イケメンマジック

ヒーローとは、言うまでもなく英雄の事を指す。では英雄とはいったい何なのか?
人々に尊敬され愛される者、誰も成し遂げた事のない偉業を達成した者、類まれな才能を持つ者、
圧倒的なカリスマを持つ者、誰かのために命懸けで行動できる者。英雄に対し人が抱くイメージは様々だろう。
あえてそれらに共通する点を挙げるとすれば、それは「憧れを抱く存在」だろうか。
自分や常人では到底及ばないような「何か」。それが思想であれ、才能であれ、その「何か」を持つ存在がヒーロー、
または英雄と呼ばれる存在なのではないだろうか。

もし、世界征服を企む悪の秘密結社が存在し、世界の平和を守るために組織と戦う男がいたとしよう。
先ほどのヒーローの定義から考えれば、ほとんどの人は彼をヒーローと認めるだろう。
むしろ今日では、単にヒーローと言った場合、特撮作品などで描かれるそうした存在を指す事が多い。
だが、もしもその男が職に就かず、戦う時以外彼女の家で一日中ゴロゴロしているような男でも、人は彼をヒーローと呼ぶだろうか?

「殺し合いね…一体何考えてんだか・・・」
無人のゲームセンターに「その男」はいた。頭には一般的な特撮ヒーロー的なヘルメットを被っているが、それ以外はTシャツに短パン、サンダルという異様な格好。
天体戦士サンレッド。悪の秘密結社フロシャイムから世界を守るために戦う、溝ノ口発の真っ赤なヒーローである。
そう言えば聞こえはいいが、実際の彼の日常は、人々が想像する一般的なヒーロー像とはかけ離れた物だった。
先に述べたとおり、天体戦士サンレッドは無職である。彼女である内田かよ子の家に居候し、彼女の収入で生活している。身も蓋も無い言い方をすればヒモである。
性格もヒーローにあるまじき粗暴な性格で、悪の組織でありながら善人が多いフロシャイムの面々と比較されて、かよ子に嫌味を言われる始末である。

「でも待てよ・・・これってチャンスじゃねーか?」
かよ子の家で昼寝をしている時に、いきなりこんな殺し合いに呼ばれ、最初はイライラしていた彼だったが、彼はひとつの事に気がついた。
罪の無い人々をさらい殺し合いを強要させる悪鬼。鬼と殺し合いの恐怖に震える人々。
そこに颯爽と一人の男が現れ、並居る鬼共を倒し、人々を救出する。これがヒーローでなくて一体何なのか。
この殺し合いを止めることができれば、間違いなく自分はヒーローとして成長するだろう。
そうなれば、もうかよ子に迷惑をかけることも無い・・・かどうかは分からないが、少なくとも名実共にヒーローになれるのは間違いないだろう。

「そうと決まったら、こんな所でグズグズしてられねぇな!待ってろよ鬼共!お前達の企みは俺が潰してやる!」
柄にも無くヒーローらしい台詞と共に、ゲームセンターを飛び出すサンレッド。
その時、こちらに向かってむっくり歩を進める男の姿が彼の目に入った。
白衣に身を包んだ若い男。恐らく20代後半。眼鏡のよく似合う美形・・・否、イケメンの男だった。
とにかく、この状況に置かれた一般市民を見捨てる訳にはいかない。殺し合いに乗っているなら、説得して正気に戻す必要がある。

「なあ、そこのアンタ!」
「ん?俺か?」
サンレッドの呼びかけに対し、イケメンが彼に視線を向ける。
(近くで見るとホントにイケメンだな・・・イケメンの前に立つとどうも気後れしちまう・・・)
だが、そんな事を言っている状況でもない。イケメン如きで物怖じしていたら、世界を救うヒーローなど夢のまた夢だ。

「アンタこの殺し合いには乗ってんのか?俺はこの殺し合いを・・・」
「愚問だな。鬼などという、あんな時代遅れの下衆な妖怪に俺を拘束する権利は無い。何故なら・・・俺がモテるからだ!」
こちらの話をぶった切り、喋り始めたかと思えば、急に訳の分からない事を言い出した。
だが、この話の内容からすると、殺し合いをする気は無いらしい。彼を仲間にすべく、サンレッドが話しかけようとしたとき、

「ところでお前、初対面の人間に話しかけるのに自己紹介もなしか?しかも、そんな趣味の悪いマスクを被ったまま接するとは
 イケメンの俺に対して失礼だとは思わんのか?」
(こ・・・この野郎!)
さっきからこの男はどこまで傲慢な性格なのだろうか。沸き起こる怒りを静めながら、サンレッドは話す。

「それは・・・ヒーローが正体を明かす訳にはいかねーだろ?」
「正体?違うな。お前がマスクを被っているのは、自分の素顔に自信が無いからだ!そして俺に完敗するのを恐れている!違うか!」
「オメー・・・さっきから随分と好き勝手言ってくれるじゃねーか!!」
必死に怒りを抑えていたサンレッドだったが、もう我慢の限界だった。

「真のイケメンは本当の自分を隠したりしないのだ・・・姑息なお前と違ってな!」
そう言うと、イケメンの身体の周辺に稲妻が走り、顔以外に装甲を纏った怪人態、イケメン怪人 シュバルツシルトへと姿を変えた。
「お、お前怪人だったのか!?そうか・・・なら遠慮はいらねぇな!」
怒りに駆られながらも、ヒーローが一般人に手を上げる訳にはいかないと心の奥で自制していたサンレッドだったが、相手が怪人ならその必要も無い。
怪人の過ぎた行為を反省させる。これは彼がフロシャイムを相手に日常的に行っている事だ。

「その言葉、俺に対する挑戦と受け取るぞ・・・いいだろう。その挑戦受けてやる!クラッシュボウルデスマッチで勝負だ!」
「クラッシュボウルデスマッチ・・・!!」
「どうした?怖気づいたか?」
「・・・んな訳ねーだろ!やってやろうじゃねぇか!」
「それでいい。ではジャンケンで先攻・後攻を決める!」

クラッシュボウルデスマッチとは、古代エジプトを発祥とする、由緒正しき男の決闘作法である。
ルールは、二人の男が先攻・後攻に分かれ、交互に相手を攻撃するという、いたってシンプルなもの。
だが、ある条件により9割9部9厘先攻側が勝つ。つまりこの時点でほぼ勝敗が決まると言っていい。
「「ジャンケン・・・ポン!」」
サンレッドが出したのはパー、シュバルツが出したのはグーだった。しかし、その結果に対しシュバルツの口から出たのは意外な言葉だった。

「フ・・・俺が先攻だな」
「何寝ぼけてやがる!?俺がパーでお前はグーだろうが!」
「パーだと?男の勝利は常に拳で勝ち取るものだろうが!!パーやチョキなど女子供の使う物だ!」
「バ・・・バカ言ってんじゃ・・・」
バカを言うな。そう心では思っているのに、シュバルツの言うことに頭ではなく、いつの間にか魂が納得していた。あるいは、これがモテるという事なのだろうか。
「どうやら納得したようだな・・・では行くぞ!」
「ちょ・・・待っ・・・」

サンレッドの言葉を無視し、シュバルツが後ろから組み付く。続いてそのまま天高くジャンプした。
そして空中で、プロレス技のアトミック・ドロップの体制に入る。
クラッシュボウルデスマッチにおける条件、それはある一箇所以外の攻撃が認められない事。
その箇所とは・・・最早言うまでもないだろう。
「食らえ・・・金的粉砕(ボウルクラッシュ)!」
「ーーーーーーーーーッッ!!」
地面に着地すると同時にシュバルツの膝がその箇所を直撃し、サンレッドが声にならない悲鳴を上げる。
「これがイケメンの力だ。そして・・・これがモテるという事だ!」
「うるせぇ・・・俺にだって・・・か・・・彼女くらい・・・居るんだよォ!!」」
辛うじて意識を保ったサンレッドは、その言葉と共にシュバルツの男の急所を全力で蹴り上げる。
が、そこまでだった。シュバルツが二撃目を加えるまでも無く、限界を迎えたサンレッドの意識は途切れ、そのまま前方に突っ伏した。
これが普段の彼ならば耐えきっただろうが、首輪の力で身体能力が制限されたサンレッドにはあまりにも強烈な一撃だった。

「フン・・・モテない割にはよくやった方だが・・・俺はこんな所でグズグズしている場合じゃない。イケメンは敗者に構うほど暇じゃないからな」
そう言ってシュバルツは変身を解き、気絶しているサンレッドをよそに歩き出した。
サンレッドの、ヒーローへの道は果てしなく厳しい。

【一日目/深夜/A-6/ゲームセンター】
【サンレッド@天体戦士サンレッド】
[状態]:気絶中、金的にダメージ(大)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品
[思考]
基本:殺し合いを止めてヒーローになる
1:気絶中につき不明

【昴 流人@マイティハート】
[状態]:健康、金的にダメージ(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品
[思考]
基本;鬼共にイケメンの力を思い知らせる
1:女の参加者(特に舞島)と接触する

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最終更新:2009年10月18日 15:47
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