捲土重来

えー、皆さんお初にお目にかかります。
私、警視庁捜査一課の刑事であります、西園寺守と申します。以後お見知りおきを。

……さて、突然ですが、貴方は見知らぬ男からいきなり殺し合いをしろと言われたらどうしますか?
……もちろん、私のような刑事でなくとも、圧倒的多数の方はきっとそれを拒絶するはずです。
ですが、その意思を誰よりも色濃く示した、あの関西弁の男性は無残にも殺害されてしまいました。
どこかで聞いたことのある声でしたが、確かテレビにもよく出るタレントさんだったでしょうか。
……話が逸れましたが、私は刑事として……いや、それ以前に人間として彼らの所業を許すことは出来ません。
亡くなった男性が着けていたのと同じ首輪をつけられてはいますが、怯んでなるものですか。
この事件、必ずや解決してあの男たちを監獄送りにしてみせましょうとも。


……と、意気込んでみたのはいいのですが。
気が付いたら私は見知らぬ島の森の中に佇んでいたのです。
いつの間にやら持たされていたバッグの中には、ご丁寧にもこの島の地図が入っていました。
佐渡島や、淡路島といったそういう有名で分かりやすい形ではないですし、おおよそどこかの無人島なのでしょう。
そして、先ほどまで私の近くにいたはずの古畑さんも姿を消しているではありませんか。
どういう手を使ったかは分かりませんが、この分では皆離れ離れになってしまったと見た方がいいでしょうか。

地図と一緒に入っていた名簿に目を通してみると、古畑さんの他にも今泉さんに向島さんも連れてこられたようです。
古畑さんはともかく、今泉さんあたりはきっとすぐに面倒事に巻き込まれて、ややもすると殺されてしまうかもしれませんね……。
正直言って、あまり出来るとは言い難い方ですが、知り合いが殺されていい気分になるわけがありません。
何より、古畑さんを語るにあたって、なんやかんやであの人の存在は抜きにして語れないのです。
もちろん、残る向島さんも何とかして助けていきたいものです。

そうと決まったからには、早速動き出さなければなりません。
いつどこで、このくだらない遊びに乗った殺人狂に出くわすかも分かりませんが、それは動かずとも同じこと。
それに、自分と同じくこのゲームに抗う人と出会えれば、心強いことは間違いありません。
一人では心もとなくとも、二人、三人といればいくら殺し屋とてそうそう手は出せないはずです。
古畑さんたちに出会えるに越したことはありませんが、まずは誰かに会って情報を探りたいところです。


……すると、森の中を歩いて程なく、膝を抱えて震える女性に出くわしました。
私の姿を見て、最初はビックリしたのか怯え始めましたが、私が荷物を一旦捨てて丸腰であることを見せると幾分警戒を解いたようでした。
それにしても、尋常な怯え方ではなかったので話を聞いてみると、彼女は不運にもいきなり大柄な男に襲われそうになったらしいのです。
命からがら逃げだし、森の中の茂みに身を隠していたところに私がひょっこり現れた、といったところでしょうか。

何分、状況が状況ですので彼女の話を額面通り信じていいものかどうか迷いましたが、涙を浮かべながら両手を握られて懇願されてはたまりません。
正直、これが演技だとしたら大したものだと思いますよ、本当に。
ひとまずこの場は彼女の言うことを信じてみようかと思います。その大柄な男とやらも警戒するに越したことはないでしょう。
そこまで来て、私は迂闊にも自分の名前を名乗っていないことに気づいてしまいました。
これはいけません、初対面の人に自分を信用してもらうのに名前すら名乗らないというのは。
私が先に名乗ると、その女性は「ミナミ メグミ」と名乗ってくれました。
名簿の中にも確かいましたね、「美南 恵」という名前が……恐らく彼女のことでしょう。
まずはお互いの知り合いについて情報を交換するとしましょうか……。




 *       *       *




"冥王星"に関して知りうる限り全てのことをDDSに伝えた私だが、殺人教唆の罪から逃れられたわけではない。
また、"冥王星"の残党がいつ口封じに来るか分からない、ということで私は警視庁の特別封鎖室に収監されたままだった。
このことは警視庁のTOPクラスや、あるいはDDSの幹部連中くらいしか知らないことのはず。

だが、気付けば私は拘束具を外されて、どこともつかぬ場所で群衆の中に飛ばされていた。
そして、見上げた先にはスポットライトに照らされたかつての同志……いや、私を一度は廃人にした張本人たるケルベロスがいたのだ。
何故私は、そして何故奴はここに? そもそもここはいったいどこ? 殺し合いをさせるですって……?
私が軽いパニックに陥っているうちに、炸裂音と共に何者かの命が喪われたらしい。
周囲から聞こえる囁き声から、私の首にも嵌められたこの首輪の爆発によって命を奪われたらしい。

……"冥王星"のスタイルとは異なる"処刑"に、私はさらに混乱しそうになった。
後催眠によって、組織に関する記憶を口外出来ぬようにしたり、あるいはお互いを殺し合わせたり……
とにかく自らの手を汚さない、直接手を出さない、それがルールだったはず。
我々の美学に反すると言ってもいいような手口に、何故あの男が加担しているのだろう……?
そうこう考えているうちに再び私の意識は途切れ……気が付けば見知らぬ森の中で私は目を覚ましたのだった。

ケルベロスが何を考えているかは定かではないが、とにもかくにも私に命の危険が迫っていることは間違いないらしい。
……しかし、もし私が生き残ることが出来れば……あのシックスなる男の言うことを信じるのならば、私は晴れて警察の手から逃れられるのだ。
いつの間にか傍らに転がっていたバッグを拾い上げて中身を探ると、この島の地図と思しき絵と、幾人もの名前が連なった紙が見つかった。
その紙の中には、私だけでなく"冥王星"の幹部だったはずのタナトスの名前もあった。
私と同じくルールを破ってケルベロスに処刑されたということなのだろうか……?
だが、それ以上に私の目を留めさせたのは、我らがプリンスことリュウ様をはじめとしたDDS・Qクラスの連中の名前だった。
リュウ様はともかく、あの忌々しい子供たちへの復讐の機会を与えられるとは思いもしなかった。
……確かにこの場においては私の命も危険だが、これはある意味で名誉挽回のチャンスなのかもしれない。
この程度の修羅場を潜り抜けられないようでは、"冥王星"……いや、その"選ばれし血族"なるものの名折れというものなのだろうと私は解釈した。

とはいえ、敵はQクラスのみならず、他にもゾロゾロといるのだ。
それら全てを私が退けるというのはいくらなんでも無理というもの。
ならば、ここはいつも通りに裏で手を引いて互いに潰しあってもらうのが当面はベストでしょう。
そのために私はどう振る舞っていくべきなのか……?


そうして私が考え込んでいた矢先に、目の前の茂みから小柄な男が姿を現したのだった。
もしコイツがゲームに乗っているのならいきなりのピンチだ、正直ビックリして思わずその反応を見せてしまった時はしまった、と思った。
だが、とくにこの小男が何かをしてくる様子は見られない……ということは、コイツに殺す気は無いとみていいだろうか?
そうなれば、私が女であるということを最大限に生かすのが得策だろう、私はそう判断してことさら怯えてみせた。
無意識に出た先程の反応をカバーするという意味でもこれは効果的だったらしく、小男もまた私を無害であると判断したらしい。
自分の荷物を放り出して、自分が丸腰であることをご丁寧にも示してくれた。

……ここで私が武器の一つでも持ち合わせていれば、この男をすぐさま葬り去ることも出来たのだが、生憎と武器は支給されなかったようだ。
とすると、今はこの小男と手を組むフリをしてとことん利用してやるより他に手段はなかった。
私は精一杯声を震わせて、目の前の男に対して言葉を紡いだ。

「あなたは……私を殺さないの?」
「ご安心ください。私はこの不愉快な催しに真っ向から反旗を翻すつもりですから」

ピシッと背筋を伸ばしながら、男が返事をしてくる。
どうやらこの男、仕草だけでなく頭のてっぺんからつま先まで馬鹿丁寧な男であるようだ。
お堅い口ぶりなようだが……さて、うまく騙しきることが出来るかしら?

「じ、実は……さっき殺されそうになったんです……!」
「……っ! 本当ですか!?」
「本当よ! 大柄な男に追いかけ回されて……私……怖くって……」

もちろん口から出まかせだ。普段から人を欺くことに慣れている私だ、この程度のウソを即興で生み出すことなど訳もない。
ついでに膝を抱えて顔を埋めてみる。恐怖に打ちひしがれる女としてはこんなものでしょうか。

「大柄な男、ですか……とは言っても、私より小柄な男もそうそういないかとは思いますしね……」

少し自嘲気味に小男が呟いたが、どうもこちらのことをまだ多少は警戒しているらしい。
確かに、この話が本当である証拠はない……が、逆にこれがウソである証拠もそうは見つけられないはず。
こうなればダメ押しをするしかない、そう思った私は顔を上げ、目の前にいた小男の手を両手でギュッと握りしめてみた。
小男の表情がいかにも困惑してます、といった風になった。そうそう女に目を潤ませながら手を握られた経験などないのだろう。

「お願い……! 助けて……! まだすぐ近くにいるかもしれないのよ……!」

……どうやらこれが決め手になったらしい。
分かりました、信じましょう。そう言って小男はこちらをまっすぐに見据えてきた。
これで100%信じ切ったとも思えないが、当面の危機は回避できたとみていいのかもしれない。

私が一仕事終えてホッと一息つきかけたその時だった。
何か思い出したかのように、目の前の小男が自分の名前を名乗ってきたのだった。
これはマズい、私の本名は当然この名簿には無いし、かといっていかにもコードネームですと言わんばかりのこの名前は名乗れない。
偽名を使うにしてもその名前は名簿にあるものでなければならないし、かつこの小男の知り合いであってはいけない。

一瞬の逡巡の後、私は打ってつけの名前が一つあることに気が付いた。
この小男の姿はこれまで見たことが無いし、名前すら聞いたことが無いのだ。
恐らくDDSとの関わりはほとんど無いとみていいだろう……だとすれば、この名前ならひとまずは大丈夫なはず。

「メグミ……私、美南恵といいます」

……見てなさいよケルベロス。
このミス・カオリ、必ずや這い上がってみせるわ……せいぜい寝首を掻かれないよう気をつけることね……!



【D-4 森 一日目深夜】

【西園寺守@古畑任三郎】
[状態] 健康
[装備] 自分のスーツ
[所持品] 支給品一式、ランダム支給品

[思考・状況]
1.古畑・今泉・向島との合流を目指して動く 誰かに会えば情報交換を試みる
2.ひとまず恵のことを信じて、情報交換をする ただ、完全に信頼したわけではない
3.大柄な男には一応警戒する

※ミス・カオリのことを"美南 恵"だと思っています


【ミス・カオリ@探偵学園Q】
[状態] 健康
[装備] 私服
[所持品] 支給品一式、ランダム支給品(武器ではないようです)

[思考・状況]
1.目の前の男=西園寺を騙して利用する 当面は正体を隠して自らは手を汚さない方針
2.Qクラスの面々を排除したい、リュウの扱いは現時点で保留

※西園寺には"美南 恵"と名乗っています
※Qクラスのメンバーは把握していますが、三郎丸は眼中にないようです



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最終更新:2011年07月08日 01:48
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