陽が昇る

第四十三話≪陽が昇る≫

酒場のカウンター席に腰掛けながら、
シェパード種犬獣人の婦警・一色利香は、コップに入れたウーロン茶を口に注ぐ。
決して焼酎のウーロン茶割りなどでは無い。
喉が渇いたのだが基本支給品の水では少し味気無いため、
調理場の冷蔵庫の中に入っていたウーロン茶を飲んでいたのだ。
店主の許可など無いため窃盗に当たるかもしれないと、少し気が引けたが。
利香の隣では眼鏡を掛けたフリーカメラマン・富松憲秀が、見つけた週刊誌を読んでいる。
奥にある和室では、泥酔食道オヤジ・川田喜雄が未だに眠りこけていた。
随分イビキの音量は収まったようだが、起きる気配は無かった。

この酒場内に身を潜めてから、酒場内を探索したが、
武器になりそうな物は調理場にあった万能包丁ぐらいで、
役に立ちそうな物は見当たらなかった。
もっとも、酒場と民家が一体化したような建物にサブマシンガンやライフルといった強力な武器があるのは、
それはそれでおかしいが。
奥でイビキをかいて寝ている食道の主人風の中年男性は、アサルトライフルに長剣という、
非常に強力な武器を支給されていたが、
あくまでそれはあの男性の物。勝手に貰う訳にはいかない。
発見した万能包丁は、ロクな支給品が無かった憲秀が武器として装備した。

「それ、富松さんが撮った写真?」

利香が憲秀が開いている週刊誌のページに掲載された、
野鳥や野川の写真を指差して尋ねた。
写真の端には小さく「撮影:富松憲秀」と書かれている。

「ええ。これで生計を立ててます。家族を養える程度には稼いでますよ」

恥ずかしげに笑みをこぼしながら言う憲秀。

「写真、好きなんですか?」
「そうですね。父がよく写真を撮っていて、小さい頃からずっとそれを見てましたし、
それに、その瞬間の映像がずっと残るっていいな、と思うんですよ。写真って」
「あ~、何となく分かる気します」

実はあまりよく分かっていない利香。
憲秀も薄々その事は察知したのか、あまり話し込む事はしなかった。

「……もうすぐ、お昼ですね」

憲秀がカウンターの上に置いてある、基本支給品の時計を見ながら言う。
昼の12時になれば、この殺し合いの運営側からの放送がある。
ゲーム開始から最初の6時間。恐らく、いや間違い無く、犠牲者は出ているだろう。
そして、侵入すると首輪が作動するという、禁止エリアも発表される。
聞き逃す訳にはいかない大事な放送だと言う事は二人は理解していた。

「たった6時間なのに……すごく長く感じる」
「きっと、気のせいじゃ無いですよ……」

この6時間、自分達は襲撃される事も無く平穏に過ごす事が出来た。
しかし、それは自分達がたまたま、運が良かっただけの話。
襲撃者に襲われ、逃げ惑う羽目になった者、負傷した者、命を奪われた者もいるだろう。
一体何人が落命しているのだろうか。
とにかく、一色利香、富松憲秀、そして奥で眠っている川田喜雄の三人は、
最初の6時間を生き延びる事が出来そうだ。
だが、その次の6時間を生き延びる事が出来る保証は、どこにも無いし、
誰も保証する事など出来ない。


【一日目/昼前/B-3/酒場】

【一色利香】
[状態]:健康
[装備]:金槌
[所持品]:基本支給品一式、除草剤
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。殺し合いに乗っていない人々の救助。
1:放送を待つ。
2:富松さんと行動を共にする。
3:あの泥酔状態の中年男性(川田喜雄)が心配。
4:殺し合いに乗っている人に出くわしたら、まず説得。駄目なら戦う。
5:首輪を解除する手段を探す。
[備考]
※泥酔中年男性(川田喜雄)のデイパックの中身を確認しました。

【富松憲秀】
[状態]:健康
[装備]:万能包丁
[所持品]:基本支給品一式、ヨーヨー、セメダイン
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。
1:放送を待つ。
2:一色さんと行動を共にする。
3:あの泥酔状態の中年男性(川田喜雄)が心配。
4:殺し合いに乗っている人に遭遇したら正当防衛の範囲での攻撃はやむを得ない。
[備考]
※泥酔中年男性(川田喜雄)のデイパックの中身を確認しました。

【川田喜雄】
[状態]:泥酔、爆睡中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ツヴァイハンダー、ハーネルStG44(30/30)、ハーネルStG44の予備マガジン(30×10)
[思考・行動]
基本:???
1:爆睡中
[備考]
※泥酔しながら寝ているため揺さぶっても声を掛けても起きません。後どれくらいで起きるのかは不明です。
※一色利香、富松憲秀の二人を認知していません。


「あー、身体中が痛ぇ……特に首が痛ぇ。大丈夫か、陵華」
「何とか、ね……痛たたたた……骨が痛い……」

所変わってB-4の路上。フラフラと歩く二人の人影があった。

「まさかタイヤがパンクするなんてよー、ツイてねぇなぁホント。
手榴弾持った奴に襲われるしよー」
「愚痴言ってもしょうがないでしょ……でも、シートベルトしといて良かったわね。
してなかったら、もしかしたら死んでいたかも」
「だな……シートベルトの必要性を改めて認識したわ、俺」

つい一時間程前だろうか、B-8の豪邸で襲撃者の手榴弾による爆襲に遭った四宮勝憲、金ヶ崎陵華の二人は、
豪邸にあった高級車・S110型クラウンにて豪邸を脱出し、襲撃者の魔手から逃れた。
逃れたまでは良かったが、何の因果かB-4路上でクラウンの右前輪のタイヤがバースト。
制御不能に陥り進行方向左側の森林地帯の木に衝突、クラウンは大破してしまった。
その時、二人はシートベルトのおかげでどうにか一命を取り留めた。
陵華の言う通り、もしシートベルト未着用だったならば、衝撃でインパネ或いはフロントガラスに叩き付けられ、
最悪の場合即死、良くても大怪我は免れなかっただろう。
この事故は二人にシートベルトの必要性及び重要性を再認識させる事となった。

事故後二人は何とか大破したクラウンから這い出したが、数歩歩いた所で仲良く気絶。
約一時間程経過し、ようやく意識を取り戻したのだった。
時計を見れば、後40分程で昼の12時、第一回目の放送がある時刻になる。
死亡者の人数、氏名や入ると首輪が爆発すると言う禁止エリアの発表が行われるという大切な情報源なので、
その前に意識が戻ったのは良かったと二人は思った。

しかし、木に車のフロント部分が大破する程の勢いで衝突すれば流石に無傷では済まされない。
勝憲、陵華の二人共、身体中に軽度の打撲を負っていた。
動く分には問題無いが、かなり辛かった。

「とにかくよ……この先に酒場あるみてぇだからさ、そこ行って休もうぜ。
放送も聞かなきゃなんねぇし」
「そうね……」

二人はエリアB-3に存在する酒場に向かう事にした。

「……」
「……追って、来てはいない、みたい」

勝憲と陵華は後ろを振り返り、遠くを見つめる。
よく見れば、豪邸の方角から煙が上がっているのが見える。
恐らくあの爆撃のせいで火災が発生したのだろう。
あの襲撃者が追ってくるのでは無いかと心配したが、どうやらその気配は無いようだ。

「そう言えば、四宮さんが見た女の人って、どんな感じだった?」

陵華が勝憲に尋ねたのは、恐らく自分達を襲撃したと思われる、勝憲が目撃したという女性の事。

「ああ。緑色の長い髪でよ、綺麗なねーちゃんだったぜ。白いシャツと青っぽいスカート履いてたな。
何か、野球帽みてーの被ってたぜ」
「野球帽? ふーん……気をつけなきゃね」
「もう二度と会いたくねぇよ。手榴弾持ってる奴となんか戦いたくねぇっつの」

勝憲がうんざりといった感じで言う。
確かに、あんな威力の兵器を持つ敵とは出来る事なら二度と交戦したくは無いだろう。

「あー、歩きキツイなー」
「頑張ろ。四宮さん」

勝憲と陵華は、痛む身体に鞭を入れながら、エリアB-3の酒場を目指し歩みを進める。


【一日目/昼前/B-4道路】

【四宮勝憲】
[状態]:全身打撲(軽度)、B-4酒場へ移動中
[装備]:FN FAL(20/20)
[所持品]:基本支給品一式、FN FALの予備マガジン(20×10)
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る気は無いが、襲い掛かってくる奴は殺す。
1:B-4酒場へ向かう。
2:陵華と行動する。
3:麗雅と美琴の捜索。
4:あの緑髪の女(新藤真紀)には二度と会いたくない。
[備考]
※支給されたFN FALはセミオート限定モデルです。
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。

【金ヶ崎陵華】
[状態]:足に軽い擦り傷、全身打撲(軽度)、精神的疲労(中)、B-4酒場へ移動中
[装備]:コルトM1908”ベストポケット”(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1908の予備マガジン(6×10)、カッターナイフ、ニンテンドーDS、
ニンテンドーDS用ゲームソフト(4)、調達した食糧及び飲料、牛刀包丁
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:B-4酒場へ向かう。
2:四宮さんと一緒に行動する。
[備考]
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。



また所変わって、C-7の砂浜沿いの道路。
レッドカラーのLA4型ルーチェにもたれながら海を見つめているのは、
野球帽を被り、艶やかな緑色の髪を潮風になびかせる女性・新藤真紀。
一時間程前、四宮勝憲、金ヶ崎陵華のいる豪邸を手榴弾で爆襲した張本人である。

「……改めて見ると、海って綺麗ね……ここ最近、海なんて行ってなかったし」

浜辺に打ち寄せる波、太陽に照らされ輝く海原、果てしない水平線。
ここが殺し合いの舞台だと言う事を忘れそうな、美しい光景である。

「それにしても、車が手に入るなんて……ツイてるわね」

真紀がもたれかかっているルーチェは、元々は今遠方で黒煙を上げながら炎に包まれている
豪邸のガレージに駐車されていた物だった。
豪邸にて標的はガレージに駐車されていた車を使って逃走したのだが、
そのガレージの中を真紀が覗いてみると、そこにはもう一台の車――このLA4型ルーチェが駐車されていた。
ロックされていたが、ガレージ内の壁にキーが掛けられていたので、難なくロックを解除。
こうして移動能力を飛躍的に高められる車の入手に成功したのである。
ルーチェの入手後、取り逃がした標的を追撃する事も考えたが、
そこまで拘る事も無いと思い、標的が逃げて行った方向・西方面とは違う、北方面に車を走らせる事にした。
途中、綺麗な砂浜と海が見えたので、車を道路に停め海を眺めていたのだ。
ふと、真紀はデイパックから時計を取り出し、時刻を確認する。
後40分程で昼の12時になる。運営からの放送がある時刻だ。

「もう、ゲーム開始から6時間経つのね……」

この殺人ゲームが始まって6時間。一体今、何人が死に、何人が生き残っているのだろうか。

「……アイツの名前、呼ばれたら拍子抜けね。
べ、別に心配な訳じゃないんだからね!」

知人である狼警官・須牙襲禅の事を思い出す。
特に心配な訳では無いが、やはり安否は気になる所であった。

「ハァ……とにかく、放送はちゃんと聞いておかなきゃね……」


【一日目/午前/C-7浜辺沿いの幹線道路】

【新藤真紀】
[状態]:身体中に掠り傷及び軽度の打撲(応急処置済)
[装備]:二六年式拳銃(6/6)、長谷川俊治の野球帽
[所持品]:基本支給品一式、9㎜×22R弾(32)、 サーベル、ラドムVIS-wz1934(5/8)、
ラドムの予備マガジン(8×9)、マークⅡ手榴弾(3) 、長谷川俊治の水と食糧(食糧1/5消費)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。積極的に他参加者と戦う。
1:放送を待つ。
2:知人(須牙襲禅)とは出来れば会いたくない。
3:標的を逃がすようなヘマはしたくない。


※B-3酒場内和室に川田喜雄が寝かされ、
脇に川田喜雄のデイパック(基本支給品一式、ツヴァイハンダー、ハーネルStG44(30/30)、ハーネルStG44の予備マガジン(30×10)入り)が置かれています。
※B-4に大破した車が放置されています。
※B-8豪邸は全焼しました。




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最終更新:2009年11月07日 15:11
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