二次に本質あり

「月島さんは、レレナさんたちが行きそうな場所の、心当たりとかあるの?」

歩道の手すりに浅く腰かけて地図を広げつつ、泉こなたが問いかけた。

制服を着た童顔の少女と、くたびれたワイシャツを着た優男風の青年の取り合わせ。
ぱっと見には歳のはなれた兄妹のような組み合わせだが、実はこの2人、意外と歳の差が――『ない』、とみせかけて、想像以上に『ある』。
見た目は小学生程度の、実は女子高生。内実は18歳である少女、泉こなた。
見た目は20歳前後のフリーター。その内実は、平安時代から生きている本物の吸血鬼、月島亮史。
社会的身分を考えれば2歳ほどしか違わない2人だが、年齢差およそ千と少し。

ジェネレーションギャップもさぞ大きいかと思いきや――意外と会話は成立している。

「行きそうな場所――日頃からよく足を運ぶ場所ってことかな」
「うん、おなじみの場所。当てずっぽうに探しても時間がかかりそうじゃん。
私の場合はアニメイトとかとらのあなだから、地図にはのってないし」
「虎の穴……最近の女の子は、すごい所に行くんだね」
「たぶん、月島さんが考えてるのとは別の意味ですごいよ」

失礼、年齢差とは別の要因で、成立していなかった。

「僕は夜中しか起きてられないから、彼女らの行動パターンにはあまり詳しくないな。
しいて言えば、病院や診療所に行くことはないと思うよ」

月島亮史が探す2人の少女。1人は幽霊であり、1人は半吸血鬼である。
物理的干渉を受け付けない幽霊は、病院を必要としない。
半吸血鬼には『再生』能力があるので、こちらも病院を必要としない。

「夜中……やっぱり吸血鬼って、お日さまが苦手だったりするの?」

素朴なこなたの疑問。

「苦手というより――天敵かな。ちょっとでも陽射しを浴びると、命にかかわる。
あと、『流れる水の上』を渡るのも辛い。こっちは死ぬほどじゃないけど、しばらく橋の上にいると倒れる」
「ふーん。レトロな吸血鬼なんだねぇ。最近は陽射しも平気な吸血鬼だって多いのに」
「……こなたくんは何者なんだい?」

こなたの知る『最近の吸血鬼』とは、漫画などに出てくくる赤いコートを着た吸血鬼なんかを指している。

「だったらさ、朝になるとやばいんじゃない? どこかの建物に入らないと」
「それが問題だね。ただ、不幸中の幸いかここには地下鉄があるから、日中でも移動することはできるかな」
「おお、ラッキーだね。……って、それ、逆に言うと月島さんを探してる人たちも、地下鉄に来るってことなんじゃないの?」

言われて初めて亮史は気づく。基本的に亮史は、『自分が周囲に与える影響』について鈍感にできていた。
それもそうだ。吸血鬼が陽射しをしのごうとするなら、最も適した施設は地下鉄の内部に決まっている。
ならば、亮史を探す舞やレレナも、地下鉄に目をつける公算は大きい。
問題は、亮史を探すだろう人間が、2人だけではないだろうということ。

「上弦さんが、地下鉄で舞さんたちと鉢合わせしたら、危ないかもね」

こなたが先回りして言った。もともと、『お約束な展開』に対する直感は鋭い。

「そうなると、地下鉄で上弦を妨害しつつ、レレナくんたちと合流しないといけない、か」
「なら、これから直行で地下鉄に行くのがベストだね。レレナさんたちがいつ地下鉄に来るか分からないし」
「いや、吸血鬼同士には『感知』が働くから、行き違いになることはないよ。
吸血鬼も幽霊も『力』を持っているから、半径百メートル以内に近づけば分かる。
だから陽が昇るまでは、地下鉄沿線の地上を捜索して、夜明け前に地下鉄にもぐった方が、効率的だろうね。
その方が見晴らしが聞くから、誰かから情報を得られる確率が上がる」
「へー、便利なんだねぇ……あ、でもちょっと待って」

吸血鬼の話に大きな瞳をきらきらさせていたこなた。
しかし途中で言葉を切り、何かを思いついたように唇に指先をあてる。

「逆に言うとさ、陽がのぼっても上弦さんが地下鉄に来なければ――事情があったのでも何でも、地下鉄に着かなかったら、上弦さんはその日中は動けないってことだよね」
「うん、そうなるね。ただ、上弦を妨害できる参加者がいるとは、正直思えないけど」
「んで、逆にレレナさんたちが夜があけても地下鉄に来なかったら――月島さんとしてはヤバいんだよね」
「そうなるね。レレナくんは半吸血鬼だから陽射しには強いけど――それでも、危険な目にあって地下鉄まで来られない可能性はある」
「そうなったらさ――わたしの支給品に、イイものがあるかもしれないよ」
「いいもの?」

さっきちらっと見えただけななんだけど――と呟きならが、こなたはディパックをがさごそと漁る。

「あった!」

目当てのものを見つけたらしく、ディパックから両手をニュッと引き抜いた。

こなたの両手が抱えていたのは、カエルだった。
見事な緑色をした、カエルとしか言いようのないものだった。
より正確にいえば、カエルの頭部だった。

「――着ぐるみ?」

続けてこなたは、ディパックの中からカエルの胴体部分を取りだした。
それはもう、大の男が楽々と着られるような、大きな胴体だった。
間接部分は何か素材が入っているらしく、両手両足の曲げ伸ばしなど、なかなか快適に行うことができそうだった。
首元まですっぽりと覆うデザインになっており、日光からの遮光性なども申し分なさそうだった。
なんでこんな着ぐるみが、あんな小さなリュックの中にすっぽり入るんだろう。
まず、亮史が思ったのはそれだった。

「これなら日中でも動き回れそうじゃん? ふもっふ!」

こなたは得意そうに、カエルの頭部を差しだしてくる。
カエルはつぶらなくりくりとした瞳で、半月の形に大きく口を裂いて、笑顔を浮かべている。
つまり着ぐるみ特有の、愛きょうがあるけど、見ようによってはとても恐ろしい表情だ。

……なるほど、確かに遮光性は充分に期待できるだろう。
そして、“日中でも日光を気にせず安全に移動できる”というメリットも、実にありがたい。
殺し合いの真っただ中で、こんなものを着ているところを見られては、別の意味で安全とは言い難いかもしれないが。

こなたは、にこにこと笑っている。
……どうやら、『殺し合いをやっている街の中を、カエルの着ぐるみを着て歩く』というシュールさに対して、自覚がないらしい。
これは、こなたという少女の感覚が、常人離れしているのか。
それとも亮史の気づかないうちに、人間のファッションセンスは進化していたのだろうか。

「……もしもの時は、お世話になろうか」

内心はいやいやながらも、亮史はこなたから手渡されたカエルを、ディパックの中にしまった。

「ところでこなた君の支給品は、その銃と着ぐるみだけなのかな。……色々とお世話になるようで悪いけど、斧か棒状の武器があればありがたい」
「お、月島さんは棒術が使えるの?」
「これでも接近戦用の武器はだいたい扱えるよ。ただ、吸血鬼のバカ力だと刀は折れることが多いから、斧や硬い棒なんかの方が、使い勝手がいいね。
シャベルのひとつでも、吸血鬼には充分な威力を出せるから」

攻撃手段としては『狼』のような変身能力もあるけれど、基本的に変身しての攻撃は加減が効きにくい。

「なるほどー。わたしに聞いたってことは、もしや月島さんの支給品はハズレ?」

そこを聞かれると、バツが悪い。

「僕にとっては、ハズレかな……大きな銃が入ってたけど、僕は銃器を扱ったことはないから。あとはよく分からない黒い宝石と、赤いボールと」
「ふーん。じゃあその宝石とボールを、私にくれないかな。もしかしたら何かの秘蔵アイテムかもしれないし」
「それは構わないけど……使い方が分かるの?」
「アイテムなんて、だいたい使い方に傾向があるでしょ?
宝石系だと、特定の状況で体力を回復させるとか。
ボールの形をしたアイテムだと、実は中に何かが入ってるとか」
「こなたくんは知識が深いんだねぇ……」
「何でもは知らないよ。知っていることだけ」

何でもないことのように答えながら、こなたは自分の支給品の、最後のひとつを確認している。
亮史は思う。吸血鬼の知識といい、最近の人間は、オカルトなものに対する造詣が深いのだろうか。
それとも、このこなたという少女が、思わぬ拾いものだったのだろうか。

「あった。これ、鉄棒っぽいんじゃないかな」

果たして、こなたの支給品には亮史の目当てが入っていた。
こなたは棒状のそれをぐっと握り、ディパックから引き出す。
そして次の瞬間、ぐらぐらとよろけた。

「うわっ。何これ、重たい。すごい重たい」
「こなたくん、大丈夫?」
「あ、ありがとー。月島さん」

亮史が背中を支えて、『それ』を受け取る。
『それ』は、長い長い鉄棒だった。
ただし、大きな青い布地が紐に繋がれて翻っていた。つまり、旗だった。
海のような青い布地に、赤いラインが一本引かれていた。
どこかの学校の部活動の、応援旗か何かに使われているようなデザインだった。

そして、なるほど重かった。
もっとも、『重い』というのはあくまで人間が持った場合に重く感じるだろうということで、吸血鬼にとっては楽々と持ちあがる軽さだったが。
材質も、重さの分だけしっかりしていて、折れたりする心配はなさそうだ。
旗の部分を取り除いてしまえば、武器として扱う分には申し分ないだろう。

この旗を使っていたチームにが聞いたら、怒りだしそうなことを考えつつ、亮史は旗の部分を結んでいる紐をほどこうとした。
夜風に煽られた旗がふわりと翻り、そこに張り付いていた説明書がひらりと落ちる。
そこには、旗の所属するチーム名が書かれていた。

「あおがくテニス部応援団旗?」
「それは『せいがく』って読むんだよ思うよー」
「こなたくんの知ってる学校なのかい?」

何気なく亮史が尋ねると、こなたはハッとしたように顔を上げた。

「あれ……? 知ってる学校みたいな気がしたんだけど。すごく有名な学校なような、でもそうじゃないような……」

初めて亮史の質問に歯切れの悪い答えを返し、こなたは『うむむ』と唸り声をあげる。
亮史はそんなこなたに首をかしげただけで、旗を外す作業に戻った。
釈然としないのは、こなたの方だった。
まるで、頭の中にトゲが引っかかっているみたいな。

(『あおがく』だったら青山学院のことなんだけどねぇ……)

この状況では学校の名前などどうでもいいはずなのに、妙に気にかかる。
まるで『本当なら知っている』はずの知識を、どうしてだか『思い出すことができなくなった』ような。

(どっかで聞いた気がするんだよねー……まあ、いいや)

例えるならば『一度読んだ漫画』のはずなのに、内容を思い出せなくなってしまったような、そんな焦燥感だった。


【F―7/住宅街/一日目黎明】

【月島亮史@吸血鬼のおしごと】
[状態]健康、『力』を微消費
[装備]青学応援団旗(旗なし)@テニスの王子様、フェイファー・ツェリザカ・ハンドキャノン(残弾5)@現実
[道具]基本支給品一式、青学応援団旗(旗のみ)@テニスの王子様、カエルの着ぐるみ@スパイラル・アライヴ、ツェリザカの予備弾(10発)
[思考]基本:ゲームには乗らない。レレナと舞を失うことに対する強い恐怖。
1.夜が明ける前後までは、地下鉄沿線を捜索
2.レレナくん、舞くんと何としても合流。並行して、こなたくんの友人も探す。
4.上弦、ツルは最大限に警戒。
※参戦時期は、5巻と6巻の間。
※こなたを、小学生ぐらいの年齢だと思っています。

【泉こなた@らき☆すた】
[状態]健康、陵桜高校の制服
[装備]違法改造エアガン(残弾10/10)@スパイラル~推理の絆~ 、モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]基本支、ゲートルードのグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ給品一式
[思考]1.夜が明ける前後までは、地下鉄沿線を捜索
2・月島さんと行動。
3.かがみやつかさ、ゆーちゃん、岩崎さん、田村さんと合流したい。
※高校三年時からの参戦です。
※オタク知識に制限がかかっている可能性があります。(程度の度合いは不明)

※亮史とこなたの名簿には、以下の人物に丸がついています。
雪村舞、レレナ・パプリカ・ツォルドルフ、柊かがみ、柊つかさ、小早川ゆたか、岩崎みなみ、田村ひより

【フェイファー・ツェリザカ・ハンドキャノン@現実】
オーストリアのフェイファー社が開発した超大型拳銃。
コスト無視、安全性も無視、人間が扱える限界をも無視して、「最強の拳銃」を作るためだけに生み出された名(迷)品。
本体重量だけで6.5kg(ロケットランチャーとほぼ同重量)。
人間の腕力で使いこなすのはまず不可能で、機関銃と同様に地面に据え置いて撃たなければならない。吸血鬼の腕力なら扱えるかも。

【青学応援団旗@テニスの王子様】
泉こなたに支給。
青学の試合で、応援要員(主に試合が回って来ない時の河村隆か桃城武)が振りまわしている大きな大きな旗。
桃城曰く、重量20キロはあるらしく、一般人が片手で持ち上げることはまず不可能。
ただし河村隆は片手で持ち上げた。さすがタカさんだ、何ともないぜ。

【ゲートルードのグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ】
まどか☆マギカ2話で巴マミが魔女ゲートルードを退治して手に入れたグリーフシード。
マミの話だと、これひとつでだいたい2回分、ジェムを回復させることができるらしい。

【カエルの着ぐるみ@スパイラル・アライヴ】
鳴海清隆が持っている着ぐるみシリーズの一作。
関節部などが動かしやすい構造になっており、実際に清隆はこの着ぐるみに乗った状態で自転車をこぐことができた。
ちなみに本編では前が見えない仕様だが、本ロワでは遮光性を保持しつつも、着ぐるみの中から外を見られるようになっている。

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最終更新:2012年02月10日 20:42
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