Deadly Silence

第五十二話≪Deadly Silence≫

中松英子って言う女を殺して銃を奪った後、俺は南下し市街地に入った。
そこで昼の放送が始まり、近くの民家の塀の陰に隠れて放送を聞いた。
正直驚いたね。もう23人も死んでいるなんて思わなかった。当然あの女の名前も呼ばれた。
俺の他にもやる気になってる奴は大勢いるみたいだな。
他の連中が殺し合って頭数が減っていくのは好都合だし大歓迎だ。
それだけ俺の生存率アップに繋がるからな。
死んだ奴の名前が呼ばれた後、禁止エリアの発表があった。
午後1時からG-2、午後2時からD-5、午後3時からB-1だそうだ。
この中で注意するべきなのはG-2が禁止エリアになる事だな。
病院とその周辺が午後1時から侵入不可になる。
今俺は市街地にいるし、エリアG-2がどこからなのかも良く分からないから、十分な注意が必要だろうな。

放送が終わり、一先ず俺は昼食を取る事にした。
デイパックから適当な食糧を引っ張り出し、包装を開けて口に運ぶ。
最初に取り出したのはハムカツが挟まれたサンドイッチだった。
このゲームが始まってからと言うもの、何も口にしていなかったからな、腹が減ったよ。


俺は机に座りながら放送を聞いた。
死者として呼ばれた名前の中に、俺の知人である女・新藤真紀の名前は無かった。
どうやらあいつは、少なくとも現在はまだ生きているらしい。
意外としぶといな……。
それで禁止エリアが発表されたが、俺がいるエリアF-2のすぐ下、病院のあるエリアG-2が午後1時から禁止エリアになるらしい。
まあ病院に行くつもりなんか元々無いんだが、市街地歩いていてうっかり禁止エリアに侵入、
なんて笑えない事にならないようにしなきゃあな。
他の指定されたエリアは俺には縁も所縁も無い、会場の端の方と山頂の所だ。特に気にする必要は無いだろう。
さてと、放送も聞いた事だし、メシも食ったし、そろそろ移動して他参加者でも探すとすっか?

俺はトカレフを携え、デイパックを肩から提げ、書斎を後にした。


食事を終えた俺は、とりあえず西に向かう事にした。
右手には女から奪った大型の自動拳銃・オートマグ。デカいし強そうだな……。
さて、次にカモになりそうな奴を探すとしようか。

しばらく西に向かって市街地を進んでみたけど、誰一人として他参加者に出会わねぇな。
遠くから銃声っぽい音は聞こえてくるんだけどな……まあ、もう半分近く死んでるんだから、
遭遇率が下がるのは無理無ぇか。
それにしても……まさかこんなゲームに自分が参加させられるなんてなぁ。
家でうるさい両親にいい子演じて、外や学校じゃ憂さ晴らしに恐喝やいじめをやってよ。
でもまさかこんな、全員で殺し合って最後まで生き残った一人が家に帰れる、
なんてとんでも無いゲームに参加させられるとは思わなかった。
あの声だけ聞こえる男は一体何考えてんだ?
まあ、どうでもいいけどよ。

そんな事を考えながら、俺はとある民家の玄関前を通り掛かった、その時だった。

ガチャ。

「!?」

民家の扉が突然開き、中から青い制服に身を包んだ、茶色い狼獣人の警官が出て来た。
向こうも俺の存在は予測していなかったのか、驚いた様子で俺を見ている。
俺も不測の出来事に一瞬動揺したが、すぐに我に返り、あの女に遭遇した時のように芝居を打った。

「う、うわあああ!! お巡りさん! 助けて下さい!!」
「うおっ」

俺は恐怖に怯えたフリをして、警官に飛び付いた。
警官なら少なくとも、一般人を保護する方向で行動しているはず。
ましてや今の俺は、非力で恐怖に怯え、助けを求める男子学生に見えているはずだ。
上手く取り入って、あの女みてぇに隙を突いて殺してやるさ。

ガスッ!

「がはっ!?」

だが、次の瞬間俺の腹に予期せぬ衝撃が走った。
二メートル弱後ろに吹き飛んだ俺は、アスファルトの路面に身体を背面から強かに打ち付けた。
その拍子に右手に持っていたオートマグが手から離れ、路上に乾いた金属音を発しながら落下した。

「げほっ、げほっ……」

腹に加えられた強い衝撃と背中を路面に打ち付けた事により、軽い呼吸困難に陥り、
俺は路上で悶え苦しんでいた。
しかし容赦無く、次の衝撃が俺の胴体に加えられた。

「ぎゃあっ!!」
「悪ぃなボウズ。俺はそんじょそこらのお巡りさんとは違うんだよ」

警官とは思えない、乱暴な口調で狼警官が俺を踏み付けながら言う。
俺とした事が迂闊だった。警官だからと言って善人である保証なんてどこにも無い。
世の中には被疑者に暴力を振るったり、無実の人を逮捕したり、賄賂を受け取ったりする、悪徳警官も大勢いる。
この狼警官はまさにそれだったのだ。
俺とした事が、相手を見誤った……!

「安心しろ。一瞬だ」

俺を踏み付けながら、狼警官が手に持っていた拳銃の銃口を俺に向ける。
……マジかよ。ここで、俺、死ぬのか?
いや、死ぬんだろうな。この狼警官の目は一寸の迷いも無いように見える。
数秒後、あの拳銃の銃口から銃弾が放たれ、俺は絶命するだろう。

……何でだろうなぁ。もうすぐ死ぬって言うのに、そんなに怖くねぇや。
いや、怖く無い訳じゃ無いけど、思っていたより穏やかな気持ちだ。
……正直、この殺し合いに優勝して家に帰れたとしても、
しつけに厳しい完璧主義者の両親がいるだけだし。
学校生活も、決して充実してるなんて言えるものじゃ無かった。

……ここで死ぬのも、アリかな。

あー、でも、俺が死んだら、あの糞みてぇな両親でも悲しんでくれんのかな?
っていうか、俺の死を悲しんでくれる奴いんのか?
学校のクラスメイトは……多分、大喜びだろうな。俺が死んで。
無理も無ぇな、散々酷い事してきたんだから。

ああ、でも、一人ぐらいは、いて欲し――


ダァン!!


鉤丸聖人の意識は、そこで途絶えた。


「オートマグねー……こいつ、威力は高ぇんだけど、ジャムが多いんだよなー」

黒学ランのボウズを殺した後、俺はボウズが落とした大型自動拳銃・AMオートマグを拾い、
ボウズのデイパックからオートマグの予備マガジンと食糧を抜き取り、
自分のデイパックの中に押し込んだ。
このAMオートマグは44AMPっつーマグナム弾を使用する自動拳銃なんだが、
動作がかなり不安定で、しょっちゅうジャムったりすっからあまり多用するようなモンじゃねぇな。
あージャムってのは装弾不良と排弾不良の事だ。パンに塗るジャムじゃねぇぞ。
まあ高威力なのは魅力的だしな、貰っておく事にしたんだ。

さて、と、これで三人目だ。
そろそろ市街地に人はいなくなってきたか?
ここは一つ発想を変えて、山――森の方へ行ってみるとするか。

俺は市街地東北、森林地帯へと向かう事にした。


【一日目/日中/F-2市街地】

【須牙襲禅】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(5/8)
[所持品]:基本支給品一式、ベレッタM92(15/15)、ベレッタM92の予備マガジン(15×9)、
トカレフTT-33の予備マガジン(8×9)、コルトM1900(7/7)、コルトM1900の予備マガジン(7×9)、
AM オートマグ(7/7)、オートマグの予備マガジン(7×10)、三人分の水と食糧
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る。人を撃つのを楽しむ。
1:市街地北東方面の森林地帯に行ってみる。
2:真紀の奴は……まあ、ほっとくか。
3:女憲兵(松宮深澄)は次に会ったら確実に仕留める。



【鉤丸聖人  死亡】
【残り25人】


※F-2一帯に銃声が響きました。
※F-2浜田家門前に鉤丸聖人の死体、鉤丸聖人のデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式入り)が放置されています。




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最終更新:2009年11月21日 18:16
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