決意、新たに

第四十八話≪決意、新たに≫

『それじゃあ、また次の放送でお会いしましょう! さようならー!』

妙な抑揚を付けた男の声が途絶えた。どうやらこれで放送は終了したようだ。
エリアE-5に存在する、純和風の温泉旅館。
その客室の一つで、俺――大崎年光と、陸軍兵士の狼獣人・北原さん、
途中で仲間になった元気な老人・山本さんは、第一回目の放送を聞いた。
放送が終わり、俺達三人は険しい表情を浮かべながら黙り込んでいた。
あれ程明るい表情を浮かべていた山本さんも例外では無い。

「23人って……たった6時間の間に、50人もいた参加者の内、23人も死んだと言うのか……。
いくら何でも死に過ぎじゃろ……」

ショックを受けたという様子で言う山本さん。
俺も北原さんも同じような気持ちだった。
放送で呼ばれた犠牲者の名前は23人。
その中には、俺が殺した赤竜人、山頂から和平を呼び掛けた連中の名前も含まれているはずだ。
テレビとかでよく目にした長谷川投手も死んじまったらしい。
ファンが大勢いるってのに、悲しまれるぞこれは……俺はファンでは無いが。
しかし、確かに山本さんの言う通り、まさか全体の半数近くが死んでいるとは、
思ってもみなかった。精々、10人かそこらだと踏んでいたんだが……。

「あの男の思惑通り、順調に進んでるって訳だな」

俺は売店で失敬した煙草とライターで一服しながら言った。
別に悪気も何にも無く、何の気無しに言った一言だったんだが、
悪い事に熱血狼君と元気ジジイの不興を買っちまったらしい。

「……そんな言い方、無いだろう?」

北原さんが俺の方に視線だけ向けて言う。
声は静かだったが、その目と語気には明らかに怒りが籠っていた。
山本さんは何も言わなかったが、やはり非難の視線を俺の方へ向けている。

「……悪かったよ。配慮に欠けた発言だった。取り消すよ」

俺は煙草を灰皿に押し付けながら詫びた。
確かにちっと配慮に欠けてたかもな……。

「いや……いい」

北原さんと山本さんはどうやら怒りは収まったようだ。
こんな些細な事で喧嘩別れ、なんて展開は俺だって望んじゃいない。

「禁止エリアは午後1時からF-2、午後2時からD-5、午後3時からB-1だったな。
どうやらこの温泉旅館と、これからの予定ルートは入っていないみたいだ」

北原さんが地図に書かれた赤丸と時刻を指差しながら言う。
指定された時刻以降にそのエリアに侵入すると、首輪が作動するという禁止エリア。
幸い俺達がいる温泉旅館と、これから通ろうとしているルートは入ってはいない。
G-2は市街地内で、病院とその周辺。この島唯一の医療施設のようだが、それが1時間後には使用不可になる。
D-5は山頂。和平を呼び掛けようとした連中がいた場所だ。
B-1は特に何も無い。すぐ隣のB-2には軍事施設跡があるらしいが、B-1自体は地図を見る限り海と僅かな陸地のみ。
こんな場所を禁止エリアにして何か意味があるのだろうか。
それともコンピューターか何かが作為に選んでいるのか? まあどっちでもいいけどよ。
とにかく当面の行動に支障は無さそうだ。目的地の市街地の一角が禁止エリアになるが、
病院を避けるようにすれば恐らく大丈夫だろう……多分、な。

「禁止エリアの場所と地図を照らし合わせてみる限り、当面の行動には差し支え無い。
十分休んだ事だし、そろそろ行動を起こすべきだと思うが、大崎さんと山本さんはどう思う?」

北原さんが俺と山本さんを交互に見ながら尋ねる。

「いや、もう動くべきじゃろ、どう考えても」
「これ以上人数減ったら、マジでやばいしな……もうここを出た方がいい」

もう答えは決まっていたと言うべきか。
たった6時間で23人死ぬという事態。次の放送までに何人死ぬ事か。
人数は減っているから死亡率は少しは低くなるとは思うが。
しかし、もしかしたら、俺らを除く24人の中に、脱出方法を見付ける鍵となりそうな奴がいるかもしれない。
そういう奴まで死んだら、もはや脱出は絶望的となる。
そうならないためにも、早めに行動するのが良いだろう。
さっき呼ばれた23人の中にそういう奴が含まれていなければ、の話だが。
少しでも明るい方向に考えなきゃしょうがねえよな。うん。
俺、北原さん、山本さんは、自分の荷物をまとめ、出立の準備を始めた。
食事はさっき済ませた。基本支給品の食糧でな。
コンビニおにぎりとか惣菜パンとかそういう物ばっかだったな。マズくはなかったが。
俺は九四式拳銃をズボンの脇腹の辺りに挟み、上着で隠して見えないようにし、
デイパックを提げ、手斧を右手に持つ。
山本さんは金属バット(聞いた所によると金属バットは自分の支給武器では無く、
途中に立ち寄った廃屋群で拾ったとの事だ)、
北原さんは赤竜人から鹵獲した357マグナムリボルバー・コルト パイソンを装備する。

旅館の正面玄関から、旅館の外へと出る。
周囲は新緑色の広葉樹が生い茂り、鳥の鳴く声も聞こえ、実にのどかな雰囲気だ。
自分達が提げている黒いデイパックと、手斧やら金属バットやら拳銃といった武器、
そして首にはめられた死の首輪さえなければ。

「それじゃあ、行こう」
「おお」
「ああ」

俺達三人は、再び市街地に向けて歩き出す。
脱出への糸口が断たれない内に。
手遅れにならないように。


まさか、23人も死んでいるとは……ゲームが始まってから6時間の間に、一体何があったって言うんだ?
そんなに大勢の人が殺し合いに乗っているって言うのか、あの俺を殺そうとした赤竜人のように。
それとも、山頂から呼び掛けを行っていた人達を全員殺した奴のような、
一気に大勢を葬る程の実力を持った参加者が多数いるのだろうか。

「あの男の思惑通り、順調に進んでるって訳だな」

煙草を吹かしながら大崎さんが言った一言。
配慮に欠けているとも取れる発言に、俺は一瞬怒りを覚え、つい大崎さんに対し語気を強めてしまったが、
確かにこの殺し合いの運営側の思惑通り、上々のペースでこの殺し合いは進んでいる。
最初の放送までの6時間で全参加者の半数近くが脱落したのだ。
これを上々のペースと言わずに何と言うのか。
俺は少し楽観的に考え過ぎていたのかもしれない。
市街地周辺を中心に、同じ考えを持つ仲間を集め、脱出手段を探るのが最終目標。
だが、俺達を除く残り24人の生存者の中に、俺達と同じ考えの者が後どれだけいるのか。
また、24人の中に、この首輪を解除出来る能力のある者が、脱出の方法を見出せる者が果たしているのだろうか。
――もしかしたら、もう既に――。

いや、駄目だ。後ろ向きに考えていても何も始まらない。
考えてもみろ、まだあと24人も生き残っている。まだ希望はあるはずだ。
仲間だっている。大崎さんと山本さんだ。
大崎さんは武器の扱いや状況判断能力に優れている。
山本さんは……まあ、ムードメーカー的な存在だ。
絶対にこんな理不尽な殺し合いから脱出してみせる。
あの男の思い通りにさせてたまるか。
まだ――まだ、諦めるには早過ぎる。


23人死んだと、放送で言われた時、わしゃ一瞬目の前が真っ暗になった。
たった6時間もの間に、23人もの命が失われた事実。
殺し合いに乗った者、逃げ惑った者、殺し合いを破壊しようとした者、狂った者――色々いたじゃろうなぁ。
あの長谷川投手まで……孫がファンじゃったというに……。
あの教室で見た限り、参加者の殆どは中高生或いは若者ぐらいの年の者がほとんどじゃった。
わしは恐らく参加者の中で最年長じゃろう。
全く、死ぬのは年寄だけで十分じゃろうが……!
あの主催者と思しき男は許すまじ。謝罪の余地など全く無いぞ!
死んでいった者達のためにも、何としてもこのゲームを破綻させなくてはならんな。
絶対に家族の元に帰ると心に誓ったじゃろわし。
老人だからと侮るなかれ北原さん、大崎さん。
この山本良勝、老いてなお盛んなり!


三人がそれぞれの思いを抱きながら、再び殺し合いの場へと身を投じていく。
彼らの未来にあるのは、希望か、それとも、絶望か。


数分後。

「ゼェ、ゼェ、す、すまん、どっちかでいいから、おぶってくれええええ!!」
「山本さん……(呆)」
「立てー!! 立つんだハゲ!!」

先程自分の心中で「老いてなお盛んなり」などと豪語していた老人・山本良勝は、
山道を歩いている途中、予想を遥かに超える疲労感を感じ、遂に歩行停止。
北原大和、大崎年光の二人に「疲れて動けないのでおぶってほしい」と嘆願していた。
大和は呆れた様子で良勝を見つめ、年光は怒り良勝に容赦無く鞭を与える。

「嫌じゃい! 嫌じゃい! おぶってくれなきゃ嫌じゃい!」
「山本さん……(呆)」
「リアル子泣きジジイかテメェは!! 甘えを捨てろ!!」

……ホントに大丈夫か、こいつら。


【一日目/日中/E-6温泉旅館周辺の山道】

【大崎年光】
[状態]:健康、山本良勝に対する呆れ、怒り
[装備]:手斧
[所持品]:基本支給品一式、九四式拳銃(2/6)、九四式拳銃の予備マガジン(6×6)、
織田信治の水と食糧(水一本と食糧半分、食糧1/2消費) 、織田信治の首輪
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。そのためにも仲間を集める。
1:立てー!!
2:山を迂回し市街地を目指す。
3:北原さん、山本さんと行動を共にする。
4:襲い掛かってきた者はまず説得。駄目なら殺す。

【北原大和】
[状態]:左肩に銃創(応急処置済)、返り血(中)、山本良勝に対する呆れ
[装備]:コルトパイソン(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、357マグナム弾(47)、織田信治の水と食糧(水一本と食糧半分)
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。そのためにも仲間を集める。
1:山本さん……。
2:山を迂回し市街地を目指す。
3:大崎さん、山本さんと行動を共にする。
4:襲い掛かってきた者はまず説得し、無理なら戦闘もやむを得ない。

【山本良勝】
[状態]:全身に軽度の打撲、擦り傷、疲労(大)
[装備]:古びた金属バット
[所持品]:基本支給品一式、双眼鏡
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:わしを☆おぶって
2:北原さん、大崎さんと行動を共にする。
3:仲間を集める。
4:首輪を外す方法を探す。




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最終更新:2009年11月09日 23:35
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