妖星乱舞-第一楽章-

91話 妖星乱舞-第一楽章-


夕暮れ時、第三回目の放送が終わった。
放送主が変わっていた事や、生き残りはもはや島役場にいる全員のみ、
という事に驚いたアレックス達であったが、それ以上に驚いたのが、
目の前で生きているはずの人物の名前が死者として呼ばれた事だった。

その理由はすぐに明らかとなる。
ピタゴラスが、首にはめられた首輪を手で外し、それを右手で持って見せびらかした。
アレックス、ドーラ・システィール、高原正封、クリス・ミスティーズ、レオン・ミスティーズの五人が、
一斉に口を開け、驚愕の表情を浮かべる。
しかし、すぐにピタゴラスが声を出すなと五人を制し、自分のメモ帳を取り出し、筆談を開始した。

〔……見ての通りだ。首輪を解除する事に成功した。
お前達の首輪も外す事ができる〕

その文面に、全員がそれぞれ歓喜の表情を浮かべた。
但し、盗聴されている事は知っていたため、大声は出せない。

〔それで、だ。今、放送で俺の名前が呼ばれただろう。どうやら、
首輪が外れると、その首輪の主は死亡扱いになるらしい。そこでだ〕

ピタゴラスが、メモ帳にある作戦を書き出す。
全員が、食い入るようにそれを見詰めた。

それは、この殺し合いから脱出するため、主催者の本拠地へ乗り込むための、
最後の作戦だった。



午後18時45分頃。主催者本拠地のモニタールームが慌ただしくなった。

「どうしたの?」
「リリア様……」

騒ぎを聞き付けた主催者リリアが監視員の一人に尋ねる。

「……参加者が全員、死亡しました」
「何ですって……?」

リリアが参加者の現在位置や、生存状況が表示されるモニターを覗き込む。
確かに、F-6島役場に集結していた生存者全員が死亡を示す表示に変わっている。

「これより現状確認のために現場へ人員をよこします」
「……分かったわ。ぬかりのないように、ね」
「はっ」

そう監視員に言うとリリアは何かを考えながら、モニタールームから出た。




会場となった島から数キロ離れた場所にある、海の上に造られた城。
夜の帳が周囲を覆い始めた今、無数の窓から見える明かりが煌めいていた。
正面玄関に当たる場所の前には巨大なヘリポートが存在する。

「遅いな……」

参加者が全員死亡という結末を迎えた殺し合いの舞台を現場確認しに向かった
部隊を乗せたヘリがそろそろ帰投するはずなのだが、一向に姿が見えない。
ヘリポートに配備されている十数人の兵士がヘリの帰還を待つ。

「おい、見えたぞ!」

監視塔の上から一人の黒い竜の兵士がある方向を指差す。
遠方、島のある方角からこちらに向かってくる大型ヘリが確認できた。

「よし、場所を開けろ」

兵士達がヘリの着陸場所を空ける。
そして、激しいローター音、突風が巻き起こり、ヘリポートにヘリが降り立った。
中に乗っているはずの確認部隊を出迎えるため、
待機していた兵士達がヘリのハッチ前へと集合する。
そして、ハッチが開いた。

だが、次の瞬間、兵士達は無数の弾丸の雨に見舞われ、
地面を血に染めただの肉塊と化した。
恐らく彼らは自分の身に何が起きたのか理解する間もなかったであろう。
ハッチから出てきた者は、彼らの仲間の兵士ではなかった。
血の海を踏み越え、7人は目の前に建つ巨大な城塞を前に気を引き締める。

高原正封。
クリス・ミスティーズ。
レオン・ミスティーズ。
ドーラ・システィール。
アレックス。
ピタゴラス。
ガーゴイル。

18時間にも及ぶ殺し合いを生き抜き、そして今、ピタゴラスによって、
全員の首枷は解き放たれ、主催者本部へと乗り込んだ。
長かった。この時が来るまでに、7人はそれぞれが何人もの死を見届け、
別れを経験し、戦いに身を投じてきた。
クリスとレオンにとっても正念場であった。なぜ、このような殺し合いを催したのか。
自分の妹、姪であるリリアに真意を問い質す必要があった。

「さて……行くかい!」

ドーラが檄を飛ばし、本拠地の城へ走りだす。その手にはイサカM37散弾銃が。
高原正封が自動拳銃S&W M3566、クリスが切れ味鋭い長剣ダマスカスソード、
レオンが突撃銃アーマライトAR18、アレックスが短機関銃IMIウージー、
ピタゴラスが突撃銃AK-47、ガーゴイルがミサイルランチャーRPG7を、
それぞれ最強と思われる装備を引っ提げ、主催者本部へ特攻を仕掛けた。



本拠地最深部の、魔法陣が浮かび上がった広間。
その魔法陣の中心部には、赤いブレザーを着た黒髪の少女、大木弓那と、
黒と赤の毛皮を持った獣足型の人狼、黒牙が立っていた。
二人の目の前には、何やら呪文を唱えているリリアが立っている。
そして詠唱が終わった途端、魔法陣が青白く輝き出し、弓那と黒牙の二人を光が包み込んだ。

「……これで、貴方達二人は元の世界に帰れるわ。
今までどうもね、色々協力してくれて」
「り、リリアさん……」
「……本当に、ありがとうございます。一度死んだ俺達を、
生き返らせてくれるなんて」
「……別に。ほんの気まぐれよ」

リリアがそう言った直後、黒牙と弓那の姿が消失し、魔法陣は光を失った。

「……末永く、お幸せに」

そう言い残し、リリアは踵を返すと、部屋を立ち去った。



【黒牙@俺オリロワリピーター組  送還】
【大木弓那@俺オリロワリピーター組  送還】



第二楽章へ続く

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最終更新:2010年06月13日 15:47
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