不安定な道標

88話 不安定な道標


久保遼平とムシャの死体からそれぞれの荷物を回収したピタゴラスとガーゴイルは
島役場の中へと足を踏み入れる。

「……!」

役場の入口を抜けた先に広がっていたのは正に「血の海」と形容するに相応しい光景。
床や壁、受付カウンター、天井などに、時間が断ち黒く変色した夥しい量の
血痕が、べっとりと付着していた。
何かを引き摺ったような血の跡が役場裏口まで続いている。
奥には喉笛を食い破られた狐獣人の少女の死体があった。

「こいつは……あの時の……」

ピタゴラスには見覚えがあった。
狐の少女は、豪邸前での戦闘で見かけたあの狐の少女、ミーウに間違いなかった。
アレックスの話によればそれまで同行していた仲間二人がこの少女により
殺されたとの事だったが、こうも無残な遺体となっていると、流石にこの少女にも、
同情の念が湧いてくる。

「それにしても、ここで何があったんだ?」

ガーゴイルが島役場入口ロビーの惨状を見回しながら言う。
夥しい量の血痕の他に、幾つかの武器やデイパックが放置されたままになっていた。
壁に弾痕もある事などからここで激しい戦闘が行われた事は想像に難くない。
しかしこれだけの血の量だとかなりの数の参加者がここで命を落としたのだろう。
裏口に続く血の跡も気になる所だった。

「……とりあえず、この狐の少女と、外の二人の死体を隠そう。
このままにしておくのは気が引ける」
「そうだな……」




役場裏の森の中、高原正封、クリス・ミスティーズ、レオン・ミスティーズの三人は、
首を吊った黒い巨躯の狼の死体を発見していた。
狼の死体の下には倒れた椅子と、小さな墓らしき物があった。
また、すぐ近くには既に腐臭を漂わせている二人の人間の女の死体もあった。

「どういう経緯かは分からないが……どうやらこの狼は自分で……」

レオンが神妙な面持ちで言う。
この黒い狼も、このような殺し合いに巻き込まれなければ、
このような無惨な死に方をする事はなかっただろうに。
墓の主と、死体となっている二人の女性も然り。
犠牲者の死体を発見する度に、クリスとレオンの心の中の罪悪感が膨らんで行く。
同時に、主催者であり妹、姪であるリリアに対する怒りも増大する。

「……行こう」
「はい」
「……」

四人の犠牲者達に祈りを捧げつつ、三人は再び南下を始める。




エルザを失い、悲しみの中、アレックスとドーラ・システィールは島役場に辿り着いた。
そして駐車場で、二人は見知った顔の死体を二つ発見する。

「む、ムシャ、それに、遼平……!」
「何てこった……遼平まで……」

頭を撃ち抜かれた鎧武者、ムシャと、身体の正面に大きな斬り傷がある青年、久保遼平の二人の死体。
状況からして、ムシャが遼平を殺害した後、ムシャを第三者が射殺した、と思われる。
その第三者とは、遼平と行動を共にしていたはずの、ピタゴラスとガーゴイルのどちらかであろう。

「アレックス! ドーラ!」

役場の中から、両手が血塗れになった狼獣人ピタゴラスと、青い魔獣ガーゴイルが出てきた。

「ピタゴラス! ガーゴイル! お前達は無事だったんだな……」
「ああ、何とかな……」
「ちょっとガーゴイル、あんたその胸の傷……大丈夫なのかい?」
「大した事はない。この程度、掠り傷も同然だ」
「……アレックス、その様子だともう分かっていると思うが……遼平が……」
「ああ……」
「……おい、エルザはどうした?」

ピタゴラスがエルザがいない事に気付き、アレックスとドーラに尋ねる。
とても嫌な予感がしたが、それはすぐに的中した。
アレックスは数十分前に起きた出来事をピタゴラスとガーゴイルの二人に説明した。

「そうか……エルザはもう……」

エルザの死は、共に長い間、首輪を解析していたピタゴラスにとって大きなショックであり、
そしてアレックス達仲間全員にとっても大きな痛手であった。
ピタゴラスとガーゴイルもまた、事の顛末をアレックスとドーラに説明する。

「やっぱり、遼平はムシャが殺したのか……」
「遼平は、俺を庇ったんだ。それで……」
「……そうか……」

二手に分かれる際、必ず生きて再会しようとお互いに約束し合った。
だがある程度覚悟も決めていた、これが今生の別れになるやもしれぬと。
しかし実際にその現実を目の当たりにすると、どうしようもなく悲しく、
やりきれない思いで生き残った四人の心は一杯だった。
お互いのグループの話を纏めると、自分達の仲間で死んだ遼平とエルザ、
ピタゴラス達が役場の中で喉を食い破られて死んでいるのを発見した狐の少女ミーウ、
遼平を殺害した犯人であり、ピタゴラスが殺害したムシャ、
アレックス達が発見した、豪邸にて保護しその後行方をくらませた眼鏡少年の死体、
エルザを殺し、眼鏡少年も殺したと言い、アレックスが手に掛けた骨川スネ夫という少年。
そのスネ夫によれば眼鏡少年の名前は野比のび太らしい。

昼の放送の時点での生存者15人の内、5人の死亡が確認できた。
これで現在の生き残りは、ここにいる4人と、どこにいるか分からない5人、合わせて9人という事になる。
もっと減っている可能性も否定できない。もしかしたら生き残りはここにいる4人
のみになってしまったのかもしれない。

「……ここで考えていても仕方ない、取り敢えず――」

ピタゴラスが一旦役場の中に入ろうと皆に提案しようとした時だった。

「誰だ!?」

ドーラが役場入口に向け、持っていたイサカM37を構える。
アレックスも同様に、先述のスネ夫より奪ったIMIウージーを構えた。
ピタゴラスとガーゴイルが何事かと後ろを振り向くと、役場入口に三人の人影が見えた。

「待て! 俺達は殺し合いには乗っていない!」

黒い人狼――レオン・ミスティーズが戦意がない事を告げる。
同じく、青髪のマントの青年クリス・ミスティーズ、狐獣人の青年高原正封も戦う気はないと、
アレックス達に信じて貰えるように必死で訴えた。

「……どうする、ドーラ?」
「……殺し合いに乗っている奴がパーティー組んでるってのもおかしいからねぇ。
信じてもいいんじゃないかい?」
「そうだな……みんな、武器を下ろせ。信じても良さそうだ」
「……信じて貰えたようです、伯父上」
「ああ、そのようだ」
「ふぅ……良かった……」

クリス達三人は安堵の色を浮かべた。



アレックス、ドーラ・システィール、ピタゴラス、ガーゴイル、
高原正封、クリス・ミスティーズ、レオン・ミスティーズの7人は、
駐車場の二人の死体を、ピタゴラスとガーゴイルが先にミーウの死体を
隠した役場内の倉庫の仲間で運び、血塗れのロビーで放置されていた、
大量の武器や食糧の入ったデイパックを回収した。

その後、二階の会議室と思われる部屋に集まり、情報を交換し合う。

そこでアレックス達のグループは、ある事実を知る事となった。

「それじゃ、クリスとレオン、あんたら二人はあのリリアって奴の血縁なのかい」
「そうだ。この殺し合いの主催者、リリア・ミスティーズは、俺の実の妹――」
「そして、俺、レオン・ミスティーズの姪にあたる」

クリスとレオンはかなり話ずらそうに見えた。
無理もない、聞けば皆、この殺し合いにより知り合いや仲間が命を落としているとの事。
主催者の兄として、伯父として、罪悪感で心も身体も押し潰されそうだった。

「あ、あの、皆さん、クリスさんとレオンさんは決して、
主催者の回し者とかそんなんじゃないですよ! クリスさんもレオンさんも、
自分の妹が、姪がこんなゲームを開いて、大勢の人がそれで死んで、
とても、苦しんでいるんです……だから、何としてもこのゲームを潰したいって……」

正封が懸命にクリスとレオンを弁護した。

「……いや、貴方がたを責めるつもりはない。クリス、レオン」

アレックスが穏やかな声で話す。

「貴方がたも、この殺し合いの被害者だ。本当に憎むべきは、この殺し合いの主催者。
クリス、レオン。この殺し合いを止めるために協力してくれ。他のみんなも、
異論はないよな?」
「……全く、どんな教育したんだい兄上様に伯父上様。あの馬鹿妹、馬鹿姪を
一緒にぶん殴りに行ってくれるかい」

ドーラを始め、ピタゴラスも、ガーゴイルも、クリスとレオンを仲間に迎える事に、
何ら異議はなかった。そう、彼らは理解していた。本当に倒すべき、憎むべき相手を。
主催者の血縁だからと言って彼らを責め立てるのはお門違いだ。
彼らもまた、自分の身内が起こしたこの事件に苦しむ被害者なのだから。
クリスとレオンはアレックス達の懐の大きさに感動し、何度も礼と謝罪の言葉を述べた。

「あの……俺の事忘れないで」

いつの間にか一人蚊帳の外になっていた正封は、さりげなく自己主張をしていた。




【一日目午後/F-6島役場:二階会議室】


【高原正封@俺オリロワリピーター組】
[状態]:精神的疲労(大)、背中から右胸下辺りにかけ刺し傷(処置済)
[装備]:ニューナンブM60(5/5)
[持物]:基本支給品一式、38sp弾(20)、FNブローニングM1910(3/6)、
FNブローニングM1910のリロードマガジン(6×5)、手榴弾(3)、工具セット、
水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いはしたくない。とにかく生き残る。
1:アレックス、ドーラ、ピタゴラス、ガーゴイル、クリス、レオンと行動。
2:襲われたら……。
3:俺は前にも殺し合いを……?
※俺オリロワ死亡後からの参戦です。
※「朱雀麗雅」という名前が気になっています。
※胸元に重傷を負っているため、無理な行動は危険です。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※自分が前にも殺し合いに参加させられていた、と確信し始めました。


【クリス・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:全身にダメージ(中)、右足裂傷(応急処置済)
[装備]:サーベル
[持物]:基本支給品一式、太刀、コルト ディテクティヴスペシャル(6/6)、
.38sp弾(30)、双眼鏡、水と食糧(3人分)
[思考]:
0:リリアを止める。そのためにもこの殺し合いを潰す。
1:アレックス、ドーラ、ピタゴラス、ガーゴイル、高原正封、レオンと行動。
2:首輪を外す手段を探す。
3:襲われたら対処。
※参戦時期は本編終了後です。
※足を怪我していますが何とか歩行は可能です。



【レオン・ミスティーズ@ムーンライトラビリンス改造版】
[状態]:全身にダメージ(中)
[装備]:シグザウアーSP2340(12/12)
[持物]:基本支給品一式、シグザウアーSP2340のリロードマガジン(12×5)、
アーマライトAR18(0/30)、アーマライトAR18のリロードマガジン(30×10)、
スタームルガー ブラックホーク(6/6)、.357マグナム弾(24)、H&K HK69(1/1)、
40mm榴弾(3)、手斧、水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いを止め、リリアと会う。
1:アレックス、ドーラ、ピタゴラス、ガーゴイル、高原正封、クリスと行動。
2:首輪を外す手段を探す。
3:襲われたらそれなりに対処はする。
※参戦時期は本編終了後です。
※拳銃の使い方を一通り覚えました。


【アレックス@VIPRPG】
[状態]:全身にダメージ(軽度)、右腕上腕に裂傷(処置済)
[装備]:IMIウージー(32/32)、サバイバルナイフ、防弾チョッキ(弾痕有)
[持物]:基本支給品一式(食糧三食分消費)、IMIウージーのリロードマガジン(32×5)、
H&K MARK23(5/12)、H&K MARK23のリロードマガジン(12×5)、マカロフ(7/8)、
マカロフのリロードマガジン(8×5)、S&W M3566(10/15)、
S&W M3566のリロードマガジン(15×5)、水と食糧(2人分)
[思考]:
0:仲間を集めて殺し合いを潰す。そして脱出する。
1:ドーラ、ピタゴラス、ガーゴイル、高原正封、クリス、レオンと行動。
2:首輪も何とかしたい。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※眼鏡の少年(野比のび太)、ムシャ、ミーウの死亡を確認しました。


【ドーラ・システィール@FEDA】
[状態]:左肩裂傷
[装備]:イサカM37(4/4)
[持物]:基本支給品一式(食糧二食分消費)、レミントンM870(4/4)、
12ゲージショットシェル(43)、
三八式歩兵銃(2/5)、6.5㎜×50R弾(25)、コルト トルーパー(4/6)、.357マグナム弾(30)、
ベレッタM1951(8/8)、ベレッタM1951のリロードマガジン(8×5)、
コンバットナイフ、九五式軍刀、首輪探知機、フォナ・アンシュッツの首輪(分解)、
水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いをする気はない。
1:アレックス、ピタゴラス、ガーゴイル、高原正封、クリス、レオンと行動。
2:首輪を外したい。
※参戦時期は少なくともコバルトを倒した後です。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※眼鏡の少年(野比のび太)、ムシャ、ミーウの死亡を確認しました。


【ガーゴイル@真・女神転生デビルチルドレンライト&ダーク】
[状態]:胸元に横一文字の斬り傷(命に別条なし)、
[装備]:RPG7(1/1)
[持物]:基本支給品一式(水二本、食糧三食分消費)、85㎜対戦車擲弾(2)、
ダマスカスソード、AK-47(30/30)、AK-47のリロードマガジン(30×10)、
H&K G3(20/20)、H&K G3のリロードマガジン(20×8)、脇差、トマホーク(3)、
水と食糧(2人分)、官能小説(獣姦・異種間モノ9冊)
[思考]:
0:殺し合いからの脱出。
1:アレックス、ドーラ、ピタゴラス、高原正封、クリス、レオンと行動。
2:襲われたら説得を試みる。駄目ならば戦うか逃げる。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。
※眼鏡の少年(野比のび太)の死亡を確認しました。


【ピタゴラス@オリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:コルトM1911A1(6/7)
[持物]:基本支給品一式(食糧二食分消費)、コルトM1911A1のリロードマガジン(7×4)、
イングラムM10(10/30)、イングラムM10のリロードマガジン(30×7)、S&W M19(6/6)、
.357マグナム弾(21)、マチェット、モルヒネアンプル(3)、 ノートパソコン(USBメモリ装着)、
直刀、ハンティングナイフ、トランジスタラジオ、水と食糧(3人分)
[思考]:
0:殺し合いには乗らない。首輪を外したい。
1:アレックス、ドーラ、ガーゴイル、高原正封、クリス、レオンと行動。
2:襲われたら戦う。
※参戦時期は本編死亡後です。
※毛皮の色は作者の想像です。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※クリス、レオンの二人が主催者の血縁である事を知りました。
※眼鏡の少年(野比のび太)、ムシャ、ミーウの死亡を確認しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。



※ミーウ、久保遼平、ムシャの死体は島役場一階にある倉庫の中に安置されています。
※島役場入口ロビーに放置されていた荷物はピタゴラスとガーゴイルが
選別し回収しました。
※エルザ・ウェイバー、骨川スネ夫の荷物はアレックスとドーラ・システィールが
選別し回収しました。




摘み取られる希望の芽 時系列順 さあ、枷は解かれた
摘み取られる希望の芽 投下順 さあ、枷は解かれた

ゴーストノート 高原正封 妖星乱舞
ゴーストノート クリス・ミスティーズ 妖星乱舞
ゴーストノート レオン・ミスティーズ さあ、枷は解かれた
摘み取られる希望の芽 アレックス 妖星乱舞
摘み取られる希望の芽 ドーラ・システィール 妖星乱舞
雲なしの午後には ガーゴイル さあ、枷は解かれた
雲なしの午後には ピタゴラス さあ、枷は解かれた

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最終更新:2010年06月13日 19:04
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