覚められない悪夢

36話 覚められない悪夢

木造校舎の小中学校の校庭に、水色の髪を持った際どい格好の少女が、
背中の大きな翼を羽ばたかせながらゆっくりと着地した。
周囲を見渡せば校舎と体育館の他に、体育倉庫やプール、滑り台やブランコといった遊具などが見える。
丁度ドラゴナスの目の前には白いペンキが剥げ赤い錆が浮き出た朝礼台があった。

ドラゴナスはこの殺し合いに呼ばれている自分の仲間、
ムシャ、死神五世、デスシープの三人を捜すのが目的だった。
先刻、機関銃と思しき武器を持った襲撃者に襲われ、
即座に空に跳び上がって危機を逃れた後、上空を飛びながら、
ドラゴナスは地上を眺め着陸地点に良さそうな場所を捜していた。
色々候補はあったが、最終的に選んだのが小中学校だった。

地図にも載っておりそれなりに目立つ建物なので誰か参加者がいる可能性が高い。
或いは自分が捜している仲間も。
簡単にやられるとは思わないが万が一という事がある。
手遅れにならない内に合流したかった。

そしてドラゴナスが校舎内に入ろうと昇降口に向かって歩き始めた、その時。

「うおおおおおおおお!!!」
「!?」

背後から聞こえた少年の叫び声と駆ける足音に、
ドラゴナスはかなりの早さで振り向いた。
直後、自分の脳天目掛けて振り下ろされた金属バットを、ドラゴナスは横に跳んでかわしていた。
ガンッ、と、金属バットが校庭の固い地面に強か打ち付けられる鈍い音が校庭に響いた。
体勢を立て直してドラゴナスが襲撃者を改めて見る。
それは尖った口をした狐顔の、小学校高学年程度の少年――骨川スネ夫だった。

「こ、子供…!?」
「だああああっ!!」

再びスネ夫が金属バットを振り回しながらドラゴナスに襲い掛かる。
びゅん、びゅん、と、風を切る音が何度も聞こえた。
いかに魔王軍四天王と謳われるドラゴナスでも現在の少女の身体で、
金属バットの攻撃が直撃したら一溜りもない。
何の特殊能力も使えない上翼と尻尾がある以外は普通の人間の身体である現在のドラゴナスは、
身体の強度も、普通の人間よりは多少頑丈、程度にまで下がってしまっているのだ。

「おい、待て! 俺は殺し合いをする気なんてない! 話を聞いてくれ!」
「うるさい! そっちにはなくても、こっちにはあるんだ!」

ドラゴナスは目の前の狐顔の少年に対し説得を試みるが、少年、スネ夫は全く聞く耳を持たない。
一旦距離を取り、数メートルの距離で対峙した状態でドラゴナスが再び説得を開始する。

「こんなふざけたゲームに乗る気が!? 馬鹿げているぞ!」
「馬鹿げてるだって!? 何言ってんだ! それがこのゲームのルールじゃないか!
最後の一人にならなきゃ家に帰れないんだ!」

スネ夫の目は、普段の彼を知っている者が見れば言葉を失うぐらい充血していた。
ドラゴナスはスネ夫が殺し合いに乗った理由がおおよそ理解できた。

「家に帰るために、生き残るために殺し合いに乗ったのか」
「そうだよっ!! 何だよ、悪いか!」

まるで吠えるようにスネ夫がドラゴナスに言う。

(こんな子供が殺し合いなんて……恐怖の余り、正常な判断ができなくなったのか)

よくよく見れば、自分の娘・ハーナスとほぼ変わらない年齢のようにも見える。
こんな少年が、生き残るためとはいえ殺人を企図し、それを実行に移すとは。
どこか葛藤しているような様子にも見えるが、ドラゴナスにはスネ夫が可哀想な存在に思えてならない。

「僕は生きて帰るためにみんな殺してやるんだ。
もう、一人殺したんだ! 今更後戻りなんてできないんだよっ!!」
「なっ…!?」

スネ夫の言葉にドラゴナスがスネ夫の持つ金属バットをよく見てみる。
すると、僅かに凹んだ部分と血痕らしきものが確かに付着していた。

「何て事を…!」
「うるさい! うるさい! うるさい! 死ねぇぇぇえええっ!!!」

スネ夫が金属バットを振り被りながら、ドラゴナスに突進する。
ドラゴナスは苦い顔をしながら武器であるコンバットナイフを取り出し、
自身もスネ夫に向かって駆け出した。

ガキィン!!!

「ぐっ…!」

金属場との重い一撃を、ドラゴナスはコンバットナイフの刀身で受け止めた。
強烈な痺れと衝撃がドラゴナスの右腕を襲い、顔が歪む。
だが、ドラゴナスの狙いは別の所にあった。

ドゴッ!!

「…………ッ!!!」

強烈な膝蹴りが、スネ夫の腹部に食い込んだ。
呼吸困難に陥ったスネ夫は白目を剥き、持っていたバットを地面に落とし、脱力して崩れ落ち意識を失った。
スネ夫が完全に気を失った事を確認すると、ドラゴナスはほっと一息ついた。
いくら殺し合いに乗っているとは言え、少年を手に掛けるのは気が引ける。
そもそも、この少年とて、こんな殺し合いがなければ平穏な日常を送り、平穏な少年として生きていけたはず。
それが、ここまで歪んでしまったのは、他でもない、この殺し合いのせい。
言うなればこの少年も被害者の一人なのだ。
だから、ドラゴナスはスネ夫を自己防衛のためであっても手に掛ける事はやめ、気絶させる事にした。

「悪いな、少し眠っててくれ」

ドラゴナスは地面にうつ伏せに倒れ意識を失っているスネ夫に申し訳なさそうにそう言うと、
スネ夫の装備していた金属バットを拾い自分のデイパックの中に入れ、
そしてスネ夫の身体を担ぎ上げた。
こんな場所に放置しておく訳にはいかない。校舎の中で、
どこか寝かせておけそいな場所で横にさせておこうと考えたためである。



「!! …こ、これは」

校舎に入り、昇降口のすぐ近くにあった保健室に入った瞬間、
ドラゴナスは息を呑んだ。
幾つかあるパイプベッドの内一つに、血塗れの死体があった。
白い毛皮の猫獣人の少年。なぜか服を着ていなかった。
全身に小さな穴が空き、そこから噴き出した鮮血がベッドとその周囲に赤いペイントを施していた。
担いでいたスネ夫をひとまず別のベッドに寝かせ、ドラゴナスが改めて死体を調べる。

「こいつも少年か……酷ぇな……」

傷口の様子からして銃、恐らく散弾銃で至近距離から撃たれたのだろう。
近くの床には脱ぎ捨てたと思われる衣服――学生服だ――と、持物だろうか、
水と食糧が抜かれた基本支給品しか入っていないデイパックは放置されていた。

「だけどどうして裸なんだ?」

殺し合いという状況下でなぜ裸になる必要があったのか。
猫少年の死体を観察していく内にドラゴナスはある物を発見する。

「こ、これは」

それは元々は雄であるドラゴナスならよく知っている物。
猫少年の下腹部、まだ皮を被った少年自身辺りに付着したすっかり乾いてしまっている白っぽい液体。
そしてドラゴナスの鋭い嗅覚が血の臭いと死体の臭いに混ざった、
発情した女の匂いを嗅ぎ付けた。
それらの状況からドラゴナスはある想像に辿り着く。

この猫獣人の少年は、女性に誘惑され、隙を突かれ殺されたのだろう、と。

あくまで推測に過ぎないが、可能性は非常に高いと思われる。
誘惑にせよ何にせよ、そういう手を使い油断させ不意討ちをする狡猾な参加者が、
この殺し合いにはいるかもしれないのだ。

「気を付けないとな…ムシャとかは…多分大丈夫か。
ダーエロとかニンニンだったら危なかったかも。呼ばれてなくて良かった。
さてと…この死体をどこか別の部屋に運ぶとするか……」

死臭を漂わせている死体と一緒にいる訳にもいかない。
とりあえず猫少年の死体を別の部屋に移して隠そうとドラゴナスは考える。
気絶させ別のベッドに寝かせたスネ夫の方を見、完全に眠っている事を確認した。

(目覚めたら、もう一度説得してみよう…)

そう思いながら、ドラゴナスは猫少年の死体の運搬作業に取り掛かった。





「――?」

スネ夫は、夜の学校の廊下に立っていた。
いつも通っている、慣れ親しんだ小学校だが、夜に来た事などない。
昼とは違い、不気味な雰囲気を醸し出していた。

「ここは…僕達の学校? でも、あれ…?」

自分は確か、殺し合いをさせられていたのではないかと、スネ夫は自問する。

「……っ、うっ……」

突然、廊下の奥から少女のすすり泣く声が聞こえた。
一瞬、スネ夫は驚いたが、よく聞いてみればそれはとても聞き慣れた声だった。
声の方向へ進んでみると、そこには、壁に背をもたれて床に座り泣いている、
ピンク色の服を着た少女が。

「し、しずかちゃん?」

少女の名前を呼び、スネ夫がゆっくり近付いていく。

「……スネ夫さん……」

顔を上げ、スネ夫の顔を見上げたしずかの目からは大粒の涙が溢れていた。

「ど、どうしたのしずかちゃん? 何で泣いてるの?」

一体何事かと、スネ夫はしずかに涙の意味を尋ねた。

「ひっく……スネ夫さん。私、もう、ママに会えないの。お家に帰れないの」
「え? ……何で?」

しずかの言っている事の意味が理解できないスネ夫。
するとしずかはゆっくり立ち上がった。

「だって、私……」

そして、両手を自分の耳元に添え、


しずかの首に一瞬で切れ目が入り、血が滴り落ち、


次の瞬間には、しずかの首は、しずかの両手に持たれ、胴体から離れていた。


「――――ッ!!!!???」

余りの事に声も出す事ができないスネ夫。
だが、有り得ない事が、今目の前で起きている、現実に。
現実――今自分が見てるのは本当に現実なのだろうか?
首と胴が分離したら人間は生きていられないという事ぐらいスネ夫は分かっている。
だが、自分の両手に持たれたしずかの首の両目は開き、口も動いていた。

「私……首、取れちゃったの。だからもう、お家に帰れない」
「あ…あああ……!?」
「スネ夫さん、私、寂しいの…だから、スネ夫さんも、行こう?
『あっちの世界』へ、私と、一緒に――」
「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!!」

スネ夫は直感した。
目の前の自分の友達は、もうこの世のものではないと。
張り裂けんばかりの絶叫を上げ、踵を返し全速力で走り出した。

ドンッ

「うわっ!!」
「いってぇ!」

誰かにぶつかり、スネ夫は尻餅をついてしまう。

「おい、痛てーじゃねーかスネ夫! どこ見てんだよ!」

威圧的かつ、豪快な大声がスネ夫の頭上から掛けられた。
その声の主を、スネ夫は知っていた。知っていたからこそ、安堵の表情を浮かべた。

「ジャ、ジャイア――」

だが、その安堵の表情は、絶望と恐怖の表情に一瞬で塗り替えられた。

「いやあ、スネ夫、見てくれよ。俺の身体、穴だらけになっちまってよ」

そこにいたのは、確かに、いつも自分達に無理矢理自分のリサイタルを聴かせたり、
無茶苦茶な要求をしてきたり、すぐ暴力を振るったり、だがしかし、
性根は優しく心が強く、妹思いの兄である、ガキ大将の、ジャイアン。

――全身に穴が空き、そこから血が流れていた。

「なあスネ夫、俺達心の友だよな? だったら、俺と一緒に、
『あっちの世界』へ行こうぜ?」
「ああああぁぁあああああぁあああっ!!!」

スネ夫はもはや半狂乱になり逃げ出した。
いつの間にか学校の風景は消え去り、真っ暗な空間のみが広がっていた。
何もない空間をスネ夫はひたすらに走り続けた。
背後から無数の手が伸びてくる。血に塗れた死人の手。
その中にはしずかだった物とジャイアンだった物もいた。
スネ夫を、永遠の闇、冥府へと引き摺りこむために。


「豈帷坩繧偵◇繧上j縺ィ騾・ォ九※縲∫曝縺・瑞諱ッ繧呈」

「縲後ワ繧。窶ヲ窶ヲ繝・€・縲€蜈ィ陬ク縺ョ蟋ソ縺ァ繝吶ャ繝峨・荳翫↓讓ェ縺溘o繧翫」

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「坩繧偵◇繧上縲€蜈ィ陬ク縺ョ蟋ソ縺ァ繝吶ャ繝峨・後i縲∬剋迯」莠コ縺ッ縺昴・邵槭€・・豈帷坩繧偵◇繧上」


最早、声とも、言葉とも、何かの鳴き声とも取れない音がスネ夫の耳を支配する。

スネ夫は逃げた。汗を、涙を、鼻水を、小便を、あらゆる液体を流し、逃げ続けた。


(これは夢だ! こんなの現実な訳がない! 僕が見ている夢だ!
夢なら覚めるはずだ! 早く覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ! 覚めろ!
覚めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)





いくら心で叫べど、スネ夫は悪夢から覚める事はなかった。




【一日目深夜/F-5小中学校:一階保健室】

【ドラゴナス@VIPRPG】
[状態]:健康、女体化
[装備]:コンバットナイフ
[持物]:基本支給品一式、焼酎、金属バット
[思考]:
0:殺し合いからの脱出。首輪の解除。
1:猫少年(ケトル)の死体をどこか別の部屋に移す。
2:狐顔の少年(骨川スネ夫)が目を覚ましたらもう一度説得する。
3:魔王軍の仲間を探す。
4:アレックスとその仲間に会ったらその場その場で対応。
5:襲われたら戦う。
※能力に制限がかかっている事に気づきました。
※女体化から元に戻れません。


【骨川スネ夫@ドラえもん】
[状態]:腹部に打撲、気絶中、悪夢に苛まれている
[装備]:なし
[持物]:基本支給品一式、亜美の水と食糧、消毒用エタノール、ジッポーライター
[思考]:
0:生き残るために殺し合いに乗る。
1:(うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!)
※F-5小中学校:一階保健室のベッドの一つに寝かされています。





主のため、自分のため、仲間のため 時系列順 知るには早い事もある
主のため、自分のため、仲間のため 投下順 知るには早い事もある

ジャイアニズムの終焉 ドラゴナス It is a nightmare inside even if awaking.
天秤は動く 骨川スネ夫 It is a nightmare inside even if awaking.

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最終更新:2010年05月03日 03:04
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