雲なしの午後には

86話 雲なしの午後には


大人数で固まって動くのは危険と判断し、豪邸を拠点としていた
ドーラ・システィール、アレックス、エルザ・ウェイバー、ピタゴラス、久保遼平の6人。
ドーラ、アレックス、エルザの三人が陸路から、
ガーゴイル、ピタゴラス、遼平の三人が、空を飛べるガーゴイルの力で
空路から、次の目的地であるエリアF-6島役場を目指す事となった。

数時間が経ち、裏手に森が広がる鉄筋コンクリートの白い建物、島役場。
正面の駐車場に、背中に狼獣人の男と人間の青年を乗せた青い竜のような魔獣が降り立った。
島役場に先に到着したのはガーゴイルを始めとした空路組である。

「ようやく着いたな、ここが島役場か」
「そのようだ……おい、大丈夫か遼平」
「うえ……やばいっす、下手すると胃の中の物をデビューしそうです」

空を飛びすっかり酔ってしまったのか顔色が真っ青だった。

「ドーラ達は……まだ来てないようだな」
「無事だと良いんだが……」

陸路、市街地経由でこの島役場に向かってきているはずのドーラ達の安否が気になる。
三人共そう簡単にやられるような柔な人物ではないと思いたいが確実ではない。

「とにかく、役場の中に入ってみるか」

三人が役場の玄関に向かおうとした、その時だった。

「そこの三人……いや、二人と一匹か?」
「!!」

低めの男の声が三人の足を止める。
振り向くと門の付近に、刀らしき得物を携えた和風鎧姿の男――ムシャが立っていた。
抜き身の刀と男が発するオーラから、三人はこの鎧男が決して
自分達に友好的でない事をすぐに悟った。

「お前は?」

ピタゴラスが自動拳銃コルトM1911A1の銃口を向けながら訊く。

「俺の名前はムシャだ」
「ムシャ……?」

どこかで聞いた名前だと、三人は思った。
そして、遼平が真っ先に思い出し、口を開く。

「もしかしてアレックスさんの知り合いの……」
「アレックスだと? 奴を知っているのか?」
「……俺達の仲間になっている。今は訳あって別行動だがな」

ガーゴイルがムシャに説明し、ムシャは「そうか」と頷いた。
相手の目的がはっきりしない以上、細かい事は話さない方が良いと、
三人は判断し、アレックスもこの島役場に向かっている事は話さなかった。

「……お前達の名前も聞かせてくれ」
「ピタゴラスだ」
「……ガーゴイルでいい」
「く、久保遼平です」
「そうか……」

ムシャはゆっくりと、三人との距離を詰めていく。
目の前の鎧武者が放つ殺気は、戦闘経験もない一般人である
遼平にも十分感じられた。
そして三人が共通の結論を出す。こいつはやる気になっていると。

「くっ!」

ガーゴイルが持っていた携帯式対戦車榴弾発射器RPG7を構え、
ムシャ目掛けて引き金を引き発射した。
放たれた85㎜対戦車擲弾が真っ直ぐムシャに向かい突進していく。
だが。

ムシャはそれを直刀の峰で打ち払い、85㎜対戦車擲弾は明後日の方向にある、
木造の民家の方へ飛んで行き、着弾した。
派手な爆発音と同時に、民家の一部が粉々に吹き飛んでしまった。

「な、何だと!?」

余りにも人間放れした技を見せたムシャにガーゴイルを始め、ピタゴラスと遼平も驚愕した。

「い、いやいやちょっと、いくら小説だからってフィクションだからって
非現実的過ぎるんじゃないの!?」

遼平は気が動転し訳の分からない事を口走った。

「くそっ!」

ピタゴラスもM1911A1をムシャに向けて乱射する。
だが、その全てがムシャの目にも止まらぬ剣捌きで弾かれた。
シングルカラムで装弾数が7発と少ないM1911A1はあっという間に弾切れとなった。
スライドオープン状態となったM1911A1の空弾倉を排出し、
急いでデイパックから次の弾倉を取り出すピタゴラス。

「遅い!」

その隙をムシャが逃すはずもなく、直刀を構え一気に斬り掛かってくる。

「させるか!」

ガーゴイルがムシャの前に立ちはだかり、鋭い爪の付いた腕を振り下ろした。
恐らくまともに食らえば鋼鉄をも切り裂くであろうその攻撃を、
ムシャは紙一重でかわす。
そして、ガーゴイルの胸元に鋭い斬撃を食らわせた。

「ガァァア!!!」
「ガーゴイル!」
「ガーゴイルさん!?」

横一文字の傷ができたガーゴイルは胸元やアスファルト、ムシャの身体を真っ赤に染め、
地面に伏し、悶え始める。

「お前は後回しだ」
「ま、待て……!!」

重傷のガーゴイルをそのままにし、ムシャはピタゴラスと遼平の二人に狙いを切り替えた。
ピタゴラスがM1911A1の弾倉を交換し、スライドを引いて初弾を薬室に送った時には、
既にムシャはピタゴラス目掛け突進していた。
すぐに銃を構えようとしたピタゴラスだったが、それよりもムシャの刃が自分を斬るのが早いだろう。

(駄目だ、間に合わない)

ピタゴラスは死を覚悟した。

「う、うおおおおおああああああっ!!!」
「!?」

突然、ピタゴラスの身体が何者かに突き飛ばされた。
直後、ザシュッ、という嫌な音が響き、ピタゴラスの顔の毛皮に、生温かい
飛沫が降り掛かった。
地面に倒れたピタゴラスが目を開け、つい数瞬前まで自分の立っていた
場所の方に顔を向ける。

そこで目にしたのは、ムシャの斬撃を身体の真正面に受け、
鮮血を飛び散らし口から血を吐きながら崩れ落ちる、遼平の姿だった。

「……こいつ……」

たった今自分が斬った青年を見て、ムシャはある事を思い出す。
今の青年が起こした状況、最初に斬ろうとしていた狼獣人を突き飛ばし、
身を挺して救った。
それは紛れもなく、自分が死神五世を誤殺した時の状況と同じだった。
二人共、仲間を助けるために自分を犠牲にしたのだ。

「……俺も、できればそうありたかっ――――」

一発の銃声。

ムシャの兜に穴が空いた。そして、鎧武者は刀を落とし、地面に崩れ落ち、動かなくなった。



「遼平!」
「ぐ……遼平」

ムシャを射殺したピタゴラスと、重傷のガーゴイルは、
仰向けに倒れた遼平の元へ駆け寄った。
傷を見た途端、二人は絶望した。
胸元から腹にかけて深く斬り裂かれている。恐らく肺、肋骨、腸、
あらゆる内臓がズタズタになっているはずだ。もはや手の施しようがない。

「遼平、なぜだ、なぜこんな無茶をっ」
「……す……すみません……でも……」

喉の奥に血が詰まっているのか酷くくぐもった声で遼平は口を開いた。

「……ピタゴラス、さんは……死んじゃ、駄目です……。
エルザ……さ……と同じで……俺、達の、希望、です……から」
「……!!」

遼平は、この殺し合いからの脱出の糸口――首にはめられた首輪の解除方法を、
ピタゴラスと別行動を取っているエルザが必死になって探している事を重々理解していた。
そしてそれが少しずつではあるが間違いなく実を結び初めている事も。
ピタゴラスなら、エルザなら、きっとやってくれる、そう信じていた。
だからこそ、二人には死なれたくなかった。別行動のエルザは無事を祈るしかなかったが、
目の前にいるピタゴラスに死が迫っているというのに何もしない訳にはいかなかった。

ただ、死にたかった訳ではない。結果論はそうなるが。
ただ、遼平はピタゴラスを守りたかったのだ。
この殺し合いにおいて一番始めに出会い、以来共に行動してくれたこの頼りになる狼獣人の男を。

もう自分の名前を呼ぶピタゴラスとガーゴイルの声も遠かった。
いよいよかと、自身の最期を悟る。
意識が闇に呑まれる中、遼平は最期の力を振り絞って、遺志を告げる。

「……きっと…………絶対……に……脱出…………して……く…………」
「遼平!!」
「遼平……!」

言葉は最後まで紡がれる事はなかったが、その思いはピタゴラスとガーゴイルの二人には
しっかりと伝わった。




冷たくなりつつある遼平の死体を抱き抱えながら、ピタゴラスは静かに、涙を流していた。

「……馬鹿者が……」

自分のために、命を投げ出した人間の若者に、震えた声で叱責しながら。
ガーゴイルは、何も言葉が出ず、無言でピタゴラスの傍に座っていた。



【ムシャ@VIPRPG  死亡確認】
【久保遼平@オリキャラ  死亡確認】
【残り9人】



【一日目午後/F-6島役場:駐車場】

【ガーゴイル@真・女神転生デビルチルドレンライト&ダーク】
[状態]:胸元に横一文字の斬り傷(命に別条なし)、深い悲しみ
[装備]:RPG7(0/1)
[持物]:基本支給品一式(水二本、食糧三食分消費)、85㎜対戦車擲弾(3)、
官能小説(獣姦・異種間モノ9冊)
[思考]:
0:殺し合いからの脱出。
1:……。
2:襲われたら説得を試みる。駄目ならば戦うか逃げる。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。


【ピタゴラス@オリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康、深い悲しみ
[装備]:コルトM1911A1(6/7)
[持物]:基本支給品一式(食糧二食分消費)、コルトM1911A1のリロードマガジン(7×4)、
ノートパソコン(USBメモリ装着)
[思考]:
0:殺し合いには乗らない。首輪を外したい。
1:……遼平……。
2:襲われたら戦う。
3:眼鏡の少年(野比のび太)の事が少し心配。
※参戦時期は本編死亡後です。
※毛皮の色は作者の想像です。
※自分が以前別のバトルロワイアルに参加していた事を久保遼平に話していません。
※USBメモリ内の首輪設計図が本物だと認定しました。
※首輪による盗聴の可能性に気付きました。



※F-6周辺に銃声及び爆発音が響きました。また、島役場付近の民家の一部が破壊されています。
※F-6島役場:駐車場に久保遼平、ムシャの死体及び所持品が放置されています。



ゴーストノート 時系列順 摘み取られる希望の芽
ゴーストノート 投下順 摘み取られる希望の芽

導きの先にあるもの ガーゴイル 不安定な道標
導きの先にあるもの ピタゴラス 不安定な道標
導きの先にあるもの 久保遼平 死亡
余命××秒 ムシャ 死亡

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最終更新:2010年06月13日 01:52
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