「別に友達じゃねーよ」

世の中の出来事には、二種類ある。
諦められることと、諦められないこと。

「おい……どうなってんだよ。この名簿は……」

そして佐倉杏子は、諦めた人生の方が賢い生き方だと知っている。
他人と関わることを諦めれば、他人の為に力を使う必要もない。
他人の為に力を使うことを諦めれば、自分が傷つく必要もない。
だが、そうだと分かっていても、諦めきれないことはある。

例えば、会う度に喧嘩ばかりしていた相手を助けたくなって、勝算の薄い戦いを挑んでしまったり。

「……また、キュゥべえの胡散臭い企みか?
でもアイツは、死人を生き返らせたり魔女を魔法少女に戻したりは出来ないって言ってたよな。
まぁ、それが本当なのかも怪しいか」

けれど、どんなに足掻いても覆せない“掟”があることも、杏子はまた悟っていた。
例えば、死んだ人間は生き返らない。
世の中に魔法が存在したとしても、死んだ人間を生き返らせることはできない。
しかし、杏子が呼ばれた『殺し合い』の参加者名簿には、確かにその二つの名前が書かれていた。

巴マミと、美樹さやか。

「さやかは置いとくとしても、マミは確かに死んだはずだ。
まぁ、それを言ったら、魔法少女の時点でもう死人みてーなもんだけど。
……でも、もし、死んだ奴が生き返ってるとしたら、さやかは『どっち』で呼ばれてるんだ……?」


杏子は、美樹さやか『だったもの』のところへ向かう途中で、あの“魔女の結界”に似た空間に飛ばされていた。
今の彼女は、美樹さやかであって、美樹さやかとは言えない生き物になってしまっている。
『あれ』が『美樹さやか』という名前で殺し合いに参加しているとは……考えにくい。
あれには美樹さやかの意思は存在しないだろうし、そもそもあの巨大な魔女があんな広間にいたならば、目立つどころじゃない。

それに、もし『死んだ人間が生き返る』ような奇跡が起こるのだとしたら、さやかが元の姿で参加している、ということもあり得るのかもしれない。

しかし、『死人が生き返った』などという説を信じられるほど、杏子という少女の半生は甘くなかった。
それが可能なら、杏子だってずっと後悔のない生き方ができただろう。
いくら特殊すぎる環境とはいえ、そんなご都合主義を簡単に受け入れることはできなかった。
しかし、仮に今のままの姿で呼ばれているとしたら、それはそれで問題だ。

「もし、あの姿のままでいたら、ヤバいよな……」

『実験に対してどう行動するか決める』と『さやかを助ける』を二つとも行わなければならない。

杏子は、美樹さやかを取り戻すことを、諦めたくなかった。
たとえここが戦いの場だとしても、その方針は変えたくない。
馬鹿なことをしているのは知っている。

「助けられないとしたら、ほっとくか?」

さやかの親友に尋ねた問いかけを、杏子はそのまま己に向かって自問する。

この期に及んで『愛と勇気が勝つストーリー』を夢想するほど、杏子は愚かではない。

けれど、いつだって、『夢を見たくなる時』と『諦めたくない時』は一致してしまうのだ。

でもこの『実験』の中では、例え奇跡が起こってさやかが助かったとしても、それでハッピーエンドというわけにはいかないのだ。
例えば、都合よく元に戻ったさやかと会えたとして、『無事で良かった良かった。じゃあ一人しか生き残れないから、殺し合いましょう』というわけにはいかない。

なら、さやかを助けると決めた時点で、杏子は殺し合いに乗らない選択をすることになるのだろうか。
それこそ、いつもの杏子らしくないことだ。

グリーフシード欲しさに使い魔を野放しにした時のように、己の為に多くの参加者を蹴落として生き残るか。
それとも、さやかの主張する『魔法で人を助ける』正義に同調して、『実験』に反抗するか。

その選択を、無謀なさやか救出計画の延長でそのまま後者に委ねてしまっていいものか。
かと言って、『成功する確率がますます低くなったからさやかを救うのを止めます』などと言い出す気もしない。
こちとら、そんな生半可な同情で命を賭けているわけではないのだ。
じゃあ、どんな気持ちでさやかを助けようとしているんだ、と聞かれると困るのだけど……。

「まぁ、後のことはさやかを見つけてから考えればいいか。……ここに魔女がいたら、それこそ人間同士で殺し合ってる場合じゃなくなっちまうしな」

こんな風に延々と悩んでいる内に、さやかが殺されてしまったらそれこそ本末転倒だ。まずは考えるよりも動くしかないだろう。
それに、仮に魔女の姿で参加しているとすれば、さやかの肉体は杏子が借りたホテルの一室に安置されているはずだ。
魔女化したさやかからソウルジェムを取り戻すなり他の方法で魂を元に戻すなりすれば、殺し合いの結果いかんに関わらず、さやかは殺し合いをせずして見滝原に戻れるということになる。
(まぁソウルジェムが戻って来た場合、誰かがそれを見滝原に持ち帰らなければという問題はあるのだが)

なら、まずはとにかくさやかを探すこと。
そして、できればさやかと合流する前に、鹿目まどかも見つけること。
まどかの力を借りるのは、当初のさやか救出計画の予定通りだし、何より一般人の彼女が、こんなサバイバル環境のなかでいつまで無事でいられるかという懸念もある。
それに、あの不思議と邪気のない少女なら、こんな状況下でも親友を助ける為に動いてくれるだろう、という直感もあった。



そして、当面の問題に戻るわけだ。


「お前、使い魔……ってわけじゃねぇよな?」


『支給品』として出て来た、その巨大なカラスにそう話しかけた。
カラス――なのだろう。少なくとも、杏子の知る限りの生き物で例えるとしたら。
大きさは杏子の膝くらいまであるし、頭部に帽子のつばのような巨大なトサカが生えているけれど、それ以外の形は割とカラスに近い。
『ヤミカラス』と、説明書にはそういう名前で書かれていた。
そして、持ち主――『モンスターボール』という謎の収納道具を持っている限り――の言うことは、基本的に何でも聞いてくれるらしい。
どういう生き物なのかはよく分からないけれど、もしや当たりを引いたかもしれない。
杏子の目的は人探しだ。
特に当てはないが、さやかが魔女化している可能性も考えるなら、ひとまずソウルジェムの魔力反応を頼りに、魔女の出没しそうな市街地を探すことになるだろう。
幸い、杏子のスタート地点はD-4を流れる川の南岸であり、少し南下すればすぐに住宅地に出られる。
その間に、このヤミカラスには北部の森林を捜索してもらおう。
単純に人手が倍になるのは助かるし、空を飛んで探せば、視界の聞きにくい樹海の中でもより迅速に見回りができる。

「ジェムがなきゃ魔女は探せないから、こいつには鹿目まどかと人間の姿のさやかを探してもらうか。
……こいつにどんだけ言葉が通じるのか分からないけど」

『ヤミカラス』は杏子の方を、何だか胡散臭そうに見ている。
命令は聞く仕様らしいが、かと言って人懐っこい生き物というわけでもなさそうだ。
こんな真夜中に一羽きりで放り出して、大丈夫なのか。
狙撃でもされた時は自衛ができるのか。飛行速度は、戦闘能力はどの程度なのか。

まぁこればっかりは実際に使って慣らしていくしかないか、と杏子は思案し、


「お前、シルバーのヤミカラスじゃねえか!」


驚きと喜びの入り混じった声が、杏子の鼓膜を叩く。
振り返ると、つり目の少年と目が合った。



☆   ☆

「つまりこのカラスの飼い主はシルバーって奴だから、そいつに返してやれって言いたいのか?」
「飼い主じゃねえよ。ポケモントレーナーだよ」
「だからそのポケモンっていうのがよく分かんねえんだって……」
「ポケモンはポケモンだろ。ポケットモンスター略してポケモン」

イマイチ噛み合わない会話に、毒気を抜かれて溜息をついた。
あまりにも無警戒かつ馴れ馴れしい少年に、半ば拍子抜けし、半ばイラつきながら。
まだ子どもだった。少なくとも、どう見ても小学校は出ていない年齢だ。
赤いパーカーにゴーグルのついた帽子、そして鋭い三白眼の金色の瞳が、なんだか『柄の悪そうな』印象を無自覚に与える。
(柄の悪さで言えば杏子も似たようなものかもしれないが)
『ゴールド』という名前からして外国人なのだろうが、それにしてはずいぶん流暢に日本語を話している。
そして、どうも互いの常識に齟齬があるというか、『ポケモン』という生物を一般常識であるかのように話し、どうにも噛み合わない。

住む世界が違うのは、知識だけではない。

支給品と『顔見知り』だったからと言って、杏子を見る限り無警戒に声をかけるのはどういうことだろう。
美樹さやかや鹿目まどかのように、誰かを糧にして生き延びることも糧にされることも、考えもしない人種なのだろうか。

「あんた、今の状況分かってるのか? 殺し合いなんだぞ? つまり蹴落とし合い。
こんな状況で、他人にタダで支給品を施してもらえると思ってるのか?」
「だーかーらー、この殺し合いではどうだかしらねーけど、本来ポケモンは、トレーナー以外の命令は受け付けない仕様になってんだよ。
つまり、ポケモンにとってトレーナーと離されるのはそんだけ嫌だってこと。だから俺はこいつを元のトレーナーに返してやりたいんだよ」
ゴールドは地べたにあぐらをかいて座り、ヤミカラスの頭をなでている。
ヤミカラスの方も、知った顔らしくゴールドには懐いているようだ。

……いや、戦いと縁のない一般人の子どもなら、むしろこれが普通なのかもしれない。

最初に参加者名簿を見た限り、明らかに魔法少女じゃない奴ら――どう考えても『少女』じゃない名前――の参加者は大勢いる。
杏子たち魔法少女のように、戦いを日常として生きる存在ならともかく、平和な家庭で何不自由なく生活できるような一般人もいるだろう。
それこそ、鹿目まどかのような。
そんな連中がいきなり『殺し合い』をしろと言われて『なるほど、そうしなきゃ生き残れないんですか。それなら仕方ないですね』とあっさり覚悟を決められるとは思えない。
半端な覚悟や同情で戦いに介入されることを嫌う杏子にとって、主催者のそのやり口には正直苛立ちもする。
しかし、そのことに少し安堵してもいた。
そんな半端な覚悟の一般人に杏子がおいそれと殺されるとは思えないし、それなら行動方針を決める時間的余裕もそれなりにある。

「代りに俺の支給品あげるからさー。どーしても駄目?」
「当たり前だろ。お前がシルバーってのを探してるように、こっちも知り合い探しにそいつが必要なんだよ。
だいたい、そのシルバーってお前の何なんだよ。友達か?」

カチン、とゴールドが固まった。一瞬で顔が赤くなる。

「べ、別に友達じゃねーよ! ……ただ、同じ敵を相手にしてるっつうか、気に食わねえ相手っつうか……」
右手をぶんぶん振りながら、オーバーリアクションで否定する。

杏子は納得して「分かった分かった」と遮った。
人間関係に鋭い方ではないが、その言葉の意味が分からないほど鈍感ではない。

つまり、友達なのだ。
ただ、そこに認められない要素――例えば、顔を合わせるたびに喧嘩してしまうとか、何故か反発してしまうとか、素直になれない理由があるだけで。

胸が、チクリと痛んだ。

顔を合わせるたびに喧嘩する。
何故か反発してしまうのに、関わり続けている。
それなら、杏子とさやかは友達と言えるのだろうか。

たぶん、友達とは言えない。
鹿目まどかは、間違いなくさやかの親友と言えるだろう。
戦いとは関係の無い一般人の少女が、危険の伴う魔女退治まで共にいようとするのは、それだけ彼女を大事に想っているからだ。
そういう意味では、杏子だって執拗にさやかに関わっていたし、彼女を救おうと無謀な賭けにも出ようとしていた。
しかしそれは徹頭徹尾、杏子が一方的にしていたこと。さやかも同じ感情を杏子に向けていたかは甚だ怪しい。
もう少し共に過ごす時間があれば、そういう関係にならないこともなかった、かもしれない、けど。

「とにかく駄目だ。どうして顔も知らない奴の為に支給品を譲らなきゃならねーんだよ」
「ちぇっ。……じゃあ、この支給品と引き換えってのはどうっスか?」
ゴールドはにやりとして、ディパックからそれを取りだした。
黒い宝石だった。
少なくとも、何も知らない人間にはそうとしか見えないだろう。
しかしそれは、『魔法少女』にとって大きな意味を持つ『見返り』。
「グリーフシード! なんであんたが知ってんだよ」
『魔女』と『グリーフシード』の秘密は、キュゥべえに選ばれた魔法少女とその候補しか知らないはずだ。
「いや、使い方までは分かんなかったよ。でもさっきお姉さん『魔女』を探すとか言ってたよな?
説明書に『魔女を生む宝石』って書いてあったから、関係のあるアイテムだろうなー、と思ったんスよ」
読みが当たっていたことが嬉しいのか、えらく得意げにゴールドは解説した。
「そこまで知ってて聞かないのかよ……」
そこまで聞いたのなら、“清隆”の言っていた“魔女の口づけ”という言葉にも反応するだろうし、そうなれば、その意味について杏子に問いただしそうなものだが。
「ん?」
「いや、いい……」
聞かれても面倒だし、第一魔法少女のことに関わらせたくないので、答えるつもりはなかった。
「別に今、譲ってくれとは言わねーよ。ただ、途中でシルバーに会ったらその時に渡すって約束してくれればいいんだ。
それに姉さん、トレーナーじゃないんだろ? 言っとくけど、ポケモンの扱いは俺の方が上手いぞ。」
なるほど、交換条件としては悪くない。

「……って、ちょっと待て、それってアタシについて来るってことか?」

「当たり前だろ。俺だって俺のポケモンたちと合流したいんだ。
こうやってポケモンが支給品にされてる以上、俺の相棒たちも誰かに配られてるかもしれねーからな。
人(?)探しなら人数は多い方がいいだろ。だいいち、姉さんより俺の方がトレーナーとして優秀だし」

喋り方はいちいちカンに触る奴だが、最後の一言に関しては反論できない。
さっきから見ていると、ゴールドは明らかにヤミカラスとの意思疎通が上手いようだった。
杏子と話しながらも、ヤミカラスのガァガァという鳴き声を聞きとり、
「じゃあ連れて来られた時のことは覚えてないんだな」と会話を並行している。
ヤミカラスの知能指数がどれほどなのかも知らない杏子より、よほど有効に指示が出せるだろう。
しかし、それでも一般人を魔法少女の戦いに巻き込むことは、杏子の信条に反することだった。
美樹さやかに影響を受ける前でも、後でも、それは変わらない。

目に険を宿らせ、低い声で杏子は忠告した。
「だが断る。あたしが探してる奴はヤバい奴なんだよ。
悪い奴じゃないんだけど色々と事情があって、出会いがしらに戦いになるかもしれないんだ。
だから、命が惜しかったら、あたしに関わるな」



「そいつって姉さんの友達か?」



思考停止。

今度は、杏子が赤面する番だった。
「べ、別に友達じゃねーよ! ……ただ、腐れ縁っていうか、会うたび喧嘩になるっていうか……」

数秒前まですごんでいたのが嘘のように、しどろもどろになる。
ゴールドの、なるほど納得したという顔もやや腹立たしい。

そして彼は、ほんの数秒だけ考えて、言った。
「それは、一人でやらなきゃいけない決まりでもあるのか?」
「はぁ?」

「姉さんの言う友だち探しが危険なことだったとして、
それは誰かと一緒にやっちゃいけないことなのか?」

「決まりも何もないだろ。関係ないことに首を突っ込むな」
食いさがる少年に若干イライラしつつ、杏子は答えた。
そのお人好しぶりに、こいつ長生きできないなと思い、その事実に対してもイラつきながら。

彼はそんな杏子に構わず、爛々と目を輝かせて滔々と語りだした。
「いーや関係あるね。何故なら、俺のポケモンたちも『支給品』として配られてるかもしれないからだ!
俺は、相棒たちが人殺しの道具にされる前に、探して取り戻したい!
……そうなると、とにかくこの場所で起こる戦いを見に行く必要がある!
ヤバい奴が俺のポケモンを使っていないか、確かめる必要がある。
そんでもって、姉さんはその戦いが起こりそうな場所に向かおうとしている。
ほら。俺はぜんっぜん無関係じゃねえだろ!」

「……めちゃくちゃ薄い関係じゃねーか。だいたい、あたしは足手まといを連れて戦う気はないぞ。
これでもあたしには戦う力があるけど、あんたはそのポケモンってのがいなきゃ何にもできないんだろ?」

鹿目まどかをさやかの元に連れて行ったのは、あくまでさやかに正気を取り戻させる為だ。
足手まといを連れて戦えるほど杏子は器用ではないし、思いあがってもいない。
『人を守ろう』という思いあがりが、不幸を招くことを知っているのだから。

「分かった。連れて行きたくないなら別にいい。
……勝手について行く。
何故なら、俺がどこに行こうと姉さんに指図されるいわれはないからだ。以上!」

「あんた人の話聞けよ。危険だって言ったばかりだろ!?」

「危険なのはどこだって一緒だぜ? 姉さんの友達が俺の方に来るかもしれないんだし。
それにまだグリーフシードは俺のものだからなー……あんまり怖い顔されると、手が滑って川に落としちゃうかもしれないなー……」

「あんた無茶苦茶だ……」



結局、押し切られてしまった。



☆  ☆

さやかやまどかの特徴を伝えた上で、ヤミカラスに二つの命令をした。
周囲を探索し、二人の知りあいを見つけること。
無理に戦闘行為を行わずに報告を優先すること。

「じゃあ出発しましょうや。姉さん」
「へいへい…………」

まぁ、仮に魔女と出くわしたとしても、すぐ結界の外に放り出してしまえば問題はないか。


【D―4/川の南岸/一日目深夜】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、いつもの服(変身前)
[装備]ソウルジェム(魔力満タン)
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考]基本:積極的に殺しにいくつもりはないが、襲われたら容赦しない
1・さやかが魔女化していないか確かめる
2・ヤミカラスに周囲の捜索を行わせると同時に、ソウルジェムで魔女(さやか)の気配を探す。
3・グリーフシードも欲しいし、ゴールドと同行(ただし我慢できなくなったら放りだす)
4・まどかを探す。
5・ほむらの力を借りるつもりはないが、合流できれば越したことはない
6・マミが生き返ったのかどうか気になる
7・しかし、「ポケモン」って何だ?
※参戦時期はまどか☆マギカ9話、さやかの魔女化を見てから、オクタヴィアの結界に侵入するまでのどこか。


☆   ☆

ところで、佐倉杏子の見立てには、ひとつだけ誤りがあった。

佐倉杏子は、ゴールドを『戦いと縁のない一般人』と判断したが、それは大きな誤り。
『ポケモン』という戦闘手段に守られてこそいるものの、彼は決して『戦いと縁のない』存在ではない。

ロケット団と敵対する少年、シルバーと関わることで、彼は彼の住む世界での巨悪である『ロケット団と仮面の男』の陰謀に深部まで関わり、多くの修羅場をくぐってきた。
何度も死にかけ、時には凍った湖に突き落とされ、時にはポケモンリーグの爆破テロに巻き込まれ、それでも己の正義感から、戦いから退くことを潔しとしなかった。

『魔女』のように“人間への呪い”を背負った魔物と戦った経験こそないが、人間の持つ“悪”や“妄執”というものに触れた経験もあるし、
殺意を持って向かって来る敵と対峙したことも何度もある。
佐倉杏子に声をかけたのも、無警戒や不用心からの行動では決してない。
『仮面の男』のような、存在するだけで背筋を凍らせる殺気は、ヤミカラスを連れた少女からは感じられない。
だいいち、害意を持っているなら、シルバーのヤミカラスが――懐いてはいないといえ――平然とくつろいでいるわけがない。
だからこの姉さんは大丈夫。そう確信しての行動だった。
もちろん瞬間的にそこまで推理したわけではなく、直感ではあったのだが。

それに、“魔女の口づけ”のことだってちゃんと覚えていた。
それでも聞かなかった理由は単純。
『話したくないなら聞かねーよ』というだけのことだ。
ゴールドだって情報は欲しい。こんなふざけた『実験』を企画した主催者に関する情報なら、なおさら。
しかし、それを得る手段として『無理に聞き出す』ことを選びたくはなかった。
それに、この手の『他人を巻き込みたくない』というタイプは、無理に聞き出そうとしても余計に口をつぐむものだ。
ロケット団と秘密裏に戦っていた赤毛の少年との経験則から、ゴールドはそう判断する。

キョーコのことを放っておけないと思ったのも、半端な好奇心や蛮勇からではない。
彼女に説明した理由――『手持ちを探したい』――も、それはそれで本音ではあった。

しかし何より彼を動かしたのは、彼女の友人を思う気持ちが本物らしいこと。
そして、決定的なその言葉。

――命が惜しかったら、あたしに関わるな

危険だから自分に関わるなと、全てを一人きりで背負いこもうとするところに、
散々「関わるな」と言ってきた赤毛の少年をダブらせてムカついたというのもある。

何より、『あたしはこれから死ぬかもしれない戦いに行くよ。さようなら』と言われて
『はいさようなら』と素直にお別れできるほど、ゴールドは物分かりが良くなかったのだ。


相棒(ポケモン)たちがいない以上、いつもみたいには戦うことはできない。
ついでに言うと、キックボードやキューなども取り上げられているから、得意としているギミックの数々も使えない。
できることは限られるだろうが、しかし、いざという時に杏子を背負って逃げるぐらいはしてやれると思う。
少なくともこのまま別れるよりは、よほど後悔しない行動ができるはずだ。

そういうわけで今後の為にも、仮の目的である“手持ちとの合流”は必至。
単純な火力としてバクたろう(バクフーン)やニョたろう(ニョロトノ)がいるだけでも安心感がだいぶ違う。
この場が“人間同士の殺し合い”だということを考えれば、撹乱系の技が使えて小回りも効くエーたろう(エイパム)やトゲたろう(トゲピー)も頼もしい。
……もっとも、大切な相棒であり家族でもある彼らが巻き込まれていないのなら、それはそれで喜ばしいことなのだが。
できればキューやスケボーも欲しいところだが、これは最悪、現地調達と自作で代用が効く。
手近な民家に工具や大工道具があれば、回収しておきたいところだ。


「そういや姉さん、姉さんの支給品は他に何があったんだ? 俺的には工具とかがあればありがたいんスけど
ちなみに俺は使えそうにない変な鉄の固まりとカードしかないんで」
すたすたと先に立って歩く杏子を追いかけながら、ゴールドは持ち前の馴れ馴れしさで話しかける。
彼女は、とうとう根負けしたように振り返った。
「“姉さん”じゃねえ。佐倉杏子だ。……そうだな、グリーフシードの礼に、ひとつくれてやるか。
勘違いするなよ。あくまでグリーフシードとポケモンの貸しの釣銭なんだからな」

後半をムキになったように強調すると、“キョーコ”はもう一つの支給品を取りだした。

それは、袋に入ったチョココロネ。

「食うかい?」

「…………食うー!!」



そしてこの二人には、ある共通点があった。
二人共、買い食いや歩き食いが大好きなのだ。

【D-4/川の南岸/一日目深夜】

【ゴールド@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]健康
[装備] いつもの服(ゴーグルは没収されませんでした)
[道具]基本支給品一式0~2
シャルロッテのグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ
核金(ナンバー不明)@武装錬金、S2U@魔法少女リリカルなのは
チョココロネ×1@らき☆すた
[思考]基本:白スーツ野郎の企みをぶっ潰す
1・杏子の人探しを手伝う。
2・ヤミカラスをシルバーに届ける。
3・ポケモンたちが支給品にされているようなので見つけたい。
4・仮面の男には最大限に警戒。
※14巻、仮面の男を追いかける最中からの参戦です。
(オーキド博士の手紙を読む前なので、名簿のレッド、ブルーの名前に反応しませんでした)


【ヤミカラス@ポケットモンスターSPECIAL】
シルバーの手持ちの一匹。
子ども一人程度ならぶら下げて飛行することが可能で、作中でもシルバーを抱えたままかなり機敏な動きで攻撃を回避していた。
覚えている技は“おいうち”“そらをとぶ”など。

【チョココロネ@らき☆すた】
泉こなたの大好物。
5個セットで支給。

【シャルロッテのグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ】
お菓子の魔女シャルロッテを倒した際に出現したグリーフシード。
ソウルジェムと触れ合わせることでジェムのけがれを吸いとり、魔力を回復させることができる。
使用制限があり、使いすぎると魔女が孵化する(?)らしい。

※ヤミカラスが D-3方面の上空へと飛び立ちました。



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GAME START ゴールド Next:

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最終更新:2011年06月30日 07:47
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