さっさと調べろと言うのは無粋、無粋。

41話 さっさと調べろと言うのは無粋、無粋。


戸高綾瀬は、病院の院長室の窓を開け、中の様子を窺った。
動く影がない事を確かめると、綾瀬は窓枠を跨ぎ、院長室の中へ侵入した。
スカートの腰にボウイナイフを差し込み、抜き足差し足で廊下へ続く扉に近付く。

「……」

扉を少しだけ開き、今度は廊下の様子を窺う。
動く影はない。代わりに、オレンジ髪のサキュバスの死体が床に転がっていた。

「よし…」

扉を開け、廊下に出てサキュバスの死体に近付く綾瀬。
その視線の先にあるものはサキュバスの首にはめられた首輪。
綾瀬の目的は、この首輪だった。
数十分前、病院において参加者同士の戦闘があった。
一人は今、病院廊下で屍となっているサキュバス。
そしてもう一人は学生服姿の銀髪の少女。勝敗は――言うまでもない。

綾瀬は病院院長室から、戦闘後の両名の姿を見たのだが、
一度窓から院長室を出てすぐ外の植え込みに身を潜めていた。
銀髪の少女が襲われたため正当防衛でサキュバスを殺害したのか、
それとも最初から能動的に殺し合いに臨む気でサキュバスを殺害したのかは不明だが、
とにかく危険を冒してまで接触を試みるのは無謀と考え、
銀髪の少女がいなくなるまで植え込みに隠れている事にした。

――それならさっさと逃げれば良かったのではと思うかもしれないが、
綾瀬はある目的があったため、逃げる事はしなかった。

(それじゃ、やりますか)

綾瀬はサキュバスの死体、頭がある方向に座り、
サキュバスの首にボウイナイフの刃を当てた。
そして、数回深呼吸をした後、刃を思い切りサキュバスの首に刺し込む。

グチャッ、ザクッ。

「……ッ!」

とても嫌な感触がナイフから綾瀬の右手に伝わる。
頸動脈、気管支、肉、それを刃で切り裂いている感触。
既に死んでから時間が経過しているため血はそれ程出てはいない。
感触を我慢しながら、綾瀬はボウイナイフを鋸のように引いたり押したりしながら、
サキュバスの首を更に切っていく。

ザリッ、ザリッ、ザクッ、グチャ、グチャ。

「………」

肉は大方切り終えたが、最後にして最大の難関が待っていた。
首の骨――頸骨。首と胴を繋ぐ最後の糸。
こればかりはナイフではどうにもならない。自分の力で折るしかなかった。
正直とても嫌だったが、綾瀬は両手でサキュバスの首の両側を持ち、
一気に折れそうな方向へ力を込めて曲げた。

「ん~~~ッ!!」

流石にそう簡単に折れる代物ではなく、かなりの力を要した。
だが、しばらくして遂に。

メキッ、メキメキメキッ、バキィッ!

「きゃっ!」

勢い余って尻餅を付いてしまう綾瀬。
我に返って、自分が今両手で抱えているものを見て硬直する。


サキュバスの生首。


「ひいっ!!」

思わず悲鳴を上げ、サキュバスの生首を床に放り投げた。
しばらく動悸が止まらなかった綾瀬だったが、どうにか心を落ち着かせると、
今や首なし死体と化したサキュバスの胴体に近付き、
首にはめられた首輪を抜き取った。

(手に入れた…これが、参加者にはめられている首輪…)

若干血の付着した金属製の首輪をじっくり観察する。
死体から首輪のサンプルを回収――これが綾瀬の目的だった。

(さて、とりあえず詳しく調べるのは後で。こんな現場見られたら、
どう考えても私怪しまれる事間違いないよね)

床には首なし死体、自分の手元には血に塗れたナイフ。
この状況で他参加者と出くわそうものなら、その他参加者の思想はどうあれ、
良い方向に印象を持たれるとは思えない。
最悪の場合、このサキュバスを殺害したのが自分だと誤解される恐れもある。
綾瀬は殺し合いに乗る気などこれっぽっちもない。
それなのに殺し合いに乗っていると誤解でもされれば、
これからの行動にも生存確率にも多いに支障及び影響が出てしまう。
それだけは何としても避けたかった。

……コツ…コツ……。

「!!」

綾瀬の耳に、病院玄関方向から足音が響いてくるのが聞こえた。
どうやら誰かが病院玄関から侵入してきたようだ。
サキュバスを殺害したあの銀髪少女か、それとも別の誰かか。
どちらにしても今この状態で他参加者と遭遇するのは絶対に自身にとって利にならない。
綾瀬は首輪をデイパックの中に押し込むと、すぐに院長室に戻り、
窓から外へと脱出し、そのまま植え込みを通って裏通りへ出ると、足早に去っていった。



随分外も明るくなったため、民家に隠れていた鈴木正一郎は、
自分のクラスメイトや、自分と同じく殺し合いに抗う気でいる参加者を探すため、
緑十字のマークが目印の病院を訪れた。
幸か不幸か、民家から病院に来る道中、参加者と遭遇する事はなかった。

「こ、これは…」

一階の廊下で正一郎が発見したものは、
首と胴体が泣き別れになった、赤い翼と尻尾の生えたビキニ姿の若い女性の死体。
よく見れば、胴体と離れた所にある頭部には、銃で撃たれた痕があった。

「これは酷い…一体誰がこんな事を……」

死体のすぐ近くには、死体だった女性の持物と思われるデイパックが放置されていたが、
既に目ぼしい物は抜き取られていた。
この女性を殺害した者の仕業と見て間違いないだろう。
死んでからまだそれなりに時間が経過しているようなので、
殺害犯がまだ近くにいるという可能性は低かったが、
それでもこの病院内は探索してみる価値はあると正一郎は踏んだ。

もし、院内で女性を殺害した本人に出くわしたら。
その本人が殺し合いをする気でいたら。
また、そうでなくとも、殺し合いをする気でいる参加者と遭遇した時は、
正一郎は手にしたマチェットで戦うつもりでいた。
相手が拳銃など、飛び道具を持っていた場合は、決して無理はせず逃げる事も考えてはいたが。

だが、もしそれがクラスメイトだったら、その時はどうするか。
正直言って自分でも今の所は分からない。

だが元々正一郎は、若干歪んではいるとは言え、正義感の強い少年である。
誰であろうと、銃撃した後で首を落とすというような残酷極まりない殺し方をした
殺人者は許せないというのが心の底にあった。
それが彼のこの殺し合いでの行動源の一つともなっている。

女性の死体に手を合わせた後、正一郎は病院内の探索を始めた。




「はぁ…はぁ…」

病院を離れた綾瀬は、海が見える堤防沿いの道に来ていた。
潮風が綾瀬の髪とスカートを揺らす。
キョロキョロと辺りを見回し、誰もいない事を確認すると、
綾瀬はすぐ近くの民家に入った。

「ふぅ……」

障子戸が閉められ、外からは中の様子が窺う事ができない和室の中で、
綾瀬は座り一息付いた。
やっとの事で目的だった首輪も入手する事ができ、
次は首輪を調べ、解除できそうか探る、のだが。

「……別に急ぐ事もないし、ちょっと休憩しよ」

和室の畳の上に仰向けに寝転がり、しばし休息する事にした。

(でも、このまま寝てるだけっていうのもな。
さっき病院で寝ちゃったし、二階でも行ってみようか…)

起き上がってデイパックを持ち、綾瀬は民家二階へ上がった。
二階には子供部屋と思しき部屋があり、勉強机やパソコン、
本棚、コンポといった調度品が部屋には置かれていた。
クローゼットの中の衣類や机のノートのデザインなどから、
この部屋を使っていたのは中学生くらいの思春期真っ盛りの少女だったと思われる。

「ほうほう、全く知らない女の子の部屋に他人がずかずかと…。
もし、私が男だったら間違いなく住居不法侵入の罪だけじゃ済まないわね。
だけど、私は22歳のうら若き乙女。まあそれはそれとして。
折角だし、色々遊んで行こうかなー」

全く知らない女の子の部屋にいるという背徳感にも似た何かが、
綾瀬の性的嗜好を刺激し始めていた。
変なニヤケ顔を浮かべながら例によって綾瀬は自分の衣服を脱ぎ始める。

そして数分もしない内に一糸纏わぬ生まれたての姿になってしまった。

(ごめんねこの部屋の主の知らない女の子。
今から私、戸高綾瀬が貴方の部屋を汚させていただきます)

興奮の余りニヤケが止まらなくなってきている綾瀬は、
部屋をぐるりと見回し、できそうな「遊び」を考え始めた。


【一日目黎明/G-8病院近く:海沿いの民家・平田家二階子供部屋】

【戸高綾瀬@オリキャラ】
[状態]:健康、全裸、興奮
[装備]:ボウイナイフ(血痕付着)
[持物]:基本支給品一式、メリエの首輪
[思考]:
0:殺し合いには乗らない。首輪の解除を目指す。
1:しばらく子供部屋で性的な一人遊びを楽しんだ後、首輪を調べる。
2:もし可能であれば仲間が欲しい。
3:襲われたらどうする…?
※銀鏖院水晶(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
※衣服は子供部屋内に放置されています。


【一日目黎明/G-8病院】

【鈴木正一郎@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[装備]:マチェット
[持物]:基本支給品一式、モルヒネアンプル(3)
[思考]:
0:殺し合いの転覆。
1:病院内の探索。同時進行で仲間を集め、クラスメイト探し。
2:殺し合いに乗っている者には容赦しない。
3:首輪を何とかしたい。
4:狼族の警官(須牙襲禅)に注意。
※本編開始前からの参戦です。
※須牙襲禅(名前は知らない)の容姿を記憶しました。
※翼と尻尾を持った女性(メリエ)を銃撃した者と、首を切断した者は同一犯と思っています。



※G-8病院:一階廊下のメリエの死体は首が切断されました。




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最終更新:2010年05月23日 12:22
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