トラブル・イン・ホスピタル

病院という施設について、人は何を思うだろうか。
ある人は、恐怖を覚える。
それは幼き頃の苦い思い出であったり、病院に行くことで起こりうる注射や治療の苦痛、処方される薬の苦さが起因するもの。
だが、恐怖があっても人は病気やけがを治すために病院へと向かう。
それは、この場がたとえ『殺し合い』という狂気の沙汰が行われている場合でも変わらない。



病院のすぐ南に位置する住宅街で、二人の若者――七原秋也と白鳥隆士が話し合っていた。
互いに殺し合いに乗る気はなく、またこの殺し合いからの転覆を目指す二人の若者はまず、互いの支給品を確認する事にした。
「…僕の支給品はこれだよ。」
白鳥のデイバックから出てきたのは、無骨なリボルバーの銃と、縄の先に鋭い刃のついた見た事もない武器――縄標だった。
「白鳥さん、あんた銃を使った事は…?」
「な、ないですよ!」
「…俺、実はあるんだ。だからその銃、俺に貸してくれないか?」
「え…?」
「大丈夫だ、信じてくれ。」
白鳥としては、まだ会ったばかりの七原に銃という危険なものを渡すのは正直気が進まなかった。
だが、七原の真剣な表情、梢たちを救いたいという気持ちが、白鳥の心に決意をもたらす。
そっと、白鳥は七原に銃を差し出した。
「ありがとう、白鳥さん。礼と言っちゃなんだけど、これやるよ。」
白鳥の手に、ずっしりと重たい大鉈が渡された。
その重みに、白鳥の表情が一瞬歪む。
「…そう言えば七原君の支給品はその鉈だけですか?」
「いや、もう一つあったんだが…」
なにやらばつの悪そうな顔をしていた七原に、白鳥は不思議そうな表情を見せる。
七原はなにやら困ったような表情をしていたが、観念したかのように自分のデイパックからあるものを取り出した。
出されたそれを見た瞬間、白鳥の表情は固まった。
それは、白鳥にとって見覚えのある――いや、因縁深いと言っても良いアイテムだった。

袖と裾にフリルがついた、清楚な感じの白を基調とした長めのワンピース。
胸の嵩を増す二つのパッド。
明るい黄色のロングヘアーのカツラ。
可愛らしさを主張するアクセントとしてのリボン。

――隆子爆誕セットであった。

「全く、なんつーもんを支給するんだろうなあ、あの主催者は…」
「そ、そうだね、あははは……」
「?」
(…言えない、あれが僕が着た事のあるものだなんて絶対言えない……)
無理やり笑顔を作った白鳥だったが、その内心では滝のように冷や汗をかいていた。
尤も、隠しきれるはずもなく表にも多少汗はかいてしまっていたが。

「よし、それじゃあまずは病院へ行こうか。」
「病院…ですか?」
「ああ、病院なら人が集まるだろう。もしかしたらそこに梢さんや俺の仲間が来るかもしれない。」
「…そうか!」
七原と白鳥は、北へと向かって歩き出した。



日下兵真は、誤解されやすい人間だ。
額には×の字の傷跡があり、鋭く悪い目つきは出会う人出会う人を誤解させてきた。
それでも彼は、意外と面倒見が良かった。
というのも、彼には二人の幼馴染がいた。
無堂院疾風丸と、環樹雫。
二人ともボケボケした性格であり、幼い頃から散々周りに迷惑を掛けまくるような存在だった。
そしてその尻拭いをやるのが兵真の役目だった。
そんな過去があるからだろうか。
兵真は、自分でも気付かないうちに『困っている人を放っておけない』そんな性格になっていた。
その性格のためか、殺し合いの場において、見知らぬ男が倒れ伏しているのを見て何のためらいもなく彼を助けたのは。

(…幸い病院が近くて助かったぜ。)
兵真は、この殺し合いに乗る気は毛頭なかった。
それどころか彼は相当激怒していた。
殺し合いという腐りきった事を、桃色の髪の女性の命を奪うと言う下衆なやり方で強要させるあのメガネの男に対して。
兵真は、闘う意思を持っていた。
そして、それに見合うだけの力もまた、持っていた。
(…意外と小さいな、この病院。)
病院というよりはむしろ診療所と言った方が適切かもしれない施設だったが、無いよりはましだと兵真は男を背負い直し向かって行った。



「伊作、大丈夫か?」
「うん、もう平気だよ。この程度の怪我ならしょっちゅうだったから。」
「お、おう……」
東方仗助と善法寺伊作の二人は病院へ向けて走っていた。
先程伊作は太った男の襲撃を受け、仗助に助けられてその際スタンド能力という、未知の能力について知った。
そして仗助も、伊作が自分の生きている時代の人間ではない、と知った。
互いにカルチャーショックこそあったものの、今はそんな事に驚いている場合ではない。
今二人がいるこの場は『殺し合い』の場なのだ。
仗助も伊作も、殺し合いなんかには乗る気は毛頭ない。
二人が病院に向かっているのは、単に伊作の左腕を治療するためだけではない。
この場には自分達のように殺し合いに乗らない人間も多くいるはずだと、仗助も伊作も思っている。
そういう人たちは人の集まりそうなところに集まるだろう。
更に先ほども述べたように、この場で行われているのは『殺し合い』。
先程それをやるよう告げられ、反抗した女性が殺された。
それも、首に巻かれた首輪を爆破される、という残虐な死に方で。
荒事には慣れている伊作も仗助もあんな死には直面した事はない。
伊作はある一つの事を危惧していた。
それは、殺し合いなんかとは無関係な人があんな死を目の当たりにして、絶望から殺し合いに乗ってしまうのではないかという不安。
事実、伊作は仗助と出会う前に一回襲われた。
あの肥った男は、殺し合いに自ら乗ったと言っていたが、ああいう人間は恐らく少なからずいるだろう。
そういった人間に誰かが襲われようならば……

その時は、襲われた人を私が治す。

決意を胸に、伊作と仗助は病院へと向かった。



病院のとある一室に、彼はいた。
目鼻筋の整った端正な顔立ち、まだあどけなさを残したその少年の名は出木杉英才。
すすきが原のとある小学校に通う少年だった。
文字通り文武両道に秀で、人望も厚く性格も良い彼は、皆から好かれていた。
だが、その仮面の下に隠された本当の顔を知るものは、いない。

その本性を知った時、人は何を思うだろうか。
驚愕?侮蔑?狼狽?
あらゆる点で、その本性は表の顔からは想像不可能。

彼の本性――それはアンブレラ社のスパイにして、あらゆる犠牲をもいとわない、どす黒い『邪悪』。

「…これはドラえもんの差し金か?いやそれにしては不可解だ…とりあえず静香ちゃんとは合流しておきたいが……いや、必要ないか。」
自分と同じように、すすきが原で小学生の仮面をかぶりながら裏では非道な実験を共に行う少女、源静香もこの場に参加している。
だが出木杉はその仲間でさえも切り捨てる覚悟はできている。
あのメガネの男は天才と呼ばれ高い自分の頭でさえも分からない事を平然とやってのけた。
そういう未知の実力を有する相手に対して無為に突っ込むのは自殺行為だ。
ならばどうするか?
簡単な事だ。あのメガネの男の思惑に乗ればいい。
自分には、未来がある。
アンブレラ社でのし上がって、世界をこの手に握ると言う野望を完遂させるには他に参加している69の命など、カスより軽い。
幸い彼に支給されたのは長い三又の槍。
十分に人を殺す事の出来る、『当たり』武器であった。

出木杉は、病院という場所がスタート地点である幸運を喜んだ。
満足のいくものではなかったが、この病院には薬も包帯もある。
そして何より、病院ともなれば数多くの人間がやってくるだろう。
傷を負ったもの、仲間を探すもの。それはもう様々な人間が来ることは容易に予想がつく。
そうすればしめたものだ。
相手がもし弱ければ自ら手を下せばいいし、強かろうとも自分のような子供が殺し合いに乗っているとは思うまい。
相手の油断をつけば、十分に自分にも勝機はある。
頭を使うのはお手の物だ。
外を観察していると、顔までは確認できなかったが若い男が二人、こちらに向かってくるのが確認できた。
出木杉は内心ほくそ笑み、その二人をどう始末するか考えに入った。



「見えたぞ、病院だ。」
「誰かいるのかな…ん?あれは?」
「どうした白鳥さん?」
「…誰か来るよ。」
病院についた七原と白鳥の前に現れたのは、背中に屈強な男を背負った目つきの悪い、額に×の形の傷を持った少年だった。
その目つきと顔の傷に二人は一瞬たじろいだ。
「…なんだよ、お前ら。」
「…君は?」
「俺は日下兵真。こいつが倒れてたんでほっとけないから病院まで連れてきたところだ……あんたらはこの殺し合いには?」
「いや、乗っていない。俺は七原秋也だ。」
「白鳥隆士です。」
「そうか…俺はとりあえずこいつを何とかしなきゃいけねえから先に失礼するぜ。」
「あ、ちょっと!」
二人には目もくれず、兵真は病院内へと入って行った。
「…どうする?七原君。」
「悪い人じゃなさそうだな。殺し合いに乗ってはいないだろう。」
「そうですね。」
「それにあの背負われた男の人が心配だ、俺達も行こう。」
七原と白鳥も、兵真を追って病院へと入って行った。



七原と白鳥が病院に入ってほんの少し経った後、伊作と仗助が病院に到着した。
「薬とかあればいいんだけどな。」
「…ちょっと待って仗助くん、誰か入った跡がある。」
「何?…ああ。」
伊作が指差した入り口前には複数の足跡があった。
「足跡から見るに、少なくとも三人はいるね。」
「三人か……」
「そうだね……それに三人とは言ったけど、私は四人はいるんじゃないかと思う。」
「あ?なんでだ?」
「一人、足跡が深いんだ。凄く重い人なのか、或いは…」
「…誰かを背負って来た、とでも?」
「そういうこと。」
仗助は伊作の洞察力と観察眼に感服していた。
温和ながらもなかなか頼りになりそうだ、と思い始めていた。
「…つまり誰かを背負ってここに来たってことは、治療のためってことか?」
「そうだね、血痕は見当たらないけどそう言う事じゃないかな。それに」
「それに?」
「もう二つの足跡は一緒にここに来ていたみたいだ。こんな場で一緒に行動しているってことは…」
「俺達と同じってことか。」
「油断はできないけどね。」
伊作と仗助も、病院の中へと入って行った。



薄暗い病院の中を、七原と白鳥の二人は歩く。
「どのあたりに行ったのかな…」
「薬のあるところ…だとは思うが、それがどこなのか」
と、その時二人の目の前の部屋に明かりがついているのが確認できた。
「…案外すぐ見つかったな。」
「そんじゃ僕らも入ろうか。」
そう言って白鳥は電気の漏れているドアに手をかけた。
だが次の瞬間、白鳥の身体は固まってしまった。
「どうしたんだ、白鳥s」
(しーっ!)
七原の発言を制止すると、白鳥はそっと隙間から覗け、と手で指示した。
どういう事かと七原はいぶかしんだが、その隙間を覗いてみた風景に言葉を失った。

狭い隙間からでは全体を把握できないが、日下兵真と名乗ったあの少年が、槍を構えた見知らぬ少年と向き合っている。
そしてその手には抜かれた真剣が握られていた。
(ど、どうしよう七原君?)
(……やばいなこりゃ…)
二人とも、目の前に集中していた。
だから、後ろから来る二つの影に気づいてはいなかった。



(おい、そこのあんたら。)
(!!!!!)
飛び出そうになる悲鳴を無理やり抑え振り向くと、そこにはリーゼントヘアーが特徴の精悍な男と忍者装束を身にまとった優しそうな二人組がいた。
リーゼントの男は驚いている二人をなだめるかのようにそっと小声で話した。
(大丈夫だ、俺達はこの殺し合いには乗っていない……それよりあんたら何してたんだ?)
(あ……いやその…)
白鳥は流れる汗をぬぐうとそっと指で隙間を覗け、と指示した。
それにならい仗助と伊作は隙間を覗いた。
(……これは?)
(あの剣を持った方は悪い人じゃないと思うんだけど……)
(…どうすればいいんだ?)
(うーん……)

四人は、良い考えを出す事が出来なかった。



全く、ついてねえ。
兵真には殺し合いに乗る気はない。
というか怪我人…いや、病人か?を背負った状態で戦闘をする気もなかった。
闘う意思こそはあったものの、戦闘不能な人を守りながら戦う事など、自分にはできるのだろうか?
はっきりした答えは出せない。
今の自分がまずやらねばならない事は、この男を介抱する事。
そのために病院に入ったのに、そのために薬を探していたのに。
目の前にいたのは、まだ小学生に見える男の子。
しかもそいつは警戒していたのかこちらを見るや否や長く鋭い槍をこちらに向けてきた。
その槍の鋭さに、その向けられてきた殺気に、つい自分は持っていた真剣を抜いてしまった。
その結果が、この膠着だ。
ああもう。
どうしてこうなるんだよ……



出木杉からすれば、痛恨のミスだった。
病院で薬を見つけたという事実に警戒心が緩んだのか。
いや、何を言っても過去は変える事は出来ない。
今現時点で、自分は額に傷のある目つきの悪い男に武器を構えている。
ついさっきまでステルスに徹して行動しようと思っていたと言うのに、なんという失態だ。
しかもこの男、相当できるとみた。
ぶれていないのだ、この男は。
見た目は若いが、なかなかの手練れと見た――ってそんな事を考えている場合じゃない。
どうする、出木杉英才。
考えろ、考えるんだ。
生き残るために――



病院という施設に、人は何を思うのか。
今この殺し合いが行われている場において、病院は一際異様な殺気を、一際危険な空気を辺りに撒き散らしていた。





【C-6病院/1日目午前】
【七原秋也@BATTLE ROYALE】
[状態]:健康、困惑
[装備]:カッツェのリボルバー(残弾10)@ブシドーブレード弐
[道具]:基本支給品一式、隆子爆誕セット@まほらば
[思考]1:この場をどうする…?
   2:殺し合いには絶対乗らない。

【白鳥隆士@まほらば】
[状態]:健康、困惑、冷や汗
[装備]:才堂の鉈@クロックタワーゴーストヘッド
[道具]:基本支給品一式、縄標@忍たま乱太郎
[思考]1:この場をどうする…?
   2:梢を探して守りたい。
   3:殺し合いには乗らない。

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:この場をどうする…?
   2:伊作の怪我を早く治してやりたい。
   3:なんでクレイジーダイヤモンド一発で治らねーんだ?
   4:殺し合いはさっさと潰す。
[備考]:スタンドの力が制限されています。

【善法寺伊作@忍たま乱太郎】
[状態]:左腕にヒビ(軽度)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]1:この場をどうする…?
   2:保健委員長として、病院でけが人を治す。
   3:殺し合いには乗らない。

【日下兵真@カオスウォーズ】
[状態]:健康
[装備]:打刀@ブシドーブレード弐
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:この場をどうする…?
   2:男(本郷)をどうにかしたいのに…
   3:殺し合いには乗らない。

【本郷武尊@ブシドーブレード弐】
[状態]:気絶中、しびれ薬でしびれている。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]1:気絶中
   2:辰美と決着をつけたい。

【出木杉英才@ドラえもん のび太のBIOHAZARD】
[状態]:健康
[装備]:紅斬@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式
[思考]1:この場をどうする…?
   2:ステルスに徹したいのに。
   3:優勝する。



【支給品情報】

【カッツェのリボルバー@ブシドーブレード弐】
白鳥隆士に支給。
捨陰党に雇われた殺し屋、シュヴァルツ・カッツェの選んだリボルバー銃。
見た目は無骨だが、その威力はカッツェを満足させるだけのもの。

【隆子爆誕セット@まほらば】
七原秋也に支給。
元は桃乃恵の私物で、酔いつぶれた白鳥を女装させた時の衣裳。
元々女顔の白鳥はこれを着る事により親友さえも騙せるほどの美貌を誇る。
余談だが、白鳥は原作で二度、自分の意思で女装している。

【縄標@忍たま乱太郎】
白鳥隆士に支給。
忍術学園六年ろ組の生徒、中在家長次の得意武器。
元々は「金票」という棒手裏剣に似た武器に縄をつけたもの。
縄がついているため、外しても引き戻すことができるが、その扱いは難しい。

【打刀@ブシドーブレード弐】
日下兵真に支給。
全長98センチ、刃長73.8センチ、重量1.6キロのごく一般的な日本刀。

【紅斬@戦国BASARA】
出木杉英才に支給。
元は真田幸村の第四武器。
三又の大きな穂先が特徴的な長槍。
クリティカルヒットが出やすいのが特徴。





037:二つの黒い焔 投下順 039:Mad sandwich
037:二つの黒い焔 時系列順 039:Mad sandwich
020:ボーイ・ミーツ・ボーイ 七原秋也 :[]]
020:ボーイ・ミーツ・ボーイ 白鳥隆士 :[]]
019:リベンジャー 日下兵真 :[]]
019:リベンジャー 本郷武尊 :[]]
010:不運と、優しさと 東方仗助 :[]]
010:不運と、優しさと 善法寺伊作 :[]]
GAME START 出木杉英才 :[[]]

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最終更新:2011年08月17日 23:20
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