっくり
できなかったんだけど、まりさのおかげでゆっくりできたよ!」
「まりさはれいむみたいなゆっくりしたゆっくりとおともだちになりたいんだぜ~!
れいむ、まりさとおともだちになってほしいんだぜ!」
「うんいいよ!れいむも、まりさみたいなゆっくりしたゆっくりとおともだちになりたいよ!!」
完全攻略。こいつのゆっくり心を捉える技術は、見事という他無い。
「つぎにこうえんさんにきたときも、またれいむにあいたいんだぜ!れいむの
おにいさんのおかげで、まりさはまいにちこうえんさんにいられるから、れいむがいつきても
だいじょうぶなんだぜ!」
「れいむもまりさにあいたいよ!おにいさん・・・・・・いい?」
きちんと俺に許可を求めるれいむは偉い。偉いが、今ここで俺が駄目だなんて、
言える訳がない。
「・・・・・・分かったよ」
俺は、こう答えるしかない。
「ありがとう!おにいさん!!これからもいっしょにゆっくりしようねまりさ!」
「まりさこそよろしくなんだぜ!いっしょにゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
笑いあう二匹。しばらくれいむと見つめ合っていたまりさが、つと俺を見上げてくる。
「おにいさんも、これからよろしくなんだぜ」
俺に向かって言うその顔には、「カモを見つけた」と大書してあるのだった。
その次の日。俺が公園に着くと、そこには俺を待ち構えていたまりさがいた。
「ゆっへっへ、にんげんさん、きょうもごはんさんもってきたんだぜ?」
「・・・・・・あぁ、持って来てやったよ」
気に入らない。そのニヤニヤ笑いは、明らかに俺を馬鹿にしたものだ。
「じゃあ、そのごはんさんはまりさにまるごとよこすんだぜ!そのごはんさんは、
このまりささまがゆうこうにかつっようっしてやるんだぜ!」
やはり、昨日のれいむへの態度は猫を被っていたのか。餌を持っていない右手を
握り締めると、それを目ざとく見つけたまりさが、後ずさりながら言った。
「おぉ~っと、まりさをつぶすきなのぜ?そんなことをしたら、れいむはどうおもうのぜ?」
「どうも思わんさ。ここにゆっくりは沢山いるし、野良が死んじまうなんていつもの事だ」
「れいむは、まりさとやくそくしたんだぜ?つぎにれいむがこうえんさんにきたときに、
まりさがいなかったらどうするつもりなんだぜ?」
「『まりさは三日前から見なくなった』とでも適当に嘘ついて、お前の事は諦めさせるさ」
「それはむりなのぜ!まわりをみるんだぜ!!」
周りを良く見渡すと、そこかしこの茂みに、こちらを見てにやにやと笑うゆっくりがいた。
その数は、ざっと数えて十匹以上。最初は餌を狙っているのかと思ったが、どうも様子が
おかしい。
「こいつらは、まりさのてしたなのぜ!もしまりさをつぶしたりしたら、れいむが
こうえんさんにきたときに、こいつらが『じじいがまりさをつぶした』ってつげっぐちっして
やることになってるんだぜ!!げらげらげら!!!」
笑い終わったまりさが顎をしゃくると、ゆっくりたちはてんでばらばらの方向へ
逃げ出して行ってしまった。自然が多いということは、遮蔽物が多いということだ。今から
追いかけても、あいつらを正確に全滅させるのは、かなりの難易度になるだろう。
「そのごはんさんをまりさによこすのぜ!いやなられいむに、『おにいさんはまいにち
こうえんでのらゆっくりをつぶしてる』っていってやってもいいんだぜ!!!」
くそっ、こいつ!こいつをれいむと喋らせたのは間違いだった!!
こいつゆっくりの癖に、やたらと頭がキレやがる!!
こいつは俺とれいむの関係を見抜き!俺のれいむへの愛着を見抜き!
何故俺が冷ややかな眼で毎日公園に餌を撒くのか!その理由を完璧に理解して!
その上で俺の弱点、ボトルネック、すなわちれいむを押さえて、あろうことか
俺を強請りにきやがった!!何て奴だクソったれ!!!
その上、その交渉の仕方も実にソツが無い。俺がこれからもこの公園を利用
するには、こいつの要求を飲む事が不可欠だ。他にも公園はあるが、ここが一番
近くて大きい。それに、いきなり行く公園を変えれば、れいむは訝しがるだろう。
「・・・・・・大したタマじゃねーか、饅頭」
奥歯を噛みしめながら、俺は言った。
「ゆっへっへっへ!!」
まりさは実に嫌な笑い方をする。
「れいむが来た時に、そんな卑しい笑い方するんじゃねーぞ」
まりさの眼の前に、今日の分の餌を丸ごと置いてやった。
勝ち鬨の声を上げるまりさを見ないように、俺は後ろを向く。一度地面を蹴り飛ばし、
盛大に砂を巻き上げてから家に帰った。
「ゆっへっへ、にんげんさん、きょうもごはんさんもってきたんだぜ?」
「・・・・・・あぁ、持って来てやったよ」
気に入らない。そのニヤニヤ笑いは、明らかに俺を馬鹿にしたものだ。
「じゃあ、そのごはんさんはまりさにまるごとよこすんだぜ!そのごはんさんは、
このまりささまがゆうこうにかつっようっしてやるんだぜ!」
やはり、昨日のれいむへの態度は猫を被っていたのか。餌を持っていない右手を
握り締めると、それを目ざとく見つけたまりさが、後ずさりながら言った。
「おぉ~っと、まりさをつぶすきなのぜ?そんなことをしたら、れいむはどうおもうのぜ?」
「どうも思わんさ。ここにゆっくりは沢山いるし、野良が死んじまうなんていつもの事だ」
「れいむは、まりさとやくそくしたんだぜ?つぎにれいむがこうえんさんにきたときに、
まりさがいなかったらどうするつもりなんだぜ?」
「『まりさは三日前から見なくなった』とでも適当に嘘ついて、お前の事は諦めさせるさ」
「それはむりなのぜ!まわりをみるんだぜ!!」
周りを良く見渡すと、そこかしこの茂みに、こちらを見てにやにやと笑うゆっくりがいた。
その数は、ざっと数えて十匹以上。最初は餌を狙っているのかと思ったが、どうも様子が
おかしい。
「こいつらは、まりさのてしたなのぜ!もしまりさをつぶしたりしたら、れいむが
こうえんさんにきたときに、こいつらが『じじいがまりさをつぶした』ってつげっぐちっして
やることになってるんだぜ!!げらげらげら!!!」
笑い終わったまりさが顎をしゃくると、ゆっくりたちはてんでばらばらの方向へ
逃げ出して行ってしまった。自然が多いということは、遮蔽物が多いということだ。今から
追いかけても、あいつらを正確に全滅させるのは、かなりの難易度になるだろう。
「そのごはんさんをまりさによこすのぜ!いやなられいむに、『おにいさんはまいにち
こうえんでのらゆっくりをつぶしてる』っていってやってもいいんだぜ!!!」
くそっ、こいつ!こいつをれいむと喋らせたのは間違いだった!!
こいつゆっくりの癖に、やたらと頭がキレやがる!!
こいつは俺とれいむの関係を見抜き!俺のれいむへの愛着を見抜き!
何故俺が冷ややかな眼で毎日公園に餌を撒くのか!その理由を完璧に理解して!
その上で俺の弱点、ボトルネック、すなわちれいむを押さえて、あろうことか
俺を強請りにきやがった!!何て奴だクソったれ!!!
その上、その交渉の仕方も実にソツが無い。俺がこれからもこの公園を利用
するには、こいつの要求を飲む事が不可欠だ。他にも公園はあるが、ここが一番
近くて大きい。それに、いきなり行く公園を変えれば、れいむは訝しがるだろう。
「・・・・・・大したタマじゃねーか、饅頭」
奥歯を噛みしめながら、俺は言った。
「ゆっへっへっへ!!」
まりさは実に嫌な笑い方をする。
「れいむが来た時に、そんな卑しい笑い方するんじゃねーぞ」
まりさの眼の前に、今日の分の餌を丸ごと置いてやった。
勝ち鬨の声を上げるまりさを見ないように、俺は後ろを向く。一度地面を蹴り飛ばし、
盛大に砂を巻き上げてから家に帰った。
そして現在に至る。まりさは憎らしいほど完璧に立ち回り続けた。
「れいむ、れいむのおかげでいっつもゆっくりできるのぜ!ありがとうなのぜ!」
「おれいはれいむじゃなくて、おにいさんにいってね!」
週一回、俺が休みの日の外出は、れいむの生き甲斐になった。公園に行くたびに
ゆっくりしているゆっくりが増え、優しいまりさとも会えるのだから当然だろう。
だが、俺はまりさがやっている事を知っている。まりさは、俺から奪った(敢えて奪う
という表現を使う)食料を元手に、公園内で一大派閥を築き上げているのだ。
れいむが見る「ゆっくりしたゆっくり」とは、まりさの派閥に属するゆっくりの事だ。
他の派閥に属するゆっくりは、俺たちの恩恵を何も受けられないボロボロのゆっくりは、
れいむの眼に映らないように、俺たちに近づく事を禁じられている。
反吐が出るが、しかし、これは俺にもメリットがあった。「少ない手間と餌で、れいむに
『ゆっくりした野良ゆっくり』という幻想に近い物を見せる事が出来る」というメリットだ。
今ではれいむが見る野良ゆっくりは、忌ま忌ましいまりさが選別した見た目の良い
ゆっくりに限られている。目に映らない物は無い物と同じ。れいむは俺のおかげで、
野良ゆっくりが皆ゆっくりできるようになったと思い込んでいる。
舞台の書き割のような『野良ゆっくり』。まりさは俺にそれを提供してくれていた・・・・・・。
加えて、まりさの性向も俺を助けていた。
「まりさはやさしいしかっこいいよ・・・・・・」
もじもじとまりさに擦り寄っていく俺のれいむ。件の糞まりさの奴に惚れている事は、
傍から見ても明白だった。
「ゆっ、れいむ!まりさなんかよりおにいさんのほうがかっこいいんだぜ!ほら、
それよりあっちをみるんだぜ!かわいいおちびちゃんがいっぱいいるんだぜ!
あのおちびちゃんがゆっくりできるのは、れいむのおかげなんだぜ!」
巧みに(?)れいむの興味を逸らすまりさ。まりさはれいむから友達以上の好意を
示されそうになると、いつもこうやって話をはぐらかしていた。
そう。まりさは俺の飼いゆっくりになる気は微塵も無いのだ。
まりさは俺の強さと、その利用価値を知っている。そして、俺から餌を引き出し
続けるには、れいむが俺の飼いゆっくりであり続けなくてはいけないと言う事を知っている。
もし、れいむがまりさを慕って野良になれば、まりさはいとも容易くれいむを切り捨てる
だろう。利用価値が無いからだ。
なら、れいむを利用して俺の飼いゆっくりになろうとしないのは何故か?それは、
権力志向の強いまりさは、飼いゆっくりの安楽な生活より、野良ゆっくりを束ねる
今の立場を好んでいるからだ。もしかしたら、俺の家という、いわば俺の
テリトリーに来る事に恐れを感じているというのも、あるのかもしれない。
だから、まりさにれいむと番になる気はさらさら無い。あるのは、俺とれいむを骨まで
しゃぶり尽くしてやると言う底無しの欲望だけ。
結果だけ見れば、俺は望む物を手に入れてはいる。
結局、餌をそこらに撒くか、それとも誰かにまとめて渡すかたったそれだけの違いで
あるし、まりさは俺の餌を使って最高の効果をもたらしてくれている。ギブアンドテイクの
関係だと言えなくは無い。だが、気にくわない。断じて気にくわない。俺がゆっくりなんかの
掌の上で踊らされているなんて。屈辱にも程があるってもんだ。
「おにいさん!そろそろかえったほうがいいんじゃないのぜ?」
れいむを捌ききれなくなったまりさが、俺に助けを求める。
「そうだな、そろそろ帰ろうか、れいむ」
「えっ・・・・・・あ、うん、わかったよ。またねまりさ」
眉根を寄せ、不満そうにしながら、それでも俺の言う事を素直に言う事を聞くれいむ。
俺はれいむを抱え上げ、頬をつついてやった。
「またきてねれいむ!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!まりさ!またくるからね!!」
俺の手に抱えられたれいむが、楽しそうにまりさと挨拶を交わす。その間中俺は、
人畜無害そうに笑っているまりさを、冷やかに見つめ続けた。
「れいむ、れいむのおかげでいっつもゆっくりできるのぜ!ありがとうなのぜ!」
「おれいはれいむじゃなくて、おにいさんにいってね!」
週一回、俺が休みの日の外出は、れいむの生き甲斐になった。公園に行くたびに
ゆっくりしているゆっくりが増え、優しいまりさとも会えるのだから当然だろう。
だが、俺はまりさがやっている事を知っている。まりさは、俺から奪った(敢えて奪う
という表現を使う)食料を元手に、公園内で一大派閥を築き上げているのだ。
れいむが見る「ゆっくりしたゆっくり」とは、まりさの派閥に属するゆっくりの事だ。
他の派閥に属するゆっくりは、俺たちの恩恵を何も受けられないボロボロのゆっくりは、
れいむの眼に映らないように、俺たちに近づく事を禁じられている。
反吐が出るが、しかし、これは俺にもメリットがあった。「少ない手間と餌で、れいむに
『ゆっくりした野良ゆっくり』という幻想に近い物を見せる事が出来る」というメリットだ。
今ではれいむが見る野良ゆっくりは、忌ま忌ましいまりさが選別した見た目の良い
ゆっくりに限られている。目に映らない物は無い物と同じ。れいむは俺のおかげで、
野良ゆっくりが皆ゆっくりできるようになったと思い込んでいる。
舞台の書き割のような『野良ゆっくり』。まりさは俺にそれを提供してくれていた・・・・・・。
加えて、まりさの性向も俺を助けていた。
「まりさはやさしいしかっこいいよ・・・・・・」
もじもじとまりさに擦り寄っていく俺のれいむ。件の糞まりさの奴に惚れている事は、
傍から見ても明白だった。
「ゆっ、れいむ!まりさなんかよりおにいさんのほうがかっこいいんだぜ!ほら、
それよりあっちをみるんだぜ!かわいいおちびちゃんがいっぱいいるんだぜ!
あのおちびちゃんがゆっくりできるのは、れいむのおかげなんだぜ!」
巧みに(?)れいむの興味を逸らすまりさ。まりさはれいむから友達以上の好意を
示されそうになると、いつもこうやって話をはぐらかしていた。
そう。まりさは俺の飼いゆっくりになる気は微塵も無いのだ。
まりさは俺の強さと、その利用価値を知っている。そして、俺から餌を引き出し
続けるには、れいむが俺の飼いゆっくりであり続けなくてはいけないと言う事を知っている。
もし、れいむがまりさを慕って野良になれば、まりさはいとも容易くれいむを切り捨てる
だろう。利用価値が無いからだ。
なら、れいむを利用して俺の飼いゆっくりになろうとしないのは何故か?それは、
権力志向の強いまりさは、飼いゆっくりの安楽な生活より、野良ゆっくりを束ねる
今の立場を好んでいるからだ。もしかしたら、俺の家という、いわば俺の
テリトリーに来る事に恐れを感じているというのも、あるのかもしれない。
だから、まりさにれいむと番になる気はさらさら無い。あるのは、俺とれいむを骨まで
しゃぶり尽くしてやると言う底無しの欲望だけ。
結果だけ見れば、俺は望む物を手に入れてはいる。
結局、餌をそこらに撒くか、それとも誰かにまとめて渡すかたったそれだけの違いで
あるし、まりさは俺の餌を使って最高の効果をもたらしてくれている。ギブアンドテイクの
関係だと言えなくは無い。だが、気にくわない。断じて気にくわない。俺がゆっくりなんかの
掌の上で踊らされているなんて。屈辱にも程があるってもんだ。
「おにいさん!そろそろかえったほうがいいんじゃないのぜ?」
れいむを捌ききれなくなったまりさが、俺に助けを求める。
「そうだな、そろそろ帰ろうか、れいむ」
「えっ・・・・・・あ、うん、わかったよ。またねまりさ」
眉根を寄せ、不満そうにしながら、それでも俺の言う事を素直に言う事を聞くれいむ。
俺はれいむを抱え上げ、頬をつついてやった。
「またきてねれいむ!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!まりさ!またくるからね!!」
俺の手に抱えられたれいむが、楽しそうにまりさと挨拶を交わす。その間中俺は、
人畜無害そうに笑っているまりさを、冷やかに見つめ続けた。
ヒヨドリの幸せ 下 へ続く