Mad sandwich

――その日、翁蛾健治は地獄というものが何なのか知った。
にこやかに声をかけてくれる隣人も。
気難しい近所のおじさんも。
よく遊んでいたクラスメイトも。

全て、全て奪われた。



もう彼らは、人間ではなくなっていた。
人を襲い、襲われた人は襲ったものと同じようになってしまう。
そこに一片の理性もない。
一片の知性もない。
あるのはただ、食欲という本能のみ。
ただ、逃げた。
ただただ、どこにあるのか分からない安住の地を求め、逃げ出した。
迫りくるそいつらを撃ちながら、逃げた。



逃げて、逃げて、逃げ続けて
学校へと逃げ込んだ瞬間に気が緩んだのか一気に疲労が襲ってきた――

いや、あれは疲労とかではない。
まるで催眠術にかかったかのように、目の前が一気に真っ暗になった。



悪夢は、終わらなかった。



健治は、ただただあてもなく、道なき道を歩いていた。
この場において信頼できる仲間もなく、またあのメガネの男に対抗できるような頭も持っていない健治に残された道は一つしかない。
――殺す事。
だが、健治にそれができるのかというとノーだ。
健治は良くも悪くも、普通の小学生だったのだから。
昔ピアニストになりたいと言う夢を抱いていただけの、ごくごく普通の小学生。
住んでいた町が未曽有の大惨事に巻き込まれたと言う事以外は、本当にどこにでもいそうな小学生に、「人を殺せ」なんて無理難題、できるわけがない。



どれくらい山道を歩いただろうか。
健治の目の前に一人の女性が立っていた。
その女性は――はっきりいって、異様だった。
目鼻筋の通った端正な顔は美女と呼ぶに差し支えはなかったが、その眼の奥底に潜むどす黒い鬱屈した何かが、健治の足を動かさない。
蛇に睨まれた蛙のように、健治は一歩も動く事が出来なかった。
手に持っていた薙刀も、武器としての役目よりも縋りつく心の拠り所としての役割しかなさない。

「…ねえ、あなた。」
目の前の女性が、不意に声をかけてきた。
その声は、女性特有の優しさや包容力と言ったものよりもまるで鎌のような鋭さを内に秘めており、固まった健治の足は硬直を増していった。
「康一君……知らないかしら?」
問いかけと同時に、彼女は一歩踏み出した。
その身体と同時に、その後ろに潜む闇にも似た何かが健治に向かってくる。
「ねえ。康一君見なかった?」
「……」
口の中の水分が、一気に抜けていくのを健治は覚えた。
数多くのゾンビから逃げていた時にすら感じなかった緊張と恐怖を、生身の女性から感じ取っていた。
彼女の言う『康一君』なんて名前も健治は知らなかったし、早くこの場から立ち去りたいと言う気持ちが健治には多くあった。

「……悪いが、俺がこの場であったのはあんたが初めてだ……だから康一君なんて人も知らない。」
「…そう。」



健治としては、思いつく限りの正直な事を述べただけだった。
昔学校や親に「嘘はいけない」とよく教えられていただけに、これこそが最良の答えだと、そう思っていた。

だが、それらの意見は相手が正常である場合の話。
今健治が向き合っている女性は――



一瞬でその眼に溢れんばかりの凶器を宿らせ、彼女が一歩踏み出した。
これは何かおかしい、と健治が思った次の瞬間、健治の目の前に信じられない光景が広がった。



黒いものが、のびてきた。
黒く、長く、細く、そして大量に。
それが何なのか、健治には一瞬分からなかった。
そして理解したその瞬間、健治の身体はグルグル巻きに縛りあげられていた。

「もう一回だけ聞くわ……康一君を、本当に知らないの?」
それは髪の毛だった。
長く艶のある綺麗なその髪の毛が一瞬のうちに伸びて健治の身体を巻きとったのだ。
慌てて手に持っていた薙刀を握りなおそうとしたのだが、掌には何もなかった。

「いけない子ね……これで何をしようとしていたの?」
触手のように伸びたもう一筋の髪の毛の束が、薙刀をしっかりと握りしめていた。
その切っ先を健治の顔面に向けて。

「…質問は終わっていないわよ。康一君を知らない?」
「……し、知らない!」
「…そう、なら……」



死になさい。



その死刑宣告は、健治の身体から熱を奪う。
ギリギリと縛りあげられる末端からは酸素がじわじわと失われ、意識も同時に薄れていく。
もがけどももがけども、余計に締まる髪の毛に健治はただ絶望することしかできなかった。

――死ぬのか?
こんなところで死ぬのか?
嫌だ。
こんなところで死にたくない。
誰か、誰か――

祈りは、天に届くのか。

――届いたのか。



締めつける髪の毛の力が緩んだ。
その期を逃さず、健治は失われていた空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
霞みかけた目で目の前の女性が視線を送る方向を向くと、そこには刀を構えた鎧武者がいた。
三日月をあしらった前立てに、その眼には黒い眼帯。
やや細身の身体ながらその身体からは歴戦の猛者特有の気骨が滲みでていた。
そしてその腕にあるのは、一振りの刀。



ああ、そうか。
この人は、ヒーローなんだ。
苦しんでいる人がいる時に助けに来てくれる、英雄。
悪い奴らから弱いものを守る、ヒーロー。
この人が、俺を助けてくれるんだ。

健治の頭に湧いた希望は、健治の身体に力をもたらす。
呼吸する事が出来た事によりわいてきた力を、腹に収める。
あの武者に向かって、大きな声で助けを求めるんだ。
カッコ悪くたっていい。
生きたいんだ。
俺は生きたい。
ただ、生きたい――



「――助けてくれ!!」
それは、ただ純粋な叫びだった。
生きたいと言う健治の純粋な心が生み出した、聞く人すべての心に届くような、純粋な叫び。
その叫びは、確かに鎧武者に届いていた。
そう、届いていた――



「…Shut up」

その時、健治は気付いた。
鎧武者は、剣を『持っては』いなかった事を。
それでもその剣は、確かにその右腕にある。
それはつまりは――



ばさり、という妙な音がした。
身体を、熱が駆け巡った。
視界の下の方から、紅い噴水がわき出たような、そんな情景を見た。
それが何なのか、健治は分からないまま、ひどい眠気にも似た感覚に襲われた。
不思議と、それが死だと言うものだと理解できても、痛みは何故か感じなかった。



これが、翁蛾健治という少年の最期だった。



「…妙な剣を持っているのね。」
一刀両断された健治には目もくれず、少女――山岸由花子は目の前の鎧武者に向き直る。
「…まあいいわ、康一君知らないかしら?」
「……Shut up!!」
鎧武者は聞く耳持たず、という感じで腕と同化した剣をこちらに向けてきた。
「…まあいいわ。知らないなら知らないで。あなたは強そうだけど今は見逃してあげる。」
「…Wait、お前は……」
「じゃあね。」
いつの間にか由花子の手には、小さな玉が握られていた。
そしてそこから生えている導火線に火をつけると、由花子は地面にそれをたたきつけた。

次の瞬間、大音響とともに黒煙が立ち込め、辺りは黒一色に染め上げられた。
その黒煙が晴れた時、鎧武者の前に由花子はいなかった。
そこにあったのは、健治の亡骸だけだった。



黒煙が晴れていくと同時に、意識も段々と戻っていく。
「…!?お、俺は……!?」
目の前の凄惨な死体に、鎧武者――奥州筆頭の雄、伊達政宗は混乱する。
政宗はおぼろげな記憶をなんとか引きずり出した。



あの時、真田の若虎と最期の決着をつけようとしていた自分は、幸村の待つ決戦の地に行こうとしていた。
だが次の瞬間に意識はブラックアウトし、見たこともないメガネの男から殺し合いをしろとふざけた事を言われ、それに反抗した女性が首輪を爆破されて殺された……

許せなかった。
ただ純粋に許せなかった。
あの女性は力なきもの。
それをあっさりと殺したあのメガネの男は、政宗ならずとも許すわけにはいかなかった。
だがそのメガネの男に挑もうとした瞬間にはまたも意識がブラックアウトし、気付いたら見知らぬ場所にいた。
そして腰に差していたはずの愛刀、六爪はそこには無かった。
何か武器になるものはないかといつの間にか手に持っていたデイパックを漁っていたら――刀があった。
その一振りの刀を抜いた週間に、そこから触手のようなものがのびて行き――



そこから先は覚えていない。

今政宗の前にあるのは、刀でばっさりやられた傷を持つ亡骸と、腕と同化した刀。
そしてその刀身の先からは、まだ新しい血がぽたぽたと垂れていた。





【翁蛾健治@ドラえもん のび太のBIO HAZARD 死亡】



【G-4山/1日目朝】
【伊達政宗@戦国BASARA】
[状態]:呆然、紅桜が右腕に同化している、精神汚染(中程度)
[装備]:紅桜@銀魂
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:これは、俺が……!?
   2:殺し合いを打倒したい。
[備考]:右腕を紅桜が乗っ取っています。
名簿を確認していません。

【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:薙刀@ブシドーブレード弐
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)、健治の支給品一式(アイテム未確認)、鳥の子(2個)@忍たま乱太郎
[思考]1:康一君、どこかしら?
   2:康一君の邪魔になるものは殺す。
   3:康一君を優勝させる。



【支給品情報】

【紅桜@銀魂】
伊達政宗に支給。
村田仁鉄の鍛えた妖刀を、鬼兵隊の高杉晋助が村田鉄矢と協働し対戦艦機械機動兵器へと改造したもの。
電魄と呼ばれる人工知能を有し、使用者に寄生することでその使用者を意のままに操り進化する『生きた刀』。

【薙刀@ブシドーブレード弐】
翁蛾健治に支給。
元は鳴鏡の専用武器。
全長180センチを誇る長さが売りで、間合いを置いての攻撃には無類の強さを発揮するが、懐に飛び込まれた時の動きが課題。

【鳥の子@忍たま乱太郎】
山岸由花子に支給。
鳥の子紙を張り固めて作った一種の煙玉。
火薬が詰まっており、爆音とともに黒煙が立ち込める。



038:トラブル・イン・ホスピタル 投下順 040:負けて死ね
038:トラブル・イン・ホスピタル 時系列順 040:負けて死ね
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最終更新:2011年08月20日 21:10
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